地図と湖畔と女の子 <前編>
「ふむ...」
少年とトカゲの娘は野宿していた。
時刻は日が沈み星々が姿を現し始めた頃、
娘は焚き火の前で地図とにらめっこしていたがため息をついて放り出してしまった。
「だめだ。この地図が間違ってるとしか思えない。いっぱい食わされたようだ」
思えば地図を買った商人は怪しかったかもしれない。
チビでたっぷりした服を着て語尾が〜アルだった。
あの時は急いでいたから迷わず買ったのだが、コレがまずかったようだ。
「はぁ...」
またため息をついてうつむく。
自分ひとりならまだいっぱい食わされたか!と笑って忘れられるが、
隣には寡黙で何を考えているのか分からない少年が座っている。
鋭い人だからきっともう気づいてはいるだろうけれど...
やはりなかなか言い出しにくい。
「その地図」
「え?あ あぁ コレ?これ...その...」
無言で手を出す少年。
仕方なくでたらめだった地図を差し出す。
少年はじっとそれを見ていたが、何を思ったのか地面に書き写し始めた。
手ごろな石でほぼ正確に模写していく。
少年の手が止まるころには紙切れの地形がそっくりそのまま拡大され
地面に写されていた。
彼はそれを数秒見つめて頷くと、その上にさらに線を書き足してゆく。
何をしているんだろう?
そう思って覗き込むと思わずあっと声を上げてしまった。
地面に書かれているはずの山々が浮き出して見える。
手を伸ばして掴もうとしたのだが掴めない。
頭に疑問符を幾つも浮かべる私に彼はこう言った。
「これは...十数年前のもののようだ」
やはりまんまと騙されていたようだ。
しかし、どうしてそんなことが分かったのか。
そう彼に問うとこんな答えが返ってきた。
「ここが俺たちの通ってきた山道だ。
この地図では一見東からやってきたかのように見えるが...
星を読むと俺たちは西から東へ進んでいる。
ここですでにこの地図は正しくないと分かる」
彼は一度ここで切って私を見つめた。
私があることを言おうか言うまいか迷っているとまた話し始めてしまった。
「しかしこの地図には正しい部分もある。
お前が寝ている間にここ周辺の地形を調べてみたんだが、
ここの地形は...」
また棒切れを手にとり、立体的になった地図の横にもう1つ地図を書いていく。
それは役立たずの地図と似ていたが、大きく違う箇所が1つあった。
「...森が...無い?」
そうだ、と彼は頷く。
「以前は俺たちが通ってきた山道の右には草原と森があったようだ。
しかし何らかの災害...おそらく地震と火山の噴火により、
地は割れ草木の生えない荒野となってしまった。
それに伴いこの辺りの生態系が変化し、
この地図とは似て非なるものとなったようだ」
所々に理解できない単語があったが、
この辺りの地形が地図とは違うものであるということだけは分かった。
「よって俺たちはこの峰が東側にあるものと勘違いしてしまった。
正しくは右側だ。
つまり進むべき方向とは逆の方向に進んでいたことになる」
そのように彼は結んで、焚き火のそばに寝転がった。
一番気になっていたことをさらっと言われた挙句、
旅の邪魔になっていたことを知って私は思わず肩を落とした。
また泣きそうになってしまい唇を噛む。
「明日は早く出発する。このままでは水が持たないからな」
要は早く寝ろと言いたいのだろう。
もしくは気を使ってくれたのかもしれない。
しかし地図も無いのにどうするというのだろうか。
いや...私は文句を言える立場ではないのだが...
どちらにせよぼんやり座っていても意味がないので寝ることにした。
この借りはいつか返さなくては...
忘れて楽になりたいけれど...それでは借りを返せない。
いつまでも後悔と責任が頭の中をぐるぐるまわってなかなか寝付けなかった。
翌日、目が覚めると焚き火はすでに片付けられており、
彼がすでに荷造りをして待っていた。
あわてて起き上がって自分の荷物(とはいっても寝具ぐらいだが)を片付け始めると
彼が干し肉と水筒を放ってくれた。
「食べておけ」
そう言って彼は立ち上がり手近な木の幹にもたれかかった。
とにかくも私が肉を口に詰め込みながら支度を終えると
付いて来いと手を上げ、歩き始めた。
彼が選んだのは道無き道、いわゆる獣道だ。
気になって問いかけるとこちらの方が早いらしい。
しかし険しく鬱蒼と茂る木々やツタを掻き分けながら進むのは
予想以上に体力を消耗した。
ふと彼の様子が気になってそっと顔を覗きこんでみるが、
やはり汗は見えず、息切れもしていなかった。
戦士としてこれだけ差があるとなんだか彼が遠い気がした。
強いていうなれば私がまだ幼かった頃の師匠のようだ。
何度挑戦してもことごとく破れ、悔し泣きしたものだ。
けれども今では師匠に打ち勝ち、更なる強さを求め旅をしている。
彼は、強い。いつか稽古をつけてもらいたいものだ。
でも道中で疲れていては彼に笑われてしまう。
...いや、そのような性格ではないと分かってはいるが。
けれどもこんなところでくたばっていては彼も鍛えがいが無いはず。
どうにかしてでも付いて行かねば...!
刻々と重くなる足を必死に上げ、
もはや鉛のような腕を無理に持ち上げ幹に手を掛ける。
無意識に落ちてゆくペースに気づいては元のペースに戻し、
無我夢中で彼の背を追う。
永遠にこの試練が続くかのように思えたその時、森が開けた。
「どうやら...着いたようだ」
街か!...と思ったが違うようだ。
そこには巨大な湖が広がっており、キラキラと光を放っていた。
「まずは水だ。 それに...」
彼が振り返る。
「ここのところ水場が無かったからな。
水浴びをするといい」
気を遣われていたのだ。
私が気付かぬうちに。
けれどもその気遣いは有難かった。
事実、もう汗だくで小さな傷が諸所に出来ている。
一刻も早く洗い流したかった。
「ブラックは...浴びないのか?」
答えは大体予想できたがとりあえずも訊いてみた。
「いや、俺はいい 水の補給をしておく。ゆっくり休むといい」
言って彼は水筒と荷物を持ち、行ってしまった。
おそらく気を遣ったのだろう...私が女だから。
...彼なら見られても良いかもしれない。
鎧を外しながらふとそんな考えがよぎり、あわてて振り払った。
残っていた下着を脱ぎ捨て、そっと透き通った青い水に足をつけてみる。
少し冷たいけれど...わがままは言えない。
私はそっと水中へと入っていった。
彼は湖畔でぼーっと湖を見つめていた。
水筒はすでに補給を終えてそばに転がしてある。
ぼーっとしているといえども警戒を解いているわけではない。
ある生き物は水場に集まる獲物を喰らうとか。
決して油断はしないものの、久しぶりに1人になれたのでほっとしていた。
そもそもが1人旅なのだ。
それが気がつけば1人増えており、気を遣わねばならなくなった。
実際のところ、1人の方が気楽だというのが彼の考え方だ。
他に人がいるとどうしても気を遣わざるを得ない。
いや、赤の他人ならいいのだ。
だが、彼女とは一応旅仲間という関係にあるし、
見捨てるわけにはいかない。
旅仲間として付き合ううちに、彼女のスキルでは一人旅は難しいだろうと判断した。
だから街にでも着いたら誰かに...
妙だ。
風も吹いていないのに湖に細波が立っている。
魚ではないし、水生生物でも...
....! しまったッ!
次の瞬間彼は走り出していた。
〜〜♪ 〜〜〜♪ 〜♪
彼女は束ねていた金色の髪をとき、水で流していた。
つんと張っている二つの丘を水滴が流れ落ち、
傷はあるながらもきめ細かな肌で、日焼けの後が艶かしい。
全身で浸かってもいいのだが、万が一のことを考え、
手の届くところに剣を置いている。
彼女に何かあればすぐにでも少年がやってくるだろうが、
彼女は戦士であるが故に自分の身ぐらいは自分で守りたいのだ。
〜〜♪ 〜♪
とはいえ戦士といえど年頃の女の子である。
身の周り、少なくとも自分の身ぐらいは綺麗にしておきたいとは思っていた。
水をすくっては体にかける。
その度に彼女を映す水鏡が震えた。
と、その水鏡に別の振動が走った。
だが彼女は気付かない。
相変わらず鼻歌を歌いながら体を流している。
彼女の背後の水面から音もなく水色の物体が近づいていく。
そしてそれが彼女の背に触れようとしたその時、
刃がその物体を切断した。
少年が数本のうちの一本の剣を放ったのである。
それは正確に物体に命中し、威嚇した。
「おいッ 何をボーっとしている! 岸に上がれ!」
だが彼女には何が起こったかわからない。
声がしたほうを振り向くと少年がこちらへやってくるのを見て
思わず叫んだ。
「ちょっと! 何でこっちに来てッ キャッ!?」
水色の触手が何本も水面から顔を出し、彼女を拘束する。
これでは剣を取るヒマどころか逃げることすら出来ない。
「な 何! どうなって...!?」
見る見るうちに水色の物体に取り込まれてゆく。
その物体の中で彼女は苦しそうに少年の方へ手を伸ばした。
けれどもその手はむなしく宙を掻くばかり。
少年が何か言っているようだが聞こえない。
徐々に意識が薄れ、途切れた。
「くそっ!!」
切ってもなぎ払っても次々と触手が彼を襲う。
ひたすらに再生してくるところを見るとどうやら本体が別にあるようだ。
こうしているうちにも彼女はどんどん物体に取り込まれていく。
うかつだった。
思えばここに訪れたとき、生物の気配がほとんどしなかった。
いつもなら警戒するはずが、一体俺はどうしたんだ?
いや、今はそんなことはどうでもいい。
一刻も早くアレから彼女を助け出さなければ...!
なぎ払いながら考えた。
どうすればいい...どうすれば...
おそらくこれはスライムだろう。
とするとどこかにコアがあるはずだ。
でも俺が戦ったそれはこれよりもはるかに小さな、
俺ぐらいの大きさのやつだった。
あの時はコアを叩き割るだけでよかったが...
この大きさではその戦術は通用しない。
コアがどこにあるかさえ分かれば...
少年は考えた末、1つの方法を編み出した。
少年とトカゲの娘は野宿していた。
時刻は日が沈み星々が姿を現し始めた頃、
娘は焚き火の前で地図とにらめっこしていたがため息をついて放り出してしまった。
「だめだ。この地図が間違ってるとしか思えない。いっぱい食わされたようだ」
思えば地図を買った商人は怪しかったかもしれない。
チビでたっぷりした服を着て語尾が〜アルだった。
あの時は急いでいたから迷わず買ったのだが、コレがまずかったようだ。
「はぁ...」
またため息をついてうつむく。
自分ひとりならまだいっぱい食わされたか!と笑って忘れられるが、
隣には寡黙で何を考えているのか分からない少年が座っている。
鋭い人だからきっともう気づいてはいるだろうけれど...
やはりなかなか言い出しにくい。
「その地図」
「え?あ あぁ コレ?これ...その...」
無言で手を出す少年。
仕方なくでたらめだった地図を差し出す。
少年はじっとそれを見ていたが、何を思ったのか地面に書き写し始めた。
手ごろな石でほぼ正確に模写していく。
少年の手が止まるころには紙切れの地形がそっくりそのまま拡大され
地面に写されていた。
彼はそれを数秒見つめて頷くと、その上にさらに線を書き足してゆく。
何をしているんだろう?
そう思って覗き込むと思わずあっと声を上げてしまった。
地面に書かれているはずの山々が浮き出して見える。
手を伸ばして掴もうとしたのだが掴めない。
頭に疑問符を幾つも浮かべる私に彼はこう言った。
「これは...十数年前のもののようだ」
やはりまんまと騙されていたようだ。
しかし、どうしてそんなことが分かったのか。
そう彼に問うとこんな答えが返ってきた。
「ここが俺たちの通ってきた山道だ。
この地図では一見東からやってきたかのように見えるが...
星を読むと俺たちは西から東へ進んでいる。
ここですでにこの地図は正しくないと分かる」
彼は一度ここで切って私を見つめた。
私があることを言おうか言うまいか迷っているとまた話し始めてしまった。
「しかしこの地図には正しい部分もある。
お前が寝ている間にここ周辺の地形を調べてみたんだが、
ここの地形は...」
また棒切れを手にとり、立体的になった地図の横にもう1つ地図を書いていく。
それは役立たずの地図と似ていたが、大きく違う箇所が1つあった。
「...森が...無い?」
そうだ、と彼は頷く。
「以前は俺たちが通ってきた山道の右には草原と森があったようだ。
しかし何らかの災害...おそらく地震と火山の噴火により、
地は割れ草木の生えない荒野となってしまった。
それに伴いこの辺りの生態系が変化し、
この地図とは似て非なるものとなったようだ」
所々に理解できない単語があったが、
この辺りの地形が地図とは違うものであるということだけは分かった。
「よって俺たちはこの峰が東側にあるものと勘違いしてしまった。
正しくは右側だ。
つまり進むべき方向とは逆の方向に進んでいたことになる」
そのように彼は結んで、焚き火のそばに寝転がった。
一番気になっていたことをさらっと言われた挙句、
旅の邪魔になっていたことを知って私は思わず肩を落とした。
また泣きそうになってしまい唇を噛む。
「明日は早く出発する。このままでは水が持たないからな」
要は早く寝ろと言いたいのだろう。
もしくは気を使ってくれたのかもしれない。
しかし地図も無いのにどうするというのだろうか。
いや...私は文句を言える立場ではないのだが...
どちらにせよぼんやり座っていても意味がないので寝ることにした。
この借りはいつか返さなくては...
忘れて楽になりたいけれど...それでは借りを返せない。
いつまでも後悔と責任が頭の中をぐるぐるまわってなかなか寝付けなかった。
翌日、目が覚めると焚き火はすでに片付けられており、
彼がすでに荷造りをして待っていた。
あわてて起き上がって自分の荷物(とはいっても寝具ぐらいだが)を片付け始めると
彼が干し肉と水筒を放ってくれた。
「食べておけ」
そう言って彼は立ち上がり手近な木の幹にもたれかかった。
とにかくも私が肉を口に詰め込みながら支度を終えると
付いて来いと手を上げ、歩き始めた。
彼が選んだのは道無き道、いわゆる獣道だ。
気になって問いかけるとこちらの方が早いらしい。
しかし険しく鬱蒼と茂る木々やツタを掻き分けながら進むのは
予想以上に体力を消耗した。
ふと彼の様子が気になってそっと顔を覗きこんでみるが、
やはり汗は見えず、息切れもしていなかった。
戦士としてこれだけ差があるとなんだか彼が遠い気がした。
強いていうなれば私がまだ幼かった頃の師匠のようだ。
何度挑戦してもことごとく破れ、悔し泣きしたものだ。
けれども今では師匠に打ち勝ち、更なる強さを求め旅をしている。
彼は、強い。いつか稽古をつけてもらいたいものだ。
でも道中で疲れていては彼に笑われてしまう。
...いや、そのような性格ではないと分かってはいるが。
けれどもこんなところでくたばっていては彼も鍛えがいが無いはず。
どうにかしてでも付いて行かねば...!
刻々と重くなる足を必死に上げ、
もはや鉛のような腕を無理に持ち上げ幹に手を掛ける。
無意識に落ちてゆくペースに気づいては元のペースに戻し、
無我夢中で彼の背を追う。
永遠にこの試練が続くかのように思えたその時、森が開けた。
「どうやら...着いたようだ」
街か!...と思ったが違うようだ。
そこには巨大な湖が広がっており、キラキラと光を放っていた。
「まずは水だ。 それに...」
彼が振り返る。
「ここのところ水場が無かったからな。
水浴びをするといい」
気を遣われていたのだ。
私が気付かぬうちに。
けれどもその気遣いは有難かった。
事実、もう汗だくで小さな傷が諸所に出来ている。
一刻も早く洗い流したかった。
「ブラックは...浴びないのか?」
答えは大体予想できたがとりあえずも訊いてみた。
「いや、俺はいい 水の補給をしておく。ゆっくり休むといい」
言って彼は水筒と荷物を持ち、行ってしまった。
おそらく気を遣ったのだろう...私が女だから。
...彼なら見られても良いかもしれない。
鎧を外しながらふとそんな考えがよぎり、あわてて振り払った。
残っていた下着を脱ぎ捨て、そっと透き通った青い水に足をつけてみる。
少し冷たいけれど...わがままは言えない。
私はそっと水中へと入っていった。
彼は湖畔でぼーっと湖を見つめていた。
水筒はすでに補給を終えてそばに転がしてある。
ぼーっとしているといえども警戒を解いているわけではない。
ある生き物は水場に集まる獲物を喰らうとか。
決して油断はしないものの、久しぶりに1人になれたのでほっとしていた。
そもそもが1人旅なのだ。
それが気がつけば1人増えており、気を遣わねばならなくなった。
実際のところ、1人の方が気楽だというのが彼の考え方だ。
他に人がいるとどうしても気を遣わざるを得ない。
いや、赤の他人ならいいのだ。
だが、彼女とは一応旅仲間という関係にあるし、
見捨てるわけにはいかない。
旅仲間として付き合ううちに、彼女のスキルでは一人旅は難しいだろうと判断した。
だから街にでも着いたら誰かに...
妙だ。
風も吹いていないのに湖に細波が立っている。
魚ではないし、水生生物でも...
....! しまったッ!
次の瞬間彼は走り出していた。
〜〜♪ 〜〜〜♪ 〜♪
彼女は束ねていた金色の髪をとき、水で流していた。
つんと張っている二つの丘を水滴が流れ落ち、
傷はあるながらもきめ細かな肌で、日焼けの後が艶かしい。
全身で浸かってもいいのだが、万が一のことを考え、
手の届くところに剣を置いている。
彼女に何かあればすぐにでも少年がやってくるだろうが、
彼女は戦士であるが故に自分の身ぐらいは自分で守りたいのだ。
〜〜♪ 〜♪
とはいえ戦士といえど年頃の女の子である。
身の周り、少なくとも自分の身ぐらいは綺麗にしておきたいとは思っていた。
水をすくっては体にかける。
その度に彼女を映す水鏡が震えた。
と、その水鏡に別の振動が走った。
だが彼女は気付かない。
相変わらず鼻歌を歌いながら体を流している。
彼女の背後の水面から音もなく水色の物体が近づいていく。
そしてそれが彼女の背に触れようとしたその時、
刃がその物体を切断した。
少年が数本のうちの一本の剣を放ったのである。
それは正確に物体に命中し、威嚇した。
「おいッ 何をボーっとしている! 岸に上がれ!」
だが彼女には何が起こったかわからない。
声がしたほうを振り向くと少年がこちらへやってくるのを見て
思わず叫んだ。
「ちょっと! 何でこっちに来てッ キャッ!?」
水色の触手が何本も水面から顔を出し、彼女を拘束する。
これでは剣を取るヒマどころか逃げることすら出来ない。
「な 何! どうなって...!?」
見る見るうちに水色の物体に取り込まれてゆく。
その物体の中で彼女は苦しそうに少年の方へ手を伸ばした。
けれどもその手はむなしく宙を掻くばかり。
少年が何か言っているようだが聞こえない。
徐々に意識が薄れ、途切れた。
「くそっ!!」
切ってもなぎ払っても次々と触手が彼を襲う。
ひたすらに再生してくるところを見るとどうやら本体が別にあるようだ。
こうしているうちにも彼女はどんどん物体に取り込まれていく。
うかつだった。
思えばここに訪れたとき、生物の気配がほとんどしなかった。
いつもなら警戒するはずが、一体俺はどうしたんだ?
いや、今はそんなことはどうでもいい。
一刻も早くアレから彼女を助け出さなければ...!
なぎ払いながら考えた。
どうすればいい...どうすれば...
おそらくこれはスライムだろう。
とするとどこかにコアがあるはずだ。
でも俺が戦ったそれはこれよりもはるかに小さな、
俺ぐらいの大きさのやつだった。
あの時はコアを叩き割るだけでよかったが...
この大きさではその戦術は通用しない。
コアがどこにあるかさえ分かれば...
少年は考えた末、1つの方法を編み出した。
10/09/14 21:32更新 / 緑青
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