炎という名の情熱の先に...
「よしっ 行くぞッ」
「おうッ」
私たちは標的めがけて走り出した。
標的はどうやらこちらに気付いたようで巨大な体をこちらに向けた。
「打ち合わせ通りに」
「了解」
私は標的の目の前に飛び出して大きな角の周りを回って気を引く。大きな1つの目がこちらの動きを追うが、棍棒による遅いながらも強力な攻撃は全て外れ地を穿った。その間にも相棒はコイツの背後にまわって術式の準備を終えた。後は詠唱を残すのみ。私は打ち合わせ通りに巨人の目の前で爆発を幾度も起こす。巨人は今から何が起こるとも知らず鬱陶しそうに私を追い払おうとする。しかしその重鈍な攻撃は一向に当たらず地に大穴を空けていく。そしてとうとう詠唱が完了した。相棒がこちらに合図を送ってくる。「こちらを向かせろ」という合図だ。私は爆発を起こしながら横を回った。予想通りその愚鈍な化け物はこちらを追ってくる。そして巨人はやっと2人目の敵を見つけるのだ。自らの身長ほどもある大きな大剣を構えた私の相棒を。
「行くぞ キュクロプスよッ ストライキングッ」
おそらくこの化け物には理解できないであろう言葉を言い放つと、相棒は大剣を振りかぶり大きく跳んでキュクロプスの脳天をかち割った...
サイクロプスの亜種、キュクロプスの退治報告をギルドに届け出た私たちは酒場で討伐祝いをしていた。
「大成功だったな!相棒!」
「そうだな...討伐だったからな。捕獲だと...いや、ありえないか」
「見事だったぞ!まさか真っ二つとはな!貴様にしては豪快じゃないか」
「まぁ...な。キュクロプスは再生能力が高い。ああやって真二つにして断面を焼けばさすがに再生できないだろうと思ってな
念には念を入れて頭部は完全に炭化させたが...」
「なるほど...たしかに再生能力のある魔物の拷問にはそういう方法を用いると聞いたことがある」
「拷問...ね」
私のボケは軽くスルーされ、相棒は涼しげな表情で酒をあおった。
「あのな...せっかく私がボケてやったのに、それはなんだ!」
「ん?ボケだったのか?てっきり本気かと...」
私はコイツにどんな目で見られているんだろうか...
「さて...そろそろ寝るかな。お前さんはどうする?」
「...私はもう少し。」
「そうか。明日は買出しに行って昼には出発する予定だ」
「ずいぶんと早く出るんだな」
「あぁ。ここにはキュクロプス討伐のために来ただけだ。他に用はない」
「そうか...分かった」
私にそう告げると相棒は酒場を出て行った。
私は残っていたアルコール度数99%の酒を飲み干し、椅子の背にもたれる。
思えば相棒と出会った頃はたまにしか酒盛りが出来なかった。
あのころは私も彼も未熟で、ウサギ一匹狩るのでさえままならなかったな...
それが今やどうだ?
二人の力を合わせれば見上げるような大きさの魔物を仕留められるようになったのだ。
彼と私は当時よりも遥かに成長したのだ。
だからこそ...気付いて欲しい。
私のこの想いを...
...何を乙女ぶっているんだ?
所詮私は彼の「相棒」でしかない。
そんなことを今言えば彼との関係は間違いなく悪くなる。
いや、場合によってはコンビ解散とかもあるかもしれない...
気がつくと視界がぼやけていた。
...私らしくもない。
だけど、酒を飲むといつも弱気になってしまうのは何故だろう?
私も...そろそろ休むとしよう。
翌朝、2人は必要な道具や食料を買い揃えるために市場へと向かった。
寂れた通りを抜けると辺りは急に喧騒に包まれ、人があふれるほどにいた。
けれども彼を追っていくのはそれほど難しいことではなかった。
私の外見のせいか私の周囲だけぽっかりと人がいない。
こういう時、この体は楽だなぁと思う。
まず、彼が向かったのは雑貨屋だった。
彼が必要なものを購入している間、ざっと品物を見てみる。
ペンと羊皮紙、皿にフォークやナイフ、人形にネックレス。
普通は女性ならアクセサリに惹かれるのだろうが、あいにく私はそうじゃない。
つけていても邪魔になるだけだ。特に今は。
だから彼が用を終えると私は未練なくそこを後にした。
次に向かったのは魔具屋だ。俗に魔法屋とも言う。
最近ではめっきり見かけなくなっていたせいか、それは町の裏通りにあった。
彼が訪れると店主は諸手をすり合わせて交渉を始めた。
店に陳列されているものは傍から見れば意味不明なものばかりだ。
複雑に絡んだ金属棒、ミミズが這ったような字で書かれたスクロール、
ブクブクと泡だつ半透明の液体、目玉の瓶詰め。
魔法はある程度知っているつもりの私でもよく分からないものが多々ある。
そもそも精霊である(正確にはだった)私は魔具を必要としない。
それらがなくとも発動が可能だ。
あれらは魔力や制御が脆弱な人間が用いるものだ。
だから私は彼が使用したことのあるものしか知らない。
彼はその外見に似合わない弁舌であっという間に交渉を終えてしまった。
笑っているような泣いているような複雑な表情で店主は私たちを見送った。
次は武器屋だ。
彼は賞金稼ぎに稀に見る魔法剣士。
だからこそ魔具だけでなく武器も必要となってくる。
私たちが訪れた店はそこそこ品揃えがよく、見たことの無い武器が多々あった。
彼はそこで外側が刃になっている金属の輪と、細い金属のワイヤー、
小物をいくつかと砥石を買って後にした。
無論私には武器は必要無い。
最後は食料調達だ。
食料とはいえ携帯食料なので、特に記することはない。
買出しが終わった頃にはすでに昼を過ぎていたため、
昼食を取ってから出発することとなった。
帰り道に酒場に寄る。
私たちがついた席はいけ好かない野郎共のテーブルの隣だった。
他を探したのだがあいにく空きが無かったし、
いまさら他の酒場を探すのも面倒だったので仕方なくその席を選んだ。
注文を終え待っていると案の定、隣のべろんべろんに酔った若い男が私に絡んできた。
鬱陶しかったため相手にしなかったのだが、それが勘に触ったのか、私の腕を掴もうとした。思ったとおり、その男は薄く煙を上げる腕を抱えて床を転げまわった。いい気味だ。
だが、それを見た他の若造が立ち上がり、私を怒鳴りつけた。
やはり鬱陶しかったので無視したのだがその若者の罵倒は留まるところを知らない。どうやったらこれだけの量の文句を思いつくのだろう?
酒を飲むと饒舌になるタイプだろうか。
と、私がぼんやりと考えていると突然彼が立ち上がった。
「俺の女だ。手ぇ出すな」
その一言で一瞬場が静かになる。
なぜか若造らだけでなく、酒場が静まり返った。
しかしその静寂もつかの間。
文句を垂れていた若者が彼の胸倉を掴もうとしたその時、一陣の風が吹いた。
次の瞬間、その若者は涙目で掌をさする男の横へ叩きつけられた。
先ほどまで食べていた食物を隣の男の顔に嘔吐した。
火傷男の悲鳴が他大勢の何かを引きちぎった。
皆奇声を上げて彼に突っ込む。
しかし彼は動じることもなく彼らのでたらめな攻撃を避け、確実に反撃を決めてゆく。
腹に一発もらって吐くものもいれば、関節を捻じ曲げられもだえるものもいる。
決着はものの数分も経たずにつき、彼は仲間の惨劇を見てすっかり酔いが覚めた数人の若者にとてもさっきまで戦っていたとは思えない静かな声で言った。
「こいつらを連れて出て行け。弁償も忘れずにな」
言って、何事も無かったかのように腰を下ろし、すっかり冷めてしまった昼食を食べ始めた。
一方若者たちは呆然と突っ立っていたものの、彼が席につくとあわててカウンターに金貨を叩きつけて仲間を引きずって逃げていった。いい気味だ。
すっかり静まりかえっていた酒場に再び喧騒が取り戻された頃、
私たちは酒場を後にした。
宿へ帰る途中、私は彼に言った。
「何故あの時口を出した?あのようなことになるのは分かっていたはずだ」
彼はすぐにこう答えた。
「自分の連れがあんな目に遭っていて助けないやつがあるか?」
連れ...か。
だが私の不満は彼の瞳を見て吹き飛んだ。
彼の静かな黒赤色の瞳の奥には静かな炎が燃えていた。
私にはそれだけで十分だった。
宿に着くと彼は荷物の整理を始め、私はベッドに寝転がり、それを見ていた。
どう見てもてきとうに荷物を投げ入れているようにしか見えないのに全てあたかも計算されているかのようにぴったりと入っていった。
以前、私が手伝ったこともあったのだが彼の真似をしてみても全く出来なかった。
同じ時間が過ぎても私の前には乱雑な荷物、彼の前にはきっちりと整理された荷物があり、彼に八つ当たりした覚えがある。
それ以来、私は傍から見ているしかなくなったのである。
もちろん手伝いたい。
けれども彼に迷惑を掛けるわけには行かない。
と、整理が終わったのか、彼は大きく伸びをした。
「ふっ.....はぁ。出発時間まであと少しあるから寝る。半刻後に起こしてくれ」
そう言うが早いか彼はベッドに身を横たえ早くも寝息を立て始めた。
余程先日の戦闘で疲れが溜まっていたのだろう。
彼はよく頑張ってくれた...といってもほとんどサポートの私が言うことではないが。
私もその横へ寝転がってみた。
思ったより接近してしまってドキッとする。
ほぼ目の前に彼の横顔が見える....かわいい。
普段はいつも無表情であまり感情を表に出さない彼だが、
さすがに寝るときはそうではないようだ。
安らかな顔つきで、口の端がわずかながら上がっている。
もっと近くで見たい。
私は立ち上がり、手と足をついてまたがるようにしてさらに彼に顔を近付けた。
顔が、熱い。
このままくっつけてしまいたい。
でも、無理やりするのは、イヤだ。
私はそっと、今にも触れそうだった身を離した。
彼は私をどう思っているのだろう?
と、整理したはずの荷物の近くに小さな箱が転がっているのが目についた。
というのも荷物は全て荷造りされ、ひとかたまりになっているというのに、それだけがなぜか1つだけ転がっている。
何だろう?
私はベッドから下り、間近でそれを見てみる。
白くて、立方体の、小さな箱。
すぐに使うから出していたのだろうか?
とすると魔具か何かだろうか。
けれども昼に訪れたあの魔具屋にはとても似合わない。
だとしたら雑貨屋で買ったものだろうか...
雑貨屋で、質のいい白い箱...
アクセサリ、か?
こいつ、いつの間にか女でも作ったのだろうか。
その女へのプレゼントだったり...
するわけないか。この男はそんな性格ではないし、私以外の女と接したことはあるまい。
きっと、魔具か何かだ。うん。
あっというまに半刻が過ぎ、私は彼を起こしにかかった。
まず、がっしりした肩を軽く叩く。起きない。
次は両肩を持ち少し揺すってみる。相変わらず起きない。
強く揺さぶってみる。全然起きない。
実際もっと寝かせてやりたいが、半刻後というのが彼の要望だ。
起こさないわけには行かない。
けれどもさすがに爆発を起こすのは気が引けた。
外で野宿をしているのであれば何のためらいもなくやったであろうが、ここは街の宿だ。
爆発なんか起こせばきっと誰かが聞きつけてやってくるだろう。
ここは私と彼の空間だ。
...じゃないて。
とにかく、爆発を起こさず彼を起こす方法は...
私はそっと彼の顔へ私の顔を近付けた。
そして...
『起きろッ! 半刻はもうとうに過ぎたぞッッ!!!』
思いっきり耳元で怒鳴ってやった。
彼は痛む耳をさすりながら涙目で荷物を持ち上げた。
「もう少し....マシな起こし方はなかったのか?」
「肩を叩いても揺さぶっても起きなかったからな」
「そうか...」
明らかに彼の体格にはあわない量の荷物を持ちながらも少し早足で部屋から出て行く。
私はあわててその後を追い宿を出た。
彼の背中がいつもより大きく見えた。
彼と初めて会ったときは私と同じぐらいの身長だったのに、
今では私より頭1つ分ほど大きくなった。
肩幅も広がりがっしりとしてきたし、
鍛えられた浅黒い身体には当時のひょろ長くて青白い面影は全く無い。
彼は、ずいぶんと変わった。
けれども私の想いは外見なんかで変わるものじゃない。
徐々に速くなっていく彼の歩調にとにかくついてゆく。
そして、彼が突然足を止め、その背にぶつかりそうになった。
私は文句を言おうとして、開きかけた口を閉じた。
目の前には綺麗で、幻想的な光景が広がっていた。
夕焼けだ。
見事な赤のグラデーションがかかっており、それを受けた群雲がゆったりと流れてゆく。
沈んでゆく太陽を迎え入れるかのように水平線が光っている。
海にはぼんやりと太陽が映し出され、波打っている。
私が絶句していると彼が私の手に何かを握らせた。
それは、あの例の白い箱だった。
思わず彼の顔を見ると微笑を浮かべてわずかに頷いた。
彼が、笑った。
災禍のあった、あの頃から一度も笑みを見せなかった彼が。
この箱は一体なんなのだ?
果たして、何が彼の笑みを引き出した...?
「開けてみろ」
私は彼の言葉に従って、そっと箱を開けてみる。
...水晶のネックレスだ。
あの時、雑貨屋で見たあのネックレス。
けれどもそれは似て非なるものだった。
夕焼けの光を受けて赤くグラデーションがかかっている。
綺麗だ。
「気に入ってくれたか?」
私は頷いた。
すると彼は胸元から何かを引っ張り出した。
それは私があの時にプレゼントしたガーネットのリングだった。
彼はそれを鎖に通し、首にかけていたのだ。
彼がリングを指にはめなくなったときからすでになくなったものと思い込んでいたが...
まさか、ずっとつけていたのだろうか?
「これでお揃いだな」
急に言われて私は理解できなかった。
「このガーネットの赤と、レティの赤。本当はおまえの炎で赤く染まる予定だったんだが...」
きまりわるそうに頭をかいて微苦笑した。
きっと私の顔は真っ赤に染まっていたことだろう。
私は後半部を聞き取れなかった。
そして繰り返した。
「私の...赤」
じっとその水晶を見つめていると彼はそれを手にとってそっと私にかけてくれた。
彼が数歩こちらへ歩み寄る。
いつの間にか微笑は消え、真剣な表情をしていた。
私はその顔つきに惹かれた。
はぁ とため息が出て、その顔に見とれた。
いつしかあどけなさが消えたその顔は精悍で男らしい顔になっていた。
そしてその両眼には私の胸の内と同じ炎がたぎっている。
彼は少しの間私を見つめると、言った。
「ずっと俺と一緒にいてくれないか?」
私はきっとその言葉を待っていたのだ。
彼に想いを抱き始めたあの頃から。
だから迷わず彼の胸へ飛び込んだ.....
俺たちは崖の岩に座って夕日を眺めていた。
隣には先ほど契りを交わした炎を身に纏った娘が座っている。
その顔には今までのどこか寂しげな表情はなく、柔らかな微笑みが浮かんでいる。
こいつこんな顔出来たんだなぁと思ってしまう。
イグニスには強気な性格が多いと聞く。
ご他聞に漏れずこいつもその噂に当てはまっている。
あの頃は物言いがいつもぶっきらぼうで俺を認めていない気がした。
きれいなバラにはトゲがある。その言葉を痛感したものだ。
でも、今は違う。
相変わらず強気な性格だがかけてくれる言葉には陰ながらも優しさがこもっているし、
いつも俺をサポートしてくれる。
鮮やかな赤で俺を癒し、炎という名の棘で俺を守ってくれる。
あの時からずっと変わらない。
彼女は俺のパートナーであり、初恋の相手だ。
夕日が沈むまでずっと見ていた。
けれども赤い光は消えない。
俺の隣で燃え盛っている。
彼女の胸元の水晶には今や彼女の発する光だけが宿っていた。
「似合ってるぞ」
自然と口からその言葉が出た。
すると彼女は顔をほのかに赤らめた。
かわいらしい。
少しばかり彼女が震えているのに気付いた。寒いのだろうか?
果たして炎の精霊である彼女が寒いと感じるかは分からないが、
俺は羽織っていたコートを彼女の身にかけてやった。
彼女の炎はそのコートを受け入れ、その勢いが少し強まった。
急に世界が反転した。
何が起こったか理解できずに唖然としていると、目の前に彼女の顔があった。
頬が彼女の纏う炎と同じくらい赤く染まり、
同じく燃えるように赤い瞳がわずかばかり潤んでいる。
鮮やかな赤の唇は絶え間なく熱い吐息をつき、
「もう...我慢できない」
その直後、息が出来なくなった。
彼女が激しく接吻をし始めたのだ。
絶え間なく吸い付くそれは俺の理性を徐々に溶かし、
やがて紙一重でつながっていたそれを引きちぎった。
俺はその猛攻に反撃するかのように激しくし返す。
すると、少し不満げだった彼女の表情が和らぎ満足そうな表情に変わった。
私たちはそこが屋外であるということも忘れ激しく交わった。
今まで押さえつけていた欲望が弾け飛び、ただひたすらに彼を求めた。
私は始まって間もなく、彼の肉棒を中へ招き入れた。
少し痛いが関係ない。
彼が心配してくれたが、私はそんなヤワな女ではない。
腰を動かすにつれ痛みは和らぎ、上下する度に快感が弾ける。
彼もまた私に応えるかのように腰を激しく動かし続けた。
汗の玉が額を伝い流れ落ちる。
汗の混じった接合部の汁が、腰を下ろすたびに弾ける。
私の身の炎が徐々に大きくなっていくのが分かる。
快感を身に与えるたびに大きくなり、彼と私を包み込む。
彼女の身体の炎が燃え盛る。
全く熱くない。むしろ心地よいほどだ。
彼女より俺の方がでかいはずなのに、彼女に包まれているかのような心地がする。
俺の身の上で跳ね回るように交わる彼女は猛々しく、美しい。
激しい交わりで少し大きめの胸がこれでもかと跳ねて俺の欲情をそそる。
ひたすらに腰を打ち上げ、彼女の中をかき回す。
初めてにしては緊張がほとんど無く、きつ過ぎずちょうど良い。
いや、実際はきつかったのかもしれない。
しかしそれはとても気持ちが良かった。
快感はほぼ絶頂に達していた。
もっと交わり続けたい。彼をもっと感じたい。
けれどもそれは訪れた。
思わず身体を大きく反り、それを受け入れる。
炎よりも熱いのではないかと思われるような彼の奔流が私の中へ注ぎ込まれた。
私は絶頂に達し、ガクガクと身を震わせた。
その奔流はいつ終わるのかと思えるほど長く私を犯し、私のそれからあふれ出した。
交わることが、こんなにも力を使うことだとは思わなかった。
私は乱れる息をそのままに彼の上へうつぶせに転がった。
「....大好き」
そう言って私は意識を失った。
目が覚めるとベッドの上だった。
見慣れた天井、ということはあの宿屋だろう。
もう少し寝よう。
そう思って寝返りをうつ。
と、目の前に彼の顔があった。
今度は驚かなかった。
幸せそうな彼の寝顔を見て私はそっとつぶやいた。
「ずっと...一緒なんだから...」
「おうッ」
私たちは標的めがけて走り出した。
標的はどうやらこちらに気付いたようで巨大な体をこちらに向けた。
「打ち合わせ通りに」
「了解」
私は標的の目の前に飛び出して大きな角の周りを回って気を引く。大きな1つの目がこちらの動きを追うが、棍棒による遅いながらも強力な攻撃は全て外れ地を穿った。その間にも相棒はコイツの背後にまわって術式の準備を終えた。後は詠唱を残すのみ。私は打ち合わせ通りに巨人の目の前で爆発を幾度も起こす。巨人は今から何が起こるとも知らず鬱陶しそうに私を追い払おうとする。しかしその重鈍な攻撃は一向に当たらず地に大穴を空けていく。そしてとうとう詠唱が完了した。相棒がこちらに合図を送ってくる。「こちらを向かせろ」という合図だ。私は爆発を起こしながら横を回った。予想通りその愚鈍な化け物はこちらを追ってくる。そして巨人はやっと2人目の敵を見つけるのだ。自らの身長ほどもある大きな大剣を構えた私の相棒を。
「行くぞ キュクロプスよッ ストライキングッ」
おそらくこの化け物には理解できないであろう言葉を言い放つと、相棒は大剣を振りかぶり大きく跳んでキュクロプスの脳天をかち割った...
サイクロプスの亜種、キュクロプスの退治報告をギルドに届け出た私たちは酒場で討伐祝いをしていた。
「大成功だったな!相棒!」
「そうだな...討伐だったからな。捕獲だと...いや、ありえないか」
「見事だったぞ!まさか真っ二つとはな!貴様にしては豪快じゃないか」
「まぁ...な。キュクロプスは再生能力が高い。ああやって真二つにして断面を焼けばさすがに再生できないだろうと思ってな
念には念を入れて頭部は完全に炭化させたが...」
「なるほど...たしかに再生能力のある魔物の拷問にはそういう方法を用いると聞いたことがある」
「拷問...ね」
私のボケは軽くスルーされ、相棒は涼しげな表情で酒をあおった。
「あのな...せっかく私がボケてやったのに、それはなんだ!」
「ん?ボケだったのか?てっきり本気かと...」
私はコイツにどんな目で見られているんだろうか...
「さて...そろそろ寝るかな。お前さんはどうする?」
「...私はもう少し。」
「そうか。明日は買出しに行って昼には出発する予定だ」
「ずいぶんと早く出るんだな」
「あぁ。ここにはキュクロプス討伐のために来ただけだ。他に用はない」
「そうか...分かった」
私にそう告げると相棒は酒場を出て行った。
私は残っていたアルコール度数99%の酒を飲み干し、椅子の背にもたれる。
思えば相棒と出会った頃はたまにしか酒盛りが出来なかった。
あのころは私も彼も未熟で、ウサギ一匹狩るのでさえままならなかったな...
それが今やどうだ?
二人の力を合わせれば見上げるような大きさの魔物を仕留められるようになったのだ。
彼と私は当時よりも遥かに成長したのだ。
だからこそ...気付いて欲しい。
私のこの想いを...
...何を乙女ぶっているんだ?
所詮私は彼の「相棒」でしかない。
そんなことを今言えば彼との関係は間違いなく悪くなる。
いや、場合によってはコンビ解散とかもあるかもしれない...
気がつくと視界がぼやけていた。
...私らしくもない。
だけど、酒を飲むといつも弱気になってしまうのは何故だろう?
私も...そろそろ休むとしよう。
翌朝、2人は必要な道具や食料を買い揃えるために市場へと向かった。
寂れた通りを抜けると辺りは急に喧騒に包まれ、人があふれるほどにいた。
けれども彼を追っていくのはそれほど難しいことではなかった。
私の外見のせいか私の周囲だけぽっかりと人がいない。
こういう時、この体は楽だなぁと思う。
まず、彼が向かったのは雑貨屋だった。
彼が必要なものを購入している間、ざっと品物を見てみる。
ペンと羊皮紙、皿にフォークやナイフ、人形にネックレス。
普通は女性ならアクセサリに惹かれるのだろうが、あいにく私はそうじゃない。
つけていても邪魔になるだけだ。特に今は。
だから彼が用を終えると私は未練なくそこを後にした。
次に向かったのは魔具屋だ。俗に魔法屋とも言う。
最近ではめっきり見かけなくなっていたせいか、それは町の裏通りにあった。
彼が訪れると店主は諸手をすり合わせて交渉を始めた。
店に陳列されているものは傍から見れば意味不明なものばかりだ。
複雑に絡んだ金属棒、ミミズが這ったような字で書かれたスクロール、
ブクブクと泡だつ半透明の液体、目玉の瓶詰め。
魔法はある程度知っているつもりの私でもよく分からないものが多々ある。
そもそも精霊である(正確にはだった)私は魔具を必要としない。
それらがなくとも発動が可能だ。
あれらは魔力や制御が脆弱な人間が用いるものだ。
だから私は彼が使用したことのあるものしか知らない。
彼はその外見に似合わない弁舌であっという間に交渉を終えてしまった。
笑っているような泣いているような複雑な表情で店主は私たちを見送った。
次は武器屋だ。
彼は賞金稼ぎに稀に見る魔法剣士。
だからこそ魔具だけでなく武器も必要となってくる。
私たちが訪れた店はそこそこ品揃えがよく、見たことの無い武器が多々あった。
彼はそこで外側が刃になっている金属の輪と、細い金属のワイヤー、
小物をいくつかと砥石を買って後にした。
無論私には武器は必要無い。
最後は食料調達だ。
食料とはいえ携帯食料なので、特に記することはない。
買出しが終わった頃にはすでに昼を過ぎていたため、
昼食を取ってから出発することとなった。
帰り道に酒場に寄る。
私たちがついた席はいけ好かない野郎共のテーブルの隣だった。
他を探したのだがあいにく空きが無かったし、
いまさら他の酒場を探すのも面倒だったので仕方なくその席を選んだ。
注文を終え待っていると案の定、隣のべろんべろんに酔った若い男が私に絡んできた。
鬱陶しかったため相手にしなかったのだが、それが勘に触ったのか、私の腕を掴もうとした。思ったとおり、その男は薄く煙を上げる腕を抱えて床を転げまわった。いい気味だ。
だが、それを見た他の若造が立ち上がり、私を怒鳴りつけた。
やはり鬱陶しかったので無視したのだがその若者の罵倒は留まるところを知らない。どうやったらこれだけの量の文句を思いつくのだろう?
酒を飲むと饒舌になるタイプだろうか。
と、私がぼんやりと考えていると突然彼が立ち上がった。
「俺の女だ。手ぇ出すな」
その一言で一瞬場が静かになる。
なぜか若造らだけでなく、酒場が静まり返った。
しかしその静寂もつかの間。
文句を垂れていた若者が彼の胸倉を掴もうとしたその時、一陣の風が吹いた。
次の瞬間、その若者は涙目で掌をさする男の横へ叩きつけられた。
先ほどまで食べていた食物を隣の男の顔に嘔吐した。
火傷男の悲鳴が他大勢の何かを引きちぎった。
皆奇声を上げて彼に突っ込む。
しかし彼は動じることもなく彼らのでたらめな攻撃を避け、確実に反撃を決めてゆく。
腹に一発もらって吐くものもいれば、関節を捻じ曲げられもだえるものもいる。
決着はものの数分も経たずにつき、彼は仲間の惨劇を見てすっかり酔いが覚めた数人の若者にとてもさっきまで戦っていたとは思えない静かな声で言った。
「こいつらを連れて出て行け。弁償も忘れずにな」
言って、何事も無かったかのように腰を下ろし、すっかり冷めてしまった昼食を食べ始めた。
一方若者たちは呆然と突っ立っていたものの、彼が席につくとあわててカウンターに金貨を叩きつけて仲間を引きずって逃げていった。いい気味だ。
すっかり静まりかえっていた酒場に再び喧騒が取り戻された頃、
私たちは酒場を後にした。
宿へ帰る途中、私は彼に言った。
「何故あの時口を出した?あのようなことになるのは分かっていたはずだ」
彼はすぐにこう答えた。
「自分の連れがあんな目に遭っていて助けないやつがあるか?」
連れ...か。
だが私の不満は彼の瞳を見て吹き飛んだ。
彼の静かな黒赤色の瞳の奥には静かな炎が燃えていた。
私にはそれだけで十分だった。
宿に着くと彼は荷物の整理を始め、私はベッドに寝転がり、それを見ていた。
どう見てもてきとうに荷物を投げ入れているようにしか見えないのに全てあたかも計算されているかのようにぴったりと入っていった。
以前、私が手伝ったこともあったのだが彼の真似をしてみても全く出来なかった。
同じ時間が過ぎても私の前には乱雑な荷物、彼の前にはきっちりと整理された荷物があり、彼に八つ当たりした覚えがある。
それ以来、私は傍から見ているしかなくなったのである。
もちろん手伝いたい。
けれども彼に迷惑を掛けるわけには行かない。
と、整理が終わったのか、彼は大きく伸びをした。
「ふっ.....はぁ。出発時間まであと少しあるから寝る。半刻後に起こしてくれ」
そう言うが早いか彼はベッドに身を横たえ早くも寝息を立て始めた。
余程先日の戦闘で疲れが溜まっていたのだろう。
彼はよく頑張ってくれた...といってもほとんどサポートの私が言うことではないが。
私もその横へ寝転がってみた。
思ったより接近してしまってドキッとする。
ほぼ目の前に彼の横顔が見える....かわいい。
普段はいつも無表情であまり感情を表に出さない彼だが、
さすがに寝るときはそうではないようだ。
安らかな顔つきで、口の端がわずかながら上がっている。
もっと近くで見たい。
私は立ち上がり、手と足をついてまたがるようにしてさらに彼に顔を近付けた。
顔が、熱い。
このままくっつけてしまいたい。
でも、無理やりするのは、イヤだ。
私はそっと、今にも触れそうだった身を離した。
彼は私をどう思っているのだろう?
と、整理したはずの荷物の近くに小さな箱が転がっているのが目についた。
というのも荷物は全て荷造りされ、ひとかたまりになっているというのに、それだけがなぜか1つだけ転がっている。
何だろう?
私はベッドから下り、間近でそれを見てみる。
白くて、立方体の、小さな箱。
すぐに使うから出していたのだろうか?
とすると魔具か何かだろうか。
けれども昼に訪れたあの魔具屋にはとても似合わない。
だとしたら雑貨屋で買ったものだろうか...
雑貨屋で、質のいい白い箱...
アクセサリ、か?
こいつ、いつの間にか女でも作ったのだろうか。
その女へのプレゼントだったり...
するわけないか。この男はそんな性格ではないし、私以外の女と接したことはあるまい。
きっと、魔具か何かだ。うん。
あっというまに半刻が過ぎ、私は彼を起こしにかかった。
まず、がっしりした肩を軽く叩く。起きない。
次は両肩を持ち少し揺すってみる。相変わらず起きない。
強く揺さぶってみる。全然起きない。
実際もっと寝かせてやりたいが、半刻後というのが彼の要望だ。
起こさないわけには行かない。
けれどもさすがに爆発を起こすのは気が引けた。
外で野宿をしているのであれば何のためらいもなくやったであろうが、ここは街の宿だ。
爆発なんか起こせばきっと誰かが聞きつけてやってくるだろう。
ここは私と彼の空間だ。
...じゃないて。
とにかく、爆発を起こさず彼を起こす方法は...
私はそっと彼の顔へ私の顔を近付けた。
そして...
『起きろッ! 半刻はもうとうに過ぎたぞッッ!!!』
思いっきり耳元で怒鳴ってやった。
彼は痛む耳をさすりながら涙目で荷物を持ち上げた。
「もう少し....マシな起こし方はなかったのか?」
「肩を叩いても揺さぶっても起きなかったからな」
「そうか...」
明らかに彼の体格にはあわない量の荷物を持ちながらも少し早足で部屋から出て行く。
私はあわててその後を追い宿を出た。
彼の背中がいつもより大きく見えた。
彼と初めて会ったときは私と同じぐらいの身長だったのに、
今では私より頭1つ分ほど大きくなった。
肩幅も広がりがっしりとしてきたし、
鍛えられた浅黒い身体には当時のひょろ長くて青白い面影は全く無い。
彼は、ずいぶんと変わった。
けれども私の想いは外見なんかで変わるものじゃない。
徐々に速くなっていく彼の歩調にとにかくついてゆく。
そして、彼が突然足を止め、その背にぶつかりそうになった。
私は文句を言おうとして、開きかけた口を閉じた。
目の前には綺麗で、幻想的な光景が広がっていた。
夕焼けだ。
見事な赤のグラデーションがかかっており、それを受けた群雲がゆったりと流れてゆく。
沈んでゆく太陽を迎え入れるかのように水平線が光っている。
海にはぼんやりと太陽が映し出され、波打っている。
私が絶句していると彼が私の手に何かを握らせた。
それは、あの例の白い箱だった。
思わず彼の顔を見ると微笑を浮かべてわずかに頷いた。
彼が、笑った。
災禍のあった、あの頃から一度も笑みを見せなかった彼が。
この箱は一体なんなのだ?
果たして、何が彼の笑みを引き出した...?
「開けてみろ」
私は彼の言葉に従って、そっと箱を開けてみる。
...水晶のネックレスだ。
あの時、雑貨屋で見たあのネックレス。
けれどもそれは似て非なるものだった。
夕焼けの光を受けて赤くグラデーションがかかっている。
綺麗だ。
「気に入ってくれたか?」
私は頷いた。
すると彼は胸元から何かを引っ張り出した。
それは私があの時にプレゼントしたガーネットのリングだった。
彼はそれを鎖に通し、首にかけていたのだ。
彼がリングを指にはめなくなったときからすでになくなったものと思い込んでいたが...
まさか、ずっとつけていたのだろうか?
「これでお揃いだな」
急に言われて私は理解できなかった。
「このガーネットの赤と、レティの赤。本当はおまえの炎で赤く染まる予定だったんだが...」
きまりわるそうに頭をかいて微苦笑した。
きっと私の顔は真っ赤に染まっていたことだろう。
私は後半部を聞き取れなかった。
そして繰り返した。
「私の...赤」
じっとその水晶を見つめていると彼はそれを手にとってそっと私にかけてくれた。
彼が数歩こちらへ歩み寄る。
いつの間にか微笑は消え、真剣な表情をしていた。
私はその顔つきに惹かれた。
はぁ とため息が出て、その顔に見とれた。
いつしかあどけなさが消えたその顔は精悍で男らしい顔になっていた。
そしてその両眼には私の胸の内と同じ炎がたぎっている。
彼は少しの間私を見つめると、言った。
「ずっと俺と一緒にいてくれないか?」
私はきっとその言葉を待っていたのだ。
彼に想いを抱き始めたあの頃から。
だから迷わず彼の胸へ飛び込んだ.....
俺たちは崖の岩に座って夕日を眺めていた。
隣には先ほど契りを交わした炎を身に纏った娘が座っている。
その顔には今までのどこか寂しげな表情はなく、柔らかな微笑みが浮かんでいる。
こいつこんな顔出来たんだなぁと思ってしまう。
イグニスには強気な性格が多いと聞く。
ご他聞に漏れずこいつもその噂に当てはまっている。
あの頃は物言いがいつもぶっきらぼうで俺を認めていない気がした。
きれいなバラにはトゲがある。その言葉を痛感したものだ。
でも、今は違う。
相変わらず強気な性格だがかけてくれる言葉には陰ながらも優しさがこもっているし、
いつも俺をサポートしてくれる。
鮮やかな赤で俺を癒し、炎という名の棘で俺を守ってくれる。
あの時からずっと変わらない。
彼女は俺のパートナーであり、初恋の相手だ。
夕日が沈むまでずっと見ていた。
けれども赤い光は消えない。
俺の隣で燃え盛っている。
彼女の胸元の水晶には今や彼女の発する光だけが宿っていた。
「似合ってるぞ」
自然と口からその言葉が出た。
すると彼女は顔をほのかに赤らめた。
かわいらしい。
少しばかり彼女が震えているのに気付いた。寒いのだろうか?
果たして炎の精霊である彼女が寒いと感じるかは分からないが、
俺は羽織っていたコートを彼女の身にかけてやった。
彼女の炎はそのコートを受け入れ、その勢いが少し強まった。
急に世界が反転した。
何が起こったか理解できずに唖然としていると、目の前に彼女の顔があった。
頬が彼女の纏う炎と同じくらい赤く染まり、
同じく燃えるように赤い瞳がわずかばかり潤んでいる。
鮮やかな赤の唇は絶え間なく熱い吐息をつき、
「もう...我慢できない」
その直後、息が出来なくなった。
彼女が激しく接吻をし始めたのだ。
絶え間なく吸い付くそれは俺の理性を徐々に溶かし、
やがて紙一重でつながっていたそれを引きちぎった。
俺はその猛攻に反撃するかのように激しくし返す。
すると、少し不満げだった彼女の表情が和らぎ満足そうな表情に変わった。
私たちはそこが屋外であるということも忘れ激しく交わった。
今まで押さえつけていた欲望が弾け飛び、ただひたすらに彼を求めた。
私は始まって間もなく、彼の肉棒を中へ招き入れた。
少し痛いが関係ない。
彼が心配してくれたが、私はそんなヤワな女ではない。
腰を動かすにつれ痛みは和らぎ、上下する度に快感が弾ける。
彼もまた私に応えるかのように腰を激しく動かし続けた。
汗の玉が額を伝い流れ落ちる。
汗の混じった接合部の汁が、腰を下ろすたびに弾ける。
私の身の炎が徐々に大きくなっていくのが分かる。
快感を身に与えるたびに大きくなり、彼と私を包み込む。
彼女の身体の炎が燃え盛る。
全く熱くない。むしろ心地よいほどだ。
彼女より俺の方がでかいはずなのに、彼女に包まれているかのような心地がする。
俺の身の上で跳ね回るように交わる彼女は猛々しく、美しい。
激しい交わりで少し大きめの胸がこれでもかと跳ねて俺の欲情をそそる。
ひたすらに腰を打ち上げ、彼女の中をかき回す。
初めてにしては緊張がほとんど無く、きつ過ぎずちょうど良い。
いや、実際はきつかったのかもしれない。
しかしそれはとても気持ちが良かった。
快感はほぼ絶頂に達していた。
もっと交わり続けたい。彼をもっと感じたい。
けれどもそれは訪れた。
思わず身体を大きく反り、それを受け入れる。
炎よりも熱いのではないかと思われるような彼の奔流が私の中へ注ぎ込まれた。
私は絶頂に達し、ガクガクと身を震わせた。
その奔流はいつ終わるのかと思えるほど長く私を犯し、私のそれからあふれ出した。
交わることが、こんなにも力を使うことだとは思わなかった。
私は乱れる息をそのままに彼の上へうつぶせに転がった。
「....大好き」
そう言って私は意識を失った。
目が覚めるとベッドの上だった。
見慣れた天井、ということはあの宿屋だろう。
もう少し寝よう。
そう思って寝返りをうつ。
と、目の前に彼の顔があった。
今度は驚かなかった。
幸せそうな彼の寝顔を見て私はそっとつぶやいた。
「ずっと...一緒なんだから...」
10/09/20 12:37更新 / 緑青