SubStory? エスティー(佐藤 敏夫)の場合
トントンと扉を叩く音で眼を覚ます。
「ふぁーい・・・ちょっと待ってくださぁーい」
布団で眠っていた青年はモゾモゾと身体を起こす。時計を見やるとまだ朝の早い時刻で、何かの冗談かと思って外を見ても、太陽がまだ東の空で輝いている。学生にとって休日というのは惰眠を貪るためにあるのであって、太陽は起きた時には真上にあるものだ。間違っても、朝早く起きて健康的な生活を送るためのものではない。休日という学生の神聖な時間を侵すとは良い度胸じゃないか・・・
連日課題を終えるために睡眠を削り、昨日は全てのレポートを提出した開放感と連続徹夜による妙なテンションの状態でフェアリー達の“遊び”に乱入した。
超絶に眠い目を擦り、フェアリー達の遊び疲れた幸せそうな寝顔に何かを感じながら。あちこちとハネた髪を撫で付けて玄関に向かう。
外に出ると爽やかな空気が俺を迎えた。ただ、最初に目に入ったのは妖精達と紳士(という名の変態)が戯れつつ早朝散歩に勤しんでいる姿だったが・・・
おい、紳士、こっち見んな。
敬礼すんじゃない、つーか、誰だよ。
“妖精の国”に人口が増える事は良いけど、最近何故か無闇に敬礼される事が多くなった。どうやら何かの協会の“責任者”などをやっているらしいのだが、一向に身に覚えがない。もう一人の人格(二重存在?)が何かやっているのだろうか・・・
「ハーピートレイラーでーす・・・って聞いてますか?」
「あ、失礼・・・荷物?・・・印鑑?」
「いえ、印鑑なんか必要ありませんよ!手紙ですから!」
ハーピートレイラーのヘカテは十中八九の人間が落ちそうな特上の笑みを浮かべたが、眠気が勝る。すみません、寝て良いですか?
「そんな眠そうな目で見ないで下さい!
一日の計は朝にあり一年の計は元旦にあり、さぁ、喜びを分かち合いましょう!
今日と言う良き日を一緒に!!!」
知ってるか、ポストってのはピクシー達が悪戯で蛙を入れてための物じゃないんだぜ?
寝ぼけた事ばっかり言ってると焼き鳥にして食べてしまうぞ?
「そんなぁ〜・・・いくら“妖精の国”の情報をリークしてくれるエスティーさんでも、そこまでのサービスはできませんよぉ。朝から元気なのは良いですけど、人目というものもありますし・・・
でも、どうしてもって言うなら・・・仕方ないですねぇ〜
一回だけですからねぇ、秘密ですよぉ♪」
バタバタと羽をバタつかせて一人勝手に盛り上がり始めるヘカテを何とか宥める。ハイテンションなのは勝手だが、朝から押し倒されたりしたら死ねる。サッサと手紙と新聞を受け取ってマジで二度寝しよう。
「あ・・・それ、無理だと思いますよ?」
「なんで?」
「私だって、普通は、わざわざ起こしてまで手紙を渡すなんて事しませんよ?
特別な手紙だから、こうして起こしている訳です」
ニヤリと笑って、ヘカテは手紙をチラつかせた。
特別な手紙だとか言って、ガス代の請求とか携帯の請求書とかだったら泣くぞ?
引き落としだから、内訳が記載されているだけなのに“珍しいから、開けて見せて!”と叩き起こされた時は泣きたくなった。
睡眠時間を削られた上に、プライベートを覗かれる。おまけに意味が分からないからと携帯をコンコンと説明させておいて、“ふぅん、良く分からない”の一言で済まされた。あの時の睡眠時間をマジで返してくれ。
「だから、謝ってるじゃないですかぁ〜
あんまりしつこいと女の子に嫌われますよ?」
「ふん、その点は問題ありませんね」
「何その自信!どこから来るの!?
まさか、実は彼女持ち!?」
「いや・・・そもそも、俺の周りに女子いませんし・・・(遠い目)」
「根本問題!!!」
「大体、居たところで話掛ける勇気もありませんよ(爽やかに)!」
「開き直るな!!!」
「ふふふ、でも、町を歩いていると、たまに話かけられますよ?」
「ま さ か !?」
「知らない爺さんと婆さんにですけど」
「単なる老人ホイホイ!」
「ついでに、中学の職業訓練の時には俺だけ客に5〜6回商品の場所訊かれました
他は三時間近く職業訓練やっても、一回も訊かれなかったのに・・・
他人から見ると人畜無害に見えるそうです」
「な、なんだって!!ロリコンなのに!?」
「“ロリコン”じゃない、ただの“可愛いもの好き”だ!!!
・・・でかい声出して、ゴメン」
「まぁ、それは良いよ(どうせ、ロリコンだし)。
あれでしょ? 元の世界では汎用キャラか何かなんでしょ?」
「“ツンデレ”扱いされるから顔なしキャラじゃないって信じてたのに・・・」
「そんな称号まで!?」
「ありますよ?
後は、お酒が飲めないから、全員飲み潰れている時にやる事なくて台所を片付けていたら、ついた仇名が“妖精さん”」
「フェアリー送られる前からそんな称号があったの!?
最早、テイル達を送られてくるのは必然だったんじゃ・・・
あ、そだ、いけないいけない。“妖精さん”で思い出した。手紙を持って来たんだよ」
手に持っていた、手紙を俺に寄越す。
「何コレ?」
「招待状。知らないの?」
「“妖精の国”への招待状なら、しょっちゅう送ってます
結婚式の招待状は初めてです・・・誰からですかね?」
「自分で見なよ」
「確かにその方が早い・・・おぉ!」
トラム・デルさん、からじゃないか!
なになに・・・エーシラとミウリの結婚式を挙げますので、参加しませんか?
そうか、エーシラとミウリは結婚するのか・・・あのロリコンインキュバスめ。妬ましいから、また妖精印の絵本を大量にブち込んでおくかな・・・おっぱい星人には、ジパング印の赤褌をプレゼントだ。ミノタウロスにでも襲われると良い・・・
「起こしてくれて、ありがとう」
「ふふん、感謝して下さいね」
「朝から外で大きな声出してどうしたの?
あ、ヘカテさん、あはよう」
「はい、おはようございます!」
俺がヘカテと話しているとテイルが起きてきた。いつもの花のような服装を着て、眠そうに目を擦りながら、ふぁ〜、と大きな欠伸をした。客の前では欠伸をするなんて失礼だと教えているのだが、ヘカテの方は全く気にしていないようで、テイルの事を可愛いと思っているようだ。
テイルはヘカテの事を姉のように慕い、ヘカテもテイルの事を妹のように可愛がっている。曰く“食べちゃいたい位、可愛い”らしく、実際に発情期にはテイルが一度誘拐された。多分、その辺りにテイルが“お姉さま”としての教育を受けてきたのだろう・・・
以来、発情期にヘカテがテイルと遊ばせないようにして、テイルの写真やビデオの類をヘカテの所に郵送している。
名誉のために言っておくと、発情期以外のヘカテはとても気の利く人物(魔物?)だ。
俺が手紙を見せると、テイルはコテンと首を傾げた。
「結婚式の招待状だよ」
「結婚式!?」
告げた途端にテイルは一瞬だけ行動が止まり。次の瞬間には先ほどの眠そうな気配はドコへ行ったのやら、目をランランと輝かせる。
テイルは他の五匹のフェアリー達には、お姉さん振っているが根はやっぱり女の子なのだ。結婚式は特別な物で純白のドレスには憧れる。ある意味で夢見がち、ある意味では純粋な乙女なのだ。
「ねぇ!神父様は誰がやるの!?
やっぱり、エンジェル様かなぁ!それとも、ダークプリースト様?
あ、でもでも、シービショップ様も素敵じゃない?
海辺での結婚式なんて、なかなかロマンチックだと思わない?」
あっと言う間にテイルはアチラの世界に飛んで行った。
ここで一つ俺は頭を悩ませる。もちろん、フェアリー達の事だ。
この手紙には、一応は“悪戯好きでも大丈夫”とは書いてある。テイルは大人しくしているだろうが、問題は他のフェアリー達である。人懐っこいシィルは相手が誰であろうと構わず悪戯して気を引こうとするし、元気系ボクっ娘のフェアは悪乗りするに決まっている。THE・典型フェアリーのリーフェが“二人も楽しく”遊んでいるなら見逃すはずがない。
たかが三匹、されど三匹
普段は“楽しい時間の提供”で済む話なのだが、結婚式となると人生において重要な門出だ。先方に迷惑は掛けられない。
危ない三匹を家に置いておく事も考えてみたが、部屋に閉じ込めておいたら何をしでかすか分からない。下手すると“これ幸い”とでも言わんばかりに部屋を荒らし、その後フェアリーサークルによって結婚式場まで乗り込んでくる事が予想される。それなら、最初から手元に置いておいた方が良さそうだ。
「行く?」
「あぁ、もちろん」
むしろ喜んで。断る理由なんてないし、ここで断りでもすればヘカテに八つ裂きにされそうだからな。ヘカテの問いに二つ返事で答えると、ハーピーは身体を震わせて喜びを表現した。テイルと抱き合って喜んでいる。
まぁ・・・当日までに何とかすれば良い対策を考えておけば良いんだよな・・・
なんとかなるだろ
「じゃ、ここに出席のサインして!
急いで式場の方に配達するから」
「了解」
明日の結婚式に出席させて頂きます。
参加者・佐藤 敏夫
フェアリー一同
これで良し・・・って、はぁ?
“明日”て何ですか?
「佐藤さん、意外と常識を知りませんね
“明日”っていうのは今日が終わった次の日の事ですよ?」
「知ってるよ!」
そんな事ガキでも知ってる。
「あと、夫が泊まっていった翌朝
夜中に何かあった翌朝の事を指す場合もあります」
「知らねぇよ!!!」
「じゃあ、なんなんですか!!!」
フゥー・・・と喉の奥から唸り声を出しつつ、羽を逆立たせて体を大きく見せる。何故に威嚇されなきゃならないんだよ。しかも、ガチで“荒ぶる鷹のポーズ”やってるよ・・・
「そうじゃない、なんで結婚式が明日なんだよ!」
「そーゆー仕様なんでしょ!細かい事は気にしない!
参加するって伝えてくるから!」
力強く羽ばたき大空の彼方へと小さくなって消えていくヘカテを見送りながら、俺は小さくハァと溜め息をついた。二組とも随分とスピード結婚だったし、知り合ってからわずか一週間(ある意味一日目?)で落とされたのだから、多少は目を瞑るつもりだ。結婚式を早く挙げたかったのだろうというのも差し引こう。
けど、どう考えても“明日”という選択肢はないだろう・・・
まさか、ワーツさんが結婚式まで前もって計画していたのか?
恐ろしいな、ワーツさん・・・さすが領主様だ・・・
とりあえず、部屋に戻りつつ準備をする必要がありそうだ。
・・・
「はい、注目!」
にぎやかな朝食を終え“ご馳走様”と手を合わせた後、手を叩いて注目させる。
フェアリー達は、食器を片付け競争を始めようとしていた所だったので、両手に皿を持ったままフェアリー達は停止した。
「なんだよぉ〜」
「今から片付ける所なのにぃ!」
リーフェとテリエラは不満げに声を上げた。基本的にフェアリー達は積極的に家事を手伝おうとしてくれるので、簡単な家事はやらせるようにしている。彼女達は面倒な家事を遊び感覚で終わらせてくれるので、俺としても助かる。
だから、やりたいと言えば積極的にやらせるようにしてもらっている。
「ちぇ・・・折角、ボクの新技の“フライング・ディッシュ”を見せようと思ったのに・・・」
「私だって、“ウォッシング・トルネード”をお披露目できると思ったんだよ?」
庭に大量の皿のバラバラ死体があったのは、お前らのせいか!
「大丈夫!練習したから、投げても二回に一回は割れないようになった!」
「二回に一回は割れる計算じゃないか!!!」
「えぇ〜・・・でも、フェアのUFOは良く飛ぶんだよぉ〜・・・?
私のは、ちょっとしか飛ばなくて・・・すぐ落ちちゃうんだ」
「スピカ、お前もかぁ!!!」
次回から三匹とも皿は金属製だからな!
ったく、怒ってもキリがないので取り敢えず席に着かせる。落ち着いた所を見計らって一度全員を見渡して、コホンと咳払いをする。
「明日、エーシラちゃんとミウリさんの結婚式に参列させて頂く事になりました」
たっぷりと時間を溜めた後に告げる。テイル以外の全員が俺の言葉をよく飲み込めずにいるようで、ポカーンとした表情を浮かべた。そして、しばらく沈黙して頭の中で言葉の意味を咀嚼し理解した所で
「本当!?」
「やったぁ〜」
「嘘じゃないね!」
「ボク達が絵本を仕掛けた甲斐があったね!」
「お祝いに今度はミウリさんに何かしてあげないとね!」
「シィル、そんな事を言ってると、マスターに置いて行かれるよ!」
全員が大喜びし始めた。
また収集がつかなくなりそうだったので、もう一度手を叩いて落ち着かせる。今度はフェアリー達は目をランランと輝かせてコチラに集中した。さっきまで片付けができないとブーブー文句を言っていたのに、今度は期待の篭った眼差しでコチラをみている。
あまりの豹変ぶりに思わず苦笑いするが、このコロコロと変わる表情は本当に見ていて飽きない。笑いを納めるように短く息を吐いて、指を一本立てる。
「だから今日は午前中に結婚式の準備した後、午後から現地に移動します
午前中に家を片付けたら、その後は各自で準備する。
それから、みんなで結婚式場に移動する。良いね?」
「「「「「「りょーかーい」」」」」」
「それと、くれぐれも先方に迷惑を掛けたりしてはいけないよ?」
「「「「「「・ ・ ・ 。」」」」」」
心地良い返事が返ってきたのでそのまま聞いてみる。
しかし返って来たのは沈黙だ。そして、ややあってから互いに顔を見合わせてアイコンタクトをしてヒソヒソと話始める。
「それはフリだよね?」
「間違いなくフリだね」
「背中を押すなよ、って言いつつ背中を押されちゃうアレだね」
「ボク達の活躍を期待してるんだよね?」
「結婚式を盛り上げろという指令だよね?」
「“妖精魂を見せてみろ”って事だよね?」
「お前ら・・・結婚式場でそんな事やったら摘み出すからな?」
しかも、テイルまで混じって・・・
「大丈夫、分かってるよ」
「美味しい所はマスターに譲ってあげるって」
「指輪を交換する時に入ってきて“ちょっと待った!”とか」
「“夫婦初めての共同作業です”って言った瞬間に、“もう彼らは済ませてます”という突っ込みを入れたりとか」
「どさくさに紛れてボク達とバージンロードを歩んでみたりとか」
「そういう大切な役回りはキチンと残してあげる!」
「残されてもやらねぇから!!!」
魂のシャウトにフェアリー達は驚いたように少し口を開いて目を瞬かせた。
「そうだよね」
「駄目だよね」
「ゴメンね、マスター」
「ボク達、忘れてたよ」
「男の人なのに処女じゃないもんね」
「バージンロードなんて歩めないよ」
なんだか、尻が痛くなってきた・・・
おまけに涙も・・・
妖精怖いよぉ・・・
「良いか、お前ら! 絶対それ以上言うな!
それ以上言ったら、泣くぞ!結婚式にすら連れていかないからな!!!」
「冗談だよ、マスター。みんな分かってるって
結婚式だもん!悪戯して台無しになんかしないよ」
「「「「「そうだ、そうだ!マスター信用してよ!」」」」」
そうか・・・人のトラウマで遊ぶのは許せないが・・・そこまで子供でもないか。
「分かった。じゃあ、やるべき事をやって、午後には出発できるように・・・解散!」
全員が喜び勇んで各自の仕事に取り掛かり始めた。
って・・・皿を投げるなぁぁぁあああ!!!
・・・
戸締りを終え、準備が終わると全員が玄関先に集まった。フェアの頭の上には大きなタンコブが一つ。
「まったく・・・出かける前に仕事増やしやがって・・・
全員揃ったかぁ?」
「「「「「「揃ったぁ!」」」」」」
全員居る事を確認し、玄関先に魔方陣を描く。
術式としてはフェアリーサークルが最も近い術式だが、オリジナルの転移魔法陣だ。これによって世界だろうが時間軸だろうが果ては次元までも無視して移動する事ができる。便利な術式だが、細かい事はよく分からない。とりあえず使えるから良いかというだけで使っている。
「御祝儀は持ったな?」
「「「「「「持ったぁ!!!」」」」」」
「礼服も用意したか?」
「「「「「「用意したぁ!!!」」」」」」
「忘れ物も無いな?」
「「「「「「無いよぉ!!!」」」」」」
全員の心地良い回答を聞いて一安心。
転移用の魔法陣に全員で乗り、結婚式場目指して魔法陣を起動した。
「ふぁーい・・・ちょっと待ってくださぁーい」
布団で眠っていた青年はモゾモゾと身体を起こす。時計を見やるとまだ朝の早い時刻で、何かの冗談かと思って外を見ても、太陽がまだ東の空で輝いている。学生にとって休日というのは惰眠を貪るためにあるのであって、太陽は起きた時には真上にあるものだ。間違っても、朝早く起きて健康的な生活を送るためのものではない。休日という学生の神聖な時間を侵すとは良い度胸じゃないか・・・
連日課題を終えるために睡眠を削り、昨日は全てのレポートを提出した開放感と連続徹夜による妙なテンションの状態でフェアリー達の“遊び”に乱入した。
超絶に眠い目を擦り、フェアリー達の遊び疲れた幸せそうな寝顔に何かを感じながら。あちこちとハネた髪を撫で付けて玄関に向かう。
外に出ると爽やかな空気が俺を迎えた。ただ、最初に目に入ったのは妖精達と紳士(という名の変態)が戯れつつ早朝散歩に勤しんでいる姿だったが・・・
おい、紳士、こっち見んな。
敬礼すんじゃない、つーか、誰だよ。
“妖精の国”に人口が増える事は良いけど、最近何故か無闇に敬礼される事が多くなった。どうやら何かの協会の“責任者”などをやっているらしいのだが、一向に身に覚えがない。もう一人の人格(二重存在?)が何かやっているのだろうか・・・
「ハーピートレイラーでーす・・・って聞いてますか?」
「あ、失礼・・・荷物?・・・印鑑?」
「いえ、印鑑なんか必要ありませんよ!手紙ですから!」
ハーピートレイラーのヘカテは十中八九の人間が落ちそうな特上の笑みを浮かべたが、眠気が勝る。すみません、寝て良いですか?
「そんな眠そうな目で見ないで下さい!
一日の計は朝にあり一年の計は元旦にあり、さぁ、喜びを分かち合いましょう!
今日と言う良き日を一緒に!!!」
知ってるか、ポストってのはピクシー達が悪戯で蛙を入れてための物じゃないんだぜ?
寝ぼけた事ばっかり言ってると焼き鳥にして食べてしまうぞ?
「そんなぁ〜・・・いくら“妖精の国”の情報をリークしてくれるエスティーさんでも、そこまでのサービスはできませんよぉ。朝から元気なのは良いですけど、人目というものもありますし・・・
でも、どうしてもって言うなら・・・仕方ないですねぇ〜
一回だけですからねぇ、秘密ですよぉ♪」
バタバタと羽をバタつかせて一人勝手に盛り上がり始めるヘカテを何とか宥める。ハイテンションなのは勝手だが、朝から押し倒されたりしたら死ねる。サッサと手紙と新聞を受け取ってマジで二度寝しよう。
「あ・・・それ、無理だと思いますよ?」
「なんで?」
「私だって、普通は、わざわざ起こしてまで手紙を渡すなんて事しませんよ?
特別な手紙だから、こうして起こしている訳です」
ニヤリと笑って、ヘカテは手紙をチラつかせた。
特別な手紙だとか言って、ガス代の請求とか携帯の請求書とかだったら泣くぞ?
引き落としだから、内訳が記載されているだけなのに“珍しいから、開けて見せて!”と叩き起こされた時は泣きたくなった。
睡眠時間を削られた上に、プライベートを覗かれる。おまけに意味が分からないからと携帯をコンコンと説明させておいて、“ふぅん、良く分からない”の一言で済まされた。あの時の睡眠時間をマジで返してくれ。
「だから、謝ってるじゃないですかぁ〜
あんまりしつこいと女の子に嫌われますよ?」
「ふん、その点は問題ありませんね」
「何その自信!どこから来るの!?
まさか、実は彼女持ち!?」
「いや・・・そもそも、俺の周りに女子いませんし・・・(遠い目)」
「根本問題!!!」
「大体、居たところで話掛ける勇気もありませんよ(爽やかに)!」
「開き直るな!!!」
「ふふふ、でも、町を歩いていると、たまに話かけられますよ?」
「ま さ か !?」
「知らない爺さんと婆さんにですけど」
「単なる老人ホイホイ!」
「ついでに、中学の職業訓練の時には俺だけ客に5〜6回商品の場所訊かれました
他は三時間近く職業訓練やっても、一回も訊かれなかったのに・・・
他人から見ると人畜無害に見えるそうです」
「な、なんだって!!ロリコンなのに!?」
「“ロリコン”じゃない、ただの“可愛いもの好き”だ!!!
・・・でかい声出して、ゴメン」
「まぁ、それは良いよ(どうせ、ロリコンだし)。
あれでしょ? 元の世界では汎用キャラか何かなんでしょ?」
「“ツンデレ”扱いされるから顔なしキャラじゃないって信じてたのに・・・」
「そんな称号まで!?」
「ありますよ?
後は、お酒が飲めないから、全員飲み潰れている時にやる事なくて台所を片付けていたら、ついた仇名が“妖精さん”」
「フェアリー送られる前からそんな称号があったの!?
最早、テイル達を送られてくるのは必然だったんじゃ・・・
あ、そだ、いけないいけない。“妖精さん”で思い出した。手紙を持って来たんだよ」
手に持っていた、手紙を俺に寄越す。
「何コレ?」
「招待状。知らないの?」
「“妖精の国”への招待状なら、しょっちゅう送ってます
結婚式の招待状は初めてです・・・誰からですかね?」
「自分で見なよ」
「確かにその方が早い・・・おぉ!」
トラム・デルさん、からじゃないか!
なになに・・・エーシラとミウリの結婚式を挙げますので、参加しませんか?
そうか、エーシラとミウリは結婚するのか・・・あのロリコンインキュバスめ。妬ましいから、また妖精印の絵本を大量にブち込んでおくかな・・・おっぱい星人には、ジパング印の赤褌をプレゼントだ。ミノタウロスにでも襲われると良い・・・
「起こしてくれて、ありがとう」
「ふふん、感謝して下さいね」
「朝から外で大きな声出してどうしたの?
あ、ヘカテさん、あはよう」
「はい、おはようございます!」
俺がヘカテと話しているとテイルが起きてきた。いつもの花のような服装を着て、眠そうに目を擦りながら、ふぁ〜、と大きな欠伸をした。客の前では欠伸をするなんて失礼だと教えているのだが、ヘカテの方は全く気にしていないようで、テイルの事を可愛いと思っているようだ。
テイルはヘカテの事を姉のように慕い、ヘカテもテイルの事を妹のように可愛がっている。曰く“食べちゃいたい位、可愛い”らしく、実際に発情期にはテイルが一度誘拐された。多分、その辺りにテイルが“お姉さま”としての教育を受けてきたのだろう・・・
以来、発情期にヘカテがテイルと遊ばせないようにして、テイルの写真やビデオの類をヘカテの所に郵送している。
名誉のために言っておくと、発情期以外のヘカテはとても気の利く人物(魔物?)だ。
俺が手紙を見せると、テイルはコテンと首を傾げた。
「結婚式の招待状だよ」
「結婚式!?」
告げた途端にテイルは一瞬だけ行動が止まり。次の瞬間には先ほどの眠そうな気配はドコへ行ったのやら、目をランランと輝かせる。
テイルは他の五匹のフェアリー達には、お姉さん振っているが根はやっぱり女の子なのだ。結婚式は特別な物で純白のドレスには憧れる。ある意味で夢見がち、ある意味では純粋な乙女なのだ。
「ねぇ!神父様は誰がやるの!?
やっぱり、エンジェル様かなぁ!それとも、ダークプリースト様?
あ、でもでも、シービショップ様も素敵じゃない?
海辺での結婚式なんて、なかなかロマンチックだと思わない?」
あっと言う間にテイルはアチラの世界に飛んで行った。
ここで一つ俺は頭を悩ませる。もちろん、フェアリー達の事だ。
この手紙には、一応は“悪戯好きでも大丈夫”とは書いてある。テイルは大人しくしているだろうが、問題は他のフェアリー達である。人懐っこいシィルは相手が誰であろうと構わず悪戯して気を引こうとするし、元気系ボクっ娘のフェアは悪乗りするに決まっている。THE・典型フェアリーのリーフェが“二人も楽しく”遊んでいるなら見逃すはずがない。
たかが三匹、されど三匹
普段は“楽しい時間の提供”で済む話なのだが、結婚式となると人生において重要な門出だ。先方に迷惑は掛けられない。
危ない三匹を家に置いておく事も考えてみたが、部屋に閉じ込めておいたら何をしでかすか分からない。下手すると“これ幸い”とでも言わんばかりに部屋を荒らし、その後フェアリーサークルによって結婚式場まで乗り込んでくる事が予想される。それなら、最初から手元に置いておいた方が良さそうだ。
「行く?」
「あぁ、もちろん」
むしろ喜んで。断る理由なんてないし、ここで断りでもすればヘカテに八つ裂きにされそうだからな。ヘカテの問いに二つ返事で答えると、ハーピーは身体を震わせて喜びを表現した。テイルと抱き合って喜んでいる。
まぁ・・・当日までに何とかすれば良い対策を考えておけば良いんだよな・・・
なんとかなるだろ
「じゃ、ここに出席のサインして!
急いで式場の方に配達するから」
「了解」
明日の結婚式に出席させて頂きます。
参加者・佐藤 敏夫
フェアリー一同
これで良し・・・って、はぁ?
“明日”て何ですか?
「佐藤さん、意外と常識を知りませんね
“明日”っていうのは今日が終わった次の日の事ですよ?」
「知ってるよ!」
そんな事ガキでも知ってる。
「あと、夫が泊まっていった翌朝
夜中に何かあった翌朝の事を指す場合もあります」
「知らねぇよ!!!」
「じゃあ、なんなんですか!!!」
フゥー・・・と喉の奥から唸り声を出しつつ、羽を逆立たせて体を大きく見せる。何故に威嚇されなきゃならないんだよ。しかも、ガチで“荒ぶる鷹のポーズ”やってるよ・・・
「そうじゃない、なんで結婚式が明日なんだよ!」
「そーゆー仕様なんでしょ!細かい事は気にしない!
参加するって伝えてくるから!」
力強く羽ばたき大空の彼方へと小さくなって消えていくヘカテを見送りながら、俺は小さくハァと溜め息をついた。二組とも随分とスピード結婚だったし、知り合ってからわずか一週間(ある意味一日目?)で落とされたのだから、多少は目を瞑るつもりだ。結婚式を早く挙げたかったのだろうというのも差し引こう。
けど、どう考えても“明日”という選択肢はないだろう・・・
まさか、ワーツさんが結婚式まで前もって計画していたのか?
恐ろしいな、ワーツさん・・・さすが領主様だ・・・
とりあえず、部屋に戻りつつ準備をする必要がありそうだ。
・・・
「はい、注目!」
にぎやかな朝食を終え“ご馳走様”と手を合わせた後、手を叩いて注目させる。
フェアリー達は、食器を片付け競争を始めようとしていた所だったので、両手に皿を持ったままフェアリー達は停止した。
「なんだよぉ〜」
「今から片付ける所なのにぃ!」
リーフェとテリエラは不満げに声を上げた。基本的にフェアリー達は積極的に家事を手伝おうとしてくれるので、簡単な家事はやらせるようにしている。彼女達は面倒な家事を遊び感覚で終わらせてくれるので、俺としても助かる。
だから、やりたいと言えば積極的にやらせるようにしてもらっている。
「ちぇ・・・折角、ボクの新技の“フライング・ディッシュ”を見せようと思ったのに・・・」
「私だって、“ウォッシング・トルネード”をお披露目できると思ったんだよ?」
庭に大量の皿のバラバラ死体があったのは、お前らのせいか!
「大丈夫!練習したから、投げても二回に一回は割れないようになった!」
「二回に一回は割れる計算じゃないか!!!」
「えぇ〜・・・でも、フェアのUFOは良く飛ぶんだよぉ〜・・・?
私のは、ちょっとしか飛ばなくて・・・すぐ落ちちゃうんだ」
「スピカ、お前もかぁ!!!」
次回から三匹とも皿は金属製だからな!
ったく、怒ってもキリがないので取り敢えず席に着かせる。落ち着いた所を見計らって一度全員を見渡して、コホンと咳払いをする。
「明日、エーシラちゃんとミウリさんの結婚式に参列させて頂く事になりました」
たっぷりと時間を溜めた後に告げる。テイル以外の全員が俺の言葉をよく飲み込めずにいるようで、ポカーンとした表情を浮かべた。そして、しばらく沈黙して頭の中で言葉の意味を咀嚼し理解した所で
「本当!?」
「やったぁ〜」
「嘘じゃないね!」
「ボク達が絵本を仕掛けた甲斐があったね!」
「お祝いに今度はミウリさんに何かしてあげないとね!」
「シィル、そんな事を言ってると、マスターに置いて行かれるよ!」
全員が大喜びし始めた。
また収集がつかなくなりそうだったので、もう一度手を叩いて落ち着かせる。今度はフェアリー達は目をランランと輝かせてコチラに集中した。さっきまで片付けができないとブーブー文句を言っていたのに、今度は期待の篭った眼差しでコチラをみている。
あまりの豹変ぶりに思わず苦笑いするが、このコロコロと変わる表情は本当に見ていて飽きない。笑いを納めるように短く息を吐いて、指を一本立てる。
「だから今日は午前中に結婚式の準備した後、午後から現地に移動します
午前中に家を片付けたら、その後は各自で準備する。
それから、みんなで結婚式場に移動する。良いね?」
「「「「「「りょーかーい」」」」」」
「それと、くれぐれも先方に迷惑を掛けたりしてはいけないよ?」
「「「「「「・ ・ ・ 。」」」」」」
心地良い返事が返ってきたのでそのまま聞いてみる。
しかし返って来たのは沈黙だ。そして、ややあってから互いに顔を見合わせてアイコンタクトをしてヒソヒソと話始める。
「それはフリだよね?」
「間違いなくフリだね」
「背中を押すなよ、って言いつつ背中を押されちゃうアレだね」
「ボク達の活躍を期待してるんだよね?」
「結婚式を盛り上げろという指令だよね?」
「“妖精魂を見せてみろ”って事だよね?」
「お前ら・・・結婚式場でそんな事やったら摘み出すからな?」
しかも、テイルまで混じって・・・
「大丈夫、分かってるよ」
「美味しい所はマスターに譲ってあげるって」
「指輪を交換する時に入ってきて“ちょっと待った!”とか」
「“夫婦初めての共同作業です”って言った瞬間に、“もう彼らは済ませてます”という突っ込みを入れたりとか」
「どさくさに紛れてボク達とバージンロードを歩んでみたりとか」
「そういう大切な役回りはキチンと残してあげる!」
「残されてもやらねぇから!!!」
魂のシャウトにフェアリー達は驚いたように少し口を開いて目を瞬かせた。
「そうだよね」
「駄目だよね」
「ゴメンね、マスター」
「ボク達、忘れてたよ」
「男の人なのに処女じゃないもんね」
「バージンロードなんて歩めないよ」
なんだか、尻が痛くなってきた・・・
おまけに涙も・・・
妖精怖いよぉ・・・
「良いか、お前ら! 絶対それ以上言うな!
それ以上言ったら、泣くぞ!結婚式にすら連れていかないからな!!!」
「冗談だよ、マスター。みんな分かってるって
結婚式だもん!悪戯して台無しになんかしないよ」
「「「「「そうだ、そうだ!マスター信用してよ!」」」」」
そうか・・・人のトラウマで遊ぶのは許せないが・・・そこまで子供でもないか。
「分かった。じゃあ、やるべき事をやって、午後には出発できるように・・・解散!」
全員が喜び勇んで各自の仕事に取り掛かり始めた。
って・・・皿を投げるなぁぁぁあああ!!!
・・・
戸締りを終え、準備が終わると全員が玄関先に集まった。フェアの頭の上には大きなタンコブが一つ。
「まったく・・・出かける前に仕事増やしやがって・・・
全員揃ったかぁ?」
「「「「「「揃ったぁ!」」」」」」
全員居る事を確認し、玄関先に魔方陣を描く。
術式としてはフェアリーサークルが最も近い術式だが、オリジナルの転移魔法陣だ。これによって世界だろうが時間軸だろうが果ては次元までも無視して移動する事ができる。便利な術式だが、細かい事はよく分からない。とりあえず使えるから良いかというだけで使っている。
「御祝儀は持ったな?」
「「「「「「持ったぁ!!!」」」」」」
「礼服も用意したか?」
「「「「「「用意したぁ!!!」」」」」」
「忘れ物も無いな?」
「「「「「「無いよぉ!!!」」」」」」
全員の心地良い回答を聞いて一安心。
転移用の魔法陣に全員で乗り、結婚式場目指して魔法陣を起動した。
10/06/13 18:38更新 / 佐藤 敏夫