闇夜のヴァンパニーズ伝説
人々が寝静まった深夜。おれ様は舎弟と２人で人気がない道路を歩いていた。
「ア、アニキ。こんな時間に出歩いてたらやつが出るっスよ」
一緒にいる舎弟のトムが震えながら言ってきた。」
「バーロー。それがおれ様たちの目的だろうが」
おれ様の言葉にビルは青ざめた。肝っ玉小さすぎだろ。
「も、もう帰った方がないんじゃないスかアニキ」
「バーロー。こんな報酬がいいクエスト降りるわけにはいかねえだろ。それに依頼主はあのロキ先輩の兄貴のノルレ先生だぞ。ただ怖いって理由であの人とパイプをつなぐチャンスをみすみす逃してたまるかよ」
トムはあきらめて目を伏せた。これ以上何を言ってもムダだって悟ったんだろう。
今回おれ様ビリー＝ゲイオルグが受けたクエストは、このシャンビルの町のウワサについて調査することだ。なんでも真夜中になると男が逆レイプされるらしい。１日に２人以上は確実に犯されるんだってよ。襲われたやつの首には何かにかまれたような跡があるらしい。そんな話を聞いたロキ先輩の兄貴で魔物学者のノルレ先生が興味を持って依頼を出した。それをおれ様がベントルージェに向かう途中で立ち寄ったフィアボルトの冒険者ギルドで見つけたってわけだ。とりあえずクエスト受けて経験増やそうと立ち寄ったら意外な掘り出し物を見つけちまった。報酬も高いし、駆け出しでロキ先輩と組んで名を挙げるチャンスもある。
｢それにしても結構襲われた人多いっスね。それに何回も襲われてるやつもいるらしいっス｣
｢つーかそいつらわざと襲われてるんじゃねーのか？話を聞きつけてこの街にやってくるやつも多いらしいぞ｣
おれ様の言葉にトムは呆れたように溜息をついた。
｢この街にはどれだけ変態が集まってるんスか…｣
同感だな。こんな時間にうろついてまで襲われたがるどんなドMだよ。
｢ふーん。自分たちもこんな時間にうろついてるくせにそんなこと言っちゃうんだー｣
おれ様たちはすごい勢いで後ろを振り向いた。そこには１人の女がいた。１人とは言ったけどどう見ても人間じゃない。紫色の肌、燃えるような赤毛、ひどく充血したような真っ赤な目、血で染められたように真紅色の鋭く尖った牙と爪。そんな怪しさが逆に美しさを際立たせている。その身には純白のドレスをまとっていた。
｢あ、あんたがウワサの…｣
｢あら、もしかして私って有名なの？」
そう言って首を傾げた。おれ様はなぜかその姿にキュンと来てしまった。なんなんだよこの感覚。もしかしてこれが一目ぼれやつなのか？
｢ああ。あんた目当てに他の所から人が集まってるらしい。それにわざと何度も襲われてるやつもいるしな｣
おれ様の言葉に彼女は嬉しそうに笑った。
｢変態が多いわねえ。まあそのおかげで食事がしやすいんだけど｣
食事？道で人を犯すことが？この女もしかしてサキュバスとかなのか？だとすればこいつを見てるだけであそこが立ってきてるのはまさか
｢み、魅了の呪文って…わけっスか｣
トムが息を荒げながら言った。
｢やっと気付いたの？まあ意外と持った方だと思うけどね｣
そう言って女はトムの方に向かって行った。
｢や、やめろ！おれ様には何してもいいからトムには手を出すな！｣
｢あ、アニキ…｣
トムは震えながらおれ様の方を向いた。
｢何自分だけいい思いしようとしてるんスか！｣
トムがおれ様のことをにらみつけてきた。ハハハ、ナンノコトヤラ。
｢ば、バーロー。おれ様はお前のことを思ってだな｣
｢ウソっス。明らかに後回しになるのが気に入らなかっただけ｣
トムはそこで言葉を切って眠り込んだ。女が眠りの呪文をかけたからだ。
｢しばらく黙ってなさい。安心していいわよ。夢を見ている間にヤってあげるから｣
うるさすぎて眠らされたか。哀れだなトム。それはどうでもいいけどこれじゃおれ様が襲われた様子を報告することになるな。そういうめんどいのはトムに任せておきたいんだけど。まあちゃんとやるけどさ。報酬が上乗せされるからな。
｢それじゃ…いただきまーす♪｣
女はいきなり首筋にかみついてきた。
｢うっ｣
なぜか痛みは感じなかった。それどころかものすごい快感を感じる。魔力でも注ぎ込まれてるのか？とりあえず首にかんだ跡があった理由がわかった。ちなみにおれ様がここまで冷静なのは魔物が人を殺すことはないのを知ってるからだ。おれ様は騙されてる反魔物領の出身でも、勇者とかほざいてる勘違い野郎でもないんでね。
｢ごく、ごく、んっ。まあまあね｣
吸われて貧血になるような感じにも何か快感を感じる。吸血する時に魔力を注ぎ込んで、味の評価ができるほど血を飲みなれてる。思い当たる魔物と言えば
｢あ、あんたもしかして…くう｣
ヴァンパイアか？そう言おうとした瞬間なんだか吸う勢いと快感が強くなったような気がした。
｢こくん、余計なこと考えないで。ちゃんと快感に集中してくれないとダメよ｣
そう耳元で囁かれたらどうでもよくなった。魅了の呪文が思ったより効いていたんだろう。
｢ごく、ごく、んっ。もう血はこれくらいでいいわね｣
女はそう言っておれ様の首から口を離した。
｢んくっ、はあ、はあ｣
これで終わりか。おれ様は安心したのとなんだか物足りないという気持ちが混ざっていた。そんなことを考えていると女がズボンに手をかけた。
｢フフフ。それじゃごたいめーんっと♪｣
そう言って一瞬の早業でおれ様のあそこを露出させた。
｢なっ？！｣
一体どういうことだ？ヴァンパイアって人間と交わることないんじゃなかったか？ヤるにしてももっとためらいとか葛藤があるはずだろ。もしかしてヴァンパイアじゃねーのか？でも他に血を飲む魔物なんて思い浮かばねーし。
｢覚悟しなさぁい。たっぷり搾り取ってあげるから｣
そう言って女は下着を下ろして、おれ様の上に乗ってきた。
｢くうっ！｣
おれ様はあまりの気持ちよさで挿れてすぐに射精してしまった。おい今早漏とか思ったやつ。だったらてめーがやってみろ。まあおれ様は全く代わる気ないけどな。
｢そんな悲しそうな顔しなくても大丈夫よ。何度でもしてあげるから｣
そう言って激しく犯してきた。ああもういいや。どうせ色々考えるのはノルレ先生なんだ。おれ様は報酬と輝かしい冒険者人生を思ってから快楽に身をまかせた。
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シャンビルのウワサに関する考察
ノルレ＝ヴェーデルシュルグ
シャンビルという町にはあるウワサがある。深夜道を歩いてると誰かに襲われて、犯されるというものだ。私はそのウワサの真相を調べるためにビリー＝ゲイオルグと、トム＝サイスという２人の冒険者に依頼した。
２人が調べた所によると犯人は肌が紫色で、髪と目と牙と爪が赤色の魔物らしい。その魔物を見てるとなぜか頭がボーっとして、気がついたら下半身が露出したまま放置されているらしい。覚えているのはものすごく気持ちよかったことだけだという話だ。だからわざと夜出歩いてまた襲われる人が多い。そんなウワサを聞いて他の所からも多くの観光客が来るという話だ。なんでそんなに変態が多いんだろう。まあそこらへんは魔物学者が考える領域じゃないので放っておくことにする。
それだけじゃなくて２人は実際にその魔物に襲われた。と言ってもトムの方はすぐ眠らされたのでほとんどはビリーの証言によるものである。まずその魔物は出てきてすぐ魅了の呪文をかけてきたらしい。呪文を使った様子はわからなかったらしいけど見ただけで体が熱くなったそうだ。そしてトムとビリーが騒いでいたのがうるさかったのかトムだけ眠らされた。そしてあわれなトムが眠った後首筋にかみつかれて血を吸われた。聞いた話だと他の被害者の首にも何かにかまれたような跡があったらしい。その魔物に血を吸われたのは間違いないだろう。そして血を吸われた後に強引に逆レイプされたらしい。どうでもいいけど彼はなんでそこまで正確に覚えているんだろう。他の人たちは快楽に溺れて何も覚えてなかったのになぜ彼だけがここまで覚えているんだろう。報酬を上乗せすると言ったからか、それとも覚えておけばロキに紹介する時印象がよくなるからと思ったからか。理由はどうであれ根性があると思う。実力は未知数だけど精神力は強いんだろう。冒険者のことはよくわからないが。
話はそれたけどその魔物について考えを述べてみる。この魔物はおそらくヴァンパイアだと思われる。肌が紫で、髪と牙と爪が赤いのは一晩で何人もの血を吸っているのが原因だろう。血を過剰摂取しているから体の色が血に染められたと思われる。もっと論理的に考えると短期間に性質が違う精が体に入ったために、魔力がぶつかり合って皮膚に悪影響を与えたという所だろうか。普通ヴァンパイアはこんな風に過剰摂取はしない。義妹のジュリアは弟のロキと一緒に吸血トレーニングなるものをやっているが、それはあくまで魔力のコントロールと、太陽の下で魔力を切らさないことが目的だ。ジュリアも普通のヴァンパイアとは言えないけど、その魔物はもっと普通のヴァンパイアとはかけ離れている。だからその魔物を他のヴァンパイアと分けるためにヴァンパニーズと呼ぶことにする。このヴァンパニーズという名前はある小説に出てくるヴァンパイアの道を踏み外した吸血鬼からとらせてもらった。ヴァンパイアと性質が違うことと、肌が紫で、髪と目と爪と牙が赤いという容姿からそう呼ばせてもらうことにする。
このヴァンパニーズと普通のヴァンパイアの違いは血を必要以上に飲むことだけではない。最も大きい違いは人間と交わるのに抵抗がないことだろう。それどころか積極的に強姦さえしている。どうやらヴァンパニーズには普通のヴァンパイアが持っているどんな強い快楽にも屈しないプライドが欠けているようだ。少なくとも襲ってる時は頭から消えているんだろう。
ではどうしてヴァンパニーズは強姦をするんだろうか。今の所私が考えている可能性は３つある。１つはヴァンパニーズがニンニク中毒もしくは襲いにいく前はニンニクを食べるようにしている可能性。どんなヴァンパイアでもニンニクを食べると理性が飛び、原種のサキュバス並みに淫乱になる。そう考えるとヴァンパニーズが自分から強姦なんてことをした説明はつくだろう。でも私個人としてはこの可能性は低いと思う。もしヴァンパニーズがニンニクを食べていたならトムとビリーが臭いに気付いてるはずだからだ。まあ魅了の呪文のせいでニンニクの臭いが気にならなかったとも考えられる。一応可能性の１つとして考えておくのもいいだろう。
もう１つは単に快楽に溺れたという可能性。昔快楽に耐えられなくなって男を犯してしまった。それから快感に対する耐性がなくなって、血を吸った後に湧き出てくる性欲を抑えなくなった。普通のヴァンパイアも夫であるインキュバスに対しては性欲を抑えることはないが、ヴァンパニーズは普通の人間にも性欲を抑えなくなったのかもしれない。一番無難だが、魔物学者としては得るものが少ない結論ではある。個人的意見としてはできればあまり当たっていてほしくはない。なぜならそれだとつまらないからだ。
そして最後の１つはヴァンパニーズが正真正銘小説に出てくる『ヴァンパニーズ』だという可能性。つまり小説のように吸血鬼はヴァンパイアとヴァンパニーズの２種類存在するということだ。まず小説に出てくるヴァンパニーズについて説明しよう。旧世代のある日、ヴァンパイアはある掟を定めた。その掟とは人間の血は必要な分だけ飲んで、飲み干して殺してはいけないというものだ。ほとんどのヴァンパイアはその掟に賛成したが、激しく反発するヴァンパイアもいた。彼らは人間の血は飲み干すべきものであり、必要な分だけ摂取するなんて愚かなことだと主張したのだ。両者の主張は平行線をたどり、結局激しく反発したヴァンパイアたちは一族を離反した。それがヴァンパニーズだ。彼らは血を体に悪いほど吸い続けた結果肌が紫色になって、髪と目と爪と牙が赤く染まった。体も変化して血を飲み干さないと収まらないようになってしまったらしい。
このヴァンパニーズ実在説は突拍子もないように思えるかもしれない。旧世代の時代の魔物図鑑にもヴァンパニーズの存在など載ってないからだ。でもあながちありえない話ではない。旧世代ではヴァンパイアとヴァンパニーズが同じものだととらえられていたとも考えられるからだ。小説によるとヴァンパニーズの外見的特徴が出てくるのは何年か生きて多くの人間の血を飲み干して体に血の色が染み付いてからだ。つまり人間にはヴァンパイアとヴァンパニーズの区別なんかついてなくてもおかしくない。そもそも分けて考えようとする必要なんてなかったのではないだろうか。旧世代では魔物は人間を殺すものだった。血を飲み干そうが、必要な分だけ吸おうが、人間にとってはどちらも血を吸って自分たちに害をなす魔物でしかない。だから旧世代の人間は吸血鬼がヴァンパイアとヴァンパニーズの２種類いることに気付かなかった。そう考えるとつじつまが合う。
それに彼女がヴァンパニーズだと考えるとヴァンパイアとの違いに説明がつく。一晩に何人もの人間を襲うのは１人から吸う量ではヴァンパニーズの体が満たされないからだ。魔王の世代交代で魔物は人間を殺せないようになった。それは血を飲み干してたヴァンパニーズも例外ではない。魔物としての制約とヴァンパニーズとしての本質がぶつかり合った結果一回の食事で複数の人間の血を飲むことで体を満足させようということになったんだろう。人間を強姦するのはもしかしたら代替行為なのかもしれない。血を飲み干せなくて物足りない分を、同じように精を含む精液を吸い取ることで補おうと考えているのかもしれない。ある種の欲求不満のはけ口にしているとも考えられる。血を飲み干せないことで出てくる不満と、吸血行為によって生じた性的欲求を男を襲うことで満たしているということなのかもしれない。どちらにしても始めから魅了の呪文を使ってくる以上、逆レイプは吸血行為のサイクルの中に組み入れられているのは確かなんだろう。
ヴァンパイアとヴァンパニーズは色々と考え方は違うけど、人間という種族を見下しているという点は同じなようだ。ただそのベクトルは大きく違うんだろう。ヴァンパイアは人間は下等な種族だから交わるのは汚らわしいことだと考えている。だからどんなに性欲を感じても耐えようとしている。ヴァンパニーズは人間を下に見ているから性欲処理の道具として使っても構わないと考えている。だからわざわざ性欲を抑えるようなことはしないで男を犯す。同じ前提でもここまで違っているとしたら面白いのかもしれない。
とまあヴァンパニーズ実在説を一通り述べてはみたものの、この説はまだ憶測の域を出ていない未完成なものだ。彼女の他に同じ性質をもつ魔物の情報がないので、ヴァンパニーズがいることを証明できないからだ。ヴァンパニーズと名づけたこの個体が単に特殊なヴァンパイアに過ぎないのか、それともヴァンパイアに似た全く別の新しい種族なのか。まだまだくわしく研究する必要があるだろう。
おわり
「ア、アニキ。こんな時間に出歩いてたらやつが出るっスよ」
一緒にいる舎弟のトムが震えながら言ってきた。」
「バーロー。それがおれ様たちの目的だろうが」
おれ様の言葉にビルは青ざめた。肝っ玉小さすぎだろ。
「も、もう帰った方がないんじゃないスかアニキ」
「バーロー。こんな報酬がいいクエスト降りるわけにはいかねえだろ。それに依頼主はあのロキ先輩の兄貴のノルレ先生だぞ。ただ怖いって理由であの人とパイプをつなぐチャンスをみすみす逃してたまるかよ」
トムはあきらめて目を伏せた。これ以上何を言ってもムダだって悟ったんだろう。
今回おれ様ビリー＝ゲイオルグが受けたクエストは、このシャンビルの町のウワサについて調査することだ。なんでも真夜中になると男が逆レイプされるらしい。１日に２人以上は確実に犯されるんだってよ。襲われたやつの首には何かにかまれたような跡があるらしい。そんな話を聞いたロキ先輩の兄貴で魔物学者のノルレ先生が興味を持って依頼を出した。それをおれ様がベントルージェに向かう途中で立ち寄ったフィアボルトの冒険者ギルドで見つけたってわけだ。とりあえずクエスト受けて経験増やそうと立ち寄ったら意外な掘り出し物を見つけちまった。報酬も高いし、駆け出しでロキ先輩と組んで名を挙げるチャンスもある。
｢それにしても結構襲われた人多いっスね。それに何回も襲われてるやつもいるらしいっス｣
｢つーかそいつらわざと襲われてるんじゃねーのか？話を聞きつけてこの街にやってくるやつも多いらしいぞ｣
おれ様の言葉にトムは呆れたように溜息をついた。
｢この街にはどれだけ変態が集まってるんスか…｣
同感だな。こんな時間にうろついてまで襲われたがるどんなドMだよ。
｢ふーん。自分たちもこんな時間にうろついてるくせにそんなこと言っちゃうんだー｣
おれ様たちはすごい勢いで後ろを振り向いた。そこには１人の女がいた。１人とは言ったけどどう見ても人間じゃない。紫色の肌、燃えるような赤毛、ひどく充血したような真っ赤な目、血で染められたように真紅色の鋭く尖った牙と爪。そんな怪しさが逆に美しさを際立たせている。その身には純白のドレスをまとっていた。
｢あ、あんたがウワサの…｣
｢あら、もしかして私って有名なの？」
そう言って首を傾げた。おれ様はなぜかその姿にキュンと来てしまった。なんなんだよこの感覚。もしかしてこれが一目ぼれやつなのか？
｢ああ。あんた目当てに他の所から人が集まってるらしい。それにわざと何度も襲われてるやつもいるしな｣
おれ様の言葉に彼女は嬉しそうに笑った。
｢変態が多いわねえ。まあそのおかげで食事がしやすいんだけど｣
食事？道で人を犯すことが？この女もしかしてサキュバスとかなのか？だとすればこいつを見てるだけであそこが立ってきてるのはまさか
｢み、魅了の呪文って…わけっスか｣
トムが息を荒げながら言った。
｢やっと気付いたの？まあ意外と持った方だと思うけどね｣
そう言って女はトムの方に向かって行った。
｢や、やめろ！おれ様には何してもいいからトムには手を出すな！｣
｢あ、アニキ…｣
トムは震えながらおれ様の方を向いた。
｢何自分だけいい思いしようとしてるんスか！｣
トムがおれ様のことをにらみつけてきた。ハハハ、ナンノコトヤラ。
｢ば、バーロー。おれ様はお前のことを思ってだな｣
｢ウソっス。明らかに後回しになるのが気に入らなかっただけ｣
トムはそこで言葉を切って眠り込んだ。女が眠りの呪文をかけたからだ。
｢しばらく黙ってなさい。安心していいわよ。夢を見ている間にヤってあげるから｣
うるさすぎて眠らされたか。哀れだなトム。それはどうでもいいけどこれじゃおれ様が襲われた様子を報告することになるな。そういうめんどいのはトムに任せておきたいんだけど。まあちゃんとやるけどさ。報酬が上乗せされるからな。
｢それじゃ…いただきまーす♪｣
女はいきなり首筋にかみついてきた。
｢うっ｣
なぜか痛みは感じなかった。それどころかものすごい快感を感じる。魔力でも注ぎ込まれてるのか？とりあえず首にかんだ跡があった理由がわかった。ちなみにおれ様がここまで冷静なのは魔物が人を殺すことはないのを知ってるからだ。おれ様は騙されてる反魔物領の出身でも、勇者とかほざいてる勘違い野郎でもないんでね。
｢ごく、ごく、んっ。まあまあね｣
吸われて貧血になるような感じにも何か快感を感じる。吸血する時に魔力を注ぎ込んで、味の評価ができるほど血を飲みなれてる。思い当たる魔物と言えば
｢あ、あんたもしかして…くう｣
ヴァンパイアか？そう言おうとした瞬間なんだか吸う勢いと快感が強くなったような気がした。
｢こくん、余計なこと考えないで。ちゃんと快感に集中してくれないとダメよ｣
そう耳元で囁かれたらどうでもよくなった。魅了の呪文が思ったより効いていたんだろう。
｢ごく、ごく、んっ。もう血はこれくらいでいいわね｣
女はそう言っておれ様の首から口を離した。
｢んくっ、はあ、はあ｣
これで終わりか。おれ様は安心したのとなんだか物足りないという気持ちが混ざっていた。そんなことを考えていると女がズボンに手をかけた。
｢フフフ。それじゃごたいめーんっと♪｣
そう言って一瞬の早業でおれ様のあそこを露出させた。
｢なっ？！｣
一体どういうことだ？ヴァンパイアって人間と交わることないんじゃなかったか？ヤるにしてももっとためらいとか葛藤があるはずだろ。もしかしてヴァンパイアじゃねーのか？でも他に血を飲む魔物なんて思い浮かばねーし。
｢覚悟しなさぁい。たっぷり搾り取ってあげるから｣
そう言って女は下着を下ろして、おれ様の上に乗ってきた。
｢くうっ！｣
おれ様はあまりの気持ちよさで挿れてすぐに射精してしまった。おい今早漏とか思ったやつ。だったらてめーがやってみろ。まあおれ様は全く代わる気ないけどな。
｢そんな悲しそうな顔しなくても大丈夫よ。何度でもしてあげるから｣
そう言って激しく犯してきた。ああもういいや。どうせ色々考えるのはノルレ先生なんだ。おれ様は報酬と輝かしい冒険者人生を思ってから快楽に身をまかせた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
シャンビルのウワサに関する考察
ノルレ＝ヴェーデルシュルグ
シャンビルという町にはあるウワサがある。深夜道を歩いてると誰かに襲われて、犯されるというものだ。私はそのウワサの真相を調べるためにビリー＝ゲイオルグと、トム＝サイスという２人の冒険者に依頼した。
２人が調べた所によると犯人は肌が紫色で、髪と目と牙と爪が赤色の魔物らしい。その魔物を見てるとなぜか頭がボーっとして、気がついたら下半身が露出したまま放置されているらしい。覚えているのはものすごく気持ちよかったことだけだという話だ。だからわざと夜出歩いてまた襲われる人が多い。そんなウワサを聞いて他の所からも多くの観光客が来るという話だ。なんでそんなに変態が多いんだろう。まあそこらへんは魔物学者が考える領域じゃないので放っておくことにする。
それだけじゃなくて２人は実際にその魔物に襲われた。と言ってもトムの方はすぐ眠らされたのでほとんどはビリーの証言によるものである。まずその魔物は出てきてすぐ魅了の呪文をかけてきたらしい。呪文を使った様子はわからなかったらしいけど見ただけで体が熱くなったそうだ。そしてトムとビリーが騒いでいたのがうるさかったのかトムだけ眠らされた。そしてあわれなトムが眠った後首筋にかみつかれて血を吸われた。聞いた話だと他の被害者の首にも何かにかまれたような跡があったらしい。その魔物に血を吸われたのは間違いないだろう。そして血を吸われた後に強引に逆レイプされたらしい。どうでもいいけど彼はなんでそこまで正確に覚えているんだろう。他の人たちは快楽に溺れて何も覚えてなかったのになぜ彼だけがここまで覚えているんだろう。報酬を上乗せすると言ったからか、それとも覚えておけばロキに紹介する時印象がよくなるからと思ったからか。理由はどうであれ根性があると思う。実力は未知数だけど精神力は強いんだろう。冒険者のことはよくわからないが。
話はそれたけどその魔物について考えを述べてみる。この魔物はおそらくヴァンパイアだと思われる。肌が紫で、髪と牙と爪が赤いのは一晩で何人もの血を吸っているのが原因だろう。血を過剰摂取しているから体の色が血に染められたと思われる。もっと論理的に考えると短期間に性質が違う精が体に入ったために、魔力がぶつかり合って皮膚に悪影響を与えたという所だろうか。普通ヴァンパイアはこんな風に過剰摂取はしない。義妹のジュリアは弟のロキと一緒に吸血トレーニングなるものをやっているが、それはあくまで魔力のコントロールと、太陽の下で魔力を切らさないことが目的だ。ジュリアも普通のヴァンパイアとは言えないけど、その魔物はもっと普通のヴァンパイアとはかけ離れている。だからその魔物を他のヴァンパイアと分けるためにヴァンパニーズと呼ぶことにする。このヴァンパニーズという名前はある小説に出てくるヴァンパイアの道を踏み外した吸血鬼からとらせてもらった。ヴァンパイアと性質が違うことと、肌が紫で、髪と目と爪と牙が赤いという容姿からそう呼ばせてもらうことにする。
このヴァンパニーズと普通のヴァンパイアの違いは血を必要以上に飲むことだけではない。最も大きい違いは人間と交わるのに抵抗がないことだろう。それどころか積極的に強姦さえしている。どうやらヴァンパニーズには普通のヴァンパイアが持っているどんな強い快楽にも屈しないプライドが欠けているようだ。少なくとも襲ってる時は頭から消えているんだろう。
ではどうしてヴァンパニーズは強姦をするんだろうか。今の所私が考えている可能性は３つある。１つはヴァンパニーズがニンニク中毒もしくは襲いにいく前はニンニクを食べるようにしている可能性。どんなヴァンパイアでもニンニクを食べると理性が飛び、原種のサキュバス並みに淫乱になる。そう考えるとヴァンパニーズが自分から強姦なんてことをした説明はつくだろう。でも私個人としてはこの可能性は低いと思う。もしヴァンパニーズがニンニクを食べていたならトムとビリーが臭いに気付いてるはずだからだ。まあ魅了の呪文のせいでニンニクの臭いが気にならなかったとも考えられる。一応可能性の１つとして考えておくのもいいだろう。
もう１つは単に快楽に溺れたという可能性。昔快楽に耐えられなくなって男を犯してしまった。それから快感に対する耐性がなくなって、血を吸った後に湧き出てくる性欲を抑えなくなった。普通のヴァンパイアも夫であるインキュバスに対しては性欲を抑えることはないが、ヴァンパニーズは普通の人間にも性欲を抑えなくなったのかもしれない。一番無難だが、魔物学者としては得るものが少ない結論ではある。個人的意見としてはできればあまり当たっていてほしくはない。なぜならそれだとつまらないからだ。
そして最後の１つはヴァンパニーズが正真正銘小説に出てくる『ヴァンパニーズ』だという可能性。つまり小説のように吸血鬼はヴァンパイアとヴァンパニーズの２種類存在するということだ。まず小説に出てくるヴァンパニーズについて説明しよう。旧世代のある日、ヴァンパイアはある掟を定めた。その掟とは人間の血は必要な分だけ飲んで、飲み干して殺してはいけないというものだ。ほとんどのヴァンパイアはその掟に賛成したが、激しく反発するヴァンパイアもいた。彼らは人間の血は飲み干すべきものであり、必要な分だけ摂取するなんて愚かなことだと主張したのだ。両者の主張は平行線をたどり、結局激しく反発したヴァンパイアたちは一族を離反した。それがヴァンパニーズだ。彼らは血を体に悪いほど吸い続けた結果肌が紫色になって、髪と目と爪と牙が赤く染まった。体も変化して血を飲み干さないと収まらないようになってしまったらしい。
このヴァンパニーズ実在説は突拍子もないように思えるかもしれない。旧世代の時代の魔物図鑑にもヴァンパニーズの存在など載ってないからだ。でもあながちありえない話ではない。旧世代ではヴァンパイアとヴァンパニーズが同じものだととらえられていたとも考えられるからだ。小説によるとヴァンパニーズの外見的特徴が出てくるのは何年か生きて多くの人間の血を飲み干して体に血の色が染み付いてからだ。つまり人間にはヴァンパイアとヴァンパニーズの区別なんかついてなくてもおかしくない。そもそも分けて考えようとする必要なんてなかったのではないだろうか。旧世代では魔物は人間を殺すものだった。血を飲み干そうが、必要な分だけ吸おうが、人間にとってはどちらも血を吸って自分たちに害をなす魔物でしかない。だから旧世代の人間は吸血鬼がヴァンパイアとヴァンパニーズの２種類いることに気付かなかった。そう考えるとつじつまが合う。
それに彼女がヴァンパニーズだと考えるとヴァンパイアとの違いに説明がつく。一晩に何人もの人間を襲うのは１人から吸う量ではヴァンパニーズの体が満たされないからだ。魔王の世代交代で魔物は人間を殺せないようになった。それは血を飲み干してたヴァンパニーズも例外ではない。魔物としての制約とヴァンパニーズとしての本質がぶつかり合った結果一回の食事で複数の人間の血を飲むことで体を満足させようということになったんだろう。人間を強姦するのはもしかしたら代替行為なのかもしれない。血を飲み干せなくて物足りない分を、同じように精を含む精液を吸い取ることで補おうと考えているのかもしれない。ある種の欲求不満のはけ口にしているとも考えられる。血を飲み干せないことで出てくる不満と、吸血行為によって生じた性的欲求を男を襲うことで満たしているということなのかもしれない。どちらにしても始めから魅了の呪文を使ってくる以上、逆レイプは吸血行為のサイクルの中に組み入れられているのは確かなんだろう。
ヴァンパイアとヴァンパニーズは色々と考え方は違うけど、人間という種族を見下しているという点は同じなようだ。ただそのベクトルは大きく違うんだろう。ヴァンパイアは人間は下等な種族だから交わるのは汚らわしいことだと考えている。だからどんなに性欲を感じても耐えようとしている。ヴァンパニーズは人間を下に見ているから性欲処理の道具として使っても構わないと考えている。だからわざわざ性欲を抑えるようなことはしないで男を犯す。同じ前提でもここまで違っているとしたら面白いのかもしれない。
とまあヴァンパニーズ実在説を一通り述べてはみたものの、この説はまだ憶測の域を出ていない未完成なものだ。彼女の他に同じ性質をもつ魔物の情報がないので、ヴァンパニーズがいることを証明できないからだ。ヴァンパニーズと名づけたこの個体が単に特殊なヴァンパイアに過ぎないのか、それともヴァンパイアに似た全く別の新しい種族なのか。まだまだくわしく研究する必要があるだろう。
おわり
10/04/10 20:56更新 / グリンデルバルド