読切小説
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無愛想の先に・・・
ある日の親魔物の町ジラードのギルドの集会所の酒場。
「う〜ん・・・」
カウンターで依頼の報告書を読んで難しい顔をしているのはこの酒場の店主にしてギルドのマスター、エキドナのイルハだ。
「また失敗の報告ですか?」
そう言って声をかけたのは紅茶を持った線の細い青年。
「そうなのよ、オーイス・・・」
そう言ってため息をつくイルハにオーイスは持っていた紅茶を差し出した。
「これでも飲んで気分を落ち着けてください。」
「ありがと。」
「いえ、気にしないで。」
オーイスはこのギルドでイルハの補佐として最近雇われた男だ。
戦闘関係は全く駄目だが、雑用などは驚くほど良くこなすので早くもイルハから信任されていた。
「でも、この依頼、あんまり長く放置しておくわけにもいかないわね・・・」
イルハが再び考え込んだ時だった。


「よーう!イルハ居るか?」
「あははー」
威勢のいい声と共に酒場の戸口から大剣を担いだ冒険者風の男が入ってきた。
頭にはケセランパサランが乗っている。
「あら、エムル、ラフィいらっしゃい。」
エムルと呼ばれた男はそのままイルハとオーイスの前のカウンター席に座った。
ラフィと呼ばれたケセランパサランはエムルの頭に乗ったままだ。
「はははっ、辛気臭い顔をしてるじゃないか!!
こっちの依頼は終わったぞ。」
そう言ってエムルは一枚の紙を渡した。
オーイスがそれを取って確認する。
「え〜っと・・・はい確かに依頼完了です。
エムルさんお疲れ様でした。」
「オーイスだいぶ事務仕事が板についてきたじゃないか。」
「わはー、オーイスすごいー」
「そんな・・・俺なんてこれしか取り得がないですから・・・」
横から三人のやり取りを見ていたイルハはふと何かを思いついた表情をした。
「ねぇ、エムル。
帰ってきて早々で悪いんだけど新しい依頼を受けてくれない?」
「新しい依頼?」
「まさか、イルハさん、あの依頼を・・・!」
オーイスは唐突なイルハの発言に驚いたが、
「ねーいらいってなにー?」
「面白そうだな!
話してみてくれ。」
エムルとラフィにこう言われて説明を始めた。

「数週間前から近くの森で奇妙な事件が起きてるんです。」
「奇妙?」
「森に入った人が老若男女問わず手当たり次第に襲われているんです。」
「確かに妙だな・・・」
「さらにおかしなことに、襲われた人は気絶させられるだけで何も取られていないんです。」
「それだけじゃないのよ。」
横からイルハが口を挟んだ。
「被害が増えてきて、自警団からギルドに調査の依頼が来たのよ。
で昨日までに何人かが調査に向かったけどみんなやられちゃって・・・」
「殺されたのか?」
イルハは首を横に振った。
「違うわ、みんな戻ってきたの。」
「もし、犯人が魔物だったら連れて行かれてるはずです。
今のところ人間の仕業か、魔物の仕業かも分からないんです・・・」
「色々謎が多くて自警団も私達も困っているのよ・・・
受けてくれるかしら?」
「う〜ん・・・」
エムルは考え込んでしまった。
その時、
「あははー、そのはんにん、つよいー?」
ラフィが突然口を開いた。
「ラフィちゃん・・・遊びじゃないんだから・・・!」
静止しようとしたオーイスをイルハは手で抑え、
「そうね〜、たくさんギルドのメンバーを倒してるから強いと思うわよ。」
と笑顔でいった。
「わはー、エムルとどっちがつよいー?」
「さあ、分からないわね〜。
勝負したら分かるかも。」
「勝負ー勝負ー!」
その言葉にエムルがピクッと動いた。
「お、おい何をいって・・・!?」
「だってね〜♪」
「しょうぶーしょうぶー♪」
二人の態度を見たエムルは一瞬沈黙し、そして笑い出した。
「はーーっはっはっはっ!
負けたよ。
こいつがその気ならやってやる。
いいぞ、ラフィ!
その犯人と勝負してやる!」
「わはー、わはー♪」
「受けてくれてありがとう♪」
「で、場所は何処なんだ?」
「ああ、それならオーイスに道案内をさせるわ。」
その言葉に驚愕するオーイス。
「イ、イルハさん、何言ってるんで・・・」
「いいじゃない。
依頼に同行して内容を見るのも一つの経験よ。」
「で、でも危険じゃ・・・」
「エムルは強いから大丈夫よ。
ねぇ、エムル。」
「ふむ、多少きつくなりそうだが・・・まあいいだろう、任せてくれ!
うはははっ!」
「あははー」
「ちょっと、ちょっと、俺の意見はーー!」
「エムルの言うことはちゃんと聞くのよ。」
イルハの声を聞きながらオーイスは強引にエムルに引っ張っていかれた。



その夜、月明かりの下、オーイスの案内でエムルとラフィは森に来ていた。
「この辺りのはずなんですけど、だ、大丈夫かな・・・」
「あははー、よるのおさんぽー!」
「ふははっ!
ラフィ、あまりはしゃぎ過ぎるなよ!
・・・ん?」
不意にエムルは立ち止まった。
「エムルさんどうしたんです?」
「・・・ラフィ、少し頭から離れていろ、オーイス、俺の後ろに居るんだ・・・」
エムルの顔からは笑顔が消えていた。
「わかったー。」
「は、はい!」
そう言ってラフィはエムルの頭から離れふわふわ飛んでいき、オーイスはエムルの後ろに回った。
そしてエムルは大剣を鞘から抜いて、意識を集中させる。
突然、木の上から影が降りてきてエムルに飛び掛った!
エムルはその場から飛びのき、振り向きざまに大剣を影に向かって振り下ろす。
しかし影は素早く飛び上がりまた木の上に隠れてしまった。
「な、何です今のは!」
「ちっ・・・・!」
エムルは舌打ちをした。
敵の身のこなしは素早い。
その様な敵に対し、障害物の多い森の中で戦うのは圧倒的に不利だった。
「このままじゃ、まずいな・・・」
エムルは少し考えた後オーイスに向かっていった。
「オーイス、少し怖いかもしれんが、悪く思うな!」
ラフィ、オーイスを頼む!」
「?」
オーイスが返事をするより早くエムルはオーイスの服を掴んで上に放り投げた。
そして大剣を横向きに構え、

「どぉうりぁああ!!」

と振り回した。


一方、
「わああああっ!!」
放り投げられたオーイスは
「あははー、つかまえたー」
森の上空を漂っていたラフィに捕まえられた。
「一体何が・・・ってうわ、俺飛んでる!?」
そこへ・・・

ゴウッッッ!!!!

と一陣の風が吹いた。
「こ、今度は何だーー!?」
「わはー、エムルのかぜー♪」
二人は風に煽られ空高く舞い上がった。


エムルの周りにはなぎ倒された木々が散らばっている。
大剣を高速で振るうことで発生した空気の刃が彼の周囲を切り払ったのだ。
「さて、これで隠れる物は無くなったな・・・」
言葉を言い終わらないうちに倒れた木の間から影が現れた。
月の光でエムルは初めて影の姿をはっきりと見た。
緑色の体躯に、ショートヘアの頭から生える触覚、足は太腿がむき出しで、手には鎌がついており蟷螂を連想させる姿の少女。
「なんだ、お前?」
「・・・」
少女は答えない。
「お前の名は?」
「・・・ロート。」
「お前がこの辺りで起きた事件の犯人か?」
「・・・」
「無言なら肯定と取るぞ。」
「・・・」
何を聞いてもほとんど答えない少女は突然エムルに向かって鎌で切りつけてきた。
「しゃあねぇ、捕まえさせてもらうか・・・」
鎌を避けて呟いたエムルは大剣で少女に向かって切り付けた。
少女はその刃を横っ飛びに交わすがエムルは少女の動きを見越して着地した先に剣を振り下ろす。
腕の鎌で大剣を受け止める少女。
しかし大剣の重さを受け止め切れず徐々に体制が崩れていく。
少女の体制が崩れきる直前でエムルは急に剣に込めた力を緩めた。
弾みで大きく揺らぐ少女の隙を突いて後ろに回りこんだエムルは少女の首筋に手刀を加える。
少女は意識を失い崩れ落ちた。


「おーい、ラフィ、オーイス終わったぞ!」
エムルが呼ぶとオーイスをぶら下げてラフィが降りてきた。
「あははー、エムルつよーい!」
「こ、怖かった・・・」
「すまん、すまん!
あのままだとお前までぶっ飛ばちまいそうでな!
がはははっ!!」
「無茶しないでください!」
その時、オーイスは地面に倒れている少女に気がついた。
「あれ、この子は?」
「ん?そいつが事件の犯人だ。
ロートという名前らしい。」
(綺麗な子だなぁ・・・
なんでこんな事件を起こしたんだろう?)
オーイスは少女をじっと見ている。
「さて、俺の依頼はここで終わりだがその子をどうするんだ?
この場で始末するならやってもいいぞ。」
そう言って大剣を掲げるエムル。
「だ、駄目ですよ!
一度ギルドに連れ帰って話を聞かないと・・・」
慌てて少女を担ぐオーイス。
「はっはっはっ、冗談だよ。
じゃあ、戻るか。」
「いらいかんりょー、あははー。」



少女を引き渡してエムル達が帰った後の酒場。
捕まえた少女は気絶したまま拘束されている。
「なるほど、犯人はマンティスのこの子だったわけね。」
イルハは納得したように頷いた。
「マンティス?」
「『森のアサシン』とも呼ばれる魔物よ。
でも、おかしいわね・・・あの森にマンティスはいなかったはずだけど・・・」
「う〜ん、名前はロートって言うらしいんですけど、それ以外のことは分かりません。」
オーイスの答えに、イルハは、
「じゃあ、本人に聞いてみましょうか。」
そう言って手に魔力を集中させ少女に顔に当てた。
「・・・ん・・・」
気がついたロートはゆっくり周りを見回した。
そして自分の手足を見て鎖で縛られているのを確認した。
「気分はどうかしら?
これからあなたにいくつか質問をするわ。
ちゃんと答えてくれたらその鎖は外してあげる。
もし答えてくれなかったら、永遠にそのままよ・・・」
一瞬、瞳孔を縦にするイルハ。
横にいたオーイスは思わず身震いしたが、少女は無表情で頷いただけだった。
「じゃあまず・・あなたの名はロートで最近の襲撃事件の犯人で間違いないわね?」
「・・・(こくり)」
「とこから来たの?」
「・・・西の方。」
「なんであそこにいたの?」
「・・・あそこ新しい住処。」
「どうして、こんなことしたの?」
「・・・住処に近づく怪しい奴・・・排除・・・」
「・・・なるほど。」
イルハはため息をついた。
この少女改めロートは特に悪意などなく巣を守るためにあの事件を起こしていたらしい。
「この子、どうします?」
「そうねぇ、悪気があってやったことじゃないとはいえ、このままお咎めなしってのもね・・・
オーイス、私この子と少し自警団に行って来るわ。
先に寝てていいわよ。」
「分かりました、行ってらっしゃい。」
オーイスは酒場の二階にある自分の部屋に上がっていった。




次の日の朝、
「ふあ〜〜あ・・・」
何時ものように目を覚ましたオーイスは着替えて酒場の一階に下りた。。
「おはようございます、イルハさん・・・・って、えーーーっ!?」
そこには朝飯を前にしたイルハとロートがいた。
「おはよう、オーイス。」
「・・・・(モグモグ)」
満面の笑みを浮かべたイルハにオーイスの方を見向きもせず、朝食を食べているロート。
「あの・・・なんでロートがここに?」
「決めたわ。
ロートには今日からここで働いてもらうから。」
「えーーーーっ!!」
「驚かなくてもいいじゃない。
ほんの数週間、懲罰的な意味であなたの仕事のお手伝いをしてもらうことに決まったの。」
「・・・・」
イルハとオーイスが大騒ぎするなか、当のロートは無表情のままだ。
「いや、でも彼女、魔物ですから何かあったら大変じゃないですか!」
「それなら大丈夫よ。
昨日きちんと言い聞かせておいたから。」
「彼女の人権は何処へ行ったんです?
第一、ロートも嫌だろう!!」
「・・・・・」
ロートは無表情のままだ。
「魔物に人権は無いわよ。」
「魔物のあなたが言ってどうするんです!」


ひとしきり議論したもののイルハの決定を覆すことはオーイスには出来ないのでとりあえず挨拶をする。
「しばらくの間宜しくね、ロート。」
「・・・・」
「挨拶ぐらいしてよ・・・」
(これから大丈夫かなぁ・・・)
そう思いながらオーイスは朝食の席に着いた。


「じゃあまず基本的な掃除の仕方から教えるね。」
「・・・・・」
朝食後、酒場のカウンター裏でオーイスはロートに掃除の仕方を教えだした。
「まずはこうやって床を掃いて・・・そして拭く・・・窓は・・・」
説明しながら実際にやってみせる。
ロートはその様子をじっと見ていた。
「これと同じやり方で酒場の中を掃除して欲しいんだ。
おそらく一時間は掛かるだろうけど出来る?」
「・・・・・(バシッ)」
「うわっ!」
突然ロートは掃除用具をオーイスからひったくるとそのままカウンターの外に歩いていった。
「ちょっと!待って、待って!」
「・・・・・(キッ!)」
「ひっ・・・」
ロートに鋭い目で睨まれたじたじになるオーイス。
「ゆ、ゆっくりでいいから、終わったら声をかけてね・・・」
そう言ってカウンターの中を掃除し始めた。


約三十分後、
「ふうっ・・・・ん?」
オーイスがふと顔を上げるとロートが掃除用具を持って立っていた。
(何か困ったことでもあったのかな?)
「ロート、どうしたんだい?」
「・・・・・(グイッ)」
ロートはいきなり掃除用具をオーイスに押し付けて、去っていく。
「おい、おい、何処に行くんだ?
掃除は終わったの?」
慌てて後を追うオーイス。
そのまま酒場の中に入った彼は目を丸くした。
「・・・嘘・・・終わってる・・・」
床には塵一つ落ちておらず、窓や家具もピカピカである。
「すごいよ、ロート!
こんな早く終わらせるなんて!」
オーイスは満面の笑みで褒めるもロートは、
「・・・・・(プイッ)」
とそっぽを向いただけだった。




数日後の事。
オーイスはイルハにお使いを頼まれた。
「オーイス、自警団に書類を届けて欲しいの。」
そう言って彼女は封筒をオーイスに渡した。
「何の書類なんです?」
「ロートの近況報告よ。
まあ、全く問題はないけどね・・・」
その言葉にオーイスは同意した。
数日間で、様々な仕事を教えたがロートは実によく仕事を行っていた。
教えているオーイスが舌を巻くほどだった。
しかし一つ彼には気になる点があった。
「あっ、ロート。
これから出かけるんだけど欲しいものとかない?」
「・・・・」
「何かない?」
「・・・・」
まるでオーイスなどいないかのように書類を整理しているロート。
「はぁ・・・いってきます・・・」
オーイスはこれまでロートに一言も話してもらっていなかった。



「ふぅ・・・」
お使いを済ませて、酒場に戻るオーイスの足取りは重かった。
「いったい、どうしたらロートに話してもらえるんだ・・・?」
考え込みながら歩いていると、
ドンッ
と誰かにぶつかってしまった。
「あっ!すいません!」
慌てて謝ったその相手は・・・
「おおっ、オーイスじゃないか!!」
「エムルさん・・・」
「どうした?
前を見ずに歩くと危険だぞ!
うはははっ!」
「すいません。
少し考え事をしてたので・・・」
「考え事?
ふむ、そう言えばこの前捕まえたロートとか言う奴はお前と一緒に働いてるらしいな。
あいつが問題でも起こしたか?」
「問題というほどでも無いんですが・・・」
そうしてオーイスはエムルに自分に対しロートが全く話してくれないことを語った。
エムルは一通り話を聞いた後、
「別に気にすることは無いんじゃないか?」
と言った。
「えっ!?」
「だってそいつとは一時的な付き合いなんだろ。
だったら無理に話す必要ない。」
「で、ですけど・・・」
どもりながらオーイスは考えた。
(確かに・・・ロートとは一時的な付き合いだけど・・・
でも何故か彼女が気になって・・・
あれ?・・・これじゃあまるで・・・)
そんなオーイスの心をエムルは見透かした様に、
「お前、あいつに惚れたんじゃないか?」
とニヤッとしながら言った。
「そ・・そんな事ありませんよ!!!」
慌てて反論するオーイス。
「そうか?
まあ、魔物は基本、本能に忠実だからな。
好きなら態度に表すさ。
俺のラフィの様にな!!!
ふはははっ!!!」
その話を聞いてふとオーイスは気づいた。
エムルの頭に何時も乗ってるラフィがいないことに。
「あれ、そう言えばラフィちゃんは?
それにエムルさんはなぜここに?」
「ああ、あいつなら家で昼寝中だ。
俺がここにいるのはちょっと買いたいものがあるからなんだ。」
「何です?」
「実は今日が俺とラフィがであって半年なんだ。
だから何か記念にうまいもんでも買っておこうと思ってな。」
「へ〜、そうですか。」
その話を聞いてオーイスはあることを閃いた。
(そうだ!なにか食べ物を買って一緒に食べれば少しは打ち解けれるかも。)
「おっと、あんまり長く話し込んでいるのもな。
じゃあな、オーイス。
あんまり悩みすぎるなよ。
笑ってたほうがあいつに好かれるかもな。
あーっはっはっは!!」
笑って去っていくエムルと別れた後、オーイスはある店に向かった。



お使いから帰るとオーイスはロートを探した。
酒場の裏の庭の草狩りを両手の鎌で行っていたロートを見つけたオーイスは彼女が作業を終わるのを待って話しかけた。
「ロート。」
「・・・・・」
相変わらずだんまりのロート。
しかしオーイスは笑いながらロートに向かって隠し持っていた箱を差し出した。
「これな〜んだ?」
「・・・?」
怪訝そうな顔をするロート。
「ジャ〜〜ン!!」
オーイスは掛け声と共に蓋を取るとそこにはケーキが二切れあった。
「・・・・」
「これはね、ケーキって言うんだ。
ロートは見たことないだろうけどとっても甘くておいしいんだよ。
一緒に食べよう!」
「・・・・(プイッ)」
ロートはオーイスを無視して歩き出した。
「待って、待って!」
オーイスは慌てて彼女の行く手に立ちふさがった。
「・・・・」
「きっと、おいしいよ!
一口食べてみて!」
オーイスがさらに強く勧めたときだった。

バシッ

音と共にオーイスの手からケーキが飛んで行き、ボトッと地面に落ちた。
「あ・・・あれ・・・?」
唖然とするオーイスにケーキを叩き落としたロートは、
「・・・うっとうしい・・・邪魔・・・」
と言い捨てて、中に入っていった。
残されたオーイスはケーキを拾うこともせずしばらくそこに立ち尽くしていた。




それから数日後の夜。
ギルドの仕事を片付けたオーイスがイルハの部屋の前を通るとこんな会話が聞こえてきた。
「ロート、そろそろあなたの懲罰を終了しようと思うの。」
(・・・!)
気になってドアの隙間から部屋を覗くとイルハとロートの姿があった。
「ロートにここの仕事をしてもらうのは明日までよ。
ロート、ここを出たらあなたはどうするの?」
「・・・・・」
「まあ、いいわ。
明日に教えて頂戴。」
「・・・・(コクリ)」
それを見たオーイスは逃げる様に自分の部屋に飛び込んだ。


「・・・はぁ・・・」
自分の部屋でオーイスはため息をついた。
(明日か・・・
一度でいいからロートとちゃんと話したかったな・・・)
ケーキを勧めて拒絶されて以降、彼はなんとなくロートに話しかけ難くなっていた。
ぼんやりとそんなことを考えていたときだった。
「オーイス、いる?」
イルハの声が聞こえてきた。
「な、なんです・・・?」
「ちょっとこれから出かけて来るわ。
隣町のギルドから呼び出しがあったの。」
「こんな夜中にですか?」
「ええ、すぐ来てくれって手紙がきてね。
帰るのは朝方になるでしょうから、もう寝ててもいいわよ。」
「分かりました、いってらっしゃい。」


ドアの向こうでズルズルとイルハが去る音が聞こえなくなり、オーイスが寝る準備をしていたときだった。
ガチャリと背後でドアの開く音がした。
(あれ?イルハさんかな?)
そう感じて振り向くと、
「・・・・・」
そこにいたのロートにオーイスは仰天した。
今までほとんど話さなかったロートが急に自分の部屋に来たこともあるが、彼を一番驚かせたのはロートが怪しい目をして腕の鎌を揺らめかせていたことだった。
オーイスは咄嗟に考えた。
(まさか俺に恨みを持っていて最後に復讐しようと考えてるんじゃ・・・)
「ロート・・・落ち着いて・・・話をしよう・・・」
必死で説得を試みるオーイス。
しかしロートは耳を貸さずオーイスにじりじりと詰め寄る。
オーイスもじりじり下がり、
「うっ・・・!」
ベッドに追い詰められ、倒れてしまう。
その瞬間、ロートが鎌を閃かせて飛び掛った!
「わああっっっ!!!」
鎌の一撃が来ると思い反射的に腕で顔をかばうオーイス。
しかし予想していた一撃はこない。
「・・・・?」
恐る恐る腕をどかすと・・・
「・・・・」
そこには鎌で切られたズボンと露出したモノ、そして秘所を広げて彼に跨るロートの姿があった。
「・・・・へっ!?」
オーイスが状況を理解するより早くロートが腰を下ろした。
ズチャッと言う音と共にモノが秘所に吸い込まれる。
「くっ・・・おおおっ・・・!」
下半身から来る感触に思わずうめき声を挙げるオーイス。
「あううっ・・・!」
同じくうめき声をあげたロートはそのまま腰を上下させた。
グチュッグチュッと体がぶつかる音が響く。
快楽に押し流されながら、オーイスがふと、ロートの顔を見上げた。
「・・・あふっ・・・気持ちいい・・・!」
とろけきった様な表情はオーイスが始めてみる感情の出たロートの表情だった。
それを見た時、オーイスの中で嗜虐心が沸き起こった。


「えいっ!!」
「きゃっ!!」
体に力を入れ、ロートを押し倒し、逆に自分が彼女に跨る体制を作った。
「・・・・何!?」
「ロート、これは今まで無視された事への仕返しだ!!」
言うが早いか強引に挿入を開始するオーイス。
そのまま滅茶苦茶に腰を動かす。
「うあっ・・・うあっ・・・うあっ・・・!!」
「はぁ・・・はぁ・・・ううっ、閉まる・・・」
ロートの締め付けを感じながらオーイスはさらに彼女の奥へと突き進んでいく。
「いやっ・・そんなに・・・奥は・・・だめぇ・・・」
ロートの舌を出しだらしない表情にオーイスは興奮を高める。
「・・・いい表情だ・・・何時もの無表情は・・・何処に・・・行ったのかな・・・?」
「・・・はあっ・・・はあっ・・・私・・・今・・・どんな顔・・・!?」
「いやらしい・・・顔してるよ・・・」
「ああっ!
こんなに・・・気持ちよかったら・・・いやらしい表情に・・・なっちゃうよぉ!!」
もはや昨日までのロートとは別人の様に叫ぶ姿にオーイスの興奮が限界を迎えた。
「くっ・・・そろそろ・・・出る・・・!!」
「あっ・・・あっ・・・私も・・・イクッ!!
中で・・・中で出して!!」
「駄目、ちゃんとお願いしないと・・・」
「お願いします!
エッチな私のおまんこににたっぷり精液を注いでください!!」
「よく言えましたっ・・・うっ・・・出る・・・!!!」
オーイスが射精すると同時にロートも達する。
「うあああっっ!!
来てる!!!
あついの、一杯っっっ!!!!!」
ロートは最後にビクンと体を震わせて絶頂し、そのままピクピクと動かなくなった。


「はぁ・・・はぁ・・・・」
気絶したロートを前に荒い呼吸をするオーイス。
痙攣するロートの秘所からモノを抜くとドロッと精液があふれ出す。
それをみていると、だんだん彼の頭がさめてきた。
(まずい・・・どうしよう・・・)
誘ったのはロートとはいえ後半は自分が押し倒すような形になってしまったのだ。
(ロートが目を覚ましたらきっと怒るだろうな・・・
そうなったら俺は・・・鎌で八つ裂き・・・?
嫌だーーーっ!!)

ガチャン!!

「!?」
突然に下の階から聞こえてきた音にハッとするオーイス。
「・・・・何の音だ?」
気になった彼は服を着なおして部屋を出た。


一階に下りたオーイスは息を呑んだ。
そこには十人ばかりの男達がいたからだ。
「あ・・・あなた達は・・・?」
オーイスが思わず呟いた途端一番近くにいた男が彼に刃物を突きつけた。
「・・・ひっ!」
動けなくなったオーイスに一番大きな男が近づいてきた。
「よう、オーイス君。
もう寝たと思ったぜ。」
「な、何で僕のことを知ってるんだ?
お前は誰だ?」
オーイスの問いかけに男は低く笑った。
「くっくっ・・・
俺はグロッシェ。
この盗賊団のリーダーさ。
この店には前々から目をつけていたんだよ。」
「何だって・・・!?」
「助けを呼んでも無駄だぜ。
この店には蛇女とお前しかいねぇ。
だが蛇女はいない、違うか?」
「どうしてそのことを・・・?」
(あれっ?こいつロートのことを知らないのか?)
オーイスは疑問を感じたが、そのことは黙っていた。
「そりゃあ、あいつを追っ払うために偽の手紙を出したのはこの俺様だからな。
さあ、命が欲しけりゃ、金目のもんをだしな!!」
「・・・・」
グロッシェはナイフで脅すがオーイスは無言を貫く。
「・・・ちっ、仕方ねえ。
まあ、喋ってくれねえならこっちで勝手に探すさ・・・」
グロッシェは痺れを切らしオーイスを縛り上げてしまった。


「駄目です、親分。
金目の物はありません。」
「何ぃ、そんなわけあるか!!」
部下の報告にいらだつグロッシェ。
実はこのギルドでは盗難防止のため、お金などは特殊な魔法で別空間にしまってあるのだが、
彼らはそのことを知らない様だった。
「お金なんてありませんから早く出て行ってください・・・」
「うるせぇ!!
む、そう言えばこの店には二階があったな。
金目の物はそこにあるに違いねぇ!
おい、お前ら二階を調べろ!!」
何人かの盗賊が二階に上がるのを見たオーイスは慌てた。
二階には気絶したロートがいるのだ。
「まっ、待ってください!」
「ほう、その慌てようからするとやはり二階に隠してると見えるな・・・」
「・・・・・ううっ!」
オーイスの様子に満足そうに頷くグロッシェ。
オーイスが唇を噛んだその時だった。


「ぎゃあああっ!!」
「ぐわあああっ!!」
二階から盗賊の悲鳴が店内に響いた。
「何だ、どうした!?」
臨戦態勢をとる残りの盗賊達。
すると階段から人影が降りてきた。
その人影は・・・
「ロート!!!」
思わずオーイスは叫び声を挙げた。
「な、何だてめぇは!!」
「・・・・・」
ロートはグロッシェの言葉を無視しオーイスをチラリと見た。
「くっそう、まだ化物がいるとは・・!!
お前ら、やってしまえ!!」
「おおおっ!!」
グロッシェの合図で一斉に襲い掛かる盗賊たち!
しかしロートは平然としている。
「死ねえええ!」
「・・・・・」
前から迫る男の剣を鎌で受け止め、払いのけたと思うと、
「うぎやっ!!」
素早く男の足を切りつけ動けなくする。
「もらったああっ!」
「・・・・・」
後ろから襲ってく男は飛び越して、
「ぐはっ!!」
脳天に踵落しを決めた。


「す、すごい・・・!」
「ば、馬鹿な・・・!」
オーイスは修羅のような活躍で盗賊を蹴散らすに見入っている。
一方、味方が次々やられていく様子に焦るグロッシェ。
やがて、襲い掛かる盗賊をすべて片付けたロートはグロッシェに向かって近づいていく。
「こ、こうなったら・・・」
グロッシェはオーイスを腕で抱えて剣を突きつけ、
「近づくんじゃねぇ!!
こいつがどうなってもいいのか!!」
とベタな発言をした。
(無駄だよ・・・)
剣を突きつけられながらオーイスは思った。
(いつも俺を無視していたロートが俺を人質に取ったぐらいで止まるわけがない・・・
おまけにさっき押し倒したから、もしかすると俺ごと切ってしまうかもしれない・・・)
そんなことを考えつつオーイスがロートの方を見た時だった。


「・・・・(ペタン)」
なんとロートは腕の鎌をたたみそのまま座り込んでしまった。
「・・・!?
ロート、どうして!?」
「へへへ、いい子だ。」
驚くオーイスを抱えたままグラッチェはロートに近づき、
「よくも、俺の部下を傷つけてくれやがったな!!」
と言うなりロートを蹴り付けた。
「・・・・・グッ!!」
呻き声を挙げて転がるロート。
「この虫けらが!!
どうだ、どうだ!!」
何度も蹴られたロートは痣だらけになる。
それを見つつオーイスは困惑した。
(どうして・・・どうしてロートは攻撃を止めたんだ・・・どうして・・・
まさか・・・俺が人質になったから・・・?
ロートは今まで俺のことを気にもかけなかったのに・・・)
その時オーイスとロートの目が合った。
オーイスの目を見たロートは一瞬微笑んだ。
(やっぱりロートは俺の為に・・・
こんなに傷だらけになって・・・
・・・なのに俺は・・・!)
「そろそろ、殺してやるよ!!」
「止めろおおおおっっっ!!!!」
グロッシェがとどめを刺そうと剣を振り上げた瞬間オーイスは自分を押さえつけてる腕に噛み付いた。
「うっ・・・痛ぇ!!
この野郎!!」
グロッシェに払いのけられ倒れるオーイス。
倒れる直前に彼はグロッシェの背後から飛び掛るロートの姿を見た後、
「ぐぎゃあああああっっ!!」
という悲鳴を聞いた。


「一体、どうなったんだ?」
縛られているので起き上がれないオーイスがモゾモゾしてると突然彼を縛っている縄が切られた。
「・・・・なんだ?」
起き上がるとそこには、
「オーイス!!」
飛び込んでくるロートの姿があった。
「オーイス、大丈夫?
どこも怪我してない?」
「う、うん、大丈夫だよ。
ロートの方こそ大丈夫?」
「大丈夫、あんなの怪我の内にも入らないから。」
今までとは打って変わったロートの態度に戸惑いながらもオーイスは尋ねた。
「ねぇ、ロート怒ってないの?」
「何が?」
「俺は君を押し倒したんだよ。
それにその怪我だって俺のせいで付いたようなものだし・・・・」
ロートは一瞬キョトンとしたがすぐに微笑んだ。
「私ね、今まで生きていくことにしか興味がなくてオーイスのことなんてこれっぽっちも考えていなかった。
でもさっきあなたと一つになって気持ちよくなった時に気づいたの。
あなたが出会ってからずっと私にやさしくしてたこと。
でも、私あなたに酷い事しかして来なかった・・・
それを悔やんでたら気づいたの。
あなたのことが好きだってことに。
だから怒ってないよ。
むしろこの気持ちを気づかせてくれてありがとう。」
その言葉を聞いたオーイスは思わずロートに抱きついた。
「本当にロートは俺なんかと一緒にいてくれるのかい?」
「うん、いいよ。
オーイスこそ普段無愛想な私なんかと一緒にいてくれる?」
「もちろんさ!!」
二人はそのまま長いこと抱き合っていた。


一方、
「うぐぐ・・・畜生・・・!」
ロートにやられ気絶していたグロッシェは目を覚ました。
「せめて・・・一矢報いてやる・・・」
ゆっくりと抱き合ってる二人の隙を伺う。
「よし、今だ!!」
そう呟いて飛び掛ろうとしたときだった。
突然彼と彼の手下の下に魔方陣が現れたかと思うと声を出す間も無く彼は手下と共にその魔方陣に吸い込まれた。


「やれやれ、あんなシーンに割って入ろうだなんて無粋な人ねぇ・・・」
ドアの外にいたのはイルハは独り言を言った。
手紙が偽者だと知って急いで引き返し、ドアの隙間から様子を伺っていた彼女が転送魔法で盗賊達を移動させたのだ。
ちなみに移動先は町の地下のデビルバグの巣である。
「それにしてもお熱いことね。
まあでも、私が騙されたせいであの二人に迷惑を掛けたことだし、もう少しあのままにしてあげようかしら。
ふふっ、明日聞く予定だったロートの今後は聞く必要は無さそうね♪」
そう呟きながらイルハは嬉しそうに笑った。




数日後、
「ふははっ!
イルハ、オーイスいるか?」
「あははー、こんにちはー!」
酒場にエムルとラフィが尋ねてきた。
「あら、エムル、いらっしゃい!」
「ラフィちゃんもいらっしゃい!」
「・・・いらっしゃい・・・」
「ん?」
最後の返事の主にエムルの視線が止まる。
「あんたはロートじゃないか!
もう罰は済んだはずだがどうしてここにいるんだ?」
「えーっと、それはですね・・・」
オーイスはあの夜のことを話した。


「そうか、そんなことがあったか・・・」
「ええ、次の日にロートがオーイスから離れたくないっていうから、ここで雇うことにしたのよ。」
「イルハは相変わらず粋な計らいをするなぁ、はっはっはっ!」
「ロートもオーイスと一緒の時なら結構おしゃべりでデレデレなのよ♪」
「クーデレと言う奴か?
結構じゃないか!」
「・・・・・」
少し頬を赤らめるロートを見て、オーイスはゴホンと咳払いをし、
「そう言えばエムルさんは今日はどんなようで来たんですか?」
と話題を変えた。
「ああ、今日は依頼を受けに来たんじゃないんだ。」
そう言ってエムルは大きな箱をカウンターの上に置いた。
「?」
「今日はこれを届けに着たんだ。」
エムルが箱を開けるとそこには大きなケーキがあった。
「あら、おいしそう!」
「ふははっ、実はラフィとの出会いの記念日にこれを買って食ったら旨くてな。
お前達にも食って貰おう思って持ってきたぞ!」
「わはー、たべてー。」
「ケーキか・・・」
オーイスはあることを思い出した。
「そういえば、ロートはまだケーキ食べたことなかったね。
今すぐ食べようか?」
「・・・・(コクリ)」
「そうね、いただきましょうか。
準備しましょう。」
イルハに言われ二人はお茶の準備を始めた。


「いただきまーす!」
店内のテーブルに紅茶とケーキを並べ、一同は席に着いてケーキを食べ始める。
「あら、おいしい!」
「そうだろう、そうだろう、うははっ!」
「あはー、おいしー!」
「あれ?」
オーイスはロートがケーキに手をつけてないことに気づいた。
「ロート食べないの?」
「・・・・・」
「もしかしてこの前のことを思い出してる?」
「・・・・(コクリ)」
「もう、気にしてないよ。
う〜ん・・・
よし、一緒に食べようか!」
オーイスは自分のケーキをフォークで取り、笑顔でロートの目の前に持って行く。
ロートは少し戸惑ったが、すぐに自分の分を使ってオーイスの前に差し出した。
「はい、アーン。」
「・・・・・(アーン)」
モグモグモグ
二人はケーキをゆっくり味わってから飲み込む。
「どう、おいしい?」
「・・・・おいしい・・・」
少しはにかんだ表情を見せるロート。
「わはー、ロートかわいいー。」
「仲がいいなぁ!」
「本当ねぇ〜、幸せそうねぇ〜♪」
「ええ、幸せですよ!!
ねぇ、ロート!」
「・・・・うん、オーイス大好き。」
それを聞いたエムル、ラフィ、イルハが笑い出す。
「はーっはっはっはっ!」
「あははー!」
「うふふっ!」
つられてオーイスとロートも笑い出した。
「はははっ!」
「・・・クスッ。」
その日の酒場にそれぞれの笑い声が響いていた。




終わり
11/03/01 00:17更新 / ビッグ・リッグス

■作者メッセージ
図鑑でマンティスの記事を読んでマンティスのSSを書こうと意気込んだのはいいのですが・・・
思いついたネタを随時投入していたら内容がゴチャゴチャしたものに・・・
にもかかわらず最後まで読んでいただいた方、ありがとうございます。

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