王国に忍び寄る蛇影
月は今宵も金色の光で、ファラオの治める遺跡を上空から優しく見守っていた。
そんな月と同じ色の瞳と夜空と同じ色の体躯を持った影がいた。
影は素早くテラスから室内に侵入し、もはや今宵の夜伽も終わり、安らかな寝息を立てる二つの影に音もなく忍び寄り、口からチロチロと舌を蛇がするソレの様に出し入れし、眠っていることを確認すると吸血鬼が従者の血液を啜る時の様に首筋をさらけ出させ、犠牲者の男に……その毒牙を掛けることは敵わなかった。
「何者だい?」
大きく開けられた口の中に突きつけられたメイル・ブレイカー。男―カイル―は半ば寝ぼけ眼で夜更けの訪問者に問うた。
「もう一度聞こうか……っと、失礼。これじゃぁ話せないね」
ゴメンゴメンと、メイル・ブレイカーを手元に引き付け、それでもなお切っ先を眉間に残心を解かず、訪問者に再度問う。すると
「だんなさま〜っ」
「メルシスさま〜〜っ」
と寝室の外から勢い良く扉を開けてきたのは巡回中のマミー達だった。
「おのれぇぇぇ〜ぞくめぇぇ〜〜」
「えいへ〜!えいへ〜!」
どこか間の抜けているマミー達の声に毒気を抜かれたか、多少戸惑っている。さらにマミーの声を聞きつけたのか、他の巡回中の衛兵が駆けてくる音が響く。
訪問者は不利と悟り、その身を部屋の石柱に身を絡ませ天窓の付近から外へと逃走した。
「申し訳ございませんでしたッ!!」
翌朝。
ファラオの眼前で、腰が折れてると言わんばかりの勢いでこの遺跡の管理者が頭を下げに来ていた。昨晩の刺客の件である。
「よいよい。妾も我が君も大事無かったのじゃ」
この遺跡の周辺を治めるファラオのメルシスと
「そーそー」
俺もまだまだ行けるね……と両手の間接をパキパキと鳴らすカイル。
「しかし……何者であろうな?妾は寝てしもうたものでのぅ。顔を見ておらんのじゃ」
「牙があり舌も長くて石柱に身を絡ませていたから、ラミアだったと思う……けど」
「なんじゃ?」
続けよ、と先を促すメルシス。
「あぁ。なんか……こう、フツーのラミアとは雰囲気?が違った、というか……あ!エラ!!エラだ!エラがあった!!」
「ほほう……これはちと」
「マズイ事になりましたね」
遺跡の中の寝室に重い、空気がただよった。
くぅ……失敗した。
女は苦虫をつぶしたような顔で露天街を歩いていた。
いや。正確に言うなら這っていた。か。
彼女の下半身は蛇のソレだからである。
遺跡周辺の魔力が高まり、種族的宿敵とも言える、ファラオの復活を感じ取り、自身がねぐらにしている遺跡の奥からここメルシアに来たのだが……予想外の邪魔が入った。夫を娶っていた事は想定内だったが、まさかアレ程の手練とは。
「……何をするにしても、計画を練り直した方が良さそうですわね」
そう考えると彼女は裏路地に向かい
「アレは……イイモノを見つけましたわ♪」
くふふふ……と含み笑いをすると一人のスフィンクスの後をつけはじめた。
「あぽぴす?」
「そうじゃ」
「そうです」
「なんかかわいらしい名前だねぇ?」
カイルは暢気に笑顔を浮かべている。
「はい。しかし、かわいいのは名前だけでして、私はファラオブレイカーと呼んでいます」
「物騒だね?でも魔物娘なんだから、こっちが殺される事はないんだろう?」
「えぇ。旧魔王時代はファラオの眠りを永きものから永遠のものへ変えるものとして、神に造られたモノでした。現魔王様に代わってからはもちろんそんな事はありません。彼女の種族の神経毒の効果は二つ。一つは彼女に絶対服従する愛奴に変える。ヒトの身であれば、ラミアにその身を変える。二つ目はファラオを含めどんな魔物でも終始発情させる、しかも二つとも永遠効果が消えることはありません」
「という事はナスターシアが受ければ、夜のナスターシアが普段から見れる、という事か」
「そうじゃの」
「はい?」
「それはそれで見てみたいね(のぅ)?」
何を悠長なことを仰っているのですか!とナスターシアは半ば呆れ怒り、
「そして最後には彼女が王国を乗っ取り、常夜の魔界へと変えるのです」
と締めた。
「妾は今の風景が気に入っておる。露天商のジパングからはるばるやってくる刑部狸や魔界豚に跨るゴブリンの商隊。それらと交易を交わす為にやってくる方々の国のニンゲン、オアシスで戯れるウンディーネとソレに混ざって遊ぶニンゲンの子、魔物の子達。みな、昼は働き夜は愛し合う者同士で互いに暖めあう。妾は今のこの風景が好きなのじゃ。愛おしいのじゃ。アポピスの望む暗黒魔界とやらも、さぞ住み心地は良いのであろう。きっと婿殿も気に入るであろう。しかし、そこに今のこの風景はないのじゃ。」
まぁ、興味がないわけではないし魔物娘としては失格かもしれぬがの、とメルシスは続けるが、その瞳は己の民の今を守ろうとせんとする強い眼差しだけがあった。
「それに隠居するにはまだ早すぎるしの」
「そうだな。唯でさえ熱いのにこれ以上気温を上げるのはちょっとゴメンだなぁ」
カイルも何処となく、その表情に満足げである。
「さて。それじゃぁ対策を考えますか……」
三人の眼差しには正体がほぼ判明しているとは言え、全貌の掴めぬ敵にたいする議論を開始するのであった。
日が差すにも関わらず、人通りの少ない路地裏。
「はひゃっ……♥ぁふぁっぁあはぁぁぁ……♥」
「くふふふ……どぉかしら?ワタクシの毒?」
包帯少女に己の脚部で巻き付き、少女の首筋から口を離すとアポピス―ネルフェル・ラウ・パテト―は少女に尋ねる。
包帯少女、それは昨晩寝室に忍び込んだ際に対峙したマミーの片割れであった。偶然彼女を見つけたネルフェルは後をつけ、人気がなくなった所で一気に襲い掛かり、素早く彼女を毒牙にかけたのだった。
「ほら。もう疼いてしまって仕方ないのでしょう?」
そう言うと、元々敏感な彼女の露出した褐色肌を舌の動きよろしく撫で回す。
「ふひゃぁあぁぁぁぁぁ♥」
毒を打ち込まれた時点で自身の股間から溢れる露で重くなった包帯がさらに重くなり、足腰からも徐々に力が抜けて行き
「あらあら……最近のマミーは木乃伊なのに随分とみずみずしいのネェ?」
「はひぃぃぃぃん♥」
ネルフェルルの左手の人差し指と親指が乳首をこね回し、右手を舐めさせ、舌を引きずり出す。
「や、やめれぇぇ!やらぁ!やらぁ!!」
マミーは抵抗を試みるもすでに毒が回りきってしまっているのか、瞳は虚空を映し舌の口はだらしなく涎をたらしている。
「うふふ……もっとして欲しい?」
「ほ……ほひぃれすぅ……♥」
「じゃぁ……ワタクシの僕になって下さいますわね?」
「そ……それはぁ……」
マミーの最後プライドが、復活したファラオに仕えているというプライドがなんとか抵抗をしている。
「ふぅ〜……ん……そう、ですの」
ネルフェルルの眼が妖しさを増しにやりと口元を吊り上げ
「それじゃ……仕方ありませんわね……と、でも言うと思いましてッ!?」
「はひゃぁぁぁぁあ♥」
左手がさらに強く乳首ひねり、右手はクリトリスを擦り上げ、さらにアナルに尻尾を突っ込むと中をえぐり犯した。
「こうすると毒の回りが早くなりましてよ!!」
勃起した乳首を口で吸われ、乳房に毒を流し込まれ、かきまわされる膣内。深々と突き抜かれるアナル。
「や!やりゃぁあ!!お、おしゅりっ!!おシゅりはらめぇぇぇ!!」
情け容赦なく徹底的に犯され、もはやマミーは白目を剥きながらもだえ狂う。
「ダメ押しですわ!!」
トドメといわんばかりにさらに毒を打ち込まれ
「あひぃぃぃぃぃ♥……!!」
マミーは盛大に絶頂をむかえた。
「さぁ?起きなさい?」
ネルフェルルは新たな下僕を眠りの世界から呼び戻した。
ムクリと無言で起き上がるマミー。その眼にそれまでの正気の光はなく、精を渇望し遺跡の奥深くを男を求め彷徨うアンデッドのそれであった。
「やる事は判っていますわね?お行きなさい」
また無言でうなずき、遺跡に戻るマミー。
「うふふふ……さぁ次の娘はどこかしら?にゃんちゃん?」
ふにゃぁ……ときの抜けた鳴声と友に一人のスフィンクスが路地裏からニンゲンの少女と共に姿を見せた。
発情しきった瞳をネルフェルルに向けて。
路地裏でネルフェルルが着実に仕込みを行っている頃、メルシスとカイルは政務に追われていた。
結局の所、アポピスに対する有効な手段は講じられず、昨晩の再来がない事を祈るという、展開になってしまったのだ。
夕方になり一人の刑部狸が面会を求めてきたものの、それ以外は特にコレ、と言った事はなかった。
そして、いつの間にか月は天高く夜空に上がり、今宵の対策はどうしたものか、とカイルが頭を悩ませていると、扉をノックする音がした。
マーゴであった。
「にゃ〜、今日は部屋の前で寝ずの番をするニャ!!」
「ありがとうマーゴ。でも無茶はしないでね?」
「わかったニャ、だんにゃ様!」
と勢い良く返事をしたものの、妙にふらついている……
「にゃ!?これは、ちょっと夕食に……」
何かが入っていた様だ。妙に声が艶っぽい。
「なんじゃ?大丈夫かぇ?」
奥からメルシスも心なしか声に緊張を感じる。
まぁ、俺が気を張っていれば問題ないさ。と楽観的に考え
「さぁ。今宵も来てたも♪愛しの我が君♪」
両手を広げ、臨戦態勢で自分を待つ愛妻のベッドにダイブした。
「敵襲ッ!!敵襲ゥッ!!」
真夜中の遺跡に男の声が響く。
「何事じゃ!?」
「来たかッ!?」
寝室でもカイルが飛び起き、いざと言う時の為に備え、戦闘の準備を開始する。
「メルシスは何かあってからじゃ遅い、何時でも逃げられる準備を!!マーゴ!状況を説明してくれ!!マーゴッ!!」
しかし部屋の前をガードしている筈のマーゴからは何の返事もない。
「メルシス様!旦那様!」
後ろを振り返るとナスターシアが立っていた。
「ご無事でございますか!?」
「妾も婿殿も無事じゃ。大事無い」
「マーゴのヤツと連絡がとれん!」
「よびましたかにゃ〜?」
いつの間に入ってきたのか、マーゴが眼前に立っていた。何故か顔を紅潮させ。
「おい!扉は平気なのか!?」
慌てて詰め寄るカイル。
「へいきにゃ〜だって……」
何人かのマミーと
「ワタクシが入って来れましたもの。」
眼前に蛇神が居た。
「お迎えにあがりましたわ。ファラオ」
「キサマ、何故正面から入ってこられる!?」
ナスターシアが必死に喰らいつく。
「そんなに吠えないで下さいまし。程度が知れてしまいましてよ?」
必死に喰らいつくナスターシアを傍目に、自らの下僕にしたスフィンクスのあごを撫でさすり
「大体、ファラオ、貴方はやる事が中途半端なのですわ。やるならトコトンまで。どっぷりと魔界に浸かろうではありませんか?さぁ。ワタクシの毒牙にかかり、この王国をお渡しになりなさい?」
それが魔物娘としてのシアワセですことよ?と、口調こそ穏やかなものの、その眼は完全に見下していた。
「断るッ!!」
カイルがさえぎった。カイルはメイル・ブレイカーを両手に構え威嚇する。
「貴方も今よりも、もっと淫らな生活がお望みなのでしょう?」
「すまないが、今の生活もなかなかに捨てがたいもんでなッ!」
「そう……残念ですわ。なら力ずくで頂きますわ!」
男と蛇妖が互いに間合いを詰め
「先日のワタクシと一緒になさらないで下さいましね?ホラ!」
あっという間にネルフェルに巻きつかれ、床に転がされるカイル。
ナスターシアはマーゴとマミー達の対応で精一杯である。
「たわいないですわね?さぁ……覚悟はよろしくて?」
カイルに毒牙が迫る。
必死に身をよじって、その一撃をかわそうにもがっちりと、ラミア種の十八番である『まきつき』をその身に受けては対処の仕様がなかった。
ましてや、相手はエキドナともタメを張れる蛇妖の化身である。毒牙を抜きにしてもその妖しい身体から発散されるフェロモンは比較にならない。
カイルが元教会勇者的最終手段を考えた時、奇跡が起きた。
「『退け』ェぇい!!痴れ者がッ!」
ファラオの『命令』が炸裂したのだ。
「のぅ?ネルフェルよ。妾は、妾はの、今、カイル殿が、この国が愛おしいのじゃ。『命令』じゃ!『この場から去ね』ぃ!」
「ぐッ!」
さすがのネルフェルも『ファラオ』の『命令』の強制力の前には多少なりとも影響がある。メルシスはさらに続ける。
「今、引くのであらば、そなたの元へ、この町へやって来る男共をそちらへ嫁がせよう!妾の家臣を手篭めにした事にも抵触せん!!じゃから、再度、我が名に措いて命ずる『退け』ぃ!」
「きょ、今日の所は引き上げますわ!」
さすがにこれだけの好条件を出された事で引き下がらざるを得なかった様だ。
すぐにネルフェルは撤退を始めるのであった。
「大事無いかぇ?婿殿」
「あぁ。すまない、メルシス」
「ところで……婿殿?コレは何ぞぇ?」
「あ。いや。その。生理現象と言いますか」
「ほぅ……そーかそーか。婿殿は妾のような身体よりもあの様な蛇身の方が好みか。そーか」
「いや。その。めるしすさん?」
「シオキじゃ。当分は眠れるとは思うなよ?」
さて。どうしたものでしょうか……
ネルフェルは迷っていた。次なる手を考えなくては。あの土地はあの女に任せておくのは気に入らない。どうすればあの遺跡を乗っ取れるのか。
――何千年振りかで男に巻きつきましたが、やはり男の身体はイイものですわ。ニンゲンの何も知らない、無垢な少女のビロードのような肌触りの、さらりとした肌に牙痕を刻み、毒を注ぎ込み、眷属と化し、自分色に染め上げるのもそれはそれで乙なものでございましたが。男の汗の香りに筋骨隆々とした、筋肉と言う鎧に牙を通し、己の色に染め上げるのもたまりませんわ。嗚呼想像しただけで、涎が……――
なんともヴァンパイアやダンピールと趣味が合いそうな……
三日後。
彼女の遺跡はヒトであふれていた。正確にはほぼ男で、である。
彼らは、皆メルシスの遺跡の町で商売を営む異国風の身形をした少女商人から、『新しい町』の情報を得て来たのである。
男を見た瞬間、彼女の眷属と化しているメルシスの遺跡から連れて来た魔物娘達は早い者勝ちと言わんばかりの勢いであちこちで乱交をはじめている。
自身の包帯で互いの足と足を結びつけ、貪るマミー。
主と同じ様に蛇妖の下半身で相手ごと上半身を包み交じわうもとニンゲンのラミア。
こうなる事を望んでいなかったのか、知らなかったのか、逃げ惑う男を捕まえ、なぞかけを繰り返しながら一方的に犯すスフィンクス。
そして、彼女の眷属でない、付近に住まうギルタブリに毒を打ち込まれ連れ去られる商人。
まさに乱交の有様であった。
そして遺跡の奥深く。
一人の男に絡みつく蛇妖、ネルフェルが居た。
彼女の牙痕が男の身体のあらゆる所に穿たれており、その顔は快楽にゆがんでいた。
「ほら、アナタ♥」
キュッキュッと緩くきつく締め上げ、蛇腹を蠢かし、男の身体をまるで男根を締め付ける膣内のような動きで男を高みに押し上げる。
「ん……♥また出ましたわぁ♥」
「あぅっ!」
ドクドクと膣内に吹き付ける精子を恍惚の表情で受け止める
「ほぉら♥もーいっかい♥」
「ちょ、ちょっと一息……」
蛇体をキュッと締め付け男に催促する。
「だぁめ♥また噛んでア差しアゲますからぁ♥」
「ちょ、まじで……7回目の毒はキツイって!!」
「イ・ヤ♥ですわ♥」
「ぅおおお!!」
胸をムにゅムにゅと押し付け、股間を蛇腹で優しくなで上げさらに催促する。
「きゃはッ!また硬くなってきましたわ……ん♥」
「ネルフェルさまぁ〜〜〜……先日の商人さんがいらしてますよぉ〜」
マミーが入り口から声をかける。
「少々……んぅ♥待たせておいてッ……♥くださいなっ♥あ、あと4、5回搾ったら伺います……わぁッっ!!」
蛇足
「や。もーかりまっか?」
「ぼちぼちでぇんなぁ」
「おぉ。旦那、毎度おおきに。おかげさんで、近々露天街から商店街へと場所を移せそうどす。」
「それはなによりだ」
「ナスターシアさんの時にも世話になったし……今度何か奢らせてくれるかい?」
「いえいえ……コッチもホント儲かってますから。お互い様ッちゅー事で」
「そう。助かるよ」
「では、あたしゃコレで。そろそろ、アッチの遺跡に顔をだして来やすんで」
「道中お気をつけて」
「おおきに」
そんな月と同じ色の瞳と夜空と同じ色の体躯を持った影がいた。
影は素早くテラスから室内に侵入し、もはや今宵の夜伽も終わり、安らかな寝息を立てる二つの影に音もなく忍び寄り、口からチロチロと舌を蛇がするソレの様に出し入れし、眠っていることを確認すると吸血鬼が従者の血液を啜る時の様に首筋をさらけ出させ、犠牲者の男に……その毒牙を掛けることは敵わなかった。
「何者だい?」
大きく開けられた口の中に突きつけられたメイル・ブレイカー。男―カイル―は半ば寝ぼけ眼で夜更けの訪問者に問うた。
「もう一度聞こうか……っと、失礼。これじゃぁ話せないね」
ゴメンゴメンと、メイル・ブレイカーを手元に引き付け、それでもなお切っ先を眉間に残心を解かず、訪問者に再度問う。すると
「だんなさま〜っ」
「メルシスさま〜〜っ」
と寝室の外から勢い良く扉を開けてきたのは巡回中のマミー達だった。
「おのれぇぇぇ〜ぞくめぇぇ〜〜」
「えいへ〜!えいへ〜!」
どこか間の抜けているマミー達の声に毒気を抜かれたか、多少戸惑っている。さらにマミーの声を聞きつけたのか、他の巡回中の衛兵が駆けてくる音が響く。
訪問者は不利と悟り、その身を部屋の石柱に身を絡ませ天窓の付近から外へと逃走した。
「申し訳ございませんでしたッ!!」
翌朝。
ファラオの眼前で、腰が折れてると言わんばかりの勢いでこの遺跡の管理者が頭を下げに来ていた。昨晩の刺客の件である。
「よいよい。妾も我が君も大事無かったのじゃ」
この遺跡の周辺を治めるファラオのメルシスと
「そーそー」
俺もまだまだ行けるね……と両手の間接をパキパキと鳴らすカイル。
「しかし……何者であろうな?妾は寝てしもうたものでのぅ。顔を見ておらんのじゃ」
「牙があり舌も長くて石柱に身を絡ませていたから、ラミアだったと思う……けど」
「なんじゃ?」
続けよ、と先を促すメルシス。
「あぁ。なんか……こう、フツーのラミアとは雰囲気?が違った、というか……あ!エラ!!エラだ!エラがあった!!」
「ほほう……これはちと」
「マズイ事になりましたね」
遺跡の中の寝室に重い、空気がただよった。
くぅ……失敗した。
女は苦虫をつぶしたような顔で露天街を歩いていた。
いや。正確に言うなら這っていた。か。
彼女の下半身は蛇のソレだからである。
遺跡周辺の魔力が高まり、種族的宿敵とも言える、ファラオの復活を感じ取り、自身がねぐらにしている遺跡の奥からここメルシアに来たのだが……予想外の邪魔が入った。夫を娶っていた事は想定内だったが、まさかアレ程の手練とは。
「……何をするにしても、計画を練り直した方が良さそうですわね」
そう考えると彼女は裏路地に向かい
「アレは……イイモノを見つけましたわ♪」
くふふふ……と含み笑いをすると一人のスフィンクスの後をつけはじめた。
「あぽぴす?」
「そうじゃ」
「そうです」
「なんかかわいらしい名前だねぇ?」
カイルは暢気に笑顔を浮かべている。
「はい。しかし、かわいいのは名前だけでして、私はファラオブレイカーと呼んでいます」
「物騒だね?でも魔物娘なんだから、こっちが殺される事はないんだろう?」
「えぇ。旧魔王時代はファラオの眠りを永きものから永遠のものへ変えるものとして、神に造られたモノでした。現魔王様に代わってからはもちろんそんな事はありません。彼女の種族の神経毒の効果は二つ。一つは彼女に絶対服従する愛奴に変える。ヒトの身であれば、ラミアにその身を変える。二つ目はファラオを含めどんな魔物でも終始発情させる、しかも二つとも永遠効果が消えることはありません」
「という事はナスターシアが受ければ、夜のナスターシアが普段から見れる、という事か」
「そうじゃの」
「はい?」
「それはそれで見てみたいね(のぅ)?」
何を悠長なことを仰っているのですか!とナスターシアは半ば呆れ怒り、
「そして最後には彼女が王国を乗っ取り、常夜の魔界へと変えるのです」
と締めた。
「妾は今の風景が気に入っておる。露天商のジパングからはるばるやってくる刑部狸や魔界豚に跨るゴブリンの商隊。それらと交易を交わす為にやってくる方々の国のニンゲン、オアシスで戯れるウンディーネとソレに混ざって遊ぶニンゲンの子、魔物の子達。みな、昼は働き夜は愛し合う者同士で互いに暖めあう。妾は今のこの風景が好きなのじゃ。愛おしいのじゃ。アポピスの望む暗黒魔界とやらも、さぞ住み心地は良いのであろう。きっと婿殿も気に入るであろう。しかし、そこに今のこの風景はないのじゃ。」
まぁ、興味がないわけではないし魔物娘としては失格かもしれぬがの、とメルシスは続けるが、その瞳は己の民の今を守ろうとせんとする強い眼差しだけがあった。
「それに隠居するにはまだ早すぎるしの」
「そうだな。唯でさえ熱いのにこれ以上気温を上げるのはちょっとゴメンだなぁ」
カイルも何処となく、その表情に満足げである。
「さて。それじゃぁ対策を考えますか……」
三人の眼差しには正体がほぼ判明しているとは言え、全貌の掴めぬ敵にたいする議論を開始するのであった。
日が差すにも関わらず、人通りの少ない路地裏。
「はひゃっ……♥ぁふぁっぁあはぁぁぁ……♥」
「くふふふ……どぉかしら?ワタクシの毒?」
包帯少女に己の脚部で巻き付き、少女の首筋から口を離すとアポピス―ネルフェル・ラウ・パテト―は少女に尋ねる。
包帯少女、それは昨晩寝室に忍び込んだ際に対峙したマミーの片割れであった。偶然彼女を見つけたネルフェルは後をつけ、人気がなくなった所で一気に襲い掛かり、素早く彼女を毒牙にかけたのだった。
「ほら。もう疼いてしまって仕方ないのでしょう?」
そう言うと、元々敏感な彼女の露出した褐色肌を舌の動きよろしく撫で回す。
「ふひゃぁあぁぁぁぁぁ♥」
毒を打ち込まれた時点で自身の股間から溢れる露で重くなった包帯がさらに重くなり、足腰からも徐々に力が抜けて行き
「あらあら……最近のマミーは木乃伊なのに随分とみずみずしいのネェ?」
「はひぃぃぃぃん♥」
ネルフェルルの左手の人差し指と親指が乳首をこね回し、右手を舐めさせ、舌を引きずり出す。
「や、やめれぇぇ!やらぁ!やらぁ!!」
マミーは抵抗を試みるもすでに毒が回りきってしまっているのか、瞳は虚空を映し舌の口はだらしなく涎をたらしている。
「うふふ……もっとして欲しい?」
「ほ……ほひぃれすぅ……♥」
「じゃぁ……ワタクシの僕になって下さいますわね?」
「そ……それはぁ……」
マミーの最後プライドが、復活したファラオに仕えているというプライドがなんとか抵抗をしている。
「ふぅ〜……ん……そう、ですの」
ネルフェルルの眼が妖しさを増しにやりと口元を吊り上げ
「それじゃ……仕方ありませんわね……と、でも言うと思いましてッ!?」
「はひゃぁぁぁぁあ♥」
左手がさらに強く乳首ひねり、右手はクリトリスを擦り上げ、さらにアナルに尻尾を突っ込むと中をえぐり犯した。
「こうすると毒の回りが早くなりましてよ!!」
勃起した乳首を口で吸われ、乳房に毒を流し込まれ、かきまわされる膣内。深々と突き抜かれるアナル。
「や!やりゃぁあ!!お、おしゅりっ!!おシゅりはらめぇぇぇ!!」
情け容赦なく徹底的に犯され、もはやマミーは白目を剥きながらもだえ狂う。
「ダメ押しですわ!!」
トドメといわんばかりにさらに毒を打ち込まれ
「あひぃぃぃぃぃ♥……!!」
マミーは盛大に絶頂をむかえた。
「さぁ?起きなさい?」
ネルフェルルは新たな下僕を眠りの世界から呼び戻した。
ムクリと無言で起き上がるマミー。その眼にそれまでの正気の光はなく、精を渇望し遺跡の奥深くを男を求め彷徨うアンデッドのそれであった。
「やる事は判っていますわね?お行きなさい」
また無言でうなずき、遺跡に戻るマミー。
「うふふふ……さぁ次の娘はどこかしら?にゃんちゃん?」
ふにゃぁ……ときの抜けた鳴声と友に一人のスフィンクスが路地裏からニンゲンの少女と共に姿を見せた。
発情しきった瞳をネルフェルルに向けて。
路地裏でネルフェルルが着実に仕込みを行っている頃、メルシスとカイルは政務に追われていた。
結局の所、アポピスに対する有効な手段は講じられず、昨晩の再来がない事を祈るという、展開になってしまったのだ。
夕方になり一人の刑部狸が面会を求めてきたものの、それ以外は特にコレ、と言った事はなかった。
そして、いつの間にか月は天高く夜空に上がり、今宵の対策はどうしたものか、とカイルが頭を悩ませていると、扉をノックする音がした。
マーゴであった。
「にゃ〜、今日は部屋の前で寝ずの番をするニャ!!」
「ありがとうマーゴ。でも無茶はしないでね?」
「わかったニャ、だんにゃ様!」
と勢い良く返事をしたものの、妙にふらついている……
「にゃ!?これは、ちょっと夕食に……」
何かが入っていた様だ。妙に声が艶っぽい。
「なんじゃ?大丈夫かぇ?」
奥からメルシスも心なしか声に緊張を感じる。
まぁ、俺が気を張っていれば問題ないさ。と楽観的に考え
「さぁ。今宵も来てたも♪愛しの我が君♪」
両手を広げ、臨戦態勢で自分を待つ愛妻のベッドにダイブした。
「敵襲ッ!!敵襲ゥッ!!」
真夜中の遺跡に男の声が響く。
「何事じゃ!?」
「来たかッ!?」
寝室でもカイルが飛び起き、いざと言う時の為に備え、戦闘の準備を開始する。
「メルシスは何かあってからじゃ遅い、何時でも逃げられる準備を!!マーゴ!状況を説明してくれ!!マーゴッ!!」
しかし部屋の前をガードしている筈のマーゴからは何の返事もない。
「メルシス様!旦那様!」
後ろを振り返るとナスターシアが立っていた。
「ご無事でございますか!?」
「妾も婿殿も無事じゃ。大事無い」
「マーゴのヤツと連絡がとれん!」
「よびましたかにゃ〜?」
いつの間に入ってきたのか、マーゴが眼前に立っていた。何故か顔を紅潮させ。
「おい!扉は平気なのか!?」
慌てて詰め寄るカイル。
「へいきにゃ〜だって……」
何人かのマミーと
「ワタクシが入って来れましたもの。」
眼前に蛇神が居た。
「お迎えにあがりましたわ。ファラオ」
「キサマ、何故正面から入ってこられる!?」
ナスターシアが必死に喰らいつく。
「そんなに吠えないで下さいまし。程度が知れてしまいましてよ?」
必死に喰らいつくナスターシアを傍目に、自らの下僕にしたスフィンクスのあごを撫でさすり
「大体、ファラオ、貴方はやる事が中途半端なのですわ。やるならトコトンまで。どっぷりと魔界に浸かろうではありませんか?さぁ。ワタクシの毒牙にかかり、この王国をお渡しになりなさい?」
それが魔物娘としてのシアワセですことよ?と、口調こそ穏やかなものの、その眼は完全に見下していた。
「断るッ!!」
カイルがさえぎった。カイルはメイル・ブレイカーを両手に構え威嚇する。
「貴方も今よりも、もっと淫らな生活がお望みなのでしょう?」
「すまないが、今の生活もなかなかに捨てがたいもんでなッ!」
「そう……残念ですわ。なら力ずくで頂きますわ!」
男と蛇妖が互いに間合いを詰め
「先日のワタクシと一緒になさらないで下さいましね?ホラ!」
あっという間にネルフェルに巻きつかれ、床に転がされるカイル。
ナスターシアはマーゴとマミー達の対応で精一杯である。
「たわいないですわね?さぁ……覚悟はよろしくて?」
カイルに毒牙が迫る。
必死に身をよじって、その一撃をかわそうにもがっちりと、ラミア種の十八番である『まきつき』をその身に受けては対処の仕様がなかった。
ましてや、相手はエキドナともタメを張れる蛇妖の化身である。毒牙を抜きにしてもその妖しい身体から発散されるフェロモンは比較にならない。
カイルが元教会勇者的最終手段を考えた時、奇跡が起きた。
「『退け』ェぇい!!痴れ者がッ!」
ファラオの『命令』が炸裂したのだ。
「のぅ?ネルフェルよ。妾は、妾はの、今、カイル殿が、この国が愛おしいのじゃ。『命令』じゃ!『この場から去ね』ぃ!」
「ぐッ!」
さすがのネルフェルも『ファラオ』の『命令』の強制力の前には多少なりとも影響がある。メルシスはさらに続ける。
「今、引くのであらば、そなたの元へ、この町へやって来る男共をそちらへ嫁がせよう!妾の家臣を手篭めにした事にも抵触せん!!じゃから、再度、我が名に措いて命ずる『退け』ぃ!」
「きょ、今日の所は引き上げますわ!」
さすがにこれだけの好条件を出された事で引き下がらざるを得なかった様だ。
すぐにネルフェルは撤退を始めるのであった。
「大事無いかぇ?婿殿」
「あぁ。すまない、メルシス」
「ところで……婿殿?コレは何ぞぇ?」
「あ。いや。その。生理現象と言いますか」
「ほぅ……そーかそーか。婿殿は妾のような身体よりもあの様な蛇身の方が好みか。そーか」
「いや。その。めるしすさん?」
「シオキじゃ。当分は眠れるとは思うなよ?」
さて。どうしたものでしょうか……
ネルフェルは迷っていた。次なる手を考えなくては。あの土地はあの女に任せておくのは気に入らない。どうすればあの遺跡を乗っ取れるのか。
――何千年振りかで男に巻きつきましたが、やはり男の身体はイイものですわ。ニンゲンの何も知らない、無垢な少女のビロードのような肌触りの、さらりとした肌に牙痕を刻み、毒を注ぎ込み、眷属と化し、自分色に染め上げるのもそれはそれで乙なものでございましたが。男の汗の香りに筋骨隆々とした、筋肉と言う鎧に牙を通し、己の色に染め上げるのもたまりませんわ。嗚呼想像しただけで、涎が……――
なんともヴァンパイアやダンピールと趣味が合いそうな……
三日後。
彼女の遺跡はヒトであふれていた。正確にはほぼ男で、である。
彼らは、皆メルシスの遺跡の町で商売を営む異国風の身形をした少女商人から、『新しい町』の情報を得て来たのである。
男を見た瞬間、彼女の眷属と化しているメルシスの遺跡から連れて来た魔物娘達は早い者勝ちと言わんばかりの勢いであちこちで乱交をはじめている。
自身の包帯で互いの足と足を結びつけ、貪るマミー。
主と同じ様に蛇妖の下半身で相手ごと上半身を包み交じわうもとニンゲンのラミア。
こうなる事を望んでいなかったのか、知らなかったのか、逃げ惑う男を捕まえ、なぞかけを繰り返しながら一方的に犯すスフィンクス。
そして、彼女の眷属でない、付近に住まうギルタブリに毒を打ち込まれ連れ去られる商人。
まさに乱交の有様であった。
そして遺跡の奥深く。
一人の男に絡みつく蛇妖、ネルフェルが居た。
彼女の牙痕が男の身体のあらゆる所に穿たれており、その顔は快楽にゆがんでいた。
「ほら、アナタ♥」
キュッキュッと緩くきつく締め上げ、蛇腹を蠢かし、男の身体をまるで男根を締め付ける膣内のような動きで男を高みに押し上げる。
「ん……♥また出ましたわぁ♥」
「あぅっ!」
ドクドクと膣内に吹き付ける精子を恍惚の表情で受け止める
「ほぉら♥もーいっかい♥」
「ちょ、ちょっと一息……」
蛇体をキュッと締め付け男に催促する。
「だぁめ♥また噛んでア差しアゲますからぁ♥」
「ちょ、まじで……7回目の毒はキツイって!!」
「イ・ヤ♥ですわ♥」
「ぅおおお!!」
胸をムにゅムにゅと押し付け、股間を蛇腹で優しくなで上げさらに催促する。
「きゃはッ!また硬くなってきましたわ……ん♥」
「ネルフェルさまぁ〜〜〜……先日の商人さんがいらしてますよぉ〜」
マミーが入り口から声をかける。
「少々……んぅ♥待たせておいてッ……♥くださいなっ♥あ、あと4、5回搾ったら伺います……わぁッっ!!」
蛇足
「や。もーかりまっか?」
「ぼちぼちでぇんなぁ」
「おぉ。旦那、毎度おおきに。おかげさんで、近々露天街から商店街へと場所を移せそうどす。」
「それはなによりだ」
「ナスターシアさんの時にも世話になったし……今度何か奢らせてくれるかい?」
「いえいえ……コッチもホント儲かってますから。お互い様ッちゅー事で」
「そう。助かるよ」
「では、あたしゃコレで。そろそろ、アッチの遺跡に顔をだして来やすんで」
「道中お気をつけて」
「おおきに」
13/03/19 00:39更新 / ぼーはん