森の中は、矢張り夜になると非常に暗い。
街の中とは違い、ガス灯の灯りどころか月の明かりすら届かない。
足場もけっして良いものではなく、踏み出すたびに、ぐちゃりと下品な音を立てる。
もしもここに童がいたなら、化け物が出そうだ、と怯え出すだろう。
しかし、そんな空間は、逆に言えば。


化け物を見物するのには、もってこいの場所に思えた。
あとは、化け物が出てくれば…完璧なシチュエーションに思えた。

「…どこにいるんだよ」

彼は辺りを見回す。
この完璧なシチュエーション。
それでも、魔物どころがゴキブリすら見つからない。
化け物の一匹も出てこいよ、と憎まれ口だけが口から出てくる。
いっそ、騒ぎ立ててみるか？
いや、それで人に見つかったら惨事である。
間違いなく、しばらく外出はできなくなってしまう。
じゃあ、やはり地道に探すしか無いのだ。
既に足が棒のようになっても。
歩く辛さなんて、あっちでのいじめに比べれば、屁でも無い。


しばらく歩き続けていた。
きっと最初に歩き始めてから、20分は歩き続けたろう。
きっと、努力は実を結ぶ。
それを証明するように、目の前にあったのは…
やや茶色じみた毛の残る、洞窟であった。
人間の髪か、とも思ったが、きっと違うのだろう。
なぜなら…その空間に、おおよそ人間の物とは思えない、茶色い液体が辺り一面に広がるのを見たからだ。

「…やった、やったのか⁉」

声は返ってこない。
では、少し眠ることにしようか。
寝てる間に、ここの怪物さん。
煮るなり、焼くなり、捌くなり、お好きにどーぞ。

















その女は、たった一人で生きてきた。
いや、その言い方には語弊があるかもしれない。
その女は、たった一匹で、が正しいかもしれない。
何故なら…彼女は人間では無いのだから。

デビルバグ。
彼女は人間では無く、一匹のデビルバグであった。
悪魔の蟲の名を冠する彼女らだが、彼女はその蟲達の中では、異色の存在だったのかもしれない。

まず、デビルバグは基本的に本能に忠実である。
野生的に生きる彼女らは、基本的に理性を必要としないからだ。
だが、彼女は…その野生的な暮らしを、けして良いものとは思わなかった。
だから、彼女が狩りなどになれず、溢れてしまったのは必然とさえ言えただろう。
…思えば、ここまで木の実や草の根を齧り、それで生きて行けたのは奇跡に近いだろう。
しかし、限界は近づいていた。

それはまさに、『野生』の本能。
彼女の体は、まさに『動物の蛋白質』を求めていた。


そして、そんな彼女が、限界寸前で戻った時。
巣穴で求めていたものが転がっていれば、半ば衝動に駆られながら、それに襲いかかってしまったのは、まさに必然的な出来事とさえ言えただろう。





















男は目を覚まし、目が覚めてしまったことを残念に思った。
死にたくて仕方がなかったのに…
そして、その直後。
突如として、その激しい快楽を認知し、混乱しながら…何者かに向けて、精を放った。

「うっ…わぁ⁉」

…しかし、その悲鳴に反応してか、そのさっきまで男のモノを加えていた『変わった格好をした、茶色い髪の美しい女性』も悲鳴を上げた。

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい！」

慌てる女性、しかし男も既にパニックに陥っていた。

「え、ごめん！脅かすつもりは無かったんだ！」

ごめんなさい、いやごめん、本当にごめんなさい！こっちがごめん！
そんな不毛な謝罪の応酬が、3回ほど続いただろうか。
ようやく両者落ち着き始め、なんとか説明に至った。

「えっと、僕はマルス。人里から逃げて、気づいたらこの洞窟にいたんだ。」

マルス、と名乗った男は、改めて自分が相手を傷つける意思が無いことを示すべく、両手を頭上で交差させた。

「わ、私はオルガです。あの、はしたない事をしてしまい、本当に申し訳ないです！」

マルスはオルガが朝起きたら突然フェラチオをしてきた事は、何故だ、とは思っていた。
しかし、彼女の態度から『事情』がある事を察したようで、優しく笑っていた。

「いやいや、構わないよ。僕も気持ち良かったし、ねぇ。」

しかし、オルガは未だに顔が赤いままであった。

「あの…マルスさん…」

「なんだい？」

マルスは優しい口調で答えた。
それに対して、オルガは…僅かに、しかし確かな熱の籠った声で、囁いた。

「続き、しても…いい、ですか？」

オルガからの、先程までの初な少女とは思えないほどの、ストレートすぎるお誘い。
それに対して、彼は微笑むと…優しく、彼女の手を取った。

「良いよ。寧ろ、そうしてくれるかい？」

しかし、思えば彼は、彼女に優しくしすぎたのかも知らない。
生まれてこのかた、ずっと非常な『野生』を生きてきた少女に、その優しさは、まさしく麻薬のようなもので。
生まれてこのかた、まともな『愛情』を知らなかった少女にかけてしまった彼の僅かばかりの愛情は、彼女の心に、毒液の如く染み込んで。
そして、『男』を知らないその少女に、これ以上の『理性』を求めるのは、あまりに無理があった。
「じゃあ、挿れますよ〜♡」
「…え。ちょっと待って、君」

ようやくマルスも、違和感に気づいたのだろう。
しかし、時は既に遅し。
彼女は、彼を布の上に押し倒すと。
そのまま、奥まで腰を下ろした。

「うぐっ⁉あがぁ⁉」
「あっッ♡」

快楽に慣れていないマルスのそこに、彼女の細かいヒダが激しく絡みつく、キツく絞まる、その名器をそんな勢いで絡ませたら。
すぐに射精に至ってしまうのは、当然と言えた。

「ああっ…♡この熱いの、もっと、くださいッ！」
「ッ⁉…ま、待ってくれ、そんなに激しくッ⁉イッたばかりだから、やめてくれぇ…」

彼の悲鳴は、既に彼女に届いた様子など無かった。
無慈悲なまでの激しさで腰を振り続ける彼女に対して、彼の出来た抵抗など殆どと言って良いほど無かった。

「ふふっ…また出すんですねぇ…私も一緒にイきます♡」
「ひぐっ⁉…だめ、やめてくれ、また出ちゃう！」

そして、今までで一番激しい射精が続いた、その後に。
彼は、人間を卒業した。



















数年後。
彼の状況は、街を出る前とは比べるべくも無いが、しかし最初よりは非常に悪化していた。
「ぱぱぁ…♡パパの濃いの、一番奥に出してぇ♡」
「おじいちゃん…次は、私とシてね…」
「あなた…今日も、私とシてくれるんでしょう？」
オルガとの間に出来た、20人の娘。
この種族はどうやら近親相姦の概念は無いらしく、その全員が既に5人もの子供を産んで、そしてその孫もまた全員が毎日のようにマルスに迫ってくるのである。
もちろん、オルガもである。
…そして1番の問題。それは、マルス自身が持ち前の優柔不断を発揮して、迫られたら絶対に断れない、という事だった。
いくらインキュバスでもキツい。
彼は自分の体がもたないぞ、とは思ってはいた。
しかし…

「パパの濃くて熱いの、たくさんだしてぇ！」
「あは、おじいちゃん、びゅーって射精しちゃうんだねぇ？」
「ふふ…この子ったら、あんなにヨガっちゃって…」

彼女達の、SEXをしている時の幸せそうな顔を見ると。
少しくらい無理しても良いかな、という気分になれるのは不思議な事だ。
そして、妻は。
二度と自分の中の『野生』を、嫌いになったり、しないだろう。

■作者メッセージ
札幌に行った時、ゴキブリがいるのを見ました。
しかしゴキブリ、外で見るとなかなかに愛嬌がありますね。
あいつ、家に居なければなかなかに良いんだよなぁ。
そんな思いで書きました。
あと、お好きにがお先にになってたんで修正しました。
おじいちゃん呼びになってます。
お父さん呼びが他の方のSSで多く見かけたので、会えて王道から逸れて見ました。