貴方に仕えたくて
金の切れ目が縁の切れ目。まさに使用人と雇い主の関係はそんなものだ。 他はどうかは知らないが、俺はそんなものだと思っているし、そんなものだった。 金の切れ目が縁の切れ目?私はお金なんて欲しくないです。貴方に尽くせる、貴方といられる、そんな時間が千金に値するんですから! 他の人はどうかなんて知るわけないですけど私はそんな感じです。 人なんて所詮利己心の塊だ。 誰も彼もが自分が大事、ならなんで他人に仕えるのだろうか。 何故自分の自由を犠牲にして他人に仕えるのか。 金のためか?生活が保障されるからか?コネを得るためか?媚を売るためか?仕事が他に無かったからか? ……ふん、馬鹿げてる。 人は確かに利己心を持っています しかし、自分より大切に思える人がいるはずです。だから他人に仕えるのです。だから自分の自由を制限してまでも尽くしたいのです。 笑顔が見たい。そばにいたい。話したい。役に立ちたい。恩を返したい。 ……一つも馬鹿らしくはありません。 俺は、一人で生きる。 人は一人では生きられません。 「いいから帰れ」 「私の帰るべき場所は、ここです」 ■■■■■ 「俺には必要ない。帰れ」 バタン。 そう乱暴に扉を閉めて俺は昔を思い出しその場に座り込んだ。床が冷たく不愉快だが、今無理をすると倒れる。 息が苦しい。動悸もひどい。 ここまでくると最早アレルギーだな。そう自分を鼻で笑った。 ついさっき俺を主人と呼び、『お仕えさせてください』と扉の前に立っていた誰かの姿が脳裏に焼き付いている。 そいつの格好と仕草、言葉遣いが全て、過去を想起させるには十分過ぎるものだった。 だが、なにもあそこまで冷たく言うことはなかったか。 俺は息が整ってきたので立ち上がる。そろそろ寝ないといけない時間だ。 ベッドには早めに入りたい。懐中時計を見て時間を確認してから自室に向かう。 今日はうまく寝れそうにないかもな。 ため息を吐きながら長い廊下を歩き始めた。 俺は一人で暮らすには少々大きめな館に住んでいる。ちなみに鬱蒼とした森の中だ。近くに村があるが、基本的に来客はない。 普通ならば使用人の一人や二人雇っていると言っても驚かれない家だが、俺は一人も雇っていない。 そこそこ家事はできる。部屋もよく使うところだけを掃除をすれば快適に保てる。 雇う必要がない。 それに、雇いたくもない。 そんな中、突然背丈ほどの箒を抱えたメイド姿の女性が現れたのだ。 彼女の姿は近くの村でも見たことがない。本当に初対面だった。そうでありながら彼女は俺を主人と言い、仕えたいと言う。 はっきり言うと信用できなかった。 加えて、前述のように使用人は誰一人雇うつもりはない。 だから帰ってもらった。ただそれだけだ。 ただ、それだけのはずだった 「ご主人様ぁ〜」 それだけのはずだ。 「ごっ主人さっ!まぁ〜」 それだけにしてくれ…… 「ごしゅじぃ〜〜〜ん」 「ああくそっ!どうやって入った!?」 |
||||||||||
|
||||||||||