好きだらけな二人。
「あー……こりゃ完全に風邪だな」
魔王軍の砦の一室で、皮鎧に身を包んだ青年が苦笑いして言った。
その目の前には、鱗に覆われた大蛇の体をベッドからはみ出させながら女性がうつ伏せていた。
健康的な背中のラインにしっとりと汗を滲ませて、桃色の肌にツヤが出ている。
が、シューシューと鳴く髪の蛇もどこか力なさげで、その様子を見た青年は頬を掻く。
「……大丈夫か?」
「けほっ……、んなわけないでしょ……けほ、けほっ……」
普段であれば青年に噛みつかんばかりに罵詈雑言を並べる彼女も、少し辛そうに咳き込んでいる。
こりゃ重症だな……、茶化すように呟いて彼は腕を組んで渋い表情になる。
そっぽを向いたまま咳き込む彼女を気遣い、席を立つ。
立ち上がる彼の気配を察し、彼女はけほけほと咳き込みながら振り向く。
「ど、どこにいくのよネス……けほっ」
「俺がいたら休めねぇだろ? 俺ってばお喋りだし」
おどけたようにそう言い青年、ネスティ・アストレイは愛想笑いを浮かべる。
魔王軍には珍しい独身で、ベッドに伏せるメドゥーサのコレットの同期である。
無論、そんな彼を放っておく魔物が少ないわけもなく、毎日のようにアタックという名の襲撃を受けている。
当初はコレットの助力のおかげでその襲撃をやり過ごしていたという苦い思い出もあったりする。
そのおかげで気難しい彼女とは、比較的打ち解けている男である。
「けほっ、げほげほっ!」
「ほら、無理すんなって。医務室に看病呼びに言ってやるから」
咳き込む彼女をなだめ、ネスは部屋から出て行く。
待って、そう言おうとしたコレットの声は咳に掻き消され、彼の耳に届かない。
バタン、と閉じられた扉を恨めしく睨んで、コレットはポツリと呟いた。
「……一人にしないでよ、バカ」
◆
「んー……コレットのやつ大丈夫かなー」
ネスは扉を閉めて呑気に呟いて、赤い絨毯の敷かれた廊下を歩いていく。
廊下はぽつぽつと人や魔物が歩いており、その大半は二人組みを作っている。
仲睦まじく腕を組む者もいれば、恥ずかしそうに顔を合わせずに手を繋いで歩く者もいる。
「……医務室ってどこだっけ?」
そんなものに関心などないネスは全く気にせずに首を傾げる。
体力にしか取り柄のない彼には完全に無縁な場所なため、知る由などあるはずがない。
そんなネスに、彼と同じくペアのいない白髪の魔物が歩み寄る。
「あら、どうしたのネスティ?」
その絹のような白髪には、覆い被さるように悪魔のような黒い角が生えている。
背中からはアルビノを思わせる翼の存在感もあり、どこかカリスマめいたものも感じる。
この砦の総指揮をするリリムの、ミネアだった。
「あ、ミネア様。医務室ってどこスか?」
「医務室……? 見たところ外傷はないけど、風邪でもひいたの?」
「はい、コレットが」
たはは、と笑いながら告げるネスに、ミネアは猫のように目を細める。
面白い暇潰しを見つけた、そんな風に口元にうっすらと笑みを浮かべる。
「残念だけど、今日は医務室のダークプリーストは休暇よ。今ごろ魔界でよろしくやってると思うわ」
「え、マジッスか?」
「マジよマジ。だから貴方が看病なさい。ほら、早く行きなさい」
そう言って彼女はネスの背中を押し、半ば強引に送り出そうとする。
唐突な命令にどぎまぎしながら、彼は自分を指差す。
「お、俺ッスか? でも俺、看病の心得とか知らないッスよ」
「そんなのいいのよ。大事なのは気持ちよ気持ち」
それに、とミネアは楽しそうに唇を歪めながら言った。
「不安なら私が教えてあげるわ……っふふ」
◆
「へっくしっ! うぅ……悪寒が……」
ブルッと震える身体を抱いて、コレットは布団をかぶり直す。
ボーっとする頭は何も考えることができず、ただ一人部屋にいる寂しさが思考を埋めていた。
ネガティヴな思考は不安を呼び、益体もない不穏な想像が次から次へと思い浮かぶ。
例えば、このまま一人ぼっちで死んじゃうのかな、なんて。
(……ネスのバカ)
そのマイナス思考の中で思い浮かんだ、ライバルの名前に悪態をつく。
(心細いとか、寂しいとか言えるわけないじゃない……察してよ……)
けほけほと咳き込み、彼女は赤い顔を枕に埋める。
誰もいない部屋の中、じわりと浮かんだ涙が枕に沁みを作る。
その時だった。
「私は帰って来たぞぉ―――!」
唐突な扉を開ける音と、騒々しく部屋に入ってきた声にびくっと身をすくめる。
慌てて眼を擦りコレットが振り向くと、そこには中身が見えない籠を提げたネスの姿があった。
「ね、ネス!? な、何で!?」
「やー、なんか医務室が休みらしくてよ。代わりに看病に来た」
ベッドの傍に椅子を寄せて座り、彼は頬を掻きながら笑う。
そんな彼に頬が熱くなり、思わず緩みそうになった口元をコレットは慌てて引き締める。
風邪のせい顔が赤いおかげか、ネスにその羞恥は悟られなかった。
「……そ、そう。まぁ、折角だからお願いするわ」
「よし、じゃあ脱げ」
コレットがブッと噴き出した。
「はぁ!?」
「いいから脱げって。汗拭くだけだからよ」
そう言って籠から白いタオルを取り出し、ネスは呆れたように肩をすくめる。
そういうことか、と納得しかけ、コレットはぶんぶんと首を振った。
いや、おかしいだろと。
「なっ、何言ってのよバカ! 自分で拭けるわよ!」
「遠慮すんな、病人なんだから大人しく寝ろ」
その二言で抗議の声はバッサリと切られ、強引にもネスは彼女の服を剥ぐ。
風邪で弱っているせいか抵抗する間もなく剥かれて、コレットは手で胸元を隠して慌ててベッドに倒れこむ。
元より赤い顔は、羞恥のせいか林檎よりも赤い。
「うぅ……!」
「ほら、背中拭くぞ。肩の力抜けよー」
唸る彼女を歯牙にもかけず、彼は渇いたタオルを彼女の背中にふわりとかける。
それを優しい手つきで動かし、撫でるように艶やかな背中の汗を拭き取る。
そのどこか労わるような手つきを、コレットはますます赤くなる。
普段ぶっきらぼうな彼からは思いもよらない優しい撫で方だった。
「…………」
見上げてみると、意外と真剣な顔つきで背中を拭いていた。
何か下心でもあるのではないか、なんて思ったのが恥ずかしくなるほど真摯な態度。
それがヒシヒシと伝わってきて、コレットは俯いて強張った体の力を抜いた。
「……あ、ありがと」
もそもそと呟いた言葉は、届かなかったらしい。
そんな彼女の背中だけでなく、脇や腕、首周りなども丁寧に汗を拭き取られる。
所々くすぐったい箇所もあり、コレットは堪えきれずに声を出していた。
「ん……くふっ……ふ……んぅ」
自分の唇から漏れる艶っぽい声に、ボーっとした彼女の頭は意外なことに羞恥を感じなかった。
そして背面はしっかりと汗が拭き取られたのか、新たなタオルが彼女にかけられる。
「さすがに前は自分でやってくれ。俺にゃ無理だ」
苦笑と照れを足して二で割ったような顔つきで、ネスは頬を掻いていた。
コレットは一瞬だけ頼もうかと思ったが、真っ赤になってその思考を掻き消した。
体を起こしてネスに背中を向けて、タオルを手に取る。
おぼろげに視界が霞む頭を押さえて振り返り、真顔の彼に彼女は告げる。
「……見ないでよ?」
「見ねぇって」
ヒラヒラと手を振りながら彼も後ろを向き、肩をすくめていた。
その様子に唇を尖らせて、彼女は自分の体に白く柔らかな布地をあてがう。
ソフトな布の感触は自分で動かしてもこそばゆく、彼女はゆっくりと体を拭いていく。
その際にささやかな胸に目が行ってしまい、軽く落ち込む。
「終わったか?」
少し居心地悪そうな声にびくっと身を跳ねさせて、コレットは慌ててまだと答える。
風邪で頭がうまく働かないせいか、後ろにいたネスの存在を忘れていたらしい。
少し乱暴に胸からヘソの下まで慌てて拭き取り、彼女は薄い布団を体にかぶせて言った。
「も、もういいわよ……」
「早ぇな――って……、頼むから服着てくれよ……」
コレットが大雑把にかぶっただけの布団に、目を背けながら呆れたようにネスは頼む。
覆え切れていないヘソもそうだが、あられもなく見え隠れする胸が何よりも危うい。
大雑把に扱う彼も、常識は弁えているつもりだ。
「……ふ、服は汗で濡れて気持ち悪いから……」
「あー、じゃあ俺の上着貸すから、着れ」
そう言って、彼は皮鎧の上に着ていたジャケットを彼女に放り投げる。
そのぞんざいな渡し方にムッとしつつも、コレットはそれを素直に羽織った。
「……温かい」
「汗拭いたからな。布団のシーツも変えるから、悪いが立ってもらえるか?」
「うん……」
コレットは彼に言われるがままにベッドに手をついて立ち上がろうとする。
が、力が抜けたのか、かくんと肘が折れ曲がり、バランスを崩してしまう。
そのまま床に落ちそうになった彼女を慌てたようにネスが支えた。
ジャケット越しに力強く抱えられ、コレットの体が強張る。
「あっぶねぇ……、大丈夫か?」
「…………………………………」
腰に回された手は少し汗ばんでいて、緊張しきっている彼女にはそれを理解する余裕はなかった。
至近距離で抱えられ、吐息がかかる距離に彼女の頭はどんどん加熱する。
ネスは真っ赤な顔でフリーズする彼女の前で手を振るが、何の反応も返ってこない。
仕方なく耳元で、そっと囁いてみた。
「……Bカップ?」
「ッ!! Bで悪いかぁ!!」
「へ? え、ちょっ、折げげげ、折れる折れる折れるぅぅぅ……!!」
抱えられた状態で大蛇の体がぐるぐると彼に巻きつき、ミシミシと嫌な音を立てる。
弱っているとはいえ、渾身の力で締め上げられたらいかに鍛えた兵士と言えど苦しい。
「ちっちゃくて悪かったわね!! これでも苦労してんのよコノヤロォォ……!!」
「いでぇぇ……! ちょ、マジ折れる……、背骨が軋んでる音が聞こえるぅぅ……!」
青い顔で必死に言うネスに、コレットはギロリと殺意を込めて睨みつける。
近くに来て分かったが、彼の身体からは別の魔物の魔力が少し漂っていた。
ミネアが意図的につけた魔力に彼女が気付くわけもなく、締め付ける力は更に強くなる。
「しかも他の女の匂いまでつけて……! ちょっとでもときめいた私の期待を返せぇ!!」
「いだだっだだだ!? 何ゴレ!? こんなハグ歓迎してねぇんだけどぉぉ……!?」
キツい締め付けに足の力が抜け、ネスは崩れ落ちそうになる体をなんとかベッドまで持っていく。
自分が下敷きになるように倒れこみ、巻かれた体から逃れるようにもがく。
「うぎぎぎぎ……! やべ、ちょっと気持ち良く……なるわけねぇぇ……!!」
「あんたはいつもそうよ! 私の期待を裏切ることばっかして……!」
じわりと涙を滲ませながら、コレットは更に尻尾の拘束をキツくする。
隠していた思いが、ヤケになっているのか胸の奥から込み上げてくる。
そんな彼女に顔を向ける余裕もなく、ネスは疑問の声をあげた。
「あぁ……!? 俺がいつ期待を裏切ったってんだ……!」
「ずっとよ! 体拭いてくれて、ぶっきらぼうだけど優しくて嬉しかったのに……!」
ぽっ、とネスの頬に冷たい雫が落ちる。
それにようやく、彼はコレットが泣いていることに気づいた。
「私だけがネスを意識してて、こんなのバカみたい……!!」
いつの間にか緩んでいた締め付けに気付かず、ネスは驚いたように目を見開いていた。
ぼろぼろと涙を零すコレットを、初めて見たからだ。
子どものように嗚咽を漏らしながら目元を擦る勝気な彼女に、ズキリと胸が痛む。
どこか苦しそうに自分を見上げるネスに、彼女は続ける。
「どうせ、ネスは私のこと何とも思ってないんでしょ? だったら放っておいてよ!!」
そう言って離れようとするコレットの手を、ネスは無意識的に掴んで引き止めた。
申し訳なさそうな表情で歯を食い縛る彼に、コレットは俯く。
「何で、何で止めるのよ……! そうやって期待させるから……、諦めれないじゃな……っ!?」
彼女の言葉を遮るように、ネスは彼女の体を抱きしめた。
羽織っていたジャケットがはらりと落ち、露わになった裸体を隠すように彼が覆い被さる。
いきなりの、予想だにしていなかったネスの行動にコレットは涙に潤んだ目を丸くする。
「期待してんなら、少しは隙作れよ」
ボソッと耳元で、ネスが呟いた。
申し訳なさそうな声色なのに、どこか拗ねたような響きもあった。
「何とも思ってないって、んなわけねぇだろ。一緒に軍に入ったときから、ずっと意識してたっつの」
力強く抱きしめられた体に力が入らず、コレットは耳元で囁かれるネスの言葉に抵抗できなかった。
脱力した体に、小刻みな振動が伝わる。
「いつも助けてくれて、時々むちゃくちゃかわいくて、そんな同期を意識しねぇわけねぇだろ」
緊張して強張った彼の体は、かすかに震えていた。
そんな彼に涙が引っ込み、彼女はズズッと鼻を啜って質問した。
「何で……、言ってくれないのよ……」
「言ったろ……、隙がないって……」
もごもごと急に小さくなった声は、どうやら恥ずかしがっているらしい。
よく見ると耳が赤く、コレットは少し躊躇しながら先を促した。
「……俺はお前に世話になりっぱで、なのにお前はいっつも完璧なんだもん」
ガキの僻みみたいなもんだ、とネスは続けた。
普段あまりにも雑な態度を取っている彼らしくなく、恥じらいに消え入るような声だった。
そんな彼に、コレットは吐息を漏らした。
自分ばっかりが相手を好きだと思っていて、告白しようにも意地がそれを邪魔して、いざと言う時に拗ねて、
全くもって似たもの同士である。
「……じゃあ、今はどうなのよ」
コレットはベッドに体を預けて仰向けになっていて、ネスはそんな彼女に覆い被さるように押し倒している。
無防備に両腕は投げ出され、控えめな胸を隠そうともしない。
汗がしっとりと滲む形のいい乳房は、小さいかもしれないがとても柔らかそうだった。
顔も羞恥で真っ赤で、両目も涙で少し濡れている。
そんな彼女に、ネスの心が疼いた。
「隙、作ったわよ……?」
どこか期待したように、しかし不安そうにコレットはそう告げる。
確かに、隙だ。完璧なんて程遠い、無防備な姿だった。
ごくりと唾を飲み、ネスは真っ赤な顔で彼女を見下ろした。
「……お、おう」
ようやく、自分が何をしているかネスは気付いた。
先ほどまで、彼はその柔肌に抱きついていたのである。
恥らうところは、既に超えている。
自分にそう言い聞かせて、ネスは言い訳しそうになる自分に覚悟を決めさせた。
ガチガチに緊張しながら、彼はコレットの薄紅色の唇に自分の唇を押し付けた。
「っん……!」
「うむ……、ん」
子どものような唇を合わせるだけのキスに、コレットは彼の首に腕を回す。
そのままもっと深く唇が合わさるように腕を引き、彼の口内に躊躇なく舌を侵入させる。
いきなりの大胆な彼女に行動に目を丸くし、ネスの体が更に固く強張った。
そんな彼に遠慮するわけもなく、コレットの蛇舌が彼の舌を絡めとる。
「んぁ……ぇる、れる……んちゅ」
「………………!」
舌だけではない。歯を、口腔を這いまわる舌の動きにネスは背筋がゾクゾクとする。
唾液と唾液が混じりあい、どこか不思議な味を感じる。
「ちゅ……ちゅうぅぅぅ!」
唐突に吸われ、ネスの舌がコレットの口の中に引っ張り込まれる。
これでは、襲っているのか逆なのか分かったものではない。
思考の蕩けるネスの足に、緩んでいた蛇の体が巻きつく。
抵抗をすることも忘れ、ネスはそのままコレットに身を預けるように覆い被さる。
「んは……、ほら、もっと唾液ちょうだいよネス……んっ♥」
そう言って、貪るように唇を深く繋げなおすコレット。
元気がなかった髪の蛇たちもネスに近づき、頬擦りしたり舌で舐めたりと好意を露わにしている。
カプリと甘噛する蛇に正気に戻り、ネスも彼女に合わせて舌を動かす。
「んむぐっ、……んっ……ちゅ」
「んぢゅ、……れる、れる……ぁむ♥」
合わさった唇同士が蕩けるように熱くなる。
ぎこちないながらも舌を絡めるネスに、コレットの瞳がとろんと官能の色を帯び始める。
瞼を閉じて気恥ずかしさに耐えるネスは、そんな彼女に気付かず彼は積極的に舌を絡めようとする。
が、メドゥーサである彼女に舌技で敵うはずもなく、逆にねじ伏せられる。
「んんっ、んんん――――!」
「ぁんむ、ちゅちゅっ、ぇる……っぷぁ……♥」
じたばたと暴れようとするネスの頭をがっちりと押さえ、コレットは一方的に舌を這わせる。
しばらくの間、彼の口内を蹂躙し彼女の唇が甘い吐息と共に離れる。
糸を引いた唇を拭い、ネスは恥ずかしそうに薄目を開ける。
「……あの……い、今更かもだけど……その、好き……です」
つっかえながら耳まで真っ赤になって、ネスは呟くように言った。
その言葉を咀嚼するように、しばらくボーっと彼を見上げていたコレットの頬が徐々に緩む。
そして甘えるように彼に抱きつき、自然と笑いながら彼女も告げた。
「あはっ……、私も好きよ、ネス♪」
「……何でそうサラッと言えるんだお前は……」
少し恨みがましそうに涙目で睨みつける彼に微笑ましくなりながら、彼女は抱きつかんと彼を引き寄せる。
そこでようやく今更のように、彼が未だに皮鎧を着ていることに気付いた。
それをジト目で睨みながら、コレットはパチッと指を鳴らす。
皮鎧の隙間で結んであった紐が一気に解け、ボトッとベッドの外に落ちる。。
「これでよし……っと」
そう言って、彼女は改めて密着するように抱きつく。
しっとりと濡れた裸体が、薄い布越しに組み付いてきてネスが強張る。
背中に回された手が無遠慮に服の下から潜りこみ、素肌をひんやりとした彼女の手が撫でる。
「んふふ、あんた細い割にしっかりしてるわね♪」
「……あ、あぁ」
ゾクゾクとした快感に声を出さまいと、ネスは端的に答える。
ささやかながらも押し付けられた胸は、自分の胸板に押し当てられて潰れている。
予想以上の柔らかい感触に、彼は頭が沸騰しかかっていた。
「……あら♪」
ズボン越しに、怒張が彼女に触れる。
それを見て喜色満面になり、彼女は慣れた手つきでズボンをずり下ろした。
「ちょ……ッ!?」
いきなり涼しくなった下半身に、ネスが抗議の声をあげようとする。
それを遮るように、イタズラっぽく微笑んだ彼女の人差し指が唇に当てられる。
「恥ずかしくないわよ、私もあんたでよく想像してたし」
「…………なッ、ちょっ、えッ!?」
唐突の暴露に、ネスが素に戻って仰天する。
想像―――要するに裸で交わりあっている自身とコレットの姿が浮かぶ。
そういう風にさえ思われていた事実に、彼は驚いた。
肉欲まで求めていなかった彼だが、相手は魔物なために想像したことがなかったわけではない。
その反応にコレットはニヤニヤと嫌らしい笑みになり、ネスが赤くなる。
「ネス、純情過ぎ……♪」
「どっ、同期相手にそこまで考えるか……!」
「ずっと意識してたのに……?」
「……………………ッ!」
完膚なきまでに追い込まれ、ネスは涙目でコレットを睨みつける。
それに満足したように艶っぽく微笑み、彼女は彼の陰茎をそっと掴む。
滾る怒張に手汗の滲む指が這い、ネスはびくっと震える。
「私とネスが軍に入ってから、ずっと我慢してたんだからいいよね……?」
「…………はぁ」
諦めたようにため息を吐いて、ネスはこくんと頷いた。
告白しても何も変わらず、やはり彼女にリードされるのかと思うと、ため息も吐きたくなるだろう。
そんな彼の肩に顎を乗せて、彼女の秘部がまず亀頭に触れる。
敏感な先端が膣の入り口を掻き分けていく感触に、ネスはコレットにぎゅっとしがみつく。
「んっ、ぐぅ……!」
「ふっ、ぅぅぅ……!」
何の抵抗もなくぬめりの強い膣内に男根が沈んでいき、二人は堪えきれない息を漏らす。
ただ、熱い。
二人が繋がった部分が滾るように熱く、体まで火照ってくる。
コレットだけでなくネスも汗が滲み、彼も彼女を抱きしめるように背中に手を回す。
「っぁ……、こ、コレット……!」
完全に挿入った性器の心地よさに、ネスは彼女の名前を呼ぶ。
「だ、大丈夫か……? 初めては、キツいって聞くけど……!」
快感に震えながら気遣うような声に、コレットの胸にじわりと温かいものが広がる。
劣等感を覚えながら自分を好いてくれた彼は、こうやっていつも彼女を支えてきた。
辛い時にいつも手を貸してくれるネスにますます疼き、コレットは唾液に濡れた唇を彼の首筋に当てる。
「ぅあ……っ!?」
「んんっ、れる、ぴちゃ、ぢゅるっ、ぢぅぅぅぅ……!」
首筋に温かい舌が這い、ネスの口から嬌声が漏れる。
コレットも円を描くように腰を動かし、彼の亀頭をぐりぐりと子宮口に押し当てる。
その動きに膣肉が広げられ、濡れた蜜壺が淫乱な音を出す。
「んふぅ……ぁふ、ぴちゃ、ぇる……♥」
ときおり甘い嬌声を漏らしながら、その間も首筋を舐めつづける。
苛むようなじれったい刺激に、ネスは身をよじらせる。
ゆっくりと確実に追い込まれる、そんなゾワゾワとした感覚が脳内を侵す。
「鬼かお前は……ッ!」
「蛇よ私は……んちゅ♥」
端的に答えて、首筋にキスをするコレット。
ねちっこい動きで亀頭を弄り、熱い愛液の絡んだペニスを膣が緩く締める。
生殺しのようで嫌らしい動きに、慣れないネスはそれでも限界が近づいてくる。
それを更に咥えこむように深く腰を沈め、コレットは首筋をようやく解放する。
「出すなら奥よ……、濃いのいっぱい、ちょうだいね……♥」
「な、んでお前、そんな余裕な……!」
嗜虐的な笑みを浮かべながら下唇を舐めるコレットに、ネスは理不尽な差を覚える。
腰に回された手が彼をがっちり固定し、ぬめりけのある膣がぎゅっと締まる。
逃げることも叶わずにその快感に、ネスの頭が真っ白になった。
どびゅっ、びゅっ、びゅるるるるっ!
迸った白濁が蜜壺を奔り、子宮へと注がれる。
相当な量の精子がどくどくと注がれ、コレットは恍惚に浸った顔でかすかに震える。
「あぁ……ネスの濃いのがいっぱいぃぃぃ……♥」
「っはぁぁぁああ………」
深く息を吐くネスは、脱力したように彼女の背に回していた手をだらりと下げる。
射精の勢いがようやく止まり、彼女は蕩けた笑みを浮かべながら彼の肩を押した。
完全に気を抜いていたネスがぐらりとバランスを崩し、今度は彼女が上から見下ろすような形になる。
組み敷かれるようなその体勢に、ネスはボーっとしたようにコレットを見上げる。
「まだ、まだまだ足りないわ……、もっと、もっともっとぉ……♥」
「…………………へ、ぇ?」
情けなく緩んだ顔で自分を見上げるネスに、コレットは情欲にまみれた目で見下ろす。
その視線にようやく正気に戻り、彼は自分が置かれた状況を冷静に分析した。
蛇に睨まれた蛙、そんな構図である。
「あ、あのー……こ、コレットさん?」
「はぁ……はぁ……♪」
引き攣った笑顔で尋ねるが、返事ではなく淫らな荒い息だけが返ってくる。
逃れようにも蛇の尻尾はしっかりと彼の足に巻きついたままで、男根も彼女の蜜壺に収まったままだ。
そして唐突に、コレットの荒い息が何かを思い出したかのようにぴたりと止まる。
ゆっくりと伸びてきた彼女の手がネスの頬を撫で、捕食者の目がスッと細まる。
「ねぇ……、ネスから他の女の匂いがするんだけど……」
(あ、死んだ)
情欲に濁った瞳に、ネスの引き攣った笑顔が凍りつく。
ぬちゃ、と淫らな水音が陰部から響き、彼の体が快感に少し跳ねる。
が、そんな彼を押さえるようにコレットの両手が彼の頬を挟む。
至近距離から黄金色の、どこか淫靡な色を含んだ視線に心まで覗き込まれそうになる。
「ネスは、私のこと好きなのよね……?」
不意に、彼女の眼が光る。
ピシピシと硬質な音が響き、ネスの手足が石化し始める。
指先から徐々に石になっていく自分の体に恐怖し、ネスは慌ててコクコクと頷く。
「好き好き! マジ愛してる! 疚しいことなんて何もしてないぞ!?」
指先がツツー、と頬を撫でる感触に冷や汗が止まらない。
石化は腕と足の付け根まで進み、満足に動くことができなくなる。
「そう……まぁ、今回はちょっと心当たりもあるし許すわ」
そこでようやくコレットは目を伏せて、石化が止まる。
その反応に安堵し、ネスはふーっと深く息を吐く。
が、唐突に淫猥な音をたててペニスが嬲られ、快感にビッと背筋が伸びる。
少しだけ腰を引いた彼女はニッコリと笑っていたが、その目は相変わらず笑っていなかった。
「でも……、浮気したらどうなるかちょっと教えてあげる……」
「いや浮気なんてしなぁっぁあああ!?」
ズン、とコレットが一気に腰を下ろす。
未だにいきり勃った怒張が、ぬめった膣肉を勢いよく掻き分けその快感にネスの声が跳ねる。
無論、それだけで終わるわけがなく、彼女は立て続けに腰を振る。
精子と愛液にぬめった接合部が、何度も何度もぶつかり合う。
「あっ、ちょ……ッ、待ァ……!?」
最初の嬲るようなじれったい動きではなく、かなり激しい動きにネスはまともに喋れない。
しっかりと巻きつかれた上に四肢は石化して抵抗すらロクにできず、彼は容赦なく責められる。
引き抜く寸前まで引いては、股間部がぶつかり合う勢いで腰を沈めるコレット。
敏感な奥に何度も何度も屹立した先端が当たり、彼女の口からも甘い嬌声が零れる。
「はぁっん、あ、イィ、おくっ、奥に当たってぇ……♥」
「ちょ、コレット……、ひぁッ……、これ、頭おかしくなるぅ……ぅぐ!」
コツコツと何度も子宮口に亀頭が当たり、その度に膣がキュッと彼の男根を甘く締め付ける。
そのまま引き抜く腰の動きにカリが引っ掛かり、激しい刺激がネスの頭を満たす。
そんな彼の唇にむしゃぶりつくように、再びコレットの唇が強く押し付けられる。
いきなりのその動作に目を丸くする彼の唇に割り込むように、彼女の舌が捻じ込まれる。
「ん、んぢゅっ、れりゅ、ぁむっ、ぢゅるっ♥」
「んむっ、んんっむ、むぅぅ……!?」
頬を挟む両手に押さえられ、唇が潰れるほど深く合わさる。
その唇の隙間から淫らな音が漏れ、ネスの驚愕が官能に溶けてゆく。
無理矢理に押さえ込まれた腰も何度も打ち付けられ、早くも限界が近づく。
「んはっ、こ、コレット……、も、もう……んぐむ!」
唇が少しだけ離れるが、再びぶつかるように深く合わさる。
勢いが良すぎたのか歯と歯がぶつかりガチッと音を立てるが、ネスはそれどころではない。
ひくひくと震える彼の亀頭を感じ取ったのかぐりぐりと子宮口を押し当てる快感に、必死に堪える。
そんな彼に我慢などさせる気がないのか、コレットの膣が一際強く締まる。
その甘い締め付けに、耐えられるはずがなかった。
「んぐっ、んむぅぅぅ……!?」
どくっ、っびゅ、びゅるるるるる!
二度目であるにも関わらず衰えない奔流が、再び彼女の膣を白く染め上げる。
ごぷごぷと粘った水音を立てて白濁が溢れるが、彼女は構わずに子宮口を彼の亀頭に押しつける。
射精したばかりの敏感な先端を容赦なく責められ、ネスの体がびくっと跳ねる。
「んぢゅっ、ちぅ、れる、ぁんむ、ぢゅっぢゅっ、ぇるっ♥」
「んぁんッ、ん、んむッ、んッ!?」
逃がす気など毛ほどもなく、がっちりと頬を押さえたまま活発に彼の口内を舐め回す。
喉にチロチロと舌が触れるたびに恍、ネスは惚に身を震わせる。
少し長く感じられた射精が終了し、淫靡な水音とともにコレットが腰を引く。
それに油断する間もなく、ばちっと彼女は勢いよく打ち付けるように腰を沈める。
「んむぁっ!?」
絶頂したてのそう時間も立っていない敏感な部位への耐えがたい快楽に、塞がれた唇から嬌声が漏れる。
先程よりもふり幅が小さくはあるものの、コレットはほぼ怒張を沈めた状態で腰を振る。
ずちゅずちゅと耳にこびりつくような水音に、本格的にネスの思考が快楽に溺れ始める。
子宮口を細かく何度も小突く屹立の刺激に、普段の自分からは考えられない卑猥な声が出る。
「ひぅ……んぁ、んんっ、ふむぅ……うッん!」
「れるっ、んむ、ぢゅっ、ぢゅぅぅ、れろぉ、れりゅっ、ちゅ、ちゅる♥」
精液と愛液に満たされた膣内に扱かれ、耐えがたい刺激は止まることがない。
ただその快感に身を任せ、彼自身も無意識的に腰を振り始める。
蜜壺を捏ね回すような彼の予想外な腰の動きに、コレットは思わず舌の動きが止まってしまう。
「ん、んんっ、っぷぁ、あ、は、はぁっ♥」
濃厚に交わっていた唇が離れ、てらてらと嫌らしく光る糸を引く。
が、いきなり膣の敏感な部分を擦るような彼の動きに、コレットはそれどころではない。
「あ、ふぁ、ちょ、ま、待っ、ふぁうっ♥」
性感帯を的確に刺激され、彼女は我慢できずにネスにしがみつく。
いきなりの形勢逆転に戸惑う間もなく、彼がズチュッと彼女の最奥部に隆起した肉棒を突きたてる。
「あ、ん、しゅ、しゅごいぃぃ……♥」
ガクガクと震えながら快楽に浸り、コレットの彼に抱きつく力が緩む。
それと同時に、彼の手足の石化が治った。
脱力のせいか、絶頂のせいか、元に戻ったネスはその手を彼女の背中に回す。
逃がさないようにキツく抱きしめ、彼はぐちゅぐちゅと彼女の秘部を掻き回すように腰を動かす。
「ひゃあぁ、ねすっ、ネスぅぅ……わたし、もうぅ……♥」
「お、れも……限界近ぇかも……!」
震える声でそう告げ、グッとネスは腰を突き出す。
子宮口に亀頭が当たり、蜜壺を貫かれたコレットは涎を垂らしながらビクビクと恍惚に打ち震える。
それに応じて膣が収縮し、彼のイチモツを甘く締める。
ごぶっ、びゅ、びゅぅぅっ!
それだけで、彼は三度目の限界を迎えた。
コレットの華奢な体を抱きすくめ、どくどくと彼女の蜜壺に精を迸らせる。
「ぁ……くぅぅぅ……」
「あぅぅ、濃いよぉ……熱いよぅぅ……♥」
くったりと脱力した体をネスに預けて、彼女はふるふるとその身を震わせる。
蛇の体も完全に力が抜けたようで、巻きつきもかなり緩くなっていた。
のしかかるコレットの体を抱きしめ、ネスはボーっとしながら遠い天井を見上げる。
(あ……れ……?)
不意に、その視界が霞む。
激しい性交による衰弱のせいか、彼の意識が薄れつつあった。
心地の良いその疲労感に身を委ね、ネスは深い眠りに落ちた。
◆
「あら、コレット? 風邪はもういいの?」
後日、砦の廊下でコレットはミネアに声をかけられる。
その声に驚いたかのようにびくっと跳ね、恐る恐る彼女は振り返った。
「な、なにゆえにご存知で……?」
「昨日ネスティが言ってたからよ。ま、その様子なら大丈夫そうね」
彼女の言っていた心当たりは、予想的中していた。
自分を裸に剥いて体を拭くなんて、あの極端な照れ屋が積極的にやるわけがない。
となるとけしかけた本人がいるとすれば、彼女にはミネアしか思い浮かばなかった。
ニヤニヤと嫌らしい微笑みからプイッと視線を逸らし、コレットは気恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。
「えぇ……まぁ。ネスの看病のおかげで……」
「あ、全部見てたから言い訳しなくてもいいわよ? カップル成立おめでとう〜♪」
「……え゙っ!? 全部見てた!?」
パチパチとやる気なさそうに拍手するミネアに、コレットは目を丸くする。
「えぇ、ちょっと彼に細工してしっかりねっぷりフルで見せてもらったわ」
「ああああああ、悪趣味っ! ネスに変なことしないでよ!」
真っ赤な顔で抗議を申し立てるが、ミネアはクスクスとおかしそうに笑うだけである。
一しきり文句を言って深く息を吐いて、コレットはようやく落ち着く。
未だに羞恥が抜けきっていない彼女に、ミネアは艶っぽく微笑んで両手を合わせた。
「ごめんねぇ? じれったかったからつい、ね?」
「……いいですよ、もう。おかげ様で風邪も治りましたし」
建前としては礼を言っているが内心は納得しきれていない彼女に、ミネアは若いわねと笑う。
「ところでその旦那様は? 良ければちょっと二人に長いお休みでもあげようかと思ったんだけど……」
きょろきょろと廊下の周囲を確認するミネアだが、肝心のネスの姿は見えない。
二人のことだから今日もべったりだろうと思っていた予想は、完全に外れてしまった。
その疑問にコレットはバツが悪そうに頬を掻き、気まずそうに答えた。
「あぁー……その、えと……、か、風邪をひいてしまったようで……」
「…………………………あー、そりゃ伝染るわよね」
納得したようにポンと手を叩き、ミネアは呆れたような笑顔になる。
風邪の女と抱き合ったまま布団もかぶらずに寝てれば風邪もひく。
廊下の奥の部屋から、へぶしっ、とくしゃみが聞こえたような気がした。
「まぁ……そんなわけで今日は私が看病しようかと……」
「えぇ、分かったわ。同じこと繰り返してぶり返さないでね?」
「しませんよ、んなアホな!」
大きな声でそう言うコレットから逃げるように手を振って、ミネアは廊下の奥へ飛んでいく。
それを深々とため息を吐いて見送り、彼女は魔王軍御用達のキッチンへと向かう。
いずれは彼に食べてもらいたいと磨いた料理の腕で、体の温まるお粥を作るために。
「えへへ……美味しいって言ってくれるといいな♪」
気分が弾むささやかな胸に手を当てて、彼女は廊下の角を曲がった。
魔王軍の砦の一室で、皮鎧に身を包んだ青年が苦笑いして言った。
その目の前には、鱗に覆われた大蛇の体をベッドからはみ出させながら女性がうつ伏せていた。
健康的な背中のラインにしっとりと汗を滲ませて、桃色の肌にツヤが出ている。
が、シューシューと鳴く髪の蛇もどこか力なさげで、その様子を見た青年は頬を掻く。
「……大丈夫か?」
「けほっ……、んなわけないでしょ……けほ、けほっ……」
普段であれば青年に噛みつかんばかりに罵詈雑言を並べる彼女も、少し辛そうに咳き込んでいる。
こりゃ重症だな……、茶化すように呟いて彼は腕を組んで渋い表情になる。
そっぽを向いたまま咳き込む彼女を気遣い、席を立つ。
立ち上がる彼の気配を察し、彼女はけほけほと咳き込みながら振り向く。
「ど、どこにいくのよネス……けほっ」
「俺がいたら休めねぇだろ? 俺ってばお喋りだし」
おどけたようにそう言い青年、ネスティ・アストレイは愛想笑いを浮かべる。
魔王軍には珍しい独身で、ベッドに伏せるメドゥーサのコレットの同期である。
無論、そんな彼を放っておく魔物が少ないわけもなく、毎日のようにアタックという名の襲撃を受けている。
当初はコレットの助力のおかげでその襲撃をやり過ごしていたという苦い思い出もあったりする。
そのおかげで気難しい彼女とは、比較的打ち解けている男である。
「けほっ、げほげほっ!」
「ほら、無理すんなって。医務室に看病呼びに言ってやるから」
咳き込む彼女をなだめ、ネスは部屋から出て行く。
待って、そう言おうとしたコレットの声は咳に掻き消され、彼の耳に届かない。
バタン、と閉じられた扉を恨めしく睨んで、コレットはポツリと呟いた。
「……一人にしないでよ、バカ」
◆
「んー……コレットのやつ大丈夫かなー」
ネスは扉を閉めて呑気に呟いて、赤い絨毯の敷かれた廊下を歩いていく。
廊下はぽつぽつと人や魔物が歩いており、その大半は二人組みを作っている。
仲睦まじく腕を組む者もいれば、恥ずかしそうに顔を合わせずに手を繋いで歩く者もいる。
「……医務室ってどこだっけ?」
そんなものに関心などないネスは全く気にせずに首を傾げる。
体力にしか取り柄のない彼には完全に無縁な場所なため、知る由などあるはずがない。
そんなネスに、彼と同じくペアのいない白髪の魔物が歩み寄る。
「あら、どうしたのネスティ?」
その絹のような白髪には、覆い被さるように悪魔のような黒い角が生えている。
背中からはアルビノを思わせる翼の存在感もあり、どこかカリスマめいたものも感じる。
この砦の総指揮をするリリムの、ミネアだった。
「あ、ミネア様。医務室ってどこスか?」
「医務室……? 見たところ外傷はないけど、風邪でもひいたの?」
「はい、コレットが」
たはは、と笑いながら告げるネスに、ミネアは猫のように目を細める。
面白い暇潰しを見つけた、そんな風に口元にうっすらと笑みを浮かべる。
「残念だけど、今日は医務室のダークプリーストは休暇よ。今ごろ魔界でよろしくやってると思うわ」
「え、マジッスか?」
「マジよマジ。だから貴方が看病なさい。ほら、早く行きなさい」
そう言って彼女はネスの背中を押し、半ば強引に送り出そうとする。
唐突な命令にどぎまぎしながら、彼は自分を指差す。
「お、俺ッスか? でも俺、看病の心得とか知らないッスよ」
「そんなのいいのよ。大事なのは気持ちよ気持ち」
それに、とミネアは楽しそうに唇を歪めながら言った。
「不安なら私が教えてあげるわ……っふふ」
◆
「へっくしっ! うぅ……悪寒が……」
ブルッと震える身体を抱いて、コレットは布団をかぶり直す。
ボーっとする頭は何も考えることができず、ただ一人部屋にいる寂しさが思考を埋めていた。
ネガティヴな思考は不安を呼び、益体もない不穏な想像が次から次へと思い浮かぶ。
例えば、このまま一人ぼっちで死んじゃうのかな、なんて。
(……ネスのバカ)
そのマイナス思考の中で思い浮かんだ、ライバルの名前に悪態をつく。
(心細いとか、寂しいとか言えるわけないじゃない……察してよ……)
けほけほと咳き込み、彼女は赤い顔を枕に埋める。
誰もいない部屋の中、じわりと浮かんだ涙が枕に沁みを作る。
その時だった。
「私は帰って来たぞぉ―――!」
唐突な扉を開ける音と、騒々しく部屋に入ってきた声にびくっと身をすくめる。
慌てて眼を擦りコレットが振り向くと、そこには中身が見えない籠を提げたネスの姿があった。
「ね、ネス!? な、何で!?」
「やー、なんか医務室が休みらしくてよ。代わりに看病に来た」
ベッドの傍に椅子を寄せて座り、彼は頬を掻きながら笑う。
そんな彼に頬が熱くなり、思わず緩みそうになった口元をコレットは慌てて引き締める。
風邪のせい顔が赤いおかげか、ネスにその羞恥は悟られなかった。
「……そ、そう。まぁ、折角だからお願いするわ」
「よし、じゃあ脱げ」
コレットがブッと噴き出した。
「はぁ!?」
「いいから脱げって。汗拭くだけだからよ」
そう言って籠から白いタオルを取り出し、ネスは呆れたように肩をすくめる。
そういうことか、と納得しかけ、コレットはぶんぶんと首を振った。
いや、おかしいだろと。
「なっ、何言ってのよバカ! 自分で拭けるわよ!」
「遠慮すんな、病人なんだから大人しく寝ろ」
その二言で抗議の声はバッサリと切られ、強引にもネスは彼女の服を剥ぐ。
風邪で弱っているせいか抵抗する間もなく剥かれて、コレットは手で胸元を隠して慌ててベッドに倒れこむ。
元より赤い顔は、羞恥のせいか林檎よりも赤い。
「うぅ……!」
「ほら、背中拭くぞ。肩の力抜けよー」
唸る彼女を歯牙にもかけず、彼は渇いたタオルを彼女の背中にふわりとかける。
それを優しい手つきで動かし、撫でるように艶やかな背中の汗を拭き取る。
そのどこか労わるような手つきを、コレットはますます赤くなる。
普段ぶっきらぼうな彼からは思いもよらない優しい撫で方だった。
「…………」
見上げてみると、意外と真剣な顔つきで背中を拭いていた。
何か下心でもあるのではないか、なんて思ったのが恥ずかしくなるほど真摯な態度。
それがヒシヒシと伝わってきて、コレットは俯いて強張った体の力を抜いた。
「……あ、ありがと」
もそもそと呟いた言葉は、届かなかったらしい。
そんな彼女の背中だけでなく、脇や腕、首周りなども丁寧に汗を拭き取られる。
所々くすぐったい箇所もあり、コレットは堪えきれずに声を出していた。
「ん……くふっ……ふ……んぅ」
自分の唇から漏れる艶っぽい声に、ボーっとした彼女の頭は意外なことに羞恥を感じなかった。
そして背面はしっかりと汗が拭き取られたのか、新たなタオルが彼女にかけられる。
「さすがに前は自分でやってくれ。俺にゃ無理だ」
苦笑と照れを足して二で割ったような顔つきで、ネスは頬を掻いていた。
コレットは一瞬だけ頼もうかと思ったが、真っ赤になってその思考を掻き消した。
体を起こしてネスに背中を向けて、タオルを手に取る。
おぼろげに視界が霞む頭を押さえて振り返り、真顔の彼に彼女は告げる。
「……見ないでよ?」
「見ねぇって」
ヒラヒラと手を振りながら彼も後ろを向き、肩をすくめていた。
その様子に唇を尖らせて、彼女は自分の体に白く柔らかな布地をあてがう。
ソフトな布の感触は自分で動かしてもこそばゆく、彼女はゆっくりと体を拭いていく。
その際にささやかな胸に目が行ってしまい、軽く落ち込む。
「終わったか?」
少し居心地悪そうな声にびくっと身を跳ねさせて、コレットは慌ててまだと答える。
風邪で頭がうまく働かないせいか、後ろにいたネスの存在を忘れていたらしい。
少し乱暴に胸からヘソの下まで慌てて拭き取り、彼女は薄い布団を体にかぶせて言った。
「も、もういいわよ……」
「早ぇな――って……、頼むから服着てくれよ……」
コレットが大雑把にかぶっただけの布団に、目を背けながら呆れたようにネスは頼む。
覆え切れていないヘソもそうだが、あられもなく見え隠れする胸が何よりも危うい。
大雑把に扱う彼も、常識は弁えているつもりだ。
「……ふ、服は汗で濡れて気持ち悪いから……」
「あー、じゃあ俺の上着貸すから、着れ」
そう言って、彼は皮鎧の上に着ていたジャケットを彼女に放り投げる。
そのぞんざいな渡し方にムッとしつつも、コレットはそれを素直に羽織った。
「……温かい」
「汗拭いたからな。布団のシーツも変えるから、悪いが立ってもらえるか?」
「うん……」
コレットは彼に言われるがままにベッドに手をついて立ち上がろうとする。
が、力が抜けたのか、かくんと肘が折れ曲がり、バランスを崩してしまう。
そのまま床に落ちそうになった彼女を慌てたようにネスが支えた。
ジャケット越しに力強く抱えられ、コレットの体が強張る。
「あっぶねぇ……、大丈夫か?」
「…………………………………」
腰に回された手は少し汗ばんでいて、緊張しきっている彼女にはそれを理解する余裕はなかった。
至近距離で抱えられ、吐息がかかる距離に彼女の頭はどんどん加熱する。
ネスは真っ赤な顔でフリーズする彼女の前で手を振るが、何の反応も返ってこない。
仕方なく耳元で、そっと囁いてみた。
「……Bカップ?」
「ッ!! Bで悪いかぁ!!」
「へ? え、ちょっ、折げげげ、折れる折れる折れるぅぅぅ……!!」
抱えられた状態で大蛇の体がぐるぐると彼に巻きつき、ミシミシと嫌な音を立てる。
弱っているとはいえ、渾身の力で締め上げられたらいかに鍛えた兵士と言えど苦しい。
「ちっちゃくて悪かったわね!! これでも苦労してんのよコノヤロォォ……!!」
「いでぇぇ……! ちょ、マジ折れる……、背骨が軋んでる音が聞こえるぅぅ……!」
青い顔で必死に言うネスに、コレットはギロリと殺意を込めて睨みつける。
近くに来て分かったが、彼の身体からは別の魔物の魔力が少し漂っていた。
ミネアが意図的につけた魔力に彼女が気付くわけもなく、締め付ける力は更に強くなる。
「しかも他の女の匂いまでつけて……! ちょっとでもときめいた私の期待を返せぇ!!」
「いだだっだだだ!? 何ゴレ!? こんなハグ歓迎してねぇんだけどぉぉ……!?」
キツい締め付けに足の力が抜け、ネスは崩れ落ちそうになる体をなんとかベッドまで持っていく。
自分が下敷きになるように倒れこみ、巻かれた体から逃れるようにもがく。
「うぎぎぎぎ……! やべ、ちょっと気持ち良く……なるわけねぇぇ……!!」
「あんたはいつもそうよ! 私の期待を裏切ることばっかして……!」
じわりと涙を滲ませながら、コレットは更に尻尾の拘束をキツくする。
隠していた思いが、ヤケになっているのか胸の奥から込み上げてくる。
そんな彼女に顔を向ける余裕もなく、ネスは疑問の声をあげた。
「あぁ……!? 俺がいつ期待を裏切ったってんだ……!」
「ずっとよ! 体拭いてくれて、ぶっきらぼうだけど優しくて嬉しかったのに……!」
ぽっ、とネスの頬に冷たい雫が落ちる。
それにようやく、彼はコレットが泣いていることに気づいた。
「私だけがネスを意識してて、こんなのバカみたい……!!」
いつの間にか緩んでいた締め付けに気付かず、ネスは驚いたように目を見開いていた。
ぼろぼろと涙を零すコレットを、初めて見たからだ。
子どものように嗚咽を漏らしながら目元を擦る勝気な彼女に、ズキリと胸が痛む。
どこか苦しそうに自分を見上げるネスに、彼女は続ける。
「どうせ、ネスは私のこと何とも思ってないんでしょ? だったら放っておいてよ!!」
そう言って離れようとするコレットの手を、ネスは無意識的に掴んで引き止めた。
申し訳なさそうな表情で歯を食い縛る彼に、コレットは俯く。
「何で、何で止めるのよ……! そうやって期待させるから……、諦めれないじゃな……っ!?」
彼女の言葉を遮るように、ネスは彼女の体を抱きしめた。
羽織っていたジャケットがはらりと落ち、露わになった裸体を隠すように彼が覆い被さる。
いきなりの、予想だにしていなかったネスの行動にコレットは涙に潤んだ目を丸くする。
「期待してんなら、少しは隙作れよ」
ボソッと耳元で、ネスが呟いた。
申し訳なさそうな声色なのに、どこか拗ねたような響きもあった。
「何とも思ってないって、んなわけねぇだろ。一緒に軍に入ったときから、ずっと意識してたっつの」
力強く抱きしめられた体に力が入らず、コレットは耳元で囁かれるネスの言葉に抵抗できなかった。
脱力した体に、小刻みな振動が伝わる。
「いつも助けてくれて、時々むちゃくちゃかわいくて、そんな同期を意識しねぇわけねぇだろ」
緊張して強張った彼の体は、かすかに震えていた。
そんな彼に涙が引っ込み、彼女はズズッと鼻を啜って質問した。
「何で……、言ってくれないのよ……」
「言ったろ……、隙がないって……」
もごもごと急に小さくなった声は、どうやら恥ずかしがっているらしい。
よく見ると耳が赤く、コレットは少し躊躇しながら先を促した。
「……俺はお前に世話になりっぱで、なのにお前はいっつも完璧なんだもん」
ガキの僻みみたいなもんだ、とネスは続けた。
普段あまりにも雑な態度を取っている彼らしくなく、恥じらいに消え入るような声だった。
そんな彼に、コレットは吐息を漏らした。
自分ばっかりが相手を好きだと思っていて、告白しようにも意地がそれを邪魔して、いざと言う時に拗ねて、
全くもって似たもの同士である。
「……じゃあ、今はどうなのよ」
コレットはベッドに体を預けて仰向けになっていて、ネスはそんな彼女に覆い被さるように押し倒している。
無防備に両腕は投げ出され、控えめな胸を隠そうともしない。
汗がしっとりと滲む形のいい乳房は、小さいかもしれないがとても柔らかそうだった。
顔も羞恥で真っ赤で、両目も涙で少し濡れている。
そんな彼女に、ネスの心が疼いた。
「隙、作ったわよ……?」
どこか期待したように、しかし不安そうにコレットはそう告げる。
確かに、隙だ。完璧なんて程遠い、無防備な姿だった。
ごくりと唾を飲み、ネスは真っ赤な顔で彼女を見下ろした。
「……お、おう」
ようやく、自分が何をしているかネスは気付いた。
先ほどまで、彼はその柔肌に抱きついていたのである。
恥らうところは、既に超えている。
自分にそう言い聞かせて、ネスは言い訳しそうになる自分に覚悟を決めさせた。
ガチガチに緊張しながら、彼はコレットの薄紅色の唇に自分の唇を押し付けた。
「っん……!」
「うむ……、ん」
子どものような唇を合わせるだけのキスに、コレットは彼の首に腕を回す。
そのままもっと深く唇が合わさるように腕を引き、彼の口内に躊躇なく舌を侵入させる。
いきなりの大胆な彼女に行動に目を丸くし、ネスの体が更に固く強張った。
そんな彼に遠慮するわけもなく、コレットの蛇舌が彼の舌を絡めとる。
「んぁ……ぇる、れる……んちゅ」
「………………!」
舌だけではない。歯を、口腔を這いまわる舌の動きにネスは背筋がゾクゾクとする。
唾液と唾液が混じりあい、どこか不思議な味を感じる。
「ちゅ……ちゅうぅぅぅ!」
唐突に吸われ、ネスの舌がコレットの口の中に引っ張り込まれる。
これでは、襲っているのか逆なのか分かったものではない。
思考の蕩けるネスの足に、緩んでいた蛇の体が巻きつく。
抵抗をすることも忘れ、ネスはそのままコレットに身を預けるように覆い被さる。
「んは……、ほら、もっと唾液ちょうだいよネス……んっ♥」
そう言って、貪るように唇を深く繋げなおすコレット。
元気がなかった髪の蛇たちもネスに近づき、頬擦りしたり舌で舐めたりと好意を露わにしている。
カプリと甘噛する蛇に正気に戻り、ネスも彼女に合わせて舌を動かす。
「んむぐっ、……んっ……ちゅ」
「んぢゅ、……れる、れる……ぁむ♥」
合わさった唇同士が蕩けるように熱くなる。
ぎこちないながらも舌を絡めるネスに、コレットの瞳がとろんと官能の色を帯び始める。
瞼を閉じて気恥ずかしさに耐えるネスは、そんな彼女に気付かず彼は積極的に舌を絡めようとする。
が、メドゥーサである彼女に舌技で敵うはずもなく、逆にねじ伏せられる。
「んんっ、んんん――――!」
「ぁんむ、ちゅちゅっ、ぇる……っぷぁ……♥」
じたばたと暴れようとするネスの頭をがっちりと押さえ、コレットは一方的に舌を這わせる。
しばらくの間、彼の口内を蹂躙し彼女の唇が甘い吐息と共に離れる。
糸を引いた唇を拭い、ネスは恥ずかしそうに薄目を開ける。
「……あの……い、今更かもだけど……その、好き……です」
つっかえながら耳まで真っ赤になって、ネスは呟くように言った。
その言葉を咀嚼するように、しばらくボーっと彼を見上げていたコレットの頬が徐々に緩む。
そして甘えるように彼に抱きつき、自然と笑いながら彼女も告げた。
「あはっ……、私も好きよ、ネス♪」
「……何でそうサラッと言えるんだお前は……」
少し恨みがましそうに涙目で睨みつける彼に微笑ましくなりながら、彼女は抱きつかんと彼を引き寄せる。
そこでようやく今更のように、彼が未だに皮鎧を着ていることに気付いた。
それをジト目で睨みながら、コレットはパチッと指を鳴らす。
皮鎧の隙間で結んであった紐が一気に解け、ボトッとベッドの外に落ちる。。
「これでよし……っと」
そう言って、彼女は改めて密着するように抱きつく。
しっとりと濡れた裸体が、薄い布越しに組み付いてきてネスが強張る。
背中に回された手が無遠慮に服の下から潜りこみ、素肌をひんやりとした彼女の手が撫でる。
「んふふ、あんた細い割にしっかりしてるわね♪」
「……あ、あぁ」
ゾクゾクとした快感に声を出さまいと、ネスは端的に答える。
ささやかながらも押し付けられた胸は、自分の胸板に押し当てられて潰れている。
予想以上の柔らかい感触に、彼は頭が沸騰しかかっていた。
「……あら♪」
ズボン越しに、怒張が彼女に触れる。
それを見て喜色満面になり、彼女は慣れた手つきでズボンをずり下ろした。
「ちょ……ッ!?」
いきなり涼しくなった下半身に、ネスが抗議の声をあげようとする。
それを遮るように、イタズラっぽく微笑んだ彼女の人差し指が唇に当てられる。
「恥ずかしくないわよ、私もあんたでよく想像してたし」
「…………なッ、ちょっ、えッ!?」
唐突の暴露に、ネスが素に戻って仰天する。
想像―――要するに裸で交わりあっている自身とコレットの姿が浮かぶ。
そういう風にさえ思われていた事実に、彼は驚いた。
肉欲まで求めていなかった彼だが、相手は魔物なために想像したことがなかったわけではない。
その反応にコレットはニヤニヤと嫌らしい笑みになり、ネスが赤くなる。
「ネス、純情過ぎ……♪」
「どっ、同期相手にそこまで考えるか……!」
「ずっと意識してたのに……?」
「……………………ッ!」
完膚なきまでに追い込まれ、ネスは涙目でコレットを睨みつける。
それに満足したように艶っぽく微笑み、彼女は彼の陰茎をそっと掴む。
滾る怒張に手汗の滲む指が這い、ネスはびくっと震える。
「私とネスが軍に入ってから、ずっと我慢してたんだからいいよね……?」
「…………はぁ」
諦めたようにため息を吐いて、ネスはこくんと頷いた。
告白しても何も変わらず、やはり彼女にリードされるのかと思うと、ため息も吐きたくなるだろう。
そんな彼の肩に顎を乗せて、彼女の秘部がまず亀頭に触れる。
敏感な先端が膣の入り口を掻き分けていく感触に、ネスはコレットにぎゅっとしがみつく。
「んっ、ぐぅ……!」
「ふっ、ぅぅぅ……!」
何の抵抗もなくぬめりの強い膣内に男根が沈んでいき、二人は堪えきれない息を漏らす。
ただ、熱い。
二人が繋がった部分が滾るように熱く、体まで火照ってくる。
コレットだけでなくネスも汗が滲み、彼も彼女を抱きしめるように背中に手を回す。
「っぁ……、こ、コレット……!」
完全に挿入った性器の心地よさに、ネスは彼女の名前を呼ぶ。
「だ、大丈夫か……? 初めては、キツいって聞くけど……!」
快感に震えながら気遣うような声に、コレットの胸にじわりと温かいものが広がる。
劣等感を覚えながら自分を好いてくれた彼は、こうやっていつも彼女を支えてきた。
辛い時にいつも手を貸してくれるネスにますます疼き、コレットは唾液に濡れた唇を彼の首筋に当てる。
「ぅあ……っ!?」
「んんっ、れる、ぴちゃ、ぢゅるっ、ぢぅぅぅぅ……!」
首筋に温かい舌が這い、ネスの口から嬌声が漏れる。
コレットも円を描くように腰を動かし、彼の亀頭をぐりぐりと子宮口に押し当てる。
その動きに膣肉が広げられ、濡れた蜜壺が淫乱な音を出す。
「んふぅ……ぁふ、ぴちゃ、ぇる……♥」
ときおり甘い嬌声を漏らしながら、その間も首筋を舐めつづける。
苛むようなじれったい刺激に、ネスは身をよじらせる。
ゆっくりと確実に追い込まれる、そんなゾワゾワとした感覚が脳内を侵す。
「鬼かお前は……ッ!」
「蛇よ私は……んちゅ♥」
端的に答えて、首筋にキスをするコレット。
ねちっこい動きで亀頭を弄り、熱い愛液の絡んだペニスを膣が緩く締める。
生殺しのようで嫌らしい動きに、慣れないネスはそれでも限界が近づいてくる。
それを更に咥えこむように深く腰を沈め、コレットは首筋をようやく解放する。
「出すなら奥よ……、濃いのいっぱい、ちょうだいね……♥」
「な、んでお前、そんな余裕な……!」
嗜虐的な笑みを浮かべながら下唇を舐めるコレットに、ネスは理不尽な差を覚える。
腰に回された手が彼をがっちり固定し、ぬめりけのある膣がぎゅっと締まる。
逃げることも叶わずにその快感に、ネスの頭が真っ白になった。
どびゅっ、びゅっ、びゅるるるるっ!
迸った白濁が蜜壺を奔り、子宮へと注がれる。
相当な量の精子がどくどくと注がれ、コレットは恍惚に浸った顔でかすかに震える。
「あぁ……ネスの濃いのがいっぱいぃぃぃ……♥」
「っはぁぁぁああ………」
深く息を吐くネスは、脱力したように彼女の背に回していた手をだらりと下げる。
射精の勢いがようやく止まり、彼女は蕩けた笑みを浮かべながら彼の肩を押した。
完全に気を抜いていたネスがぐらりとバランスを崩し、今度は彼女が上から見下ろすような形になる。
組み敷かれるようなその体勢に、ネスはボーっとしたようにコレットを見上げる。
「まだ、まだまだ足りないわ……、もっと、もっともっとぉ……♥」
「…………………へ、ぇ?」
情けなく緩んだ顔で自分を見上げるネスに、コレットは情欲にまみれた目で見下ろす。
その視線にようやく正気に戻り、彼は自分が置かれた状況を冷静に分析した。
蛇に睨まれた蛙、そんな構図である。
「あ、あのー……こ、コレットさん?」
「はぁ……はぁ……♪」
引き攣った笑顔で尋ねるが、返事ではなく淫らな荒い息だけが返ってくる。
逃れようにも蛇の尻尾はしっかりと彼の足に巻きついたままで、男根も彼女の蜜壺に収まったままだ。
そして唐突に、コレットの荒い息が何かを思い出したかのようにぴたりと止まる。
ゆっくりと伸びてきた彼女の手がネスの頬を撫で、捕食者の目がスッと細まる。
「ねぇ……、ネスから他の女の匂いがするんだけど……」
(あ、死んだ)
情欲に濁った瞳に、ネスの引き攣った笑顔が凍りつく。
ぬちゃ、と淫らな水音が陰部から響き、彼の体が快感に少し跳ねる。
が、そんな彼を押さえるようにコレットの両手が彼の頬を挟む。
至近距離から黄金色の、どこか淫靡な色を含んだ視線に心まで覗き込まれそうになる。
「ネスは、私のこと好きなのよね……?」
不意に、彼女の眼が光る。
ピシピシと硬質な音が響き、ネスの手足が石化し始める。
指先から徐々に石になっていく自分の体に恐怖し、ネスは慌ててコクコクと頷く。
「好き好き! マジ愛してる! 疚しいことなんて何もしてないぞ!?」
指先がツツー、と頬を撫でる感触に冷や汗が止まらない。
石化は腕と足の付け根まで進み、満足に動くことができなくなる。
「そう……まぁ、今回はちょっと心当たりもあるし許すわ」
そこでようやくコレットは目を伏せて、石化が止まる。
その反応に安堵し、ネスはふーっと深く息を吐く。
が、唐突に淫猥な音をたててペニスが嬲られ、快感にビッと背筋が伸びる。
少しだけ腰を引いた彼女はニッコリと笑っていたが、その目は相変わらず笑っていなかった。
「でも……、浮気したらどうなるかちょっと教えてあげる……」
「いや浮気なんてしなぁっぁあああ!?」
ズン、とコレットが一気に腰を下ろす。
未だにいきり勃った怒張が、ぬめった膣肉を勢いよく掻き分けその快感にネスの声が跳ねる。
無論、それだけで終わるわけがなく、彼女は立て続けに腰を振る。
精子と愛液にぬめった接合部が、何度も何度もぶつかり合う。
「あっ、ちょ……ッ、待ァ……!?」
最初の嬲るようなじれったい動きではなく、かなり激しい動きにネスはまともに喋れない。
しっかりと巻きつかれた上に四肢は石化して抵抗すらロクにできず、彼は容赦なく責められる。
引き抜く寸前まで引いては、股間部がぶつかり合う勢いで腰を沈めるコレット。
敏感な奥に何度も何度も屹立した先端が当たり、彼女の口からも甘い嬌声が零れる。
「はぁっん、あ、イィ、おくっ、奥に当たってぇ……♥」
「ちょ、コレット……、ひぁッ……、これ、頭おかしくなるぅ……ぅぐ!」
コツコツと何度も子宮口に亀頭が当たり、その度に膣がキュッと彼の男根を甘く締め付ける。
そのまま引き抜く腰の動きにカリが引っ掛かり、激しい刺激がネスの頭を満たす。
そんな彼の唇にむしゃぶりつくように、再びコレットの唇が強く押し付けられる。
いきなりのその動作に目を丸くする彼の唇に割り込むように、彼女の舌が捻じ込まれる。
「ん、んぢゅっ、れりゅ、ぁむっ、ぢゅるっ♥」
「んむっ、んんっむ、むぅぅ……!?」
頬を挟む両手に押さえられ、唇が潰れるほど深く合わさる。
その唇の隙間から淫らな音が漏れ、ネスの驚愕が官能に溶けてゆく。
無理矢理に押さえ込まれた腰も何度も打ち付けられ、早くも限界が近づく。
「んはっ、こ、コレット……、も、もう……んぐむ!」
唇が少しだけ離れるが、再びぶつかるように深く合わさる。
勢いが良すぎたのか歯と歯がぶつかりガチッと音を立てるが、ネスはそれどころではない。
ひくひくと震える彼の亀頭を感じ取ったのかぐりぐりと子宮口を押し当てる快感に、必死に堪える。
そんな彼に我慢などさせる気がないのか、コレットの膣が一際強く締まる。
その甘い締め付けに、耐えられるはずがなかった。
「んぐっ、んむぅぅぅ……!?」
どくっ、っびゅ、びゅるるるるる!
二度目であるにも関わらず衰えない奔流が、再び彼女の膣を白く染め上げる。
ごぷごぷと粘った水音を立てて白濁が溢れるが、彼女は構わずに子宮口を彼の亀頭に押しつける。
射精したばかりの敏感な先端を容赦なく責められ、ネスの体がびくっと跳ねる。
「んぢゅっ、ちぅ、れる、ぁんむ、ぢゅっぢゅっ、ぇるっ♥」
「んぁんッ、ん、んむッ、んッ!?」
逃がす気など毛ほどもなく、がっちりと頬を押さえたまま活発に彼の口内を舐め回す。
喉にチロチロと舌が触れるたびに恍、ネスは惚に身を震わせる。
少し長く感じられた射精が終了し、淫靡な水音とともにコレットが腰を引く。
それに油断する間もなく、ばちっと彼女は勢いよく打ち付けるように腰を沈める。
「んむぁっ!?」
絶頂したてのそう時間も立っていない敏感な部位への耐えがたい快楽に、塞がれた唇から嬌声が漏れる。
先程よりもふり幅が小さくはあるものの、コレットはほぼ怒張を沈めた状態で腰を振る。
ずちゅずちゅと耳にこびりつくような水音に、本格的にネスの思考が快楽に溺れ始める。
子宮口を細かく何度も小突く屹立の刺激に、普段の自分からは考えられない卑猥な声が出る。
「ひぅ……んぁ、んんっ、ふむぅ……うッん!」
「れるっ、んむ、ぢゅっ、ぢゅぅぅ、れろぉ、れりゅっ、ちゅ、ちゅる♥」
精液と愛液に満たされた膣内に扱かれ、耐えがたい刺激は止まることがない。
ただその快感に身を任せ、彼自身も無意識的に腰を振り始める。
蜜壺を捏ね回すような彼の予想外な腰の動きに、コレットは思わず舌の動きが止まってしまう。
「ん、んんっ、っぷぁ、あ、は、はぁっ♥」
濃厚に交わっていた唇が離れ、てらてらと嫌らしく光る糸を引く。
が、いきなり膣の敏感な部分を擦るような彼の動きに、コレットはそれどころではない。
「あ、ふぁ、ちょ、ま、待っ、ふぁうっ♥」
性感帯を的確に刺激され、彼女は我慢できずにネスにしがみつく。
いきなりの形勢逆転に戸惑う間もなく、彼がズチュッと彼女の最奥部に隆起した肉棒を突きたてる。
「あ、ん、しゅ、しゅごいぃぃ……♥」
ガクガクと震えながら快楽に浸り、コレットの彼に抱きつく力が緩む。
それと同時に、彼の手足の石化が治った。
脱力のせいか、絶頂のせいか、元に戻ったネスはその手を彼女の背中に回す。
逃がさないようにキツく抱きしめ、彼はぐちゅぐちゅと彼女の秘部を掻き回すように腰を動かす。
「ひゃあぁ、ねすっ、ネスぅぅ……わたし、もうぅ……♥」
「お、れも……限界近ぇかも……!」
震える声でそう告げ、グッとネスは腰を突き出す。
子宮口に亀頭が当たり、蜜壺を貫かれたコレットは涎を垂らしながらビクビクと恍惚に打ち震える。
それに応じて膣が収縮し、彼のイチモツを甘く締める。
ごぶっ、びゅ、びゅぅぅっ!
それだけで、彼は三度目の限界を迎えた。
コレットの華奢な体を抱きすくめ、どくどくと彼女の蜜壺に精を迸らせる。
「ぁ……くぅぅぅ……」
「あぅぅ、濃いよぉ……熱いよぅぅ……♥」
くったりと脱力した体をネスに預けて、彼女はふるふるとその身を震わせる。
蛇の体も完全に力が抜けたようで、巻きつきもかなり緩くなっていた。
のしかかるコレットの体を抱きしめ、ネスはボーっとしながら遠い天井を見上げる。
(あ……れ……?)
不意に、その視界が霞む。
激しい性交による衰弱のせいか、彼の意識が薄れつつあった。
心地の良いその疲労感に身を委ね、ネスは深い眠りに落ちた。
◆
「あら、コレット? 風邪はもういいの?」
後日、砦の廊下でコレットはミネアに声をかけられる。
その声に驚いたかのようにびくっと跳ね、恐る恐る彼女は振り返った。
「な、なにゆえにご存知で……?」
「昨日ネスティが言ってたからよ。ま、その様子なら大丈夫そうね」
彼女の言っていた心当たりは、予想的中していた。
自分を裸に剥いて体を拭くなんて、あの極端な照れ屋が積極的にやるわけがない。
となるとけしかけた本人がいるとすれば、彼女にはミネアしか思い浮かばなかった。
ニヤニヤと嫌らしい微笑みからプイッと視線を逸らし、コレットは気恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。
「えぇ……まぁ。ネスの看病のおかげで……」
「あ、全部見てたから言い訳しなくてもいいわよ? カップル成立おめでとう〜♪」
「……え゙っ!? 全部見てた!?」
パチパチとやる気なさそうに拍手するミネアに、コレットは目を丸くする。
「えぇ、ちょっと彼に細工してしっかりねっぷりフルで見せてもらったわ」
「ああああああ、悪趣味っ! ネスに変なことしないでよ!」
真っ赤な顔で抗議を申し立てるが、ミネアはクスクスとおかしそうに笑うだけである。
一しきり文句を言って深く息を吐いて、コレットはようやく落ち着く。
未だに羞恥が抜けきっていない彼女に、ミネアは艶っぽく微笑んで両手を合わせた。
「ごめんねぇ? じれったかったからつい、ね?」
「……いいですよ、もう。おかげ様で風邪も治りましたし」
建前としては礼を言っているが内心は納得しきれていない彼女に、ミネアは若いわねと笑う。
「ところでその旦那様は? 良ければちょっと二人に長いお休みでもあげようかと思ったんだけど……」
きょろきょろと廊下の周囲を確認するミネアだが、肝心のネスの姿は見えない。
二人のことだから今日もべったりだろうと思っていた予想は、完全に外れてしまった。
その疑問にコレットはバツが悪そうに頬を掻き、気まずそうに答えた。
「あぁー……その、えと……、か、風邪をひいてしまったようで……」
「…………………………あー、そりゃ伝染るわよね」
納得したようにポンと手を叩き、ミネアは呆れたような笑顔になる。
風邪の女と抱き合ったまま布団もかぶらずに寝てれば風邪もひく。
廊下の奥の部屋から、へぶしっ、とくしゃみが聞こえたような気がした。
「まぁ……そんなわけで今日は私が看病しようかと……」
「えぇ、分かったわ。同じこと繰り返してぶり返さないでね?」
「しませんよ、んなアホな!」
大きな声でそう言うコレットから逃げるように手を振って、ミネアは廊下の奥へ飛んでいく。
それを深々とため息を吐いて見送り、彼女は魔王軍御用達のキッチンへと向かう。
いずれは彼に食べてもらいたいと磨いた料理の腕で、体の温まるお粥を作るために。
「えへへ……美味しいって言ってくれるといいな♪」
気分が弾むささやかな胸に手を当てて、彼女は廊下の角を曲がった。
13/01/12 16:40更新 / みかん右大臣