読切小説
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Deleted Memories
死ねなかった。
ご主人様、私に生きて欲しい?
...きっとそれは言い訳。

私、ご主人様に造られた。
気が付けば、目の前、ご主人様、いて、
私にクァスナという名、与えてくれた。

そう、あの日からあの人、ご主人様。

でも、ご主人様、もういない...
目の前、人型、物体...ご主人様、違う。

でも、安心。理解不能。
これ、ご主人様、違う、でも、安心。
私...ここに、いたい。

『スリープシステム起動...準備開始
 端末システム停止.......complete
 エネルギー出力抑制...10%20%...
 エラー発生 原因サーチ...loading...
 メモリーにエラーが発生したためデータを初期化します...
 loading....complete
 作業を継続します....

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「やった...やったぞ。やっとここに辿り着いた...
 私が、私が最も優れているのだ....
 ククククク ヒャーッハッハッハッハッハ!」
私はとうとう発見したのだ。
はるか古(イニシエ)に失われし技術を...
ここまで来るのにどれだけの歳月を費やしたか...

いや、そんなことはどうだっていい。
古の人々が用いたとされる『エーテル』を操る技術。
それさえ手に入れば私はこの世界の頂点...
いや、神にさえなれるに違いないのだ!

そうなれば今まで私を見下してきた者どもを見返すことが出来る...
報告書を提出するたびに再提出を要求する結社の上司、
ことあるごとに嫌がらせをしてくる同僚、
私の発明を馬鹿にする親や親戚...
あいつらに...裁きを....

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よし...準備は整った。
今ここに歴史が始まるのだ。

カタカタカタカタ

『エーテル制御システム起動....error notcomplete』

「...なんだって? どういうことだ!」

カタカタカタカタ

『エネルギー不足ニヨリシステム維持不可
 終了シマス』

「くそっ...エネルギーだと?そんなものがどこに...」

すでに確実にこれが動いていた時代から300年は経っている。
思えばその中でこのシステムが無事で、且つエネルギーが消耗していないはずがないのだ。確かこのシステムを動かすには...マナエネルギーが必要だったはず。とするともはや手に入れるのは不可能に近い。おそらく結社の格納庫に研究材料としてほんのわずかに残っている程度だろう。その程度でこのシステムを起動し、そして走らせるほどのエネルギーになるはずがない。それに私の懐はほぼ壊滅状態だ。ほぼ文無しに近い。となると...所詮夢は夢だった...ということか...

私は急に力が抜けて膝から崩れ落ちた。
床に散らばっていた鋭い硬質の破片が刺さったが、もはやその痛みすら感じなかった。
終わったのだ。
私はこの技術にかけていた。
人に何を言われようが、実現するつもりでいた。
しかし今やそれは何の意味も持たない。
無駄な労力に過ぎなかった...ということだ。

私は周辺の破片や砂を払ってその場に座り込んだ。
薄っぺらい研究員の制服にわずかに血が滲んでいた。
何も考えず、それを見つめていた。

もうすぐ、ここも見つかってしまうだろう。
いや、私が報告しない限りは見つからないかもしれない。
結社の手にかかれば技術は復活し、国から膨大な支援を得られるだろう...
けれどもそれでは意味が無い。
私がここを発見したことを伝えれば莫大な資産が手に入るだろう。
けれどもそれでは意味が無いのだ。
私は研究者だ。
この技術を掘り起こし、更なる真実を追い求めたいのだ。
しかしそれは夢に終わった。
ならば...この日に起こった出来事も全て夢にしてやろう。
私はゆっくりと立ち上がって破片を払った。

後悔できないほど、全てを破壊しつくしてやるッ!!


まずは壊すための武器を探さなくては。
私の貧弱な身体では施設どころかディスプレイさえ破壊できない。
そうだ、『外』に待機させているジープからバールを持ってこよう。
あれならディスプレイの破壊ぐらいは朝飯前だろう。
と、足に何かが当たった気がした。
ふと下を見下ろすと白骨死体が転がっていた。
この部屋に入ってくる時は興奮していたためかおそらく見落としていたのだろう。
靴が当たった部分にヒビが入っていた。
300年以上も前の骨だ。建物の中といえど風化が進んでいたとておかしくはない。
全体を見るに身長170cm程度の男の遺体のようだ。
肩幅が広く骨盤がそれほど大きくないところからみて男だろう。
とすると彼はここの研究員だったのだろうか。
しかし、このような場所で死ぬなど...
病か、はたまたテロか、当時の事だから戦いもあり得たかもしれない。
負傷して、あるいは衰弱してここに横たわったのだろう。
彼は死に場所をこの研究所に決めていたのかもしれない。
死を覚悟していたのかもしれない。
だからこそここまで整った姿勢で逝けたのではないだろうか。
...いや、誰かがここに運んできたのかもしれない。
だが、そうする理由が無い。
周りには他の遺体も無ければ痕跡すらない。
あるのは座り込んだ女の像だけだ。
しかし、これは一体なんだろうか。

厚く積もった埃を咳き込みながら払うと灰色の女の像が現れた。
ぺたんと膝と足の内側の側面を地につけ腰を下ろしている。
いわゆる女の子座りというやつだろうか。
例の男の遺体の横にまるで男を看取るかのように設置されている。
もしかするとこの男は案外高位の研究者だったのかもしれない。
...まぁいい。
そんなことを考えたところで何か変わるわけでもあるまい。
この女の像から壊すこととしよう。

私がジープからバールを持って戻ってくると、相変わらず女は座り込んでいた。
当たり前といえば当たり前だが...
よくよく観察してみるとなかなかに美しい女だ。
いや、彫像なのだから美しいのは当たり前、か。
しかしこれは...美しいというよりかはあどけなさが残っている。
製作者はロリコンだったのかもしれない。
さて、ではさようなら。
私はバールを大きく振りかぶり、その彫像に叩きつけた。


確実に当たったはずだった。手ごたえもあった。
しかしそれは私の想像には反し傷1つ付かなかった。
当時の彫像はこんなにも頑丈なのだろうか。
彫像、ということは比較的加工しやすい素材を使用しているはずだが...
それともこれは鋳像か?
だとすると強靭な素材で作ったとしても...
しかしここは室内だ。そのような素材で作るメリットなどない。
それとも私が非力なだけだろうか。

『衝撃ヲ感知シマシタ
 スリープモードヲ解除シマス』

ふいに無機質な音声がだだっ広い室内に響いた。
スリープモード!?一体何のことだ?
それに衝撃を感知...
まさかこれは警備システムだったのか!?
それならばエネルギー保持のためにスリープモードになっていたとしてもおかしくは無い。今まで残っていたのにも頷ける。この男が侵入者だとすれば全て納得がいく!
だとすると不味い...不味いぞ!
当時の技術は今より遥かに強大だったはず...
凡人の私には施す手立ては無い!

『エネルギー出力復元...10%20%...50%』

そうだ!こいつが起動する前に逃げ出せばいいんだ!
すでにここには用はない。破壊してくれるならば一石二鳥というものだ!
私は走った。出口めがけて体力を振り絞り...

『エネルギー復元完了 起動シマス』

駄目だっ!まだまだ出口は遠い!ならば!
私は頭を抱えて伏せた。
...しかしいつまで経っても何も起こらない。
ずっと伏せ続けて、床の冷たさが体温のぬくもりに変わり、伏せているのが馬鹿馬鹿しくなってきたころ、私はやっと後ろを振り返ることが出来た。
褐色の肌の女がしゃがみ込み、私を見下ろしていた。
やけに露出度の高いプロテクターを身に着け、金髪に赤い瞳。
予想外の出来事に呆然としていると女が口を開いた。

「あなた、私、ご主人様?」
「.......はぁ?」

思わず間抜けな声が出てしまった。
女は再度同じ質問を投げかけた。
助詞や接続詞が欠けているため何が言いたいのか、把握しあぐねたが、
何度も聞いているうちに
「あなたはご主人様ですか?」
と問いかけられている気がしてきた。

「そ...そうではない。私は侵入者だ」

私はカラカラに乾いた唇を潤し、やっとの思いでそう答えた。
するとその女は首をかしげた。

「侵入者...?」

どうやらこの女は警備員ではないようだ。
ほっとしたのもつかの間、女はまた口を開いた。

「あなた、ご主人様、違う、部外者、排除」
「ぐうっ....」

言うなり視界が反転し、気が付けば胸倉をつかまれ締め上げられていた。
とても女とは思えない怪力だ。
いくら私が痩せているとはいえ大人1人の体重を軽々と持ち上げるとは...
く...苦しい...

『戦闘モードニ切替...完了
 対人武器ヲ起動シマス』

なにやら無機質な音声が聞こえ女の腕が揺らいだかと思うと、ブウゥゥンという振動音が聞こえ、首筋に痛みが走った。
首は動かさずに視線を下に下げるとそこにはSFの世界に出てくるようなビームソードのようなものが添えられていた。
細かに振動しわずかながら青白い光を放っている。
当たってもいないのにすでに首筋が痛い。

今すぐにこの状況を覆さねば私は死ぬだろう。
いや、もう死んでも構わない。
私の生きる目的は既に潰えた。
それに夢にまで見たこの場所で逝くのも悪くない。
私は抵抗を止め、腕の力を抜き、首をうな垂れた。
青白いほのかな光がかすり激しい痛みが走った気がした。
私はここで死ぬのだ。夢と共に逝ける。幸せじゃないか。
けれども、何故だか液体が頬を伝った。
嬉しくはない。だとしたら悲しいのか?
これ以上幸福なことは無いだろうと思ったのに何故悲しいのか。
自身に問いかけた。分からない。

突然私を拘束していた力が消え、私は冷たい床にたたきつけられた。
受身を取れなかったせいか身体中、主に足が痛い。
何が起こったのかわからず、私は女を見上げた。

『エラーコード エラーコード
 敵ノ戦意喪失ヲ確認 理解不能
 記憶領域ニ重大ナ エラー ガ発生 緊急停止』

古の警備員は理解不能になるだけで停止するのか...
不良品だな...
なけなしの勇気と無理に張っていた気が抜けたせいか周囲がぼやけてきた。
幼い頃に見たアニメで満身創痍の主人公が気を失って倒れるというシーンがあったが、まさにこういうことだったんだろうか。
と、どうでもいいことを考えながら私の意識は徐々に薄れていった...

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「....っ」
ここは...どこだ?
私の研究室の天井ではない。
...そうか。私はあの研究所で意識を失って...

何故まだ生きているんだ?
間違いなく死んだものと思ったのだが...
これは一体どんな幸運...いや、不幸なんだ?
夢を追い求めた挙句、失敗し、死のうにも死にきれない。
不幸にもほどがある。
いや、私が我儘なだけか。

ゆっくりと起き上がってみる。
妙にほこりっぽい。これは...ベッドだろうか。
私が寝ていたところは埃が払われていたものの、他のベッドには数センチの埃が積もっていた。さらに周りを見渡してみると、薬棚や多数のベッドが見て取れる辺り、診療室といったところだろうか。
それにしても一体誰が私をここに?

私は立ち上がり、何をするともなくうろうろし始めた。
床にも埃がつもり、一歩歩くごとにふわっと埃が舞った。
かなり長い間、使われていないようだ。
しばらくその埃を見つめているとその埃が前へ吸い寄せられるように舞った。
疑問に思い顔を上げるとドアが徐々に開いていくところだった。
不味い!
誰がその向こう側に居るのか、分からないがどの道私の仲間では無いはずだ。
とっさにきびすを返し、埃が大量に舞うのも気にせずベッドに突っ伏した。
コツコツ...と足音が聞こえる。
私はもう終わりだ。
死はとうの昔に覚悟していた。
この道に進めば理不尽な死に方をしても不思議ではない。
そう思っていた。思うのは簡単だった。
だが実際目の前にそれが迫ると恐ろしい。
警備兵に首を絞められた時はどうかしていた。
妙に落ち着いていた。
ああ、そうか。
誰に殺されるか分かっていたからかもしれない。
今、私は得体も知れない脅威に晒されている。
だから恐ろしいのかもしれない。
コツ...と、私の突っ伏するベッドの前で足音は止まった。
殺られる。
そう直感したその時。

「ご主人...様?」

例の、あの無機質な声が聞こえた。

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私の前にはあの妙な警備兵が鎮座していた。
あの後、私は彼女に手を取られて引かれるままにこの部屋につれてこられたのだ。
良く分からないがおそらく客間のようなものらしい。
研究所に客間、というのもおかしなものだが。

「ご主人様...?」

先ほどからこの言葉しか言わない。
何なのだコレは、と思いつつもそれに回答できないでいる。
違う、といえばまた先ほどのように絞殺されかねない。
いや、もう逝ってもいいのだがコレに一度助けられた命だ。
そう簡単に無碍にはしたくない。
というのも何故そんなことが分かるのかといえば私が質問したからだ。
「ここに私たち以外に人間は居るのか?」
と聞くと、
「あなた以外...居ない...」
という回答が帰ってきた。妙に引っかかる気がしないでもないがまぁいい。
とにかく目の前に座るソレと私以外に人が居ないなら、
私をベッドまで運んだのは彼女に他ならないのである。
それにしてもどうしたものか。
いつまでもここに居座る気はない。
が、今外に出ても完全に安全だといえるわけでもない。
今頃私の研究所では私を探して様々な人々が走り回っているはずだ。
こう見えて私の研究はそれなりのものだったのだ。
その責任者である私が消えたのだ。
おそらくそろそろ居場所、すなわちココを突き止められることだろう。
そうなればココも安全ではない。

「ご主人様?」

コレも巻き添えにするわけにはいかない。

「すまない。私はそろそろ行くよ」

「ご主人様...行く?」

「ああ、これ以上ここに居座るわけには行かない。
 私と一緒にいると危険だ。行きなさい」

「ご主人様...危険?」

本当なら一緒に来てほしいぐらいなのだがそれはできない。
彼女はおそらくシステムによりここに縛り付けられているはずだ。
それを無理やり引き剥がせば損傷してしまう。
傷物を連れて行くのは無謀だ。
それにもしこれが警備兵ならばむしろ出て行ってほしいほどのはずなのだ。
ならば回答はもちろん...

「私...行く」

そうここにとどm...ちょっと待て。今これは何と言った?

「私...一緒...行く」

どういうことだ!?何故だ!何故警備兵のはずのこれが私と共に行こうなどと...!
...待て、落ち着け。深呼吸だ。
.....
先ほど確かにこれは私と共に行くと言った。
ああ、分かった。なるほど。
私が余計なことをしないように見送るということか。
それなら分からないでもないな。

「いいだろう、付いて来い」

「...はい...!」

この時それはとても嬉しそうに微笑んだ。
何か不味いことをしてしまった気がしたが後の祭りだった。

研究所の出口が見えてきた頃、ふと何か音が聞こえてきた。
この音は...まさか...
不味い。思ったよりも早く嗅ぎつけられた。
今彼らに見つかっては不味い。
研究所には好きで籠もっていたわけではないし、あのようなかび臭いところに戻るのはごめんだ。
生きる目標がなくなったというのに妙に清々した気分だ。
もしかすると私は研究員気質ではなかったのかもしれない...
と、そんなことを考えている場合ではない。
いずれ彼らはここに侵入する。
そうなってしまえばもうここからの脱出は難しいだろう...
それにこれを連れていてはなおさら...

「ここで分かれよう」

自然と口から言葉が出た。
だがそれは...

「わか...れる...」

それの心を揺さぶった。
しまったと思い至った時既にそれの両の目から透明な液体が流れ出ていた。
頭が真っ白になり、自分が負われていたことの忘れ呆然とした。
何故だ?
私の胸中に疑問が浮かび上がった。
何故これは涙を流せるのだ?
警備兵、いや生命体ではそもそも無いはずなのだ。
にも関わらず人間のそれと等しい感情と動作を何故...

一体これは何者なのだ?

そして私の口から自然とあふれ出た言葉。
それは慰めではなく質問だった。

「お前は一体...何者だ?」


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私はそれに手を引かれ、休む間もなく走っていた。
向かう先は裏口。
驚いたことにこの研究所には地上にある入り口だけでなく、
様々なところに地上へ続く地下通路があるらしい。
だが当然何百年も前の話であるため既に塞がっているものも少なくないだろう。
その内、可能性が高そうなものを選び、片っ端から当たっているところである。

私の胸中は複雑だった。
それを用いれば...あるいは...

数分前、私はそれに尋ねた。
そして返ってきた答えは私の想像をはるかに超えるものだった。
それ...いや、彼女は警備兵などではない。
この研究所を創設した者によって作られし魔導人形、
すなわちゴーレムと呼ばれる存在であったのだ。
警備機械は自我を持たない。だがゴーレムは違う。
自我を持ち、主人に尽くす。
おそらくだがあの時、彼女の隣に横たわっていたのは彼女の主人であろう。
寿命、あるいは何らかの原因により命を落とした主人を看取って尚、
そのそばに仕えていたのであろう。
なんと健気か。
そして私なぞに起こされたのだ。
私には彼女の主人になる資格は無い、落ちぶれた研究者だ。
さぞ彼女の主人は立派な人物であったのだろう。
それに比べて私は...
いや、悲観的になっている時間は無い。
私は今、決断を迫られているのだ。
彼女の原動力は魔導力、魔力とは違い、それに人の手が加わり純粋なエネルギーに精製されたもの、それが魔導力、すなわちマナエネルギーだ。
彼女の体内には大量のマナエネルギーが込められている。
これを使えば...

いつのまにか自分の中に沈み込んでいた探究心が再び鼓動し始める。
なんと忌まわしいことか。
侵入者である私を救い、且つ逃げることに手を貸す者に尚残酷なことをしようとしている。
だが私も腐っても研究員だ。
すぐにでも彼女のマナエネルギーを奪い、研究を完成させたい。
長年ずっと思い描いてきたこと。
それがすぐ目の前にある。
だが...

私には出来ない。
私に良心が残っていた、というわけではない。
絶対に後悔する。そう思えた。
結局それは自分を保護するための手段であり、決して良心とは言いがたいものだ。
私は研究の完成を求めたのではなく、
単純に誰かに振り向いてもらいたかっただけなのかもしれない。
私は幼少から1人だった。
事故で親を亡くし、知り合いの家を転々とし、ある知り合いの研究所に預けられた。
よくある話だ。もっとも預けられる場所はことなるだろうが。
親の無愛想な知人は私に接することもほとんど無く、
毎日研究に打ち込んでいた。
そのころからだ。私が研究に興味を持ち始めたのは。
研究に打ち込めば1人を忘れられるから。
それにきっと一生懸命やれば彼も振り向いてくれるかもしれない。
しかし逆効果だった。
私の研究は予想以上に円滑に進み、
それは返って彼を焦らせる結末となった。
過労死。
目の前が真っ白になった。
これで正真正銘、私は一人ぼっちになった。
親戚からは死神と忌み嫌われ、知り合いからは一緒にいると死ぬと言われ...
幾度泣き明かしたことか。
それゆえ私は大きな力を欲した。
大きな力さえあれば、私は奴らに仕返しが出来ると。
今思えば愚かだった。
仕返しして何が面白いのか。
余計に忌み嫌われるだけだ。
けれど今までの努力は否定したくなかった。
それは無駄じゃないと言い張りたかった。
けれど私は1人なのだ。
誰にそう言えばいい?
私は...私は...

「うっ....」
「ご主人様?」

彼女の前で泣きたくは無かった。
だがそれは抑えることの出来ない奔流となり私の目からあふれ出た。

「わだじは...わだじはずっどひどりだっだ...」
「ご主人様...」
「でぼ...なんだろう...すごぐ.,.あだだがいよ」
「...わたし、も」
「わたし...ずっと...1人...ご主人様...いっしょ」
「ぞうか...ぞうだっだな...いっじょだ」

このまま彼女と共に消えてしまっても悪くない。
そう思えた。
もう1人は嫌だ。
それが分かる人が、たとえ人でなくとも共感できる相手が居るというのは
非常に心地よいことだった。
力はもう必要ない。
夢は今、叶った。

「私はもう1人じゃない」
「はい、ご主人様」
「共に行こう。どこまでも...」
「...はい!」
11/04/11 21:59更新 / 緑青

■作者メッセージ
ままよと思って書いたら感動モノ?になった。
気まぐれにもほどがある。

アフターストーリーを付け足すつもりなので。


ちまちま書いていたものです。
連続投稿になるんだろうか...ちょっと不安。

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