読切小説
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なぜあなたは笑うのか?
親魔物国家の町の一つジラード。町でギルドの集会場としてる酒場に二人の人影があった。一人はこの酒場の店主にしてギルドのマスター、エキドナのイルハ、もう一人はがっしりとした体に大剣を持ち、むすっとした表情をした男である。

「ねえ、エムル。この仕事引き受けてくれない?」
「断る。下らない厄介事にかかわるのは御免だ。」
イルハの頼みに対し、エムルと呼ばれた男は表情を変えず、そっけなく答える。
「うーん、じゃあ追加報酬を出すわ。それでどう?」
「・・・・」
「頼むわ。私の美貌に免じて♪」
「・・解ったよ。ったく女はうっとおしい・・」
「きゃー、ありがとう!」
「へいへい。それよか、依頼の内容忘れちまった。もう一回説明してくれ。」
「はぁ・・あなたほんとに相変わらずね・・」
ため息をつきつつイルハは依頼書を出してを説明を始める。
「依頼はこの国の領主から。この町にこの国の機密書を握った反魔物国家の密偵が潜伏してるらしいの。その機密書を奪い返す仕事よ。」
「そんなこと自警団に任せろよ・・・」
エムルは依頼書を見もせずにだるそうに問いかけた。
「あんまり大きく動くと警戒されて逃げられる恐れがあるわ。自警団で包囲を固め、あえて包囲の一箇所あけて置く。」
「そこから逃げだす連中を捕まえるってとこか。」
「そういうこと。頼むわよ。」
「了解。もう、説明はいいから、一旦帰らせてもらうぞ・・」
そういってエムルは酒場を後にした。
「もう、ちょっとは笑えばいい男なんだけど・・・」
エムルの背に向かってそうつぶやくと、イルハは別の仕事に取り掛かり始めた。


次の日の夜。
街道を猛スピードで飛ばす1台の馬車。
不意に馬車の前に男が現れた。エムルである。たまらず急停車した馬車に彼は声をかけた。
「よう、こんな夜中にどこに行くんだ?」
「怪しいものではありません!私はただの商人です。急ぎの用事で隣国まで行くところです!」
「急ぎの用事ってのは機密書の運搬か?」
その瞬間馬車が急発進し、エムルを弾き飛ばして逃げようとした。
「はぁ・・・あの場で捕まってくれりゃ、手間が省けたんだがな・・・」
逃げ去る馬車を面倒くさそうに眺めながらエムルは大剣に手を書け、
「うぉりやぁ!!」
と振り下ろした。

一方、馬車の男は多少安堵していた。人間の足では馬車には追いつけない。とりあえずあの男からは逃げられた。
そこまで考えた途端、
ゴオッ
と音がしたかと思うと彼の意識は闇に包まれた。

「依頼完了か。」
そう呟くエムルの前にはばらばらになった馬車の残骸とその下敷きになり虫の息の男。
馬車を吹っ飛ばしたのはエムルが大剣を高速で振ることにより、放った空気の刃である。
「こいつは後で自警団に引き渡すとして、こっちはどう片付けるかね・・・」
ぶつぶついいながら、馬車の残骸に近寄るエムルは積荷の一つに目を留めた。
それは1つの箱である。馬車が吹っ飛んでも壊れていないところを見ると相当頑丈なのだろう。
「なんだ?何が入ってんだ?」
気になって箱を開けた彼は目を点にした。
箱の中には大きな白い綿帽子のような毛玉が入っていた。
「いったい、こいつは・・・」と困惑する彼の前でその綿帽子から頭と手足が生え、
「あははー、お兄さんだれー?」
「な、なんだこりゃ・・・?」
残骸の真ん中で大剣を担いだ男と頭の生えた毛玉が会話する奇妙な光景が生まれた。


「その子、ケセランパサランね。」
「何んでそんなやつが密偵の荷物にいたんだよ?」
翌日、ギルドの酒場にはげんなりしながら依頼の報告をするエムルと報告を聞くイルハの姿があった。
「彼女達の別名は「幸せを呼ぶケセランパサラン」だしね、多分捕まえた彼女をどっかの貴族に売って一儲けしようとしたんじゃないかしら。」
「んなこと、どうでもいい。朝起きたら家が毛玉だらけだった。さっさと、あのちんちくりんを引き取ってくれ。」
「残念だけど、できないわ。」
「な、なんでだよ!」
「あら、依頼書に書いてあったでしょ?『依頼の過程で得たものは追加報酬とする』って。」
「な・・・・・!?」
昨日めんどくさがって依頼書をよく読まなかった事を後悔するエムル。
「契約上、その子はあなたのものよ。かわいがってあげなさい。」
「何言ってやがる、くそっ!」
そういって席を蹴り立てでていくエムルを見送りながらイルハはふと気になった。
(変ね。ケセランパサランの毛玉には幻覚作用があるはずだけど、彼なんとも無いのかしら?)


「はぁ・・・これからあんなやつと暮らすのか・・最悪だ・・・」
今までエムルは一人で生きてきた。
いつも機嫌の悪そうな顔に加え、仕事上危険と隣り合わせなので滅多に彼と付き合おうとする人はいない。
従って彼は他人と話すのが苦手だった。
そんな彼が突然、やって来た毛玉を撒き散らす少女の扱いに困るのも無理は無い。
「あいつはおとなしくしてるだろうな・・・」
そういって玄関のドアを開けると、
「おにーさーん」
「うぷっ・・・」
突然目の前が白くなる。
「あははー。寂しかったよー。」
「こら、抱きつくんじゃねぇ!つーかまた家が毛玉だらけじゃねえか!」
「あはー。ごめんねー。おにーさーん!」
「俺はお兄さんじゃねえ!エムルだ!!」
剣を振り回すも毛玉はふわりふわりとかわしてしまう。帰って早々大騒ぎだ。
「あーあ、また掃除しないとな・・・おい!えーと・・お前の名は!」
「名前?何それ?わはー。」
「ちっ、名前も無いのかよ・・・うーん、じゃあラフィだ!お前の名はラフィ!」
「あははー。ラフィ!ラフィ!」
「おい!家の中で毛玉を撒き散らすの禁止って何回言ったら解るんだ!」
「解ったー。」
(絶対解ってないだろ・・)
これからの生活を想像し頭を抱えるエムル。
「ねぇ、エムルー。幸せー?」
「そんなわけねえだろ!」

数日後、エムルは町の市場に買い物に来ていた。
ラフィはいくら言っても部屋一杯に毛玉を撒き散らすので一緒に連れてきている。
「あははー。人がいっぱーい。」
「おい、あんまり離れんなよ。迷子になるぞ。頭に乗れ。」
そういって、エムルはラフィを頭に乗せた。
「あははー」
「なあ、何が楽しくてお前はいつも笑ってるんだ?」
ふと、エムルは疑問をラフィにぶつけた。
「えーっとね、笑っているから楽しいのー。エムルも笑うと幸せになれるよー。」
「何で楽しくも無いのに笑わなきゃならねぇんだ、馬鹿馬鹿しい・・・」

そうこうしながら、エムルは店に入った。
一通り買いたいものを集めると彼は会計を行おうと店員に声をかけた。
「おい、ちょっといいか?」
「ぐふふ・・・」
「!?」
店員に話しかけて、帰ってきた反応にエムルは思わず身を引いた。
「ぐふふ・・・ははははは!」
「何だ!どうしちまったんだ、あんた!」
仰天して飛びのいた拍子に後ろにいたリザードマンにぶつかってしまう。
「おっと、悪い・・・」
「ふふふ・・・・あーっはっは!」
「あ、あんたもかよ!」
周りを見渡すと、

「おほほほほ!!」
「ふはははは!!」
「うひゃひゃひゃひゃ!!」
「けーっけっけっけ!」

いつの間にか通ってきた道にいる人誰もが笑い転げていた。
「ど、どうなってん?!」
唖然とする彼が視線をあげると

「あははー、あははー」
エムルの頭の上でラフィが毛玉を撒き散らしていた。

「何してんだ、お前はー!!!!!!!」

そう言うが早いかエムルは人のいない裏通りに駆け込んだ。


まだ笑い声の聞こえる裏通りでエムルはラフィを頭から下ろした。
「てめぇは何やってんだ!」
「みんなを楽しくしてたー。ねぇ、エムルー、幸せー?。」
その一言でエムルの中で何かが切れた。
「もう、限界だ!!お前なんか勝手に好きな所に行っちまえ!」
そういって踵を返してエムルはラフィから走り去った。

裏通りから出てきたエムルの前に、
「あら、エムル。そんなに息を切らしてどうしたの?それになんだか向こうが騒がしいけど。」
買い物籠を提げたイルハがいた。
「はあっ!はあっ!ラフィのせいだ。あんなやつもう知らん!!」
「ちょっと、何があったのよ?」
イルハはエムルから事の次第を聞くとこういった。
「多分、ラフィはあなたが好きで、無愛想なあなたに笑って欲しかったんじゃないかしら?」
その一言はエムルを動揺させた。
「はぁ?何言ってんだ。あいつは毛玉を撒き散らして俺を困らせてばかりいるんだぞ?」
「ケセランパサランの毛玉には人を陽気にさせる効果があるのよ。なぜかあなたには効果が無いみたいだけど、ラフィはあなたに笑って欲しくて毛玉を巻き続けたのよ、きっと。」
「そんなわけあるか!あいつは俺を困らせて楽しんでやがるんだ!」
「言い忘れたけど、ケセランパサランは自分の気持ちに素直な種族よ。もしあなたのことが嫌いならそれこそ勝手にどこかに飛んで行ってるわよ。」
それをきいてエムルは体に電流が走ったように感じた。
次の瞬間彼はラフィを探して駆け出した。


「おーい、ラフィー!何処だー!」
(あいつ、いつも笑ってたから何考えてるか解らなかった・・・)

「もう、怒ってないぞー!」
(あいつ俺のことを好きだったのか・・・こんな無愛想な俺を・・・)

「頼むから返事してくれー!」
(いつも笑いながら俺を笑わそうと一生懸命だったのか・・・)




町中探したがラフィは何処にもいなかった。
夜遅くになってエムルは探しつかれて、へとへとになりながら家に帰ってきた。
「ラフィ・・・・」
そう呟いてドアを開けると、
「あははー、エムルー。」
「ラフィ!」
そこにはラフィがいつものように家を毛玉だらけにしていた。
エムルはたまらず毛玉を掻き分けて進み、ラフィを抱きしめる。
「好きな所に行っちゃえって言われたからー、ここに着たよー。あはー。」
「こいつ!!散々手間掛けさせやがって!」
「あ、エムル笑ってるー。あははー。ねえ、幸せー?」
そう言われて、エムルは自分が笑っていることに気づいた。
「ああ、幸せだよ。あははっ!」
(確かに笑うってのも悪くないな・・・)



ラフィが市場で起こした騒動は特に実害が無かったことから咎めはうけなかった。
その日からエムルは常にラフィをつれて歩き、よく笑うようになった。
二人の幸せな姿は多くの人に笑顔をもたらしたらしたそうだ。

「ははっ!笑うって楽しいな!」
「あははーー!」
10/11/21 19:58更新 / ビッグ・リッグス

■作者メッセージ
初投稿です。
今後ともよろしくお願いします。

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