亡霊と戯れなば…
某月某日。
解雇を言い渡された。
理由は…よくわからん。
しかし。新たな問題が浮上した。
社員寮も追い出されてしまった。
退社まで残された日数はおよそ2週間。
それまでに荷物をまとめて部屋を探さなければならない。
しかも同時進行で職も探さ無ければならない上に金も心もとない。
三十路目前にして最悪の状況。
九割程ふて腐れ、その週の休みに大手不動産屋に足を向けた。
「…その条件に合うお部屋ですと、この3物件ですね。」
どれもこちらの予算ギリギリの所を出してくる。
もう少し低めの予算提示しときゃよかったか…
「バイクがあると、どうしても絞られてしまうんですよ」
申し訳ありませんと店員は告げる。
時間も残り少ないしこの3軒を廻って見ることにしよう。
一軒目。
築50年和室10畳一階。
…いかにもなんか出そう。
アレ?押入れに短冊?
うん。即答で次。
二軒目。
築10年洋室12畳二階。
大家さんがちょっとコワモテ。
車がほぼ黒塗り。
アレ?助手席の窓がスモーク?
即却下。
三件目。ラスト。
築15年フローリング15畳二階階段脇。
三階建てだが上に部屋なし。
即決。
不動産屋さんから引っ越し祝いです、と何の木か判らない鉢植えを貰った。特に水遣りは必要ないらしい。
それから河一つ越えた実家と社員寮を夜中に何度か往復し必要書類を集め、引越しは同僚に手伝って貰える様に頼めた。
が。
10日ほど有給の消化も含め、引越し準備に当てる予定だったのに会社から引継ぎを言い渡され有給は泣き寝入り。結局、引越しの準備は当日と、寮長に頼み込んで翌日の計2日間で行うことになった。
さて。引越し当日。
…全員ボイコットしましたが。何か?
「フラれた……かな?」
引越しの準備をする俺。トラックを借りに二駅先まで行き、戻ってから不用品の買取を頼みに連絡する。電気、水道、電話は前日のうちに停めたから問題ナシ。
昼メシの塩から揚げ弁当がしょっぱいのは。当然か。『塩』から揚げだもんな。
ダンボールを会社のゴミ捨て場から持ってきて、箱詰めしていく。
そうこうしている内に鍵を取りに行く時間になり、トラックにある程度の荷物を積み新居に向かう。家具らしい家具はないし、一人暮らしで使うような冷蔵庫くらいなら一人で何とかなるし、仕事でも何回も一人でやってたし問題なかった。…って言ってて目がかゆくなってきたよ?
翌日に3分の2の荷物を残し初日は終了。徹夜して寮の片づけを終え翌日の昼にはなんとか片付け終わった。
そんなこんなで『一人暮らし』が始まった。
ブラックな会社を去り早5ヶ月。俺は不眠症に悩まされていた。越してから寝れなかったのは今までと環境が変わったせいだと思っていた。今まで身体を動かしていたから、無駄に体力がつきすぎていて、日雇い程度の労働では疲れが溜まらなかったのだ。
が。そこはニンゲン。5ヶ月も過ぎれば寝れるようになる…はずだった。
はずだった。
はずだったのに。
どーしてこーなった?
「やほ〜♥」
またか。またお前なのか?
「やほ〜♥ぢゃねぇッ!!」
「じゃあ、やは〜!」
この娘は…
「やは〜!でもねぇ!!」
「じゃ〜…どーしろと?」
そんな泣きそうな顔してもダメッ!!
「寄るな!来るな!!出てくるな!!」
「そぉんなぁ!!ひっどぉい!」
と。最近毎晩の様にやって来る彼女。
彼女はニンゲンじゃない。
彼女越しに外の風景が見える人間なんてのがいるなら教えて欲しい。
本人曰く、ゴーストだそうだ。享年29。俺も詳しく聴く気もないが、何がしかの事件に巻き込まれてしまったらしい。「アタシってば、薄幸の美女♥」
「死んでも前向きなヤツ。」「てへッ♥」
ホントはピクシーになりたかったそうだが、んな事俺は知らん!
ゴースト。幽霊。
いや。越してきてから近所を散歩してたらさ、やたらと神社と寺が多い(神社3社に寺1堂霊園付)事に後から気づいたんだけどさ。何この町内。怖い。
閑話休題。
そんな彼女―ショーコ―は今晩も乱入してきやがった。
晩メシ(近所の弁当屋で450円/唐揚げ弁当)を平らげて、食後の一服を愉しみ、日課の素振りに手をつけようとしていた所だった。
「ホレ。飲むか?」
と『超さわやか飲料・桃』と書かれた1L紙パックのジュースをタンブラーに注いでやる。
もちろん俺の分も。
「や〜ん♥ヤっちゃんのそ〜ゆ〜とこに惚れ……」
「ダマレ。ヤっちゃん言うな。」
そ、そうよ!コレは気まぐれ、きまぐれなんだからッ!と最近覚えたツンデレなんてのを頭の中でやってみる。
ジュースを一口で飲み干し、戯言を言うショーコを無視して木刀を手に取る。とある武神を祭る神社の御神木から削られたものだそうだけど、初めてショーコに会った時には効かなかったとさ。
毎年初詣に行っていたんだけどなぁ……
そんなコトがあってから神の存在は全否定している。
そーいえばこの間も熱心な外人サンに勧誘されたが…どーでもいい話だ。
「どこ行くの〜?」
「何時もの」
短く告げると表の駐車場に出る。
まぁ素振り程度じゃ大した疲れにはならない。精々が程よく汗をかいて風呂が気持ち良いくらいだ。
それに今では防具も着けなくなったし。
千本も振った頃だろうか。そろそろ部屋に戻って風呂にでも…と思い部屋に入ると。
部屋のPCが立ち上がっている。
デスクトップ画像が趣味全快の方。
「わ♥わわわ♥」
キーボードの前に正座して、まい・ふぇいばりっど・これくしょんフォルダー(各ジャンル分類済み)を見ているゴースト。
「アンカリクビハイッチャッタヤンカリクビイレッチャッタ ……靖之。滅消仕る。」
真言を唱え木刀を大上段に構え
「あの世に還れぇぇぇぇぇ!!」
懇親の力を込めた唐竹割りは当たることはなく。
彼女をすり抜け、キーボード(サービス)を一刀両断し、床を叩く。
嗚呼さようなら俺のキーボード(サービス)。
「ぅやかましぃぞ!!」
「すみません!」
と下の部屋の住人に謝りに行く事となったのは言うまでもない。
なんで真言なんぞ知ってるのかって?
実家に居た頃、お寺でもねぇのに毎朝枕元で『早朝!カラオケ大会』をやられりゃ…ねぇ?
それに俺は神サマは信じちゃぁいねぇけど使えるもんはなんでも使う主義だ。
「ほよ?」
コイツ……何事も無かったかのような顔してさらにフォルダを漁ってやがる。
「なんでもねぇよ。」
てか気づけよ。キーボード。
「ヤっちゃん機嫌悪っ!!」
「ヤっちゃん言うな。」
さよなら。キーボード。
あでゅ〜。ぷらいばしー。
「はろ〜羞恥プレイ♥」
「やかまし。」
そー言うと煙草に火を点けた。
「む〜…煙草はヤメなよ〜」
「うるせぇや」
やがて紫煙はエアコンの温風に乗りショーコを取り囲む。
目を×印にしてケホケホとむせるショーコ。…ちょっとカワイイ。
「幽霊のメシはたしか煙だろ?」
「それはお線香!け〜む〜い〜!!」
窓開けろ〜!!と喚くショーコ。
残念だがそれは出来ない。キーボードの復讐だ。
まぁ。最近は蛍族でも近隣住民から文句言われるらしいけど。
「しゃーないな。線香は無いけどコレで我慢してくれ」
と、ブラックな会社からパク…もとい『戴いて』きたアロマキャンドルに火を灯した。
「へぇ〜こんなの持ってたんだぁ」
ご満悦の様だ。笑顔を見せられると満更でも…
「顔に似合わないけどね!」
前言撤回。
「さ。帰った帰った。シャワー浴びて寝るんだよ」
「ヤっちゃんのシャワー……はぁはぁ」
なんか。変な画像が頭に流れてきた。
シャワーをかぶりながら抱き合うショーコと俺。
ショーコのてが俺の胸を弄り、唇を重ね合い、そのまま浴槽に座り込み……
「キショイ事言ってねぇでさっさと帰れ!!入れないようにお札買って来るぞ!!」
頭の中の画像をCtrl Wキーで消し去り誤魔化すように言い放った。
お札効くのかどーかわからんけども。
「ちぇ〜…」
唇をタコにするショーコ。まさかリアルで見られるとは。
渋々帰っていくショーコ時間は…げ!もう12時か!?
さっさと寝よ寝よ。明日も早い。
そういえば何処で寝ているんだろう?近所の川の陸橋下とか?
まぁ次ぎ来たら泊めてやるか。
翌朝。仕事がドタキャンになった。
さすが日雇い。畜生道どーしてくれる今日一日。
まぁ休みは休みでやる事はある。
独身貧乏貴族なのでやる事はたんまりだ。
まず洗濯。部屋に洗濯機はないのでいつもランドリーである。
以前の部屋にはあったのだが、台風やら黄砂やらで使い物にならなくなっていたので捨てた。そんなワケで大き目のトートバッグに洗濯物を詰め込みランドリーへ。
一時間半くらい掛けて洗濯・乾燥を終え、部屋でシャツ(5250円/込)にアイロンを掛けていると
「うらめしや。」
また出やがった。しかも真ッ昼間から。
「情緒のねぇヤツ。」
「冷たい〜!2月の日本海若狭湾並みに冷たい〜!」
「えらく限定してくるな。行ったことあるのか?」
「ないよ?」
ないのかい。
「それにココはうひゃぁ!!とかあひぃぃぃ!!って言うとこだよ!?」
「うひぁー。あひぃー」
「心が篭ってないぃぃぃぃぃぃ!!」
後ろで地団太を踏む幽霊。からかいがいのあるヤツだ。
因みに今はシャツ(5250円/込)からネクタイ(12300/円抜)を掛け、スラックス(4500円/込)に取り掛かっている所だ。邪魔しないで欲しい。
スラックス(4500円込)が半分終わる頃、途端に後ろが静かになった。
帰ったか?と思っていると…
「うひぃ!!」
うなじを冷たくなでられる感触!
「きゃははははは!『うひぃ!!』だってさ!『うひぃ!!』ちょーウケる!!」
馬鹿笑いするショーコ。いい度胸だ。今日こそケリつけてくれる!
すると俺はPCを立ち上げ、とあるサイトを呼び出す。
それも「初心者でも安心!!今日から君も対魔忍!」というサイトだ。
そこに書いてある呪文をプリントアウトしショーコに向き直る。
「ケリをつけてやるッ!ザーメンソーメン光線銃!」
「猥褻カーセックストーテンポール!のろいぜ。ヤっちゃん!!」
…ノリのいい幽霊である。
「行くぞ!マッカニハレタ………」
二分後。
効きませんでした。はい。
「な何が足りない…何が足りないというのだッ!」
足蹴にされる俺。背中で俺を足蹴にし、腕を組むショーコ。
なぜか彼女が紫のボンデージに、手にスパンキング用の鞭と赤蝋燭。股間にぺニバン生やしてる。太腿まであるブーツがエロい。対して俺はギャグボール咥えて真っ裸。何この画像…
「魔力。あと正しい真言。」
ですよねー。
俺フツーのニンゲンだもん。
自宅警備員だもん。
あれ?いつの間にか頭の中のショーコと俺の絵が消えてる?
「ヤっちゃん!ズボンズボン!」
あれ?何か焦げ臭い?
「あ゛〜!!」
こんがりとアイロンの形のついたスラックス(4500円/込)。
「ヤッちゃったね…」
ぐっばい。スラックス(4500円/込)君と歩いた1年4ヶ月と23日(推定)は忘れないよ。
朝。
それは一日の始まり。
テレビの星座占いなんかでその日の運勢が最下位だったりすると地味にへこむ朝。
まぁ…ウチにテレビはないが。
それでも受信料の集金は来るんだね。その度に部屋の中みせるんだけど。その時の集金員のアノ表情。
…ちくしょう。
そんな朝だが。
俺の場合はちょっと違う。
朝、目を開くとお岩さん。
はぼ毎日お岩さん。
今日もお岩さん。
「…なぁ。」
「なぁに〜?」
「何か他のパターンはないの?お菊さんとかお露さんとか累さんとか。」
「お菊さん…ダレそれ?」
「お岩さん知っててお菊さん知らねぇのかよ!?」
「うん。」
ゴーストに対して怪談講釈。
何コレ?
ウチの近所には銭湯が4軒ある。
その内の1軒は元祖スーパー銭湯。
風呂入ってから映画見てビリヤードやってカラオケやって焼肉。
さすが昭和の遺物。どんだけ抱き合わせるんだ?
残りの3件が普通の銭湯である。
その内の1軒に、月一で必ず行く。
残りの2軒は行かない。何故かって?
背中にブルーな絵なお方が良くいらっさる所でした。
洗濯ものをランドリーにツッこみ、靴を下足入れに入れ、暖簾を潜ると
「いらっしゃ〜い♥」
「ど〜ぉも♥」
普通の銭湯を名乗っているが、設備はジャグジーにサウナに露天風呂付。
もちろん入浴料は通常の銭湯と一緒。
しかしッ!!
俺がココに来る理由はソレだけではなぁァいッッ!
ソレは。
番台さんが美人&巨乳。
「今ぉ日はぁ〜どぉおしますぅ?」
性格が「超」がつくほどのおっとり。
ゆったりまったりの〜んびり♥
あぁ。乳が…
どこまで、どこまで俺を魅了するんだ…!!
「あ。あぁ…今日はお願いしようかな。」
都内とは思えない静けさ。
夜空には真ン丸いお月さんが浮かんでいる。
「はぁ〜…極楽よのぅ」
爺くさいと言うなかれ。
普段小やかましいのに付きまとわれているとこんな時位しか静かな時間はないのだ。
しかも週のド真ん中、夜遅くとなっては他に人が居ない貸しきり状態。
爺くさい台詞の一つも出ようと言う物だ。
「やほ♥」
ちぃぁを。静寂。
らぁいあ。喧騒。
「いや〜!覗きよぉ〜!!痴女よぉ!!」
「ぐへへ…イイ身体してんなぁ兄チャン」
「ヤメテ〜!!犯されるぅぅぅ!!!」
悲鳴を上げてダイジなモノを隠す俺。
ノリのイイゴーストはココでもノリが良い。
諸手をかざして下品な笑いを浮かべ、涎をたらしながら迫ってくる。
さらに悪乗りをする俺。
「どうしました!?靖之さん!?」
「「あ゛。」」
普段の様子からは全く想像のつかない形相&スピードで露天風呂に入って来る番台さん。
「大丈夫ですか?」
えぇ…気のない返事をする俺。さらにショーコの方を一瞬見やる番台さん。
見えてる…のか?まさかね。
「そ〜ですよねぇ〜!『誰も』居ませんものねぇ!よかったですぅ…あ。そろそろど〜ですかぁ?」
「あ。まだ頭洗ってないので、出たらお声をおかけします。」
早くしてくださいねぇ〜と何時もの口調で俺に声をかけて脱衣所の方へ向かって行く番台さん。やけに「誰も」の部分に力が篭っていた様な…気のせいだろう。
「まったく。ヤっちゃんが騒ぐから。」
「俺一人の所為か!?ってかどーしてココに居るとわかった!!」
「ヤっちゃんの事ならなんでも知っているのです。『これくしょん』の隠し場所から太腿のミミズ腫れの跡まで。」
「ヤメテ!?ワリと本気で!!」
「ん…んん……かたぁい…すっごぉ〜…くかたいです」
ふにふに、むにむにとたわわに実ったメロンが形をひしゃげ
「うふぁぁ…きもちいいです」
思わず素直な気持ちが言葉に出る。
「ほら。…ココなんか…どぉですかぁ?」
番台さんが力を込める。すると胸のあたる部分が変わり、また別の場所が刺激される。
「くぅっ!!あぁ〜〜!そ…ソコ!ソコ!!」
自分の知らないツボに入ったらしく、さらに素直な気持ちが口から吐き出され何度も強請る。
「ぅふふ〜…どぉんどん…ん…気持ちよくなっちゃってぇ…ふっ…ください…んはぁ…ねぇ?」
「はい。終わりですよぉ〜」
「いやぁ。何時もながら番台さんの指圧マッサージは効きますね!あとコレ」
「はぁい♥200円でぇす。また、よろしくですぅ〜♥」
あぁ…笑顔が笑顔が…もぅお腹一杯です。
腰に手を当てて飲むコーヒー牛乳。
うん。うまい。銭湯に来たらコレやらんとね。ちなみにフツーの牛乳は身体が受け付けない。
ここの牛乳は何やら『特別』らしく『契約』乳牛から取っているのだそうな。以前ツーリングした時に飲んだ牧場の牛乳とお同じ…いや。それ以上に美味い…気がする。
契約農家は効いた事あるけど、契約乳牛って…アレか?産地管理の一環とかか?
道の駅なんかで見られるどこそこの農家の何番目の畑の野菜です。みたいな。
そう言えば牛乳屋さんが配達してるトコを見た事ないなぁ…まぁ。美味けりゃイイや。
ショーコは…どっかに行ったのか?
深夜。
下半身がスースーする。
寝返りを打ったときに掛け布団がふっとんだか?
というか右手が動かないぞ!?
左手は何でムスコをしごいてんだ!?
「あ。起きた。」
「…もはや突っ込む気もねぇが…お前の仕業か?」
「うん!」
何でそんなに元気なんだ。時計を見れば苛立ちがドアを叩く午前二時。
で。何で俺の手が勝手にしごいてんの?
「『腕』に憑依してみました。」
ちなみに布団を剥いだのは、汚れるとヤっちゃんがタイヘンそうだから、との事。
ソコまで気を使うなら
「止めてもらえませんか?」
「却下。」
即答かよ!?
こ〜なったら意地でもイかん!寝てやる!!
「ほほう抵抗する気?」
空気が変わった。
なんと言うか、勝てる気がしないというか。RPGの負けイベント戦の空気というか。
「我慢できるとでも思ってるの?じゃぁ。これはどうかな?」
右手の自由も奪われた。
「ほれほれ」
しごく手が左手から右手に変わり、左手は掌で亀頭をこねくり回し始めた。
「ぐぅ」
「何処まで我慢できるかな?…ん?」
右手の人差し指と親指の作る輪がカリを擦る度に一段ずつ高みに昇らせられていく。
「そらそら〜ん♥」
ペースが上がってきた。
「行く?逝く?行きたい?逝きたい?ねぇ逝きたいの?」
頭の後ろから囁かれ、うなじに吐息がかかり、舐め上げられる。
この一撃でおれは白旗を揚げた。
「逝かせて」
「えぇ〜…却・下♥もっと頼み方があるんじゃない?」
「逝かせてください」
「だぁめ♥」
「そ、そんな…」
「カワイイ♥今のいい顔よ?ヤっちゃん♥切なくて切なくて、逝きたいのに逝けなくて、辛くてどーしよーもなくて辛い?辛いよね?わかるよ。さっきからアタシも気持ちイイの♥男の子のオチンチンしごくのが、こんなに気持ちイイなんてはじめて知ったし。で・も。まだイかせてあげなぁい♥」
「ひぃぃあぁあああ!!」
右手のスピードが上がり、左手は鈴口をほじるような動きが加わり、これ以上我慢させられれば壊れる。ナニかが壊れてしまう。
「…イイ声♥でも壊れちゃったら可哀想だもんねぇ。逝かせてあげる♥でも条件があるわ」
「な、何?っひぃぃいぃ!?」
「アタシの復唱をするだけ。カンタンでしょ?」
耳元で囁いていた声がいつの間にか俺の正面にまわり、目をじぃっと見つめながら口を開いた。
「僕の」
「ぼくの」
一文節づつ
「オチンチンを」
「お、おちん、ちんを…」
卑猥な言葉を復唱させられ
「逝かせてください」
「イ、いヒッ!ぃカせって…!くださいッ」
ま、まだか?まだつ、ツづくのかッ!?
「お願いします。」
「オ、オネ…をね、が、ガいッ!!しま…っすぅぅッ!!!!」
恐らくは自分の人生で最大限に張り詰めた怒張から
「はぁい。良く出来ましたぁ♥」
「ぅはあああッ!!」
残り少ない鉛チューブから押し出した白絵の具の様に絶頂を向かえる…だけでは済まなかった。済まされなかった。
「オ・マ・ケ♥ん…ちゅ…ちゅぅぅぅぅうう…じゅるっるるるっるるるるる!」
両腕の支配を解かず、竿をしごき続け白絵の具を吐き出す怒張に口づけをし、さらに絵の具を引きずり出さんと亀頭を頬張り貪欲に吸い込み、舌で鈴口をほじくり帰し強い快楽を与え続ける。歯が亀頭にあたり不思議と気持ちいい。
「あふっ!な、なにす…っ!くはッ!!」
「ほはほあ…ほっほはひへ♥ほっほひほひほふはっへ♥」
それだけに飽き足らず左手を操りで玉をグニグニ揉ませ、トドメめと言わんばかりに自身の手で尻をなでさすり、前立腺を優しく揉みしだかれた。
「ひぐぅ!!」
そんな暴力としか言いようのない快楽で散々嫐られ射精の時間を無理やり引き延ばされていく。
「うふ。ごちそうさま。アタシも気もちよかったぁ…クセになりそう♥」
目尻をほんのり朱に染めた幽霊はとてつもなく眉目秀麗でドSで。
宵闇よりも暗い黒に沈む俺を柔らかい微笑みを讃え眺めていた。
翌朝。
雀の声で目を覚ます。
ケータイを手に取ると、目覚ましは鳴っていない。早く起きてしまった。なんか損をした気分だ。
ピー!とレンジの音がする。
程よく焦げたチーズとトマトソースの香り。
そーいや腹減った。
カーテンの隙間から入り込んでくる朝日が妙に黄色い。
「あ。起きた♥オハヨー♥」
アチチ…とレンジから冷凍ピザを取り出すショーコ。
あれ?なんでゴーストが物に触れてるの?
「あぁ。コレ?」
といって右手でピザを気○斬よろしく、ぐるりとまわしながら目の前に突き出す。
「夜中に吸った精のおかげで少しだけ実体化出来るようになっちった♥」
てへっと舌を出してご満悦の様子。
どこぞのブリッ娘か?
「それより一緒にゴハン食べよ?」
いつの間にか水代わりの『超さわやか飲料・桃』とグラスも二つ用意されている。
「冷凍だけどな。」
「それはヤっちゃんの冷蔵庫事情の所為でしょう?」
う…と言葉に詰まる。
頭をがりがりかき回して床に座った。
「ホラ!早く!!」
「「いただきます」」
そんなこんなで『二人暮らし』が始まった。
―−−−−−−−−−−−
ヤっちゃん…かわいい。かわいいよ。ヤっちゃん。ヤっちゃん。ヤッチャン。アァ。モウ我慢デキナイヨ。イイヨネ?モウイイヨネ?
―−−−−−−−−−−−
アレから幾日かが過ぎ…
仕事先の面接が終わり、今日の晩飯は何かなーと帰ると…
部屋の中がちょっとした地獄でした。
主に臭いが。
「なぁ?」
「なぁに?」
おかえり〜と返す裸エプロンのショーコに声をかける。
何故に裸エプロンなのかはこの際どーでもイイ。今は手だけ実体化させているみたいだし。
それよりも。
「この臭いは何だよ?」
鍋の中からとんでもない臭いがする…アレは、そう。夏のツーリングで行った某湖のヘドロに青子の臭い。地獄の原因はコレだ。絶対コレ。
絶対に食ったら死ぬ。俺の本能が言ってるし、この子も「アタシ食べたらシヌわよぉ♥」と言っている!!幽霊が居るのだ。頭に直接語りかけてくるキノコがいても可笑しくあるまいっ!
「えぇ〜!こんなにイイ香りなのに。具体的にはヤっちゃんの精えk…」
「何処がだッ!!大家さんから怒られっちまーだろッ!?」
こいつの鼻は逝ってるのか?
あ。ゴーストか。
とにかく換気…はダメだ。下手するとお巡りさんが来て銀色のブレスレットされちゃう。
「チッ…折角育ったのに。」
舌打ちかよっ!?ってかんなモン何処で育てたんだよっ!?
「と、とにかく、処分しなさ…い…………」
「んちゅ♥」
不意にショーコにキスされた。それも飛び切りディープなヤツ。
「ん!!」
な、何か飲み込まされた!?な、なんだコレは!?
あ、アレ…意…識が…………?
「…うふ……うふふふ…うふふふふふふふふふふふ」
「はぁ……むちゅ…まだ暖かい…えりゅ……んふ…少し冷やしましょうねぇ…ほら…んむ身体が…ぴちゃ…冷たくなって…むりゅ…ゆく…はぷっ…んむ…んっ…じゅりゅりゅりゅりゅるりゅ…」
「…ふはッ!!…ふふ…きもち…イイ?ヤっちゃん?身体は冷たくなってきたけど、オチンチンがまだまだとても熱いよ?ふふ…お口で冷ませないなら膣内で熱を奪ってアゲル」
「そぅ?イイんだぁ?まだ、入り口にこすり付けているだけだよ?じゃぁ…コレは?…うふふビクってしたぁ…♥気持ちイイんだぁ?」
「ゆっくりがイイ?一気がイイ?……ん?ゆっくり?そぅ………ほら…ッ!入っ……ッたぁ♥ずっぽり入っちゃったよ?ぅふふふ…喰べちゃった。ヤっちゃん喰べちゃった。もぐもぐって。ヤっちゃんアタシに喰べられちゃった♥ほらぁ…腰っ…ふってぇ…んひゃッ!!あげるからぁ!…っ!ぐっちょぐっちょって、もっと気持ちよくなって?ぱんぱんってもっと気持ちよくシテ?」
「ほらほらっ…たって、たって、んぅ♥よっこ、んはぁ♥よっこ、まぁるかいてぇ……ど〜ん♥んひぃっ♥イっちゃう?注いで?ヤっちゃんのアッつぅぅいせーえき♥ニンゲンとして放つ最後のせーえき♥」
「そ〜だよぉ?出せばヤっちゃんはもう後戻りできない。ヤっちゃんはアタシと同じモノになるの♥」
「もう限界?限界だよね?イクく?行くでしょ?逝っちゃうんでしょ!?さぁいらっしゃい♥アタシ達の世界に!魔物娘の世界に!!」
「うふふ…やっぱりヤっちゃんのせーえきは美味しい♥」
「オハヨウ。ソシテオカエリ、やッチャン♥」
その後、付近の住人は囁く。
曰く、全く老けない夫婦が住んでいる。
曰く、月に何度か異様な臭いが部屋から漂ってくるが、警察などが調べても何も出ない。
そんな噂も75日を過ぎる頃には誰もが忘れ去った。
しかし、そのアパート周辺の住人は皆、何故か薄気味悪い位に色白で、黙って後ろに立たれると気配がまるで忍者か秘密諜報員かと思うほどに感じられず、何かの拍子に身体に触れてもその身体は異様に冷たいのだとか。
解雇を言い渡された。
理由は…よくわからん。
しかし。新たな問題が浮上した。
社員寮も追い出されてしまった。
退社まで残された日数はおよそ2週間。
それまでに荷物をまとめて部屋を探さなければならない。
しかも同時進行で職も探さ無ければならない上に金も心もとない。
三十路目前にして最悪の状況。
九割程ふて腐れ、その週の休みに大手不動産屋に足を向けた。
「…その条件に合うお部屋ですと、この3物件ですね。」
どれもこちらの予算ギリギリの所を出してくる。
もう少し低めの予算提示しときゃよかったか…
「バイクがあると、どうしても絞られてしまうんですよ」
申し訳ありませんと店員は告げる。
時間も残り少ないしこの3軒を廻って見ることにしよう。
一軒目。
築50年和室10畳一階。
…いかにもなんか出そう。
アレ?押入れに短冊?
うん。即答で次。
二軒目。
築10年洋室12畳二階。
大家さんがちょっとコワモテ。
車がほぼ黒塗り。
アレ?助手席の窓がスモーク?
即却下。
三件目。ラスト。
築15年フローリング15畳二階階段脇。
三階建てだが上に部屋なし。
即決。
不動産屋さんから引っ越し祝いです、と何の木か判らない鉢植えを貰った。特に水遣りは必要ないらしい。
それから河一つ越えた実家と社員寮を夜中に何度か往復し必要書類を集め、引越しは同僚に手伝って貰える様に頼めた。
が。
10日ほど有給の消化も含め、引越し準備に当てる予定だったのに会社から引継ぎを言い渡され有給は泣き寝入り。結局、引越しの準備は当日と、寮長に頼み込んで翌日の計2日間で行うことになった。
さて。引越し当日。
…全員ボイコットしましたが。何か?
「フラれた……かな?」
引越しの準備をする俺。トラックを借りに二駅先まで行き、戻ってから不用品の買取を頼みに連絡する。電気、水道、電話は前日のうちに停めたから問題ナシ。
昼メシの塩から揚げ弁当がしょっぱいのは。当然か。『塩』から揚げだもんな。
ダンボールを会社のゴミ捨て場から持ってきて、箱詰めしていく。
そうこうしている内に鍵を取りに行く時間になり、トラックにある程度の荷物を積み新居に向かう。家具らしい家具はないし、一人暮らしで使うような冷蔵庫くらいなら一人で何とかなるし、仕事でも何回も一人でやってたし問題なかった。…って言ってて目がかゆくなってきたよ?
翌日に3分の2の荷物を残し初日は終了。徹夜して寮の片づけを終え翌日の昼にはなんとか片付け終わった。
そんなこんなで『一人暮らし』が始まった。
ブラックな会社を去り早5ヶ月。俺は不眠症に悩まされていた。越してから寝れなかったのは今までと環境が変わったせいだと思っていた。今まで身体を動かしていたから、無駄に体力がつきすぎていて、日雇い程度の労働では疲れが溜まらなかったのだ。
が。そこはニンゲン。5ヶ月も過ぎれば寝れるようになる…はずだった。
はずだった。
はずだったのに。
どーしてこーなった?
「やほ〜♥」
またか。またお前なのか?
「やほ〜♥ぢゃねぇッ!!」
「じゃあ、やは〜!」
この娘は…
「やは〜!でもねぇ!!」
「じゃ〜…どーしろと?」
そんな泣きそうな顔してもダメッ!!
「寄るな!来るな!!出てくるな!!」
「そぉんなぁ!!ひっどぉい!」
と。最近毎晩の様にやって来る彼女。
彼女はニンゲンじゃない。
彼女越しに外の風景が見える人間なんてのがいるなら教えて欲しい。
本人曰く、ゴーストだそうだ。享年29。俺も詳しく聴く気もないが、何がしかの事件に巻き込まれてしまったらしい。「アタシってば、薄幸の美女♥」
「死んでも前向きなヤツ。」「てへッ♥」
ホントはピクシーになりたかったそうだが、んな事俺は知らん!
ゴースト。幽霊。
いや。越してきてから近所を散歩してたらさ、やたらと神社と寺が多い(神社3社に寺1堂霊園付)事に後から気づいたんだけどさ。何この町内。怖い。
閑話休題。
そんな彼女―ショーコ―は今晩も乱入してきやがった。
晩メシ(近所の弁当屋で450円/唐揚げ弁当)を平らげて、食後の一服を愉しみ、日課の素振りに手をつけようとしていた所だった。
「ホレ。飲むか?」
と『超さわやか飲料・桃』と書かれた1L紙パックのジュースをタンブラーに注いでやる。
もちろん俺の分も。
「や〜ん♥ヤっちゃんのそ〜ゆ〜とこに惚れ……」
「ダマレ。ヤっちゃん言うな。」
そ、そうよ!コレは気まぐれ、きまぐれなんだからッ!と最近覚えたツンデレなんてのを頭の中でやってみる。
ジュースを一口で飲み干し、戯言を言うショーコを無視して木刀を手に取る。とある武神を祭る神社の御神木から削られたものだそうだけど、初めてショーコに会った時には効かなかったとさ。
毎年初詣に行っていたんだけどなぁ……
そんなコトがあってから神の存在は全否定している。
そーいえばこの間も熱心な外人サンに勧誘されたが…どーでもいい話だ。
「どこ行くの〜?」
「何時もの」
短く告げると表の駐車場に出る。
まぁ素振り程度じゃ大した疲れにはならない。精々が程よく汗をかいて風呂が気持ち良いくらいだ。
それに今では防具も着けなくなったし。
千本も振った頃だろうか。そろそろ部屋に戻って風呂にでも…と思い部屋に入ると。
部屋のPCが立ち上がっている。
デスクトップ画像が趣味全快の方。
「わ♥わわわ♥」
キーボードの前に正座して、まい・ふぇいばりっど・これくしょんフォルダー(各ジャンル分類済み)を見ているゴースト。
「アンカリクビハイッチャッタヤンカリクビイレッチャッタ ……靖之。滅消仕る。」
真言を唱え木刀を大上段に構え
「あの世に還れぇぇぇぇぇ!!」
懇親の力を込めた唐竹割りは当たることはなく。
彼女をすり抜け、キーボード(サービス)を一刀両断し、床を叩く。
嗚呼さようなら俺のキーボード(サービス)。
「ぅやかましぃぞ!!」
「すみません!」
と下の部屋の住人に謝りに行く事となったのは言うまでもない。
なんで真言なんぞ知ってるのかって?
実家に居た頃、お寺でもねぇのに毎朝枕元で『早朝!カラオケ大会』をやられりゃ…ねぇ?
それに俺は神サマは信じちゃぁいねぇけど使えるもんはなんでも使う主義だ。
「ほよ?」
コイツ……何事も無かったかのような顔してさらにフォルダを漁ってやがる。
「なんでもねぇよ。」
てか気づけよ。キーボード。
「ヤっちゃん機嫌悪っ!!」
「ヤっちゃん言うな。」
さよなら。キーボード。
あでゅ〜。ぷらいばしー。
「はろ〜羞恥プレイ♥」
「やかまし。」
そー言うと煙草に火を点けた。
「む〜…煙草はヤメなよ〜」
「うるせぇや」
やがて紫煙はエアコンの温風に乗りショーコを取り囲む。
目を×印にしてケホケホとむせるショーコ。…ちょっとカワイイ。
「幽霊のメシはたしか煙だろ?」
「それはお線香!け〜む〜い〜!!」
窓開けろ〜!!と喚くショーコ。
残念だがそれは出来ない。キーボードの復讐だ。
まぁ。最近は蛍族でも近隣住民から文句言われるらしいけど。
「しゃーないな。線香は無いけどコレで我慢してくれ」
と、ブラックな会社からパク…もとい『戴いて』きたアロマキャンドルに火を灯した。
「へぇ〜こんなの持ってたんだぁ」
ご満悦の様だ。笑顔を見せられると満更でも…
「顔に似合わないけどね!」
前言撤回。
「さ。帰った帰った。シャワー浴びて寝るんだよ」
「ヤっちゃんのシャワー……はぁはぁ」
なんか。変な画像が頭に流れてきた。
シャワーをかぶりながら抱き合うショーコと俺。
ショーコのてが俺の胸を弄り、唇を重ね合い、そのまま浴槽に座り込み……
「キショイ事言ってねぇでさっさと帰れ!!入れないようにお札買って来るぞ!!」
頭の中の画像をCtrl Wキーで消し去り誤魔化すように言い放った。
お札効くのかどーかわからんけども。
「ちぇ〜…」
唇をタコにするショーコ。まさかリアルで見られるとは。
渋々帰っていくショーコ時間は…げ!もう12時か!?
さっさと寝よ寝よ。明日も早い。
そういえば何処で寝ているんだろう?近所の川の陸橋下とか?
まぁ次ぎ来たら泊めてやるか。
翌朝。仕事がドタキャンになった。
さすが日雇い。畜生道どーしてくれる今日一日。
まぁ休みは休みでやる事はある。
独身貧乏貴族なのでやる事はたんまりだ。
まず洗濯。部屋に洗濯機はないのでいつもランドリーである。
以前の部屋にはあったのだが、台風やら黄砂やらで使い物にならなくなっていたので捨てた。そんなワケで大き目のトートバッグに洗濯物を詰め込みランドリーへ。
一時間半くらい掛けて洗濯・乾燥を終え、部屋でシャツ(5250円/込)にアイロンを掛けていると
「うらめしや。」
また出やがった。しかも真ッ昼間から。
「情緒のねぇヤツ。」
「冷たい〜!2月の日本海若狭湾並みに冷たい〜!」
「えらく限定してくるな。行ったことあるのか?」
「ないよ?」
ないのかい。
「それにココはうひゃぁ!!とかあひぃぃぃ!!って言うとこだよ!?」
「うひぁー。あひぃー」
「心が篭ってないぃぃぃぃぃぃ!!」
後ろで地団太を踏む幽霊。からかいがいのあるヤツだ。
因みに今はシャツ(5250円/込)からネクタイ(12300/円抜)を掛け、スラックス(4500円/込)に取り掛かっている所だ。邪魔しないで欲しい。
スラックス(4500円込)が半分終わる頃、途端に後ろが静かになった。
帰ったか?と思っていると…
「うひぃ!!」
うなじを冷たくなでられる感触!
「きゃははははは!『うひぃ!!』だってさ!『うひぃ!!』ちょーウケる!!」
馬鹿笑いするショーコ。いい度胸だ。今日こそケリつけてくれる!
すると俺はPCを立ち上げ、とあるサイトを呼び出す。
それも「初心者でも安心!!今日から君も対魔忍!」というサイトだ。
そこに書いてある呪文をプリントアウトしショーコに向き直る。
「ケリをつけてやるッ!ザーメンソーメン光線銃!」
「猥褻カーセックストーテンポール!のろいぜ。ヤっちゃん!!」
…ノリのいい幽霊である。
「行くぞ!マッカニハレタ………」
二分後。
効きませんでした。はい。
「な何が足りない…何が足りないというのだッ!」
足蹴にされる俺。背中で俺を足蹴にし、腕を組むショーコ。
なぜか彼女が紫のボンデージに、手にスパンキング用の鞭と赤蝋燭。股間にぺニバン生やしてる。太腿まであるブーツがエロい。対して俺はギャグボール咥えて真っ裸。何この画像…
「魔力。あと正しい真言。」
ですよねー。
俺フツーのニンゲンだもん。
自宅警備員だもん。
あれ?いつの間にか頭の中のショーコと俺の絵が消えてる?
「ヤっちゃん!ズボンズボン!」
あれ?何か焦げ臭い?
「あ゛〜!!」
こんがりとアイロンの形のついたスラックス(4500円/込)。
「ヤッちゃったね…」
ぐっばい。スラックス(4500円/込)君と歩いた1年4ヶ月と23日(推定)は忘れないよ。
朝。
それは一日の始まり。
テレビの星座占いなんかでその日の運勢が最下位だったりすると地味にへこむ朝。
まぁ…ウチにテレビはないが。
それでも受信料の集金は来るんだね。その度に部屋の中みせるんだけど。その時の集金員のアノ表情。
…ちくしょう。
そんな朝だが。
俺の場合はちょっと違う。
朝、目を開くとお岩さん。
はぼ毎日お岩さん。
今日もお岩さん。
「…なぁ。」
「なぁに〜?」
「何か他のパターンはないの?お菊さんとかお露さんとか累さんとか。」
「お菊さん…ダレそれ?」
「お岩さん知っててお菊さん知らねぇのかよ!?」
「うん。」
ゴーストに対して怪談講釈。
何コレ?
ウチの近所には銭湯が4軒ある。
その内の1軒は元祖スーパー銭湯。
風呂入ってから映画見てビリヤードやってカラオケやって焼肉。
さすが昭和の遺物。どんだけ抱き合わせるんだ?
残りの3件が普通の銭湯である。
その内の1軒に、月一で必ず行く。
残りの2軒は行かない。何故かって?
背中にブルーな絵なお方が良くいらっさる所でした。
洗濯ものをランドリーにツッこみ、靴を下足入れに入れ、暖簾を潜ると
「いらっしゃ〜い♥」
「ど〜ぉも♥」
普通の銭湯を名乗っているが、設備はジャグジーにサウナに露天風呂付。
もちろん入浴料は通常の銭湯と一緒。
しかしッ!!
俺がココに来る理由はソレだけではなぁァいッッ!
ソレは。
番台さんが美人&巨乳。
「今ぉ日はぁ〜どぉおしますぅ?」
性格が「超」がつくほどのおっとり。
ゆったりまったりの〜んびり♥
あぁ。乳が…
どこまで、どこまで俺を魅了するんだ…!!
「あ。あぁ…今日はお願いしようかな。」
都内とは思えない静けさ。
夜空には真ン丸いお月さんが浮かんでいる。
「はぁ〜…極楽よのぅ」
爺くさいと言うなかれ。
普段小やかましいのに付きまとわれているとこんな時位しか静かな時間はないのだ。
しかも週のド真ん中、夜遅くとなっては他に人が居ない貸しきり状態。
爺くさい台詞の一つも出ようと言う物だ。
「やほ♥」
ちぃぁを。静寂。
らぁいあ。喧騒。
「いや〜!覗きよぉ〜!!痴女よぉ!!」
「ぐへへ…イイ身体してんなぁ兄チャン」
「ヤメテ〜!!犯されるぅぅぅ!!!」
悲鳴を上げてダイジなモノを隠す俺。
ノリのイイゴーストはココでもノリが良い。
諸手をかざして下品な笑いを浮かべ、涎をたらしながら迫ってくる。
さらに悪乗りをする俺。
「どうしました!?靖之さん!?」
「「あ゛。」」
普段の様子からは全く想像のつかない形相&スピードで露天風呂に入って来る番台さん。
「大丈夫ですか?」
えぇ…気のない返事をする俺。さらにショーコの方を一瞬見やる番台さん。
見えてる…のか?まさかね。
「そ〜ですよねぇ〜!『誰も』居ませんものねぇ!よかったですぅ…あ。そろそろど〜ですかぁ?」
「あ。まだ頭洗ってないので、出たらお声をおかけします。」
早くしてくださいねぇ〜と何時もの口調で俺に声をかけて脱衣所の方へ向かって行く番台さん。やけに「誰も」の部分に力が篭っていた様な…気のせいだろう。
「まったく。ヤっちゃんが騒ぐから。」
「俺一人の所為か!?ってかどーしてココに居るとわかった!!」
「ヤっちゃんの事ならなんでも知っているのです。『これくしょん』の隠し場所から太腿のミミズ腫れの跡まで。」
「ヤメテ!?ワリと本気で!!」
「ん…んん……かたぁい…すっごぉ〜…くかたいです」
ふにふに、むにむにとたわわに実ったメロンが形をひしゃげ
「うふぁぁ…きもちいいです」
思わず素直な気持ちが言葉に出る。
「ほら。…ココなんか…どぉですかぁ?」
番台さんが力を込める。すると胸のあたる部分が変わり、また別の場所が刺激される。
「くぅっ!!あぁ〜〜!そ…ソコ!ソコ!!」
自分の知らないツボに入ったらしく、さらに素直な気持ちが口から吐き出され何度も強請る。
「ぅふふ〜…どぉんどん…ん…気持ちよくなっちゃってぇ…ふっ…ください…んはぁ…ねぇ?」
「はい。終わりですよぉ〜」
「いやぁ。何時もながら番台さんの指圧マッサージは効きますね!あとコレ」
「はぁい♥200円でぇす。また、よろしくですぅ〜♥」
あぁ…笑顔が笑顔が…もぅお腹一杯です。
腰に手を当てて飲むコーヒー牛乳。
うん。うまい。銭湯に来たらコレやらんとね。ちなみにフツーの牛乳は身体が受け付けない。
ここの牛乳は何やら『特別』らしく『契約』乳牛から取っているのだそうな。以前ツーリングした時に飲んだ牧場の牛乳とお同じ…いや。それ以上に美味い…気がする。
契約農家は効いた事あるけど、契約乳牛って…アレか?産地管理の一環とかか?
道の駅なんかで見られるどこそこの農家の何番目の畑の野菜です。みたいな。
そう言えば牛乳屋さんが配達してるトコを見た事ないなぁ…まぁ。美味けりゃイイや。
ショーコは…どっかに行ったのか?
深夜。
下半身がスースーする。
寝返りを打ったときに掛け布団がふっとんだか?
というか右手が動かないぞ!?
左手は何でムスコをしごいてんだ!?
「あ。起きた。」
「…もはや突っ込む気もねぇが…お前の仕業か?」
「うん!」
何でそんなに元気なんだ。時計を見れば苛立ちがドアを叩く午前二時。
で。何で俺の手が勝手にしごいてんの?
「『腕』に憑依してみました。」
ちなみに布団を剥いだのは、汚れるとヤっちゃんがタイヘンそうだから、との事。
ソコまで気を使うなら
「止めてもらえませんか?」
「却下。」
即答かよ!?
こ〜なったら意地でもイかん!寝てやる!!
「ほほう抵抗する気?」
空気が変わった。
なんと言うか、勝てる気がしないというか。RPGの負けイベント戦の空気というか。
「我慢できるとでも思ってるの?じゃぁ。これはどうかな?」
右手の自由も奪われた。
「ほれほれ」
しごく手が左手から右手に変わり、左手は掌で亀頭をこねくり回し始めた。
「ぐぅ」
「何処まで我慢できるかな?…ん?」
右手の人差し指と親指の作る輪がカリを擦る度に一段ずつ高みに昇らせられていく。
「そらそら〜ん♥」
ペースが上がってきた。
「行く?逝く?行きたい?逝きたい?ねぇ逝きたいの?」
頭の後ろから囁かれ、うなじに吐息がかかり、舐め上げられる。
この一撃でおれは白旗を揚げた。
「逝かせて」
「えぇ〜…却・下♥もっと頼み方があるんじゃない?」
「逝かせてください」
「だぁめ♥」
「そ、そんな…」
「カワイイ♥今のいい顔よ?ヤっちゃん♥切なくて切なくて、逝きたいのに逝けなくて、辛くてどーしよーもなくて辛い?辛いよね?わかるよ。さっきからアタシも気持ちイイの♥男の子のオチンチンしごくのが、こんなに気持ちイイなんてはじめて知ったし。で・も。まだイかせてあげなぁい♥」
「ひぃぃあぁあああ!!」
右手のスピードが上がり、左手は鈴口をほじるような動きが加わり、これ以上我慢させられれば壊れる。ナニかが壊れてしまう。
「…イイ声♥でも壊れちゃったら可哀想だもんねぇ。逝かせてあげる♥でも条件があるわ」
「な、何?っひぃぃいぃ!?」
「アタシの復唱をするだけ。カンタンでしょ?」
耳元で囁いていた声がいつの間にか俺の正面にまわり、目をじぃっと見つめながら口を開いた。
「僕の」
「ぼくの」
一文節づつ
「オチンチンを」
「お、おちん、ちんを…」
卑猥な言葉を復唱させられ
「逝かせてください」
「イ、いヒッ!ぃカせって…!くださいッ」
ま、まだか?まだつ、ツづくのかッ!?
「お願いします。」
「オ、オネ…をね、が、ガいッ!!しま…っすぅぅッ!!!!」
恐らくは自分の人生で最大限に張り詰めた怒張から
「はぁい。良く出来ましたぁ♥」
「ぅはあああッ!!」
残り少ない鉛チューブから押し出した白絵の具の様に絶頂を向かえる…だけでは済まなかった。済まされなかった。
「オ・マ・ケ♥ん…ちゅ…ちゅぅぅぅぅうう…じゅるっるるるっるるるるる!」
両腕の支配を解かず、竿をしごき続け白絵の具を吐き出す怒張に口づけをし、さらに絵の具を引きずり出さんと亀頭を頬張り貪欲に吸い込み、舌で鈴口をほじくり帰し強い快楽を与え続ける。歯が亀頭にあたり不思議と気持ちいい。
「あふっ!な、なにす…っ!くはッ!!」
「ほはほあ…ほっほはひへ♥ほっほひほひほふはっへ♥」
それだけに飽き足らず左手を操りで玉をグニグニ揉ませ、トドメめと言わんばかりに自身の手で尻をなでさすり、前立腺を優しく揉みしだかれた。
「ひぐぅ!!」
そんな暴力としか言いようのない快楽で散々嫐られ射精の時間を無理やり引き延ばされていく。
「うふ。ごちそうさま。アタシも気もちよかったぁ…クセになりそう♥」
目尻をほんのり朱に染めた幽霊はとてつもなく眉目秀麗でドSで。
宵闇よりも暗い黒に沈む俺を柔らかい微笑みを讃え眺めていた。
翌朝。
雀の声で目を覚ます。
ケータイを手に取ると、目覚ましは鳴っていない。早く起きてしまった。なんか損をした気分だ。
ピー!とレンジの音がする。
程よく焦げたチーズとトマトソースの香り。
そーいや腹減った。
カーテンの隙間から入り込んでくる朝日が妙に黄色い。
「あ。起きた♥オハヨー♥」
アチチ…とレンジから冷凍ピザを取り出すショーコ。
あれ?なんでゴーストが物に触れてるの?
「あぁ。コレ?」
といって右手でピザを気○斬よろしく、ぐるりとまわしながら目の前に突き出す。
「夜中に吸った精のおかげで少しだけ実体化出来るようになっちった♥」
てへっと舌を出してご満悦の様子。
どこぞのブリッ娘か?
「それより一緒にゴハン食べよ?」
いつの間にか水代わりの『超さわやか飲料・桃』とグラスも二つ用意されている。
「冷凍だけどな。」
「それはヤっちゃんの冷蔵庫事情の所為でしょう?」
う…と言葉に詰まる。
頭をがりがりかき回して床に座った。
「ホラ!早く!!」
「「いただきます」」
そんなこんなで『二人暮らし』が始まった。
―−−−−−−−−−−−
ヤっちゃん…かわいい。かわいいよ。ヤっちゃん。ヤっちゃん。ヤッチャン。アァ。モウ我慢デキナイヨ。イイヨネ?モウイイヨネ?
―−−−−−−−−−−−
アレから幾日かが過ぎ…
仕事先の面接が終わり、今日の晩飯は何かなーと帰ると…
部屋の中がちょっとした地獄でした。
主に臭いが。
「なぁ?」
「なぁに?」
おかえり〜と返す裸エプロンのショーコに声をかける。
何故に裸エプロンなのかはこの際どーでもイイ。今は手だけ実体化させているみたいだし。
それよりも。
「この臭いは何だよ?」
鍋の中からとんでもない臭いがする…アレは、そう。夏のツーリングで行った某湖のヘドロに青子の臭い。地獄の原因はコレだ。絶対コレ。
絶対に食ったら死ぬ。俺の本能が言ってるし、この子も「アタシ食べたらシヌわよぉ♥」と言っている!!幽霊が居るのだ。頭に直接語りかけてくるキノコがいても可笑しくあるまいっ!
「えぇ〜!こんなにイイ香りなのに。具体的にはヤっちゃんの精えk…」
「何処がだッ!!大家さんから怒られっちまーだろッ!?」
こいつの鼻は逝ってるのか?
あ。ゴーストか。
とにかく換気…はダメだ。下手するとお巡りさんが来て銀色のブレスレットされちゃう。
「チッ…折角育ったのに。」
舌打ちかよっ!?ってかんなモン何処で育てたんだよっ!?
「と、とにかく、処分しなさ…い…………」
「んちゅ♥」
不意にショーコにキスされた。それも飛び切りディープなヤツ。
「ん!!」
な、何か飲み込まされた!?な、なんだコレは!?
あ、アレ…意…識が…………?
「…うふ……うふふふ…うふふふふふふふふふふふ」
「はぁ……むちゅ…まだ暖かい…えりゅ……んふ…少し冷やしましょうねぇ…ほら…んむ身体が…ぴちゃ…冷たくなって…むりゅ…ゆく…はぷっ…んむ…んっ…じゅりゅりゅりゅりゅるりゅ…」
「…ふはッ!!…ふふ…きもち…イイ?ヤっちゃん?身体は冷たくなってきたけど、オチンチンがまだまだとても熱いよ?ふふ…お口で冷ませないなら膣内で熱を奪ってアゲル」
「そぅ?イイんだぁ?まだ、入り口にこすり付けているだけだよ?じゃぁ…コレは?…うふふビクってしたぁ…♥気持ちイイんだぁ?」
「ゆっくりがイイ?一気がイイ?……ん?ゆっくり?そぅ………ほら…ッ!入っ……ッたぁ♥ずっぽり入っちゃったよ?ぅふふふ…喰べちゃった。ヤっちゃん喰べちゃった。もぐもぐって。ヤっちゃんアタシに喰べられちゃった♥ほらぁ…腰っ…ふってぇ…んひゃッ!!あげるからぁ!…っ!ぐっちょぐっちょって、もっと気持ちよくなって?ぱんぱんってもっと気持ちよくシテ?」
「ほらほらっ…たって、たって、んぅ♥よっこ、んはぁ♥よっこ、まぁるかいてぇ……ど〜ん♥んひぃっ♥イっちゃう?注いで?ヤっちゃんのアッつぅぅいせーえき♥ニンゲンとして放つ最後のせーえき♥」
「そ〜だよぉ?出せばヤっちゃんはもう後戻りできない。ヤっちゃんはアタシと同じモノになるの♥」
「もう限界?限界だよね?イクく?行くでしょ?逝っちゃうんでしょ!?さぁいらっしゃい♥アタシ達の世界に!魔物娘の世界に!!」
「うふふ…やっぱりヤっちゃんのせーえきは美味しい♥」
「オハヨウ。ソシテオカエリ、やッチャン♥」
その後、付近の住人は囁く。
曰く、全く老けない夫婦が住んでいる。
曰く、月に何度か異様な臭いが部屋から漂ってくるが、警察などが調べても何も出ない。
そんな噂も75日を過ぎる頃には誰もが忘れ去った。
しかし、そのアパート周辺の住人は皆、何故か薄気味悪い位に色白で、黙って後ろに立たれると気配がまるで忍者か秘密諜報員かと思うほどに感じられず、何かの拍子に身体に触れてもその身体は異様に冷たいのだとか。
13/03/14 18:28更新 / ぼーはん