最終章
あれから三週間後、遂に旅立ちの時が来た。
俺は港にてサフィアと共に遥か海の彼方を眺めていた。これからどんな冒険が待っているのか、想像するだけで心が躍る。
「……もうすぐ出航か……」
「そうですね……寂しいですか?」
「ああ、ちょっとな……まぁ、二度と戻ってこれない訳じゃないさ。二人でまた帰ってこような」
「はい」
俺はふと少し離れて停泊している愛船、ブラック・モンスターへと視線を移した。俺の仲間たちが出航の準備を進めていて、その中には初めて共に旅をする新しい仲間がいる。今頃はヘルムが新しい仲間たちに指示を出しているだろう。
実は三週間前の帰郷を機に、海賊を辞める仲間たちは少なからずいた。その分新しく仲間を募集したところ、予想以上に多くの人たちが集まってきた。そこで俺は急遽面接を行い、応募してきた人たちの数人かを判定して仲間に迎え入れた。
本音を言えば一緒に行きたいと言うやつは喜んで仲間に入れたいと思うが、流石に限度がある。それにこれからの旅で新たに仲間が増える可能性も否定できない。残念だが、選ばれなかった人たちには次まで待ってもらおう。
「あ、あの、キッド船長!」
突然、背後から俺を呼ぶ甲高い声が聞こえた。サフィアと共に振り返ってみると、そこには背が低く、幼い顔立ちの少年……俗に言うショタっ子が緊張した面持ちでたたずんでいた。
こいつの名は確か、コリック。仲間になる為に集まってきた人たちの中で、俺が最初に会った子だ。当初は緊張しているのが目に見える程、臆病な印象が強かったが、海賊になりたいと言う強い意志は集まってきた人たちの誰よりも強かった。その気合を見込んだ俺は新しいキャビンボーイとして仲間に入れる事に決めた。
コリックは姿勢を直立に正し、気合十分と言った声で言った。
「このたびは、僕を……じゃなくて、私を海賊団の一員として船に乗せてくださって、誠にありがとうございます!船長の為に努力を惜しむ事無く、日々精進いたします!」
言ってる事はありがたいんだが、やっぱりどこか緊張気味なんだよなぁ……。
「畏まる必要なんてないさ。そんなに固くなってたら、海を渡れないぜ。もっと気を楽にしな」
「は、はい!」
俺はそう言ったが、コリックはまだ緊張している。ここは直接手を下す必要があるな。
「ちょっと、こっちに来てくれ」
俺が手招きをすると、コリックは戸惑いながらも俺の下にやってきた。よーし……!
「おらおらおら!こちょこちょこちょっとぉ!」
「わ!ちょ、何を……アハ、アハハハハ!ちょ、止め、止めて……アハハ!アハハハハハハハハ!」
俺はすかさずコリックの身体をくすぐった。コリックは爆笑しながらも俺の手から逃れる為に身体を必死でよじった。やがて俺が手を離すと、コリックは腹を抑えて激しく息切れした。
「どうだ?気は楽になったか?」
「……え?」
コリックはポカンとしながら俺を見た。
「もっと自分らしさを出していこうぜ。俺たちはもう仲間だ。畏まる必要なんかない。これからは固すぎる対応は無し!分かったか?」
俺の言葉に、コリックは見る見るうちに緊張が解れて明るい笑顔を見せた。
「は、はい!よろしくお願いします!」
「よし、それじゃあ出航の準備に行ってくれ。詳しい事は、ブラック・モンスターに乗っている副船長のヘルムに聞いてくれ」
「はい!それでは、お先に失礼します!」
コリックはペコリと頭を下げ、駆け足でブラック・モンスターへ向かって行った。
そこへ……。
「船長さん、ちょっと宜しいですか?」
今度は、お淑やかな感じの声が俺を呼んだ。そこには、鮮やかな色の着物を着こなしている狐の耳を持った女……要するに、稲荷が立っていた。
この稲荷の名は、楓。現在、世界中の料理を研究しているようで、実際に旅をしてもっと料理を勉強したいとの事で、俺の仲間になるのを志願してきた。面接の際に楓が作ってきた料理を食べてみたが、これがまた唸るほど美味かった。おまけに魔術に長けているらしく、戦闘においても活躍してくれるようだ。俺はその腕を見込んで料理人として仲間に入れる事に決めた。
「今晩の食卓ですけれど、船長さんは冷や奴と揚げだし豆腐、どちらがお好みですか?」
冷や奴はジパングの名物である豆腐を冷やした料理で、揚げだし豆腐は豆腐を油で揚げてだし汁をかけた料理だ。面接の時に食べた事があるから知っている。
「そんな事、俺が決めて良いのか?食卓の決定権はお前らにあるんだぞ?」
「はい。どちらにするか迷ってしまいまして、今回は船長さんに決めてもらおうと思いました。今日船長さんに選ばれなかった方を明日か明後日に回そうと思います。」
「そうか、それじゃあ……揚げだし豆腐で頼む」
「かしこまりました。わざわざお時間をかけてしまいまして申し訳ございません」
楓は深くお辞儀をした。海賊の印象にそぐわない礼儀正しい性格だが、そんな事は気にならなかった。俺らには、こういう性格の仲間が必要だから。
「気にするなよ。その代わり、今晩の食卓は期待してるからな」
「ありがとうございます。それでは、下ごしらえがありますので、失礼いたします」
楓はもう一度お辞儀をすると、ブラック・モンスターに向かって行った。すると、サフィアは俺に訊いてきた。
「ねぇ、キッド。揚げだし豆腐ってどんな料理ですか?」
「ん〜、それはだな……お楽しみって事で」
「あ、ちょっと!説明するの面倒臭がってませんか?教えて下さいよ!」
「楽しみにしとけって。美味いから」
「美味しいって聞いたら、余計気になるじゃないですか〜!」
頬を膨らませて拗ねるサフィア。
こんな顔のサフィアも可愛いなぁ……。
「はぁい、船長さん。ご機嫌いかが?」
どこか妖艶な声が惚気ている俺を呼んできた。今度は、白衣を着たサキュバスが立っていた。
このサキュバスの名は、シャローナ。カリバルナの小さな病院で医者として働いていたが、以前から上司に対する反発が強く、その勤務態度を問題視され、勢い余って自ら病院を出る真似をしてしまったらしい。
実はこのシャローナに限っては、かつて俺と共に旅をしていた年配の船医のお墨付きをもらっていて、その年配の船医の後釜として特別に無条件で仲間入りを果たした唯一の仲間だ。シャローナの医者としての技術はかなり高く、魔術も使いこなせる為、俺は迷わずに仲間に入れた。当の本人も海賊になる事に抵抗は無く、むしろ新しい居場所ができて救われたようだ。
「よぉ、そっちの準備はできたか?」
「ええ、必要な薬と器具はもう積んできたわ。あとは出発するのを待つだけよ」
「そうか……お前は腕が立つ医者だって聞いたからな。仲間が怪我をした時には、頼りにしてるぜ」
「あら、お世辞を言っても何も出ないわよ。それに……どちらかと言うと別の仕事の方が大変そうだけどね」
「別の仕事?」
首を傾げる俺に、シャローナは両手でお腹を撫でるジェスチャーを披露した。
……って、それって……まさか……。
「……出産?」
「正解。あ、言っとくけど私はまだよ。生憎、お相手がいないよ」
「……あー、失礼だが、出産を手伝った経験は?」
「心配する必要はないわ、何度もあるわよ。もし、船長さんとサフィアちゃんの子供が産まれそうになったら、立ち会ってあげるわ」
任せなさいと言った表情でシャローナはウインクしてきた。
どこか妖しげな仕草だが、それに負けず劣らず頼もしい感じが出ている。やっぱり現役の医者なんだな。
「それじゃ、私は先に乗ってるわ」
シャローナは軽く手を振りながらブラック・モンスターに向かって行った。
改めて思うと、今日から始まる旅で魔物の仲間がかなり増えたな……。このままだと人間の男より、魔物の方が数を占めるんじゃないか?
「……キッド」
俺が考え事をしていると、サフィアが話しかけてきた。
「ん?揚げだし豆腐なら楽しみにしときな」
「いえ、揚げだし豆腐じゃなくて……キッドって、本当に信頼されているのですね」
「え?」
「さっきまでのやり取りを見て、仲間たちがキッドを頼りにしているのが伝わってきます」
「そ、そうか?」
「はい、でも分かります。キッドは本当に頼もしいですし、その……かっこいいですから」
……やめてくれよ……そんな事言われたら、人前で抱きしめたくなるだろぉ……!
俺は必死になって衝動を抑えたが、そこへ……。
「お兄ちゃーん!!」
声が聞こえたかと思うと、ピュラが海から水しぶきを上げながら飛び出てきて、俺の前で華麗に着地した。
「お兄ちゃん、ヘルムさんがね、そろそろ出航の準備が終わるから戻ってきてだって!」
「おお、そうか。悪いな、わざわざ呼びに来させちまって」
「そんな事気にしないで!私、旅に連れてってくれるだけで嬉しいから!」
今ピュラが言ったように、実は今日からピュラも旅に連れていく事になった。ピュラにとってサフィアは大切な存在だ。離れ離れにさせるより一緒に旅をさせた方がよっぽどピュラの為になる。何よりも当の本人は、
『どんなに危険でも、サフィアお姉ちゃんたちと一緒にいたい!』
と言ってた。ピュラが望むなら、俺はそれを支えるまでだ。何よりも、旅の仲間が増えるのは喜ばしい事だ。
「お兄ちゃん、私ね、船に乗るの初めてなんだ!」
ピュラは愛くるしい笑みを浮かべながら俺の手を握ってきた。
「お、そうか。じゃあ今日は記念すべき初乗船の日だな」
「うん!私、すっごい楽しみ!」
ピュラは俺の手を握ったまま甘えてきた。
ピュラは以前から『お兄ちゃんみたいな人が欲しかったんだ』って言ってて、短い時間で俺に懐くようになった。俺としても、妹ができたみたいでちょっと嬉しいけどな。
……あれ?なんか、隣から妬みの視線を感じるような…………俺の隣にはサフィアしかいないよな……?
「ねぇ、お兄ちゃん、ご飯を食べる時にお兄ちゃんの隣に座ってもいい?」
「ああ、いいぞ」
「島を冒険する時は私も連れてってくれる?」
「ん〜、安全な島だったらいいぞ」
「夜中に眠れなくなったらお兄ちゃんの部屋で一緒に寝ても……」
「それはダメ!」
ピュラが言い終わる前に、間髪入れずにサフィアが割り込んできた。
「あのですね、キッドとは私が一緒に寝る事に決まってますの!」
いや……悪いがサフィア、俺はそんなの初耳なんだが……。って言うか、以前から基本的にはサフィアとピュラは同じ部屋で寝る事になってたハズじゃあ……。
「お姉ちゃん、忘れたの?お姉ちゃんと私は同じ部屋で寝るように決まってたじゃない?」
ピュラは俺が今思っていた事をそのまま言った。
「で、でも!私にだって、キッドと一緒に寝たい時がありますの!」
「じゃあ、その寝たい時じゃないのなら一緒に寝ても良いんだね?」
サフィアの反論に対し、ピュラはニヤリと笑いながら言った。
「い、いえ、そうじゃなくて……もう!ああ言えばこう言うんですから!大体、ピュラはキッドに甘え過ぎなんです!」
「いいじゃない。私のお兄ちゃんなんだから」
サフィアはやや興奮気味に抗議してきた。二人の仲は以前から良かった……いや、今でも良いんだが、なんと言うか、結婚してからサフィアとピュラのいさかいが増えたような気がするが……。
「……お姉ちゃん、お姉ちゃんとキッドお兄ちゃんはどういう関係?」
ピュラの突然の質問に戸惑ったが、すぐに落ち着いてサフィアは堂々と言った。
「勿論、夫婦です!私とキッドは、正真正銘の夫婦です!」
「そう、夫婦でしょ?それで、サフィアお姉ちゃんは私の姉でもあるの。と言う事は、義理と呼ばれても、キッドお兄ちゃんは正真正銘、私のお兄ちゃんでもある!分かった?」
あれまぁ、なんとも鋭い論理だこと……。
「それはそうですけど……い、いえいえ!それとこれとは別です!キッドから離れなさい!」
それでもサフィアは尚も抗議する。サフィアには悪いが、これじゃどっちが子供だか分からんな……。
「はぁ、やれやれ……お姉ちゃんったら、キッドお兄ちゃんと結ばれてから独占欲が増しちゃって……こまったお嫁さんね。ねー、お兄ちゃん♪」
ピュラは愛嬌たっぷりな笑顔で擦り寄ってきた。
「お兄ちゃんは私と一緒にいても楽しいよねー♪お兄ちゃんと私は兄妹だから、一緒にいても良いよねー♪ホント、困ったお嫁さんだよねー♪」
「……あ、あの……ピュラ……」
悪気は無いんだろうけど、挑発するような真似は、あまりやらない方が……。
「フ……フフフ……」
…………あ、遅かった。
「そうですか……そんな事言っちゃうんですか……」
なんか……目が笑ってない……あと、ちょっと黒いオーラが出てる……。
「どうやら……灸を据える必要があるようですね……」
「……あ……えっと……その……」
調子に乗り過ぎた事に気付いたピュラは、怖じ気づきながら俺の背後に回った。
「お兄ちゃん、助けて……」
上目遣いで助けを求めてくるピュラに、俺はなんとかサフィアを宥めようとしたが……。
「サ、サフィア、一先ず落ち着け。ピュラはまだ子供だぞ?暴力はダメだぞ?」
「キッドは黙っててください!」
「……はい」
不覚だ……縮こまってしまった……。なんか……今のサフィアには逆らえそうにない……。
「さあ、ピュラ、こっちへいらっしゃい……」
「い……嫌……」
サフィアがピュラに近付こうとすると、ピュラは遠ざかるように俺の横側に回った。
「痛い事はしませんから……お説教だけですから……来なさい」
「嫌」
「来なさい」
「嫌」
「来なさい、それと、離れなさい!」
「いやー!」
ピュラは俺を囲むように逃げ続け、サフィアは追うように俺の周りを走る。魚の下半身である為か、双方共に速く走れていないが、それでも目まぐるしく感じる。
「コラー!待ちなさい!」
「キッドお兄ちゃん、助けてー!」
…………これから大変そうだな、別の意味で…………。
「叔父さん、色々とありがとな」
「なぁに、大した事はしてないさ」
ブラック・モンスターの前で、俺は叔父さんと話していた。仲間のみんなは既に全員乗っていて、あとは俺が乗れば出航できる。
「ところでキッド、これからどこへ行く予定なんだ?」
「ああ、所々島を探索しつつ、まずは反魔物国家の国へ行ってみようと思うんだ。近辺で訪れてない国はあそこだけになったからな」
「近辺で行った事のない国……反魔物国家……」
叔父さんは、俺たちが向かう予定の国を察したのか、真剣な表情を見せた。
「キッド、立ち寄る時には気をつけるんだぞ。あそこがどんな国か……分かっているだろ?」
「ああ、十分分かっている。だが大丈夫、魔物には上陸させないし、できる限り無駄な戦闘はしないさ」
俺の返事に、叔父さんは優しい笑みを浮かべて言った。
「キッド、これからの旅は今までとは違って想像を絶する程の苦難が待ち受けているだろう。だが、君ならどんな苦難でも乗り越えられると、私は信じている。だから、生きてまた帰って来るんだよ」
叔父さんは右手を差し出し、握手を求めてきた。
毎度の事ながら、叔父さんには頭が上がらない。
「ああ、帰ってくるさ、必ずな」
俺は叔父さんの右手を握り、握手を交わした。幼い頃から握ってた手は、相変わらず安心する程温かかった。
「じゃあな、叔父さん!また会おうぜ!」
手を離して叔父さんに別れを告げると、俺はブラック・モンスターに乗り込んだ。俺の仲間たちは甲板に集まっていて、サフィア、ピュラ、ヘルムの三人は仲間たちの中に混ざらず、船首側に立って俺が来るのを待っていた。俺は駆け足でサフィアたちの下へ行き、仲間たちに向き直った。
誰もが俺の号令を待ち侘びている。俺は、そんな仲間たちの要望に応えた。
「野郎ども!準備はいいか!?」
「ウォォォォォォ!」
仲間たちの雄叫びが響いた。俺は更に号令を続ける。
「海へ旅立つ覚悟はできたか!?」
「ウォォォォォォォォ!」
「本当にできたか!?」
「ウォォォォォォォォォ!」
仲間たちの雄叫びに迷いは無かった。やっぱり、俺の仲間は最高だ!
「よっしゃあ!碇を上げろぉ!帆を張れぇ!」
俺の命令に、仲間たちはすぐさま作業に取り掛かった。巨大な碇が上げられ、音を立てながら帆が張られた。
準備が完全に整ったのを確認し、俺は大きく息を吸い込み腹の底から声を上げた。
「出航だぁぁぁぁぁぁ!!」
「ウォォォォォォォォォォォォォ!!」
ブラック・モンスターはゆっくりと海に向かって走り出した。それと同時に、見送りに来てくれた住民たちが歓声を上げた。俺の仲間たちの数人かは住民たちに手を振って応えた。
「また会おうぜ!」
俺は船の右舷に寄って叔父さんたちに叫んだ。それに対し、叔父さんは笑顔で手を振って見送ってくれた。
「……キッド」
サフィアが微笑みながら俺の隣にやってきた。
「これから始まるのですね。私たちの旅が……」
「……そうだな……」
「私とキッドも……これからですよね?」
「……ああ……」
「幸せに……なりましょうね!」
「それは違う」
「……え?」
俺はキョトンとするサフィアを胸に寄せて言った。
「幸せにするんだよ、俺がサフィアをな……」
「……大好きですよ……キッド……」
サフィアは俺に寄りかかり静かに囁いた。俺は更に身体を寄せる為にサフィアの背中に手を……。
「ハイ、そこまでー!仲間のみんなが待ってるよ」
なんだよ、いいとこだったのに……。
手を打ち鳴らして止めてくるヘルムに不満を覚えながらも、俺は仲間たちに向き直り、コホンと咳払いをしてから話した。
「今日から俺たちは海賊として旅立った。これから様々な苦難が俺たちを待ち受けている。だが、それでも俺たちは挫けずに立ち向かっていく!」
俺は長剣を抜き取り、天に向かって高く突き上げた。
「野郎ども!地獄の炎より熱い海賊魂を、周りの奴らに見せつけてやろうぜ!!」
「ウォォォォォォォォォォォ!!」
仲間たちの威勢の良い雄叫びが海原に響く中、俺は長剣を鞘に戻した後、船首へ移動し、海を眺めながらこれからの冒険に意気込んだ。
さぁ!俺の冒険は、これからだ!
fin.
と、その前に……。
*後日談
〜〜〜翌日〜〜〜
「キッド……ちょっといいかい?」
「どうした、ヘルム?そんな浮かない顔して」
「これから上陸予定の国なんだけど……」
「ああ、あの国か。それがどうかしたか?」
「たった今知ったんだけど……滅ぼされたらしい」
「……は?」
「たった一人の魔物によって……侵攻されたらしいんだ」
「はぁ!?侵攻!?しかも、たった一人の魔物にって……マジかよ……」
「ああ、君も知っている魔物によってだ」
「……で、その魔物は一体誰なんだ?オーガか?ドラゴンか?」
「いや、もっと強い魔物によってだ。噂では、その魔物は赤い眼を持っているらしい」
「赤い眼?そんな魔物、見た事も聞いた事もないぞ」
「そうだろうね……でも、僕たちの中でこの魔物について一番知っているのは、恐らく君だけだ」
「……どういう事だ?」
「名前を聞けばすぐに分かるはずだ。単刀直入に言うと……その魔物は、アミナ王妃とは姉妹に当たる」
「!?……その魔物の……リリムの名は?」
「……魔界第四王女…………デルエラ」
「!!?」
………………続く?否、fin.
俺は港にてサフィアと共に遥か海の彼方を眺めていた。これからどんな冒険が待っているのか、想像するだけで心が躍る。
「……もうすぐ出航か……」
「そうですね……寂しいですか?」
「ああ、ちょっとな……まぁ、二度と戻ってこれない訳じゃないさ。二人でまた帰ってこような」
「はい」
俺はふと少し離れて停泊している愛船、ブラック・モンスターへと視線を移した。俺の仲間たちが出航の準備を進めていて、その中には初めて共に旅をする新しい仲間がいる。今頃はヘルムが新しい仲間たちに指示を出しているだろう。
実は三週間前の帰郷を機に、海賊を辞める仲間たちは少なからずいた。その分新しく仲間を募集したところ、予想以上に多くの人たちが集まってきた。そこで俺は急遽面接を行い、応募してきた人たちの数人かを判定して仲間に迎え入れた。
本音を言えば一緒に行きたいと言うやつは喜んで仲間に入れたいと思うが、流石に限度がある。それにこれからの旅で新たに仲間が増える可能性も否定できない。残念だが、選ばれなかった人たちには次まで待ってもらおう。
「あ、あの、キッド船長!」
突然、背後から俺を呼ぶ甲高い声が聞こえた。サフィアと共に振り返ってみると、そこには背が低く、幼い顔立ちの少年……俗に言うショタっ子が緊張した面持ちでたたずんでいた。
こいつの名は確か、コリック。仲間になる為に集まってきた人たちの中で、俺が最初に会った子だ。当初は緊張しているのが目に見える程、臆病な印象が強かったが、海賊になりたいと言う強い意志は集まってきた人たちの誰よりも強かった。その気合を見込んだ俺は新しいキャビンボーイとして仲間に入れる事に決めた。
コリックは姿勢を直立に正し、気合十分と言った声で言った。
「このたびは、僕を……じゃなくて、私を海賊団の一員として船に乗せてくださって、誠にありがとうございます!船長の為に努力を惜しむ事無く、日々精進いたします!」
言ってる事はありがたいんだが、やっぱりどこか緊張気味なんだよなぁ……。
「畏まる必要なんてないさ。そんなに固くなってたら、海を渡れないぜ。もっと気を楽にしな」
「は、はい!」
俺はそう言ったが、コリックはまだ緊張している。ここは直接手を下す必要があるな。
「ちょっと、こっちに来てくれ」
俺が手招きをすると、コリックは戸惑いながらも俺の下にやってきた。よーし……!
「おらおらおら!こちょこちょこちょっとぉ!」
「わ!ちょ、何を……アハ、アハハハハ!ちょ、止め、止めて……アハハ!アハハハハハハハハ!」
俺はすかさずコリックの身体をくすぐった。コリックは爆笑しながらも俺の手から逃れる為に身体を必死でよじった。やがて俺が手を離すと、コリックは腹を抑えて激しく息切れした。
「どうだ?気は楽になったか?」
「……え?」
コリックはポカンとしながら俺を見た。
「もっと自分らしさを出していこうぜ。俺たちはもう仲間だ。畏まる必要なんかない。これからは固すぎる対応は無し!分かったか?」
俺の言葉に、コリックは見る見るうちに緊張が解れて明るい笑顔を見せた。
「は、はい!よろしくお願いします!」
「よし、それじゃあ出航の準備に行ってくれ。詳しい事は、ブラック・モンスターに乗っている副船長のヘルムに聞いてくれ」
「はい!それでは、お先に失礼します!」
コリックはペコリと頭を下げ、駆け足でブラック・モンスターへ向かって行った。
そこへ……。
「船長さん、ちょっと宜しいですか?」
今度は、お淑やかな感じの声が俺を呼んだ。そこには、鮮やかな色の着物を着こなしている狐の耳を持った女……要するに、稲荷が立っていた。
この稲荷の名は、楓。現在、世界中の料理を研究しているようで、実際に旅をしてもっと料理を勉強したいとの事で、俺の仲間になるのを志願してきた。面接の際に楓が作ってきた料理を食べてみたが、これがまた唸るほど美味かった。おまけに魔術に長けているらしく、戦闘においても活躍してくれるようだ。俺はその腕を見込んで料理人として仲間に入れる事に決めた。
「今晩の食卓ですけれど、船長さんは冷や奴と揚げだし豆腐、どちらがお好みですか?」
冷や奴はジパングの名物である豆腐を冷やした料理で、揚げだし豆腐は豆腐を油で揚げてだし汁をかけた料理だ。面接の時に食べた事があるから知っている。
「そんな事、俺が決めて良いのか?食卓の決定権はお前らにあるんだぞ?」
「はい。どちらにするか迷ってしまいまして、今回は船長さんに決めてもらおうと思いました。今日船長さんに選ばれなかった方を明日か明後日に回そうと思います。」
「そうか、それじゃあ……揚げだし豆腐で頼む」
「かしこまりました。わざわざお時間をかけてしまいまして申し訳ございません」
楓は深くお辞儀をした。海賊の印象にそぐわない礼儀正しい性格だが、そんな事は気にならなかった。俺らには、こういう性格の仲間が必要だから。
「気にするなよ。その代わり、今晩の食卓は期待してるからな」
「ありがとうございます。それでは、下ごしらえがありますので、失礼いたします」
楓はもう一度お辞儀をすると、ブラック・モンスターに向かって行った。すると、サフィアは俺に訊いてきた。
「ねぇ、キッド。揚げだし豆腐ってどんな料理ですか?」
「ん〜、それはだな……お楽しみって事で」
「あ、ちょっと!説明するの面倒臭がってませんか?教えて下さいよ!」
「楽しみにしとけって。美味いから」
「美味しいって聞いたら、余計気になるじゃないですか〜!」
頬を膨らませて拗ねるサフィア。
こんな顔のサフィアも可愛いなぁ……。
「はぁい、船長さん。ご機嫌いかが?」
どこか妖艶な声が惚気ている俺を呼んできた。今度は、白衣を着たサキュバスが立っていた。
このサキュバスの名は、シャローナ。カリバルナの小さな病院で医者として働いていたが、以前から上司に対する反発が強く、その勤務態度を問題視され、勢い余って自ら病院を出る真似をしてしまったらしい。
実はこのシャローナに限っては、かつて俺と共に旅をしていた年配の船医のお墨付きをもらっていて、その年配の船医の後釜として特別に無条件で仲間入りを果たした唯一の仲間だ。シャローナの医者としての技術はかなり高く、魔術も使いこなせる為、俺は迷わずに仲間に入れた。当の本人も海賊になる事に抵抗は無く、むしろ新しい居場所ができて救われたようだ。
「よぉ、そっちの準備はできたか?」
「ええ、必要な薬と器具はもう積んできたわ。あとは出発するのを待つだけよ」
「そうか……お前は腕が立つ医者だって聞いたからな。仲間が怪我をした時には、頼りにしてるぜ」
「あら、お世辞を言っても何も出ないわよ。それに……どちらかと言うと別の仕事の方が大変そうだけどね」
「別の仕事?」
首を傾げる俺に、シャローナは両手でお腹を撫でるジェスチャーを披露した。
……って、それって……まさか……。
「……出産?」
「正解。あ、言っとくけど私はまだよ。生憎、お相手がいないよ」
「……あー、失礼だが、出産を手伝った経験は?」
「心配する必要はないわ、何度もあるわよ。もし、船長さんとサフィアちゃんの子供が産まれそうになったら、立ち会ってあげるわ」
任せなさいと言った表情でシャローナはウインクしてきた。
どこか妖しげな仕草だが、それに負けず劣らず頼もしい感じが出ている。やっぱり現役の医者なんだな。
「それじゃ、私は先に乗ってるわ」
シャローナは軽く手を振りながらブラック・モンスターに向かって行った。
改めて思うと、今日から始まる旅で魔物の仲間がかなり増えたな……。このままだと人間の男より、魔物の方が数を占めるんじゃないか?
「……キッド」
俺が考え事をしていると、サフィアが話しかけてきた。
「ん?揚げだし豆腐なら楽しみにしときな」
「いえ、揚げだし豆腐じゃなくて……キッドって、本当に信頼されているのですね」
「え?」
「さっきまでのやり取りを見て、仲間たちがキッドを頼りにしているのが伝わってきます」
「そ、そうか?」
「はい、でも分かります。キッドは本当に頼もしいですし、その……かっこいいですから」
……やめてくれよ……そんな事言われたら、人前で抱きしめたくなるだろぉ……!
俺は必死になって衝動を抑えたが、そこへ……。
「お兄ちゃーん!!」
声が聞こえたかと思うと、ピュラが海から水しぶきを上げながら飛び出てきて、俺の前で華麗に着地した。
「お兄ちゃん、ヘルムさんがね、そろそろ出航の準備が終わるから戻ってきてだって!」
「おお、そうか。悪いな、わざわざ呼びに来させちまって」
「そんな事気にしないで!私、旅に連れてってくれるだけで嬉しいから!」
今ピュラが言ったように、実は今日からピュラも旅に連れていく事になった。ピュラにとってサフィアは大切な存在だ。離れ離れにさせるより一緒に旅をさせた方がよっぽどピュラの為になる。何よりも当の本人は、
『どんなに危険でも、サフィアお姉ちゃんたちと一緒にいたい!』
と言ってた。ピュラが望むなら、俺はそれを支えるまでだ。何よりも、旅の仲間が増えるのは喜ばしい事だ。
「お兄ちゃん、私ね、船に乗るの初めてなんだ!」
ピュラは愛くるしい笑みを浮かべながら俺の手を握ってきた。
「お、そうか。じゃあ今日は記念すべき初乗船の日だな」
「うん!私、すっごい楽しみ!」
ピュラは俺の手を握ったまま甘えてきた。
ピュラは以前から『お兄ちゃんみたいな人が欲しかったんだ』って言ってて、短い時間で俺に懐くようになった。俺としても、妹ができたみたいでちょっと嬉しいけどな。
……あれ?なんか、隣から妬みの視線を感じるような…………俺の隣にはサフィアしかいないよな……?
「ねぇ、お兄ちゃん、ご飯を食べる時にお兄ちゃんの隣に座ってもいい?」
「ああ、いいぞ」
「島を冒険する時は私も連れてってくれる?」
「ん〜、安全な島だったらいいぞ」
「夜中に眠れなくなったらお兄ちゃんの部屋で一緒に寝ても……」
「それはダメ!」
ピュラが言い終わる前に、間髪入れずにサフィアが割り込んできた。
「あのですね、キッドとは私が一緒に寝る事に決まってますの!」
いや……悪いがサフィア、俺はそんなの初耳なんだが……。って言うか、以前から基本的にはサフィアとピュラは同じ部屋で寝る事になってたハズじゃあ……。
「お姉ちゃん、忘れたの?お姉ちゃんと私は同じ部屋で寝るように決まってたじゃない?」
ピュラは俺が今思っていた事をそのまま言った。
「で、でも!私にだって、キッドと一緒に寝たい時がありますの!」
「じゃあ、その寝たい時じゃないのなら一緒に寝ても良いんだね?」
サフィアの反論に対し、ピュラはニヤリと笑いながら言った。
「い、いえ、そうじゃなくて……もう!ああ言えばこう言うんですから!大体、ピュラはキッドに甘え過ぎなんです!」
「いいじゃない。私のお兄ちゃんなんだから」
サフィアはやや興奮気味に抗議してきた。二人の仲は以前から良かった……いや、今でも良いんだが、なんと言うか、結婚してからサフィアとピュラのいさかいが増えたような気がするが……。
「……お姉ちゃん、お姉ちゃんとキッドお兄ちゃんはどういう関係?」
ピュラの突然の質問に戸惑ったが、すぐに落ち着いてサフィアは堂々と言った。
「勿論、夫婦です!私とキッドは、正真正銘の夫婦です!」
「そう、夫婦でしょ?それで、サフィアお姉ちゃんは私の姉でもあるの。と言う事は、義理と呼ばれても、キッドお兄ちゃんは正真正銘、私のお兄ちゃんでもある!分かった?」
あれまぁ、なんとも鋭い論理だこと……。
「それはそうですけど……い、いえいえ!それとこれとは別です!キッドから離れなさい!」
それでもサフィアは尚も抗議する。サフィアには悪いが、これじゃどっちが子供だか分からんな……。
「はぁ、やれやれ……お姉ちゃんったら、キッドお兄ちゃんと結ばれてから独占欲が増しちゃって……こまったお嫁さんね。ねー、お兄ちゃん♪」
ピュラは愛嬌たっぷりな笑顔で擦り寄ってきた。
「お兄ちゃんは私と一緒にいても楽しいよねー♪お兄ちゃんと私は兄妹だから、一緒にいても良いよねー♪ホント、困ったお嫁さんだよねー♪」
「……あ、あの……ピュラ……」
悪気は無いんだろうけど、挑発するような真似は、あまりやらない方が……。
「フ……フフフ……」
…………あ、遅かった。
「そうですか……そんな事言っちゃうんですか……」
なんか……目が笑ってない……あと、ちょっと黒いオーラが出てる……。
「どうやら……灸を据える必要があるようですね……」
「……あ……えっと……その……」
調子に乗り過ぎた事に気付いたピュラは、怖じ気づきながら俺の背後に回った。
「お兄ちゃん、助けて……」
上目遣いで助けを求めてくるピュラに、俺はなんとかサフィアを宥めようとしたが……。
「サ、サフィア、一先ず落ち着け。ピュラはまだ子供だぞ?暴力はダメだぞ?」
「キッドは黙っててください!」
「……はい」
不覚だ……縮こまってしまった……。なんか……今のサフィアには逆らえそうにない……。
「さあ、ピュラ、こっちへいらっしゃい……」
「い……嫌……」
サフィアがピュラに近付こうとすると、ピュラは遠ざかるように俺の横側に回った。
「痛い事はしませんから……お説教だけですから……来なさい」
「嫌」
「来なさい」
「嫌」
「来なさい、それと、離れなさい!」
「いやー!」
ピュラは俺を囲むように逃げ続け、サフィアは追うように俺の周りを走る。魚の下半身である為か、双方共に速く走れていないが、それでも目まぐるしく感じる。
「コラー!待ちなさい!」
「キッドお兄ちゃん、助けてー!」
…………これから大変そうだな、別の意味で…………。
「叔父さん、色々とありがとな」
「なぁに、大した事はしてないさ」
ブラック・モンスターの前で、俺は叔父さんと話していた。仲間のみんなは既に全員乗っていて、あとは俺が乗れば出航できる。
「ところでキッド、これからどこへ行く予定なんだ?」
「ああ、所々島を探索しつつ、まずは反魔物国家の国へ行ってみようと思うんだ。近辺で訪れてない国はあそこだけになったからな」
「近辺で行った事のない国……反魔物国家……」
叔父さんは、俺たちが向かう予定の国を察したのか、真剣な表情を見せた。
「キッド、立ち寄る時には気をつけるんだぞ。あそこがどんな国か……分かっているだろ?」
「ああ、十分分かっている。だが大丈夫、魔物には上陸させないし、できる限り無駄な戦闘はしないさ」
俺の返事に、叔父さんは優しい笑みを浮かべて言った。
「キッド、これからの旅は今までとは違って想像を絶する程の苦難が待ち受けているだろう。だが、君ならどんな苦難でも乗り越えられると、私は信じている。だから、生きてまた帰って来るんだよ」
叔父さんは右手を差し出し、握手を求めてきた。
毎度の事ながら、叔父さんには頭が上がらない。
「ああ、帰ってくるさ、必ずな」
俺は叔父さんの右手を握り、握手を交わした。幼い頃から握ってた手は、相変わらず安心する程温かかった。
「じゃあな、叔父さん!また会おうぜ!」
手を離して叔父さんに別れを告げると、俺はブラック・モンスターに乗り込んだ。俺の仲間たちは甲板に集まっていて、サフィア、ピュラ、ヘルムの三人は仲間たちの中に混ざらず、船首側に立って俺が来るのを待っていた。俺は駆け足でサフィアたちの下へ行き、仲間たちに向き直った。
誰もが俺の号令を待ち侘びている。俺は、そんな仲間たちの要望に応えた。
「野郎ども!準備はいいか!?」
「ウォォォォォォ!」
仲間たちの雄叫びが響いた。俺は更に号令を続ける。
「海へ旅立つ覚悟はできたか!?」
「ウォォォォォォォォ!」
「本当にできたか!?」
「ウォォォォォォォォォ!」
仲間たちの雄叫びに迷いは無かった。やっぱり、俺の仲間は最高だ!
「よっしゃあ!碇を上げろぉ!帆を張れぇ!」
俺の命令に、仲間たちはすぐさま作業に取り掛かった。巨大な碇が上げられ、音を立てながら帆が張られた。
準備が完全に整ったのを確認し、俺は大きく息を吸い込み腹の底から声を上げた。
「出航だぁぁぁぁぁぁ!!」
「ウォォォォォォォォォォォォォ!!」
ブラック・モンスターはゆっくりと海に向かって走り出した。それと同時に、見送りに来てくれた住民たちが歓声を上げた。俺の仲間たちの数人かは住民たちに手を振って応えた。
「また会おうぜ!」
俺は船の右舷に寄って叔父さんたちに叫んだ。それに対し、叔父さんは笑顔で手を振って見送ってくれた。
「……キッド」
サフィアが微笑みながら俺の隣にやってきた。
「これから始まるのですね。私たちの旅が……」
「……そうだな……」
「私とキッドも……これからですよね?」
「……ああ……」
「幸せに……なりましょうね!」
「それは違う」
「……え?」
俺はキョトンとするサフィアを胸に寄せて言った。
「幸せにするんだよ、俺がサフィアをな……」
「……大好きですよ……キッド……」
サフィアは俺に寄りかかり静かに囁いた。俺は更に身体を寄せる為にサフィアの背中に手を……。
「ハイ、そこまでー!仲間のみんなが待ってるよ」
なんだよ、いいとこだったのに……。
手を打ち鳴らして止めてくるヘルムに不満を覚えながらも、俺は仲間たちに向き直り、コホンと咳払いをしてから話した。
「今日から俺たちは海賊として旅立った。これから様々な苦難が俺たちを待ち受けている。だが、それでも俺たちは挫けずに立ち向かっていく!」
俺は長剣を抜き取り、天に向かって高く突き上げた。
「野郎ども!地獄の炎より熱い海賊魂を、周りの奴らに見せつけてやろうぜ!!」
「ウォォォォォォォォォォォ!!」
仲間たちの威勢の良い雄叫びが海原に響く中、俺は長剣を鞘に戻した後、船首へ移動し、海を眺めながらこれからの冒険に意気込んだ。
さぁ!俺の冒険は、これからだ!
fin.
と、その前に……。
*後日談
〜〜〜翌日〜〜〜
「キッド……ちょっといいかい?」
「どうした、ヘルム?そんな浮かない顔して」
「これから上陸予定の国なんだけど……」
「ああ、あの国か。それがどうかしたか?」
「たった今知ったんだけど……滅ぼされたらしい」
「……は?」
「たった一人の魔物によって……侵攻されたらしいんだ」
「はぁ!?侵攻!?しかも、たった一人の魔物にって……マジかよ……」
「ああ、君も知っている魔物によってだ」
「……で、その魔物は一体誰なんだ?オーガか?ドラゴンか?」
「いや、もっと強い魔物によってだ。噂では、その魔物は赤い眼を持っているらしい」
「赤い眼?そんな魔物、見た事も聞いた事もないぞ」
「そうだろうね……でも、僕たちの中でこの魔物について一番知っているのは、恐らく君だけだ」
「……どういう事だ?」
「名前を聞けばすぐに分かるはずだ。単刀直入に言うと……その魔物は、アミナ王妃とは姉妹に当たる」
「!?……その魔物の……リリムの名は?」
「……魔界第四王女…………デルエラ」
「!!?」
………………続く?否、fin.
12/07/11 09:42更新 / シャークドン
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