連載小説
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作戦開始!
「……ふん!くだらねぇな……」


此処は王の間。一国を治めるトップが君臨する場でもある。その最奥の階段を上がった位置にある王座に腰掛けながら、無能な国王から奪い取った指輪を片手に持ってまじまじと見つめた。
何が形見だ。弱い癖に粋がって、みっともない。

「そんな陳腐な戯言を並べてるから、こうしてあっさりと侵略されるんだろうがよ」

高級素材で出来た椅子の背もたれに寄りかかりながら、ぼんやりと天井を見上げた。
国自体は貧弱だが、流石に王の椅子なだけに座り心地は極上の逸品だ。座面も背もたれもフカフカで心地良い。国一つ守れない爺には勿体無いものだ。俺にこそ相応しい。

……ここで一眠りするのも悪くねぇな……。


「ご機嫌いかが?新しい王様」
「あん?……あぁ、お前か、JC(ジェイシー)」


いきなり女の声が聞こえた。高い位置からやけに広い部屋を見渡しても、俺以外の人間の姿は見当たらない。だが、声を聞いただけで誰が王の間に入ってきたのかすぐに分かった。
この女は身体の透明化を得意とする。大方、透明のままこっそりと此処に入って来たのだろう。
全く……おっかねぇもんだよ、殺し屋なんて。

「隙を見せない方がいいわよ。そこで居眠りしちゃったら格好の的だもの」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで姿現せ。何時まで透明になってるつもりだ?」
「相変わらず怖い人ね……」

ため息混じりの言葉と同時に真正面の階段下から、何処からともなく一人の人間の女が現れた。深緑色の長い髪に整った顔立ち。
そして一番特徴的なのはその格好だ。首から足のつま先まで見事にフィットしたレオタード風の黒いスーツ。豊満なバストやヒップなど、ボディラインをそのまま強調している姿はまさに男を誘う痴女そのものだ。
一見すると美人の類だと思われるが、こいつこそ正真正銘の殺し屋、JCだ。

「来るんなら来るで普通に扉をノックくらいしたらどうだ」
「あら、ごめんなさい。金属の音は陛下様にとって耳障りかと思って」
「てめぇ、気遣いがそんな変な方向に向く性質じゃねぇだろ」
「お堅いわねぇ。レディのつまらない冗談でも笑って受け止めるのが紳士じゃないの?」
「全く持ってどうでもいいな」

何が紳士だ。そんなもん何の特にもなんねぇだろうに。

「……で、例の件はどうだ?」

このまま下らない話をしてたら埒が明かない。とりあえず話を以前頼んでいた仕事に振った。

「それが、何度やっても連絡出来ないのよ。相手側が応答してくれないの」
「……ふん、まぁいい」

どうやら奴らと連絡が取れないようだが……こちとら計画実行の為の下準備は整った。急かしても意味無いし、待っていればその内来るだろうよ。

「あら意外。あなたの計画に必要不可欠だって聞いたから身を案じると思ったのに……淡白な反応ね」
「用件が終わればその場で全員葬り去る予定なんだ。捨て駒に情けなど必要無い」
「まぁ、悪い人。同盟相手が哀れだわ」
「知るか、そんなの」

以前から同盟を組んだ海賊共……正直、あいつらの事なんかどうでもいい。俺が必要としてるのは力で、あいつらとの信頼関係じゃない。
不要な情ほど弱みになる。用が済めばさっさと縁切り。それだけのこと。

「……ねぇ、ちょっと訊いてもいいかしら?」

妖艶漂う笑みと、真偽を見定める視線をこっちに向けながらJCが徐に口を開いた。

「あなたは……何故今回の計画を実行しようと思ったのかしら?」
「……あ?何を今更そんなことを?」
「興味本位よ。雇い主の事情に首を突っ込むのは野暮だって、十分分かってるわ。でもあなたの言動だけはどうも引っかかってね……」
「……聞いたところでどうするつもりだ?」
「別に。私は相応の報酬さえ貰えればそれでいいし」

……つくづく食えない女だ。

「……醜いものばかりが蔓延してるこの世界を、無の世界に変える。たったそれだけだ」
「ふ〜ん……で、『無』ってどういう意味?人も魔物も消し去るってこと?」
「極端な言い方だが……まぁそういう事だ」
「そう……でも腑に落ちないのよねぇ」
「……何がだ?」

JCは俺が被ってる鉄仮面を指差しながら言った。

「あなたって普段からその仮面を被ってる所為で表情が見えないのよ。でもね、見えなくても薄々感づいちゃうのよね……」
「だから、何がだ?」


要点をもったいぶるような話し方が癪に障り、多少イラつきながら再び問い返した。


「あなたねぇ、計画が着々と進むにつれて……なんだか悲しそうな雰囲気を出してるわよ」
「……なんだと?」


……悲しそうだと?この俺が?
何を訳の分からん戯言を。俺が何時、どこで、何を悲しんだと言うんだ。
疑問が浮かんでる俺になりふり構わず、JCは挑発的な、それでいて疑いを込めた眼差しを向けてきた。


「あなたが言う野望とやらが近付くにつれて……嬉しさよりも悲しさの方が徐々に増してると思うのは、気のせいかしらね?」
「……何が言いたい?」
「何がって言われても、私は思ったことをそのまま口にしただけよ」
「…………」

以前からつくづく思っていたが、口数の減らない生意気な女だな。俺の心の内を詮索しやがって……不愉快極まりない。
だが……悲しい……か……。
どうしたものか……何故俺は……自信を持って否定出来る気がしないんだろうな……。


「あなたは人や魔物を皆殺しにするって言ったわよね?」
「……だからなんだ?」
「あなたがもし、本当に心の底からそれを望んでるのなら……私の目にあなたはそんな姿で写ってないわ」
「…………」
「……ねぇ……もしかして本当は……あなたは……」


バリッ!


「!?」
「……もうそれ以上言うな。テメェは黙って俺の命令に従えばいいんだ。これ以上無駄口を叩いたら報酬を減らすぞ」
「……おっかない人ね」
「不満なら今すぐ俺の目の前から消えても構わないぞ?」
「いいえ、不満なんて滅相も無い。失礼しました」

これ以上余計な事を言われるのは気分が悪い。
右手から軽い雷を鳴らして威嚇すると、JCは肩を竦めて謝った。
……何故俺はムキになったんだ?たかだか小娘の戯言如き、聞き流せばいいものを。
全く……今日になってやっと下準備が整ったってのに……調子が狂う……。



ドォン!ドォン!ドォン!



「?」
「あら、これは……」

突如、何か凄まじい轟音が部屋の外から響いてきた。
こいつは……洗脳してる兵士共の仕業か?いや、違うな。奴らには無駄な体力を使うなと釘を刺している。
と言うことは……そうか……!


「……どうやら、来たようね……」
「くくく……待ちくたびれたぜ!」


ようやく来たか……待ってたぜ、キッド!!


ガタン!


「だ、旦那ぁ!て、敵襲!敵襲ですぜ!キッド海賊団がいきなり城の中に突っ込んで、暴れ始めやした!」


巨大な金属製の扉を開けて、慌てた様子でエオノスが入って来た。
やはり、あいつらが乗り込んできたようだな。俺としては、早くキッドに会いたくてウズウズしてたから嬉しいものだ……!


「ああ、分かってる。で、こっちに来た敵はどれくらいいる?」
「へ、へい!それが、乗り込んできた敵はたった四人でして……!」
「……四人だと?本当か?」
「へい!しかも内二人はドラゴンにヴァンパイアと、上級クラスの魔物でして!」

だが意外な事に、この城に突入してきた敵の数はわずか四人だと言う。
てっきり大人数で一気に攻め込んでくるかと思いきや……何を考えているんだ?

「たった四人であの兵士の大軍に突っ込む……どんなお馬鹿さんでもそんな真似はしないと思うけど」
「ああ、あいつらなりの考えがあるんだろうよ」

あいつらだって、ただ無心に突撃するだけのイノシシじゃない。真意こそ知らないが、何か考えがあるからこその行動だろうよ。
まぁ……折角ここまで来たからには、心行くまで楽しませてもらうつもりだがな……!

「あの、その突撃してきた敵の事なんですが、その内の二人は見覚えのある奴でして……」
「?」

エオノス曰く、たった今城に突撃してきた敵の中に、見覚えのある奴がいるとのこと。
そして、その奴とは……。

「どういう訳か、その内の二人は……シルク王女とキャプテン・キッドでした!」
「なに!?」

シルクと……キッド!?
トルマレアの王族と、敵の主戦力のキッドが先陣切って突撃だと!?
こいつはまた番狂わせだ……海賊船で指揮を執ってるかと思ったら、いきなり戦場に出るとはな。

「上の立場に居る人間は、安全な場所で部下に指示を出すのが定石なのに……元王女様もそうだけど、随分と破天荒な海賊ね」

JCが楽しそうな笑みを浮かべながら言った。
まぁ……それくらい奇抜な行動に出てくれなきゃ面白くない。
それに……こいつは好都合だ!キッドにはこっちに来て欲しいと思っていたから、誘導する手間が省けたぜ!

「で、どうするの?このまま好きにさせちゃっていいのかしら?」

思考を見透かしてるような目つきで俺を見つめながら問い質すJC。
どうするかって?そんなの、決まってるだろ……。


「ああ、勝手にやらせてろ」
「そう……って、え?」


意外な返答を聞いたJCは目を丸くした。

「だから、勝手にやらせとけって言ったんだ」
「え?勝手にって……どういうこと?反撃に出るんじゃないの?」
「適当に相手してりゃ、それでいい。それと、エオノス」
「へ、へい」

戸惑いながらも返答するエオノスに話を振った。

「今から少しの間、城の兵士共の指揮権をお前に預ける。敵の相手をする兵士の指示はお前が出せ」
「へい!……って、えぇ!?な、なにをいきなり!?」

兵士の指揮権を託した瞬間、エオノスはひどく驚いた様子を見せた。
一々リアクションがオーバーなんだよ、全く……。

「言葉通りだ。キッド以外にも此処に突撃する敵はこれから出てくる。そいつらの対処を洗脳した兵士で適当にやってろ」
「いや、あの、指示を出すくらい余裕ですが、こういうのは旦那の役目ではないかと……」
「俺はこれから下準備をしなきゃならねぇんだよ」

未だに戸惑ってるエオノスをあしらいながら、俺は王座から立ち上がってゆっくりと階段を下りた。

「準備って……計画の下準備は終わったはずでは?」
「俺が言ってるのは、あいつらを迎え入れる為の準備だ」
「は?え?」

階段を下り終えて、エオノスとJCの間を通り抜き……。


「ダーク・ゲート!」


床に黒い魔力を放ち、転移魔法の円陣を浮かび上がらせた。
さて……キッドが此処に来る前に、やるべき仕事を片付けておくとしようか。

「だ、旦那!こんな時に何処へ行かれるんですかい!?」
「だから、準備だと言ってるだろ。すぐ終わらせて戻ってくるから、それまで適当にやってろ」
「えぇ〜……」

抗議の眼差しを向けているが、一々構ってやる必要も無い。そもそも、軍団の指示など容易い仕事だ。嘆くほど苦痛でもあるまいに。

「やれやれ……あなたは立派な嫌われ者の上司になれるわね。なんだか、この人が可哀想だわ」
「JCの姉さん……!」
「……そんなに憐れむんなら、その男泣かせの身体で慰めてやれ。お前だって欲求不満なんだろ?」
「……冗談よして。こんな冴えない男、ノーサンキューよ」
「ひどっ!!」

冗談もほどほどにして、俺はダーク・ゲートに入り、目的の場所へと赴く事にした。

「あ、ねぇちょっと!私は何をやればいいのよ!?」
「好きに動いてろ!敵の主力人物を見つけたら直ちに息の根を止めておけ!ただし、キッドにだけは手を出すなよ!」


それだけ言い渡しておいて、俺の姿は瞬く間にこの場から消えて行った……。



〜〜〜(シャローナ視点)〜〜〜



「お〜い!ここら辺は終わったよ〜!」
「よし、次はあっちだ!出来るんだったら念の為に家の中も確認しておくんだ!」


どす黒い雲が渦巻く街中にて、私たち船員はトルマレア奪還作戦の下ごしらえに取り掛かっていた。
かつては不気味で静けさ漂わせていたであろう街中も、今や仲間たちの勢い染みた怒声によって騒々しくなりつつある。

私たちが何をやってるのかと言うと……簡単に言えば国民の魔物化だ。
固まってる国民たちに呪いの装飾品を身に付けさせたり、魔物娘に生まれ変わらせる薬を飲ませたりすることによって魔物に変える作戦なのだ。単純だけど対象人数が多いだけにかなり大変な作業で、しかも手っ取り早く済ませなければならない為に、みんなしててんてこ舞いとなってる。


「でも予想外でしたね。あの島で回収した装飾品がこんな場面で役立つなんて」
「そうね。私もまさか自作の薬がこんなに活躍するなんて思わなかったわ」

一緒に作業している楓ちゃんと会話を交えながら、固まってる人間の女の口に薬を流し込んだ。
実は仲間たちが国民に付けてるアクセサリー。あれらは全て以前上陸した敵のアジトから回収したものでもあった。当時はただ、お金に変える為に集めたけど、流石にこんなところで消耗するとは思ってなかった。
まぁ私としては、それで国民たちが助かるのなら本望だけど。それに、私が作った薬がトルマレアを取り返す鍵となる……光栄だわ♪

「ん、あぁ……ひゃぁあ♪」
「は、あはぁ……ひゅん♪」
「あら、早速効いてきたみたいね」

作業を続けているうちに、固まっていた国民たちが次々と動き出してきた……喘ぎ声を上げながら。

「ふあぁ……あ、あれ?私……なにしてたの?」
「あ、あれ?なに?この格好?」
「角に……尻尾?まさか、私……」

動けるようになったと同時に、魔物となった証が身体から出てくる。
サキュバスの角と翼と尻尾を得た人。蛇の下半身を得た人。身体そのものがスライム状となった人。
姿形はそれぞれ違うけど、一人ひとりが淫らで美しい魔物娘に生まれ変わっていった。

「なにかしら……この開放感は……?」
「魔物になっちゃったのに……嫌じゃないなんて……」
「あぁ……気のせいかな?なんだか、おっぱいが大きくなったような……」
「この姿……気に入っちゃったかも♪これなら、あの人に……」

魔物として動けるようになった国民の殆どは、戸惑いながらも自然と生まれ変わった自分の姿を受け入れていた。
ちょっと意外ね……もっとパニックになるかと思ったら、そうでもなかった。尤も、受け入れてくれた方が私たちとしても助かるけど。

「ふぅ……これで一通り魔物化出来ましたね」
「そうね。そろそろ連絡しておきましょう」

ある程度進めたところで、私は白衣の内ポケットから小さめの水晶玉を取り出した。
一見すると普通の水晶玉に見えるけど……実はこれ、今回の計画においては重要なアイテムとなっている。

「さて……繋がるといいんだけど……」

水晶玉に念を送ると、少しずつ綺麗な青い光を放った。
通じたみたいね。これなら聞こえる……!


「もしもし、副船長さん、聞こえる?こちら、魔物化班のシャローナよ」
「あぁ、聞こえるよ。で、そっちはもう終わったのかい?」


水晶玉に話しかけると、副船長さんの声が玉から聞こえてきた。
この水晶玉……遠くにいる相手と会話が出来る、俗に言う通信機である。念を送れば同じ水晶玉を持ってる人の声を聞くことが出来る優れもの。今回の作戦は拡散して行動する場面が多いので、限られたメンバーに一つずつ配られたのだった。
因みにこんな便利なアイテム、何処で手に入れたのかと言うと、実は以前訪れた敵のアジトとなっていた城から回収したのだ。呪われた装飾品と一緒に収納されていたのを船長さんが発見し、その便利な機能に目を付けて有効活用することになったのだった。
そして今、その役割を果たす時が来ている。現に今、何処かに姿を隠している副船長さんと連絡が取れて非常に助かっているところだった。


「ええ、もう大体の国民たちは魔物になったわ。素直に変わった自分を受け入れてるみたいだし、ここまでは順調ね」
「そうか。それじゃあ早速次の段階に入ろう。発情させた後、打ち合わせで言っておいた場所まで誘導してくれ」
「了解!」
「あら、いけない!巻き込まれないように撤退しなくては!」


会話を終えた後、楓ちゃんは慌てて建物の屋根の下に移動し、私は水晶玉を内ポケットに閉まってから背中の羽で空中へと飛び上がった。

「さぁ……これからが本番よ」

白衣の内ポケットからピンク色の液体が入った瓶を取り出した。これぞまさしく、この国を取り戻す為のキーアイテム。
そう……シャローナ特製、強力媚薬!


「そ〜れ!みんなエッチにな〜れ♪……なんてね」


上空から自作の薬を住民たちにふり掛けていった。


「あら?なにこれ……雨?」
「な、なんだろう……急に……ムラムラしてきた……♥」
「はぁ、はぁ……お、おマンコ♥……ウズウズしてるよぉ……♥」


効果覿面ね。浴びただけでどんどん発情していってる。
私が作った薬で、国民たちがエッチな気分になる……我ながら誇らしいわ♪

「みなさ〜ん!これから男の人たちが沢山いる所へご案内します!伴侶が欲しい方は付いて来てくださ〜い!」
「伴侶?」
「伴侶って……夫!?」
「あぁ……おちんぽ……男の熱い精液……♥」

楓ちゃんが大声で住民たちに呼びかけながら、先陣切ってとある場所への誘導を始めた。魔物に生まれ変わった住民たちは、伴侶と言う言葉を耳にした途端目の色を変えて、次々と楓ちゃんの後を追って行った。
後は住民たちの動き次第ね……なんとか操られた兵士たちを虜に出来ればいいけれど。

「楓ちゃ〜ん!そっちは頼んだわよ〜!」
「はい!シャローナさんも、お気を付けて!」
「ええ、ありがとう!……さ〜て、私も頑張らなきゃ!」

ここで一旦楓ちゃんと別行動を取ることになった私は、引き続き強力な媚薬を住民たちに振りかけていった。

「一応順調ね。船長さんたちも無事なら良いんだけど……」



〜〜〜(キッド視点)〜〜〜



「おらおらおらぁ!もっと本気出して来い!」
「お、おい!私の部下なんだが……!」
「大丈夫だって。剣も銃も使ってないし、あれでも手加減してる方だから」
「そうには見えないが……」


トルマレアの城内にある渡り廊下。
俺はリシャス、オリヴィア、シルクを引き連れて、次々と襲い掛かって来る兵士を薙ぎ倒しながら奥へ進んで行った。
勿論、死なないようにキチンと手加減しているつもりだが……なんか後ろの方でシルクが抗議染みた視線を向けて来た気がする。ま、どうでもいいか。事実傷付けてないし、拳と蹴りだけで戦ってるし。

「くそっ!たかが四人くらい、なんとか出来ないのか!」
「……ふん、舐められたものだ。貴様らのような雑魚共など取るに足らぬ」
「たかが四人、されど四人ってな……甘く見るなよ!」
「……だからお前ら、加減しろと……」

俺の後に続いてるリシャスとオリヴィアも、手加減しながらも兵士を次々と返り討ちにしていった。
だが、シルクは戦う気が無いのか、城に突入してから光の剣を一回も振ってない。やはり洗脳されてるとは言え、自分の部下に刃を向けるのはどうにも気が引けるのだろう。

「で、シルク。例の大門ってのは何処だ?」
「すぐそこだ。この先をまっすぐ進めば見えてくる」

兵士たちを適当に倒しながら進み、後方にいるシルクに大門の場所を問いかけてみた。
……そう、俺たちはただ闇雲に城内を暴れまわってる訳ではない。洗脳されてる兵士たちを相手にしながら、着々と大門へと向かっている最中でもある。
これも、敵に操られた兵士たちを元に戻す作戦の一環だったりするのだ。その作戦の為には、魔物に変わった住民たちが必要になる訳で……。

「ほら、見えた!あれが大門だ!」
「お、あれだな!」

そうこうしているうちに、外へと繋がっているであろう大きな木製の門が見えてきた。どうやら、あれがお目当ての大門らしい。易々と開かれないように、内側からロープで固定されてる仕組みのようだ。

「ようし……オリヴィア!リシャス!あのロープを切るんだ!」
「OK!」
「……ふん」

意気揚々と返答するオリヴィア。仕方ないとでも言いたげな面持ちを浮かべるリシャス。反応こそそれぞれ違ったが、二人とも同時に背中の翼で羽ばたき、宙を飛びながら大門を固定してるロープに向かって行った。

「ええい!何が何でも取り押さえろ!」
「ああ!」
「撃ち落してやる!」

すると、三人の兵士が縄で縛ってる石をオリヴィアとリシャスに投げようとした。
おっと、そうは問屋が卸さないってな!

「おうらよ!」
「ぐわぁっ!」

石を投げようとした兵士の後頭部にラリアットをお見舞いしてやった。

「えぁっ!?ちょ、まっ」
「待った無し!」
「がぁっ!」

咄嗟に体勢を立て直し、もう一人の兵士の顔面を鷲掴みにして、石造りの地面に思いっきり叩きつけてやった。

「貴様……図に乗るなぁ!」

そして三人目の相手に差し掛かろうとした時、その相手がいきなり縄付き石を至近距離で俺に投げつけて来た。
だが……。

「うぉっとっと」
「な!?かわされ……」
「食らうかってんだ!」
「ごほぉっ!?」

身体を捻るようにして石を避け、流れに身を任せるように足を振り上げて、兵士の横っ面に回し蹴りを繰り出した。

「そうらよっとぉ!」
「ごえぇっ!な、なにを……!」

よろめいた兵士の隙を突き、俺は兵士を背負い投げで倒し、そのまま逃げられないように腕を抑えた。
本音を言えば誰でもよかったんだが、ある意味ちょうど良かった。こいつからベリアルが居る場所を聞き出すとしよう。

「それじゃ、いくぞ!」
「ああ!」

威勢の良い声が聞こえてその方向へと視線を移すと、ちょうどオリヴィアとリシャスが大門のロープを切ろうとしてるところだった。
オリヴィアは爪、リシャスはレイピアをそれぞれ振り上げて……。


「うぉぉぉぉぉ!!」
「はぁぁぁぁぁ!!」



バシュッ!!



大門のロープを真っ二つに切り落とした!


「よっしゃあ!」
「ふふっ」


歓喜の声と同時に、オリヴィアとリシャスは大門を開き出した。古びた音が響くに連れて、門の隙間から少しずつ外の景色が広がっていく。
そして、人一人が入れる程に門が開かれると……!



「きゃああああああ♪」



甘美に満ちた女の叫びと同時に、魔物娘の大群が押し寄せてきた!


「お、もうこんなに変わってたのか。流石だな……」

目の前に現れた魔物娘たちを見て、別行動を取ってるシャローナたちに感心した。
この魔物娘たちの正体は分かってる。みんな元は人間だった、トルマレアの住民たちだ。シャローナたちの手筈によって次々と魔物化する計画だったが、こりゃ想像以上の出来だな。
まさか、実験好きがここで功を成すとは……世の中、分からないものだよホント。

「そうか……みんな、生まれ変わったのだな……」
「ん?どうした?やっぱり落ち着かないか?」
「……いや、覚悟ならもう既に固めてある。今更どうこう言うつもりは無い」

傍に居たシルクは、物思いに耽るような表情で魔物化した住民たちを眺めていた。その心境は分からない事は無い。国を取り戻す為とは言え、シルクにとって国民の魔物化は苦渋の選択だった筈だ。

「な、なんだ!?何故魔物が!?」
「はぁ、はぁ、はぁ……ち、ちんぽぉ……早くちんぽちょうだぁい!」
「え、あ、待て……いやあああああ!」

……おっと、早速始まったようだな。

「なんだ、おい!やめろ!来るな……あばぁっ!」
「あらぁ〜。これは苛め甲斐のありそうな男ねぇ♥」
「な、なにをする!?やめ……!」
「あはは!私好みの大きさね!気に入っちゃった!」
「ちゅっ、んん……あ、あぁ……」
「ちゅう……ちゅ♥……あら、キスだけで真っ赤になっちゃって、可愛いんだから♥」
「うわぁ……や、柔らかい……」
「もう、夢中になっちゃって……本当におっぱい好きなのね♥」
「はぁ、はぁ……も、もっと踏んでくださいぃ!」
「きゃっははは!あなたってば、正真正銘のドMねぇ!いいわ、今日から私専用の奴隷にしてあ・げ・る♥」


城内に響き渡るのは、まさに桃色の阿鼻叫喚。城の中を見渡せば、どこもかしこも盛りに盛った男女の交わり。当分この喘ぎ声のコーラスは、よほどの事でも無い限り妨げられたりはしないだろう。


「……これほどとは……」
「これで兵士も国民も救われるんだったら、寧ろ儲けものじゃないか?」
「……否定出来ないな……」

苦笑いを浮かべたシルク。もう目の前の痴態すら受け入れるようになってしまったのだろうか。

「ふん、呆気ないな」
「キャプテン、first mission complete!」
「船長さん!ご無事でしたか!」
「おう、みんな!それに楓、そっちも無事だったか!」


大門の縄を切り終えたリシャスとオリヴィア、そして楓が俺の傍にやって来た。
よかった……どうやら魔物化作業に回ってるメンバーは問題無いみたいだな。

「とりあえず、これで最初の目的は達成だな」
「そうですね。まだ魔物化してない住民も、洗脳を解かれてない兵士も残ってますけど……最後まで私も頑張ります!」
「頼もしいな。よろしく頼むぞ!」

さて……一先ず第一段階クリアってとこかな。
国民の魔物化と、兵士の洗脳の解除はヘルムたちに任せるとして……俺らは早速、ベリアル撃破と洒落込もうかね。


「ちょっと、そこのあなた!」
「……え?」


突然、怒りの篭った荒い声が聞こえてその方向に視線を移すと、ラミアが蛇の下半身を這いずらせながら俺たちに近寄って来た。恐らく、このラミアも元はトルマレアの国民だった人間なのだろう。

「その人は私の恋人なのよ!乱暴な真似はやめて!」
「え?恋人って……」

ラミアは俺の足下を指差しながら抗議してきた。
……あ、そう言えば……。

「こいつの事?」
「そうよ!私が人間だった頃から付き合ってる幼馴染よ!」
「き、貴様、何を言って……」

さっき襲い掛かってきた兵士を取り押さえたままだった。
と言うかこいつら、ずっと前から恋仲だったのか。尤も、洗脳されてる今、兵士の方はそんな記憶も色褪せてるようだけど。

「あぁ、そうだったのか。乱暴な真似して悪かったな」
「ううん、分かればいいの。それじゃ、その手を離して……」
「あ、待ってくれ。そうしてやりたいけど、その前にこいつから聞きたい事があるんだ。すぐ終わるから、ちょっと待っててくれないか?」
「え?……まぁ、いいけど……」

お望み通り離してやりたいけど、ここで知りたい事を聞いておかなきゃならない。
そう……俺が知りたいのは他でもない……ベリアルの居場所だ!

「さて……おいアンタ、ベリアルは何処にいるんだ?」
「くっ……ふ、ふん!貴様がどう足掻こうと、ベリアル様に敵う道理など……」
「答えろ!ベリアルは何処にいるかって聞いてんだよ!」

言葉に凄みを効かせながら、再度ベリアルの居場所を訊いた。

「……ベリアル様なら……王の間だろうな」
「王の間?」
「トルマレアの国王……父上の部屋だ。そこには父上が腰掛ける王座がある」

兵士の代わりにシルクが答えた。
なるほど、王の間か……確かに国を侵略したベリアルが、国王の部屋に居る可能性は十分ある。まずはその王の間とやらに行ってみようか。

「もう一つ訊きたい事がある」

すると、今度はシルクが兵士を見下ろしながら話しかけた。

「父上と姉上たちは無事なのか!?」
「父上と……姉上?」
「ワトスン、アイナ、ユフィの事だ!」

首を傾げる兵士を見兼ねたシルクの声が多少荒げた。
そうだ……しまった。シルクの家族の事をすっかり忘れてた。そもそも、シルクの親父たちは無事なのだろうか。ベリアルに手を出されてるとなると、ただで済んでるとは思い難いが……。

「……そいつらなら、地下の牢獄に閉じ込められている」
「本当か!?だとしたら、無事なのだな!?」
「さ、さぁな……ベリアル様はあいつらを殺す気なんて無いようだから、まだ生きてるとは思うが……」
「そうか……!」

まだ生きている。そう聞いた途端にシルクの瞳が希望の光に満ち溢れた。自分の国がベリアルの手に陥った今、家族が生きているだけでも嬉しい朗報だ。

「ねぇ、もういい?私、早くその人と愛し合いたいんだけど……」
「ひぃっ!」

と、ラミアが物欲しそうな目で兵士を見つめながら言ったが、当の本人は青ざめた顔を見せながら小さな悲鳴を上げた。
そうだな……もう聞きたい事はもう聞いたし、離してやるか。

「待たせて悪いな。それじゃ……存分に楽しみな!」
「おわぁ!」

取り押さえてる兵士の腕を捻りながら、上手い具合にラミアの元へ投げ飛ばしてやった。

「あは!やっと貴方と繋がれる♪」
「や、やめろ!離せ……ぐぁ……ま、巻かれる……!」
「離さないわよ♥この新しい身体でたっぷり気持ちよくしてあげるんだから♥」

待ってましたと言わんばかりに、蛇の下半身で兵士の身体に素早く絡み付くラミア。もはや夫を捕らえた魔物から逃れる術など、兵士には持ち合わせてなかった。

「うっし……それじゃ」

パンパンと両手のひらをはたきながら、シルクたちに向き直った。

「これからの行動を確認する。まず、楓は引き続き、国民の魔物化と兵士の洗脳の解除をサポートしてくれ」
「はい!」
「でもってシルクは……これから地下牢に行くんだろ?」
「ああ!父上たちを助けに行く!」
「ならば私も共に行こう」
「分かった、頼むぞリシャス。それじゃ……俺は王の間に行く!ベリアルを取っちめてやるんだ!オリヴィア、援護は任せたぞ!」
「OK!」

楓は任務の再開。シルクとリシャスは国王たちの救出。そして俺とオリヴィアはベリアルの撃破。
今再び、それぞれの役目が決まった。

「キッド、王の間に行くのなら途中まで私が案内しよう。ベリアルの事は任せたぞ!」
「ああ、助かる」

シルクも案内役を買ってくれたし、ここからが正念場だ……!


「よっしゃあ!行くぞぉ!!」
「おう!」


俺の号令を合図に、それぞれ一斉に動き出した!


「……バルド……お前も助けてやるからな……」
「…………」


シルクの呟きが聞こえたが、何も言わずに足を進めた。



〜〜〜(サフィア視点)〜〜〜



「……始まったようですね……」
「そうだね。ここからでも音が聞こえてくるよ」


船のダイニングにて、私はピュラと一緒に席に腰かけ、キッドの帰りを待っている最中だった。


「……お姉ちゃん、お兄ちゃんのことが心配?」
「……そうですね。キッドは強いですから、必ず帰ってくると信じてますけど……」

どうやらもう戦闘が始まったようで、ここからでも轟音がハッキリと聞こえてくる。夫が戦いに行くのはもはや日常茶飯事だけど、あの破壊音を耳にする度に重なる不安はどうにも消せないでいた。

「大丈夫ですよ。キッド船長は悪い奴になんか負けません!今までずっと勇敢に戦ってきて、その度に勝って帰ってきたのですから、今回もまた笑顔で戻って来ますよ!」
「コリックさん……ありがとうございます」
「いえいえ。あ、たった今紅茶を淹れましたけど、いかがですか?」
「あら、ではいただきます」

そこへ、私たちと一緒にみんなの帰りを待ってるコリックさんが、温かい紅茶を私たちに振る舞ってくれた。カップを手に取って火傷に気を付けながら紅茶を啜る。爽やかな香りが口いっぱいに広がり、少しだけ気持ちが落ち着いてきた。

「ふぅ……」

紅茶は美味しいけど……ちょっとした罪悪感が募ってきた。
今頃キッドは汗水流して沢山の敵と戦ってるのに、私ときたらのんびりとくつろいで……。
そう思うと、自然とため息がこぼれてしまった。

「……やっぱり、何も出来ないのが歯痒いですか?」
「え?あの、どうしてそんな……」
「すいません。顔に書いてあるものですから……」
「うん、お姉ちゃん分かりやすいよ」
「そ、そうですか……」

ピュラとコリックさんに指摘されてしまった。私ってそんなに分かりやすいのだろうか。

「まぁでも……そうですね。こうして戦闘が始まると、時々もどかしく思うのです。愛する夫が頑張っているのに、私はこうして待つことしか出来ないのが悔しくて……」

キッドが強いことなんて、十分分かっているし、誰よりもキッドを信じている。でも、やっぱりキッドの身に万が一の事があったと思うと……居ても立っても居られない。でも、私に出来ることは、ここで帰りを待つだけ。
……なんだか……とても歯痒い……。

「あぁ……その気持ち、分かります」

コリックさんは苦笑いを浮かべながら話した。

「僕も戦闘に出向いてるリシャスさんの帰りを待つだけで、他に何も出来ないのがとても情けなく思う時があるのです。僕なんか男なのに、いつも嫁さんに戦わせるのがあまりにもみっともなくて……」
「男なのに戦えないのがみっともないなんて、偏見ですよ。リシャスさんだって、コリックさんに危険な目に遭ってほしくないと思ってますし……」
「あはは……まぁ、僕自身が貧弱だから、それも仕方ないと思うのですが」
「いえ、そんな……」

リシャスさんはコリックさんの嫁でもあるヴァンパイア。戦闘時には何時も主砲として目覚ましい活躍を見せてくれる頼もしい人だ。
コリックさんも待機組だけど……やっぱりコリックさんも私と同じ心境なのだろう。すぐ近くで愛する人が危険を冒して戦ってるのに、自分では何も出来ないで悔しくて……。


「……私にも……何か出来る事があれば……」


カップの中で揺らめく紅茶の水面を見つめながら思わずそう呟いた。











「そうしょげるなよ」






「え?」


突然くぐもった声が聞こえて、反射的にその方向へと振り向いた。
その先には……。



「……えぇ!?」
「な、なにあれ!?いつの間に!?」


床に光り輝く魔法陣のようなものが描かれていた。
何事かと思っていると、その魔法陣の中から人らしきものが……。


「……ほう……意外と綺麗な部屋だな」


その人物は魔法陣から一歩前に出て、私たちにその姿を晒した。
身体を包んでいる黒い鎧に黒いマント。目元から頭までを覆う鉄の仮面。その隙間から出てる赤黒い長髪。そして……ゴツゴツした異形の右腕。
このおぞましい姿……まさに悪魔。初めてお目にかかった人物に対して恐怖を抱くなんて、生まれて初めての経験だった。


「あ、あの……あなたは一体……!?」


怯えながらも問いただす私に対して、その人物は仮面の下でニヤリと笑いながら答えた。



「……俺は、テメェらの敵の総大将、ベリアルだ」
「ベリアル……って、えぇ!?あ、あなたが!?」



その人こそまさに、今回の敵の親玉であり、キッドと深い因縁を持つ人物!まさか、そんな人とここで会う事になるなんて……。
でも、おかしい。敵の総大将がどうしてこんな所に?それに何の目的でここに?


「な、な、な、なんで、こここんな所にいるんだ!?お、お前は、な、なな、何をしに、に来たんだ!?」


どこから取り出したのか、いつの間にかフライパンを武器代わりに構えながらベリアルを睨み付けるコリックさん。見るからに足がガクガクと震えており、内心怖がってるのが目に見えている。


「そう怯えんなよ。大した用事じゃない。事が済めばすぐにお暇してやるさ」


作り物かと思われるような、冷たい言葉を放ちながら、ベリアルは悠々と私を見据えてきた。


「……な、なんですか……?」
「事前に調べたぜ。テメェで間違いないな、キッドの女房とやらは……」


……本能的に背筋から寒気を感じた。
この人……まさか……!


「ちょいと……一緒に来てもらおうかねぇ……!」


この時、瞬時に悟った。
この人は危険だ!早く逃げるべきだと……!


「や、やめろ!お前の好きにはさせないぞ!」
「コリックさん、駄目!逃げて!」


意を決した表情で、コリックさんがフライパンを構えながらベリアルに向かって走り出した。
しかし……!


「ガキは引っ込んでろ!」
「うわぁ!」


ベリアルはいとも容易くコリックさんを蹴り飛ばした。壁に叩きつけられたコリックさんは、打ち所が悪かったのか苦しそうにその場で悶えた。

「……ふん」

嘲るように鼻で笑いながら、落ち着いた動作で私に向き直るベリアル。
逃げなきゃ……早く逃げなきゃ!

「ピュラ!早く逃げましょう!早く!」
「え!?わわわわわ!」

ピュラの手を強引に引き、慌ててダイニングの窓へと駆け寄った。
陸はともかく、海へ出れば私たちの方が圧倒的に有利になる。何としてでも海へ出て……!

「……ったく、無駄な真似をしやがってよぉ……」

威圧的な声が聞こえて反射的に振り向くと、ベリアルが指先に光り輝く魔力を収束しているのが見えた。
何故かよく分からないけど……もう間に合わない。そう思えてならなかった。

「ピュラ、ごめんなさい!」
「わぁっ!?」

せめてピュラだけでも!
咄嗟にそう判断し、急いで窓を開けて強引にピュラを海へと突き飛ばした。
その瞬間……!



バリィッ!!



「!!」


背中から、電気のような痺れが突き刺さった……。



「お姉ちゃぁぁぁぁぁん!!」



「……ピュラ……逃げ……て……」



意識が朦朧とする最中、ピュラの悲痛な叫びが頭の中に響き渡った……。


……どうしよう……身体が……動かない……
瞼も閉じていく……意識も……遠のいて……いく……



「くくく……上等な餌が手に入った……!」



目に映るものが……真っ暗に……
……いや……助けて……たす……け……て…………



「キッド……」
13/12/04 22:53更新 / シャークドン
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■作者メッセージ
今回はいよいよ作戦開始!国民の魔物化から兵士鎮圧までの流れでした。
とは言え、まだ戦いは始まったばかり。終盤でサフィアが豪い目に遭ってしまいましたが、これから他に色々と波乱の展開が来ます。
そう……例えばバルド。なんか途中から空気になりかけてた彼ですが、次回でやっと再登場します!

と言う訳で次回は、シルク VS バルド
シルクは操られたバルドを助ける事が出来るのか!?
そして、急ながらも、とうとうシルクが……!?

では、読んでくださってありがとうございました!

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