掃除の続き
「今日は掃除の続きをやるぞ」
「ぶふぇあ!?」
今日の目覚めは最悪だった。情け容赦なく鳩尾にめり込む足。思い切り唾が気管に入り、咳き込む。昨日は片付けたが掃除をしていないために埃を吸い込み、余計にもだえる。悶絶。その様子をルビアは冷ややかな瞳で見つめていた。
「ちょ・・・ おま、ガハッ・・・ 踏みつけ、は・・・ 小学生だって、大の大人を、失神させるんだぞ・・・」
「知るか。 お前如きが寝てようが起きてようが大差ない。 そんなお前を叩き起こして、生産的活動に参加させてやると言っているんだ。 有難く思え」
「・・・」
馬車馬の如く使われるのではないかと戦慄を覚えたが黙っておく。
たった一日でゴミ屋敷のゴミを全て一掃し、足の踏み場を探しながらゴミを掻き分けて進む必要をなくしたのだ。頼んだ訳ではないが、感謝をしても良いような気がする。実際に床を見た時は“こんな色だったなぁ”などと妙に関心をした。
重ねて言うが、感謝と期待があるために文句を言わないだけであって、見た目はガキなルビアの暴言と暴力が恐いから文句を言わない訳では断じてない。絶対ない。
「うっせぇよ。 カス。 良いから働け。 ウスラトンカチ」
ガン、とルビアが足を踏み鳴らすと、僅かに寝ていたソファが跳んだ。
・・・
「お前は縛ってあるゴミ捨てろ。 玄関先にまとめてあるから、さっさと行ってこい。 その間オレは部屋の掃除すっけど・・・サボったら許さねぇからな?」
「は、はい・・・」
外に出る事に抵抗があったが、ルビアの命令ならば仕方ない。玄関の方へ向かう。そして、ルビアが宣言した通り大量のゴミが置かれていた。内容物は主に骨董品と化したゲーム機や、擦り切れたCD,DVDなど。
「・・・もしかしたら、使うかもしれないじゃないか」
「はぁ? お前、そんなこと言って使った試しあるのかよ。 こいつら埃を被ってたゼ? 思い入れがあるから捨てられねぇんじゃねぇのか?」
「なら、少しぐらい取っておいたって良いじゃないか・・・」
「ばーか。 そんな事を言ってっから捨てられねぇんだろうが。 思い入れるのも勝手だし、エコの観点から言やぁ間違いかもしんねぇ。 でもよぉ、部屋の広さは有限。 人の身体も精神も一つなんだゼ? それ以上あっても余らせるだけだ。 とっとと捨ててこいよ。 見てると余計に情が移るぜ?」
キビキビと働くルビアの背中を見て、そんなもんかと納得する。もちろん、そう簡単に割り切れるものでもないが。
小さく溜め息をつく。いつまでも捨てないというのも結果的に自分を苦しめるだけなのだろう。ここまで潔い言葉にしてもらえれば、諦めにも似た感情が浮かんだ。情の移らないうちに捨てるほうが良いだろう。
「さっきからブツブツうっせぇなぁ・・・ 何してんだ、お前は?」
「いや、玄関が開かなくて」
「チッ・・・ ゆとりが。 甘えやがって・・・とりゃ! ほらよ、とっとと行ってこい」
クッキリと昨日の飛び蹴りの足形のついた扉に、更に蹴りをぶち込んで扉を開く。さぁ、未練を断ち切ろう。
「・・・あのさ、ルビア。 必要なものまで縛られているんだけど」
「はぁ? 何が必要なんだよ。 言ってみろ」
「いや、この・・・雑誌・・・と・・・DVD」
艶かしい女性が表紙を飾る雑誌とDVDの山。いわゆるオカズだ。冷や汗が背中をべったりと張り付いている。見つかったら殺されると思っていたシリーズだ。
「あぁ、処分する。 文句あるのか?」
「その・・・ルビアは人間じゃないから、理解しにくいかもしれませんが・・・人間と言うのはですね・・・ その、三大欲求というものがありましてですね・・・ あの・・・ だから。 我慢をするのは身体に悪いとか・・・ その、つまり、そういう事なんですよ」
「分かってるよ、人間の三大欲求は食欲、睡眠欲、性欲だろ? 知ってるにきまってんだろ馬鹿野郎」
「あれ? 怒らないの?」
「流石、女と付き合った事ない人間は頭の中がピュアだな。 何求めてやがる? 女だって、人間だぜ? そういう話に興味あるに決まってんだろ、馬鹿。 怒られること期待してたなら、お前相当Mだぜ? この豚野郎」
意外な事にルビアは怒らなかった。というより意外な事にあっさりと認めた。むしろ、共感?でも、それを処分するという事はどういう事なの?
という事はまさかアレか?
性欲処理はオレが付き合ってやる展開か?
いやいや、まてまて・・・ ルビアって見た目、中学生だぞ?いや、魔物だし。うん、神様?よく分からんけど、人外だろ?あ、でも意外と可愛い顔してるよな。釣り目で、気の強そうなところがあるけど、この手のキャラクターってエロゲだとベッドでは従順なんだよね。むしろ、処女だったりするわけで。っていうか、人外だからロリコンにはならないよね?うん。大丈夫大丈夫。俺、正常。
「うわぁ、まじきめぇ・・・ オレだって、欲望には従順で理解はしてるつもりだけど・・・ そんな妄想するヤツとか、マジ死んだら良いのに・・・ 半径5メートル・・・ いや、オレの視界に入らないでくれ。 目が腐る」
ドン引いた。
汚いものを見るような瞳でこちらをみている。
・・・
一回目のゴミ捨てを終えて戻るとルビアの手によって部屋が随分と綺麗に整理されていた。
「よし、終わりだ」
見違えるほど綺麗になった部屋で、ルビアは大きく伸びをした。
「・・・っつぅか、まだゴミ捨てて終わってねぇのかよ。 チッ。 使えねぇな・・・」
「仕方ないだろ・・・ この量のゴミを捨てるのには一回じゃ終わらないって・・・」
言い返す俺に、ルビアは面倒くさそうな表情で小瓶を取り出した。中には何か黒いものが入っている。無表情で中に手を突っ込むと一つ取り出した。よくみると、なにか蠢いている。
「・・・そ、それって・・・」
「ん? あぁ。 コレか? こんな汚い部屋に住んでたんだから見た事ぐらいあるだろ? それとも、周りに気を使わなかったせいで見た事ねぇのか?」
「いや、そう・・・じゃ、なくて・・・」
「なんだよ、はっきりしねぇな・・・」
「ちょ・・・やめ、そんなもん・・・綺麗になったのに・・・部屋・・・ばら撒くなぁ!!!」
全てがスローモーションに見えた。
あぁ、折角綺麗になったのに・・・漆黒の羽を持つそれが飛翔する。 一直線に、こちらに向かって・・・
俺が何をしたというのだ。確かに俺はゴミ捨てにちょっとばっかり手間取ったかもしれない。だからと言ってこの仕打ちはあんまりではないか?
「ぎゃぁぁぁぁぁあああああああああ、ゴフゥ・・・ぶふぉ・・・げほっげほっ?」
「圭太ぁ♪ 圭太ぁ♪ えへへ・・・ これで、やっとお話できるね 嬉しいなぁ♪ 私、ずっと、ずっと、ずーっと圭太にお礼言いたかったんだよぉ?」
鳩尾へのタックルとホールドしてからの頬擦り攻撃。何が起きているのか全く分からないが、ゴキブリが女の子に化けたというのだけは分かった。
「あぁ、ゴミ箱を孕ませるんじゃねぇかと思うくれぇに下らねぇ遺伝子出しまくってたからな。 今、オレの魔力を込めてデビルバグにした」
「なるほど・・・ね」
「よろしくね♪ 私、トトって言うの」
クリクリした瞳で無邪気な笑みを浮かべる。見た目はかなり可愛いし好意的なのも嬉しいのだが、所々元となった昆虫の名残が残っていて原型を思い起こさせるのが何とも言えない複雑な気分にさせる。
「えぇ・・・ 折角、圭太と会えたのにぃ・・・ ちゃんとお礼をしてからでも良いでしょ?」
「何言ってやがる、脳内花畑の盛り虫が。 テメェのお礼は押し倒して一方的に交わる事だろうが」
「だって、男の人ってエッチするの好きでしょ?」
「童貞の奴に訊いたって分かるわけねぇだろうが、この馬鹿」
「大丈夫! 私も人間とするのは初めてだから!」
「おい。 好い加減にしろよ? ぶっ潰されてぇか? そういう理由で呼び出したんじゃねぇんだよ。 ゴミ捨てて来いっつってんだろ? お前の頭は3億年前から全く持って学習してないんですか? 流石生きた化石だわ」
「相変わらずルビアは恐いなぁ・・・ 3億年前から変わらないってのは、それだけ柔軟性に富んだ種族で様々な環境に適応できる優秀な種族って意味なんだよ? ふふ、まぁ良いや。 圭太、行こ♪」
・・・
「改めまして、トトと申します。 不束者ですがよろしく御願い致します」
トトは三つ指をついて深々と頭を下げた。どういうわけかルビアとトトは知り合いらしく、つまらなそうな表情を浮かべている。
顔を上げるとパッと笑顔になった。裏打ちのないまぶしい笑顔に思わず目を逸らしたくなってしまう。ルビアの不機嫌な表情ばっかり見せられていた(初めてルビアと会って一週間も経っていないというのに、人と会ってなかった事も相まって既にトラウマクラスだ)ので、乾いた心が癒されるのを感じる。
「今まで美味しいご飯を一杯ありがとうございました。 お陰で一族も一杯増えて喜んでいます!」
元は黒い翅を持つ昆虫だったのは思い出したくないけどな。一杯に増えたって言っているけど、どれ位増えたんだろう・・・
「え? うーん・・・ どれ位だろうね。 私も途中で数えるのやめちゃったからなぁ・・・ 100・・・200? あれ? もっといるんじゃないかな? 今度、数えておくね♪」
数えなくて良い。そして、二度と部屋を汚くしねぇ。ついでだからバルサンも焚いておこう。
「あぅ・・・ やっぱり、私も処分されちゃうのかな・・・ 嫌われちゃってるみたいだし・・・」
「あ、いや・・・その・・・」
シュン、とトトは悲しそうな表情を浮かべた。
あの昆虫だと思うと今すぐに新聞紙で叩きたくなるのだが、可愛い女の子を悲しませるとなると心が痛む。我ながら現金で嫌になる。
「は! コイツは見た目が女ならなんでも良いんだぜ? 元がなんだろうがイチイチ気にするわけねぇだろうが。 なら、後はお前とコイツで残った虫達どうにかすりゃあ良いじゃねぇか」
「どうにかする、て?」
「ったく・・・ ほんと、頭悪いよな・・・ お前が警戒ホルモンだして逃がせば良いじゃねぇか。 元々そのためにお前の事を呼び出すつもりだったしな」
「あぁ、なるほどぉ!!! ルビア、あったま良い♪」
「お前が馬鹿すぎるだけだ、化石野郎」
・・・なんか、勝手に話が進んでますけど
「あ? なんか文句でもあんのかよ?」
「い、いや・・・な、ないです」
「んじゃあ、良いだろうがよ。 イチイチ金玉の小せぇ野郎だな・・・」
不機嫌そうに言って、ルビアは横になった。
これ以上議論は無駄、とでも言いたげな背中はなんとなく友人を労わっているような気がした。
「いや、友達じゃねぇし」
「ヒドッ!!!」
「ぶふぇあ!?」
今日の目覚めは最悪だった。情け容赦なく鳩尾にめり込む足。思い切り唾が気管に入り、咳き込む。昨日は片付けたが掃除をしていないために埃を吸い込み、余計にもだえる。悶絶。その様子をルビアは冷ややかな瞳で見つめていた。
「ちょ・・・ おま、ガハッ・・・ 踏みつけ、は・・・ 小学生だって、大の大人を、失神させるんだぞ・・・」
「知るか。 お前如きが寝てようが起きてようが大差ない。 そんなお前を叩き起こして、生産的活動に参加させてやると言っているんだ。 有難く思え」
「・・・」
馬車馬の如く使われるのではないかと戦慄を覚えたが黙っておく。
たった一日でゴミ屋敷のゴミを全て一掃し、足の踏み場を探しながらゴミを掻き分けて進む必要をなくしたのだ。頼んだ訳ではないが、感謝をしても良いような気がする。実際に床を見た時は“こんな色だったなぁ”などと妙に関心をした。
重ねて言うが、感謝と期待があるために文句を言わないだけであって、見た目はガキなルビアの暴言と暴力が恐いから文句を言わない訳では断じてない。絶対ない。
「うっせぇよ。 カス。 良いから働け。 ウスラトンカチ」
ガン、とルビアが足を踏み鳴らすと、僅かに寝ていたソファが跳んだ。
・・・
「お前は縛ってあるゴミ捨てろ。 玄関先にまとめてあるから、さっさと行ってこい。 その間オレは部屋の掃除すっけど・・・サボったら許さねぇからな?」
「は、はい・・・」
外に出る事に抵抗があったが、ルビアの命令ならば仕方ない。玄関の方へ向かう。そして、ルビアが宣言した通り大量のゴミが置かれていた。内容物は主に骨董品と化したゲーム機や、擦り切れたCD,DVDなど。
「・・・もしかしたら、使うかもしれないじゃないか」
「はぁ? お前、そんなこと言って使った試しあるのかよ。 こいつら埃を被ってたゼ? 思い入れがあるから捨てられねぇんじゃねぇのか?」
「なら、少しぐらい取っておいたって良いじゃないか・・・」
「ばーか。 そんな事を言ってっから捨てられねぇんだろうが。 思い入れるのも勝手だし、エコの観点から言やぁ間違いかもしんねぇ。 でもよぉ、部屋の広さは有限。 人の身体も精神も一つなんだゼ? それ以上あっても余らせるだけだ。 とっとと捨ててこいよ。 見てると余計に情が移るぜ?」
キビキビと働くルビアの背中を見て、そんなもんかと納得する。もちろん、そう簡単に割り切れるものでもないが。
小さく溜め息をつく。いつまでも捨てないというのも結果的に自分を苦しめるだけなのだろう。ここまで潔い言葉にしてもらえれば、諦めにも似た感情が浮かんだ。情の移らないうちに捨てるほうが良いだろう。
「さっきからブツブツうっせぇなぁ・・・ 何してんだ、お前は?」
「いや、玄関が開かなくて」
「チッ・・・ ゆとりが。 甘えやがって・・・とりゃ! ほらよ、とっとと行ってこい」
クッキリと昨日の飛び蹴りの足形のついた扉に、更に蹴りをぶち込んで扉を開く。さぁ、未練を断ち切ろう。
「・・・あのさ、ルビア。 必要なものまで縛られているんだけど」
「はぁ? 何が必要なんだよ。 言ってみろ」
「いや、この・・・雑誌・・・と・・・DVD」
艶かしい女性が表紙を飾る雑誌とDVDの山。いわゆるオカズだ。冷や汗が背中をべったりと張り付いている。見つかったら殺されると思っていたシリーズだ。
「あぁ、処分する。 文句あるのか?」
「その・・・ルビアは人間じゃないから、理解しにくいかもしれませんが・・・人間と言うのはですね・・・ その、三大欲求というものがありましてですね・・・ あの・・・ だから。 我慢をするのは身体に悪いとか・・・ その、つまり、そういう事なんですよ」
「分かってるよ、人間の三大欲求は食欲、睡眠欲、性欲だろ? 知ってるにきまってんだろ馬鹿野郎」
「あれ? 怒らないの?」
「流石、女と付き合った事ない人間は頭の中がピュアだな。 何求めてやがる? 女だって、人間だぜ? そういう話に興味あるに決まってんだろ、馬鹿。 怒られること期待してたなら、お前相当Mだぜ? この豚野郎」
意外な事にルビアは怒らなかった。というより意外な事にあっさりと認めた。むしろ、共感?でも、それを処分するという事はどういう事なの?
という事はまさかアレか?
性欲処理はオレが付き合ってやる展開か?
いやいや、まてまて・・・ ルビアって見た目、中学生だぞ?いや、魔物だし。うん、神様?よく分からんけど、人外だろ?あ、でも意外と可愛い顔してるよな。釣り目で、気の強そうなところがあるけど、この手のキャラクターってエロゲだとベッドでは従順なんだよね。むしろ、処女だったりするわけで。っていうか、人外だからロリコンにはならないよね?うん。大丈夫大丈夫。俺、正常。
「うわぁ、まじきめぇ・・・ オレだって、欲望には従順で理解はしてるつもりだけど・・・ そんな妄想するヤツとか、マジ死んだら良いのに・・・ 半径5メートル・・・ いや、オレの視界に入らないでくれ。 目が腐る」
ドン引いた。
汚いものを見るような瞳でこちらをみている。
・・・
一回目のゴミ捨てを終えて戻るとルビアの手によって部屋が随分と綺麗に整理されていた。
「よし、終わりだ」
見違えるほど綺麗になった部屋で、ルビアは大きく伸びをした。
「・・・っつぅか、まだゴミ捨てて終わってねぇのかよ。 チッ。 使えねぇな・・・」
「仕方ないだろ・・・ この量のゴミを捨てるのには一回じゃ終わらないって・・・」
言い返す俺に、ルビアは面倒くさそうな表情で小瓶を取り出した。中には何か黒いものが入っている。無表情で中に手を突っ込むと一つ取り出した。よくみると、なにか蠢いている。
「・・・そ、それって・・・」
「ん? あぁ。 コレか? こんな汚い部屋に住んでたんだから見た事ぐらいあるだろ? それとも、周りに気を使わなかったせいで見た事ねぇのか?」
「いや、そう・・・じゃ、なくて・・・」
「なんだよ、はっきりしねぇな・・・」
「ちょ・・・やめ、そんなもん・・・綺麗になったのに・・・部屋・・・ばら撒くなぁ!!!」
全てがスローモーションに見えた。
あぁ、折角綺麗になったのに・・・漆黒の羽を持つそれが飛翔する。 一直線に、こちらに向かって・・・
俺が何をしたというのだ。確かに俺はゴミ捨てにちょっとばっかり手間取ったかもしれない。だからと言ってこの仕打ちはあんまりではないか?
「ぎゃぁぁぁぁぁあああああああああ、ゴフゥ・・・ぶふぉ・・・げほっげほっ?」
「圭太ぁ♪ 圭太ぁ♪ えへへ・・・ これで、やっとお話できるね 嬉しいなぁ♪ 私、ずっと、ずっと、ずーっと圭太にお礼言いたかったんだよぉ?」
鳩尾へのタックルとホールドしてからの頬擦り攻撃。何が起きているのか全く分からないが、ゴキブリが女の子に化けたというのだけは分かった。
「あぁ、ゴミ箱を孕ませるんじゃねぇかと思うくれぇに下らねぇ遺伝子出しまくってたからな。 今、オレの魔力を込めてデビルバグにした」
「なるほど・・・ね」
「よろしくね♪ 私、トトって言うの」
クリクリした瞳で無邪気な笑みを浮かべる。見た目はかなり可愛いし好意的なのも嬉しいのだが、所々元となった昆虫の名残が残っていて原型を思い起こさせるのが何とも言えない複雑な気分にさせる。
「えぇ・・・ 折角、圭太と会えたのにぃ・・・ ちゃんとお礼をしてからでも良いでしょ?」
「何言ってやがる、脳内花畑の盛り虫が。 テメェのお礼は押し倒して一方的に交わる事だろうが」
「だって、男の人ってエッチするの好きでしょ?」
「童貞の奴に訊いたって分かるわけねぇだろうが、この馬鹿」
「大丈夫! 私も人間とするのは初めてだから!」
「おい。 好い加減にしろよ? ぶっ潰されてぇか? そういう理由で呼び出したんじゃねぇんだよ。 ゴミ捨てて来いっつってんだろ? お前の頭は3億年前から全く持って学習してないんですか? 流石生きた化石だわ」
「相変わらずルビアは恐いなぁ・・・ 3億年前から変わらないってのは、それだけ柔軟性に富んだ種族で様々な環境に適応できる優秀な種族って意味なんだよ? ふふ、まぁ良いや。 圭太、行こ♪」
・・・
「改めまして、トトと申します。 不束者ですがよろしく御願い致します」
トトは三つ指をついて深々と頭を下げた。どういうわけかルビアとトトは知り合いらしく、つまらなそうな表情を浮かべている。
顔を上げるとパッと笑顔になった。裏打ちのないまぶしい笑顔に思わず目を逸らしたくなってしまう。ルビアの不機嫌な表情ばっかり見せられていた(初めてルビアと会って一週間も経っていないというのに、人と会ってなかった事も相まって既にトラウマクラスだ)ので、乾いた心が癒されるのを感じる。
「今まで美味しいご飯を一杯ありがとうございました。 お陰で一族も一杯増えて喜んでいます!」
元は黒い翅を持つ昆虫だったのは思い出したくないけどな。一杯に増えたって言っているけど、どれ位増えたんだろう・・・
「え? うーん・・・ どれ位だろうね。 私も途中で数えるのやめちゃったからなぁ・・・ 100・・・200? あれ? もっといるんじゃないかな? 今度、数えておくね♪」
数えなくて良い。そして、二度と部屋を汚くしねぇ。ついでだからバルサンも焚いておこう。
「あぅ・・・ やっぱり、私も処分されちゃうのかな・・・ 嫌われちゃってるみたいだし・・・」
「あ、いや・・・その・・・」
シュン、とトトは悲しそうな表情を浮かべた。
あの昆虫だと思うと今すぐに新聞紙で叩きたくなるのだが、可愛い女の子を悲しませるとなると心が痛む。我ながら現金で嫌になる。
「は! コイツは見た目が女ならなんでも良いんだぜ? 元がなんだろうがイチイチ気にするわけねぇだろうが。 なら、後はお前とコイツで残った虫達どうにかすりゃあ良いじゃねぇか」
「どうにかする、て?」
「ったく・・・ ほんと、頭悪いよな・・・ お前が警戒ホルモンだして逃がせば良いじゃねぇか。 元々そのためにお前の事を呼び出すつもりだったしな」
「あぁ、なるほどぉ!!! ルビア、あったま良い♪」
「お前が馬鹿すぎるだけだ、化石野郎」
・・・なんか、勝手に話が進んでますけど
「あ? なんか文句でもあんのかよ?」
「い、いや・・・な、ないです」
「んじゃあ、良いだろうがよ。 イチイチ金玉の小せぇ野郎だな・・・」
不機嫌そうに言って、ルビアは横になった。
これ以上議論は無駄、とでも言いたげな背中はなんとなく友人を労わっているような気がした。
「いや、友達じゃねぇし」
「ヒドッ!!!」
10/11/04 00:26更新 / 佐藤 敏夫
戻る
次へ