コツコツと部屋の扉を叩く。

「ディアン、起きてる・・・？」

　扉が開き、誰かが隙間から覗く。起こすつもりはないけれど、起きていたら聞こえて欲しい。そんな囁き声だ。

「ん・・・あぁ、どうしたの?」

　ベッドから身を起こして扉の方を見やる。カーテンの隙間から差し込む柔らかな月明かりが優しく来訪者の輪郭を照らし出した。美しい花を頭のてっぺんに花を乗せた少女だ。もちろん、彼女は人間ではない。マンドラゴラという魔物だ。

「入っても良い？」
「良いよ」

　頷いてやると嬉しそうな笑みを浮かべて入ってきた。俺は枕元に手を伸ばしランプを探す。ランプはガラスの球体で魔力を動力として動く。一昔前までは燃料を燃やして光源としていたのだが、転倒した場合に火事になる危険があり、現在ファフでは専ら魔術回路を用いたランプが主流だ。
　それに伴って様々なランプが生まれた。
　魔術を原動力にすれば、形や発光色の自由度は一気に広まる。昼間はお洒落な調度品になるランプや、ムード照明なんてものまで出現したのだ。
　俺が使っているのは寝室用のランプ。光源としては少し弱いが、その代わり刺激が弱く夜寝る前に使うにはピッタリである。

「どうした?」
「ん・・・眠れなくて・・・」

　眠れないのは辛い。魔物でも不眠症に悩むというのは別に珍しく無いのだ。症状が初期だった場合には、ナイトメアに頼んで睡眠を導入する事もある。
　三大欲求の内の一つである睡眠が阻害されるというのは、人間だろうが魔物だろうが社会的な生活を送るのに大きな支障をきたす。深刻な病気かもしれず、イルもその辛さは理解しているはずだ。
　ベッドの端にちょこんと座って微笑んだ。嬉しさと楽しみと、それから一抹の不安に染まった表情。

「いつから?」
「最近ずっと」
「眠れない以外の症状は？」
「動悸が・・・」
「心当たりは？」
「・・・一人だけ」
「それは大変だ」

　イルを苦しめるなんて許せないよ。そう言うと甘えるように、体重を預けた。柔らかい花の香りが鼻腔を優しくくすぐる。

「うん、ひどいでしょ？　だから、僕、その人の事を襲おうと思うの」

　良いよね？　と見上げるようにして笑う。頷くと、倒れこむように押し倒された。

「僕ばっかりドキドキさせるんだよ？　そんなの不公平でしょ？」

　魔力で作った種を撒く。種はすぐに芽を出し、蔓が成長し始める。
　身体に絡みついたかと思うと、あっという間に腕や足を縛られて拘束されてしまった。しかし、自由を奪われているのに不思議と窮屈ではない。ハンモックに身を預けているような心地良さがあった。
　下からイルを見上げると、本当に楽しそうだ。
　全身を愛撫しながら、焦らすように唇が触れる。情熱的で貪るようなキスを好む魔物が多いが、自らの愛情を示すための軽いキスを好むのだ。

「脱がせるよ・・・」

　ボタンに手をかけると一つずつ丁寧に外していく。互いに互いを求めつつも、それは絶対に言葉にしない。師匠が愛弟子に犯されるという倒錯的な状況と秘密を共有しているという特別な矛盾した関係が内圧を高めている。イルの柔らかい手が全身を優しく撫でる度にゾクゾクとした快楽が背筋を走った。
　クスクスと目を細めて笑う。
　胸部を完全に露出させると胸に顔を埋めるようにして乳首を口に含む。舌先で転がし、空いたもう片方の乳首を指先で弄り回す。イルの花の香りには興奮させる作用があるのかすぐにズボンの上から分かるほどに起立する。

「ディアン・・・　大きくなってきたよ？」

　甘える声で囁き、そっと布越しに優しく擦る。
　しかし、それだけだ。ゆるゆると痺れるような刺激を与えるだけ。焦らす。

「くすっ・・・　ディアン、辛そうだね・・・」

　胸から顔を上げてイルは嗜虐的に口の端をあげた。
　思わず顔を逸らすと、両手で頬を挟みこみ固定する。ニヤニヤと笑みを浮かべたまま唇を重ねた。イルの舌が唇を割り侵入する、歯茎をなぞり、口を開けるように促すと、僅かに開いた隙間から深くまで入り込んできた。
　積極的に舌を絡めて甘みを帯びた唾液を交換してくる。
　ドクドクと全身に血液を送り出す心臓の音と、くぐもった唾液を交換する音が耳に響く。
　愛おしくて、こちらから舌を絡めようとすると不意にイルが舌を引っ込めた。

「駄目だよ？　今、ディアンは僕に犯されてるんだから・・・ね？」

　徹底的にイルは主導権を握るつもりらしい。
　イルは目の前で寝巻きを脱ぎ始める。今すぐにでも押し倒して乱暴に犯したいと思ってしまう暴力的な衝動が襲う。しかし、身体を動かすと絶妙な縛り方をした蔦がそれを制した。

「ねぇ・・・　ディアン・・・　僕のここ、蜜で溢れてるの・・・」

　下着が蜜で変色している部分を見せる。肌に張り付いて気持ち悪いのか更にそれも捨て去った。生まれたままの姿に戻る。太腿はつぅっと蜜が垂れていた。イルの吐息は甘く熱い。切なそうにしている。
　控えめな体ではあるが

「ディアン・・・　ボク、お腹すいちゃった・・・　ディアンも、そうでしょ？」

　そう呟くとディアンは顔に跨り腰を降ろした。むせ返るほど濃厚な香りが鼻腔を刺激する。丁度69の体勢になっている。

「飲んで・・・　僕の、蜜。　僕も・・・　ディアンのミルク・・・　飲ませて？」

　互いの局部を互いの口で奉仕し始める。
　イルの下の蜜は特別だ。
　鮮烈で濃厚な甘みがあるにも関わらず、いくら飲んでも喉に絡みつくことがない。むしろ飲めば飲むほど飢えるような感覚に陥る。最初こそイルの割れ目を舐めて乾きを癒していたが、ほどなくして我慢できず舌を突き入れる。
　イルは嬌声を上げ、キュウと締め付けてきた。同時に大量の蜜を放出する。もし両腕が動いたら脚を掴みすすりあげてやるところだ。
　イルも嬌声をあげなからも、必死になって奉仕している。見えないけれどビクビクと快感に身体を振るわせている事は間違いない。その証拠に秘所を顔に押し付けて前後に動いている。

「ぷぁ!　っはぁ・・・　ディアン・・・　すごいぃ・・・　僕、だめぇ！」
「犯す、んだろ？　頑張って・・・　一緒、イこう？」
「うん、ディアン・・・　犯すぅ・・・　」

　グッとイルが一際強く扱き卑猥な音を立てて啜り上げる。瞬間、意識が真っ白になり、快感が全身を走り抜けた。限界まで張り詰めたモノが暴発し、白い生命の元をイルは一滴も零さずに受け止めた。
　イルも同時に達したのか全身をぶるぶると震わせて緊張させた。盛大に甘い蜜が顔に掛かる。不意にイルの体から力が抜けパタリとそのまま倒れた。

「はぅ・・・　口でしただけなのに・・・」
「イル、とっても気持ちよかったよ・・・」

　褒めたつもりだったのだが、イルは唇を尖らせて抗議した。どうやら気分を害してしまったようだ。ジットリとした瞳で見つめると、震える身体に鞭を打って騎乗位の体勢を作った。

「ディアン、僕の下の口で食べてやる」
「え・・・　ぅあ!」

　全く萎える気配の無いモノを宛がうと、一気に腰を降ろした。
　ゆっくりと飲み込むとばかり思っていたために思わず呻き声を漏らしてしまう。予想以上に刺激が強かったのか、イルも下唇を噛んで快楽を我慢した。フルフルと小刻みに身体を痙攣させながらも、優位性を示そうと不敵に笑う。

「えへへ・・・　ディアン・・・　一口、で・・・　食べちゃった♪」

　先ほど飲み干したはずの蜜壷は既に十分過ぎるほど蜜を湛えている。
　イルの中は形が専用に変わっており、くまなく包み込みキツク締め上げた。すぐにでも果ててしまいそうだ。

「っくぅ、ディアン・・・　出したくなったら・・・遠慮、しなくて・・・　良いからね？」

　ゆっくりと腰を動かし始めると、動く度に締りの良い肉の壁が擦れ絶頂を誘う。イルも心地良いのか、段々と速度を速めていく。貪るではなく互いに互いを思いやり、そして上り詰めるように高みへと向かう。

「出す・・・　よ！？」
「うん！！！　キテ、僕の・・・　中！」

　ドクン、と一際脈打つ。白濁とした生命の源がイルの中に注ぎ込まれ、イルは見えない指で弾かれたように背を反らして達した。目の前が真っ白になるような強烈な快楽がフラッシュバックし、二人で声にならない叫び声をあげる。
　一瞬。けれど、永久にも感じるほど濃厚な時間だった。
　ポテン、とイルは身体を預けた。
　肩で息をして、今にも心臓が止まってしまいそう。けれど、その表情は至福の極みだ。

「ディアン・・・　ありがと・・・」

　弱弱しく微笑み、身体を伸ばして軽いキスをする。
　体力を使い切ったのかイルの作り出した魔力の植物は光になって虚空に消え、俺は自由を得る。気だるさの残る体を動かし、そっとイルの頭の上に手を乗せる。イルは嬉しそうに目を細めた。

「ディアンの事・・・　襲っちゃった・・・」
「・・・美味しかった？」
「うん♪」

　くすぐったそうに胸に顔を埋める。
　本当に色々な事があった。イルが来てから、泣いたり笑ったり怒ったり楽しい日々がずっと続いていた。きっとこの関係は一生続くのだろう。そう思うと心の底から楽しみでならない。イルに会えて良かった。

「明日から、夫婦なんだよね？」
「不安？」
「ううん、ちっとも不安じゃないよ。　今までで一番幸せで仕方ないもん」
「良かった、俺もだよ」

　イルの蜜よりも甘い言葉を交わす。

「でも、ちょっと寂しいかな？」
「・・・なにが?」

　ちょっとだけ顔を伏せてイルはモジモジし始めた。幸せなのに、ちょっとだけ寂しいというのは一体どういう事なのだろう。思わず首を傾げてしまうと、イルはそっぽを向いて拗ねたような表情をつくり、媚びるような視線を送ってきた。

「だって・・・　恋人関係は今日で終わりなんだもん・・・」
「・・・ははっ、なんだ。　そんなことか」
「もぅ!　ディアンったら！　笑わないでよ！」
「良いだろ？　明日から夫婦なんだしさ？」
「違うの！　女心は複雑なの！」

　ポスポスと拳で叩かれた。いくらイルでも叩かれるのはゴメンだ、強引にイルの背中に腕を回して抱き締める。イルは満足したのか腕のなかで大人しくなった。目を細めて微笑む。
　イルが寂しい理由は分かっていた。
　もう少し恋人関係と言うのを楽しみたかったのだろう。いかに夫婦という次のステップになるからと言って、やはり恋人関係のような甘い関係というのは名残惜しいのだろう。イルは共に過ごす時間と言うのは長かったが、実質的な恋人同士の期間が短かった。
　思い出らしい思い出がないというのが寂しいのだろう。

「でも、恋人の最後の日にとっても良い思い出ができたから・・・　良いよ？」
「ふふ、そっか・・・　じゃあ、もっと思い出作ろうな・・・」

　そっとイルの脇の下に手をいれ再び騎乗位の体勢を作る。気持ちよくしようと動こうとするイルを優しく宥めた。イルのお陰で体力は有り余っているのだ。気持ちよくしてくれた分、気持ちよくしてやろう。
　そのまま手を下ろし滑らかなわき腹を掴む。僅かに指先に力を込めると、イルは俺が何をしたいのかを理解したようだ。コツンと先端がイルの最奥に触れる。表情は恐怖と期待が入り混じった奇妙な表情だ。
　勢い良く腰に叩きつけ、同時に削り取る激しさで腰を突き上げる。強烈な快楽に上半身を弾かれ、そのままダラリと力なく後ろに倒れそうになる。勿論、その程度で許してあげるつもりはない。

「ディ、きゃぁ！！！　・・・ディアン！　ごめ・・・あぁ！　ごめん・・・　なさい！！！　謝る！！！　んぁ！！！　謝りまるから、襲ったの、謝るから！　ディアン、許して！　ごめんなさい！　おかしく、なっちゃうぅ！！！」

　嬌声を上げながら許しを乞う。更に動きを激しくすると、口をパクパクと動かして酸素を求めた。出入りする度にグチュグチュと秘所からイヤラシイ音を立てる。本能に任せて上下を入れ替えた。
　我慢する気なんて微塵も無い。イルのことを貪りつくしたい、その一心で腰を振る。イルは口先では止めてと叫ぶくせにしっかりと腰の後ろで足を組み、しっかりとロックしている。最早どちらが魔物なのか分かりはしない。

「イル・・・」
「う、ん・・・」

　イルはキュウと首に回した腕を引き寄せ唇を奪う。ラストスパートを掛けるように腰のペースを上げる。中がキツク締め上げ射精を促す。ドクン、と音がして蛇口が壊れたように生命の起源がイルの最奥に注がれる。
　恍惚の表情を浮かべたまま余韻を楽しむように舌を絡めあい、ゆったりと流れる至福のときを共に過ごした・・・

・・・

「孕んじゃったかもね？」
「そしたら、俺も嬉しいな」

　軽く身辺を適当に整え、ベッドで寄り添いながらクスクスと二人で笑いあった。胸の奥が温かい物が満たされる。ポスンと軽い体重を掛けて、甘える視線を俺に向けた。

「ディアン・・・　ディアンが激しくするから・・・　僕、ちょっぴり疲れちゃった・・・」
「ごめんね･･･」
「ここで、寝て良い？　ここなら、すごくよく眠れそうだから・・・」
「良いよ。　ゆっくりお休み・・・」

　まどろむように二人は眠りに落ちていった・・・

■作者メッセージ
酒を飲み、震える手で更新した・・・
缶チューハイ（350ml　3％）一本でこの威力・・・

お酒恐い・・・


ちなみに普通にエロが書きたかっただけ・・・