勇者の辞め方
砂漠の遺跡内最深部
「仕える主も守るべき部下ももはやこの場にはいない!眠れ!貴様の主と共にッ!!」
愛剣の刃は潰れ、体中から血を流しながら男は告げる。
何合、打ち合っただろうか?
「まだだッ!!ファラオが眠りから覚めるその日その刻まで私は、私達は絶ッッ対にッ!!負けないッ!!!」
ファラオの寝所でこの賊を好き勝手させるわけにはいかぬ。
対峙するジャッカルの魔物も皮膚を切り裂かれ、男と同じく血達磨になりながらも、その瞳にまだ諦めの色は見えない。
実際、アヌビスは善戦した。
これまで何人もの盗賊・勇者を撃退し、部下の伴侶、マミーにせしめて来た魔術が呪術がまったく効果を示さない勇者相手に対し、動揺せず肉弾戦となっても力負けすることもなく、勇者を満身創痍の状態までにした。
そろそろ決着が付く。おそらくは次の一手で。
クレイモアを振りかぶり必殺一撃を放つ。
「さらばだ!主人の元に還れ!!」
「あぁ還るとも。だが、還るのは私だけじゃぁないッ!」
相打ち狙いでアヌビスは貯えた魔力を一撃に込め、杓杖を振り上げる。
二人の武器が振れ合い、大きく両者の体勢が崩れた瞬間、部屋の空気が変わった。
「お帰りなさいませ。我らが王よ」
カイルに背をむけ気配の方向に向き直り、かしずくアヌビス。
「うむ。御苦労であった。我が番犬ナスターシアよ。」
一人のアンデッドがアヌビスの目線の先に居た。
「ナスターシアよ。下っておれ。こやつは妾が相手いたそう。」
「恐れ入ります。」
素直に「王」と呼ばれたアンデッドの言葉に従うアヌビス。
カイルは呆然としていた。
今までどんな敵でもこの一撃で退けて来た。
どんな障害も乗り越えてきた。
もちろん必殺剣を相殺された驚きはある。
だがそれだけではない。
眼前のアンデッドが放つ魔力、気魄、オーラが空気を通しびりびり伝わってくる。
非常に不味い事態になった。
まさか…こいつは……
「そなたの仲間は…すでに門番の晩餐になった様じゃな。それでもまだ戦うのかえ?」
アンデッドはカイルに眼をやりながら王の様に威厳と気品溢れる動作で対峙する。
「それがどうしたッ!」
カイルは必死に新たに現れたアンデッドに気魄で必死に抵抗する。
身体が言う事を聞かない。剣を収め膝を折り頭を垂れ、彼女の言葉に屈する事が至福に思える、
それらを必死に振り払うかの様に高らかに名乗った。
「俺は『勇者』アルバート・カイル!『主神の残り香』!!
剣、折れれば折れた切っ先をその手に突き刺し主神に仇なす者を切り裂き
盾、壊るればその身を持ちて主神とその子らを護り
兜、砕けれどもその頸が空高く舞うまで戦い
鎧、切り裂かれるとも気概を持ちてその身を鋼とす
逝くぞッ!死に損ないッ!!」
もはや斬ることの出来なくなったクレイモアを八相に構え、両の眼を見開き最後の抵抗を始めた。
「良いのぅ。それでこそ。それでこそ正に『勇者』よ。主神の下僕よ。ヒトの子よ!古き刻の残り香よ!妾は『紅砂の嵐』メルシス・アナク・セテン!古代ミャーナ文明が女王!!我が悲願千年王国が夢の為、そなたを我がものとせん!来いッ!『勇者』カイルよ!!」
メルシスの杖から光の弾がカイルに向かって吐き出される。
「ぜりゃァァ!!」
クレイモアで光弾を打ち落とし、ガントレットで弾き飛ばす。
「流石じゃ。その身体でよくその様な芸当ができるものじゃ。」
ナスターシアが苦戦するのも当然じゃ。とメルシスは付け加える。
「じゃがの。」
とメルシスが再び杖を振るうと、カイルの鎧のタリスマンが砕けた。
「しまった!!」
「そのタリスマンであろう?ナスターシアの魔術と呪術を防いでおったのは」
メルシスの指摘通りであった。
彼がアヌビスの呪術を防いでいたのは正に今砕け散ったタリスマンの効力であり、先ほど光弾を打ち落としたのも弾いたのも全てタリスマンの効力だったのだ。
『主神の厚い加護を受けたタリスマン』と魔力の影響を受けやすい体質。この条件が重なりカイルはバフォメットの扱う魔術やエキドナの扱うレベルの呪術ですらほぼ無効化出来る力を得ていた。
それ以外の装備は名も無き傭兵のものと大差なく―勇者と呼ばれる彼がその様な処遇なのかは此処では割愛するが―唯一の切り札である、タリスマンを失い主神の加護を他に持たない今の彼は、もはや一人の唯の人間に成り下がった。
「もうそなたに主神の加護はない!大人しく妾のものになるが良い!」
「あ……ぅぁ…」
メルシスの魔力に中てられ、彼の中の『守るべきもの』が主神から魔物娘に書き換えられて行く。
命令、いや洗脳にも近いそれは、彼に洗脳とは思わせず、むしろもとよりそうであったと優しく思考を狂わせる。
「まもるべきは……」
膝を折る。
「まもの」
剣を鞘に収める。
「そうじゃ。真に守るは主神にあらず。妾と妾が王国の民じゃ。」
が。
「お…おれ、は…『しゅしんののこりが』…『勇者』…だ…」
鞘に収めた剣から利き手が離れない。
「むぅ…まだ抵抗するか?もう良いのじゃ。己が心の内に秘めるものに素直になれい!!」
メルシスはさらに魔力を込め、命令する。
「く…ぅあ……」
己の中に植えつけられた主神の教義と新たに上書きされた命題。
パラドックスに耐え切れず彼の頭は考える事を放棄し、暗闇が意識を覆った。
「気絶しおったか…。強情な男よな…」
メルシスは苦笑した。
正直、ここまで抵抗されるとは思っていなかった。
やはりこの男しかおらぬ。
眠りから覚め、一目見た時から感じた。
女王の気概に主神の力を失いつつも金剛石の心力をもって立ちはだかった、この男を。
真の『勇者』たる資質を持つこの男を。
誰にも渡さぬ。
主神のものにしておくなど。
妾のものじゃ。
そなたは妾のものじゃ。
「従者よ!!」
マミーを呼び出し、カイルの傷の手当を言いつけると
「ナスターシア!」
番犬と呼んだアヌビスを呼びつけ、女王自ら傷の手当を始めた。
「はッ!」
「御苦労であった。」
労いの言葉をかけ、治癒の奇跡をおこす。
彼女の傷はたちどころ癒え、戦闘の緊張から開放された彼女はファラオの復活に心から喜び涙した。
「ははッ!!」
「お主の尽力により我らが悲願、叶う日がやっと来た。」
まるで聖母のような慈悲に満ちた微笑を愛しい愛しい部下に向ける。
「勿体無きお言葉、心に染み入りまする。」
番犬はかしずき頭を垂れた。
「備えよ。讃えよ。我らが王国は今、復活する!」
どのくらい時間が経ったであろうか。
カイルは身体に程よい温もりを感じ眼を覚ました。
「む。起きたか。」
聞き覚えのある声。
本来であれば聞いているはずのない声。
「もう少し、愛しい我が君の寝顔を見ていたかったのじゃが」
まぁ良い。と続けるメルシス。
「なぜ…俺は生きている?」
「では何故そなたは生かされている?」
言葉に詰まるカイル。
「本当はもう気づいているのであろ?」
でなければ妾の魔力は効かぬ。と付け加えた。
そうだ。
今の魔物はもうすでに人を殺さない。
音に聞こえた魔物はもう息絶えているのだ。
ではなぜ俺は『主神の残り香』などという二つ名を持ち、教団幹部に疎まれながらも『勇者』を続けていたのか。
それは……
「今、無理に答えを出す必要はあらぬ。」
メルシスは続ける。
「そなたと妾にはこの先無限の刻が妾達には待っている故………のぅ?」
聖母の微笑みを浮かべ語りかける。
もう何も抵抗する事もない。
俺は…『主神の残り香』は…
「あぁ。そうだな。貴女と共にゆっくり考えていこう。」
勇者カイルは『主神の残り香』は『紅砂の嵐』に散った。
「あぁ…良いぞ…」
「俺も…気持ちいい」
メルシスの棺の中で二人は抱き合っていた。
カイルの傷の手当は完璧で―どんな薬草を使ったのかわからないが―多くの傷は塞がり、6割方動けるようになっていた。
これも元『勇者』としての資質だろうか?などと考えていると
「これ。我が君よ。二人だけの刻に何を余計な事を考えておる?」
「む。何のことだ?」
惚けては見たものの
「乙女の勘を侮るでない。」
全て見通されているようだった。
「それも魔力なのか?」
「そうではない。それに魔力を使わずとも…」
顔を両手で引き寄せられ口付けを交わす。
「ん…ちゅ………愛しい愛しい我が君の心の内など手に取るように解る。」
蛇の交尾の様にお互いの舌を絡め、唾液を交換し合い、口の中を蹂躙しつくし、息をする事すら忘れ去り、奥歯の曇る様な濃厚な口づけ。
カイルの頭に霞がかかる。
メルシスの頭に靄がかかる。
メルシスの大きな乳房がカイルの身体の重みで潰れ、お互いの乳首がこすれあい、こそばゆさから、徐々に快楽へと変換される。
ほのかに彼女から香る香油の香りが人としての、勇者としての、主神の『残り香』を上書きしてゆく。
カイルの背中にみずみずしい両腕がまわされ、両脚にメルシスの張りのある二頭の脚という名の蛇が絡みつく。
本当に数千年もの間、眠りについていたかと思うほどの肌の張りだ。
「マミー達が毎日欠かさず香油で、手入れをしてくれたからのぅ。そなたの為に。」
彼女の愛撫に恍惚としていると不意に耳元で囁かれ、カイルは自身の顔が朱に染まるのを自覚した。
絹の包帯は彼女の長い眠りに耐え、劣化する事無く衣擦れの感触が非常に心地好い。
まるで人の形をしていながら、全身を獲物に絡めて弱らせて一呑みにする蛇の化生の様である。
「ぷはっ…さぁ来てくりゃれ愛おしい我が君よ。長い眠りの末、乾いた妾の心と腹を満たしてくりゃれ」
長く濃厚な口付けを一時取りやめ、カイルを一呑みにせんと蛇のような化生は囁く。
カイルは小さくうなずくと一気にメルシスを貫いた。
「あぁ…ッ!!良いぞ…!我…が愛し…の君……よ、ンッ!!」
腰をゆっくりと前後に動かし、メルシスの膣をじっくり味わう。
が、絶頂は想いの外早く訪れた。
「…くッ!!」
とくとくとメルシスの膣内に吐き出される、男の証。
「あぁ…染み…入…る」
メルシスはカイルに口付けを強請り、背中にまわした両腕と絡めた両足にほんの少し力を入れ、さらにカイルに密着する。
「妾は砂漠を旅した事は無いが、一昼夜迷い、オアシスで水を口に含んだときはこの様な感覚なのであろうなぁ…ん」
先ほどの様な濃厚な口付けを交わし、カイルはメルシスを優しい眼差しで見つめる。
「浸っている所、申し訳ないのだが」
カイルの男根は萎える事無く、メルシスに突き刺さったまま存在を示している。
「おお…相すまぬ。この身体に生まれ変わって初めての性交ゆえ、」
「初めてって…」
「そうじゃ。光栄に思うがよいぞ?カイル」
「ありがとう。メルシス」
初めてお互いの名を呼び合う二人。
「じゃがのぅ?まだまだ足りぬ。妾の乾きは、まだ潤わぬ。」
「あぁ。俺もまだ足りん。」
「今度はもっと激しく…の?」
愛おしい妻の要望にこ答えるため、カイルは腰を振りだした。
眼前に広がるオアシス。
ラミアが砂地に這った跡を残し、椰子の木陰で想い人に巻きつく。
ギルタブリルが岩陰で男を組み敷く。
ゴブリンと刑部狸のキャラバンが露天の場所取りに奔走する。
遺跡の前では二匹のスフィンクスが侵入者へのなぞかけを考えながら、そのまま仕事を放棄し話題は新しく街に来た男の話題にすりかわり、ガールズトークに華を咲かせる。
それを見かけたアヌビスが、罰としてLv.Maxマミーの呪いを発動させるが、それにより発情したスフィンクスに挟まれてしまい付き人のマミーに助けを求めるが、「責められるナスターシア様かあいい〜〜♪」と助けるどころか突入して行った。
…甲高い遠吠えがオアシスに響き渡った。
「どうしたのじゃ?我が君よ。」
天蓋のついたソファーからメルシスが声を掛けて来た。
「いや。景色を見ていた。」
カイルは振り向き愛しいメルシスに優しく口づけをする。
「ほぅ…して何が見えた?」
「真に守るべきもの。」
「そうか…では、守らねばのぅ?」
「あぁ…そうだね。」
「仕える主も守るべき部下ももはやこの場にはいない!眠れ!貴様の主と共にッ!!」
愛剣の刃は潰れ、体中から血を流しながら男は告げる。
何合、打ち合っただろうか?
「まだだッ!!ファラオが眠りから覚めるその日その刻まで私は、私達は絶ッッ対にッ!!負けないッ!!!」
ファラオの寝所でこの賊を好き勝手させるわけにはいかぬ。
対峙するジャッカルの魔物も皮膚を切り裂かれ、男と同じく血達磨になりながらも、その瞳にまだ諦めの色は見えない。
実際、アヌビスは善戦した。
これまで何人もの盗賊・勇者を撃退し、部下の伴侶、マミーにせしめて来た魔術が呪術がまったく効果を示さない勇者相手に対し、動揺せず肉弾戦となっても力負けすることもなく、勇者を満身創痍の状態までにした。
そろそろ決着が付く。おそらくは次の一手で。
クレイモアを振りかぶり必殺一撃を放つ。
「さらばだ!主人の元に還れ!!」
「あぁ還るとも。だが、還るのは私だけじゃぁないッ!」
相打ち狙いでアヌビスは貯えた魔力を一撃に込め、杓杖を振り上げる。
二人の武器が振れ合い、大きく両者の体勢が崩れた瞬間、部屋の空気が変わった。
「お帰りなさいませ。我らが王よ」
カイルに背をむけ気配の方向に向き直り、かしずくアヌビス。
「うむ。御苦労であった。我が番犬ナスターシアよ。」
一人のアンデッドがアヌビスの目線の先に居た。
「ナスターシアよ。下っておれ。こやつは妾が相手いたそう。」
「恐れ入ります。」
素直に「王」と呼ばれたアンデッドの言葉に従うアヌビス。
カイルは呆然としていた。
今までどんな敵でもこの一撃で退けて来た。
どんな障害も乗り越えてきた。
もちろん必殺剣を相殺された驚きはある。
だがそれだけではない。
眼前のアンデッドが放つ魔力、気魄、オーラが空気を通しびりびり伝わってくる。
非常に不味い事態になった。
まさか…こいつは……
「そなたの仲間は…すでに門番の晩餐になった様じゃな。それでもまだ戦うのかえ?」
アンデッドはカイルに眼をやりながら王の様に威厳と気品溢れる動作で対峙する。
「それがどうしたッ!」
カイルは必死に新たに現れたアンデッドに気魄で必死に抵抗する。
身体が言う事を聞かない。剣を収め膝を折り頭を垂れ、彼女の言葉に屈する事が至福に思える、
それらを必死に振り払うかの様に高らかに名乗った。
「俺は『勇者』アルバート・カイル!『主神の残り香』!!
剣、折れれば折れた切っ先をその手に突き刺し主神に仇なす者を切り裂き
盾、壊るればその身を持ちて主神とその子らを護り
兜、砕けれどもその頸が空高く舞うまで戦い
鎧、切り裂かれるとも気概を持ちてその身を鋼とす
逝くぞッ!死に損ないッ!!」
もはや斬ることの出来なくなったクレイモアを八相に構え、両の眼を見開き最後の抵抗を始めた。
「良いのぅ。それでこそ。それでこそ正に『勇者』よ。主神の下僕よ。ヒトの子よ!古き刻の残り香よ!妾は『紅砂の嵐』メルシス・アナク・セテン!古代ミャーナ文明が女王!!我が悲願千年王国が夢の為、そなたを我がものとせん!来いッ!『勇者』カイルよ!!」
メルシスの杖から光の弾がカイルに向かって吐き出される。
「ぜりゃァァ!!」
クレイモアで光弾を打ち落とし、ガントレットで弾き飛ばす。
「流石じゃ。その身体でよくその様な芸当ができるものじゃ。」
ナスターシアが苦戦するのも当然じゃ。とメルシスは付け加える。
「じゃがの。」
とメルシスが再び杖を振るうと、カイルの鎧のタリスマンが砕けた。
「しまった!!」
「そのタリスマンであろう?ナスターシアの魔術と呪術を防いでおったのは」
メルシスの指摘通りであった。
彼がアヌビスの呪術を防いでいたのは正に今砕け散ったタリスマンの効力であり、先ほど光弾を打ち落としたのも弾いたのも全てタリスマンの効力だったのだ。
『主神の厚い加護を受けたタリスマン』と魔力の影響を受けやすい体質。この条件が重なりカイルはバフォメットの扱う魔術やエキドナの扱うレベルの呪術ですらほぼ無効化出来る力を得ていた。
それ以外の装備は名も無き傭兵のものと大差なく―勇者と呼ばれる彼がその様な処遇なのかは此処では割愛するが―唯一の切り札である、タリスマンを失い主神の加護を他に持たない今の彼は、もはや一人の唯の人間に成り下がった。
「もうそなたに主神の加護はない!大人しく妾のものになるが良い!」
「あ……ぅぁ…」
メルシスの魔力に中てられ、彼の中の『守るべきもの』が主神から魔物娘に書き換えられて行く。
命令、いや洗脳にも近いそれは、彼に洗脳とは思わせず、むしろもとよりそうであったと優しく思考を狂わせる。
「まもるべきは……」
膝を折る。
「まもの」
剣を鞘に収める。
「そうじゃ。真に守るは主神にあらず。妾と妾が王国の民じゃ。」
が。
「お…おれ、は…『しゅしんののこりが』…『勇者』…だ…」
鞘に収めた剣から利き手が離れない。
「むぅ…まだ抵抗するか?もう良いのじゃ。己が心の内に秘めるものに素直になれい!!」
メルシスはさらに魔力を込め、命令する。
「く…ぅあ……」
己の中に植えつけられた主神の教義と新たに上書きされた命題。
パラドックスに耐え切れず彼の頭は考える事を放棄し、暗闇が意識を覆った。
「気絶しおったか…。強情な男よな…」
メルシスは苦笑した。
正直、ここまで抵抗されるとは思っていなかった。
やはりこの男しかおらぬ。
眠りから覚め、一目見た時から感じた。
女王の気概に主神の力を失いつつも金剛石の心力をもって立ちはだかった、この男を。
真の『勇者』たる資質を持つこの男を。
誰にも渡さぬ。
主神のものにしておくなど。
妾のものじゃ。
そなたは妾のものじゃ。
「従者よ!!」
マミーを呼び出し、カイルの傷の手当を言いつけると
「ナスターシア!」
番犬と呼んだアヌビスを呼びつけ、女王自ら傷の手当を始めた。
「はッ!」
「御苦労であった。」
労いの言葉をかけ、治癒の奇跡をおこす。
彼女の傷はたちどころ癒え、戦闘の緊張から開放された彼女はファラオの復活に心から喜び涙した。
「ははッ!!」
「お主の尽力により我らが悲願、叶う日がやっと来た。」
まるで聖母のような慈悲に満ちた微笑を愛しい愛しい部下に向ける。
「勿体無きお言葉、心に染み入りまする。」
番犬はかしずき頭を垂れた。
「備えよ。讃えよ。我らが王国は今、復活する!」
どのくらい時間が経ったであろうか。
カイルは身体に程よい温もりを感じ眼を覚ました。
「む。起きたか。」
聞き覚えのある声。
本来であれば聞いているはずのない声。
「もう少し、愛しい我が君の寝顔を見ていたかったのじゃが」
まぁ良い。と続けるメルシス。
「なぜ…俺は生きている?」
「では何故そなたは生かされている?」
言葉に詰まるカイル。
「本当はもう気づいているのであろ?」
でなければ妾の魔力は効かぬ。と付け加えた。
そうだ。
今の魔物はもうすでに人を殺さない。
音に聞こえた魔物はもう息絶えているのだ。
ではなぜ俺は『主神の残り香』などという二つ名を持ち、教団幹部に疎まれながらも『勇者』を続けていたのか。
それは……
「今、無理に答えを出す必要はあらぬ。」
メルシスは続ける。
「そなたと妾にはこの先無限の刻が妾達には待っている故………のぅ?」
聖母の微笑みを浮かべ語りかける。
もう何も抵抗する事もない。
俺は…『主神の残り香』は…
「あぁ。そうだな。貴女と共にゆっくり考えていこう。」
勇者カイルは『主神の残り香』は『紅砂の嵐』に散った。
「あぁ…良いぞ…」
「俺も…気持ちいい」
メルシスの棺の中で二人は抱き合っていた。
カイルの傷の手当は完璧で―どんな薬草を使ったのかわからないが―多くの傷は塞がり、6割方動けるようになっていた。
これも元『勇者』としての資質だろうか?などと考えていると
「これ。我が君よ。二人だけの刻に何を余計な事を考えておる?」
「む。何のことだ?」
惚けては見たものの
「乙女の勘を侮るでない。」
全て見通されているようだった。
「それも魔力なのか?」
「そうではない。それに魔力を使わずとも…」
顔を両手で引き寄せられ口付けを交わす。
「ん…ちゅ………愛しい愛しい我が君の心の内など手に取るように解る。」
蛇の交尾の様にお互いの舌を絡め、唾液を交換し合い、口の中を蹂躙しつくし、息をする事すら忘れ去り、奥歯の曇る様な濃厚な口づけ。
カイルの頭に霞がかかる。
メルシスの頭に靄がかかる。
メルシスの大きな乳房がカイルの身体の重みで潰れ、お互いの乳首がこすれあい、こそばゆさから、徐々に快楽へと変換される。
ほのかに彼女から香る香油の香りが人としての、勇者としての、主神の『残り香』を上書きしてゆく。
カイルの背中にみずみずしい両腕がまわされ、両脚にメルシスの張りのある二頭の脚という名の蛇が絡みつく。
本当に数千年もの間、眠りについていたかと思うほどの肌の張りだ。
「マミー達が毎日欠かさず香油で、手入れをしてくれたからのぅ。そなたの為に。」
彼女の愛撫に恍惚としていると不意に耳元で囁かれ、カイルは自身の顔が朱に染まるのを自覚した。
絹の包帯は彼女の長い眠りに耐え、劣化する事無く衣擦れの感触が非常に心地好い。
まるで人の形をしていながら、全身を獲物に絡めて弱らせて一呑みにする蛇の化生の様である。
「ぷはっ…さぁ来てくりゃれ愛おしい我が君よ。長い眠りの末、乾いた妾の心と腹を満たしてくりゃれ」
長く濃厚な口付けを一時取りやめ、カイルを一呑みにせんと蛇のような化生は囁く。
カイルは小さくうなずくと一気にメルシスを貫いた。
「あぁ…ッ!!良いぞ…!我…が愛し…の君……よ、ンッ!!」
腰をゆっくりと前後に動かし、メルシスの膣をじっくり味わう。
が、絶頂は想いの外早く訪れた。
「…くッ!!」
とくとくとメルシスの膣内に吐き出される、男の証。
「あぁ…染み…入…る」
メルシスはカイルに口付けを強請り、背中にまわした両腕と絡めた両足にほんの少し力を入れ、さらにカイルに密着する。
「妾は砂漠を旅した事は無いが、一昼夜迷い、オアシスで水を口に含んだときはこの様な感覚なのであろうなぁ…ん」
先ほどの様な濃厚な口付けを交わし、カイルはメルシスを優しい眼差しで見つめる。
「浸っている所、申し訳ないのだが」
カイルの男根は萎える事無く、メルシスに突き刺さったまま存在を示している。
「おお…相すまぬ。この身体に生まれ変わって初めての性交ゆえ、」
「初めてって…」
「そうじゃ。光栄に思うがよいぞ?カイル」
「ありがとう。メルシス」
初めてお互いの名を呼び合う二人。
「じゃがのぅ?まだまだ足りぬ。妾の乾きは、まだ潤わぬ。」
「あぁ。俺もまだ足りん。」
「今度はもっと激しく…の?」
愛おしい妻の要望にこ答えるため、カイルは腰を振りだした。
眼前に広がるオアシス。
ラミアが砂地に這った跡を残し、椰子の木陰で想い人に巻きつく。
ギルタブリルが岩陰で男を組み敷く。
ゴブリンと刑部狸のキャラバンが露天の場所取りに奔走する。
遺跡の前では二匹のスフィンクスが侵入者へのなぞかけを考えながら、そのまま仕事を放棄し話題は新しく街に来た男の話題にすりかわり、ガールズトークに華を咲かせる。
それを見かけたアヌビスが、罰としてLv.Maxマミーの呪いを発動させるが、それにより発情したスフィンクスに挟まれてしまい付き人のマミーに助けを求めるが、「責められるナスターシア様かあいい〜〜♪」と助けるどころか突入して行った。
…甲高い遠吠えがオアシスに響き渡った。
「どうしたのじゃ?我が君よ。」
天蓋のついたソファーからメルシスが声を掛けて来た。
「いや。景色を見ていた。」
カイルは振り向き愛しいメルシスに優しく口づけをする。
「ほぅ…して何が見えた?」
「真に守るべきもの。」
「そうか…では、守らねばのぅ?」
「あぁ…そうだね。」
13/03/09 16:31更新 / ぼーはん