穴を長い棒で弄繰り回すお話
「バジル、耳かきしてあげる!」
「……は?」
……我が妻メアリーよ、部屋に戻ってくるなり何を言い出すんだ。
「だから、お耳の掃除をしてあげるの!」
「なんでだ?」
「え?」
「なんでまたそんな事を?」
とりあえず、頭に浮かんだ疑問をそのままぶつける。
「なんでって、耳の中が溜まってきたんじゃないかな〜、なんて思って」
「いや、子供じゃあるまいし、耳掃除くらい一人で出来るぞ」
「ぶぅ〜!分かってないなぁバジルは。寂しく自分で自分を慰めるオナニーの如くお耳を弄るより、可愛いお嫁さんにセックスの如く隅から隅までたっぷり愛情を注がれながら弄繰り回される方が快感でしょ?」
「なんでそう話に下ネタ成分を含ませる?」
「分かりやすいでしょ?」
「どうでもいい」
性格は子供っぽいのに口から出てくる言葉は卑猥なものばかり。
流石は現魔王の娘と言うべきか。
「そうだね、たとえ話なんてどうでもいいよね。というわけで、さぁどうぞ!バジル専用の膝枕だよ〜♪」
「何がというわけでだ」
ショートパンツから露わになってる肉感的な腿をポンポンと叩くメアリー。色々とそそる仕草だが、今はちょっと……。
「済まない。別の機会にしてくれ」
「もう、何時まで経ってもツンデレだね。バジルしか味わえない特別な枕なんだよ?ここは素直に甘えてよ」
「そうしてやりたいが、その必要は無い」
「え〜?なんでなんで?私に膝枕されるの、嫌なの?」
「そうじゃなくて、本当にやる意味が無いんだ」
別に膝枕は嫌いじゃない。寧ろ……まぁ、好きだが。
「え?なんで?ちょっと意味分かんないんだけど……」
「いや、実はな……もう今朝起きた時に済ませた」
「は?」
「朝起きた時に心なしか音の聞こえが悪く感じてな、もうそろそろだなと思って自分で耳掃除したんだ」
「…………」
つまり、もう綺麗にしたところをまた綺麗にする意味は無いと言う事だ。
「まぁ要するに、俺の耳の穴はもう掃除済みってことだ。これ以上やる必要無いだろ?」
「……なんで……」
「ん?」
……なんだ、そんなにポカーンとして……。
「なんで君は私のお楽しみのお時間を奪い去ってくれるのかなぁ!?」
「知らん。てかお楽しみって言い過ぎだろ」
「何言ってるの!大好きな旦那様と触れ合える時間がどれほど貴重なものか分かってるの!?私、バジルに膝枕してあげるの楽しみにしてたのに!」
そこまで思ってくれていたとは。嬉しいことだがタイミングが悪かったな。
「それは悪かった。じゃあまた今度頼む」
「やだっ!今やりたいの!」
また我がまま言って……。
「また溜まったらやってもらうから……」
「や〜だ!待てない!今やりたい!」
「かくべきものも残ってないんだから意味無いだろ」
「意味無くてもやるのっ!」
「それこそ意味分からん……」
なんで耳かき程度のことでそんな屁理屈を並べるんだ。
「……やりたい……」
「?」
「やりたいやりたいやりたいやりたいや〜り〜た〜い〜!!」
挙句の果てにベッドの上で駄々こねて……本当に子供だ。18歳の子供だ。成長したのは身体だけだ。
「いい歳してジタバタするな!そんな子に育てた覚えはないぞ!」
「バジルと私は親子じゃなくて夫婦でしょ!」
「分かってたらいい歳して駄々こねるな!」
「じゃあ耳かきさせてくれる!?」
「それとこれとは別」
「やだやだやだ〜!お耳掃除したい!し〜た〜い〜!」
……世界広しと言えど、耳かきしたくてベッドの上で子供みたいに駄々をこねる女の夫は俺しかいないのだろうな。
「全く……いい加減にしないとお仕置きするぞ!」
ちょっと強めの一声を放った瞬間、動きがピタッと止まった。
お?少しは効いたか?
「……お仕置きって、どんなお仕置き?」
枕に顔を埋めながら上目遣いで見つめてきた。
どんなって……あ〜……えっと……。
「ん〜……お尻ぺんぺんとか?」
子供か!
ってツッコミが来るかもしれんが、子供みたいな妻にはそれがちょうどいい。
「……お尻……ポッ♥」
……待て待て待て。なんで枕を抱きしめてモジモジする?
なんで頬を赤くしてトロ〜ンとした目付きで見つめてくる?
そしてなんで物欲しそうな目を向ける?
「バジル……私のお尻、触りたいの?だったらいいよ♥好きなだけ触って……」
そこでショートパンツを脱ごうとしてる妻。
流石リリム、卑猥。
「触りたいなど一言も言ってないぞ」
「あ、やっぱりバジルってお尻よりおっぱい派?いいよ♥いっぱい揉んで……」
すぐにシャツを脱ごうとする妻。
流石リリム、淫乱。
「だから何故話に下ネタ成分を含ませる?」
「好きだから!」(キリッ)
「何が?」
「エッチな事!でもバジルはもっと好き!」(キリリッ!)
もう駄目だ。なんて言ったらいいか分からなくなってきた。
「そうか」
「うん」
「ありがとう」
「いえいえ♪」
「それじゃ、これから黒ひげと将棋を指しに行くから」
「待たんかい!」
ドゴッ!
「ごほっ!」
部屋を出ようと踵を返した刹那、メアリーが背後から俺に飛び込んできた。その素早さと威力は弾丸の如く。その不意打ちに思わず咽びそうになる。
「なんで自然的な流れでその場から立ち去ろうとするかな君は!」
「我が道を突き進む姿勢には付き合いきれん」
「なんでよー!夫婦として生涯ずっと共に生きていこうって誓ったじゃん!」
「それは事実。だが俺が言いたいのは、幼稚な我がままには付き合いきれないってことだ」
「我がままじゃないもん!スキンシップだもん!ボディタッチだもん!求愛行動だもん!」
「そんなの毎晩やってるだろ……」
「……そっか……そうなんだ……」
……ん?声のトーンが下がったぞ?
「バジルは私に耳掃除されるのが嫌いなんだね……」
……ああ、しまった。いじけ出した。こうなると中々機嫌直してもらえないんだよな……。
「いいよいいよ〜だ!ふ〜んだ!もう知らないもん!」
遂にはベッドの上でうつ伏せに寝転がった。
う〜ん……ちょっと言い過ぎたかな……反省。
「はいはいよしよし、落ち着けって」
こういう時は頭を撫でてやれば大抵落ち着く。
と言う訳でメアリーの頭を撫でてやった。
「……こんなので機嫌が直るとでも思ったら大間違いだからね」
おっと、ちょっと侮っていたか。今回ばかりは頭を撫でたくらいで丸く収まりそうにもない。
「じゃあどうすればいい?」
「耳かきさせて」
「何故そう耳かきに執着する?」
「やりたいと思ってるからやりたいの。それ以外の理由なんて要らないの」
……はぁ……そうかい……。
「分かった。お願いしようか」
……何時もこれだ。結局俺が一歩引く羽目になる。
それで悪い気分にならない俺って一体……。
「ホント!?させてくれるの!?」
にぱ〜っと眩しい笑顔を見せてきた。その純粋さと言ったら、まさに好きなものを与えられた子供のようだ。
「ああ、頼むよ」
「わぁい!耳かき耳かき〜♪」
なんて分かりやすい切り替えだ。さっきまでの不機嫌はなんだったのやら。
そもそも、なんでメアリーの方が嬉しそうにするかな。奉仕されるのは俺なのだが。
「さぁさぁ、どうぞどうぞ♪遠慮しないで、おいで〜♪」
ベッドに腰かけて、ポンポンと腿を叩いて誘ってきた。ここまでさせたら……もう従うしかない。
「はぁ……なんで何時もこうなるかな……」
「え?なんでって?そりゃあ、バジルが優しい旦那様だからでしょ♪」
無邪気な笑みを浮かべているメアリーの隣に腰かけた。毎度ながら、この笑顔に屈してしまう自分が情けない。
……それでも悪い気がしないとは、これも惚れた弱みなのか……。
「……もう一度言うが、今朝済ませたから大してやり甲斐も無いからな」
「いいのいいの♪バジルが甘えてくれるだけで嬉しいからね〜♪」
「いや、甘えてる訳でもないんだが……」
「も〜、ホントにツンデレなんだから♥」
……駄目だ。完全にメアリーの思うがままだ。もう抗う気力も失せてしまった。
「それじゃ、おいで」
「ああ」
大人しくベッドの上に寝そべり、頭をメアリーの太腿に乗せた。仰向けになるように寝たため、メアリーと視線が重なる。
「えへへ〜♪どうかな?気持ちいい?」
「ああ……」
「ホント?嬉しい!」
まぁ確かに……メアリーの膝枕はとても気持ちいい。それは事実だ。
魔王の娘なだけに、母親譲りの抜群のプロポーションは完璧だ。胸や尻は勿論、スラリとした足も例外ではない。健康的な肉付きの太腿は柔らかくて肌触りが良く、人肌の温もりも心地良い。こうして頭を預けているだけで癒される。
「…………」
「どうしたの?」
「い、いや……別に……」
……しかしなんだ……このアングル……この二つの山……ある意味刺激が強い……。
こんなに近くで見ると……改めてその大きさを思い知らされる……。
「……あ〜、そっかぁ♥」
「な、なんだ?」
「バジル……私のおっぱいが気になるんだね♥」
「うぐっ!」
……不覚……まさかの図星。
「えへへ♪やっぱりそうなんだ♪」
「い、いや、そういうわけじゃ……!」
「照れなくてもいいんだよ♪よく考えたら私のおっぱいが至近距離で真上にあるんだもんね。気にならない方がおかしいよね」
もう言い訳すら考え付かない。ただ視線を逸らすしかない。
「お顔が真っ赤だよ。可愛いなぁ♥」
「……からかうな……」
「にへへ〜♪可愛いからチューしちゃお♥」
チュッ♥
「…………」
……額に柔らかいものが触れた。それが何かは……言うまでもない。
「……なぁ」
「ん〜?」
「耳かきするんじゃなかったのか?」
このまま身を任せたら流れが変わるから本題に戻した。
「あ、ごめんごめん。バジルがあまりにも愛おしいから……」
「そ、そうか」
……頼むメアリー、そんなに熱い視線を向けないでくれ。歯止めが利かなくなるだろ。
「えっとね……バジル、どっちか片方の耳をこっちに向けて」
「ああ」
言われた通り、俺は寝そべったまま身体の向きを変え始めた。
「ひゃっ!は、はぁん!」
「ど、どうした?」
「あ、く、くすぐったいよぉ!は、あはぁん!」
……くすぐったいのは分かるが、何故変な声が出る?
「……変な声出すなよ……」
「だって、バジルの髪がくすぐったい……んあ!あぁっ!」
……気のせいか?妙に卑猥だと思うのは俺だけか?
「はぁ……えへへ……くすぐったくってビックリしちゃった」
片方の耳を向け終えたところで、ようやくメアリーの変な声が止まった。先が思いやられるな全く……。
「早速始めるよ〜」
メアリーは俺の視界に耳かき棒をチラつかせてきた。尻尾の部分に綿の球が付いてるオーソドックスな耳かき棒。
「それじゃ、こしょこしょしちゃうよ〜♪」
「……かき壊すなよ?」
「壊さない!」
そっと頭に手を添えられる感覚。それと同時に、耳の穴に細長いものが進入してくる感触が伝わってきた。
カリカリカリカリ……
「どう?痛くない?」
「ああ……大丈夫」
……これは予想外。痛いどころか、思ったよりとても気持ちいい。
「どうかな?上手くできてる?」
「ああ……気持ちいい……」
「ホント?よかった」
ゴソゴソわさわさと穴を弄られる音が響く。ちょっぴりくすぐったく感じるが、存外心地良いものだ。
「ん〜……」
「どうした?」
「なんかね、思ったより溜まってないな〜なんて」
「言っただろ。もう済ませたって」
ただ、耳かき自体は本当に気持ちいい。耳の中は優しく掻かれてるし、太腿の柔らかさと温もりが頬から伝わってくる。やはり自分でやるのと人にやってもらうのとでは大違いなのだろうか。
……メアリーの言ったことは、あながち間違ってなかった。と言っても、オナニーとかセックスとかは全然関係無いが。
「ま、いいか。こうして触れ合ってるだけで幸せだもんね♪」
「んん……」
「バジルはどう?幸せ?」
「ああ……」
「ああ、じゃ分からないよ。ちゃんと言って」
「……言わなくても分かるだろ……」
「やれやれ……まぁいいや。そういうツンデレなところも大好きだよ♥」
「…………」
今の俺の顔、かなり赤くなってると思う。いや、間違いなく赤い。誤魔化す言葉も考え付かない。
「ふぅ……」
「お?なんだか気持ち良さそうな顔してるね」
「ん……そうだな……」
思わず顔に出してしまったのだろうか。心地良くなってきてるのが察せられている。もう今更誤魔化す気にもなれず、率直な感想を伝えた。
「へへ……よかった。バジルが気持ちよくなってくれると、私も嬉しいよ♪」
「ああ……」
この姿勢だとメアリーの顔が見れない。だが、今の発言の明るさからして、多分嬉しそうに微笑んでるんじゃないかと思えた。
「……それにしても……面食らったな……」
「ん〜?なにが?」
「お前が耳かきするだなんて言い出した時のことだ」
「そう?とりわけ変なことは言ってないでしょ?」
そりゃ耳かき自体は変じゃない。
「そうだな。ただ、俺が部屋に戻って来た時のお前は『セックスしよう♥』って必ず言ってくる。だが今日は何時もと違っていたから若干戸惑ってな」
「あれ?私、何時もそんなこと言ってないよ」
「言ってるだろ」
「言ってない」
「言ってる」
「言ってない!」
「言って……」
ゴソッ
「おっと!」
「も〜、危ないなぁ。動いちゃダメだよ」
「す、すまん」
危うく脳が貫かれるところだった。いや、それは大げさか。
「あのねバジル、もう一度言うけど、私は毎回『セックスしよう♥』なんて言ってないよ」
「ほう……」
メアリーがこんなに否定するとは……。
「それを言ったのは一週間前だよ。毎回同じことは言ってない」
……は?
「五日前は『バジル〜♪ただいまのチューして〜♥』て言って、その次の日は『今日はおっぱいでご奉仕してあげる♥』って言って、更にその次の日は『バジルソース(意味深)が飲みたいな〜♥』って言って、更にその次の日h」
「メアリー」
「ん?」
「分かった、俺が間違ってた。悪かったからもうやめてくれ」
「……私、なんで謝られたの?」
……何故だ……何故俺の方が恥ずかしくなるんだ。
というかバジルソースなんて呼び方は本当にやめてくれ……。
「……あ、えっと、それでだな」
とりあえず話題を戻そう。
「まぁつまり、メアリーが性交以外の奉仕をするなんて予想外だったって言いたいんだ」
「なにそれ、それじゃ私がエッチな女の子みたいじゃない」
「なんだ、違うのか?」
「違わない……けど……」
何かを少し間を置かれた後、返ってきたのはこの言葉。
「私はエッチも好きだけど、一番大好きなのはバジルだよ♥」
チュッ♥
「…………」
頬から伝わった柔らかい感触。それが何だったのか……確かめるまでもない。
……不覚……胸の奥が大きく弾んでしまった……。
「でね、話は変わっちゃうんだけど……確かに何時もバジルにエッチをお願いしてるよ。でもね、ふと思ったんだ。たまにはエッチなこと以外の方法でバジルにご奉仕してあげようかなって」
「それはまた、三度の飯より性交が好きなお前が……どういう風の吹きまわしだ」
「何度も言うけど、私はバジルのことが大好きなんだよ。海賊である私をお嫁さんにしてくれて、その上私の海賊稼業まで手伝ってくれて……本当に感謝してるよ」
……そう言われると、なんだか……くすぐったいな。
耳じゃなくて、胸の奥が……。
「でね、何時もがんばってくれてるバジルのために何かしてあげたいな〜って思ったの。私にできることなんてたかが知れてる……でも耳かきならバジルのためになるんじゃないかなって」
「……それでか……」
……メアリー……俺のことを考えて……。
「それで、どうかな?少しは癒されたかな?」
……そんなの……決まってる。
「少しじゃない……身も心も癒されたよ」
「ホント!?よかったぁ♪」
……良い妻だよ……俺には勿体ないくらいだ……。
「はい、お耳の中、綺麗になったよ♪」
「ああ、ありがとう」
耳掃除を終えたところで、俺はゆっくりと身体を起こした。
「それじゃ、次は反対側の耳だね」
「いや、俺はいい」
もう十分癒された。本当に満足している。
「え?まだ終わってないよ」
「いいんだ。それよりメアリー、その耳かき棒貸してくれ」
「ええ?なんで?」
「いいから」
「?」
キョトンとしながらも俺に耳かき棒を渡してくれたメアリー。俺はそんな妻の肩を抱き寄せて……。
「ほら、おいで」
「え……はわぁ!?」
俺の膝を枕代わりにしてメアリーを寝かせた。
「え?なになに?どうしたの?」
メアリーはとても分かりやすく動揺している。こうして見るとなんだかおかしいが、笑うのは堪えた。
「今度は俺が耳かきしてやる」
「え!?い、いいよ私は!それじゃご奉仕の意味が無くなっちゃうよ!」
「待てって。ほら、寝てろ」
慌てて起き上がろうとするメアリーを半ば強引に寝かせた。
「メアリーが俺のためにしてくれたのなら、今度は俺がメアリーのためにしてやりたいんだ」
「でも……」
「今は甘えてろ。まぁ、その……メアリーを……気持ちよくしてやりたいから……」
それを聞いたメアリーは、一瞬だけ目を見開いたが、やがて嬉しそうに明るい笑顔を浮かべた。
「バジル……ありがとう!それじゃ、お願いしようかな♪」
メアリーは頭を俺の膝に頭を預けたまま右耳を俺に向けた。
「……バジル……」
「ん?」
早速始めようと思った瞬間、メアリーが熱い眼差しを向けてきた。
「やっぱりバジルは……私の素敵な旦那様だよ!」
「……ああ……」
……俺は一生……メアリーには勝てないな。
そう思い知ると同時に……。
「……お前こそ……素敵な嫁さんだよ……」
「ん?なにか言った?」
「さぁな」
妻のありがたみを噛みしめた一夜となった。
……メアリー……ありがとう……。
「……は?」
……我が妻メアリーよ、部屋に戻ってくるなり何を言い出すんだ。
「だから、お耳の掃除をしてあげるの!」
「なんでだ?」
「え?」
「なんでまたそんな事を?」
とりあえず、頭に浮かんだ疑問をそのままぶつける。
「なんでって、耳の中が溜まってきたんじゃないかな〜、なんて思って」
「いや、子供じゃあるまいし、耳掃除くらい一人で出来るぞ」
「ぶぅ〜!分かってないなぁバジルは。寂しく自分で自分を慰めるオナニーの如くお耳を弄るより、可愛いお嫁さんにセックスの如く隅から隅までたっぷり愛情を注がれながら弄繰り回される方が快感でしょ?」
「なんでそう話に下ネタ成分を含ませる?」
「分かりやすいでしょ?」
「どうでもいい」
性格は子供っぽいのに口から出てくる言葉は卑猥なものばかり。
流石は現魔王の娘と言うべきか。
「そうだね、たとえ話なんてどうでもいいよね。というわけで、さぁどうぞ!バジル専用の膝枕だよ〜♪」
「何がというわけでだ」
ショートパンツから露わになってる肉感的な腿をポンポンと叩くメアリー。色々とそそる仕草だが、今はちょっと……。
「済まない。別の機会にしてくれ」
「もう、何時まで経ってもツンデレだね。バジルしか味わえない特別な枕なんだよ?ここは素直に甘えてよ」
「そうしてやりたいが、その必要は無い」
「え〜?なんでなんで?私に膝枕されるの、嫌なの?」
「そうじゃなくて、本当にやる意味が無いんだ」
別に膝枕は嫌いじゃない。寧ろ……まぁ、好きだが。
「え?なんで?ちょっと意味分かんないんだけど……」
「いや、実はな……もう今朝起きた時に済ませた」
「は?」
「朝起きた時に心なしか音の聞こえが悪く感じてな、もうそろそろだなと思って自分で耳掃除したんだ」
「…………」
つまり、もう綺麗にしたところをまた綺麗にする意味は無いと言う事だ。
「まぁ要するに、俺の耳の穴はもう掃除済みってことだ。これ以上やる必要無いだろ?」
「……なんで……」
「ん?」
……なんだ、そんなにポカーンとして……。
「なんで君は私のお楽しみのお時間を奪い去ってくれるのかなぁ!?」
「知らん。てかお楽しみって言い過ぎだろ」
「何言ってるの!大好きな旦那様と触れ合える時間がどれほど貴重なものか分かってるの!?私、バジルに膝枕してあげるの楽しみにしてたのに!」
そこまで思ってくれていたとは。嬉しいことだがタイミングが悪かったな。
「それは悪かった。じゃあまた今度頼む」
「やだっ!今やりたいの!」
また我がまま言って……。
「また溜まったらやってもらうから……」
「や〜だ!待てない!今やりたい!」
「かくべきものも残ってないんだから意味無いだろ」
「意味無くてもやるのっ!」
「それこそ意味分からん……」
なんで耳かき程度のことでそんな屁理屈を並べるんだ。
「……やりたい……」
「?」
「やりたいやりたいやりたいやりたいや〜り〜た〜い〜!!」
挙句の果てにベッドの上で駄々こねて……本当に子供だ。18歳の子供だ。成長したのは身体だけだ。
「いい歳してジタバタするな!そんな子に育てた覚えはないぞ!」
「バジルと私は親子じゃなくて夫婦でしょ!」
「分かってたらいい歳して駄々こねるな!」
「じゃあ耳かきさせてくれる!?」
「それとこれとは別」
「やだやだやだ〜!お耳掃除したい!し〜た〜い〜!」
……世界広しと言えど、耳かきしたくてベッドの上で子供みたいに駄々をこねる女の夫は俺しかいないのだろうな。
「全く……いい加減にしないとお仕置きするぞ!」
ちょっと強めの一声を放った瞬間、動きがピタッと止まった。
お?少しは効いたか?
「……お仕置きって、どんなお仕置き?」
枕に顔を埋めながら上目遣いで見つめてきた。
どんなって……あ〜……えっと……。
「ん〜……お尻ぺんぺんとか?」
子供か!
ってツッコミが来るかもしれんが、子供みたいな妻にはそれがちょうどいい。
「……お尻……ポッ♥」
……待て待て待て。なんで枕を抱きしめてモジモジする?
なんで頬を赤くしてトロ〜ンとした目付きで見つめてくる?
そしてなんで物欲しそうな目を向ける?
「バジル……私のお尻、触りたいの?だったらいいよ♥好きなだけ触って……」
そこでショートパンツを脱ごうとしてる妻。
流石リリム、卑猥。
「触りたいなど一言も言ってないぞ」
「あ、やっぱりバジルってお尻よりおっぱい派?いいよ♥いっぱい揉んで……」
すぐにシャツを脱ごうとする妻。
流石リリム、淫乱。
「だから何故話に下ネタ成分を含ませる?」
「好きだから!」(キリッ)
「何が?」
「エッチな事!でもバジルはもっと好き!」(キリリッ!)
もう駄目だ。なんて言ったらいいか分からなくなってきた。
「そうか」
「うん」
「ありがとう」
「いえいえ♪」
「それじゃ、これから黒ひげと将棋を指しに行くから」
「待たんかい!」
ドゴッ!
「ごほっ!」
部屋を出ようと踵を返した刹那、メアリーが背後から俺に飛び込んできた。その素早さと威力は弾丸の如く。その不意打ちに思わず咽びそうになる。
「なんで自然的な流れでその場から立ち去ろうとするかな君は!」
「我が道を突き進む姿勢には付き合いきれん」
「なんでよー!夫婦として生涯ずっと共に生きていこうって誓ったじゃん!」
「それは事実。だが俺が言いたいのは、幼稚な我がままには付き合いきれないってことだ」
「我がままじゃないもん!スキンシップだもん!ボディタッチだもん!求愛行動だもん!」
「そんなの毎晩やってるだろ……」
「……そっか……そうなんだ……」
……ん?声のトーンが下がったぞ?
「バジルは私に耳掃除されるのが嫌いなんだね……」
……ああ、しまった。いじけ出した。こうなると中々機嫌直してもらえないんだよな……。
「いいよいいよ〜だ!ふ〜んだ!もう知らないもん!」
遂にはベッドの上でうつ伏せに寝転がった。
う〜ん……ちょっと言い過ぎたかな……反省。
「はいはいよしよし、落ち着けって」
こういう時は頭を撫でてやれば大抵落ち着く。
と言う訳でメアリーの頭を撫でてやった。
「……こんなので機嫌が直るとでも思ったら大間違いだからね」
おっと、ちょっと侮っていたか。今回ばかりは頭を撫でたくらいで丸く収まりそうにもない。
「じゃあどうすればいい?」
「耳かきさせて」
「何故そう耳かきに執着する?」
「やりたいと思ってるからやりたいの。それ以外の理由なんて要らないの」
……はぁ……そうかい……。
「分かった。お願いしようか」
……何時もこれだ。結局俺が一歩引く羽目になる。
それで悪い気分にならない俺って一体……。
「ホント!?させてくれるの!?」
にぱ〜っと眩しい笑顔を見せてきた。その純粋さと言ったら、まさに好きなものを与えられた子供のようだ。
「ああ、頼むよ」
「わぁい!耳かき耳かき〜♪」
なんて分かりやすい切り替えだ。さっきまでの不機嫌はなんだったのやら。
そもそも、なんでメアリーの方が嬉しそうにするかな。奉仕されるのは俺なのだが。
「さぁさぁ、どうぞどうぞ♪遠慮しないで、おいで〜♪」
ベッドに腰かけて、ポンポンと腿を叩いて誘ってきた。ここまでさせたら……もう従うしかない。
「はぁ……なんで何時もこうなるかな……」
「え?なんでって?そりゃあ、バジルが優しい旦那様だからでしょ♪」
無邪気な笑みを浮かべているメアリーの隣に腰かけた。毎度ながら、この笑顔に屈してしまう自分が情けない。
……それでも悪い気がしないとは、これも惚れた弱みなのか……。
「……もう一度言うが、今朝済ませたから大してやり甲斐も無いからな」
「いいのいいの♪バジルが甘えてくれるだけで嬉しいからね〜♪」
「いや、甘えてる訳でもないんだが……」
「も〜、ホントにツンデレなんだから♥」
……駄目だ。完全にメアリーの思うがままだ。もう抗う気力も失せてしまった。
「それじゃ、おいで」
「ああ」
大人しくベッドの上に寝そべり、頭をメアリーの太腿に乗せた。仰向けになるように寝たため、メアリーと視線が重なる。
「えへへ〜♪どうかな?気持ちいい?」
「ああ……」
「ホント?嬉しい!」
まぁ確かに……メアリーの膝枕はとても気持ちいい。それは事実だ。
魔王の娘なだけに、母親譲りの抜群のプロポーションは完璧だ。胸や尻は勿論、スラリとした足も例外ではない。健康的な肉付きの太腿は柔らかくて肌触りが良く、人肌の温もりも心地良い。こうして頭を預けているだけで癒される。
「…………」
「どうしたの?」
「い、いや……別に……」
……しかしなんだ……このアングル……この二つの山……ある意味刺激が強い……。
こんなに近くで見ると……改めてその大きさを思い知らされる……。
「……あ〜、そっかぁ♥」
「な、なんだ?」
「バジル……私のおっぱいが気になるんだね♥」
「うぐっ!」
……不覚……まさかの図星。
「えへへ♪やっぱりそうなんだ♪」
「い、いや、そういうわけじゃ……!」
「照れなくてもいいんだよ♪よく考えたら私のおっぱいが至近距離で真上にあるんだもんね。気にならない方がおかしいよね」
もう言い訳すら考え付かない。ただ視線を逸らすしかない。
「お顔が真っ赤だよ。可愛いなぁ♥」
「……からかうな……」
「にへへ〜♪可愛いからチューしちゃお♥」
チュッ♥
「…………」
……額に柔らかいものが触れた。それが何かは……言うまでもない。
「……なぁ」
「ん〜?」
「耳かきするんじゃなかったのか?」
このまま身を任せたら流れが変わるから本題に戻した。
「あ、ごめんごめん。バジルがあまりにも愛おしいから……」
「そ、そうか」
……頼むメアリー、そんなに熱い視線を向けないでくれ。歯止めが利かなくなるだろ。
「えっとね……バジル、どっちか片方の耳をこっちに向けて」
「ああ」
言われた通り、俺は寝そべったまま身体の向きを変え始めた。
「ひゃっ!は、はぁん!」
「ど、どうした?」
「あ、く、くすぐったいよぉ!は、あはぁん!」
……くすぐったいのは分かるが、何故変な声が出る?
「……変な声出すなよ……」
「だって、バジルの髪がくすぐったい……んあ!あぁっ!」
……気のせいか?妙に卑猥だと思うのは俺だけか?
「はぁ……えへへ……くすぐったくってビックリしちゃった」
片方の耳を向け終えたところで、ようやくメアリーの変な声が止まった。先が思いやられるな全く……。
「早速始めるよ〜」
メアリーは俺の視界に耳かき棒をチラつかせてきた。尻尾の部分に綿の球が付いてるオーソドックスな耳かき棒。
「それじゃ、こしょこしょしちゃうよ〜♪」
「……かき壊すなよ?」
「壊さない!」
そっと頭に手を添えられる感覚。それと同時に、耳の穴に細長いものが進入してくる感触が伝わってきた。
カリカリカリカリ……
「どう?痛くない?」
「ああ……大丈夫」
……これは予想外。痛いどころか、思ったよりとても気持ちいい。
「どうかな?上手くできてる?」
「ああ……気持ちいい……」
「ホント?よかった」
ゴソゴソわさわさと穴を弄られる音が響く。ちょっぴりくすぐったく感じるが、存外心地良いものだ。
「ん〜……」
「どうした?」
「なんかね、思ったより溜まってないな〜なんて」
「言っただろ。もう済ませたって」
ただ、耳かき自体は本当に気持ちいい。耳の中は優しく掻かれてるし、太腿の柔らかさと温もりが頬から伝わってくる。やはり自分でやるのと人にやってもらうのとでは大違いなのだろうか。
……メアリーの言ったことは、あながち間違ってなかった。と言っても、オナニーとかセックスとかは全然関係無いが。
「ま、いいか。こうして触れ合ってるだけで幸せだもんね♪」
「んん……」
「バジルはどう?幸せ?」
「ああ……」
「ああ、じゃ分からないよ。ちゃんと言って」
「……言わなくても分かるだろ……」
「やれやれ……まぁいいや。そういうツンデレなところも大好きだよ♥」
「…………」
今の俺の顔、かなり赤くなってると思う。いや、間違いなく赤い。誤魔化す言葉も考え付かない。
「ふぅ……」
「お?なんだか気持ち良さそうな顔してるね」
「ん……そうだな……」
思わず顔に出してしまったのだろうか。心地良くなってきてるのが察せられている。もう今更誤魔化す気にもなれず、率直な感想を伝えた。
「へへ……よかった。バジルが気持ちよくなってくれると、私も嬉しいよ♪」
「ああ……」
この姿勢だとメアリーの顔が見れない。だが、今の発言の明るさからして、多分嬉しそうに微笑んでるんじゃないかと思えた。
「……それにしても……面食らったな……」
「ん〜?なにが?」
「お前が耳かきするだなんて言い出した時のことだ」
「そう?とりわけ変なことは言ってないでしょ?」
そりゃ耳かき自体は変じゃない。
「そうだな。ただ、俺が部屋に戻って来た時のお前は『セックスしよう♥』って必ず言ってくる。だが今日は何時もと違っていたから若干戸惑ってな」
「あれ?私、何時もそんなこと言ってないよ」
「言ってるだろ」
「言ってない」
「言ってる」
「言ってない!」
「言って……」
ゴソッ
「おっと!」
「も〜、危ないなぁ。動いちゃダメだよ」
「す、すまん」
危うく脳が貫かれるところだった。いや、それは大げさか。
「あのねバジル、もう一度言うけど、私は毎回『セックスしよう♥』なんて言ってないよ」
「ほう……」
メアリーがこんなに否定するとは……。
「それを言ったのは一週間前だよ。毎回同じことは言ってない」
……は?
「五日前は『バジル〜♪ただいまのチューして〜♥』て言って、その次の日は『今日はおっぱいでご奉仕してあげる♥』って言って、更にその次の日は『バジルソース(意味深)が飲みたいな〜♥』って言って、更にその次の日h」
「メアリー」
「ん?」
「分かった、俺が間違ってた。悪かったからもうやめてくれ」
「……私、なんで謝られたの?」
……何故だ……何故俺の方が恥ずかしくなるんだ。
というかバジルソースなんて呼び方は本当にやめてくれ……。
「……あ、えっと、それでだな」
とりあえず話題を戻そう。
「まぁつまり、メアリーが性交以外の奉仕をするなんて予想外だったって言いたいんだ」
「なにそれ、それじゃ私がエッチな女の子みたいじゃない」
「なんだ、違うのか?」
「違わない……けど……」
何かを少し間を置かれた後、返ってきたのはこの言葉。
「私はエッチも好きだけど、一番大好きなのはバジルだよ♥」
チュッ♥
「…………」
頬から伝わった柔らかい感触。それが何だったのか……確かめるまでもない。
……不覚……胸の奥が大きく弾んでしまった……。
「でね、話は変わっちゃうんだけど……確かに何時もバジルにエッチをお願いしてるよ。でもね、ふと思ったんだ。たまにはエッチなこと以外の方法でバジルにご奉仕してあげようかなって」
「それはまた、三度の飯より性交が好きなお前が……どういう風の吹きまわしだ」
「何度も言うけど、私はバジルのことが大好きなんだよ。海賊である私をお嫁さんにしてくれて、その上私の海賊稼業まで手伝ってくれて……本当に感謝してるよ」
……そう言われると、なんだか……くすぐったいな。
耳じゃなくて、胸の奥が……。
「でね、何時もがんばってくれてるバジルのために何かしてあげたいな〜って思ったの。私にできることなんてたかが知れてる……でも耳かきならバジルのためになるんじゃないかなって」
「……それでか……」
……メアリー……俺のことを考えて……。
「それで、どうかな?少しは癒されたかな?」
……そんなの……決まってる。
「少しじゃない……身も心も癒されたよ」
「ホント!?よかったぁ♪」
……良い妻だよ……俺には勿体ないくらいだ……。
「はい、お耳の中、綺麗になったよ♪」
「ああ、ありがとう」
耳掃除を終えたところで、俺はゆっくりと身体を起こした。
「それじゃ、次は反対側の耳だね」
「いや、俺はいい」
もう十分癒された。本当に満足している。
「え?まだ終わってないよ」
「いいんだ。それよりメアリー、その耳かき棒貸してくれ」
「ええ?なんで?」
「いいから」
「?」
キョトンとしながらも俺に耳かき棒を渡してくれたメアリー。俺はそんな妻の肩を抱き寄せて……。
「ほら、おいで」
「え……はわぁ!?」
俺の膝を枕代わりにしてメアリーを寝かせた。
「え?なになに?どうしたの?」
メアリーはとても分かりやすく動揺している。こうして見るとなんだかおかしいが、笑うのは堪えた。
「今度は俺が耳かきしてやる」
「え!?い、いいよ私は!それじゃご奉仕の意味が無くなっちゃうよ!」
「待てって。ほら、寝てろ」
慌てて起き上がろうとするメアリーを半ば強引に寝かせた。
「メアリーが俺のためにしてくれたのなら、今度は俺がメアリーのためにしてやりたいんだ」
「でも……」
「今は甘えてろ。まぁ、その……メアリーを……気持ちよくしてやりたいから……」
それを聞いたメアリーは、一瞬だけ目を見開いたが、やがて嬉しそうに明るい笑顔を浮かべた。
「バジル……ありがとう!それじゃ、お願いしようかな♪」
メアリーは頭を俺の膝に頭を預けたまま右耳を俺に向けた。
「……バジル……」
「ん?」
早速始めようと思った瞬間、メアリーが熱い眼差しを向けてきた。
「やっぱりバジルは……私の素敵な旦那様だよ!」
「……ああ……」
……俺は一生……メアリーには勝てないな。
そう思い知ると同時に……。
「……お前こそ……素敵な嫁さんだよ……」
「ん?なにか言った?」
「さぁな」
妻のありがたみを噛みしめた一夜となった。
……メアリー……ありがとう……。
14/03/23 23:14更新 / シャークドン