騎士団長の愛情
「きゅうひゃくっ、きゅうじゅうっ、はちっ。きゅうひゃくっ、きゅうじゅうっ、きゅうっ。」
ぶんっ、ぶんっと乾いた音が夜の訓練場で、鳴り続けている。
軽服では肌寒く感じるほど、冷えた夜にも関わらず青年の足元には、汗で水たまりが出来ていた。
名前はルッツ 自警団に所属する数少ない人間だ。
「せ、んっ。ふっ、ふぅっ、終わっ、た。」
地面に大の字になり天を仰ぐ。荒くなった息は、なかなか元には戻らない。
「おい!いつまでやっているんだ!」
右手側から大きな声が聞こえてきた。あの声は隊長かな
「またお前か、自主訓練はほどほどに、と言っているだろう。」
やっぱり隊長だった。
デュラハンの隊長 テア 自警団全員から慕われているすばらしい人だ。
僕が剣士として目標としている人だ。
そして密かに叶わない恋心も抱いている
「少しでも、多く、鍛錬して、おきたかったので」
「そのままではいつか体を壊すぞ」
「ただでさえ、剣を、使えていないので、せめて素振りでも、と思いまして。」
「それは毎日聞いている、だがお前は人間だろう。魔物ほど体も強くないんだ、それを分かっているのか?」
「わかって、ますが、」
「だったらしっかり体を休めろ、これは命令だ」
これも毎日のこと、でも休む時間があるならそれを鍛錬に回さないと、僕はまたおいていかれる。
しかし命令されると断る権利はなくなる。
「わかり、ました、休ませて、いただきます。」
立ち上がると少しふらついたが問題ない。いつものことだ
「しっかり水分を取ってから休めよ!」
「はい!」
今日の鍛錬も終わった。
━━━━━━━━
さて、書類整理も終わったし、見廻りだな。
くぅぅ、体が固まっているな。背骨のあたりがバキバキ鳴っている。
どうせまた、いつものように訓練場で剣を振っているのだろうな。
はち、じゅう、ご。
ほらな、休めと言っているのに。
まぁ、気持ちはわからんでもないがな。
真面目だが要領を得ていないんだよな、アイツは。
それに自警団仲間は魔物がほとんどだから、尚更自分に要求してしまうのだろうな。
さ、そろそろ止めにかからないとな。
━━━━━━━━
う.ん...朝か
体が重たい...
でも朝のランニングしないと。
今日は打ち合いか......
1勝くらいしたいな。
ようやく30キロ走り終わった。
だんだんこの距離を走るのも慣れてきた。
じゃあ今日使う道具の準備しよっと。
「今日も早いな、ルッツ」
「隊長!おはようございます。」
「ああ、おはよう。なあルッツよ。準備をしてもらうのは有難いが、ルッツにとって得も無いだろう?なぜ毎日雑務を自らやるのだ?」
「なぜ、と言われましても出来ることは極力やっておきたいので、やっているとしか言えません。」
「真面目なのは良いが、やりすぎだぞ。私の仕事がなくなるではないか。」
「隊長は書類整理や、他国との合同訓練の日程決めがあるじゃないですか。だから隊長の負担を減らしておきたいんです。」
隊長に迷惑をかけてばっかりいるから、せめてもの償いだ。
キィンッ
金属音が響いた。
打ち込まれる剣戟をぎりぎり防ぐので精一杯だ。
鈍い衝撃が右腕に走る。
「もらった!」
剣が喉元に突きつけられた。
「・・・降参」
両手を挙げて抵抗の意思がないことを相手に見せる。
また勝てなかった。
「やっぱ弱いですよね、先輩。」
後輩のリザードマンの言葉が突き刺さる。
「弱い、かぁ そうだよね、ごめんね練習相手にもならなくて」
卑屈になってしまう。これも嫌なのに
「そこまでは言ってないですけど、まぁ、はいもう少し強いほうがこちらとしてもありがたいです。」
素直が故に遠慮なしの物言いが追い打ちをかけてくる。
「「打ち合い、ありがとうございました。」」
もっと、鍛錬しないと。
━━━━━━━━
ふむ、表にしてみると勝敗がわかりやすいな。
さすがはリザードマンといったところか。
10戦10勝とは期待が持てそうだな。
まあ負けたら自警団を辞めるかもしれんがな。
ルッツは・・・相変わらず1勝も出来ていないのか
明日辺り直々に指導してやるか。
よしそうしよう。
せん、にひゃく、さんじゅう、ろく
ん?ルッツは1000回の素振りで終わりじゃなかったのか?
あのバカが、体を壊すと言っているのに。
━━━━━━━━
1000回の素振りと500回の木偶人形へ模擬刀での斬りかかり、これが日課だったけれど、
今日から1500回の素振りと1000回の木偶人形への斬りかかりに変えた。
「やっぱり、向いてないんだろうな」
数をこなすぐらいしか鍛錬の種類がない。
出来る人は、どんなことやってるんだろう。
「月が綺麗だなぁ、そろそろ満月かな?」
息を整えようと深呼吸していたら誰かに急に抱き上げられた。
「わわっ、隊長!?」
「体を壊すと言っているだろう!自分の体なんだ!大切にしろ!」
怒られた、いつも以上の剣幕で。
「おっ、下ろしてください!歩けんむっ!?」
柔らかいものに顔が埋められる。
「だれが下ろすか!阿呆が!」
気づいていないのか、説教が始まりそうになってきた。
「むー!むー!」
必死の抗議
なんとか息をしようと顔を動かす。
「ひぅっ!?何をしとるか!」
怒られた、理不尽極まりない。
「とにかく!もう今日は寝ろ!そして部屋から出るな!」
「ぷぁっ は、はい!」
━━━━━━━━
全く!あいつという奴は!
しかしあれだな、ルッツの汗の臭いが服に染み付いてきている気がする。
くんくん むぅ、頭がクラクラしてくる匂いだな。
見た目に反してずっしりと重たいということは、体が引き締められているということだよな。
・・・・・・・・・・・・・・・・どんな味がするんだろう。
いかんいかん、またルッツのことばかり考えてしまうな。
やはり私はルッツのことが好きなのだろうか?
わからん、だが気になるのも事実だしな。
いっそのこと首を外してみれば分かるのか?
外したい・・・ ハッ!騎士たるのも欲に流されたりなどせん!
そういえばジパングの酒があったな。
明日辺り晩酌に付き合わせるか。
これは流されている・・・のか?
いや、あくまで交友を深めたいだけだからいいはずだ。
「全員集まったか? A班点呼!」
いーち、に!さん、しー、ごー、ろくー
「テアたいちょーう、ルッツがいませんよー」
「む?ルッツがいないだと?もう訓練の時間だろう、おーいルッツ!」
「だからいないんですってー」
「仕方がないな、私が探してくる、各班対人訓練を行うように!」
「「「はい!」」」
━━━━━━━━
「…ろ、おい!起きろ、ルッツ。」
「もう少し・・・」
「何を言っている!もう訓練の時間は始まっているぞ!」
その言葉を聞いて跳ね起きた。
「嘘!もうそんな時間ですか!?今行きます!」
立ち上がるが、足元がふらついて隊長に倒れ掛かってしまう。
「お、おい。大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。」
いまいちバランスが取れない、昨日無理しすぎたかなぁ?
「きついのなら休め、動けるなら訓練に来い。」
「動けます、訓練の邪魔はしません。」
こんなところで挫けたくない、隊長の目をしっかりと見て答えた
「ならば来い、だが休憩時間以外の休憩は認めんぞ。」
優しいんだか厳しいんだかわからないけど、そんな隊長だから信頼できる。
「わかってます、自分に甘えたくはありません。」
━━━━━━━━
「訓練終了!解散!」
もっと強いオスいないかなー
ねー、ここのオス強いのいないんだよねー
「おいそこ!そういう話は兵舎でやれ!」
はーい
「あ、あとルッツ!後で少し付き合え。」
「え?でも鍛錬が」
「ほう、お前は隊長より鍛錬のほうが大事だというか。」
「い、いえ!そういう訳ではありません!」
「ならいい、大して時間は取らんさ」
なんだろう?なんか気に障ることしたかな?
夜も更けて月の柔らかな光が訓練場に射す頃、ようやく備品の整備も終わり隊長のもとに来た。
「で、えっと何をすればいいでしょうか。」
「ルッツ、今日は1対1で教えただろう?どうだ、なにか得られるものはあったか?」
真剣な眼差しで問われた。
「得られるものですか、動きが素早かったので、翻弄されていたのがほとんどでしたけど、斬りかかってきたときに太刀筋の見極めが出来るようになった・・・のかな?ってとこですね」
「ふむ、確かに見極めも大事だし、後半はいい動きをしていた、が重たい一撃がはいったときお前はどうした?」
「重たい一撃・・・受け止めようとしましたが、失敗して剣が弾かれました。」
「そこだ、お前は太刀筋が見えていると全部受けきろうとする節がある。威力を流すことを覚えれば幾分かはマシになるだろう。」
確かに僕は全部受け止めようとしていた。意識してみて初めて気づいた。
「威力を流す・・・?」
威力を流すとはどうやるんだ?
少しの間考えていたら隊長が少し微笑みながら言った
「お前は不器用だからな、受け止めたくなるのはわかる。だがお前が周りに優っているものは何だ?スタミナだろう?パワーで負ければスタミナで戦えばいいんだ。」
「スタミナで、ですか。」
スタミナなら周りに優っているのは分かっていたが、それでパワーに対抗できるのだろうか?
「そうだ。重い一撃は動きが分かりやすい。だから重いものは躱すなりして、軽いものを受け止める。切り替えの時には、わずかながら隙も生まれる。そこをついて少しずつ相手の体力が切れだすのを待つんだ。」
戦えるから言えるんだよなぁ。羨ましくなった。
「その戦い方だと、動体視力が必須になるのでは?」
「剣なぞそんなものだろう。斬り合うのならば相手の筋肉の動きを見極めろ。」
何を今更、とでも言いたいのか、呆れたような表情をしている。
「無茶をいいますね。」
「はっはっは、まあそこらはゆっくり分かればいい。 そうだ!ルッツお前酒飲めるか?」
急に話を変えてきた。
「お酒、ですか?強くはないですけど少しだけなら。」
「ならちょうどいい、今宵は見ての通り満月だ。ジパングの酒で月見酒と行こうじゃないか。」
「月見酒!そういうのってなんて言うんでしたっけ?えっとフウリュウ?」
なんとなくそんな言葉だった気がする
「ん?そうなのか?私は細かいことはよくわからんが、友人が勧めてくれた酒だ。楽しく飲みたい。」
「ふふっ、相手が僕でいいんですか?」
「ルッツと飲むと楽しいだろうからな♪」
とても嬉しそうにそう言ってきた。
「ん?顔が赤いぞ、熱でもあるのか?」
「い、いえ大丈夫です」
「よし!飲むぞ!」
━━━━━━━━
「おい〜、なんだぁ るっつぅ、もうおわりきゃぁ?」
「ほらほら、隊長飲みすぎですよ。」
典型的な酔っぱらいモードに入ってしまった。
「あはは〜せかいがまわってるぅ♪」
「1人で酒瓶3本も開けちゃって、体に悪いですよ」
美味い美味いで3本も開けるとは思ってもみなかった。なんだか自棄酒をしているようにも見えた。
「るっつとのさけはうまいなぁ♪」
「ありがとうございます。」
「ん〜るっつぅ、あるけにゃいからおぶってぇ〜」
やたらと甘えてくる。これが隊長の本心なのかな。
「わかりましたよ、ほら、隊長」
「ん〜ありがとぉ♪」
ずしりと人ひとり分重たくなる。首に擦りついて来てくすぐったい。
カツコツと石造りの廊下を歩いていく。
急に強く抱きつかれた。
「た、隊長胸が・・・その、当たってるんですけど」
「やわらかいだろぉ?わたひのじまんだぁ。・・・るっつぅ」
「どうしました?」
急に声のトーンが落ちた
「きもちわるい・・・」
「ちょっと!?もう少し我慢してください!急いでトイレ行きますから!」
「う゛ぅ、いそいでぇ・・・」
「もう大丈夫ですか?」
「うぇぇ、くちがすっぱい・・・」
「飲み過ぎだって言ったのに。」
「なんかのみものもってきてくれぇ」
「持ってきますから、動かないでくださいよ」
「持ってきました、ってなんで正座してるんですか?」
「うごくなっていうから」
「子供ですか、隊長は。ほら飲めますか?」
「むりぃ、のましてぇ」
「世話の焼ける・・・ほら口あけてください」
「あー んっくんっく ぷぁっ、ちべたい・・・」
「冷えてる方が酔い醒ましになりますよ」
「うぅ〜いじわるぅ」
恨みがましい目でこちらを見てくる。
「感謝こそされど恨まれる覚えはないですよ。隊長歩けますか?」
「おぶって〜」
「どうぞ、体火照ってるみたいですから、あとで氷枕持ってきますね」
またしっかりと抱きしめられた。精神的に限界が近くなってきた。
「ありがと〜んふふ、るっつのせなかあったかい」
「あんまりはしゃぐとここで寝泊まりしてる人に迷惑ですよ。」
「む〜、もんくばっかりいってぇ、かんりするのもつかれるんだぞぉ。ねぎらえ」
「備品の発注や、細かなスケジュール管理いつもありがとうございます。隊長のおかげでここは成り立っているようなものですよ。」
「よし!よくいった ごほうびだぁ」
「んっ!?」
「んんっ ふう えへへぇ きす、しちゃったぁ♪」
何を考えているんだ!?魔物娘が酔っ払ってファーストキスって!
「///」
「んん〜?かおがまっかだぞぉ♪ ふふっあいしてるぞ、るっつぅ♥」
「何いってんですか。っと着きましたよ。」
「るっつのかおはまっかっか〜♪」
嬉しそうに歌っている。
「えっと、着いたんですけど」
「べっどまでつれてけぇ」
「入ってもいいんですか?」
「いつでもすきなときにはいっていいぞ〜」
「失礼します。ベッドはどこですか?」
書類や衣服、鎧などで部屋が埋まっている。
「そっち〜」
指もささずにそっちと言われてもまるでわからない。
「そっちってどっちですか。あ、あれですか?」
うろついていたら、ベッドの脚のようなものが見えたので、聞いてみたらあっていたようだ
「そーそー」
「よいしょっと、それじゃまた明日」
隊長をベッドに寝かせて部屋を出ようとしたら
「まてぇ」
「わぁっ!?」
腕を引っ張られてベッドに寝かされ、抱きつかれた。
「きもちいーことしたいだろぉ?」
「隊長!?」
酔っ払っているとは言えやりすぎだろ!
「たいちょうきんしれい!てあってよべ〜」
「ちょっと!僕に何を求めてるんですか!」
「わたしへのたゆまぬあいじょうだ〜、そーすればわたしとるっつはそーしそーあいだぁ♪」
「相思相愛って・・・隊t、テアさんは僕が好きなんですか?」
「さっきからそういってるだろ〜あれぇ、ちょーかーがはずれないぞぉ?」
首を留めているチョーカーを外そうと躍起になっている
「それ外したら首取れるんだから外れない方が」
ごとん
「とれたぁ♪」
・・・やばい
『あぁ、この日を心待ちにしていた!早くルッツを犯して犯して犯しまくろう!そうしよう!ルッツも嫌じゃないよな!返事なんて聞いてないけどな!あ〜とりあえずキスしてろ!私の頭!』
無理やりキスをさせられた。舌が口の中を這いずり回る。
無遠慮なキスだが求められたことが嬉しい。
『ああ、やはりキスは気持ちがいいものだったのだな!話は聞くがここまでだったとは!さあ!さあさあさあ!昼は剣の特訓に付き合ったんだ!拒否権はないぞ!今から私とセックスするぞ!言い方を変えるならば交尾だ!子作りだ!まぐわいだ!ルッツとの子はどんな子になるんだろうなぁ!やはり父親譲りで不器用なのか!?それもいいな!私はルッツの全てを認め全てを愛しすべてを貰おう!その代わりに私の全てをやろう!金も体も愛情も私物もすべてがお前のものだ!いい条件だろう?さあセックスするぞ!言いたいことはないな?3秒以上の沈黙は肯定と取るぞ!321よし文句はないな!ああしかし勘違いはしないでくれよ!私は強姦まがいのことはしたくない!腕は動くだろう?今から私がお前を犯して犯して犯し尽くしてもいいなら私の頭を抱きしめろ!和姦がいいなら私の体を抱きしめろ!』
驚く程の剣幕でいろいろと言われた。
すべてを認めて、全てを愛する。こんな一言で僕は報われた気がする。
今までそんなことは言われたことがなかった。
だから僕は
『頭を抱きしめたな!いい覚悟だ!3年間も我慢した分の全てをぶつけてやる!3日3晩なんかで終わると思うな!最低でも1週間休みなしでヤってもらうぞ!そして終わった後は結婚式を開くぞ!』
ある種の死刑宣告にも聞こえた。
でも、受け入れる。
僕を認めてくれたから、僕を愛してくれたから、僕を見ていてくれたから。
信頼されて、尊敬されて、畏怖されて、遥かに遠いところにいたと思っていた人が、
すぐ手の届くところで、手を伸ばしてくれたから。
この人と一緒なら幸せになれそうだ。
「結婚してください、テア」
ぶんっ、ぶんっと乾いた音が夜の訓練場で、鳴り続けている。
軽服では肌寒く感じるほど、冷えた夜にも関わらず青年の足元には、汗で水たまりが出来ていた。
名前はルッツ 自警団に所属する数少ない人間だ。
「せ、んっ。ふっ、ふぅっ、終わっ、た。」
地面に大の字になり天を仰ぐ。荒くなった息は、なかなか元には戻らない。
「おい!いつまでやっているんだ!」
右手側から大きな声が聞こえてきた。あの声は隊長かな
「またお前か、自主訓練はほどほどに、と言っているだろう。」
やっぱり隊長だった。
デュラハンの隊長 テア 自警団全員から慕われているすばらしい人だ。
僕が剣士として目標としている人だ。
そして密かに叶わない恋心も抱いている
「少しでも、多く、鍛錬して、おきたかったので」
「そのままではいつか体を壊すぞ」
「ただでさえ、剣を、使えていないので、せめて素振りでも、と思いまして。」
「それは毎日聞いている、だがお前は人間だろう。魔物ほど体も強くないんだ、それを分かっているのか?」
「わかって、ますが、」
「だったらしっかり体を休めろ、これは命令だ」
これも毎日のこと、でも休む時間があるならそれを鍛錬に回さないと、僕はまたおいていかれる。
しかし命令されると断る権利はなくなる。
「わかり、ました、休ませて、いただきます。」
立ち上がると少しふらついたが問題ない。いつものことだ
「しっかり水分を取ってから休めよ!」
「はい!」
今日の鍛錬も終わった。
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さて、書類整理も終わったし、見廻りだな。
くぅぅ、体が固まっているな。背骨のあたりがバキバキ鳴っている。
どうせまた、いつものように訓練場で剣を振っているのだろうな。
はち、じゅう、ご。
ほらな、休めと言っているのに。
まぁ、気持ちはわからんでもないがな。
真面目だが要領を得ていないんだよな、アイツは。
それに自警団仲間は魔物がほとんどだから、尚更自分に要求してしまうのだろうな。
さ、そろそろ止めにかからないとな。
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う.ん...朝か
体が重たい...
でも朝のランニングしないと。
今日は打ち合いか......
1勝くらいしたいな。
ようやく30キロ走り終わった。
だんだんこの距離を走るのも慣れてきた。
じゃあ今日使う道具の準備しよっと。
「今日も早いな、ルッツ」
「隊長!おはようございます。」
「ああ、おはよう。なあルッツよ。準備をしてもらうのは有難いが、ルッツにとって得も無いだろう?なぜ毎日雑務を自らやるのだ?」
「なぜ、と言われましても出来ることは極力やっておきたいので、やっているとしか言えません。」
「真面目なのは良いが、やりすぎだぞ。私の仕事がなくなるではないか。」
「隊長は書類整理や、他国との合同訓練の日程決めがあるじゃないですか。だから隊長の負担を減らしておきたいんです。」
隊長に迷惑をかけてばっかりいるから、せめてもの償いだ。
キィンッ
金属音が響いた。
打ち込まれる剣戟をぎりぎり防ぐので精一杯だ。
鈍い衝撃が右腕に走る。
「もらった!」
剣が喉元に突きつけられた。
「・・・降参」
両手を挙げて抵抗の意思がないことを相手に見せる。
また勝てなかった。
「やっぱ弱いですよね、先輩。」
後輩のリザードマンの言葉が突き刺さる。
「弱い、かぁ そうだよね、ごめんね練習相手にもならなくて」
卑屈になってしまう。これも嫌なのに
「そこまでは言ってないですけど、まぁ、はいもう少し強いほうがこちらとしてもありがたいです。」
素直が故に遠慮なしの物言いが追い打ちをかけてくる。
「「打ち合い、ありがとうございました。」」
もっと、鍛錬しないと。
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ふむ、表にしてみると勝敗がわかりやすいな。
さすがはリザードマンといったところか。
10戦10勝とは期待が持てそうだな。
まあ負けたら自警団を辞めるかもしれんがな。
ルッツは・・・相変わらず1勝も出来ていないのか
明日辺り直々に指導してやるか。
よしそうしよう。
せん、にひゃく、さんじゅう、ろく
ん?ルッツは1000回の素振りで終わりじゃなかったのか?
あのバカが、体を壊すと言っているのに。
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1000回の素振りと500回の木偶人形へ模擬刀での斬りかかり、これが日課だったけれど、
今日から1500回の素振りと1000回の木偶人形への斬りかかりに変えた。
「やっぱり、向いてないんだろうな」
数をこなすぐらいしか鍛錬の種類がない。
出来る人は、どんなことやってるんだろう。
「月が綺麗だなぁ、そろそろ満月かな?」
息を整えようと深呼吸していたら誰かに急に抱き上げられた。
「わわっ、隊長!?」
「体を壊すと言っているだろう!自分の体なんだ!大切にしろ!」
怒られた、いつも以上の剣幕で。
「おっ、下ろしてください!歩けんむっ!?」
柔らかいものに顔が埋められる。
「だれが下ろすか!阿呆が!」
気づいていないのか、説教が始まりそうになってきた。
「むー!むー!」
必死の抗議
なんとか息をしようと顔を動かす。
「ひぅっ!?何をしとるか!」
怒られた、理不尽極まりない。
「とにかく!もう今日は寝ろ!そして部屋から出るな!」
「ぷぁっ は、はい!」
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全く!あいつという奴は!
しかしあれだな、ルッツの汗の臭いが服に染み付いてきている気がする。
くんくん むぅ、頭がクラクラしてくる匂いだな。
見た目に反してずっしりと重たいということは、体が引き締められているということだよな。
・・・・・・・・・・・・・・・・どんな味がするんだろう。
いかんいかん、またルッツのことばかり考えてしまうな。
やはり私はルッツのことが好きなのだろうか?
わからん、だが気になるのも事実だしな。
いっそのこと首を外してみれば分かるのか?
外したい・・・ ハッ!騎士たるのも欲に流されたりなどせん!
そういえばジパングの酒があったな。
明日辺り晩酌に付き合わせるか。
これは流されている・・・のか?
いや、あくまで交友を深めたいだけだからいいはずだ。
「全員集まったか? A班点呼!」
いーち、に!さん、しー、ごー、ろくー
「テアたいちょーう、ルッツがいませんよー」
「む?ルッツがいないだと?もう訓練の時間だろう、おーいルッツ!」
「だからいないんですってー」
「仕方がないな、私が探してくる、各班対人訓練を行うように!」
「「「はい!」」」
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「…ろ、おい!起きろ、ルッツ。」
「もう少し・・・」
「何を言っている!もう訓練の時間は始まっているぞ!」
その言葉を聞いて跳ね起きた。
「嘘!もうそんな時間ですか!?今行きます!」
立ち上がるが、足元がふらついて隊長に倒れ掛かってしまう。
「お、おい。大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。」
いまいちバランスが取れない、昨日無理しすぎたかなぁ?
「きついのなら休め、動けるなら訓練に来い。」
「動けます、訓練の邪魔はしません。」
こんなところで挫けたくない、隊長の目をしっかりと見て答えた
「ならば来い、だが休憩時間以外の休憩は認めんぞ。」
優しいんだか厳しいんだかわからないけど、そんな隊長だから信頼できる。
「わかってます、自分に甘えたくはありません。」
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「訓練終了!解散!」
もっと強いオスいないかなー
ねー、ここのオス強いのいないんだよねー
「おいそこ!そういう話は兵舎でやれ!」
はーい
「あ、あとルッツ!後で少し付き合え。」
「え?でも鍛錬が」
「ほう、お前は隊長より鍛錬のほうが大事だというか。」
「い、いえ!そういう訳ではありません!」
「ならいい、大して時間は取らんさ」
なんだろう?なんか気に障ることしたかな?
夜も更けて月の柔らかな光が訓練場に射す頃、ようやく備品の整備も終わり隊長のもとに来た。
「で、えっと何をすればいいでしょうか。」
「ルッツ、今日は1対1で教えただろう?どうだ、なにか得られるものはあったか?」
真剣な眼差しで問われた。
「得られるものですか、動きが素早かったので、翻弄されていたのがほとんどでしたけど、斬りかかってきたときに太刀筋の見極めが出来るようになった・・・のかな?ってとこですね」
「ふむ、確かに見極めも大事だし、後半はいい動きをしていた、が重たい一撃がはいったときお前はどうした?」
「重たい一撃・・・受け止めようとしましたが、失敗して剣が弾かれました。」
「そこだ、お前は太刀筋が見えていると全部受けきろうとする節がある。威力を流すことを覚えれば幾分かはマシになるだろう。」
確かに僕は全部受け止めようとしていた。意識してみて初めて気づいた。
「威力を流す・・・?」
威力を流すとはどうやるんだ?
少しの間考えていたら隊長が少し微笑みながら言った
「お前は不器用だからな、受け止めたくなるのはわかる。だがお前が周りに優っているものは何だ?スタミナだろう?パワーで負ければスタミナで戦えばいいんだ。」
「スタミナで、ですか。」
スタミナなら周りに優っているのは分かっていたが、それでパワーに対抗できるのだろうか?
「そうだ。重い一撃は動きが分かりやすい。だから重いものは躱すなりして、軽いものを受け止める。切り替えの時には、わずかながら隙も生まれる。そこをついて少しずつ相手の体力が切れだすのを待つんだ。」
戦えるから言えるんだよなぁ。羨ましくなった。
「その戦い方だと、動体視力が必須になるのでは?」
「剣なぞそんなものだろう。斬り合うのならば相手の筋肉の動きを見極めろ。」
何を今更、とでも言いたいのか、呆れたような表情をしている。
「無茶をいいますね。」
「はっはっは、まあそこらはゆっくり分かればいい。 そうだ!ルッツお前酒飲めるか?」
急に話を変えてきた。
「お酒、ですか?強くはないですけど少しだけなら。」
「ならちょうどいい、今宵は見ての通り満月だ。ジパングの酒で月見酒と行こうじゃないか。」
「月見酒!そういうのってなんて言うんでしたっけ?えっとフウリュウ?」
なんとなくそんな言葉だった気がする
「ん?そうなのか?私は細かいことはよくわからんが、友人が勧めてくれた酒だ。楽しく飲みたい。」
「ふふっ、相手が僕でいいんですか?」
「ルッツと飲むと楽しいだろうからな♪」
とても嬉しそうにそう言ってきた。
「ん?顔が赤いぞ、熱でもあるのか?」
「い、いえ大丈夫です」
「よし!飲むぞ!」
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「おい〜、なんだぁ るっつぅ、もうおわりきゃぁ?」
「ほらほら、隊長飲みすぎですよ。」
典型的な酔っぱらいモードに入ってしまった。
「あはは〜せかいがまわってるぅ♪」
「1人で酒瓶3本も開けちゃって、体に悪いですよ」
美味い美味いで3本も開けるとは思ってもみなかった。なんだか自棄酒をしているようにも見えた。
「るっつとのさけはうまいなぁ♪」
「ありがとうございます。」
「ん〜るっつぅ、あるけにゃいからおぶってぇ〜」
やたらと甘えてくる。これが隊長の本心なのかな。
「わかりましたよ、ほら、隊長」
「ん〜ありがとぉ♪」
ずしりと人ひとり分重たくなる。首に擦りついて来てくすぐったい。
カツコツと石造りの廊下を歩いていく。
急に強く抱きつかれた。
「た、隊長胸が・・・その、当たってるんですけど」
「やわらかいだろぉ?わたひのじまんだぁ。・・・るっつぅ」
「どうしました?」
急に声のトーンが落ちた
「きもちわるい・・・」
「ちょっと!?もう少し我慢してください!急いでトイレ行きますから!」
「う゛ぅ、いそいでぇ・・・」
「もう大丈夫ですか?」
「うぇぇ、くちがすっぱい・・・」
「飲み過ぎだって言ったのに。」
「なんかのみものもってきてくれぇ」
「持ってきますから、動かないでくださいよ」
「持ってきました、ってなんで正座してるんですか?」
「うごくなっていうから」
「子供ですか、隊長は。ほら飲めますか?」
「むりぃ、のましてぇ」
「世話の焼ける・・・ほら口あけてください」
「あー んっくんっく ぷぁっ、ちべたい・・・」
「冷えてる方が酔い醒ましになりますよ」
「うぅ〜いじわるぅ」
恨みがましい目でこちらを見てくる。
「感謝こそされど恨まれる覚えはないですよ。隊長歩けますか?」
「おぶって〜」
「どうぞ、体火照ってるみたいですから、あとで氷枕持ってきますね」
またしっかりと抱きしめられた。精神的に限界が近くなってきた。
「ありがと〜んふふ、るっつのせなかあったかい」
「あんまりはしゃぐとここで寝泊まりしてる人に迷惑ですよ。」
「む〜、もんくばっかりいってぇ、かんりするのもつかれるんだぞぉ。ねぎらえ」
「備品の発注や、細かなスケジュール管理いつもありがとうございます。隊長のおかげでここは成り立っているようなものですよ。」
「よし!よくいった ごほうびだぁ」
「んっ!?」
「んんっ ふう えへへぇ きす、しちゃったぁ♪」
何を考えているんだ!?魔物娘が酔っ払ってファーストキスって!
「///」
「んん〜?かおがまっかだぞぉ♪ ふふっあいしてるぞ、るっつぅ♥」
「何いってんですか。っと着きましたよ。」
「るっつのかおはまっかっか〜♪」
嬉しそうに歌っている。
「えっと、着いたんですけど」
「べっどまでつれてけぇ」
「入ってもいいんですか?」
「いつでもすきなときにはいっていいぞ〜」
「失礼します。ベッドはどこですか?」
書類や衣服、鎧などで部屋が埋まっている。
「そっち〜」
指もささずにそっちと言われてもまるでわからない。
「そっちってどっちですか。あ、あれですか?」
うろついていたら、ベッドの脚のようなものが見えたので、聞いてみたらあっていたようだ
「そーそー」
「よいしょっと、それじゃまた明日」
隊長をベッドに寝かせて部屋を出ようとしたら
「まてぇ」
「わぁっ!?」
腕を引っ張られてベッドに寝かされ、抱きつかれた。
「きもちいーことしたいだろぉ?」
「隊長!?」
酔っ払っているとは言えやりすぎだろ!
「たいちょうきんしれい!てあってよべ〜」
「ちょっと!僕に何を求めてるんですか!」
「わたしへのたゆまぬあいじょうだ〜、そーすればわたしとるっつはそーしそーあいだぁ♪」
「相思相愛って・・・隊t、テアさんは僕が好きなんですか?」
「さっきからそういってるだろ〜あれぇ、ちょーかーがはずれないぞぉ?」
首を留めているチョーカーを外そうと躍起になっている
「それ外したら首取れるんだから外れない方が」
ごとん
「とれたぁ♪」
・・・やばい
『あぁ、この日を心待ちにしていた!早くルッツを犯して犯して犯しまくろう!そうしよう!ルッツも嫌じゃないよな!返事なんて聞いてないけどな!あ〜とりあえずキスしてろ!私の頭!』
無理やりキスをさせられた。舌が口の中を這いずり回る。
無遠慮なキスだが求められたことが嬉しい。
『ああ、やはりキスは気持ちがいいものだったのだな!話は聞くがここまでだったとは!さあ!さあさあさあ!昼は剣の特訓に付き合ったんだ!拒否権はないぞ!今から私とセックスするぞ!言い方を変えるならば交尾だ!子作りだ!まぐわいだ!ルッツとの子はどんな子になるんだろうなぁ!やはり父親譲りで不器用なのか!?それもいいな!私はルッツの全てを認め全てを愛しすべてを貰おう!その代わりに私の全てをやろう!金も体も愛情も私物もすべてがお前のものだ!いい条件だろう?さあセックスするぞ!言いたいことはないな?3秒以上の沈黙は肯定と取るぞ!321よし文句はないな!ああしかし勘違いはしないでくれよ!私は強姦まがいのことはしたくない!腕は動くだろう?今から私がお前を犯して犯して犯し尽くしてもいいなら私の頭を抱きしめろ!和姦がいいなら私の体を抱きしめろ!』
驚く程の剣幕でいろいろと言われた。
すべてを認めて、全てを愛する。こんな一言で僕は報われた気がする。
今までそんなことは言われたことがなかった。
だから僕は
『頭を抱きしめたな!いい覚悟だ!3年間も我慢した分の全てをぶつけてやる!3日3晩なんかで終わると思うな!最低でも1週間休みなしでヤってもらうぞ!そして終わった後は結婚式を開くぞ!』
ある種の死刑宣告にも聞こえた。
でも、受け入れる。
僕を認めてくれたから、僕を愛してくれたから、僕を見ていてくれたから。
信頼されて、尊敬されて、畏怖されて、遥かに遠いところにいたと思っていた人が、
すぐ手の届くところで、手を伸ばしてくれたから。
この人と一緒なら幸せになれそうだ。
「結婚してください、テア」
14/07/05 23:45更新 / かせうなっつ