戦闘開始!光の剣と、鋼鉄帝王
「さて……もうすぐ俺らの目的地に到着するが、そこで達成すべき目標は大きく分けて二つある」
夜の七時三十分……俺は船の仲間たちをダイニングに集わせて、これからの戦の作戦会議を開いていた。
シルクの一件で色々とあったが、目的地が同じと言う事で、別々の目的を抱えながらも同行することになった。
そしてその目的地とやらも既に見えている。此処から向かえば五分程度で着くだろう。
「アジトにある宝と、シルクの仲間……確か、バルドだったな?」
「ああ、宝を頂き、バルドを救出することが私たちの目的だ」
「それだが……前にも言ったかもしれないが、バルドの救出を手伝う代わりに、宝は全部俺たちのものって事で問題無いな?」
「ああ、構わない。バルドさえ救出できれば、宝はいらない」
だが、いざ戦うとなると、こっちは幾つか作戦を立てておく必要がある。
なんせ戦場は敵のアジト。海賊たちが拠点にしている城を戦のリングにした場合、当然ながら有利なのは敵の海賊たちだ。
俺たちが敵のアジトについて熟知していない分、なんとか有利になるように戦わなければならない。尤も、敵を全員ぶっ飛ばす必要は無いが……。
「それでさ……ちょっと僕の考えを聞いてくれるかな?」
「おうヘルム、なんだ?」
そこで会議に参加しているヘルムが自ら進んで発言した。
こんな時こそ、こいつの的確な意見やアドバイスは本当にありがたい。
「まず最初に、この中で戦闘力に自信のある人は手を挙げて」
「戦闘力?」
「ああ、例えば、そうだね……自分一人で敵を十人以上倒す自信がある人とか」
「それなら俺も楽勝だ」
「私も支障なく」
「Yes!私も!」
「私も、それくらいなら」
ヘルムの質問に答えるように、俺を始めとする数人の強者たちが次々と手を挙げる。
俺に、シルクに、オリヴィアに、楓……ん?
「おいリシャス、なんで手を挙げない?」
「ん?」
最初から会議に参加しているリシャスは手を挙げなかった。リシャスだって、教団兵を十人以上倒すくらい余裕なのに。
……まぁ、それよりも……。
「……いやそれ以前に、なんでそんなコリックにべた付く?」
「ん?夫婦ならば当然だろう?」
「いや、そうじゃなくてな……」
「ほ、ほら言ったでしょ、もう……キッド船長、本当にすみません……」
「あ、あはは……大変だな」
さっきからリシャスがコリックを後ろから抱きしめている所為で、妙に場違い感を醸し出している。
コリックの方はキチンと場を弁えているお陰で申し訳なさそうにしているが、リシャスの方は周りの目など全く気にしてない。
やれやれ……このモンスターワイフには困ったもんだ。
「あぁ、もうこの際そのままでいいや。で、アンタ、なんで手を挙げなかったんだよ?その気になれば敵十人くらい余裕だろ?」
「確かにそうだ。だがな……」
リシャスは威圧的な鋭い視線をヘルムに向けて言った。
「なんでこんなモブ同然のヘボ男に命令されなければならないのだ!!」
「ガーーーン!」
……出たよ。リシャスのポイズンスペル(毒舌)
「いやさぁ、こんな時にまで言う?そこまで言う?僕、一応副船長なのにさ……なんでまた……もうイヤ……」
「あわわわわ!ごめんなさーい!」
またもやお決まりのパターン。
黒くてドヨ〜ンとしたオーラを出して、膝を抱えて落ち込むヘルム。
そんなヘルムに対して必死に謝るコリック。
そして、自分の言った事など気にせずに、悪びれた様子もないリシャス。
……この光景、もう何度目だ?
「……なぁ、あのヘルムとか言う男、相当傷つきやすいんだな……」
「ああ、昔からこういう奴なんだよ」
「なんだか色々と面倒くさそうな男だ」
「そう言うなよ、余計に凹むだろ」
シルクがこっそりと言ってきたが、まさにその通りだ。
昔から凹みやすい性格で、俺も何度振り回された事やら……。
「……で、その戦闘力がどうかしたのか?」
「……え?あ、そうそう、それなんだけど……」
だが、流石に言われ慣れてきたのか、最近になって立ち直りも早くなってきた。やっぱり慣れって大事だよな。
「今手を挙げた人たちの中から、ちょっとした役を担って欲しいと思ってね」
「役?」
一体何の話だ?
そう思った瞬間、ヘルムの口から出たのは……。
「まぁ、結論から言うと……突撃役さ。その人たちには、一足先にアジトで戦ってもらいたい」
〜〜〜(数分後)〜〜〜
「あれか……」
「外にいる見張りは少ないようですね」
「中には沢山いるんだろうな……腕が鳴る!」
「どうせ大した相手はそれ程居ないだろう」
と言うわけで、作戦会議を終えて数分後……俺と楓、リシャスとシルクは竜化したオリヴィアの背中に乗せてもらい、敵のアジトに向かっていた。
作戦内容を纏めると……こういうことになる。
まず、俺と楓とオリヴィアがアジトに突撃して思うままに暴れまわる。そうすると、アジトに居る敵が次々と湧いて来て、俺たちを仕留めようとする。
そこで、敵が俺たちに気を取られている隙に、リシャスとシルクがアジトの裏口から潜入して、財宝を頂き、バルドを救出する。
後からヘルムたちがブラック・モンスターに乗ってアジトに来れば、敵は大人数の襲撃によって大混乱。
そこで一気に叩き込む……これが今回の作戦だ。
「船の仲間たちは後から増援部隊として来るが、それまでに出来るだけ敵を多く倒しておく必要がある。先鋒として戦う俺たちの働きによって、今後の戦いが大きく変わるだろうな」
「そうですね。うぅ……なんだか今になって緊張してきました」
「よっぽど強い奴でも出てこない限り、やられたりしないだろ。ま、私としては、寧ろ骨のある輩と戦う方が燃えるけどな」
「確かに、あれだけデカいアジトなら一人か二人くらいは強いのがいるだろうな。言っとくがオリヴィア、手応えのある敵は早い者勝ちだからな。先に取られても恨むなよ」
「OK!私もキャプテンに負けないくらい気張ってやるよ!」
「……やっぱりお二人とも頼もしいですね」
俺とオリヴィアは、一足先に船を出てから早く戦いたくてウズウズしていた。
ここ最近、良い戦闘をしてなくて参ってたところだ。アジトとなれば敵もそれなりの数は居るだろう。以前は戦う余裕なんてなかったが、今回は思う存分暴れるとしよう。
「何と言うか……これほどまでに好戦的な奴らは初めてだ。だが、ここまでやる気を出してくれた方が助かる」
「まぁな。それじゃ、お前ら二人は手筈通り、裏口から回るようにしてくれ」
「言われるまでもない」
リシャスとシルク……この二人は同行する予定だが、まぁ取り分け問題ないだろう。
シルクの強さがどれほどかは知らないが、少なくともリシャスが一緒に居るのなら心配ない。俺たちは、俺たちが出来る事に専念するべきだ。
「…………」
「……あれ?シルク?」
……なんか、シルクの様子がおかしい。さっきから身体を両腕で抱きしめてブルブルと震わせているし、心なしか顔も青ざめているような気がする。
そう言えばこいつ、オリヴィアの背中に乗せて貰ってからずっとこんな調子だったような……。
「……Hey、大丈夫か?もしかして、酔った?」
「い、いや、よ、酔ってない……」
「でもなんだか気分が優れないように見えますよ。本当に大丈夫ですか?」
「あ、ああ、だだだだだだ大丈夫だ……」
「『だ』が多いぞ、明らかに……」
オリヴィアと楓が心配して声を掛けるが、シルクは明らかに異常な様子を見せている。
……まさか……まさかとは思うが……。
「なぁ、もしかしてアンタ……高所恐怖症?」
「ギクッ!……い、いや、そんなことはないぞ!」
「いや、今自分の口からギクッ!って分かりやすく言ったよな?」
「い、言ってない!言ってないぞ!」
……この尋常じゃない慌てっぷり。やっぱり高い所が苦手らしい。
「……ちなみに今、高度500mはある」
「ひぃぃぃぃぃぃ!!」
「……嘘だ。本当は高度なんて知らん」
「き、貴様ぁ!」
「やっぱり怖いんだな、高い所」
「ちっがーう!!」
素直に認めないシルク。
しかし、なんとも分かりやすい反応だ。よりによって高い場所が駄目とか……よくそんなんでトレジャーハンターなんてやってこれたもんだ。
……つーか、本当にトレジャーハンターか?
「さて……ここで一旦別れた方がいいな」
「そうだな。よし、シルク。しっかり掴まっていろ」
「え?掴まるって、どこに……って、わぁ!?」
リシャスが後ろからシルクを抱えると、背中に生えた魔力の翼を羽ばたかせて上空へ飛んだ。
「私たちは別の方向から回る!雑魚共の掃除は任せたぞ!」
「おう!そっちもしっかりやれよ!」
そしてリシャスは、シルクを抱きかかえたまま三時の方向へと飛んで行った。
「うわわわわ!ちょ、た、高い!高い高い高いー!!」
「こ、こら!暴れるな!落としてしまうだろ!」
「ひぃぃぃ!や、やめてぇ!落とさないで!いやいやいやぁ!高いの怖いぃ!」
「だから、落とされたくなかったら暴れるな!ちょ、おいこら!ジタバタするな!」
「ふぇぇぇぇぇん!いやだよぉ!高いよ怖いよ〜!足着かないよ〜!助けてバルドー!びぇぇぇぇぇぇぇぇん!」
………………。
「……なぁ二人とも……俺さ、あいつを連れてきたのが間違いだったんじゃないかと思うんだ……」
「私もそう思えてきた……」
「で、でも!シルクさんが一緒に来なければ、誰がバルドさんなのか分からないですし……」
「いやでも、あいつも船に乗って後から来てもそんなに問題無かったと、今更ながら思うんだが……」
「……ま、まぁ!元はと言えば、あいつの方から一緒に行きたいと言い出したんだし!過ぎ去った事を言っても仕方ないだろ!」
「そ、そうですね!」
……子供みたいに泣きじゃくるシルクを見て、心の中で不安を募らせずにいられなかった……。
「ほ、ほら!そろそろ敵の城に突撃するぞ!」
「お、おう!」
「は、はい!」
って、そうだ。俺たちはちゃんと敵と戦わないとな。
そうこうしているうちにアジトの門に近づいてきてる。その両脇には、見張り番と思われる男が二人居る。ボロボロの衣服を着ていて、暇そうな表情を浮かべていたが……。
「……な、なんだ?なにかこっちに来るぞ?」
「あれは……ドラゴン!?」
俺たちの姿を見るなり激しく動揺した。
一旦立ち止まってご挨拶でもしとくか?いや、俺たちは海賊。そんなご丁寧に振舞う義理は無い。
見たところ門は木製……鋼鉄製じゃない分、突撃は楽そうだ。それに、あれだけ大きければ……!
「オリヴィア、このまま突っ込めるか?」
「No problem!あれくらいなら余裕さ!」
「よし、それじゃ……俺が言いたい事は分かるな?」
「OK!任せな!」
オリヴィアも俺の意図を汲み取ったようだ。
特に迷いを見せる事無く、徐々に勢いを増して門へと羽ばたく。
「ま、待て!止まれ!止まれって!おい!」
見張り番の制止など……聞く耳持たない!
「いっけぇぇぇぇ!!」
「ギャオオオオオ!!」
ドゴォォォォォォン!!
「うぉぎゃあああああ!!」
門を突き破る轟音がアジト内に響き渡る。
オリヴィアの巨体に突き飛ばされた見張り番の悲鳴が微かに聞こえたが、扉が壊される音と比べたら大した音量でもなかった。
「いよっしゃあ!突入成功!」
「相変わらず派手な事が好きなんですね」
「まぁな。楽しいし!」
「……そうですね!私ももう一回やりたいです!」
「おいおい、お二人さん。楽しんでもらえたのは何よりだが、早く降りてくれないか?」
「おっと、悪い悪い」
半端ない爽快感に俺と楓は歓喜を上げたが、オリヴィアに促されて慌てて背中から飛び降りた。
「な、なんだぁ!?門が……!」
「お、おい!あれ見ろ!誰か居るぞ!」
「誰なんだあいつら!?俺たちの仲間じゃないぞ!」
……登場の仕方が派手過ぎたか?
アジト内に居た大勢の敵の海賊たちから一斉に注目を浴びた。誰もが驚いた表情で俺たちを見ている。
そりゃあ、自分たちの拠点の門を突き破られたら誰だって戸惑うか。
「さてと……此処からParty timeの始まりだな!」
「ん?おお、オリヴィア。戻ったのか」
「流石にあんな巨体のままじゃ格好の的だからな」
俺の傍らに居たオリヴィアは、いつの間にか人型の姿に戻っていた。
まぁ確かに、元の姿に戻ったほうが戦いやすいか。それに、あの巨体で俺たちに巻き添えを食らわせたら堪ったもんじゃない。
「くっ……テメェら、一体誰だ!いきなり豪快な登場しやがって!」
ようやっと相手もその気になったらしい。さっきまで戸惑っていた敵の海賊たちが、一斉に武器を構えて俺たちを睨んできた。
「そうだな……通りすがりのインキュバスと、稲荷と、ドラゴン……ってところかな」
「ふ、ふざけんじゃねぇ!お前ら、俺たちに何の用だ!?」
「簡単に言うと……お前ら全員ぶっ飛ばしに来た。ただそれだけだ」
「はぁ!?何言ってんだ、こいつ!」
正直に作戦の内容を教えるもんじゃない。適当に誤魔化しつつ、俺は腰に携えている長剣とショットガンを引き抜き、戦闘態勢を整えた。
「おいこら!どういうことだ!?俺たちがお前らに何をしたってんだよ!?」
「別に大した恨みも無いさ。言っとくが、たった三人だからって、楽に勝てるとは思うなよ」
「へへ、バトル前に挑発しちゃって……頼もしいねぇ!」
「さぁ、気合入れて頑張りましょう!」
オリヴィアはギラギラとした目付きで海賊たちを見回し、楓は両手に魔力を収束させる。二人とも何時でも戦える準備が整ったようだ。
「舐めやがって……いいぜ!そんなに死にたいんなら、今ここで殺してやるよ!」
「野郎共!やっちまえ!」
そして敵の海賊たちが、一斉に襲いかかってきた!
さぁて……いっちょやりますか!
「よっしゃあ!行くぜぇ!」
「はい!」
「OK!Let's showtime!」
〜〜〜(リシャス視点)〜〜〜
「なんとか潜入できたな。問題は財宝と、お前の仲間だが……」
「必ずどこかに居る筈だ!敵がキッドたちに気を取られている今が好機!早く見つけないと!」
シルクと共に敵のアジトに忍び込んだ後、私たちはアジトの廊下を突き進んでいた。
今のところ作戦が功を成しているのか、敵の海賊たちとは未だに出くわしていない。先程、何かを盛大に壊す音が響いたが……恐らくキッドたちの仕業だろう。敵もそっちの方に気を取られていて、今頃総出で戦っている頃だ。その間に目的のものを見つけなければならない。
……尤も、アジトに潜入する前に、シルクが高所の恐怖で暫くの間、膝を抱えてメソメソ泣いてた所為で無駄な時間を過ごしてしまったが。
『ふぐっ、ひっく……恐かったよぉ……ふぇ〜ん!』
『ああもう!何時まで泣いてるつもりだ!仲間を助けに来たんだろ!?』
……不意にもあの時の光景を思い出してしまった。
普段は冷静な性格だと思ったら、意外と子供っぽいところもあるのだな……なんて考えてる場合ではなかったな。
「しかし……たった三人だけで戦わせて大丈夫なのか?」
「それこそ余計な心配だ。キッド、楓、オリヴィア……三人とも戦闘において無限の力を発揮できる。並みの人間なんて足元にも及ばない。それより、私たちは任せられた役目を果たす事に専念するべきだ!」
「……ああ、そうだな」
会話を交えながら、奥へ進む廊下を走り続けていると……。
「……ん?」
「……なぁ、あの二つの扉……怪しいと思わないか?」
「ああ、私も同じ事を考えていた」
前方に大きい鋼鉄製の扉が二つ見えた。
二つとも怪しい臭いを漂わせている。このアジトに侵入している最中でも幾つか扉なんて見てきたが、これほどまでに頑丈な造りではなかった。
ここだけ頑丈にしているとなると……何か重要なものがあると考えられる。
「さて……開けて入るのは確定として、どちらから入る?」
「う〜ん……右?左?二つに一つ……」
「慎重に選んだ方がいいな。万が一だが……私たちのような、無許可に潜入した敵を嵌める罠の可能性もある」
「うぐっ……リシャス、恐るべき推察力だな」
二つの扉の前で一旦立ち止まり、どちらの扉を開けるかで悩んでしまった。
今言った通り、罠の可能性もある。敵が馬鹿でなければ、侵入者を捕らえる為の工作も施していても不思議ではない。
ただ、どちらかには私たちが求めているものがあるような気がするが……。
ギギギ……
「……?」
ガコン!
「くそっ!なんでこんな事に……え!?」
「あ……」
……なんか、凄く簡単に正解の扉が分かってしまった。
何故なら……左の扉から、敵と思われる男たちが五人ほど一斉に出てきたのだから。
「……まさか、こんな形で見つかるとは……」
「だがこれは寧ろ儲けものじゃないか?お陰で片方の扉は安全だって事が分かったんだ」
「確かに」
「な、なんだこの女は!?」
扉の奥から敵が現れた……と言うことは、少なくとも左の扉の奥には何かあると言う事が分かった。
さて、問題はこいつらだが……。
「やれやれ、無駄な戦闘は避けれると踏んでいたが……そうもいかないか」
仕方なくこいつらを黙らせようと、腰に携えているレイピアに手を掛けたら……。
「待ってくれ、リシャス。ここは私に活躍の場を与えてくれないか?」
「戦えるのか?」
「ああ!」
「……分かった。好きにしろ」
「ああ、すまない」
シルクが自ら戦いに名乗り出た。
そう言えば、シルクがどれほど強いのか未だに分かってなかった。ここはお手並み拝見といこう。
「さて……悪いが、眠っていてもらおうか」
「こ、こいつ、やる気か!?」
「はん!女ごときがカッコつけやがって、舐められたもんだ!」
シルクが徐に前へ出ると、敵の海賊たちは全員剣を構えて迎撃の準備に入った。
一見すると、敵は五人に比べてこっちは女一人……どうみても不利な状況だ。まぁ、危なくなったら私が加勢すればいいだろう。
「お前らに構っている余裕なんて無い。一気に決めるぞ!」
そう叫びながら、シルクは腰に携えている剣の柄を引き抜いた。
すると……!
「なっ!?け、剣が……光っている!?」
そう……引き抜かれた瞬間、シルクの剣が急に光り輝いたのだ。
いや待て、厳密に言うとあれは……刃そのものが光なのか?
「これぞ私の武器……ライトニング・セイバー。強力な光を収束させ、刃として敵を斬り裂く至極の剣!刃が金属でない分、比較的軽くて扱いやすい上に、へし折られる心配も無い。それが、この光の剣の長所だ!」
光で斬り裂く剣か……なかなか興味深い武器だ。
うちの船の……武器マニアなドラゴンが目を輝かすだろうな。
「さぁ来い!」
シルクの挑発を皮切りに、敵の海賊の一人が剣を構えて駆けてきた。
「死ねこらぁ!」
「……遅い」
相手が剣を縦に振ってきたが、シルクは慌てる事無くしなやかな動作で攻撃をかわした。
「はぁっ!」
「ぐわぁっ!」
その刹那、光の剣を敵に振り上げて斬撃を与えた。更に、敵が怯んだ隙に上段回し蹴りを繰り出して、敵を壁に向かって蹴り飛ばした。
中々早い動きだな。確かに、自ら五人の男の相手を引き受けただけはある。
「このアマ!ふざけんじゃねぇ!」
そう思っていると、別の敵がシルクに襲い掛かってきた。剣を振り下ろそうと腕に力を入れてきたようだが……。
「ふざけてるのは……お前だろ!」
「ごばぁっ!」
振り下ろされる前に、シルクが敵の顎を蹴り上げた。骨が砕かれる生々しい音が響き渡る。
更に敵が怯んだ瞬間、シルクはまたしても回し蹴りを繰り出し、再び敵を壁に向かって蹴り飛ばした。
「な、なんだこの女!かなり強いぞ!」
「慌てるな!三人同時に襲えば楽勝だろ!」
「そうだ!たかが女一人に梃子摺ってるようじゃ、あのお方に顔向けできねぇ!」
残りの敵たちはシルクの強さに戸惑いながらも、落ち着いて仕留める為に改めて武器を構えなおした。
……最後の方の男、何か引っかかる事を言ったな。
あのお方だと?一体誰の事だ?こいつらを従えてる黒幕か?それとも……。
「下っ端が何人いようと変わらない」
シルクは落ち着き払った態度で残りの敵に言い放った。
……まぁとにかく、色々と考えるのは後にしよう。
「誰が下っ端だゴラァ!」
「女だからって容赦してもらえるとか思うなよ!」
「覚悟しろってんだ!」
怒号を上げながらシルクに襲い掛かる三人の敵。
流石に三対一は分が悪いか?そろそろ私も加勢に……。
「……天から授けられた光は、悪の闇に屈しない」
すると、シルクは光の剣を天に向かって高々と掲げる姿勢を取った。その間にも敵は武器を構えて駆け寄ってくる。
「体現するならば、人々を真の道へ導く十字架の如し……!」
しかし、シルクは全く動じていない。寧ろ、その瞳には勝利を確信したような、力強い光が……!
「心せよ!」
勇ましい叫びが響き渡り、光の剣が十文字を描いた。
その刹那、シルクの目の前に、十字を模った光が……!
「ホーリー・クロス!」
剣を突き出すと同時に、十字の光が敵に向かって直進された!
「ちょ、ま、なんだこrうぎゃあああああ!!」
敵はすぐに逃げようとしたが……時既に遅し。
十字の光が直撃し、三人の敵は断末魔のような叫びを上げながら無残に力尽きた……。
……驚いたな。まさかこれ程の実力とは……。
「……見事」
「ふふ、これくらい容易いさ」
思わず賞賛の言葉を送ると、シルクは得意げに笑いながら光の剣を鞘に収めた。
しかしまぁ、本当に……。
「さっきまでピーピー泣いていたとは思えない」
「な、泣いていたは余計だ!」
さっきと同一人物とは思えないな。空中で足をバタバタさせて、ボロボロと泣きじゃくっていたというのに……。
「いや、実際に泣いていただろう?ほら、此処に来る途中で、私に抱えられて高い場所を飛んでいた時……」
「だぁぁぁぁ!止めろ!それは言うなぁ!」
「事実だろうが。今更否定する余儀も無いだろうて」
「違う……あの光景を思い出してしまって……」
「?」
……しまった。言うべきじゃなかったか?
「びぇぇぇぇん!高いよ怖いよー高いのやだよー!怖いのやだよー!助けてバルドー!うぇぇぇぇん!いやいやいやぁぁぁぁ!」
「…………」
さっきまでの勇ましさはどこへ行ったのやら。その場に座り込んで子供のように泣きじゃくってしまった。
……さっきもこいつの怖がり様を見たのだが……やっぱりこう思う。
こいつは連れてくるべきじゃなかったのかもしてない。
「うっうっ……バルド……」
「?」
「会いたい……バルド……寂しいよぉ……会いたいよぉ……」
「…………」
……いや、無理にでも連れて行くべきだな。
これほどまでに強い想いを目の当たりにしたら……放っておく訳にもいかない。
「ほら、怖いものを思い出させてしまったのは謝るから、早く立て。仲間を助けたいのだろう?」
「ひぐっ……あ、ああ、そうだな……」
シルクは静かに泣き止み、両目に浮かぶ涙を拭ってから徐に立ち上がった。
やれやれ、こんな泣き虫な女と同行とは……バルドとやらも、大変なのだろうな。
「さぁ、行くぞ。こいつらが出てきた左の扉に入ろう」
「分かった!」
そして私たちは、先程敵が出てきた左の扉へと進んで行った。
「……お、おのれ……!」
このとき、背後で倒れてる敵が何かを呟いていたが、負け犬の戯言に一々付き合う必要も無いと判断し、構わずに奥へと進んで行った。
「……早く……早く来てください……!」
……まだ何か言ってるな……そんなに言いたい事が……。
「……ベリアル様……!」
「!?……今、なんと?」
「どうした、シルク?」
「……いや、なんでもない。奥へ進むぞ」
「あ、ああ……」
シルクが一瞬だけ目を丸くして背後を振り返ったのが気になるが……。
シルクに促されるままに、私たちは奥へ進んだ……。
〜〜〜(ガロ視点)〜〜〜
「うぉらぁっ!」
「ごはっ!」
「ったく、これだから教団ってのは面倒くさいんだ」
ドクター・アルグノフの件からおよそ五日が経った。
あれから海上戦なんて一度も起こらなかったが……いや、厳密に言うと今起きたところだ。
尤も、およそ三分程度で終わってしまったがな。
「くっ……ドレーク!!貴様、斯様な悪事を働き続けて、己を恥じた事は無いのか!?」
「恥じるだぁ?はっ!馬鹿馬鹿しい!自分が信じるやり方を恥じていたら、何も出来なくなるだろうがよ。そもそも、テメェが言う悪事ってのは本当に悪事と言えるのか?」
「……クズには何を言っても無意味と言う訳か!」
「勝手に言ってろ」
某とお館様が居るのは教団の軍艦。先陣を切って某とお館様が乗り込み、敵の教団兵を半分以上海へ突き落とした為、もうこの船に敵は殆ど存在しない。数名か船に残っている兵士も居るが、もはや大敗を喫した所為で戦意を失っていた。
「このままで済むと思うな!貴様が犯した罪は、主神様が確と見ておられるのだぞ!」
「だからなんだってんだ?やりてぇようにやるのが海賊だ。テメェらや主神ごときに意見を言われる筋合いは無い」
「!……貴様!主神様を侮辱するのか!?許さん!許さんぞ!」
そして某の目の前で、久しい海上船が幕を下ろし始めていた。
機関銃の左腕で肩を叩きながら、教団兵を指揮する隊長を見下ろすお館様。そしてボロボロになりながらも剣を構えてお館様に立ち向かおうとしている隊長。その生き様は賞賛に値するが、現実は実に非情。力の差は歴然である。
「なかなか良い根性だ。だが悪いな。すぐに片付けさせてもらう」
「ああ、そうだな……貴様の首を斬り飛ばせば、それで終わりだ!」
隊長の目が、獲物を狙う獣に変わった。
「覚悟しろ、ドレーク!」
その刹那……隊長が剣を構えたまま、お館様に突撃した。対するお館様は臆する事無く、仁王立ちの姿勢で隊長を待ち構える。
「貰ったぁ!」
そしてお館様の心臓を狙い、剣を突き出した。
お館様は鎧など着てない。このままでは心臓が貫かれ、お館様は命を落とす……!
キィン!
……と思われるであろう。何も知らない輩からして見れば。
「……やったか!?」
「……なにが?」
「なっ!?」
戸惑っているのは隊長の方だった。剣の切っ先は確かにお館様の左胸に当たっている。だが、貫かれてはいない。それどころか、お館様の身体から血が流れていない。
まるで……何か硬い物にでも防がれたかのように。
「馬鹿な……ならばもう一度!」
キィン!
「なに!?」
「何度やっても同じだ。効かねぇし、大して痛くもない」
隊長がお館様に剣を振り下ろしたが、お館様の身体には傷一つ付いていない。お館様自身も、斬られたにも関わらず平然としておられる。
「くそっ!くそっ!」
「おい、自棄になって振っても意味ねぇぞ?」
「どうなってる!?刃が効かない人間なんて、この世に居る訳が無い!」
「居るじゃねぇか……此処に!」
「うぐっ!」
何度斬りかかろうとも無意味。半ば自棄状態となっている隊長の首を、お館様が右手で軽々と掴み上げた。
「なぁ、俺が世間から何て呼ばれてるか知ってるか?」
「ぐっ……こ、鋼鉄帝王だろ?それがどうした……!?」
「そう……今言った通りだ」
片手で掴み上げられている隊長は、恨めしげな視線をお館様に向けながら答えた。
そう、お館様は鋼鉄帝王。刃が効かない理由は……文字によって語られている。
「ま、待て!そこまでだ!」
「まだ我等が残っているぞ!」
「隊長を放せ!」
「お、お前たち!無事だったか!」
「……なんだぁ?まだ生き残りがいたか」
すると、船の物陰から教団兵と思われる男が三人現れた。兵士は全員片付けたつもりでいたが……まだ生き残っていたか。
「申し訳ございません、お館様。直ちに某が処分いたします……」
「待て、ガロ。残りは全部俺がぶっ飛ばすから、お前は下がってろ」
「……承知」
生き残りの兵士を海へ落とそうとしたが、お館様の命により引き下がる事にした。
お館様の手を煩わせるのも不本意ではあるが……命令ならば仕方ない。ここは大人しく見物しよう。
「さてと……こちとら、ちょいとした用事があるんで、手っ取り早く終わらせるとしよう」
そう言いながら、お館様は左腕の肘を曲げて……。
「メタルフォーム……ノーマルハンド!」
左腕の機関銃を……人間の手に変形させた。
あれこそ……お館様特有の能力!
「まずはお前からだ……あばよ!」
「ぐぉあぁ!!」
お館様の鋼鉄の拳が覇気を纏って振り上げられる。力強く殴られた瞬間、隊長の手から剣が滑り落とされる。そして隊長は抗う術も無く、宙で大きく弧を描きながら海へと落下した。
ザッパーン!
「た、隊長!」
海面に叩きつけられる音が、教団兵の叫びを掻き消した……。
「そんな……隊長……!」
「おのれ!よくも隊長を!」
「……いいぜ、三人同時に掛かってきな」
自分の上に立つ者を始末され、怒りを露にする兵士たち。そしてお館様の一言が、短い戦闘の合図となった。
「これでも食らえ!」
教団兵の一人が、お館様に向かってライフルを発砲する。
しかし……!
キン!
「……弾丸も……効かねぇな!」
「なっ!?」
放たれた弾丸はお館様の身体に当たった瞬間、無力にも弾かれてお館様の足元に転げ落ちた。勿論、お館様の身体からは血など一滴も流れていない。
「それなら……これでどうだ!」
ドォン!
教団兵の一人が船に設置されている大砲を放った。
ガァン!
「やった!当たったぞ!」
「……何度も言ってるだろ」
「え……?」
バキッ!
「大砲も効かねぇ」
「!……嘘だろ!?なんでだよ!?」
しかし、結果は同じ。放たれた大砲の弾はお館様の身体に当たったが、押し退けるどころか、逆に押し退けられたかのように威力を消され、無力に落下して船の甲板を突き破った。
「どうなってるんだ……剣もライフルも、大砲も効かないなんて……一体どんな手を使ってるんだよ!?」
「どんな手も何も……これが俺の身体だ」
戸惑いを隠せない教団兵たちに、お館様は淡々と説明を始めた。
「ちょいとした訳があって……俺はとある魔術を手に入れてなぁ。その魔術によってこの身体に変化を重ねた結果、鋼鉄以上の硬度を誇る身体を手に入れたのさ」
そう言いながら、お館様は足元に落ちている隊長の剣を拾った。
「肝心なのはその魔術だ。よく見てろ……当然だが、剣の刃は金属で出来ている……」
そしてお館様は、そっと剣の刃渡りに触れて……。
「そらそらそら……っと」
「うぇっ!?な、なんだあれ!?」
「剣が……曲げられてる!?」
「言っておくが、俺はあんまり力を入れてないぞ?」
そう……お館様は剣の刃を粘土のようにグニャグニャと変形させた。
引き伸ばし、湾曲させ、螺旋状に回す……。
玩具のように弄ばれた剣の刃は、見るも無残な姿へと変貌した。
「こりゃあんまり良い金属じゃないな」
使い物にならなくなった剣を一瞥し、お館様はポイッと剣の残骸を投げ捨てた。
「どうだ?俺の能力は……って、これだけじゃいまいち分からないか」
お館様は、激しく動揺している兵士たちへと視線を移して説明を続けた。
「これが俺の能力……メタルマジック。金、銀、銅、鋼、鉄……ありとあらゆる金属を自由自在に操る魔術だ。それだけじゃねぇ。どんな金属も今すぐ体内から生み出し、身体から放出させる……これがメタルマジックの強みだ」
「金属を……操る?」
「ああ、よく見てろ」
それだけ話すと、お館様は左腕の鋼鉄の拳を上げた。
「メタルフォーム……ソード!」
すると、お館様の拳が鋭き剣へと変形した。
「なんだ!?手が……剣になった!?」
「金属を操れるって言ったろ?この左腕もそうだ。メタルフォーム……アックス!」
更に、その左腕の剣が戦斧に……。
「メタルフォーム……ハンマー!」
戦斧がハンマーに……。
「メタルフォーム……ライフル!」
ハンマーがライフルに……。
「メタルフォーム……マシンガン!」
ライフルが機関銃に……様々な武器へと自由自在に変形する。
あの左腕こそ……お館様の特徴。多種多様の武器で敵を追い詰める。勇猛な事この上ない……。
「この左腕そのものが変形武器。戦闘時、敵に対して有効な武器と戦い方で勝利を得る……兵法の基本だ」
「……貴様に攻撃が効かないのと、どう関係がある?」
「お前らの攻撃が効かないのも、この魔術のお陰だ」
そしてお館様は、自らの身体を叩きながら話し続けた。
「俺はな、金属の中でもトップクラスの硬度を誇る合金……オリハルコンを体内で生み出し、身体中に仕込ませる事に成功したのさ!それだけじゃねぇ。ありとあらゆる金属を合成し、体内に支障が出ないように仕込ませた結果……俺は、オリハルコン以上の硬度を誇る身体を手に入れた!」
オリハルコン……言わずと知れた高硬度を誇る金属。お館様の身体はまさに、屈強たる鎧そのもの。どのような経緯で、そのような身体を手に入れたのかは某にも知らないが……やはり敵に回したくない御仁だ。
「お陰で打撃、刃、銃弾など……ありとあらゆる物理的攻撃が効かなくなった。攻撃によってこの皮膚を貫くのは難しい話。もはやこの身体そのものが、敵の攻撃を防ぐ鎧のようなもんだ!」
力強い声を発し、お館様は左腕の鋼鉄の拳を兵士たちに突き出した。
「お前らが俺に勝てない理屈は分かったか?戦う気が失せたんなら、見逃してやるから海へ飛び込め。それでもやるってんなら相手してやるが……どうする?決定権はお前らにあるぞ?」
たった今発せられた言葉を訳すと……。
『お前に与えられた選択肢は二つのみ。逃亡か、死か、どちらか今すぐ選べ』
……こういう意味になる。
さて、敵はどう出るか……。
「くっ!我等は……我等は屈さぬぞ!」
「こうなったら、効いてくるまで撃ちまくってやる!」
覚悟を決めたかのように、教団兵たちが一斉に攻撃をしかけた。
一人がライフル、もう一人が小型拳銃、そしてもう一人が大砲をそれぞれ撃つ。
「……ちゃんと説明聞かなかったのか?効かねぇもんは効かねぇんだよ」
案の定、どんなに弾丸を受けてもお館様は怯まない。一歩一歩威圧するかのように、何度も攻撃を受けながらも徐々に教団兵の下へ歩み寄る。
「……まっ、度胸だけは認めてやる。だがなぁ……メタルフォーム、ジェットハンド!」
そしてお館様は、左腕のマシンガンを人間の手に変形させた。
「度胸だけじゃどうにもなんねぇよ!」
そう言い放った時には、既にお館様は敵の懐に潜り込んでいた……。
「え!?ちょ、まっ」
「メタリック・ジェットアッパー!」
ドゴォン!
「ごほぁああああああああ!!」
お館様の俊敏な動きに対応できず、敵兵の一人は下から顎を殴り飛ばされて宙へ浮かんだ。
……比較的大きな身体でいるのにも関わらず、なんとも素早い動作だ。どれほど厳しい鍛錬を積み重ねてきたのやら……。
「左腕のジェットによって、速さと威力が十倍以上にも増した拳……気に入ったか?」
お館様がそう言い終ると同時に、顎を殴り上げられた兵士は水飛沫を上げて海中へと沈んで行った……。
「さて、どうする?」
兵士を一人飛ばしたお館様は、残りの兵士たちに視線を移した。
しかし、敵は同胞の惨状を目の当たりにして、もう既に戦意を失っている。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
「逃げろ!今すぐ逃げろ!こ、こんな怪物に勝てる訳ないだろ!」
残りの敵の兵士は全員迷わず、武器を投げ捨てて我先にと逃亡を図った。
どう足掻いても勝てないと判断し、命を守る道を選択する……ある意味、利口な判断かもしれぬ。
ここでくたばるより、海の魔物に拾われて、魔物と共に暮らした方がよっぽど真っ当な選択だ。海中には獲物を待ち構えているスキュラが屯っているであろうし、あの兵士たちも今頃襲われているであろうな。
「……ったく、ちったぁ根性見せろよな。つまんねぇだろ……まだ他にも試したい技があったのによぉ」
「お館様、そろそろ撤退した方が宜しいかと」
「おお、そうだな。よし……ガロ、戻るぞ」
「御意」
そろそろ船に戻るべき、そう判断したお館様と某は、ちょうどすぐ隣で待機している我が海賊船に戻ることにした。二人揃って軍艦から海賊船の甲板へ飛び移ると、同じ船の仲間が我等を出迎えた。
「ヨーホー!さっすが船長!あまりの強さに痺れちまうぜ!」
「お頭の部下でよかったと……つくづく思うぜ」
「おいこら、つまんねぇ世辞言ってる暇があったら、とっとと船を進めろ!」
「イェッサー!」
船長の活躍に心を躍らせる船員たちに向かって、お館様は出航の命令を下した。そしてすぐさま海賊船が進みだし、停止している教団の軍艦と徐々に離れていく。
多くの人たちの褒め言葉にも乗せられない……これもお館様の長所。尤も、お館様から見れば、教団の兵士を倒した事など大した話でもないのであろう。
「さて……思わぬ邪魔が入ったが、これで進める訳だ。フフフ……」
お館様は左腕を通常の手に戻し、ポキポキト手を鳴らしながら不敵な笑みを浮かべた。
そう……我等は一つの無人島に向かっている最中でもあった。
船の仲間に居る情報通の話によると、お館様がよく知るあの男が、とある無人島に上陸しているらしい。お館様の推測が正しければ、今頃はアジトで暴れているであろう。お館様は、その男に会う為に急いでその島へ向かっている……そう言う訳だ。
お館様の心境……某にも十分理解できる。何故なら、我等が向かう場所にはあの男が……。
「お館様、何やら楽しそうでございますな」
「そりゃそうだ。あいつの面を見れるんだ。今でもウズウズして仕方ねぇ」
「……心中お察しします」
……何だかんだ言って、お館様とあの男との因縁は深い。お館様も、久々にあの男に会えると思うと興奮されるのであろう。
「カリバルナで会って以来、全く顔を合わせてなかったからな……楽しみだ」
そう呟きながら、お館様は踵を返し、少しずつ遠ざかる教団の軍艦を見据えた。
そしてお館様は、徐に右手を軽く上げた……。
「首を長くして待ってろよ……!」
すると、お館様の右手に灰白色の光が……!
「ベリリウム光線!!」
お館様が右手を前方に突き出すと同時に、灰白色の光線が軍艦に向かって放射された!
ドカァァァァァァン!!
木片や鉄骨などの部品が豪快に飛び散る。大爆発を起こした軍艦は爆炎と黒煙を湧き上がらせながら、己の儚さを物語るかのように海中へと沈んで行った。
……相も変わらず、豪快なお方だ。これでは周囲から恐れられるのも無理はない。
「……お館様、ふと思ったのですが……」
「ん?」
「最初からその光線を使えば手っ取り早く終わったのでは?」
「阿呆んだら!たった一発で仕留めて何が面白い?敵は何度も攻撃を与えて倒すに限るぜ!」
「……失礼いたしました。愚問でした」
お館様は満足げな笑みを浮かべながら、船員たちに向き直り、大声で呼びかけた。
「野郎ども!全速前進だ!このまま突き進め!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
我等の船は突き進む……一直線に、勇ましく!
「おお、そうだ。ガロ、急で悪いんだが、お前に頼みがあってな」
「ははっ、何なりとお申し付けください」
「あいつらの様子を見てきて欲しい」
「あいつらとは?」
「ああ、実はな…………」
夜の七時三十分……俺は船の仲間たちをダイニングに集わせて、これからの戦の作戦会議を開いていた。
シルクの一件で色々とあったが、目的地が同じと言う事で、別々の目的を抱えながらも同行することになった。
そしてその目的地とやらも既に見えている。此処から向かえば五分程度で着くだろう。
「アジトにある宝と、シルクの仲間……確か、バルドだったな?」
「ああ、宝を頂き、バルドを救出することが私たちの目的だ」
「それだが……前にも言ったかもしれないが、バルドの救出を手伝う代わりに、宝は全部俺たちのものって事で問題無いな?」
「ああ、構わない。バルドさえ救出できれば、宝はいらない」
だが、いざ戦うとなると、こっちは幾つか作戦を立てておく必要がある。
なんせ戦場は敵のアジト。海賊たちが拠点にしている城を戦のリングにした場合、当然ながら有利なのは敵の海賊たちだ。
俺たちが敵のアジトについて熟知していない分、なんとか有利になるように戦わなければならない。尤も、敵を全員ぶっ飛ばす必要は無いが……。
「それでさ……ちょっと僕の考えを聞いてくれるかな?」
「おうヘルム、なんだ?」
そこで会議に参加しているヘルムが自ら進んで発言した。
こんな時こそ、こいつの的確な意見やアドバイスは本当にありがたい。
「まず最初に、この中で戦闘力に自信のある人は手を挙げて」
「戦闘力?」
「ああ、例えば、そうだね……自分一人で敵を十人以上倒す自信がある人とか」
「それなら俺も楽勝だ」
「私も支障なく」
「Yes!私も!」
「私も、それくらいなら」
ヘルムの質問に答えるように、俺を始めとする数人の強者たちが次々と手を挙げる。
俺に、シルクに、オリヴィアに、楓……ん?
「おいリシャス、なんで手を挙げない?」
「ん?」
最初から会議に参加しているリシャスは手を挙げなかった。リシャスだって、教団兵を十人以上倒すくらい余裕なのに。
……まぁ、それよりも……。
「……いやそれ以前に、なんでそんなコリックにべた付く?」
「ん?夫婦ならば当然だろう?」
「いや、そうじゃなくてな……」
「ほ、ほら言ったでしょ、もう……キッド船長、本当にすみません……」
「あ、あはは……大変だな」
さっきからリシャスがコリックを後ろから抱きしめている所為で、妙に場違い感を醸し出している。
コリックの方はキチンと場を弁えているお陰で申し訳なさそうにしているが、リシャスの方は周りの目など全く気にしてない。
やれやれ……このモンスターワイフには困ったもんだ。
「あぁ、もうこの際そのままでいいや。で、アンタ、なんで手を挙げなかったんだよ?その気になれば敵十人くらい余裕だろ?」
「確かにそうだ。だがな……」
リシャスは威圧的な鋭い視線をヘルムに向けて言った。
「なんでこんなモブ同然のヘボ男に命令されなければならないのだ!!」
「ガーーーン!」
……出たよ。リシャスのポイズンスペル(毒舌)
「いやさぁ、こんな時にまで言う?そこまで言う?僕、一応副船長なのにさ……なんでまた……もうイヤ……」
「あわわわわ!ごめんなさーい!」
またもやお決まりのパターン。
黒くてドヨ〜ンとしたオーラを出して、膝を抱えて落ち込むヘルム。
そんなヘルムに対して必死に謝るコリック。
そして、自分の言った事など気にせずに、悪びれた様子もないリシャス。
……この光景、もう何度目だ?
「……なぁ、あのヘルムとか言う男、相当傷つきやすいんだな……」
「ああ、昔からこういう奴なんだよ」
「なんだか色々と面倒くさそうな男だ」
「そう言うなよ、余計に凹むだろ」
シルクがこっそりと言ってきたが、まさにその通りだ。
昔から凹みやすい性格で、俺も何度振り回された事やら……。
「……で、その戦闘力がどうかしたのか?」
「……え?あ、そうそう、それなんだけど……」
だが、流石に言われ慣れてきたのか、最近になって立ち直りも早くなってきた。やっぱり慣れって大事だよな。
「今手を挙げた人たちの中から、ちょっとした役を担って欲しいと思ってね」
「役?」
一体何の話だ?
そう思った瞬間、ヘルムの口から出たのは……。
「まぁ、結論から言うと……突撃役さ。その人たちには、一足先にアジトで戦ってもらいたい」
〜〜〜(数分後)〜〜〜
「あれか……」
「外にいる見張りは少ないようですね」
「中には沢山いるんだろうな……腕が鳴る!」
「どうせ大した相手はそれ程居ないだろう」
と言うわけで、作戦会議を終えて数分後……俺と楓、リシャスとシルクは竜化したオリヴィアの背中に乗せてもらい、敵のアジトに向かっていた。
作戦内容を纏めると……こういうことになる。
まず、俺と楓とオリヴィアがアジトに突撃して思うままに暴れまわる。そうすると、アジトに居る敵が次々と湧いて来て、俺たちを仕留めようとする。
そこで、敵が俺たちに気を取られている隙に、リシャスとシルクがアジトの裏口から潜入して、財宝を頂き、バルドを救出する。
後からヘルムたちがブラック・モンスターに乗ってアジトに来れば、敵は大人数の襲撃によって大混乱。
そこで一気に叩き込む……これが今回の作戦だ。
「船の仲間たちは後から増援部隊として来るが、それまでに出来るだけ敵を多く倒しておく必要がある。先鋒として戦う俺たちの働きによって、今後の戦いが大きく変わるだろうな」
「そうですね。うぅ……なんだか今になって緊張してきました」
「よっぽど強い奴でも出てこない限り、やられたりしないだろ。ま、私としては、寧ろ骨のある輩と戦う方が燃えるけどな」
「確かに、あれだけデカいアジトなら一人か二人くらいは強いのがいるだろうな。言っとくがオリヴィア、手応えのある敵は早い者勝ちだからな。先に取られても恨むなよ」
「OK!私もキャプテンに負けないくらい気張ってやるよ!」
「……やっぱりお二人とも頼もしいですね」
俺とオリヴィアは、一足先に船を出てから早く戦いたくてウズウズしていた。
ここ最近、良い戦闘をしてなくて参ってたところだ。アジトとなれば敵もそれなりの数は居るだろう。以前は戦う余裕なんてなかったが、今回は思う存分暴れるとしよう。
「何と言うか……これほどまでに好戦的な奴らは初めてだ。だが、ここまでやる気を出してくれた方が助かる」
「まぁな。それじゃ、お前ら二人は手筈通り、裏口から回るようにしてくれ」
「言われるまでもない」
リシャスとシルク……この二人は同行する予定だが、まぁ取り分け問題ないだろう。
シルクの強さがどれほどかは知らないが、少なくともリシャスが一緒に居るのなら心配ない。俺たちは、俺たちが出来る事に専念するべきだ。
「…………」
「……あれ?シルク?」
……なんか、シルクの様子がおかしい。さっきから身体を両腕で抱きしめてブルブルと震わせているし、心なしか顔も青ざめているような気がする。
そう言えばこいつ、オリヴィアの背中に乗せて貰ってからずっとこんな調子だったような……。
「……Hey、大丈夫か?もしかして、酔った?」
「い、いや、よ、酔ってない……」
「でもなんだか気分が優れないように見えますよ。本当に大丈夫ですか?」
「あ、ああ、だだだだだだ大丈夫だ……」
「『だ』が多いぞ、明らかに……」
オリヴィアと楓が心配して声を掛けるが、シルクは明らかに異常な様子を見せている。
……まさか……まさかとは思うが……。
「なぁ、もしかしてアンタ……高所恐怖症?」
「ギクッ!……い、いや、そんなことはないぞ!」
「いや、今自分の口からギクッ!って分かりやすく言ったよな?」
「い、言ってない!言ってないぞ!」
……この尋常じゃない慌てっぷり。やっぱり高い所が苦手らしい。
「……ちなみに今、高度500mはある」
「ひぃぃぃぃぃぃ!!」
「……嘘だ。本当は高度なんて知らん」
「き、貴様ぁ!」
「やっぱり怖いんだな、高い所」
「ちっがーう!!」
素直に認めないシルク。
しかし、なんとも分かりやすい反応だ。よりによって高い場所が駄目とか……よくそんなんでトレジャーハンターなんてやってこれたもんだ。
……つーか、本当にトレジャーハンターか?
「さて……ここで一旦別れた方がいいな」
「そうだな。よし、シルク。しっかり掴まっていろ」
「え?掴まるって、どこに……って、わぁ!?」
リシャスが後ろからシルクを抱えると、背中に生えた魔力の翼を羽ばたかせて上空へ飛んだ。
「私たちは別の方向から回る!雑魚共の掃除は任せたぞ!」
「おう!そっちもしっかりやれよ!」
そしてリシャスは、シルクを抱きかかえたまま三時の方向へと飛んで行った。
「うわわわわ!ちょ、た、高い!高い高い高いー!!」
「こ、こら!暴れるな!落としてしまうだろ!」
「ひぃぃぃ!や、やめてぇ!落とさないで!いやいやいやぁ!高いの怖いぃ!」
「だから、落とされたくなかったら暴れるな!ちょ、おいこら!ジタバタするな!」
「ふぇぇぇぇぇん!いやだよぉ!高いよ怖いよ〜!足着かないよ〜!助けてバルドー!びぇぇぇぇぇぇぇぇん!」
………………。
「……なぁ二人とも……俺さ、あいつを連れてきたのが間違いだったんじゃないかと思うんだ……」
「私もそう思えてきた……」
「で、でも!シルクさんが一緒に来なければ、誰がバルドさんなのか分からないですし……」
「いやでも、あいつも船に乗って後から来てもそんなに問題無かったと、今更ながら思うんだが……」
「……ま、まぁ!元はと言えば、あいつの方から一緒に行きたいと言い出したんだし!過ぎ去った事を言っても仕方ないだろ!」
「そ、そうですね!」
……子供みたいに泣きじゃくるシルクを見て、心の中で不安を募らせずにいられなかった……。
「ほ、ほら!そろそろ敵の城に突撃するぞ!」
「お、おう!」
「は、はい!」
って、そうだ。俺たちはちゃんと敵と戦わないとな。
そうこうしているうちにアジトの門に近づいてきてる。その両脇には、見張り番と思われる男が二人居る。ボロボロの衣服を着ていて、暇そうな表情を浮かべていたが……。
「……な、なんだ?なにかこっちに来るぞ?」
「あれは……ドラゴン!?」
俺たちの姿を見るなり激しく動揺した。
一旦立ち止まってご挨拶でもしとくか?いや、俺たちは海賊。そんなご丁寧に振舞う義理は無い。
見たところ門は木製……鋼鉄製じゃない分、突撃は楽そうだ。それに、あれだけ大きければ……!
「オリヴィア、このまま突っ込めるか?」
「No problem!あれくらいなら余裕さ!」
「よし、それじゃ……俺が言いたい事は分かるな?」
「OK!任せな!」
オリヴィアも俺の意図を汲み取ったようだ。
特に迷いを見せる事無く、徐々に勢いを増して門へと羽ばたく。
「ま、待て!止まれ!止まれって!おい!」
見張り番の制止など……聞く耳持たない!
「いっけぇぇぇぇ!!」
「ギャオオオオオ!!」
ドゴォォォォォォン!!
「うぉぎゃあああああ!!」
門を突き破る轟音がアジト内に響き渡る。
オリヴィアの巨体に突き飛ばされた見張り番の悲鳴が微かに聞こえたが、扉が壊される音と比べたら大した音量でもなかった。
「いよっしゃあ!突入成功!」
「相変わらず派手な事が好きなんですね」
「まぁな。楽しいし!」
「……そうですね!私ももう一回やりたいです!」
「おいおい、お二人さん。楽しんでもらえたのは何よりだが、早く降りてくれないか?」
「おっと、悪い悪い」
半端ない爽快感に俺と楓は歓喜を上げたが、オリヴィアに促されて慌てて背中から飛び降りた。
「な、なんだぁ!?門が……!」
「お、おい!あれ見ろ!誰か居るぞ!」
「誰なんだあいつら!?俺たちの仲間じゃないぞ!」
……登場の仕方が派手過ぎたか?
アジト内に居た大勢の敵の海賊たちから一斉に注目を浴びた。誰もが驚いた表情で俺たちを見ている。
そりゃあ、自分たちの拠点の門を突き破られたら誰だって戸惑うか。
「さてと……此処からParty timeの始まりだな!」
「ん?おお、オリヴィア。戻ったのか」
「流石にあんな巨体のままじゃ格好の的だからな」
俺の傍らに居たオリヴィアは、いつの間にか人型の姿に戻っていた。
まぁ確かに、元の姿に戻ったほうが戦いやすいか。それに、あの巨体で俺たちに巻き添えを食らわせたら堪ったもんじゃない。
「くっ……テメェら、一体誰だ!いきなり豪快な登場しやがって!」
ようやっと相手もその気になったらしい。さっきまで戸惑っていた敵の海賊たちが、一斉に武器を構えて俺たちを睨んできた。
「そうだな……通りすがりのインキュバスと、稲荷と、ドラゴン……ってところかな」
「ふ、ふざけんじゃねぇ!お前ら、俺たちに何の用だ!?」
「簡単に言うと……お前ら全員ぶっ飛ばしに来た。ただそれだけだ」
「はぁ!?何言ってんだ、こいつ!」
正直に作戦の内容を教えるもんじゃない。適当に誤魔化しつつ、俺は腰に携えている長剣とショットガンを引き抜き、戦闘態勢を整えた。
「おいこら!どういうことだ!?俺たちがお前らに何をしたってんだよ!?」
「別に大した恨みも無いさ。言っとくが、たった三人だからって、楽に勝てるとは思うなよ」
「へへ、バトル前に挑発しちゃって……頼もしいねぇ!」
「さぁ、気合入れて頑張りましょう!」
オリヴィアはギラギラとした目付きで海賊たちを見回し、楓は両手に魔力を収束させる。二人とも何時でも戦える準備が整ったようだ。
「舐めやがって……いいぜ!そんなに死にたいんなら、今ここで殺してやるよ!」
「野郎共!やっちまえ!」
そして敵の海賊たちが、一斉に襲いかかってきた!
さぁて……いっちょやりますか!
「よっしゃあ!行くぜぇ!」
「はい!」
「OK!Let's showtime!」
〜〜〜(リシャス視点)〜〜〜
「なんとか潜入できたな。問題は財宝と、お前の仲間だが……」
「必ずどこかに居る筈だ!敵がキッドたちに気を取られている今が好機!早く見つけないと!」
シルクと共に敵のアジトに忍び込んだ後、私たちはアジトの廊下を突き進んでいた。
今のところ作戦が功を成しているのか、敵の海賊たちとは未だに出くわしていない。先程、何かを盛大に壊す音が響いたが……恐らくキッドたちの仕業だろう。敵もそっちの方に気を取られていて、今頃総出で戦っている頃だ。その間に目的のものを見つけなければならない。
……尤も、アジトに潜入する前に、シルクが高所の恐怖で暫くの間、膝を抱えてメソメソ泣いてた所為で無駄な時間を過ごしてしまったが。
『ふぐっ、ひっく……恐かったよぉ……ふぇ〜ん!』
『ああもう!何時まで泣いてるつもりだ!仲間を助けに来たんだろ!?』
……不意にもあの時の光景を思い出してしまった。
普段は冷静な性格だと思ったら、意外と子供っぽいところもあるのだな……なんて考えてる場合ではなかったな。
「しかし……たった三人だけで戦わせて大丈夫なのか?」
「それこそ余計な心配だ。キッド、楓、オリヴィア……三人とも戦闘において無限の力を発揮できる。並みの人間なんて足元にも及ばない。それより、私たちは任せられた役目を果たす事に専念するべきだ!」
「……ああ、そうだな」
会話を交えながら、奥へ進む廊下を走り続けていると……。
「……ん?」
「……なぁ、あの二つの扉……怪しいと思わないか?」
「ああ、私も同じ事を考えていた」
前方に大きい鋼鉄製の扉が二つ見えた。
二つとも怪しい臭いを漂わせている。このアジトに侵入している最中でも幾つか扉なんて見てきたが、これほどまでに頑丈な造りではなかった。
ここだけ頑丈にしているとなると……何か重要なものがあると考えられる。
「さて……開けて入るのは確定として、どちらから入る?」
「う〜ん……右?左?二つに一つ……」
「慎重に選んだ方がいいな。万が一だが……私たちのような、無許可に潜入した敵を嵌める罠の可能性もある」
「うぐっ……リシャス、恐るべき推察力だな」
二つの扉の前で一旦立ち止まり、どちらの扉を開けるかで悩んでしまった。
今言った通り、罠の可能性もある。敵が馬鹿でなければ、侵入者を捕らえる為の工作も施していても不思議ではない。
ただ、どちらかには私たちが求めているものがあるような気がするが……。
ギギギ……
「……?」
ガコン!
「くそっ!なんでこんな事に……え!?」
「あ……」
……なんか、凄く簡単に正解の扉が分かってしまった。
何故なら……左の扉から、敵と思われる男たちが五人ほど一斉に出てきたのだから。
「……まさか、こんな形で見つかるとは……」
「だがこれは寧ろ儲けものじゃないか?お陰で片方の扉は安全だって事が分かったんだ」
「確かに」
「な、なんだこの女は!?」
扉の奥から敵が現れた……と言うことは、少なくとも左の扉の奥には何かあると言う事が分かった。
さて、問題はこいつらだが……。
「やれやれ、無駄な戦闘は避けれると踏んでいたが……そうもいかないか」
仕方なくこいつらを黙らせようと、腰に携えているレイピアに手を掛けたら……。
「待ってくれ、リシャス。ここは私に活躍の場を与えてくれないか?」
「戦えるのか?」
「ああ!」
「……分かった。好きにしろ」
「ああ、すまない」
シルクが自ら戦いに名乗り出た。
そう言えば、シルクがどれほど強いのか未だに分かってなかった。ここはお手並み拝見といこう。
「さて……悪いが、眠っていてもらおうか」
「こ、こいつ、やる気か!?」
「はん!女ごときがカッコつけやがって、舐められたもんだ!」
シルクが徐に前へ出ると、敵の海賊たちは全員剣を構えて迎撃の準備に入った。
一見すると、敵は五人に比べてこっちは女一人……どうみても不利な状況だ。まぁ、危なくなったら私が加勢すればいいだろう。
「お前らに構っている余裕なんて無い。一気に決めるぞ!」
そう叫びながら、シルクは腰に携えている剣の柄を引き抜いた。
すると……!
「なっ!?け、剣が……光っている!?」
そう……引き抜かれた瞬間、シルクの剣が急に光り輝いたのだ。
いや待て、厳密に言うとあれは……刃そのものが光なのか?
「これぞ私の武器……ライトニング・セイバー。強力な光を収束させ、刃として敵を斬り裂く至極の剣!刃が金属でない分、比較的軽くて扱いやすい上に、へし折られる心配も無い。それが、この光の剣の長所だ!」
光で斬り裂く剣か……なかなか興味深い武器だ。
うちの船の……武器マニアなドラゴンが目を輝かすだろうな。
「さぁ来い!」
シルクの挑発を皮切りに、敵の海賊の一人が剣を構えて駆けてきた。
「死ねこらぁ!」
「……遅い」
相手が剣を縦に振ってきたが、シルクは慌てる事無くしなやかな動作で攻撃をかわした。
「はぁっ!」
「ぐわぁっ!」
その刹那、光の剣を敵に振り上げて斬撃を与えた。更に、敵が怯んだ隙に上段回し蹴りを繰り出して、敵を壁に向かって蹴り飛ばした。
中々早い動きだな。確かに、自ら五人の男の相手を引き受けただけはある。
「このアマ!ふざけんじゃねぇ!」
そう思っていると、別の敵がシルクに襲い掛かってきた。剣を振り下ろそうと腕に力を入れてきたようだが……。
「ふざけてるのは……お前だろ!」
「ごばぁっ!」
振り下ろされる前に、シルクが敵の顎を蹴り上げた。骨が砕かれる生々しい音が響き渡る。
更に敵が怯んだ瞬間、シルクはまたしても回し蹴りを繰り出し、再び敵を壁に向かって蹴り飛ばした。
「な、なんだこの女!かなり強いぞ!」
「慌てるな!三人同時に襲えば楽勝だろ!」
「そうだ!たかが女一人に梃子摺ってるようじゃ、あのお方に顔向けできねぇ!」
残りの敵たちはシルクの強さに戸惑いながらも、落ち着いて仕留める為に改めて武器を構えなおした。
……最後の方の男、何か引っかかる事を言ったな。
あのお方だと?一体誰の事だ?こいつらを従えてる黒幕か?それとも……。
「下っ端が何人いようと変わらない」
シルクは落ち着き払った態度で残りの敵に言い放った。
……まぁとにかく、色々と考えるのは後にしよう。
「誰が下っ端だゴラァ!」
「女だからって容赦してもらえるとか思うなよ!」
「覚悟しろってんだ!」
怒号を上げながらシルクに襲い掛かる三人の敵。
流石に三対一は分が悪いか?そろそろ私も加勢に……。
「……天から授けられた光は、悪の闇に屈しない」
すると、シルクは光の剣を天に向かって高々と掲げる姿勢を取った。その間にも敵は武器を構えて駆け寄ってくる。
「体現するならば、人々を真の道へ導く十字架の如し……!」
しかし、シルクは全く動じていない。寧ろ、その瞳には勝利を確信したような、力強い光が……!
「心せよ!」
勇ましい叫びが響き渡り、光の剣が十文字を描いた。
その刹那、シルクの目の前に、十字を模った光が……!
「ホーリー・クロス!」
剣を突き出すと同時に、十字の光が敵に向かって直進された!
「ちょ、ま、なんだこrうぎゃあああああ!!」
敵はすぐに逃げようとしたが……時既に遅し。
十字の光が直撃し、三人の敵は断末魔のような叫びを上げながら無残に力尽きた……。
……驚いたな。まさかこれ程の実力とは……。
「……見事」
「ふふ、これくらい容易いさ」
思わず賞賛の言葉を送ると、シルクは得意げに笑いながら光の剣を鞘に収めた。
しかしまぁ、本当に……。
「さっきまでピーピー泣いていたとは思えない」
「な、泣いていたは余計だ!」
さっきと同一人物とは思えないな。空中で足をバタバタさせて、ボロボロと泣きじゃくっていたというのに……。
「いや、実際に泣いていただろう?ほら、此処に来る途中で、私に抱えられて高い場所を飛んでいた時……」
「だぁぁぁぁ!止めろ!それは言うなぁ!」
「事実だろうが。今更否定する余儀も無いだろうて」
「違う……あの光景を思い出してしまって……」
「?」
……しまった。言うべきじゃなかったか?
「びぇぇぇぇん!高いよ怖いよー高いのやだよー!怖いのやだよー!助けてバルドー!うぇぇぇぇん!いやいやいやぁぁぁぁ!」
「…………」
さっきまでの勇ましさはどこへ行ったのやら。その場に座り込んで子供のように泣きじゃくってしまった。
……さっきもこいつの怖がり様を見たのだが……やっぱりこう思う。
こいつは連れてくるべきじゃなかったのかもしてない。
「うっうっ……バルド……」
「?」
「会いたい……バルド……寂しいよぉ……会いたいよぉ……」
「…………」
……いや、無理にでも連れて行くべきだな。
これほどまでに強い想いを目の当たりにしたら……放っておく訳にもいかない。
「ほら、怖いものを思い出させてしまったのは謝るから、早く立て。仲間を助けたいのだろう?」
「ひぐっ……あ、ああ、そうだな……」
シルクは静かに泣き止み、両目に浮かぶ涙を拭ってから徐に立ち上がった。
やれやれ、こんな泣き虫な女と同行とは……バルドとやらも、大変なのだろうな。
「さぁ、行くぞ。こいつらが出てきた左の扉に入ろう」
「分かった!」
そして私たちは、先程敵が出てきた左の扉へと進んで行った。
「……お、おのれ……!」
このとき、背後で倒れてる敵が何かを呟いていたが、負け犬の戯言に一々付き合う必要も無いと判断し、構わずに奥へと進んで行った。
「……早く……早く来てください……!」
……まだ何か言ってるな……そんなに言いたい事が……。
「……ベリアル様……!」
「!?……今、なんと?」
「どうした、シルク?」
「……いや、なんでもない。奥へ進むぞ」
「あ、ああ……」
シルクが一瞬だけ目を丸くして背後を振り返ったのが気になるが……。
シルクに促されるままに、私たちは奥へ進んだ……。
〜〜〜(ガロ視点)〜〜〜
「うぉらぁっ!」
「ごはっ!」
「ったく、これだから教団ってのは面倒くさいんだ」
ドクター・アルグノフの件からおよそ五日が経った。
あれから海上戦なんて一度も起こらなかったが……いや、厳密に言うと今起きたところだ。
尤も、およそ三分程度で終わってしまったがな。
「くっ……ドレーク!!貴様、斯様な悪事を働き続けて、己を恥じた事は無いのか!?」
「恥じるだぁ?はっ!馬鹿馬鹿しい!自分が信じるやり方を恥じていたら、何も出来なくなるだろうがよ。そもそも、テメェが言う悪事ってのは本当に悪事と言えるのか?」
「……クズには何を言っても無意味と言う訳か!」
「勝手に言ってろ」
某とお館様が居るのは教団の軍艦。先陣を切って某とお館様が乗り込み、敵の教団兵を半分以上海へ突き落とした為、もうこの船に敵は殆ど存在しない。数名か船に残っている兵士も居るが、もはや大敗を喫した所為で戦意を失っていた。
「このままで済むと思うな!貴様が犯した罪は、主神様が確と見ておられるのだぞ!」
「だからなんだってんだ?やりてぇようにやるのが海賊だ。テメェらや主神ごときに意見を言われる筋合いは無い」
「!……貴様!主神様を侮辱するのか!?許さん!許さんぞ!」
そして某の目の前で、久しい海上船が幕を下ろし始めていた。
機関銃の左腕で肩を叩きながら、教団兵を指揮する隊長を見下ろすお館様。そしてボロボロになりながらも剣を構えてお館様に立ち向かおうとしている隊長。その生き様は賞賛に値するが、現実は実に非情。力の差は歴然である。
「なかなか良い根性だ。だが悪いな。すぐに片付けさせてもらう」
「ああ、そうだな……貴様の首を斬り飛ばせば、それで終わりだ!」
隊長の目が、獲物を狙う獣に変わった。
「覚悟しろ、ドレーク!」
その刹那……隊長が剣を構えたまま、お館様に突撃した。対するお館様は臆する事無く、仁王立ちの姿勢で隊長を待ち構える。
「貰ったぁ!」
そしてお館様の心臓を狙い、剣を突き出した。
お館様は鎧など着てない。このままでは心臓が貫かれ、お館様は命を落とす……!
キィン!
……と思われるであろう。何も知らない輩からして見れば。
「……やったか!?」
「……なにが?」
「なっ!?」
戸惑っているのは隊長の方だった。剣の切っ先は確かにお館様の左胸に当たっている。だが、貫かれてはいない。それどころか、お館様の身体から血が流れていない。
まるで……何か硬い物にでも防がれたかのように。
「馬鹿な……ならばもう一度!」
キィン!
「なに!?」
「何度やっても同じだ。効かねぇし、大して痛くもない」
隊長がお館様に剣を振り下ろしたが、お館様の身体には傷一つ付いていない。お館様自身も、斬られたにも関わらず平然としておられる。
「くそっ!くそっ!」
「おい、自棄になって振っても意味ねぇぞ?」
「どうなってる!?刃が効かない人間なんて、この世に居る訳が無い!」
「居るじゃねぇか……此処に!」
「うぐっ!」
何度斬りかかろうとも無意味。半ば自棄状態となっている隊長の首を、お館様が右手で軽々と掴み上げた。
「なぁ、俺が世間から何て呼ばれてるか知ってるか?」
「ぐっ……こ、鋼鉄帝王だろ?それがどうした……!?」
「そう……今言った通りだ」
片手で掴み上げられている隊長は、恨めしげな視線をお館様に向けながら答えた。
そう、お館様は鋼鉄帝王。刃が効かない理由は……文字によって語られている。
「ま、待て!そこまでだ!」
「まだ我等が残っているぞ!」
「隊長を放せ!」
「お、お前たち!無事だったか!」
「……なんだぁ?まだ生き残りがいたか」
すると、船の物陰から教団兵と思われる男が三人現れた。兵士は全員片付けたつもりでいたが……まだ生き残っていたか。
「申し訳ございません、お館様。直ちに某が処分いたします……」
「待て、ガロ。残りは全部俺がぶっ飛ばすから、お前は下がってろ」
「……承知」
生き残りの兵士を海へ落とそうとしたが、お館様の命により引き下がる事にした。
お館様の手を煩わせるのも不本意ではあるが……命令ならば仕方ない。ここは大人しく見物しよう。
「さてと……こちとら、ちょいとした用事があるんで、手っ取り早く終わらせるとしよう」
そう言いながら、お館様は左腕の肘を曲げて……。
「メタルフォーム……ノーマルハンド!」
左腕の機関銃を……人間の手に変形させた。
あれこそ……お館様特有の能力!
「まずはお前からだ……あばよ!」
「ぐぉあぁ!!」
お館様の鋼鉄の拳が覇気を纏って振り上げられる。力強く殴られた瞬間、隊長の手から剣が滑り落とされる。そして隊長は抗う術も無く、宙で大きく弧を描きながら海へと落下した。
ザッパーン!
「た、隊長!」
海面に叩きつけられる音が、教団兵の叫びを掻き消した……。
「そんな……隊長……!」
「おのれ!よくも隊長を!」
「……いいぜ、三人同時に掛かってきな」
自分の上に立つ者を始末され、怒りを露にする兵士たち。そしてお館様の一言が、短い戦闘の合図となった。
「これでも食らえ!」
教団兵の一人が、お館様に向かってライフルを発砲する。
しかし……!
キン!
「……弾丸も……効かねぇな!」
「なっ!?」
放たれた弾丸はお館様の身体に当たった瞬間、無力にも弾かれてお館様の足元に転げ落ちた。勿論、お館様の身体からは血など一滴も流れていない。
「それなら……これでどうだ!」
ドォン!
教団兵の一人が船に設置されている大砲を放った。
ガァン!
「やった!当たったぞ!」
「……何度も言ってるだろ」
「え……?」
バキッ!
「大砲も効かねぇ」
「!……嘘だろ!?なんでだよ!?」
しかし、結果は同じ。放たれた大砲の弾はお館様の身体に当たったが、押し退けるどころか、逆に押し退けられたかのように威力を消され、無力に落下して船の甲板を突き破った。
「どうなってるんだ……剣もライフルも、大砲も効かないなんて……一体どんな手を使ってるんだよ!?」
「どんな手も何も……これが俺の身体だ」
戸惑いを隠せない教団兵たちに、お館様は淡々と説明を始めた。
「ちょいとした訳があって……俺はとある魔術を手に入れてなぁ。その魔術によってこの身体に変化を重ねた結果、鋼鉄以上の硬度を誇る身体を手に入れたのさ」
そう言いながら、お館様は足元に落ちている隊長の剣を拾った。
「肝心なのはその魔術だ。よく見てろ……当然だが、剣の刃は金属で出来ている……」
そしてお館様は、そっと剣の刃渡りに触れて……。
「そらそらそら……っと」
「うぇっ!?な、なんだあれ!?」
「剣が……曲げられてる!?」
「言っておくが、俺はあんまり力を入れてないぞ?」
そう……お館様は剣の刃を粘土のようにグニャグニャと変形させた。
引き伸ばし、湾曲させ、螺旋状に回す……。
玩具のように弄ばれた剣の刃は、見るも無残な姿へと変貌した。
「こりゃあんまり良い金属じゃないな」
使い物にならなくなった剣を一瞥し、お館様はポイッと剣の残骸を投げ捨てた。
「どうだ?俺の能力は……って、これだけじゃいまいち分からないか」
お館様は、激しく動揺している兵士たちへと視線を移して説明を続けた。
「これが俺の能力……メタルマジック。金、銀、銅、鋼、鉄……ありとあらゆる金属を自由自在に操る魔術だ。それだけじゃねぇ。どんな金属も今すぐ体内から生み出し、身体から放出させる……これがメタルマジックの強みだ」
「金属を……操る?」
「ああ、よく見てろ」
それだけ話すと、お館様は左腕の鋼鉄の拳を上げた。
「メタルフォーム……ソード!」
すると、お館様の拳が鋭き剣へと変形した。
「なんだ!?手が……剣になった!?」
「金属を操れるって言ったろ?この左腕もそうだ。メタルフォーム……アックス!」
更に、その左腕の剣が戦斧に……。
「メタルフォーム……ハンマー!」
戦斧がハンマーに……。
「メタルフォーム……ライフル!」
ハンマーがライフルに……。
「メタルフォーム……マシンガン!」
ライフルが機関銃に……様々な武器へと自由自在に変形する。
あの左腕こそ……お館様の特徴。多種多様の武器で敵を追い詰める。勇猛な事この上ない……。
「この左腕そのものが変形武器。戦闘時、敵に対して有効な武器と戦い方で勝利を得る……兵法の基本だ」
「……貴様に攻撃が効かないのと、どう関係がある?」
「お前らの攻撃が効かないのも、この魔術のお陰だ」
そしてお館様は、自らの身体を叩きながら話し続けた。
「俺はな、金属の中でもトップクラスの硬度を誇る合金……オリハルコンを体内で生み出し、身体中に仕込ませる事に成功したのさ!それだけじゃねぇ。ありとあらゆる金属を合成し、体内に支障が出ないように仕込ませた結果……俺は、オリハルコン以上の硬度を誇る身体を手に入れた!」
オリハルコン……言わずと知れた高硬度を誇る金属。お館様の身体はまさに、屈強たる鎧そのもの。どのような経緯で、そのような身体を手に入れたのかは某にも知らないが……やはり敵に回したくない御仁だ。
「お陰で打撃、刃、銃弾など……ありとあらゆる物理的攻撃が効かなくなった。攻撃によってこの皮膚を貫くのは難しい話。もはやこの身体そのものが、敵の攻撃を防ぐ鎧のようなもんだ!」
力強い声を発し、お館様は左腕の鋼鉄の拳を兵士たちに突き出した。
「お前らが俺に勝てない理屈は分かったか?戦う気が失せたんなら、見逃してやるから海へ飛び込め。それでもやるってんなら相手してやるが……どうする?決定権はお前らにあるぞ?」
たった今発せられた言葉を訳すと……。
『お前に与えられた選択肢は二つのみ。逃亡か、死か、どちらか今すぐ選べ』
……こういう意味になる。
さて、敵はどう出るか……。
「くっ!我等は……我等は屈さぬぞ!」
「こうなったら、効いてくるまで撃ちまくってやる!」
覚悟を決めたかのように、教団兵たちが一斉に攻撃をしかけた。
一人がライフル、もう一人が小型拳銃、そしてもう一人が大砲をそれぞれ撃つ。
「……ちゃんと説明聞かなかったのか?効かねぇもんは効かねぇんだよ」
案の定、どんなに弾丸を受けてもお館様は怯まない。一歩一歩威圧するかのように、何度も攻撃を受けながらも徐々に教団兵の下へ歩み寄る。
「……まっ、度胸だけは認めてやる。だがなぁ……メタルフォーム、ジェットハンド!」
そしてお館様は、左腕のマシンガンを人間の手に変形させた。
「度胸だけじゃどうにもなんねぇよ!」
そう言い放った時には、既にお館様は敵の懐に潜り込んでいた……。
「え!?ちょ、まっ」
「メタリック・ジェットアッパー!」
ドゴォン!
「ごほぁああああああああ!!」
お館様の俊敏な動きに対応できず、敵兵の一人は下から顎を殴り飛ばされて宙へ浮かんだ。
……比較的大きな身体でいるのにも関わらず、なんとも素早い動作だ。どれほど厳しい鍛錬を積み重ねてきたのやら……。
「左腕のジェットによって、速さと威力が十倍以上にも増した拳……気に入ったか?」
お館様がそう言い終ると同時に、顎を殴り上げられた兵士は水飛沫を上げて海中へと沈んで行った……。
「さて、どうする?」
兵士を一人飛ばしたお館様は、残りの兵士たちに視線を移した。
しかし、敵は同胞の惨状を目の当たりにして、もう既に戦意を失っている。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
「逃げろ!今すぐ逃げろ!こ、こんな怪物に勝てる訳ないだろ!」
残りの敵の兵士は全員迷わず、武器を投げ捨てて我先にと逃亡を図った。
どう足掻いても勝てないと判断し、命を守る道を選択する……ある意味、利口な判断かもしれぬ。
ここでくたばるより、海の魔物に拾われて、魔物と共に暮らした方がよっぽど真っ当な選択だ。海中には獲物を待ち構えているスキュラが屯っているであろうし、あの兵士たちも今頃襲われているであろうな。
「……ったく、ちったぁ根性見せろよな。つまんねぇだろ……まだ他にも試したい技があったのによぉ」
「お館様、そろそろ撤退した方が宜しいかと」
「おお、そうだな。よし……ガロ、戻るぞ」
「御意」
そろそろ船に戻るべき、そう判断したお館様と某は、ちょうどすぐ隣で待機している我が海賊船に戻ることにした。二人揃って軍艦から海賊船の甲板へ飛び移ると、同じ船の仲間が我等を出迎えた。
「ヨーホー!さっすが船長!あまりの強さに痺れちまうぜ!」
「お頭の部下でよかったと……つくづく思うぜ」
「おいこら、つまんねぇ世辞言ってる暇があったら、とっとと船を進めろ!」
「イェッサー!」
船長の活躍に心を躍らせる船員たちに向かって、お館様は出航の命令を下した。そしてすぐさま海賊船が進みだし、停止している教団の軍艦と徐々に離れていく。
多くの人たちの褒め言葉にも乗せられない……これもお館様の長所。尤も、お館様から見れば、教団の兵士を倒した事など大した話でもないのであろう。
「さて……思わぬ邪魔が入ったが、これで進める訳だ。フフフ……」
お館様は左腕を通常の手に戻し、ポキポキト手を鳴らしながら不敵な笑みを浮かべた。
そう……我等は一つの無人島に向かっている最中でもあった。
船の仲間に居る情報通の話によると、お館様がよく知るあの男が、とある無人島に上陸しているらしい。お館様の推測が正しければ、今頃はアジトで暴れているであろう。お館様は、その男に会う為に急いでその島へ向かっている……そう言う訳だ。
お館様の心境……某にも十分理解できる。何故なら、我等が向かう場所にはあの男が……。
「お館様、何やら楽しそうでございますな」
「そりゃそうだ。あいつの面を見れるんだ。今でもウズウズして仕方ねぇ」
「……心中お察しします」
……何だかんだ言って、お館様とあの男との因縁は深い。お館様も、久々にあの男に会えると思うと興奮されるのであろう。
「カリバルナで会って以来、全く顔を合わせてなかったからな……楽しみだ」
そう呟きながら、お館様は踵を返し、少しずつ遠ざかる教団の軍艦を見据えた。
そしてお館様は、徐に右手を軽く上げた……。
「首を長くして待ってろよ……!」
すると、お館様の右手に灰白色の光が……!
「ベリリウム光線!!」
お館様が右手を前方に突き出すと同時に、灰白色の光線が軍艦に向かって放射された!
ドカァァァァァァン!!
木片や鉄骨などの部品が豪快に飛び散る。大爆発を起こした軍艦は爆炎と黒煙を湧き上がらせながら、己の儚さを物語るかのように海中へと沈んで行った。
……相も変わらず、豪快なお方だ。これでは周囲から恐れられるのも無理はない。
「……お館様、ふと思ったのですが……」
「ん?」
「最初からその光線を使えば手っ取り早く終わったのでは?」
「阿呆んだら!たった一発で仕留めて何が面白い?敵は何度も攻撃を与えて倒すに限るぜ!」
「……失礼いたしました。愚問でした」
お館様は満足げな笑みを浮かべながら、船員たちに向き直り、大声で呼びかけた。
「野郎ども!全速前進だ!このまま突き進め!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
我等の船は突き進む……一直線に、勇ましく!
「おお、そうだ。ガロ、急で悪いんだが、お前に頼みがあってな」
「ははっ、何なりとお申し付けください」
「あいつらの様子を見てきて欲しい」
「あいつらとは?」
「ああ、実はな…………」
13/07/09 21:49更新 / シャークドン
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