良いのかい?ホイホイついて来ちまって
空を見上げれば高い木々のサワサワと歌い、葉の隙間から木漏れ日が落ちる。目を閉じれば緑の香りと土の匂い。視線を落とせば多くの小動物が通ってできた細い獣道がある。大型の肉食獣のいないこの森は実は隠れた散歩コースで、地元の人間も時折散歩しているらしい。
今、流行の“まいなすいおん”がたっぷりの空気を吸い、青年は浮かない表情で息を吐いた。
「困った・・・」
真っ直ぐ歩いているはずなのにいつの間にか元の位置に戻ってきてしまう獣道と先ほどから一向に動く気配のない太陽。最初は獣道が円を作っているのかとおもったのだが、獣道から逸れて歩いていても何故かこの獣道に戻ってきてしまい一向にこの周囲から離れる事ができないでいる。
彼は元々旅から旅の行商人で、幸い扱っているものは鉱物などといった腐らないものではある。なので、旅の日程などあってないようなもので、数日ほど納品が遅れてもそれほど影響はでない。むしろ事情を説明すると、取引先が「なんだ、魔物に襲われたのか?・・・よかったじゃねぇか!今度、紹介してくれや!」なんて豪快に笑いながら背中をバシバシ叩いてくるような連中ばかりだ。
まったく・・・そんな事は魔物に襲われたことがないから言えるんだ・・・
誰に言うでもなくぼやいた。
最初はサキュバスだった。
藪から飛び出してきたかと思うと俺の事を藪に引きずり込み、あまりに突然の事に訳も分からず暴れて逃れようとする俺を強引に組み伏せ、俺の上で愉快に腰を振り始めた。調度、12の時だ。初めてはアッサリとサキュバスに奪われたのさ。
次はホルスタウロスだったよ。
その時は独立した年かな?ホルスタウロスの乳を入荷しようと牛乳屋に行った時。俺も独立したてほやほやだったんだ。最初の契約だったからね・・・俺も、ちょっと気が張っていたのさ。
周りの連中は温厚で可愛い相手だ、って言うから俺も下積み時代から溜めた貯金で買った一張羅を着て店に乗り込んだ訳。から〜ん、と扉の鈴を鳴らして入ると、まぁ、店員はこっちを見たんだね。可愛い子だったよ。目が合った瞬間に眼の色が変わった時は俺もドキッとしたね。フラグでも立ったんじゃないかと期待したよ。
でもね、違ったんだよね、一張羅の赤いチョッキに反応しただけなんだよね。
カウンターを破壊しながら、突っ込んでくる魔物娘なんてみたら逃げるだろ?
逃げたさ、俺も。通りの方にね。
けどね、獣系の魔物と人間が運動能力で勝負するなんて土台無理な話なんだよ。
道の真ん中で、押し倒されたよ。完璧に盛ってたらしくてね、あの胸を目の前で弾ませるんだよ。「や、すごい〜〜〜!!!」なんて叫びながらね。
公然プレイ。
一張羅滅茶苦茶。
えぇ、気持ちよかったですとも(やけくそ)!!!
その後は、ギルタブリル、ミノタウロス、ワーウルフ・・・
不毛になって、五人(匹?)以降を数えるのを止めた。独立して半年で両手を軽く超えたので、何度襲われたのかは既に分からない。人を襲うのは精の摂取のためだと聞くし、その場合は妊娠しないと思うが、知らない魔物が“パパァ〜♪”なんて甘えてくる日もそう遠くはないんじゃないかと戦々恐々としている・・・
未婚、子供数名(顔も名前も不明)性犯罪者ですね、分かります
顔見た瞬間、自警団に通報余裕でした
友好的な(読・俺を襲わない)魔物もいるにはいるんだけど、いかんせん魔物相手にはトラウマのせいで商売以外では極力関わらないようにしている。
「あぁ・・・どうすっかなぁ・・・」
荷物を降ろし木の根元に腰掛けて水分補給をしながら、憎憎しげに太陽を見上げる。地脈を歪めているのか、なんなのか分からないが森から外に出られない。魔術が使えれば、子供騙しなのかもしれないが、生憎と魔術のまの字もわからない。
チラリ、と草原から森まで一瞬で転移した魔方陣を見る。見晴らしのよい平原でクイーンスライムに気をとられて乗ってしまったのが運の尽き。この森に飛ばされて、一方通行用なのか、今はウンともスンとも言わない魔法陣だ。
先の見えないこの状況にハァと溜め息をつく。
「あれ?
お兄さん、溜め息なんてついて、どうしたのぉ〜」
「うわぁ!」
突然、空から軽やかな声が降ってきた。そして、この流れは絶対に魔物だ。なんとしてでも逃げなくてはならない。そう思って、慌てて逃げようと思って荷物を担ぎ上げた段階で気がついた。
相手が意外にも小さかった。ぬいぐるみよりも少し小さいぐらいだろうか。透明な蝶の羽を背負い、花のような衣装と木の実を使った髪飾りをしていた。全体的に楽しそうな雰囲気を醸し出している。
「フェア・・・リー・・・?」
「せーかい、せーかい、だいせーかい♪」
恐る恐る尋ねると、鈴を転がしたように笑いながら嬉しそうにはしゃいだ。フワフワと楽しそうに俺の周りを踊っている。びっくりして損した、とヘナヘナと腰を下ろす。
確か、フェアリーは魔物ではなく妖精の一種だったはずだ。魔王の影響によりサキュバス化している事には変わりがないが、魔王の代替わり前のベースが人を襲う訳ではないので危険度は幾分低い。アラクネやアマゾネスと比べれば可愛い部類に入る。
「名前は、テイルっていうんだけどね
お兄さんの名前は?」
「ラプラ。行商人だよ」
「行商人のお兄さんがこんな所で何してるのぉ〜?」
「道に迷ってね・・・」
「ふぅ〜ん」
無邪気に俺の顔を覗き込みながら訊いてきたので、俺は苦笑を浮かべて答えた。
「ねぇねぇ、それなら、暇でしょ?
一緒に遊ぼうよぉ〜」
すりすりと人懐っこく身体を手に摺り寄せる。どこをどう間違えたら、迷う=暇の図式が成り立つのだろうか・・・
胸中に言いたい事は山積みだったが、言葉を飲み込む。無闇に怒らせても何一つ得なことなどないし、他のフェアリー達が寄ってくる可能性もある。なるだけ、穏便に断るのが吉だ。
出来るだけ自然に彼女から手を引きながら、ユルユルと首を振った。
「俺も道を急がなくちゃいけないんだ
商品を送り届けないと困る人達がいるからね」
ごめんね、と謝るとフェアリーはものすごく残念そうな声を上げた。がっくりと肩を落とし、表情には落胆の色が浮かぶ。
全部嘘という訳ではないが、若干嘘が混じっているので、何の打算も裏表のない表情にわずかばかりの罪悪感を覚えた。行商に暮らす行商人は常に相手の裏をかいて利益を出すことを考えているので、涙を拭いて相手と別れる時でさえ内心では胸中で舌を出して次の商売の事を考えている。
自分が一緒にいてくれない事を心底残念がってくれる相手というのは本当に稀だ。
テイルは、なんとか自分を引きとめよう(あるいは、なんとか遊び相手になってもらおう)と、しばらく俺の周りを飛んでいたが、良い案が思いつかなかったらしく小さな溜め息をついた。
「じゃあ、そろそろ俺も行かないとな」
「う〜ん、折角、新しい遊び相手が来てくれたと思ったのにぃ・・・」
パタパタと尻に付いた土をはたき落として立ち上がる。フェアリーはフワリと飛んで目線をこちらに合わせた。性格も思考も子供っぽいから駄々をこねられると思ったのだが、意外にもすんなりと解放してくれそうだ。
だが、やはり感情を隠すのが下手なようで、顔全体に大きな文字で“遊んで欲しい”と書いてある。その矛盾がなんとも可愛らしい。
「コレをあげるから、元気出しな」
代わりに、ポケットから蜂蜜菓子を出してフェアリーに手渡すと、両手でソレを受けとって膨れっ面のまま齧りつき始めた。
さて・・・いい加減ここから出ないとな。
多少の遅刻は許されると言っても、やはり信用問題には関わってくる。行商人が信頼を失っては売れる商品も売れなくなってしまうのだ。シェアの拡大を狙っている行商人は大量にいるし、折角開拓した売り手を根こそぎ持っていかれたのでは、それこそ路頭に迷うことになる。
(・・・って、俺ってば出れないから困っているんじゃないか!!!)
馬鹿だぁ、と俺は頭を抱え・・・かけて思いついた。
「どうしたの?」
モグモグと口を動かしながら、コテンと首を傾げた。
「あのさぁ・・・森の出口まで道案内お願いできない?」
「森の出口まで?」
あっと言う間に食べ終えたフェアリーは、ベタベタになった手を舐めながら言った。それから少しだけ思案する。
「この森に出口はないよぉ?」
「へ?」
驚く俺にフェアリーは説明を続けた。
「ここの森は人工的に森の一部の空間を捻って輪っかにした空間だもの、入り口もなければ出口もないよ?」
「え・・・じゃあ、出れないの?」
「うん、転移魔法でもないと入れないし出れないよぉ?」
「て・・・転移魔法が使えないと、このまま・・・出れない?」
「うん、そうだね」
事も無げに説明しながら、転移魔法もなしにどうやって入ってきたの、とフェアリーは首を傾げた。歩いても歩いても、何も変わらないのはそのせいだ。もしかして、一生このまま?などと考えると目の前がクラクラし始める。食料はなくなっていくばかりだし、太陽の位置でさえ全く位置が変わらないのだから天気が変わることもないだろう。
水も入手できないかもしれない。
「あぁ〜・・・なるほどぉ〜・・・そこの魔方陣ね・・・
ここから“妖精の国”なら次元の距離も近いしフェアリーサークルで送れるよ?
“妖精の国”からなら、私達のマスターがいるから言えば戻れると思うよ」
「本当?」
「代わりに後で一緒に遊んでね?」
「・・・分かった」
“妖精の国”というと“THE・魔物の国”という感じがしないでもないが、この際、仕方ない。死ぬよりマシだ。お願いできる?と尋ねると二つ返事で了解してくれた。後で一緒に遊んでね、という言葉には思わず苦笑いは禁じえないが・・・
「じゃ、行くよ?」
「あぁ、お願い」
舞うように俺の回り旋回し始める。詠唱を始めるとフェアリーの身体が光を帯び始め宙に軌跡を残す。目が回るほどの速度で周り、幾重にも光が刻まれ一本の太いリングが俺の周囲を取り巻いたかと思うと、臨界点を超えた光の氾濫が空間をゆがめ俺を飲み込んだ。
・・・
「到着、と〜ちゃくぅ〜」
まだ目も眩み、頭がグラグラする中で間の抜けた声でフェアリーは到着を告げた。
少しの間待ってから目を開けると思わず声を失った。
どう表現すればよいだろう。多くの町や国を見てきたが、そのどれとも似ている部分がない。遊び場が国全体に広がっている感じなのだが、遊び散らかしただけという混沌とした雰囲気はなく、いるだけで気分が盛り上がる楽しい空気がある。その楽しい空気の中で妖精達が伸び伸びと遊んでいる所を自然が母親のように優しく見つめていると言えば伝わるだろうか。
自然と共存した国というより、自然が作りあげた妖精達を育てる遊び場という感じだ。
「じゃ、案内するね」
そう言って、俺を先導し始める。テイルにとっては俺を先導する事は楽しいらしく、終始上機嫌だ。時折、知り合いと思しきフェアリーやケセランパサラン、ピクシーなどが“新しい遊び相手がいる”など羨ましそうな視線でこちらを見つめていた。
「ところで・・・そのマスターってどんな人?」
ただ“妖精の国”を見学しているのも楽しいのだが、これから人に会う事を考えるとどんな人物か聞いておいた方が良い。話しぶりから推測する限り、多分人間だろうが妖精の国にいる人間となるとどんな人か気になる。会う前に出来る限り情報を集めておくのは商人の常識だ。
「う〜ん・・・どんな人・・・かぁ・・・
そうだねぇ、学生だけど、よく遊んでくれ良い人だよ?
それと、ほぼ毎日“ぱそこん”に向かってるから、創作活動には熱心だね。でも、リャナンシーに言わせると“あんまり才能ない”らよ、よくボツにされてる。
あと・・・アルバイト代わりに旅行プランの提案とかやっているよ。6月に誰かの合同の結婚式があったらしいんだけど、新婚旅行のプランを提案してたから。
他にも、妖精の国に迷い込んだ人とか、妖精の国に来たい人とかの手伝いをやってたりするよぉ?」
「へぇ・・・随分手広く活動しているんだね・・・」
割と信頼できる人かもしれない。フリーの魔物は恐ろしいが、経験的に魔物好きに悪い人間はいない。多分、例に漏れないと思う。妖精の国に迷い込んだ人の手伝いをしているあたり、世話好きな人物なのかもしれない。
「あ・・・でも、ロリ変態の忙しい程楽しくなっちゃうらしい真性ドMだよ
そして、本人は可愛い物好きであってロリじゃないと主張する往生際の悪さ
しかも、男のクセに処女じゃない」
「・・・」
曰く、とある魔物学校に特別聴講生と偽って潜入し、サバト部を見学しようとして誤って演劇部に踏み込んで襲われたらしい。Mr.とつく男だったらしいが、本人曰く、“あまりにトラウマ過ぎて名前も思い出せない”そうだ。
前言撤回、馬鹿だ
・・・
「ここね」
「へぇ・・・」
「じゃ、入ろっか
あ、ラプラさんはそっちの人間用のドアから入れば良いから」
他の妖精達の家より少し大きい家だ。
テイルは隣にある小さな妖精専用の扉を開けて中に入った。
「ただいまぁ〜」
「「「「「おかえりぃ〜」」」」」
テイルが帰宅を告げると、部屋にいた五匹のフェアリーは一斉に答えた。
それから、俺の存在を認めると、しばらく沈黙して考えた後・・・
「ねぇ、テイル、隣の人は誰?」
「新しい遊び相手?」
「え?ボクと一緒に遊んでくれる?」
「フェア、ずるいよぉ〜。みんなで一緒に遊ぼぉよ〜」
「お泊り?ねぇ、寝る前に本は読んでくれるの?」
大歓迎してくれた。っというより、この子達には遊ぶ以外の選択肢はないのだろうか?そもそも初対面の人に対して人懐っこすぎやしないか?
しかも、テイルは「マスターを呼んでくるから少し待ってて」の一言でどこかに行ってしまう。五匹のフェアリー達の大歓迎というか、好き勝手な質問攻めを一人アウェイ受ける事になる。
たまたま町で知り合った町娘が町一番のお転婆娘だった、というようにフェアリー達に振り回されていると、奥の方から一人の青年が現れた。
見た目はジパング系の人間らしく、黒髪で目も黒く、全体的に筋肉はおろか、脂肪すらなくて細い。フェアリーに好きにされている俺と目線が合うと少し苦笑を浮かべて会釈した。
「お前達、お客さんが困っているだろう」
「だって、お客さんだよぉ?」
「折角、来てくれたんだもの出迎えなきゃ」
「それに、マスター、魔物学のレポートがどうとか言ってたじゃん」
「マスターが出迎えなきゃ、僕達が出迎えなきゃ」
「褒められはしても、困らせるような事はしてないもん」
ねぇ、とフェアリー達は俺に向かって同意を求めてきた。俺がフェアリー達とマスターと呼ばれた人間の顔を交互に見比べて「まぁ」とお茶を濁すと、青年は「やれやれ」と小さく溜め息をついた。
「分かった、後は俺が対応しておくから、お前達は隣の部屋で遊んでな」
「「「「「「えぇ〜〜〜〜〜・・・」」」」」」
六匹のフェアリーは羽を震わせて口々に抗議の声を上げる。。
「彼は俺に用があるみたいだし、お前達がいると話が聞けないからね・・・
それとも、最後までちゃんと座って話が聞けるかい?」
「「「「「「お客さんが来た時のマスターの話はいつもつまんないもん、無理〜〜〜」」」」」」
「じゃあ、あっちの部屋だ
大丈夫、後で一緒に遊んでもらえるように説得するからさ」
「「「「「「ぶぅ〜〜〜・・・」」」」」」
口々に「絶対だよ」とか「約束破ったら針千本だからね」などと文句を言いながら六匹のフェアリー達は隣の部屋に行った。彼女達がいなくなると、静かになり急に部屋が広くなった気がした。青年と俺で向き合う。失礼しました、とでも言いたげに軽く肩をすくめて苦笑をうかべた。
「初めまして、フェアリー達のマスターのエスティーです」
「初めまして、行商人のラプラです」
「ラプラさんですね・・・どうぞおかけ下さい」
「ありがとうございます」
軽く礼を言って席に座らせてもらう。先ほどまで、魔物ばかりでアウェイだったので同じ人間というだけで安心してしまう。
「先ほどはフェアリー達が失礼しました
悪戯はされませんでしたか?」
「いえ、良い子ばかりでしたよ?
むしろ、困っていた所を助けてもらいました」
「そう言って頂けると幸いです。
フェアリーに連れ去られた人間は、元の世界には戻れない場合が多いんですからね」
「そうなんですか?」
「放っておけば、大抵は一生妖精達の遊び相手にされます。
まぁ・・・彼らがそれで幸せなら、何も問題ありませんがね」
「それで、幸せな人間なんているんですか?」
「さぁ?
幸せの基準なんて人それぞれですから、俺からはなんとも言えません」
「そう・・・ですか」
「一応、もう一度確認しておきますが、現世に帰れれば良いんですよね?」
「はい」
「分かりました
では、すぐに現地に送る手続きをします・・・と言いたい所なのですが」
青年は申し訳なさそうな表情を浮かべ、歯切れを悪くした。
「何か困った事でも?」
「現世に戻る転移用のゲートなのですが
今、諸事情で使えなくなりましてね・・・復旧作業中なんです」
それで、数日ほど時間を頂きたい、と言ってきた。
「取引先との連絡とかは取れますか?」
「それなら問題ないです。こちらから事情を説明して連絡を入れておきますから」
「それは助かります」
「分かりました、では、ゲートが復旧次第連絡しますので
・・・あ」
「どうしました?」
「泊まる場所とかは考えていますか?」
「いえ・・・まだ何も・・・」
「実は、宿泊施設も併設しております」
・・・ちゃっかりしてる
しかも、提示してきた値段が安い
「なにせ、フェアリー達の悪戯とフェアリーの相手込みですから・・・」
「・・・なるほど」
・・・
大抵の人間は、連れてこられた妖精の家に(強制的に)泊まる事になるか、あるいは、自分の家を持っているためか、宿泊施設は少ない。もっとも、外を歩いているだけで妖精達が一緒に遊ぼうと声を掛けてくるので、一人で迷い込んでも宿に困る事はほとんどない。
宿に困らないのだが、“火遊び”をさせられるので俺としては、なんとも避けたい。妖精達の中でお漏らしとか勘弁してくれ。流石にロリにまで手を出すのは人として駄目な気がする。
エスティー曰く、「その点、ウチは問題ありません。きちんと教育してますから、部外者に手は出しませんよ」との事らしい。
通されたのは学生寮の一室に毛の生えたような程度の部屋だ。ただ、それほど乱雑な印象は受けないし、細かい所まで手が行き届いている。泊めてやっている、という感覚の強い宿と比べるとかなり良心的だ。
「フェアリー達が掃除してますからね」
「フェアリーが?」
「伝承によっては妖精達が人の手伝いをするのは、よくある話です
何も、子供染みた行動や悪戯ばかりが彼女らの特徴ではありませんよ」
「へぇ〜・・・」
「あと“一番多く部屋を綺麗にできたフェアリーの勝ち”という魔法の言葉がありますし」
「・・・さすが、マスターだ」
今、流行の“まいなすいおん”がたっぷりの空気を吸い、青年は浮かない表情で息を吐いた。
「困った・・・」
真っ直ぐ歩いているはずなのにいつの間にか元の位置に戻ってきてしまう獣道と先ほどから一向に動く気配のない太陽。最初は獣道が円を作っているのかとおもったのだが、獣道から逸れて歩いていても何故かこの獣道に戻ってきてしまい一向にこの周囲から離れる事ができないでいる。
彼は元々旅から旅の行商人で、幸い扱っているものは鉱物などといった腐らないものではある。なので、旅の日程などあってないようなもので、数日ほど納品が遅れてもそれほど影響はでない。むしろ事情を説明すると、取引先が「なんだ、魔物に襲われたのか?・・・よかったじゃねぇか!今度、紹介してくれや!」なんて豪快に笑いながら背中をバシバシ叩いてくるような連中ばかりだ。
まったく・・・そんな事は魔物に襲われたことがないから言えるんだ・・・
誰に言うでもなくぼやいた。
最初はサキュバスだった。
藪から飛び出してきたかと思うと俺の事を藪に引きずり込み、あまりに突然の事に訳も分からず暴れて逃れようとする俺を強引に組み伏せ、俺の上で愉快に腰を振り始めた。調度、12の時だ。初めてはアッサリとサキュバスに奪われたのさ。
次はホルスタウロスだったよ。
その時は独立した年かな?ホルスタウロスの乳を入荷しようと牛乳屋に行った時。俺も独立したてほやほやだったんだ。最初の契約だったからね・・・俺も、ちょっと気が張っていたのさ。
周りの連中は温厚で可愛い相手だ、って言うから俺も下積み時代から溜めた貯金で買った一張羅を着て店に乗り込んだ訳。から〜ん、と扉の鈴を鳴らして入ると、まぁ、店員はこっちを見たんだね。可愛い子だったよ。目が合った瞬間に眼の色が変わった時は俺もドキッとしたね。フラグでも立ったんじゃないかと期待したよ。
でもね、違ったんだよね、一張羅の赤いチョッキに反応しただけなんだよね。
カウンターを破壊しながら、突っ込んでくる魔物娘なんてみたら逃げるだろ?
逃げたさ、俺も。通りの方にね。
けどね、獣系の魔物と人間が運動能力で勝負するなんて土台無理な話なんだよ。
道の真ん中で、押し倒されたよ。完璧に盛ってたらしくてね、あの胸を目の前で弾ませるんだよ。「や、すごい〜〜〜!!!」なんて叫びながらね。
公然プレイ。
一張羅滅茶苦茶。
えぇ、気持ちよかったですとも(やけくそ)!!!
その後は、ギルタブリル、ミノタウロス、ワーウルフ・・・
不毛になって、五人(匹?)以降を数えるのを止めた。独立して半年で両手を軽く超えたので、何度襲われたのかは既に分からない。人を襲うのは精の摂取のためだと聞くし、その場合は妊娠しないと思うが、知らない魔物が“パパァ〜♪”なんて甘えてくる日もそう遠くはないんじゃないかと戦々恐々としている・・・
未婚、子供数名(顔も名前も不明)性犯罪者ですね、分かります
顔見た瞬間、自警団に通報余裕でした
友好的な(読・俺を襲わない)魔物もいるにはいるんだけど、いかんせん魔物相手にはトラウマのせいで商売以外では極力関わらないようにしている。
「あぁ・・・どうすっかなぁ・・・」
荷物を降ろし木の根元に腰掛けて水分補給をしながら、憎憎しげに太陽を見上げる。地脈を歪めているのか、なんなのか分からないが森から外に出られない。魔術が使えれば、子供騙しなのかもしれないが、生憎と魔術のまの字もわからない。
チラリ、と草原から森まで一瞬で転移した魔方陣を見る。見晴らしのよい平原でクイーンスライムに気をとられて乗ってしまったのが運の尽き。この森に飛ばされて、一方通行用なのか、今はウンともスンとも言わない魔法陣だ。
先の見えないこの状況にハァと溜め息をつく。
「あれ?
お兄さん、溜め息なんてついて、どうしたのぉ〜」
「うわぁ!」
突然、空から軽やかな声が降ってきた。そして、この流れは絶対に魔物だ。なんとしてでも逃げなくてはならない。そう思って、慌てて逃げようと思って荷物を担ぎ上げた段階で気がついた。
相手が意外にも小さかった。ぬいぐるみよりも少し小さいぐらいだろうか。透明な蝶の羽を背負い、花のような衣装と木の実を使った髪飾りをしていた。全体的に楽しそうな雰囲気を醸し出している。
「フェア・・・リー・・・?」
「せーかい、せーかい、だいせーかい♪」
恐る恐る尋ねると、鈴を転がしたように笑いながら嬉しそうにはしゃいだ。フワフワと楽しそうに俺の周りを踊っている。びっくりして損した、とヘナヘナと腰を下ろす。
確か、フェアリーは魔物ではなく妖精の一種だったはずだ。魔王の影響によりサキュバス化している事には変わりがないが、魔王の代替わり前のベースが人を襲う訳ではないので危険度は幾分低い。アラクネやアマゾネスと比べれば可愛い部類に入る。
「名前は、テイルっていうんだけどね
お兄さんの名前は?」
「ラプラ。行商人だよ」
「行商人のお兄さんがこんな所で何してるのぉ〜?」
「道に迷ってね・・・」
「ふぅ〜ん」
無邪気に俺の顔を覗き込みながら訊いてきたので、俺は苦笑を浮かべて答えた。
「ねぇねぇ、それなら、暇でしょ?
一緒に遊ぼうよぉ〜」
すりすりと人懐っこく身体を手に摺り寄せる。どこをどう間違えたら、迷う=暇の図式が成り立つのだろうか・・・
胸中に言いたい事は山積みだったが、言葉を飲み込む。無闇に怒らせても何一つ得なことなどないし、他のフェアリー達が寄ってくる可能性もある。なるだけ、穏便に断るのが吉だ。
出来るだけ自然に彼女から手を引きながら、ユルユルと首を振った。
「俺も道を急がなくちゃいけないんだ
商品を送り届けないと困る人達がいるからね」
ごめんね、と謝るとフェアリーはものすごく残念そうな声を上げた。がっくりと肩を落とし、表情には落胆の色が浮かぶ。
全部嘘という訳ではないが、若干嘘が混じっているので、何の打算も裏表のない表情にわずかばかりの罪悪感を覚えた。行商に暮らす行商人は常に相手の裏をかいて利益を出すことを考えているので、涙を拭いて相手と別れる時でさえ内心では胸中で舌を出して次の商売の事を考えている。
自分が一緒にいてくれない事を心底残念がってくれる相手というのは本当に稀だ。
テイルは、なんとか自分を引きとめよう(あるいは、なんとか遊び相手になってもらおう)と、しばらく俺の周りを飛んでいたが、良い案が思いつかなかったらしく小さな溜め息をついた。
「じゃあ、そろそろ俺も行かないとな」
「う〜ん、折角、新しい遊び相手が来てくれたと思ったのにぃ・・・」
パタパタと尻に付いた土をはたき落として立ち上がる。フェアリーはフワリと飛んで目線をこちらに合わせた。性格も思考も子供っぽいから駄々をこねられると思ったのだが、意外にもすんなりと解放してくれそうだ。
だが、やはり感情を隠すのが下手なようで、顔全体に大きな文字で“遊んで欲しい”と書いてある。その矛盾がなんとも可愛らしい。
「コレをあげるから、元気出しな」
代わりに、ポケットから蜂蜜菓子を出してフェアリーに手渡すと、両手でソレを受けとって膨れっ面のまま齧りつき始めた。
さて・・・いい加減ここから出ないとな。
多少の遅刻は許されると言っても、やはり信用問題には関わってくる。行商人が信頼を失っては売れる商品も売れなくなってしまうのだ。シェアの拡大を狙っている行商人は大量にいるし、折角開拓した売り手を根こそぎ持っていかれたのでは、それこそ路頭に迷うことになる。
(・・・って、俺ってば出れないから困っているんじゃないか!!!)
馬鹿だぁ、と俺は頭を抱え・・・かけて思いついた。
「どうしたの?」
モグモグと口を動かしながら、コテンと首を傾げた。
「あのさぁ・・・森の出口まで道案内お願いできない?」
「森の出口まで?」
あっと言う間に食べ終えたフェアリーは、ベタベタになった手を舐めながら言った。それから少しだけ思案する。
「この森に出口はないよぉ?」
「へ?」
驚く俺にフェアリーは説明を続けた。
「ここの森は人工的に森の一部の空間を捻って輪っかにした空間だもの、入り口もなければ出口もないよ?」
「え・・・じゃあ、出れないの?」
「うん、転移魔法でもないと入れないし出れないよぉ?」
「て・・・転移魔法が使えないと、このまま・・・出れない?」
「うん、そうだね」
事も無げに説明しながら、転移魔法もなしにどうやって入ってきたの、とフェアリーは首を傾げた。歩いても歩いても、何も変わらないのはそのせいだ。もしかして、一生このまま?などと考えると目の前がクラクラし始める。食料はなくなっていくばかりだし、太陽の位置でさえ全く位置が変わらないのだから天気が変わることもないだろう。
水も入手できないかもしれない。
「あぁ〜・・・なるほどぉ〜・・・そこの魔方陣ね・・・
ここから“妖精の国”なら次元の距離も近いしフェアリーサークルで送れるよ?
“妖精の国”からなら、私達のマスターがいるから言えば戻れると思うよ」
「本当?」
「代わりに後で一緒に遊んでね?」
「・・・分かった」
“妖精の国”というと“THE・魔物の国”という感じがしないでもないが、この際、仕方ない。死ぬよりマシだ。お願いできる?と尋ねると二つ返事で了解してくれた。後で一緒に遊んでね、という言葉には思わず苦笑いは禁じえないが・・・
「じゃ、行くよ?」
「あぁ、お願い」
舞うように俺の回り旋回し始める。詠唱を始めるとフェアリーの身体が光を帯び始め宙に軌跡を残す。目が回るほどの速度で周り、幾重にも光が刻まれ一本の太いリングが俺の周囲を取り巻いたかと思うと、臨界点を超えた光の氾濫が空間をゆがめ俺を飲み込んだ。
・・・
「到着、と〜ちゃくぅ〜」
まだ目も眩み、頭がグラグラする中で間の抜けた声でフェアリーは到着を告げた。
少しの間待ってから目を開けると思わず声を失った。
どう表現すればよいだろう。多くの町や国を見てきたが、そのどれとも似ている部分がない。遊び場が国全体に広がっている感じなのだが、遊び散らかしただけという混沌とした雰囲気はなく、いるだけで気分が盛り上がる楽しい空気がある。その楽しい空気の中で妖精達が伸び伸びと遊んでいる所を自然が母親のように優しく見つめていると言えば伝わるだろうか。
自然と共存した国というより、自然が作りあげた妖精達を育てる遊び場という感じだ。
「じゃ、案内するね」
そう言って、俺を先導し始める。テイルにとっては俺を先導する事は楽しいらしく、終始上機嫌だ。時折、知り合いと思しきフェアリーやケセランパサラン、ピクシーなどが“新しい遊び相手がいる”など羨ましそうな視線でこちらを見つめていた。
「ところで・・・そのマスターってどんな人?」
ただ“妖精の国”を見学しているのも楽しいのだが、これから人に会う事を考えるとどんな人物か聞いておいた方が良い。話しぶりから推測する限り、多分人間だろうが妖精の国にいる人間となるとどんな人か気になる。会う前に出来る限り情報を集めておくのは商人の常識だ。
「う〜ん・・・どんな人・・・かぁ・・・
そうだねぇ、学生だけど、よく遊んでくれ良い人だよ?
それと、ほぼ毎日“ぱそこん”に向かってるから、創作活動には熱心だね。でも、リャナンシーに言わせると“あんまり才能ない”らよ、よくボツにされてる。
あと・・・アルバイト代わりに旅行プランの提案とかやっているよ。6月に誰かの合同の結婚式があったらしいんだけど、新婚旅行のプランを提案してたから。
他にも、妖精の国に迷い込んだ人とか、妖精の国に来たい人とかの手伝いをやってたりするよぉ?」
「へぇ・・・随分手広く活動しているんだね・・・」
割と信頼できる人かもしれない。フリーの魔物は恐ろしいが、経験的に魔物好きに悪い人間はいない。多分、例に漏れないと思う。妖精の国に迷い込んだ人の手伝いをしているあたり、世話好きな人物なのかもしれない。
「あ・・・でも、ロリ変態の忙しい程楽しくなっちゃうらしい真性ドMだよ
そして、本人は可愛い物好きであってロリじゃないと主張する往生際の悪さ
しかも、男のクセに処女じゃない」
「・・・」
曰く、とある魔物学校に特別聴講生と偽って潜入し、サバト部を見学しようとして誤って演劇部に踏み込んで襲われたらしい。Mr.とつく男だったらしいが、本人曰く、“あまりにトラウマ過ぎて名前も思い出せない”そうだ。
前言撤回、馬鹿だ
・・・
「ここね」
「へぇ・・・」
「じゃ、入ろっか
あ、ラプラさんはそっちの人間用のドアから入れば良いから」
他の妖精達の家より少し大きい家だ。
テイルは隣にある小さな妖精専用の扉を開けて中に入った。
「ただいまぁ〜」
「「「「「おかえりぃ〜」」」」」
テイルが帰宅を告げると、部屋にいた五匹のフェアリーは一斉に答えた。
それから、俺の存在を認めると、しばらく沈黙して考えた後・・・
「ねぇ、テイル、隣の人は誰?」
「新しい遊び相手?」
「え?ボクと一緒に遊んでくれる?」
「フェア、ずるいよぉ〜。みんなで一緒に遊ぼぉよ〜」
「お泊り?ねぇ、寝る前に本は読んでくれるの?」
大歓迎してくれた。っというより、この子達には遊ぶ以外の選択肢はないのだろうか?そもそも初対面の人に対して人懐っこすぎやしないか?
しかも、テイルは「マスターを呼んでくるから少し待ってて」の一言でどこかに行ってしまう。五匹のフェアリー達の大歓迎というか、好き勝手な質問攻めを一人アウェイ受ける事になる。
たまたま町で知り合った町娘が町一番のお転婆娘だった、というようにフェアリー達に振り回されていると、奥の方から一人の青年が現れた。
見た目はジパング系の人間らしく、黒髪で目も黒く、全体的に筋肉はおろか、脂肪すらなくて細い。フェアリーに好きにされている俺と目線が合うと少し苦笑を浮かべて会釈した。
「お前達、お客さんが困っているだろう」
「だって、お客さんだよぉ?」
「折角、来てくれたんだもの出迎えなきゃ」
「それに、マスター、魔物学のレポートがどうとか言ってたじゃん」
「マスターが出迎えなきゃ、僕達が出迎えなきゃ」
「褒められはしても、困らせるような事はしてないもん」
ねぇ、とフェアリー達は俺に向かって同意を求めてきた。俺がフェアリー達とマスターと呼ばれた人間の顔を交互に見比べて「まぁ」とお茶を濁すと、青年は「やれやれ」と小さく溜め息をついた。
「分かった、後は俺が対応しておくから、お前達は隣の部屋で遊んでな」
「「「「「「えぇ〜〜〜〜〜・・・」」」」」」
六匹のフェアリーは羽を震わせて口々に抗議の声を上げる。。
「彼は俺に用があるみたいだし、お前達がいると話が聞けないからね・・・
それとも、最後までちゃんと座って話が聞けるかい?」
「「「「「「お客さんが来た時のマスターの話はいつもつまんないもん、無理〜〜〜」」」」」」
「じゃあ、あっちの部屋だ
大丈夫、後で一緒に遊んでもらえるように説得するからさ」
「「「「「「ぶぅ〜〜〜・・・」」」」」」
口々に「絶対だよ」とか「約束破ったら針千本だからね」などと文句を言いながら六匹のフェアリー達は隣の部屋に行った。彼女達がいなくなると、静かになり急に部屋が広くなった気がした。青年と俺で向き合う。失礼しました、とでも言いたげに軽く肩をすくめて苦笑をうかべた。
「初めまして、フェアリー達のマスターのエスティーです」
「初めまして、行商人のラプラです」
「ラプラさんですね・・・どうぞおかけ下さい」
「ありがとうございます」
軽く礼を言って席に座らせてもらう。先ほどまで、魔物ばかりでアウェイだったので同じ人間というだけで安心してしまう。
「先ほどはフェアリー達が失礼しました
悪戯はされませんでしたか?」
「いえ、良い子ばかりでしたよ?
むしろ、困っていた所を助けてもらいました」
「そう言って頂けると幸いです。
フェアリーに連れ去られた人間は、元の世界には戻れない場合が多いんですからね」
「そうなんですか?」
「放っておけば、大抵は一生妖精達の遊び相手にされます。
まぁ・・・彼らがそれで幸せなら、何も問題ありませんがね」
「それで、幸せな人間なんているんですか?」
「さぁ?
幸せの基準なんて人それぞれですから、俺からはなんとも言えません」
「そう・・・ですか」
「一応、もう一度確認しておきますが、現世に帰れれば良いんですよね?」
「はい」
「分かりました
では、すぐに現地に送る手続きをします・・・と言いたい所なのですが」
青年は申し訳なさそうな表情を浮かべ、歯切れを悪くした。
「何か困った事でも?」
「現世に戻る転移用のゲートなのですが
今、諸事情で使えなくなりましてね・・・復旧作業中なんです」
それで、数日ほど時間を頂きたい、と言ってきた。
「取引先との連絡とかは取れますか?」
「それなら問題ないです。こちらから事情を説明して連絡を入れておきますから」
「それは助かります」
「分かりました、では、ゲートが復旧次第連絡しますので
・・・あ」
「どうしました?」
「泊まる場所とかは考えていますか?」
「いえ・・・まだ何も・・・」
「実は、宿泊施設も併設しております」
・・・ちゃっかりしてる
しかも、提示してきた値段が安い
「なにせ、フェアリー達の悪戯とフェアリーの相手込みですから・・・」
「・・・なるほど」
・・・
大抵の人間は、連れてこられた妖精の家に(強制的に)泊まる事になるか、あるいは、自分の家を持っているためか、宿泊施設は少ない。もっとも、外を歩いているだけで妖精達が一緒に遊ぼうと声を掛けてくるので、一人で迷い込んでも宿に困る事はほとんどない。
宿に困らないのだが、“火遊び”をさせられるので俺としては、なんとも避けたい。妖精達の中でお漏らしとか勘弁してくれ。流石にロリにまで手を出すのは人として駄目な気がする。
エスティー曰く、「その点、ウチは問題ありません。きちんと教育してますから、部外者に手は出しませんよ」との事らしい。
通されたのは学生寮の一室に毛の生えたような程度の部屋だ。ただ、それほど乱雑な印象は受けないし、細かい所まで手が行き届いている。泊めてやっている、という感覚の強い宿と比べるとかなり良心的だ。
「フェアリー達が掃除してますからね」
「フェアリーが?」
「伝承によっては妖精達が人の手伝いをするのは、よくある話です
何も、子供染みた行動や悪戯ばかりが彼女らの特徴ではありませんよ」
「へぇ〜・・・」
「あと“一番多く部屋を綺麗にできたフェアリーの勝ち”という魔法の言葉がありますし」
「・・・さすが、マスターだ」
10/05/30 20:27更新 / 佐藤 敏夫
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