悪ラウネのお姉ちゃん
「ヒュロスお姉ちゃ〜〜〜ん!」
読書をしていたらトテトテという擬音が似合う走り方で、泣きながら少女が走り寄ってきた。またか、小さく溜め息をついて本を傍らに置き彼女を受け入れるために両手を広げる。彼女は躊躇いも無く腕の中に飛び込むと胸に顔を埋めて声を上げて泣き始めた。
「今日は誰?」
「ラージマウス・・・」
昨日はホーネット、一昨日はハニービー、その前はハーピー、ブラックハーピー、更にその前は通りすがりのロリコン、そしてベルゼブブ・・・よくもまぁ、日替わりで飽きもせずに悪戯されるものだ。しかも、全員「可愛かったから」という滅茶苦茶な犯行理由らしい。怪我をさせられるようなことこそないが、この子にとっては深刻な問題なようだ。
グスン、と鼻を啜り上げて丸みを帯びた特徴的な紫色の瞳を向けた。
まぁ、犯人達の犯行動機も分からんでもない。
薄い緑色の肌の中に僅かに赤みを帯びた頬。思わず近くで楽しみたくなってしまうような心地良い香りと花。ちょっとだけ困らせてみたくなる弱気そうな表情と保護欲を掻き立てて抱き締めたくなるような仕草。
彼女は人間ではない。マンドラゴラという種族の魔物だ。
「リディア・・・それで、何されたの?」
「えっと、タックに・・・何か食べるもの頂戴って言われて・・・ でも、私・・・その時、何にも持ってなかったから、今は持ってないから後でも良い?って訊いたの。 そしたら・・・ タックちゃん、リディアはいつも美味しい物を持っているよって言って・・・」
いつものパターンか・・・
頭の花に顔を突っ込まれて、そのまま蜜を舐めとられたのだろう。今すぐにでも私のリディアの蜜を勝手に舐めたタックの事をボコボコにして張り倒してやりたい。
もっとも現実問題としてアルラウネである私は移動速度が遅くて、とてもではないがラージマウスの逃げ足についていけないという問題がある。
あぁ、憎らしい。 あの泥棒魔物達め・・・
私もリディアに駆け寄って抱きつき押し倒してキスをしながら、リディアの花の蜜を掬い取って二人で共有しながら甘い一時を過ごしたいのに。
「ヒュロスお姉ちゃん・・・ お姉ちゃんだけだよ・・・ 私の事、悪戯しないの」
不安気に大きな瞳で上目遣い見上げて名前を呼んだ。
ウルウルと子犬のような瞳で構ってオーラを全開にしているリディア。これになびかない魔物がいようか。考えても見て欲しい。わざわざ苛められたと言って逐一報告に来て腕の中に飛び込んで助けを求めてくるのだ。グスグスと鼻をすすっている子の頭をそっと撫でてやると、少し安心したのか段々と腕の中で泣き声は小さくなり、やがて腕の中で嬉しそうな微笑みを浮かべるのだ。
しかも、それが他でもない自分だけに見せてくれる極上の笑み。自分に全幅の信頼を寄せてくれるが故の行動。あぁんもう最高! 私だけのリディアちゃん! 可愛い可愛いリディアちゃん!
「お姉ちゃん ・・・大丈夫?」
「あ、ううん、大丈夫。 なに? 心配しないで! 私はいつだってアナタの味方よ。 だからリディアはドーンと私に任せてくれれば良いの!」
「そ・・・ そう? お姉ちゃん・・・ 鼻血出てるけど・・・」
私の事まで心配してくれるなんて!!!
ギュウ、と思わず力一杯抱き締めてしまう。
・・・
「とりあえず、身体を洗うことにしましょう」
乱暴に押し倒されたのでリディアの身体には少し泥がついている。大して汚れていないにしても女の子である以上、やはり身辺には人一倍気を使って欲しい。折角こんなに可愛いのだ、その柔肌を砂なんかで傷つけては勿体無い。
そう提案するとリディアは素直にそれに従った。
水辺は近くにあるので、そこで洗い落としてあげよう。私はアルラウネであり、下半身は大きな花に覆われているために移動がかなり苦手だ。這うように移動するのだがリディア一人で行った方が遥かに早い。
けれど、リディアはそんな事はせずに私の速度に合わせて隣をゆっくりと歩いている。
「だって、お姉ちゃんと一緒に居ると楽しいもん」
何の打算もない無垢な笑みを浮かべて応えた。
思わず心臓を鷲摑みにされたように息ができなくなる。むしろ今すぐに殺して。ここで殺されたら多分、これ以上ない程安らかな寝顔だろう。もしかしたら世界一幸せな死相として認定されるかもしれない。
あぁ、でも私が死んだらリディアは泣いてしまうだろう。泣き顔も可愛いのだが、やはり、泣いている姿を見るなら感涙が良い。私が泣かせる原因となるなんてナンセンスにも程がある。私はリディアよりも先に死んではいけない。絶対にだ!
なんて素直で良い子に育ったのだろう。
本当に可愛い・・・ 可愛すぎて死んでしまいそう・・・
抱き締めて頬擦りをするとリディアは少しくすぐったそうに身を捩って逃れようとした。本当にこのまま花弁を閉じてしまおうか。もう放したくない。
「ねぇ、お姉ちゃん? 洗いっこするんでしょ?」
「ふふ、分かってるわよ・・・ ちょっとからかっただけよ」
「うふふ。 もう、お姉ちゃんたら」
にっこりとリディアは腕の中で笑った。
このマンドラゴラ・・・ できる!!!
あぁ、この子のお婿さんはどんな人なのだろう。こんなに良い子なのだ。立派で素敵な男の人を相手として見つけてくるだろう。うん、そう違いない。だが断る。リディアを嫁にとろうなんて、リディアの姉であるこのヒュロスの目の黒い内は絶対にさせない。
リディアの事を髪の毛一本分でも傷物にしてみろ?
生まれたことを後悔させて、土壌を豊かにしてやる。
「お姉ちゃんと水汲みするの久しぶりだね」
「そうだっけ?」
「ちょっと前まで、いつも一緒にしていたのにね」
「そ、そうね」
リディアは草で作った服を脱ぐと丁寧に畳んで岩の上に置いた。
滑らかで潤いのある肌。なだらかな胸元の丘と頂上に咲くうす桃色をした小さな可愛らしい花。ひょっこりと現れた森の奇跡のような美しい肢体を惜しげもなく晒しながら、はにかんだ笑顔を浮かべた。ゆっくりと手を伸ばし、そして目の前でピタリと止めた。
「早く♪」
手を差し出して水辺へと誘う。
なんだこの子・・・ 悪魔か? 刺客か? 私の事を殺しにかかっているのか? こんな事をされたら鼻血が止まらず出血死確定だぞ? ヴァンパイアもドン引きの出血量で、もしかしたら血液パックを恵んでくれるかもしれない。しかし、何故だろう。なに一つ後悔する気がしない。胸を満たすのはこれ以上ないほどの満足感だ。
死んでも後悔は絶対にないが、リディアと一緒に水浴びするまで死んでも死に切れない。
チャプン、と二人で水の中に入る。
水底まで見えるほど美しい清らかな水は肌に心地良い冷たさを湛えている。
「それそれ〜」
「キャ!」
先に入ったリディアは両手で掬い取った水を放った。一瞬だけ空中に浮かんだ水滴はキラキラと太陽の光を反射して宝石のようだ。宝石は次々と降り注ぎ、肌の上に触れると儚く崩れ落ちた。幻想的な風景に一瞬心を囚われたが、やはり水は冷たい。
「こら、魚さんがびっくりしてるでしょ」
「あ・・・ごめんなさい・・・」
腕を掴んで抱き寄せると申し訳なさそうに俯いた。落ち込んだ姿も可愛いです。この子は天使に違いない。いや、むしろこの子が天使じゃなかったら、何が天使だというのだ。
うん、これだけ反省してくれるのなら、魚さんも気にしていないに違いない。
軽く額の葉を除けると可愛らしいオデコにキスをする。
「じゃ、洗ってあげるね?」
「うん、おねがい♪」
水を掬い頭からかけてやると、リディアは冷たさから逃れようと身をすくめた。しかし、ここで逃げられてしまっては、洗うことなどできない。ここは心を鬼にして強引にリディアを押さえつけて水をかける。
「冷たいよ! お姉ちゃん、冷たい!」
「逃げちゃ駄目! ほら、我慢して!」
「きゃあ!」
「リディアあったかい♪」
さっきのお返しとばかりに冷水で冷えた手を首筋に当てると可愛らしい悲鳴を上げた。恨みがましい目で見る姿に危ない快感を覚えてしまう。冗談はこれくらいにして洗ってあげることにしよう。
リディアに背を向かせ、水に浸した手で頭から順番に汚れを落としていく。丸みを帯びた肩から始まり、天使の羽のような肩甲骨を通り背骨を伝って、僅かに浮き出たあばら骨をなぞる。くすぐったいのか多少身じろぎをしたが、大人しくして撫でられている。
滑らかな肌はきめ細かく張りがあり、まるでシルクのような肌触りだ。
鼻先を花に近づければ、ほのかな甘みを帯びた香りが鼻腔を優しくくすぐる。
「お姉ちゃん・・・ 私の匂い好きなの?」
「好きよ。 日溜りみたいな匂いがするもの。 優しい匂いがするの」
「えへへ、嬉しいな。 私もヒュロスお姉ちゃんの匂い大好きだよ? す〜っごく甘くて大人の良い香りがするんだ」
キュン死する・・・
腕の中で至近距離見上げ気味の不意打ちエンジェルスマイルでの告白の威力は殺人クラスだ。心臓は弱くないつもりだが、心臓発作で死んでしまう。この子はきっと通り魔的な大量殺人犯に違いない。凶器はその笑顔。ピョンと胸の内に飛び込みそして無垢な笑顔を向けるのだ。
向けられた相手はこの世の最高の奇跡を目の当たりにして、幸福を感じる前に死んでしまう。あぁ、なんて恐ろしい子なのだろう。こんな子を野放しにして良いのだろうか?これ以上被害者が出る前にどうにかしないと。
具体的には私の家に持ち帰って押し倒し、花の内に取り込んで誰の目にも触れないようにして、永久に私が責任を持って監視するしかない。これは仕方ないのだ。リディアの事を大量殺人犯にするわけにいかない。そのための処置だ。私の物にして誰の目にも触れさせたくないなどという独占欲からの行動ではない。
「ヒュロス・・・お姉ちゃん?」
「あ、えっと。 ごめんね?」
危ないトリップをしていた私をリディアが連れ戻した。
現実離れした幸せな日々を妄想しすぎてアソコが濡れてきた。水の中で良かった。もしも地上だったら太腿まで洪水になっていただろう。リディアに恥ずかしい所を見せるところだった。あんな痴態を晒してしまったら私は立ち直れない。
いや、良いかもしれない。
私のイヤラシイ姿を見てリディアは顔を真っ赤にしつつも、その場で立ちすくむだろう。軽蔑と心配の入り混じった困惑した視線を向けていた。ゆっくりと私が近づくとリディアは逃げようと後ずさりするのだが、足がもつれて尻餅を着く。
顔を近づけると小刻みに震えながらも視線を外せないのだ。
そして、形の良い唇が動いて訊ねるのだ。
「お姉ちゃん・・・ どうしたの?」
そうしたら、リディアの腕を掴んで抱き寄せる。恐くて振り払おうとするのだが、心優しいリディアちゃんは信頼する「ヒュロスお姉ちゃん」の手を振り払う事ができないのだ。恐怖に染まるリディアの耳に唇を寄せてこう囁くのだ・・・
「お姉ちゃん・・・ 本当に大丈夫?」
「はっ! あ・・・えっと、大丈夫よ」
慌ててガッツポーズを作り、リディアに笑いかける。
「熱でもあるんじゃない?」と心配そうな表情を浮かべられてしまったが、大丈夫だよと首を振る。仮に熱があってもリディアが心配してくれるのが最高の特効薬だ。どんな病気でも治ってしまう。もっとも禁断の恋に落ちるという、とんでもない副作用があるが。
全く気がついていないようだが、リディアに声を掛けられた瞬間に軽くイってしまったのは秘密だ。
「綺麗になったね」
「うん、ありがとう! じゃ、今度はお姉ちゃんの番だよね?」
「待って、綺麗な内にお肌のお手入れしちゃいましょ?」
「手入れ?」
「そ。 リディアは女の子だからね、キチンとお手入れしないと」
洗いっこする気満々だったリディアは、抗議するように唇を尖らせたが渋々と従った。素直でいい子だ。頭に手を乗せると気持ち良さそうに目を閉じ、甘えるように身体を寄せた。
「特別に調合した蜜だからね・・・」
リディア専用に調合した蜜を両手で掬い頭から垂らす。粘度の高い液体は肌の上をドロリと流れた。両手で薄く全体に伸ばしていく。
「ひゃ・・・ そんな、とこまで塗らなくても平気だよ・・・」
「だーめ。 見えないところも塗らないと。 見えないところも手を抜いちゃ、折角可愛いんだから・・・」
顔を塗り終えると抱きかかえるようにして全身に塗りたくる。アルラウネが化粧水用に調合した蜜は最高級の化粧品だ。
「はぅ・・・やだぁ、お姉ちゃん・・・ そんなとこ、駄目だってぇ・・・」
「そんな事ないわよ、お腹だって誰に見られるか分からないでしょ? 最近はおへそを出すのだって流行っているじゃない」
「私、おへそなんか出さないもん・・・」
可愛いなぁ・・・
後ろから抱きかかえるように押さえ、お腹や太腿などに丁寧に塗りこんでいく。ふるふると身を捩って逃げようとするが、くすぐったいのか力は全く入っていない。悪戯のつもりで耳を食むとピクンと身体を痙攣させた。
「お姉ちゃん、なにするのぉ?」
「食べちゃいたいぐらい可愛いって思ったからね・・・つい♪」
「たべないでよぉ・・・やぁだぁ・・・」
「さ、続きを塗るわよ?」
手を動かすとショックを受けたように身体を弾けさせた。リディアの吐息は甘く熱い。身体を縮めて緊張させて、目はトロンとして何となく焦点が合っていない。
「ひゃ!!! やめ、そこ」
なだらかな丘に蜜を揉みこむように塗りこみ、下腹部にある小さな峡谷に染み込ませるように蜜を垂らしていく。
「っはぁ・・・ っはぅ・・・ お姉ちゃん、なんか体、ジンジンするよぅ・・・ 熱い、痒くて、動くたびに擦れると、頭の・・・ はうぁ 中、白くなっちゃうの。 お姉ちゃん・・・私、なんだか変になっちゃった・・・ ねぇ、これ・・・ 病気・・・ んぅ・・・ なっちゃったのかな?」
「赤ちゃんはどこから来るの?」と訊ねると、「キャベツ畑」と応えるぐらいだ。リディアは欲情という言葉を知らないし、ましてやアルラウネの蜜がどんな副作用をもつかも知らないだろう。ただ正体不明の感覚に戸惑いをおぼえているのだ。
「大丈夫だよ」そう耳打ちすると不安がるように私の腕を掴み小さく震えながら、じぃっと潤んだ大きな瞳で見つめている。背筋がゾクゾクするほど可愛らしい。
そのまま丘の上に咲く小さな花を摘み取る。
「ひゃぁ!?」
明らかに戸惑い以外の感情が入り混じった声を上げた。曲げた左の人差し指を噛み、再び声を上げまいと必死になって耐えている。その姿は例えようもなくイジラしい。
あまりにも弱弱しいその姿を見せ付けられ、例えるのなら生まれたての無力な小鹿を前にした虎のような気分になる。しかも、その小鹿は愚かにも自分を母親だと思って近づいて来るのだ。
柔らかい首に鋭い牙をめり込ませたい。きっと「信じられない」とでも言うような瞳でこちらを見るのだろう。なんという背徳と愉悦。きっと今までに感じたことのないほどの至上の恍惚だろう。
押し倒して犯しつくし、滅茶苦茶にして二度と誰も信じられなくしてやりたい。
でも、駄目。
私は胸の奥に渦巻くどす黒い炎に水をかける。
私はリディアの姉だ。この子は心底自分を慕ってくれているし、私もリディアを実の妹のように思っている。例え血はつながって無くても、その関係は実の姉妹に引けを取るものではないはずだ。
裏切る事なんてできやしない。
彼女の幸せは誰よりも思っているし、リディアの笑顔を守るためなら魔王にだって闘ってやろう。
ごめんね、悪戯しすぎちゃった。
そう小さく胸の内で謝って全身に塗りつけた蜜を水で落としてやる。
「っはぁ・・・ お姉ちゃん、終わり? んくぅ・・・ っひゃぁ・・・ あり、がと・・・ ふぅ・・・ 私の、お肌の・・・ っはぁ・・・ お手入れ、して・・・ くれて・・・」
全身くまなく塗りつけた蜜を全て落としてやるとボーッとした瞳でコチラを見上げてきた。リディアの秘所からは洗い落とした以外の蜜が太腿を伝い、そして顔は興奮したように赤みが差している。
・・・ごめん、やっぱ無理
「最後に綺麗になるツボを押してあげるから」
・・・
催淫作用をちょっと楽にしてあげよう。そう思って軽くイカせてあげたのが運のつき。小さなリディアの芽を押しつぶすと全身を震わせて達してしまった。その拍子に失禁なんてするのだから、みんなが使う湖を汚すのはよろしくない。そういう事で御仕置き代わりにもう一回。
そんな事を延々と繰り返してしまった。
元々体力がある子ではないので五回の絶頂を迎えると気を失い、それで私も我に返ったのだが、越えてはいけない一線を越えなかったのはほとんど奇跡だ。
いやぁ、失禁する姿も可愛かった。眼福だ。 ・・・じゃなくて
ウチに連れてきて、そのまま今はベッドに寝かせている。
「ん・・・あれ?」
「起きた?」
「・・・あ、お姉ちゃん」
目を覚ましてリディアはコチラを認めると嬉しそうに目を細めた。嬉しくてつい笑い返してしまったが、すぐに胸の内には後悔の念が広がる。あと少しで妹との関係を滅茶苦茶にしてしまう所だったのだ。これは許される事じゃない。
「・・・ごめん、なさい」
口を開いた瞬間に言葉が流れた。
驚いて顔を上げる。しかし私は言っていない。じゃあ、誰?
そんなのは考える必要も無い。元々この部屋には二人しかいないのだ。二人引く一人で残るのは一人。リディアだ。
顔を伏せて心底申し訳なさそうにしている。
「えっと・・・ お姉ちゃんと、洗いっこするっていったのに・・・ お肌の手入れしてくれたのに、それなのに・・・ 私、勝手に寝ちゃって・・・ 約束破って、ごめんなさい・・・」
「・・・」
悪かったのは私なのに、リディアはちっとも責めなかった。優しい子だ。
私はこんなに優しい子を汚そうとしたのか。自分の醜さを恥じた。
半身を起こしているリディアに近づき、そっと抱きしめてやる。
けれど、この子が妹で本当によかった。こんなにも立派な子に成長したのかと思うと、これ以上嬉しいことはない。この子は何がなんでも大切にしよう。
「・・・く、苦しい」
「あ、ごめんね」
つい、抱き締める力が強くなり慌てて解放すると、嬉しそうな顔のリディアがそこにいた。なんとか起きようとするのだが、体力は戻っておらずよろめいてしまう。
「ゆっくり休んでいきなさい・・・ まだ、体力が戻ってないんだから」
「でも・・・」
「良いから」
不満そうなリディアに再び布団をかける。唇を尖らせて抗議したが、首を振って却下すると渋々と従った。
さて、この子が寝ている間に飛び切り上等な服でも編んであげよう
「あ、あのさ・・・」
出て行こうとするとリディアは布団に顔を埋めながら大きな瞳でコチラを見上げていた。
「お姉ちゃんと・・・ 一緒に寝たい、な?」
鼻血でぶっ倒れそうになった。
読書をしていたらトテトテという擬音が似合う走り方で、泣きながら少女が走り寄ってきた。またか、小さく溜め息をついて本を傍らに置き彼女を受け入れるために両手を広げる。彼女は躊躇いも無く腕の中に飛び込むと胸に顔を埋めて声を上げて泣き始めた。
「今日は誰?」
「ラージマウス・・・」
昨日はホーネット、一昨日はハニービー、その前はハーピー、ブラックハーピー、更にその前は通りすがりのロリコン、そしてベルゼブブ・・・よくもまぁ、日替わりで飽きもせずに悪戯されるものだ。しかも、全員「可愛かったから」という滅茶苦茶な犯行理由らしい。怪我をさせられるようなことこそないが、この子にとっては深刻な問題なようだ。
グスン、と鼻を啜り上げて丸みを帯びた特徴的な紫色の瞳を向けた。
まぁ、犯人達の犯行動機も分からんでもない。
薄い緑色の肌の中に僅かに赤みを帯びた頬。思わず近くで楽しみたくなってしまうような心地良い香りと花。ちょっとだけ困らせてみたくなる弱気そうな表情と保護欲を掻き立てて抱き締めたくなるような仕草。
彼女は人間ではない。マンドラゴラという種族の魔物だ。
「リディア・・・それで、何されたの?」
「えっと、タックに・・・何か食べるもの頂戴って言われて・・・ でも、私・・・その時、何にも持ってなかったから、今は持ってないから後でも良い?って訊いたの。 そしたら・・・ タックちゃん、リディアはいつも美味しい物を持っているよって言って・・・」
いつものパターンか・・・
頭の花に顔を突っ込まれて、そのまま蜜を舐めとられたのだろう。今すぐにでも私のリディアの蜜を勝手に舐めたタックの事をボコボコにして張り倒してやりたい。
もっとも現実問題としてアルラウネである私は移動速度が遅くて、とてもではないがラージマウスの逃げ足についていけないという問題がある。
あぁ、憎らしい。 あの泥棒魔物達め・・・
私もリディアに駆け寄って抱きつき押し倒してキスをしながら、リディアの花の蜜を掬い取って二人で共有しながら甘い一時を過ごしたいのに。
「ヒュロスお姉ちゃん・・・ お姉ちゃんだけだよ・・・ 私の事、悪戯しないの」
不安気に大きな瞳で上目遣い見上げて名前を呼んだ。
ウルウルと子犬のような瞳で構ってオーラを全開にしているリディア。これになびかない魔物がいようか。考えても見て欲しい。わざわざ苛められたと言って逐一報告に来て腕の中に飛び込んで助けを求めてくるのだ。グスグスと鼻をすすっている子の頭をそっと撫でてやると、少し安心したのか段々と腕の中で泣き声は小さくなり、やがて腕の中で嬉しそうな微笑みを浮かべるのだ。
しかも、それが他でもない自分だけに見せてくれる極上の笑み。自分に全幅の信頼を寄せてくれるが故の行動。あぁんもう最高! 私だけのリディアちゃん! 可愛い可愛いリディアちゃん!
「お姉ちゃん ・・・大丈夫?」
「あ、ううん、大丈夫。 なに? 心配しないで! 私はいつだってアナタの味方よ。 だからリディアはドーンと私に任せてくれれば良いの!」
「そ・・・ そう? お姉ちゃん・・・ 鼻血出てるけど・・・」
私の事まで心配してくれるなんて!!!
ギュウ、と思わず力一杯抱き締めてしまう。
・・・
「とりあえず、身体を洗うことにしましょう」
乱暴に押し倒されたのでリディアの身体には少し泥がついている。大して汚れていないにしても女の子である以上、やはり身辺には人一倍気を使って欲しい。折角こんなに可愛いのだ、その柔肌を砂なんかで傷つけては勿体無い。
そう提案するとリディアは素直にそれに従った。
水辺は近くにあるので、そこで洗い落としてあげよう。私はアルラウネであり、下半身は大きな花に覆われているために移動がかなり苦手だ。這うように移動するのだがリディア一人で行った方が遥かに早い。
けれど、リディアはそんな事はせずに私の速度に合わせて隣をゆっくりと歩いている。
「だって、お姉ちゃんと一緒に居ると楽しいもん」
何の打算もない無垢な笑みを浮かべて応えた。
思わず心臓を鷲摑みにされたように息ができなくなる。むしろ今すぐに殺して。ここで殺されたら多分、これ以上ない程安らかな寝顔だろう。もしかしたら世界一幸せな死相として認定されるかもしれない。
あぁ、でも私が死んだらリディアは泣いてしまうだろう。泣き顔も可愛いのだが、やはり、泣いている姿を見るなら感涙が良い。私が泣かせる原因となるなんてナンセンスにも程がある。私はリディアよりも先に死んではいけない。絶対にだ!
なんて素直で良い子に育ったのだろう。
本当に可愛い・・・ 可愛すぎて死んでしまいそう・・・
抱き締めて頬擦りをするとリディアは少しくすぐったそうに身を捩って逃れようとした。本当にこのまま花弁を閉じてしまおうか。もう放したくない。
「ねぇ、お姉ちゃん? 洗いっこするんでしょ?」
「ふふ、分かってるわよ・・・ ちょっとからかっただけよ」
「うふふ。 もう、お姉ちゃんたら」
にっこりとリディアは腕の中で笑った。
このマンドラゴラ・・・ できる!!!
あぁ、この子のお婿さんはどんな人なのだろう。こんなに良い子なのだ。立派で素敵な男の人を相手として見つけてくるだろう。うん、そう違いない。だが断る。リディアを嫁にとろうなんて、リディアの姉であるこのヒュロスの目の黒い内は絶対にさせない。
リディアの事を髪の毛一本分でも傷物にしてみろ?
生まれたことを後悔させて、土壌を豊かにしてやる。
「お姉ちゃんと水汲みするの久しぶりだね」
「そうだっけ?」
「ちょっと前まで、いつも一緒にしていたのにね」
「そ、そうね」
リディアは草で作った服を脱ぐと丁寧に畳んで岩の上に置いた。
滑らかで潤いのある肌。なだらかな胸元の丘と頂上に咲くうす桃色をした小さな可愛らしい花。ひょっこりと現れた森の奇跡のような美しい肢体を惜しげもなく晒しながら、はにかんだ笑顔を浮かべた。ゆっくりと手を伸ばし、そして目の前でピタリと止めた。
「早く♪」
手を差し出して水辺へと誘う。
なんだこの子・・・ 悪魔か? 刺客か? 私の事を殺しにかかっているのか? こんな事をされたら鼻血が止まらず出血死確定だぞ? ヴァンパイアもドン引きの出血量で、もしかしたら血液パックを恵んでくれるかもしれない。しかし、何故だろう。なに一つ後悔する気がしない。胸を満たすのはこれ以上ないほどの満足感だ。
死んでも後悔は絶対にないが、リディアと一緒に水浴びするまで死んでも死に切れない。
チャプン、と二人で水の中に入る。
水底まで見えるほど美しい清らかな水は肌に心地良い冷たさを湛えている。
「それそれ〜」
「キャ!」
先に入ったリディアは両手で掬い取った水を放った。一瞬だけ空中に浮かんだ水滴はキラキラと太陽の光を反射して宝石のようだ。宝石は次々と降り注ぎ、肌の上に触れると儚く崩れ落ちた。幻想的な風景に一瞬心を囚われたが、やはり水は冷たい。
「こら、魚さんがびっくりしてるでしょ」
「あ・・・ごめんなさい・・・」
腕を掴んで抱き寄せると申し訳なさそうに俯いた。落ち込んだ姿も可愛いです。この子は天使に違いない。いや、むしろこの子が天使じゃなかったら、何が天使だというのだ。
うん、これだけ反省してくれるのなら、魚さんも気にしていないに違いない。
軽く額の葉を除けると可愛らしいオデコにキスをする。
「じゃ、洗ってあげるね?」
「うん、おねがい♪」
水を掬い頭からかけてやると、リディアは冷たさから逃れようと身をすくめた。しかし、ここで逃げられてしまっては、洗うことなどできない。ここは心を鬼にして強引にリディアを押さえつけて水をかける。
「冷たいよ! お姉ちゃん、冷たい!」
「逃げちゃ駄目! ほら、我慢して!」
「きゃあ!」
「リディアあったかい♪」
さっきのお返しとばかりに冷水で冷えた手を首筋に当てると可愛らしい悲鳴を上げた。恨みがましい目で見る姿に危ない快感を覚えてしまう。冗談はこれくらいにして洗ってあげることにしよう。
リディアに背を向かせ、水に浸した手で頭から順番に汚れを落としていく。丸みを帯びた肩から始まり、天使の羽のような肩甲骨を通り背骨を伝って、僅かに浮き出たあばら骨をなぞる。くすぐったいのか多少身じろぎをしたが、大人しくして撫でられている。
滑らかな肌はきめ細かく張りがあり、まるでシルクのような肌触りだ。
鼻先を花に近づければ、ほのかな甘みを帯びた香りが鼻腔を優しくくすぐる。
「お姉ちゃん・・・ 私の匂い好きなの?」
「好きよ。 日溜りみたいな匂いがするもの。 優しい匂いがするの」
「えへへ、嬉しいな。 私もヒュロスお姉ちゃんの匂い大好きだよ? す〜っごく甘くて大人の良い香りがするんだ」
キュン死する・・・
腕の中で至近距離見上げ気味の不意打ちエンジェルスマイルでの告白の威力は殺人クラスだ。心臓は弱くないつもりだが、心臓発作で死んでしまう。この子はきっと通り魔的な大量殺人犯に違いない。凶器はその笑顔。ピョンと胸の内に飛び込みそして無垢な笑顔を向けるのだ。
向けられた相手はこの世の最高の奇跡を目の当たりにして、幸福を感じる前に死んでしまう。あぁ、なんて恐ろしい子なのだろう。こんな子を野放しにして良いのだろうか?これ以上被害者が出る前にどうにかしないと。
具体的には私の家に持ち帰って押し倒し、花の内に取り込んで誰の目にも触れないようにして、永久に私が責任を持って監視するしかない。これは仕方ないのだ。リディアの事を大量殺人犯にするわけにいかない。そのための処置だ。私の物にして誰の目にも触れさせたくないなどという独占欲からの行動ではない。
「ヒュロス・・・お姉ちゃん?」
「あ、えっと。 ごめんね?」
危ないトリップをしていた私をリディアが連れ戻した。
現実離れした幸せな日々を妄想しすぎてアソコが濡れてきた。水の中で良かった。もしも地上だったら太腿まで洪水になっていただろう。リディアに恥ずかしい所を見せるところだった。あんな痴態を晒してしまったら私は立ち直れない。
いや、良いかもしれない。
私のイヤラシイ姿を見てリディアは顔を真っ赤にしつつも、その場で立ちすくむだろう。軽蔑と心配の入り混じった困惑した視線を向けていた。ゆっくりと私が近づくとリディアは逃げようと後ずさりするのだが、足がもつれて尻餅を着く。
顔を近づけると小刻みに震えながらも視線を外せないのだ。
そして、形の良い唇が動いて訊ねるのだ。
「お姉ちゃん・・・ どうしたの?」
そうしたら、リディアの腕を掴んで抱き寄せる。恐くて振り払おうとするのだが、心優しいリディアちゃんは信頼する「ヒュロスお姉ちゃん」の手を振り払う事ができないのだ。恐怖に染まるリディアの耳に唇を寄せてこう囁くのだ・・・
「お姉ちゃん・・・ 本当に大丈夫?」
「はっ! あ・・・えっと、大丈夫よ」
慌ててガッツポーズを作り、リディアに笑いかける。
「熱でもあるんじゃない?」と心配そうな表情を浮かべられてしまったが、大丈夫だよと首を振る。仮に熱があってもリディアが心配してくれるのが最高の特効薬だ。どんな病気でも治ってしまう。もっとも禁断の恋に落ちるという、とんでもない副作用があるが。
全く気がついていないようだが、リディアに声を掛けられた瞬間に軽くイってしまったのは秘密だ。
「綺麗になったね」
「うん、ありがとう! じゃ、今度はお姉ちゃんの番だよね?」
「待って、綺麗な内にお肌のお手入れしちゃいましょ?」
「手入れ?」
「そ。 リディアは女の子だからね、キチンとお手入れしないと」
洗いっこする気満々だったリディアは、抗議するように唇を尖らせたが渋々と従った。素直でいい子だ。頭に手を乗せると気持ち良さそうに目を閉じ、甘えるように身体を寄せた。
「特別に調合した蜜だからね・・・」
リディア専用に調合した蜜を両手で掬い頭から垂らす。粘度の高い液体は肌の上をドロリと流れた。両手で薄く全体に伸ばしていく。
「ひゃ・・・ そんな、とこまで塗らなくても平気だよ・・・」
「だーめ。 見えないところも塗らないと。 見えないところも手を抜いちゃ、折角可愛いんだから・・・」
顔を塗り終えると抱きかかえるようにして全身に塗りたくる。アルラウネが化粧水用に調合した蜜は最高級の化粧品だ。
「はぅ・・・やだぁ、お姉ちゃん・・・ そんなとこ、駄目だってぇ・・・」
「そんな事ないわよ、お腹だって誰に見られるか分からないでしょ? 最近はおへそを出すのだって流行っているじゃない」
「私、おへそなんか出さないもん・・・」
可愛いなぁ・・・
後ろから抱きかかえるように押さえ、お腹や太腿などに丁寧に塗りこんでいく。ふるふると身を捩って逃げようとするが、くすぐったいのか力は全く入っていない。悪戯のつもりで耳を食むとピクンと身体を痙攣させた。
「お姉ちゃん、なにするのぉ?」
「食べちゃいたいぐらい可愛いって思ったからね・・・つい♪」
「たべないでよぉ・・・やぁだぁ・・・」
「さ、続きを塗るわよ?」
手を動かすとショックを受けたように身体を弾けさせた。リディアの吐息は甘く熱い。身体を縮めて緊張させて、目はトロンとして何となく焦点が合っていない。
「ひゃ!!! やめ、そこ」
なだらかな丘に蜜を揉みこむように塗りこみ、下腹部にある小さな峡谷に染み込ませるように蜜を垂らしていく。
「っはぁ・・・ っはぅ・・・ お姉ちゃん、なんか体、ジンジンするよぅ・・・ 熱い、痒くて、動くたびに擦れると、頭の・・・ はうぁ 中、白くなっちゃうの。 お姉ちゃん・・・私、なんだか変になっちゃった・・・ ねぇ、これ・・・ 病気・・・ んぅ・・・ なっちゃったのかな?」
「赤ちゃんはどこから来るの?」と訊ねると、「キャベツ畑」と応えるぐらいだ。リディアは欲情という言葉を知らないし、ましてやアルラウネの蜜がどんな副作用をもつかも知らないだろう。ただ正体不明の感覚に戸惑いをおぼえているのだ。
「大丈夫だよ」そう耳打ちすると不安がるように私の腕を掴み小さく震えながら、じぃっと潤んだ大きな瞳で見つめている。背筋がゾクゾクするほど可愛らしい。
そのまま丘の上に咲く小さな花を摘み取る。
「ひゃぁ!?」
明らかに戸惑い以外の感情が入り混じった声を上げた。曲げた左の人差し指を噛み、再び声を上げまいと必死になって耐えている。その姿は例えようもなくイジラしい。
あまりにも弱弱しいその姿を見せ付けられ、例えるのなら生まれたての無力な小鹿を前にした虎のような気分になる。しかも、その小鹿は愚かにも自分を母親だと思って近づいて来るのだ。
柔らかい首に鋭い牙をめり込ませたい。きっと「信じられない」とでも言うような瞳でこちらを見るのだろう。なんという背徳と愉悦。きっと今までに感じたことのないほどの至上の恍惚だろう。
押し倒して犯しつくし、滅茶苦茶にして二度と誰も信じられなくしてやりたい。
でも、駄目。
私は胸の奥に渦巻くどす黒い炎に水をかける。
私はリディアの姉だ。この子は心底自分を慕ってくれているし、私もリディアを実の妹のように思っている。例え血はつながって無くても、その関係は実の姉妹に引けを取るものではないはずだ。
裏切る事なんてできやしない。
彼女の幸せは誰よりも思っているし、リディアの笑顔を守るためなら魔王にだって闘ってやろう。
ごめんね、悪戯しすぎちゃった。
そう小さく胸の内で謝って全身に塗りつけた蜜を水で落としてやる。
「っはぁ・・・ お姉ちゃん、終わり? んくぅ・・・ っひゃぁ・・・ あり、がと・・・ ふぅ・・・ 私の、お肌の・・・ っはぁ・・・ お手入れ、して・・・ くれて・・・」
全身くまなく塗りつけた蜜を全て落としてやるとボーッとした瞳でコチラを見上げてきた。リディアの秘所からは洗い落とした以外の蜜が太腿を伝い、そして顔は興奮したように赤みが差している。
・・・ごめん、やっぱ無理
「最後に綺麗になるツボを押してあげるから」
・・・
催淫作用をちょっと楽にしてあげよう。そう思って軽くイカせてあげたのが運のつき。小さなリディアの芽を押しつぶすと全身を震わせて達してしまった。その拍子に失禁なんてするのだから、みんなが使う湖を汚すのはよろしくない。そういう事で御仕置き代わりにもう一回。
そんな事を延々と繰り返してしまった。
元々体力がある子ではないので五回の絶頂を迎えると気を失い、それで私も我に返ったのだが、越えてはいけない一線を越えなかったのはほとんど奇跡だ。
いやぁ、失禁する姿も可愛かった。眼福だ。 ・・・じゃなくて
ウチに連れてきて、そのまま今はベッドに寝かせている。
「ん・・・あれ?」
「起きた?」
「・・・あ、お姉ちゃん」
目を覚ましてリディアはコチラを認めると嬉しそうに目を細めた。嬉しくてつい笑い返してしまったが、すぐに胸の内には後悔の念が広がる。あと少しで妹との関係を滅茶苦茶にしてしまう所だったのだ。これは許される事じゃない。
「・・・ごめん、なさい」
口を開いた瞬間に言葉が流れた。
驚いて顔を上げる。しかし私は言っていない。じゃあ、誰?
そんなのは考える必要も無い。元々この部屋には二人しかいないのだ。二人引く一人で残るのは一人。リディアだ。
顔を伏せて心底申し訳なさそうにしている。
「えっと・・・ お姉ちゃんと、洗いっこするっていったのに・・・ お肌の手入れしてくれたのに、それなのに・・・ 私、勝手に寝ちゃって・・・ 約束破って、ごめんなさい・・・」
「・・・」
悪かったのは私なのに、リディアはちっとも責めなかった。優しい子だ。
私はこんなに優しい子を汚そうとしたのか。自分の醜さを恥じた。
半身を起こしているリディアに近づき、そっと抱きしめてやる。
けれど、この子が妹で本当によかった。こんなにも立派な子に成長したのかと思うと、これ以上嬉しいことはない。この子は何がなんでも大切にしよう。
「・・・く、苦しい」
「あ、ごめんね」
つい、抱き締める力が強くなり慌てて解放すると、嬉しそうな顔のリディアがそこにいた。なんとか起きようとするのだが、体力は戻っておらずよろめいてしまう。
「ゆっくり休んでいきなさい・・・ まだ、体力が戻ってないんだから」
「でも・・・」
「良いから」
不満そうなリディアに再び布団をかける。唇を尖らせて抗議したが、首を振って却下すると渋々と従った。
さて、この子が寝ている間に飛び切り上等な服でも編んであげよう
「あ、あのさ・・・」
出て行こうとするとリディアは布団に顔を埋めながら大きな瞳でコチラを見上げていた。
「お姉ちゃんと・・・ 一緒に寝たい、な?」
鼻血でぶっ倒れそうになった。
10/12/27 00:40更新 / 佐藤 敏夫