第五章
場所は変わって、ここはカリバルナ。
サフィアの救出に成功した俺は、その後サフィアを連れてカリバルナに戻ってきた。カリバルナに着いた時には既に辺りは暗くなっていた。
宴、もとい歓迎会の準備が進められる中、大広場の中心に位置する噴水の外枠の台座に腰かけている叔父さんの隣で、叔父さんにその時の事情を説明した。
「そうか……あのバランドラが……」
俺の話を聞き終えた叔父さんはあごに手を添えて呟いた。
「なぁ、叔父さん。バランドラは教団にいた頃からあんな性格だったのか?」
「いや……私が知っているバランドラはそんな男ではない。やり方こそ残虐極まりなかったが、態度は至って紳士的だった。しかし……予想だにしてなかったな……まさか、かつての敵がすぐ近くにいたとは……」
俺の質問に答えた叔父さんは、何か考え込む仕草をした。
サフィアを助けに行く時に、まさか叔父さんの因縁の人と戦うなんて思ってもなかった。俺にとってバランドラはサフィアを攫った許し難い敵だったが、同時に叔父さんの宿敵でもあった。
今思えば、俺はかつてこの国で好き勝手な真似をしていた暴君にとどめを刺したと言う事になる。もっとも、俺が直接手を下した訳じゃないんだがな……。
そんな叔父さんに、俺は安心させるように言った。
「心配する必要はないさ。バランドラは、もうこの世にはいない。叔父さんを殺そうとする奴なんか、もういないさ」
「残念だが、そうとは言い切れない」
叔父さんは苦笑いを浮かべながら言った。
「かつて、この国を追い出された教団の人間はバランドラだけではない。バランドラの悪行に自ら進んで協力した人間も少なからず存在していた。恐らく、その人間たちの数人かはまだ生きているだろう……」
そうか……教団の人間はバランドラだけじゃなかった……。
それでも俺は、叔父さんの肩を軽く叩いて言ってやった。
「気にし過ぎだぜ、叔父さん。その教団の人間たち全員が叔父さんを殺そうとしているとは限らないだろ?ちゃんと心を入れ替えて真っ当な道を選んで生きている人もいるさ!」
「……ああ、そうだと良いな……」
俺の言葉に叔父さんは微笑みながら頷いた。
そこへ……。
「キッド」
「キッドお兄ちゃん!」
二人の声が俺を呼んだ。気付くと、俺の前にサフィアとピュラがケンタウロスの背中に乗せてもらっていた。
二人は宴が始まる前であるにも関わらず、辺りに並ぶ屋台に関心を抱き、叔父さんの計らいでカリバルナの騎士を務めているケンタウロスに案内してもらっていた。
「国王様、只今戻りました」
サフィアとピュラが降りるのを確認すると、ケンタウロスは背筋を伸ばして叔父さんに敬礼した。
「おお、御苦労さま。すまないね、急なお願いをしてしまって」
「滅相もございません。国王様のお頼みとあれば、喜んで承ります」
「フフッありがとう。では、いつもの勤務に戻ってくれ。あまり頑張り過ぎないようにね」
「ハッ!それでは、失礼いたします」
ケンタウロスは深々とお辞儀をすると、人混みの中へ去って行った。ケンタウロスを見送ったピュラは楽しそうに笑っていた。
「お兄ちゃん、宴って楽しいね!見た事のないお店や食べ物がいっぱい並んでるね!」
「それは良かったが……まだ宴そのものは始まってないぞ?」
「うん、でも見てるだけでも楽しいよ!」
ピュラは人懐っこい笑みを浮かべながら見て回った店について話し始めた。
その笑みは屋台を見たからじゃなく、サフィアが無事だった事が原因だな。
サフィアが無事で嬉しい。ピュラの顔にそう書いてあるのが分かった。
ついさっき、サフィアと再会した時もピュラはサフィアに飛びついて泣きじゃくっていた。その時、ピュラにとってサフィアはどれ程大切な存在であるかが窺えた。
そう言えば、ピュラは両親を亡くして一人ぼっちになっている時に、サフィアと出会い共に旅をしていたんだよな。例え血が繋がっていないとしても、サフィアとピュラは家族の様なものだ。その大切な人が無事である事の喜ばしさは俺にも分かる。
本当に良かった……この子の元気を取り戻せて……。
「ねぇお兄ちゃん、聞いてる?」
考え事をしていた俺はピュラの声で我に戻った。ピュラは不思議そうな表情で俺を見つめていた。
「あ、ああ、悪い悪い……お!そうだ!ピュラ、ちょっと手を出してくれ」
俺の言葉にキョトンとしながらも、ピュラは右手を差し出した。俺は懐から小さい革袋を取り出してピュラの手に乗せた。
「それ、開けてみな」
俺は革袋を開けるよう催促した。ピュラは言われたように革袋を開けて中身を見た。
「……えぇ!?お兄ちゃん、これって……!?」
革袋を開いて中身を見たピュラは目を丸くしていた。
「今日はせっかくの宴だ。それで欲しい物を沢山買いな」
そう、俺がピュラに渡した革袋には数枚の金貨が入れられている。実は、この金貨はカリバルナに戻る前にバランドラの拠点から貰ってきたもので、ピュラに宴で使うお小遣いとして渡すようにあらかじめ革袋に移しておいたんだ。
「やったぁ!ありがとう!お兄ちゃん、大好き!!」
おわぁ!危ねぇ!
ピュラは俺の胸に飛びついてきた。勢い余って後ろの噴水に落ちそうになったが、俺はなんとか踏ん張り、甘えてくる子猫の様に擦り寄ってくるピュラの頭を撫でた。
「………………」
…………ん?
こっちに向けられている視線に気付いた俺はその方向を見てみる。そこでサフィアが微笑ましく俺を見ていた。
そんなに見つめられると、恥ずかしいんだが……。
「…………キッド、あれからずっと変わってないですね」
「え?変わってないって?」
思わず聞き返した俺に、サフィアは……。
「相変わらず、優しいですね」
…………グハァ!その笑顔は反則だろぉ……!!
俺は仰け反ってしまいそうな衝動を必死で抑えた。ついでに顔も真っ赤になってる……多分。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
挙句の果てにピュラにまで心配された……なんか、隣に座っている叔父さんは笑いを堪えているし……。
「……でも、本当に良かったね。長い年月を経て、ようやく再会できて」
笑いを堪え切った叔父さんは俺とサフィアを交互に見ながら言った。
そうだ……俺は5年間ずっとサフィアとの再会を夢見ていた。形がどうであれ、俺はようやくサフィアと会えた。これ程嬉しい事は無い。
俺は気付かれない様にサフィアへ視線を移した。
……俺はサフィアをどう思っているのか……初めて会って、共に日々を過ごした時から、自分自身でも分かっていた。だが、俺は言えなかった。サフィアは人間と魔物の夫婦を祝福する使命を持っている。それも、天国にいる母の言葉を胸に、ずっと……。サフィアの事を考えると、自分の気持ちを打ち明ける事ができなかった。サフィアが俺をどう思っているかなんて分からないが、俺の個人的な問題で、サフィアを困らせたくなかった。そして結局自分の気持ちを打ち明けられず、そのまま離れ離れとなった。
一生会えないかもしれないのに、何故言わなかったのか……その後に残った後悔は計り知れないほど大きかった。その後悔を背負い、再び会える事を夢見ながら、俺は5年の歳月を経た。
そして、やっとサフィアと再会できたが、恐らくサフィアはまた旅立つだろう。多くの人間と魔物の夫婦を祝福する為に……。
俺は……また自分の気持ちを打ち明けられずにサフィアと別れるのだろうか?5年前に言えずに、後悔したのにも関わらず……。
いや……もう躊躇うのは終わりだ。俺は……この気持ちを伝える。どんな結果になろうとも……。
俺だって男だ!当たって砕けてやる!
覚悟を決めた俺はサフィアに話しかけた。
「なぁ、サフィア。よかったら、ちょっと一緒に来てくれないか?」
俺はサフィアを連れて砂浜に来た。ここは、初めてサフィアと出会った思い出の場所。ここには俺とサフィア以外に誰もいなかった。
「サフィア、ここ……憶えているか?」
「はい……ここは、初めて私たちが出会った砂浜ですね?」
サフィアは憶えてくれていたようだ。嬉しく思いながらも、俺は話を切り出した。
「あぁ……その……ありがとな」
「え?あの……ありがとうって……?」
首を傾げるサフィアに、俺は首に掛けているペンダントを見せた。
「さっきの戦いでな、俺がやられそうになった時に、このペンダントが俺を守ってくれたんだ。このペンダントが無かったら、俺は今頃ここにはいなかった。サフィア……ありがとう!」
俺はサフィアに深く頭を下げた。まずは、俺を守ってくれた礼を言いたかった。サフィアのお陰で、俺はこうして生きる事ができたのだから……。
「そ、そんな……止めてくださいよ…………でも……私の作った物がキッドのお役に立ってくれて、私も嬉しいです」
サフィアは照れ臭そうに言った。そんな仕草を見て、俺も思わず照れそうになったが、抑えてサフィアに訊いた。
「ところで……これってどんな力があるんだ?大体の事は理解したんだが……」
「え?」
俺の質問にサフィアはキョトンとした表情を浮かべた。そんなサフィアに俺は苦笑いを浮かべながら言った。
「いや、実はな……このペンダントに助けられたのは今日で初めてで、今まであんな経験した事が無かったんだ……」
サフィアは手で口元を押さえて驚愕したが、すぐに落ち着いて話し始めた。
「あの……そのペンダントにはわずかながら闘いの神アレスの力が宿っているのです。心から勝ちたいと思った時、もしくは自分の命が危機に晒される時に力が解放されるのです。その力は自身の身体能力を飛躍的に上昇させる効果があるのです」
成程……そんな力があったのか……。でも、そんな物どうやって……?
「キッドと出会う以前の事ですけど、浜辺で怪我をしたアマゾネスの子供を助けた時に、その子の母親がお礼としてその貝殻をくれたのです」
俺の疑問に答えるかのようにサフィアが説明した。
アマゾネスについては以前戦った事があるから俺も知っている。あいつらは優れた武勇を持つ戦士で、闘いの神アレスを信仰しているそうだ。そいつらから貰ったとなれば納得がいく……だが……。
「その……良かったのか?そんな凄い物、俺なんかにあげちゃって……」
このペンダントの力は実感した。だが、俺がこれ程凄い物を持ってて良いのか?などと不安に駆られたが、サフィアはそんな俺に微笑みながら言った。
「私……キッドに会った時に思ったのです。恐らく、キッドはこれから過酷な道を選んで歩んでいくのだろうと……それで私は、お節介ながらその貝殻のペンダントを作ったのです。キッドに……持っていて欲しくて……」
そこまで俺の身を案じてくれたのか…………。
俺はサフィアの優しさに心が熱くなった。
「お節介な訳ないさ。このペンダント、これからも大事にするぜ。失くしたり、誰かに盗まれたりしないように気をつけなきゃな。悪漢とかに盗まれて逆に利用されたら洒落にならないからな。」
「フフフ……心配無いですよ」
「え?」
「ペンダントにする際に、キッドが身につけている時だけ力が発揮するように私が魔法をかけて制御したのです。流石に、アレスの力が宿っている物に魔法をかけるのには苦労しましたけど……キッドの為だと思ったら頑張れました」
「……ありがとな」
サフィア……何で俺なんかに……そこまでしてくれるんだ……?
まさか…………いや、そんな訳無いよな…………何考えてるんだ、俺……馬鹿か…………。
浅はかな考えに恥を知りながらも俺は話を切り出した。
「ここで一緒に過ごした日々、今でも憶えているぜ……」
俺は海を眺め、あの日サフィアと過ごした日々を思い出しながら話し続けた。
「あの日、サフィアと出会って……色んな遊びをして……色んな話を聞いて……あの時は、本当に楽しかった……」
「……はい。私も……楽しかったです」
海を見ている為表情は分からないが、サフィアの温かい返事が聞こえた。
「だが…………あの時、サフィアに言えなかった……いや、言わなかった事があるんだ」
「え?」
俺はサフィアに向き直り、サフィアの綺麗な瞳を見ながら言った。
「あの時……サフィアと過ごしている内に気付いていた。だが、俺は言えなかった。何と言うか……その……サフィアを傷付けてしまうのが怖かった……」
サフィアは少し戸惑っているが、それでも俺は話し続けた。
「その後に残った後悔は大きかった。言いたかったのに……言えなかった……」
ふと、脳裏にサフィアと別れた日の事が過った。あの日程後悔した事は無い。だが、俺はもう二度と同じ後悔はしない。そう決めたんだ。
「俺はもう同じ事を繰り返さない。どんな結果になろうとも……サフィアが俺をどう思っていようとも……俺は…………この気持ちは……もう隠さない!」
もう覚悟は決まった。どんな結末が待ち受けていようと、俺は……この想いを伝える!
「サフィア……俺は……お前が好きだ!俺にとってサフィアは……大切な人だ!」
俺の想いは言い切った。これで後悔する事は無い。
「…………嘘…………」
サフィアはひどく驚いた表情で俺を見ている。
「嘘じゃない。俺のこの想いは本物だ」
俺は右手を胸に当てて断言した。これは紛れもない事実だ。
「……う……うぅ……」
………………え?
「ぐ……ぐすっ……ひぐっ……うっ……ぐ……うぅ」
突然、サフィアが両手で顔を覆って泣き出した……。
「あ、いや、その、す、すまない!そんなつもりじゃあ……」
……泣かせてしまった……大切な人を……泣かせてしまった…………。
いや……大切だと思っていたのは……俺だけで……サフィアにとっては……迷惑な話だった……
サフィアの気持ちに気付かないなんて……泣かせてしまうなんて……馬鹿だ……俺は……最悪だ……!
何やってんだ、俺は!
「本当にすまない!泣かせるつもりじゃなかったんだ!今のはもう忘れて……」
「嫌です!忘れません!」
「!?」
サフィアは顔を覆ったまま大声を上げた。
何でだ……!?泣く程嫌なら、忘れた方がよっぽど良いのに……。
「……キッド……私の事が好きって……本当ですか……?」
「……ああ……」
「……本当に……?」
「……ああ……」
「…………嬉しい…………」
「……え?」
「嬉しい……嬉しいです……!」
「…………サフィア……?」
「キッドォ!」
「おわぁ!?」
尻もちを着きそうな勢いでサフィアが抱きついてきた。
「ごめんなさい……私……泣いてばかりで……困らせてしまって……」
「いや……その……俺の事……嫌じゃないのか……?」
未だに状況を把握できなかった。
サフィアは俺の事……嫌じゃないのか……?
「……キッドにも意外と鈍感なところがあるのですね……」
「いや……鈍感って……」
「やっぱり行動あるのみですね。キッドの気持ちは理解できましたし……私、決めました」
サフィアは潤んだ瞳で俺の顔を見つめてきた。サフィアの頬は真っ赤に染まり、はち切れんばかりの笑顔で……。
「私の想い、受け取ってください!」
サフィアは俺の顔を引き寄せ……。
……!?……。
……重なった……。
俺とサフィアの唇が……重なった……。
俺とサフィアは……キスをした……。
サフィアが俺に……キスをした……。
満たされていく……。
心が……温かくなる……。
俺は……やっと気付いた……。
サフィアも…………俺の事が……。
今まで感じた事のない感触に酔いしれながらも、俺は瞳を閉じてサフィアの想いに応えた。離れないように、サフィアの背中に手を回して……。
どれ位の時間が経ったのか、サフィアが唇を離し恍惚な表情で俺に話した。
「離れ離れになった日から5年経っても……ずっとキッドの事が忘れられませんでした……。私も同じ様に……この想いを伝えなかった事を後悔していました……」
「サフィア……」
「私は……多くの人間と魔物が結ばれる事を願っています……例え自分自身の……心から愛する人への想いを押し殺してでも……多くの夫婦を導いていきたいと思っています……でも……」
サフィアは俺の胸に顔を埋めてきた。
「キッドが……勇気を振り絞って……私の事が好きだって……言ってくれたら…………私も…………この想いを……抑えきれなくなりました……」
サフィアは顔を上げて満面の笑みを浮かべながら言った。
「キッド、私もあなたが好きです!大好きです!!」
サフィアは再び俺の胸に顔を埋めてきた。
「私……キッドと一緒にいたい!もう……離れたくない!離したくない!ずっと、ずっと一緒にいたい!!」
「……サフィア!」
俺はもう、この愛おしさを抑える事ができなかった。俺は少しだけ力を入れてサフィアを抱き返した。この気持ちを隠さずに、思うがままに……。
「サフィア……好きだ!愛してる!!」
「はい……私も……キッドを愛してます!!」
俺たちは無我夢中に抱き合った。
俺はサフィアと結ばれた。その喜びがより一層愛しさを込み上げさせる。
「…………サフィア」
「……はい?」
「……その……もう一回…………いいか?」
「……はい。キッドとなら、喜んで…………」
俺たちは顔を見合わせ、再び唇を重ねた。
俺は決心した。
離れたくない、その想いは俺も同じだ。
だが、サフィアはこれからも多くの人間と魔物を幸せへと導きたいと思っている。その為には、様々な場所へ赴かなければならない。
だから、俺は決めた。サフィアの志を尊重する為に。
サフィアの為に、俺は……………………。
俺とサフィアは共に大広場へと向かっていた。ただ、今回ばかりは宴に参加するのはただの建前。本来の目的は俺とサフィアの重要な話を聞いてもらう為だ。
互いの意思を確認し合い、共に決めた道を大勢の仲間たちに伝えるために。
恐らく、今頃は叔父さんの少々長めのスピーチが行われているだろう。まだ俺が話す余地はある。
やがて、俺たちは目的地である大広場に着いた。
「……カリバルナの海賊は私の誇りでもあり……」
ビンゴ。王城を背景に、壇上で叔父さんのスピーチが続いていた。その右斜め後ろにて、アミナさんとヘルム、そしてピュラが椅子に座って叔父さんのスピーチを聴いていた。壇上の下に集まっている住民や俺の仲間たちも叔父さんのスピーチに耳を傾けていた。
「……よし!行くぞ、サフィア」
「……はい!」
俺はサフィアの手を引いて壇上へ向かった。
「すまねぇ、通してくれ!ちょっと、道を開けてくれ!」
人混みの中を掻い潜りながらも、俺とサフィアはやっと叔父さんたちがいる壇上に着いた。
「待ちなさい!ここから先は……って、あれ?」
叔父さんを警備する為に壇上の手前で見張っていたケンタウロスが立ち塞がろうとしたが、俺たちを見ると、少々戸惑った様子を見せた。その時、スピーチをしていた叔父さんが俺たちの存在に気がついた。
「……おお、キッドか。ちょうど今私の話が終わるところだったんだ。船長である君からも一言頼むよ。」
そう言うと、叔父さんは後方の余った椅子に座り、俺が話すのを静かに待った。
「キッド殿、サフィア殿、大変失礼致しました。どうぞ、お通りください」
ケンタウロスは俺たちにお詫びの敬礼をすると、壇上への道を開けてくれた。俺たちは壇上の階段を上って壇上の中心に移動した。今すぐにでも話したいが、その前に許可を取らなきゃならない。
「叔父さん、悪いが今日は一言だけじゃ終わらない。少しだけ時間をくれないか?どうしても話したい事があるんだ」
「…………ああ、いいとも。存分に話しなさい」
ほんの一瞬だけ驚いたものの、叔父さんはすぐに微笑んで許可をくれた。何か見通された気がしたが、今はちゃんと話さないとな。
俺は一旦住民たちを見渡し、一呼吸入れて話し始めた。
「あ〜……まずは、今日はお忙しい中お集まり戴きまして、誠にありがとうございます」
俺は話を聞いてくれている住民たちに深くお辞儀をした。
こういう堅苦しい挨拶は本当に苦手なんだが、叔父さんが開いてくれる宴で野暮な真似はできない。挨拶だけでもキチンとしないと。
「いよ、キャプテン・キッド!待ってました!」
「キッド船長〜!『野郎ども!』って言ってくれ〜!」
住民や仲間たちが声援を送ってくれる。
「キッド様〜!こっち見て手を振って〜!」
「笑って!あたしに微笑んで、キッド様〜!」
……今女の声が上がった瞬間、サフィアの嫉妬のオーラが出てきた様な……まぁ、気のせいだ。そうだよな、うん。
半ば強引に結論を出した俺は頭を上げて話を切り出した。
「実は……今日はみんなに話したい事がある」
俺の真剣な面持ちを見た住民たちは何事かと言う表情を浮かべながらも、静かに話しを聞く姿勢に入った。
「大体の人は知ってるかもしれないが、俺はカリバルナに着いて間もない時に、すぐに海へ出て海賊と戦ってきた。ここで話は大きく変わるが、俺は5年前のある日、とある人魚と出会った」
俺はサフィアと出会った日から離れ離れになる日までの話を聴かせた。住民たちの多くは興味津津と言った表情で俺の話を聴いてくれた。
「今日、その人魚が海賊に攫われた。それを聞いた俺は仲間たちを連れて人魚を助けに行った。そして激戦の末に、俺はその人魚を救出、同時に5年ぶりの再会を果たした」
そこまで話すと、俺はサフィアに隣に来るよう手招きした。サフィアは静かに頷き、俺の隣に来た。
「突然だが、紹介させてくれ。この人が、今俺が話した人魚だ。名前はサフィア。シー・ビショップと呼ばれる人魚で、人間と魔物を幸せへと導く人魚だ」
その時、シー・ビショップを目の当たりにするのが初めてなのか、住民たちがどよめいた。
「みなさん、静粛に。話はまだ終わってないよ」
叔父さんの一言で住民たちは一気に静まり返った。俺はサフィアに自己紹介を促すと、サフィアは少し恥ずかしがりながらも住民たちに言った。
「みなさん、初めまして。サフィアと申します。何卒、お見知りおき下さいませ」
サフィアがペコりと頭を下げると同時に、俺の仲間たちから拍手と歓声が上がった。
「いいぞ、サフィアさん!」
「よっ!海の聖女様!」
お前ら……ありがとよ!
仲間たちに感謝すると、周りの住民たちからも次々と拍手が上がった。それに対し、サフィアは気恥ずかしそうにもう一度頭を下げて応えた。
やがて拍手が鳴り止み、サフィアが頭を上げると同時に俺は再び話しを切り出した。
「サフィアは、今でも多くの人間と魔物が結ばれる事を願っている。だが、その為には様々な場所へ旅をする必要がある。そこで、俺はその志を尊重した上で、一つの決意を固めた」
俺は一呼吸入れて再び話した。
「今から言うのは、サフィアと互いの意思を確認した上で決めた事だ。突然の事で悪いが、心して聞いてくれ」
俺は住民たちを見渡して、誰もが耳を傾けている事を確認した。そして俺は大きく息を吸い込み、腹の底からの声で、俺とサフィアの決意を伝えた。
「俺は、これからの旅にサフィアを連れていく!ただ、それは仲間としてじゃない!夫婦としてだ!」
その瞬間、住民たちの数人かは目を丸くした。大半の人は聞き間違いかと思い込みながらも耳を傾けていた。そんな住民たちに、俺は改めて伝えた。俺とサフィアが決めた、二人で歩む道を!
「俺は、サフィアと結婚する!サフィアを妻として、永遠の愛を誓う!!」
「「えええええええええええええ!!?」」
案の定、住民たちから驚愕の叫びが上げられ、周囲は一気に騒がしくなった。
「おお!遂に船長も結婚するのか!」
「5年の歳月を経て再会し、愛が芽生えて結ばれる……ああ……素敵ね……」
「そ、そんな……うぇ〜ん!キッド様〜!!」
俺たちの結婚を喜ぶ者、戸惑う者、住民たちはそれぞれの反応を見せた。
「キ、キッド!今、なんて……!?」
ヘルムは椅子から立ち上がりひどく動揺していた。
こんなに動揺したヘルムを見たのは久しぶりだな。まぁ、唐突にこんな事言ったら当然か。
「言葉通りだ。俺はサフィアと夫婦になる!これからの旅にも連れて行くぞ!」
俺はヘルムに断言した。これが俺の意思だ。迷いなんてものは無い。
「お姉ちゃん!遂にキッドお兄ちゃんと結ばれたんだね!おめでとう!」
ピュラは愛くるしい笑みを浮かべて嬉しそうに祝福してくれた。それに対しサフィアは頬を赤く染めながらも笑顔でVサインを送って応えた。
俺は叔父さんとアミナさんへと視線を移したが、二人とも動じる事無く、まるで全てを見通したかのように温かい笑みで俺とサフィアを見守っていた。やがて叔父さんは立ち上がり、住民たちに呼びかけた。
「静粛に、みんな静粛に!気持ちは分かるが、今はちゃんとキッドの話を聴こうじゃないか」
叔父さんの言葉に、住民たちは我を取り戻したかの様に徐々に静まり返った。俺は一旦住民たちを見渡して再び話し始めた。
「俺は、サフィアと初めて会った日から共に過ごしていく内に自分の気持ちに気付いていた。だが、サフィアはより多くの人間と魔物が結ばれる事を願っている。俺の個人的な問題でサフィアを困らせたくなかった。その結果、5年かけてようやく再会するまで、俺はサフィアへの想いを伝える事ができなかった。本当に情けない話だ」
住民たちは黙然と俺の話を聴き続けた。
「だが、俺は決めた。逃げないで自分の想いを伝える事を!そして、サフィアはその想いに応えてくれた!その時、俺は決心した!例え過酷であろうとも、サフィアの意思を尊重し、なおかつ共に生きる道を選ぶ事を!」
俺は海賊として敵と戦い、様々な国や島を冒険する。サフィアは多くの人間と魔物の夫婦を導く。目的は違えど、俺とサフィアは共に旅をする事に決めた。サフィアは俺と一緒にいたいと言ってくれた。それは俺も同じだ。だから、一緒にいればいい。
それがどれ程甘い考えであるかは俺にも分かっている。だが、何時会えるか分かる事もできずに大切な人と離れるのは本当につらい事だ。俺の仲間たちが嫁を乗せてくる様に、俺もまた愛する人を船に乗せ、危険から守り、共に生きる。そう決めたんだ!この決意は揺るがない!
「俺は……いや、俺とサフィアは、みんなに応援して欲しいんだ。ここは……カリバルナは俺が生まれ育った故郷だ。ここで沢山の人たちが俺を助けてくれて、今日も旅から帰省してきた俺たちを歓迎してくれた。俺とサフィアは、そんな優しいこの国の人たちに……仲間たちに応援して欲しいんだ!」
俺は一歩前に出て住民たちを見渡しながら言った。
「俺とサフィアの門出を……見守ってくれ!」
……ほんの少しの間だけ静寂が漂う。だが、そんな静かな雰囲気もすぐに壊された。
「……よく言った」
背後から叔父さんが声をかけた。俺は思わず振り返って叔父さんへと視線を移した。
「確かに、君たちにはこれから幾つもの困難が待ち受けているだろう。だが、その迷いの無い決意は本当に大したものだ。私は、君たちの門出を心から祝おう!」
叔父さんに続いて、次はアミナさんから祝辞を述べられた。
「今ここに、人間と魔物が夫婦となった。こんなに嬉しい事はないわ。二人とも、おめでとう!」
叔父さんとアミナさんは、同時に拍手を送ってくれた。
「……連れて行くからには、ちゃんとサフィアさんを守らなきゃダメだからね?…………おめでとう」
「おめでとう!おめでとう!!」
見守る様な笑みを浮かべながら拍手を送るヘルム。まるで自分の事の様に喜んで祝福するピュラ。
それぞれの行動が住民たちに祝福させる発端となった。
「キッドー!サフィアちゃーん!おめでとー!」
「船長!アンタ、スゲェよ!男の中の男だよ!」
「何時までも幸せにねー!」
盛大なる拍手が鳴り始め、住民たちの誰もが俺たちを祝福してくれた。感謝したくても、し切れない位に。
「……うふふ……」
「……サフィア?」
静かに笑っているサフィアに視線を移した。
「今まで……数え切れない位の夫婦たちを祝福してきましたけど……」
サフィアは俺に幸せそうな笑みを見せて言った。
「祝福されるのがこんなに嬉しいなんて、初めて知りました!」
……この笑顔は、絶対に絶やさせはしない!
「では、これにより、我が国の海賊団歓迎会を兼ねた祝宴会を開催する!」
叔父さんの言葉に住民たちから歓喜の声が上がった。俺は住民たちに、心からの感謝を示した。
「ありがとうございました!!」
深くお辞儀すると同時に、その歓声はより高く響き渡った。
俺は改めて住民たちに感謝し、サフィアの下へ歩み寄った。
「……俺が必ず、幸せにしてやる。だから、一生ついてきてくれ!」
「……キッド……」
サフィアは自分の腕を俺の腕に絡ませ、愛おしい笑顔を俺に見せながら言った。
「大好き!!」
この笑顔を守る。それが俺の生きる意味だ!
続く
サフィアの救出に成功した俺は、その後サフィアを連れてカリバルナに戻ってきた。カリバルナに着いた時には既に辺りは暗くなっていた。
宴、もとい歓迎会の準備が進められる中、大広場の中心に位置する噴水の外枠の台座に腰かけている叔父さんの隣で、叔父さんにその時の事情を説明した。
「そうか……あのバランドラが……」
俺の話を聞き終えた叔父さんはあごに手を添えて呟いた。
「なぁ、叔父さん。バランドラは教団にいた頃からあんな性格だったのか?」
「いや……私が知っているバランドラはそんな男ではない。やり方こそ残虐極まりなかったが、態度は至って紳士的だった。しかし……予想だにしてなかったな……まさか、かつての敵がすぐ近くにいたとは……」
俺の質問に答えた叔父さんは、何か考え込む仕草をした。
サフィアを助けに行く時に、まさか叔父さんの因縁の人と戦うなんて思ってもなかった。俺にとってバランドラはサフィアを攫った許し難い敵だったが、同時に叔父さんの宿敵でもあった。
今思えば、俺はかつてこの国で好き勝手な真似をしていた暴君にとどめを刺したと言う事になる。もっとも、俺が直接手を下した訳じゃないんだがな……。
そんな叔父さんに、俺は安心させるように言った。
「心配する必要はないさ。バランドラは、もうこの世にはいない。叔父さんを殺そうとする奴なんか、もういないさ」
「残念だが、そうとは言い切れない」
叔父さんは苦笑いを浮かべながら言った。
「かつて、この国を追い出された教団の人間はバランドラだけではない。バランドラの悪行に自ら進んで協力した人間も少なからず存在していた。恐らく、その人間たちの数人かはまだ生きているだろう……」
そうか……教団の人間はバランドラだけじゃなかった……。
それでも俺は、叔父さんの肩を軽く叩いて言ってやった。
「気にし過ぎだぜ、叔父さん。その教団の人間たち全員が叔父さんを殺そうとしているとは限らないだろ?ちゃんと心を入れ替えて真っ当な道を選んで生きている人もいるさ!」
「……ああ、そうだと良いな……」
俺の言葉に叔父さんは微笑みながら頷いた。
そこへ……。
「キッド」
「キッドお兄ちゃん!」
二人の声が俺を呼んだ。気付くと、俺の前にサフィアとピュラがケンタウロスの背中に乗せてもらっていた。
二人は宴が始まる前であるにも関わらず、辺りに並ぶ屋台に関心を抱き、叔父さんの計らいでカリバルナの騎士を務めているケンタウロスに案内してもらっていた。
「国王様、只今戻りました」
サフィアとピュラが降りるのを確認すると、ケンタウロスは背筋を伸ばして叔父さんに敬礼した。
「おお、御苦労さま。すまないね、急なお願いをしてしまって」
「滅相もございません。国王様のお頼みとあれば、喜んで承ります」
「フフッありがとう。では、いつもの勤務に戻ってくれ。あまり頑張り過ぎないようにね」
「ハッ!それでは、失礼いたします」
ケンタウロスは深々とお辞儀をすると、人混みの中へ去って行った。ケンタウロスを見送ったピュラは楽しそうに笑っていた。
「お兄ちゃん、宴って楽しいね!見た事のないお店や食べ物がいっぱい並んでるね!」
「それは良かったが……まだ宴そのものは始まってないぞ?」
「うん、でも見てるだけでも楽しいよ!」
ピュラは人懐っこい笑みを浮かべながら見て回った店について話し始めた。
その笑みは屋台を見たからじゃなく、サフィアが無事だった事が原因だな。
サフィアが無事で嬉しい。ピュラの顔にそう書いてあるのが分かった。
ついさっき、サフィアと再会した時もピュラはサフィアに飛びついて泣きじゃくっていた。その時、ピュラにとってサフィアはどれ程大切な存在であるかが窺えた。
そう言えば、ピュラは両親を亡くして一人ぼっちになっている時に、サフィアと出会い共に旅をしていたんだよな。例え血が繋がっていないとしても、サフィアとピュラは家族の様なものだ。その大切な人が無事である事の喜ばしさは俺にも分かる。
本当に良かった……この子の元気を取り戻せて……。
「ねぇお兄ちゃん、聞いてる?」
考え事をしていた俺はピュラの声で我に戻った。ピュラは不思議そうな表情で俺を見つめていた。
「あ、ああ、悪い悪い……お!そうだ!ピュラ、ちょっと手を出してくれ」
俺の言葉にキョトンとしながらも、ピュラは右手を差し出した。俺は懐から小さい革袋を取り出してピュラの手に乗せた。
「それ、開けてみな」
俺は革袋を開けるよう催促した。ピュラは言われたように革袋を開けて中身を見た。
「……えぇ!?お兄ちゃん、これって……!?」
革袋を開いて中身を見たピュラは目を丸くしていた。
「今日はせっかくの宴だ。それで欲しい物を沢山買いな」
そう、俺がピュラに渡した革袋には数枚の金貨が入れられている。実は、この金貨はカリバルナに戻る前にバランドラの拠点から貰ってきたもので、ピュラに宴で使うお小遣いとして渡すようにあらかじめ革袋に移しておいたんだ。
「やったぁ!ありがとう!お兄ちゃん、大好き!!」
おわぁ!危ねぇ!
ピュラは俺の胸に飛びついてきた。勢い余って後ろの噴水に落ちそうになったが、俺はなんとか踏ん張り、甘えてくる子猫の様に擦り寄ってくるピュラの頭を撫でた。
「………………」
…………ん?
こっちに向けられている視線に気付いた俺はその方向を見てみる。そこでサフィアが微笑ましく俺を見ていた。
そんなに見つめられると、恥ずかしいんだが……。
「…………キッド、あれからずっと変わってないですね」
「え?変わってないって?」
思わず聞き返した俺に、サフィアは……。
「相変わらず、優しいですね」
…………グハァ!その笑顔は反則だろぉ……!!
俺は仰け反ってしまいそうな衝動を必死で抑えた。ついでに顔も真っ赤になってる……多分。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
挙句の果てにピュラにまで心配された……なんか、隣に座っている叔父さんは笑いを堪えているし……。
「……でも、本当に良かったね。長い年月を経て、ようやく再会できて」
笑いを堪え切った叔父さんは俺とサフィアを交互に見ながら言った。
そうだ……俺は5年間ずっとサフィアとの再会を夢見ていた。形がどうであれ、俺はようやくサフィアと会えた。これ程嬉しい事は無い。
俺は気付かれない様にサフィアへ視線を移した。
……俺はサフィアをどう思っているのか……初めて会って、共に日々を過ごした時から、自分自身でも分かっていた。だが、俺は言えなかった。サフィアは人間と魔物の夫婦を祝福する使命を持っている。それも、天国にいる母の言葉を胸に、ずっと……。サフィアの事を考えると、自分の気持ちを打ち明ける事ができなかった。サフィアが俺をどう思っているかなんて分からないが、俺の個人的な問題で、サフィアを困らせたくなかった。そして結局自分の気持ちを打ち明けられず、そのまま離れ離れとなった。
一生会えないかもしれないのに、何故言わなかったのか……その後に残った後悔は計り知れないほど大きかった。その後悔を背負い、再び会える事を夢見ながら、俺は5年の歳月を経た。
そして、やっとサフィアと再会できたが、恐らくサフィアはまた旅立つだろう。多くの人間と魔物の夫婦を祝福する為に……。
俺は……また自分の気持ちを打ち明けられずにサフィアと別れるのだろうか?5年前に言えずに、後悔したのにも関わらず……。
いや……もう躊躇うのは終わりだ。俺は……この気持ちを伝える。どんな結果になろうとも……。
俺だって男だ!当たって砕けてやる!
覚悟を決めた俺はサフィアに話しかけた。
「なぁ、サフィア。よかったら、ちょっと一緒に来てくれないか?」
俺はサフィアを連れて砂浜に来た。ここは、初めてサフィアと出会った思い出の場所。ここには俺とサフィア以外に誰もいなかった。
「サフィア、ここ……憶えているか?」
「はい……ここは、初めて私たちが出会った砂浜ですね?」
サフィアは憶えてくれていたようだ。嬉しく思いながらも、俺は話を切り出した。
「あぁ……その……ありがとな」
「え?あの……ありがとうって……?」
首を傾げるサフィアに、俺は首に掛けているペンダントを見せた。
「さっきの戦いでな、俺がやられそうになった時に、このペンダントが俺を守ってくれたんだ。このペンダントが無かったら、俺は今頃ここにはいなかった。サフィア……ありがとう!」
俺はサフィアに深く頭を下げた。まずは、俺を守ってくれた礼を言いたかった。サフィアのお陰で、俺はこうして生きる事ができたのだから……。
「そ、そんな……止めてくださいよ…………でも……私の作った物がキッドのお役に立ってくれて、私も嬉しいです」
サフィアは照れ臭そうに言った。そんな仕草を見て、俺も思わず照れそうになったが、抑えてサフィアに訊いた。
「ところで……これってどんな力があるんだ?大体の事は理解したんだが……」
「え?」
俺の質問にサフィアはキョトンとした表情を浮かべた。そんなサフィアに俺は苦笑いを浮かべながら言った。
「いや、実はな……このペンダントに助けられたのは今日で初めてで、今まであんな経験した事が無かったんだ……」
サフィアは手で口元を押さえて驚愕したが、すぐに落ち着いて話し始めた。
「あの……そのペンダントにはわずかながら闘いの神アレスの力が宿っているのです。心から勝ちたいと思った時、もしくは自分の命が危機に晒される時に力が解放されるのです。その力は自身の身体能力を飛躍的に上昇させる効果があるのです」
成程……そんな力があったのか……。でも、そんな物どうやって……?
「キッドと出会う以前の事ですけど、浜辺で怪我をしたアマゾネスの子供を助けた時に、その子の母親がお礼としてその貝殻をくれたのです」
俺の疑問に答えるかのようにサフィアが説明した。
アマゾネスについては以前戦った事があるから俺も知っている。あいつらは優れた武勇を持つ戦士で、闘いの神アレスを信仰しているそうだ。そいつらから貰ったとなれば納得がいく……だが……。
「その……良かったのか?そんな凄い物、俺なんかにあげちゃって……」
このペンダントの力は実感した。だが、俺がこれ程凄い物を持ってて良いのか?などと不安に駆られたが、サフィアはそんな俺に微笑みながら言った。
「私……キッドに会った時に思ったのです。恐らく、キッドはこれから過酷な道を選んで歩んでいくのだろうと……それで私は、お節介ながらその貝殻のペンダントを作ったのです。キッドに……持っていて欲しくて……」
そこまで俺の身を案じてくれたのか…………。
俺はサフィアの優しさに心が熱くなった。
「お節介な訳ないさ。このペンダント、これからも大事にするぜ。失くしたり、誰かに盗まれたりしないように気をつけなきゃな。悪漢とかに盗まれて逆に利用されたら洒落にならないからな。」
「フフフ……心配無いですよ」
「え?」
「ペンダントにする際に、キッドが身につけている時だけ力が発揮するように私が魔法をかけて制御したのです。流石に、アレスの力が宿っている物に魔法をかけるのには苦労しましたけど……キッドの為だと思ったら頑張れました」
「……ありがとな」
サフィア……何で俺なんかに……そこまでしてくれるんだ……?
まさか…………いや、そんな訳無いよな…………何考えてるんだ、俺……馬鹿か…………。
浅はかな考えに恥を知りながらも俺は話を切り出した。
「ここで一緒に過ごした日々、今でも憶えているぜ……」
俺は海を眺め、あの日サフィアと過ごした日々を思い出しながら話し続けた。
「あの日、サフィアと出会って……色んな遊びをして……色んな話を聞いて……あの時は、本当に楽しかった……」
「……はい。私も……楽しかったです」
海を見ている為表情は分からないが、サフィアの温かい返事が聞こえた。
「だが…………あの時、サフィアに言えなかった……いや、言わなかった事があるんだ」
「え?」
俺はサフィアに向き直り、サフィアの綺麗な瞳を見ながら言った。
「あの時……サフィアと過ごしている内に気付いていた。だが、俺は言えなかった。何と言うか……その……サフィアを傷付けてしまうのが怖かった……」
サフィアは少し戸惑っているが、それでも俺は話し続けた。
「その後に残った後悔は大きかった。言いたかったのに……言えなかった……」
ふと、脳裏にサフィアと別れた日の事が過った。あの日程後悔した事は無い。だが、俺はもう二度と同じ後悔はしない。そう決めたんだ。
「俺はもう同じ事を繰り返さない。どんな結果になろうとも……サフィアが俺をどう思っていようとも……俺は…………この気持ちは……もう隠さない!」
もう覚悟は決まった。どんな結末が待ち受けていようと、俺は……この想いを伝える!
「サフィア……俺は……お前が好きだ!俺にとってサフィアは……大切な人だ!」
俺の想いは言い切った。これで後悔する事は無い。
「…………嘘…………」
サフィアはひどく驚いた表情で俺を見ている。
「嘘じゃない。俺のこの想いは本物だ」
俺は右手を胸に当てて断言した。これは紛れもない事実だ。
「……う……うぅ……」
………………え?
「ぐ……ぐすっ……ひぐっ……うっ……ぐ……うぅ」
突然、サフィアが両手で顔を覆って泣き出した……。
「あ、いや、その、す、すまない!そんなつもりじゃあ……」
……泣かせてしまった……大切な人を……泣かせてしまった…………。
いや……大切だと思っていたのは……俺だけで……サフィアにとっては……迷惑な話だった……
サフィアの気持ちに気付かないなんて……泣かせてしまうなんて……馬鹿だ……俺は……最悪だ……!
何やってんだ、俺は!
「本当にすまない!泣かせるつもりじゃなかったんだ!今のはもう忘れて……」
「嫌です!忘れません!」
「!?」
サフィアは顔を覆ったまま大声を上げた。
何でだ……!?泣く程嫌なら、忘れた方がよっぽど良いのに……。
「……キッド……私の事が好きって……本当ですか……?」
「……ああ……」
「……本当に……?」
「……ああ……」
「…………嬉しい…………」
「……え?」
「嬉しい……嬉しいです……!」
「…………サフィア……?」
「キッドォ!」
「おわぁ!?」
尻もちを着きそうな勢いでサフィアが抱きついてきた。
「ごめんなさい……私……泣いてばかりで……困らせてしまって……」
「いや……その……俺の事……嫌じゃないのか……?」
未だに状況を把握できなかった。
サフィアは俺の事……嫌じゃないのか……?
「……キッドにも意外と鈍感なところがあるのですね……」
「いや……鈍感って……」
「やっぱり行動あるのみですね。キッドの気持ちは理解できましたし……私、決めました」
サフィアは潤んだ瞳で俺の顔を見つめてきた。サフィアの頬は真っ赤に染まり、はち切れんばかりの笑顔で……。
「私の想い、受け取ってください!」
サフィアは俺の顔を引き寄せ……。
……!?……。
……重なった……。
俺とサフィアの唇が……重なった……。
俺とサフィアは……キスをした……。
サフィアが俺に……キスをした……。
満たされていく……。
心が……温かくなる……。
俺は……やっと気付いた……。
サフィアも…………俺の事が……。
今まで感じた事のない感触に酔いしれながらも、俺は瞳を閉じてサフィアの想いに応えた。離れないように、サフィアの背中に手を回して……。
どれ位の時間が経ったのか、サフィアが唇を離し恍惚な表情で俺に話した。
「離れ離れになった日から5年経っても……ずっとキッドの事が忘れられませんでした……。私も同じ様に……この想いを伝えなかった事を後悔していました……」
「サフィア……」
「私は……多くの人間と魔物が結ばれる事を願っています……例え自分自身の……心から愛する人への想いを押し殺してでも……多くの夫婦を導いていきたいと思っています……でも……」
サフィアは俺の胸に顔を埋めてきた。
「キッドが……勇気を振り絞って……私の事が好きだって……言ってくれたら…………私も…………この想いを……抑えきれなくなりました……」
サフィアは顔を上げて満面の笑みを浮かべながら言った。
「キッド、私もあなたが好きです!大好きです!!」
サフィアは再び俺の胸に顔を埋めてきた。
「私……キッドと一緒にいたい!もう……離れたくない!離したくない!ずっと、ずっと一緒にいたい!!」
「……サフィア!」
俺はもう、この愛おしさを抑える事ができなかった。俺は少しだけ力を入れてサフィアを抱き返した。この気持ちを隠さずに、思うがままに……。
「サフィア……好きだ!愛してる!!」
「はい……私も……キッドを愛してます!!」
俺たちは無我夢中に抱き合った。
俺はサフィアと結ばれた。その喜びがより一層愛しさを込み上げさせる。
「…………サフィア」
「……はい?」
「……その……もう一回…………いいか?」
「……はい。キッドとなら、喜んで…………」
俺たちは顔を見合わせ、再び唇を重ねた。
俺は決心した。
離れたくない、その想いは俺も同じだ。
だが、サフィアはこれからも多くの人間と魔物を幸せへと導きたいと思っている。その為には、様々な場所へ赴かなければならない。
だから、俺は決めた。サフィアの志を尊重する為に。
サフィアの為に、俺は……………………。
俺とサフィアは共に大広場へと向かっていた。ただ、今回ばかりは宴に参加するのはただの建前。本来の目的は俺とサフィアの重要な話を聞いてもらう為だ。
互いの意思を確認し合い、共に決めた道を大勢の仲間たちに伝えるために。
恐らく、今頃は叔父さんの少々長めのスピーチが行われているだろう。まだ俺が話す余地はある。
やがて、俺たちは目的地である大広場に着いた。
「……カリバルナの海賊は私の誇りでもあり……」
ビンゴ。王城を背景に、壇上で叔父さんのスピーチが続いていた。その右斜め後ろにて、アミナさんとヘルム、そしてピュラが椅子に座って叔父さんのスピーチを聴いていた。壇上の下に集まっている住民や俺の仲間たちも叔父さんのスピーチに耳を傾けていた。
「……よし!行くぞ、サフィア」
「……はい!」
俺はサフィアの手を引いて壇上へ向かった。
「すまねぇ、通してくれ!ちょっと、道を開けてくれ!」
人混みの中を掻い潜りながらも、俺とサフィアはやっと叔父さんたちがいる壇上に着いた。
「待ちなさい!ここから先は……って、あれ?」
叔父さんを警備する為に壇上の手前で見張っていたケンタウロスが立ち塞がろうとしたが、俺たちを見ると、少々戸惑った様子を見せた。その時、スピーチをしていた叔父さんが俺たちの存在に気がついた。
「……おお、キッドか。ちょうど今私の話が終わるところだったんだ。船長である君からも一言頼むよ。」
そう言うと、叔父さんは後方の余った椅子に座り、俺が話すのを静かに待った。
「キッド殿、サフィア殿、大変失礼致しました。どうぞ、お通りください」
ケンタウロスは俺たちにお詫びの敬礼をすると、壇上への道を開けてくれた。俺たちは壇上の階段を上って壇上の中心に移動した。今すぐにでも話したいが、その前に許可を取らなきゃならない。
「叔父さん、悪いが今日は一言だけじゃ終わらない。少しだけ時間をくれないか?どうしても話したい事があるんだ」
「…………ああ、いいとも。存分に話しなさい」
ほんの一瞬だけ驚いたものの、叔父さんはすぐに微笑んで許可をくれた。何か見通された気がしたが、今はちゃんと話さないとな。
俺は一旦住民たちを見渡し、一呼吸入れて話し始めた。
「あ〜……まずは、今日はお忙しい中お集まり戴きまして、誠にありがとうございます」
俺は話を聞いてくれている住民たちに深くお辞儀をした。
こういう堅苦しい挨拶は本当に苦手なんだが、叔父さんが開いてくれる宴で野暮な真似はできない。挨拶だけでもキチンとしないと。
「いよ、キャプテン・キッド!待ってました!」
「キッド船長〜!『野郎ども!』って言ってくれ〜!」
住民や仲間たちが声援を送ってくれる。
「キッド様〜!こっち見て手を振って〜!」
「笑って!あたしに微笑んで、キッド様〜!」
……今女の声が上がった瞬間、サフィアの嫉妬のオーラが出てきた様な……まぁ、気のせいだ。そうだよな、うん。
半ば強引に結論を出した俺は頭を上げて話を切り出した。
「実は……今日はみんなに話したい事がある」
俺の真剣な面持ちを見た住民たちは何事かと言う表情を浮かべながらも、静かに話しを聞く姿勢に入った。
「大体の人は知ってるかもしれないが、俺はカリバルナに着いて間もない時に、すぐに海へ出て海賊と戦ってきた。ここで話は大きく変わるが、俺は5年前のある日、とある人魚と出会った」
俺はサフィアと出会った日から離れ離れになる日までの話を聴かせた。住民たちの多くは興味津津と言った表情で俺の話を聴いてくれた。
「今日、その人魚が海賊に攫われた。それを聞いた俺は仲間たちを連れて人魚を助けに行った。そして激戦の末に、俺はその人魚を救出、同時に5年ぶりの再会を果たした」
そこまで話すと、俺はサフィアに隣に来るよう手招きした。サフィアは静かに頷き、俺の隣に来た。
「突然だが、紹介させてくれ。この人が、今俺が話した人魚だ。名前はサフィア。シー・ビショップと呼ばれる人魚で、人間と魔物を幸せへと導く人魚だ」
その時、シー・ビショップを目の当たりにするのが初めてなのか、住民たちがどよめいた。
「みなさん、静粛に。話はまだ終わってないよ」
叔父さんの一言で住民たちは一気に静まり返った。俺はサフィアに自己紹介を促すと、サフィアは少し恥ずかしがりながらも住民たちに言った。
「みなさん、初めまして。サフィアと申します。何卒、お見知りおき下さいませ」
サフィアがペコりと頭を下げると同時に、俺の仲間たちから拍手と歓声が上がった。
「いいぞ、サフィアさん!」
「よっ!海の聖女様!」
お前ら……ありがとよ!
仲間たちに感謝すると、周りの住民たちからも次々と拍手が上がった。それに対し、サフィアは気恥ずかしそうにもう一度頭を下げて応えた。
やがて拍手が鳴り止み、サフィアが頭を上げると同時に俺は再び話しを切り出した。
「サフィアは、今でも多くの人間と魔物が結ばれる事を願っている。だが、その為には様々な場所へ旅をする必要がある。そこで、俺はその志を尊重した上で、一つの決意を固めた」
俺は一呼吸入れて再び話した。
「今から言うのは、サフィアと互いの意思を確認した上で決めた事だ。突然の事で悪いが、心して聞いてくれ」
俺は住民たちを見渡して、誰もが耳を傾けている事を確認した。そして俺は大きく息を吸い込み、腹の底からの声で、俺とサフィアの決意を伝えた。
「俺は、これからの旅にサフィアを連れていく!ただ、それは仲間としてじゃない!夫婦としてだ!」
その瞬間、住民たちの数人かは目を丸くした。大半の人は聞き間違いかと思い込みながらも耳を傾けていた。そんな住民たちに、俺は改めて伝えた。俺とサフィアが決めた、二人で歩む道を!
「俺は、サフィアと結婚する!サフィアを妻として、永遠の愛を誓う!!」
「「えええええええええええええ!!?」」
案の定、住民たちから驚愕の叫びが上げられ、周囲は一気に騒がしくなった。
「おお!遂に船長も結婚するのか!」
「5年の歳月を経て再会し、愛が芽生えて結ばれる……ああ……素敵ね……」
「そ、そんな……うぇ〜ん!キッド様〜!!」
俺たちの結婚を喜ぶ者、戸惑う者、住民たちはそれぞれの反応を見せた。
「キ、キッド!今、なんて……!?」
ヘルムは椅子から立ち上がりひどく動揺していた。
こんなに動揺したヘルムを見たのは久しぶりだな。まぁ、唐突にこんな事言ったら当然か。
「言葉通りだ。俺はサフィアと夫婦になる!これからの旅にも連れて行くぞ!」
俺はヘルムに断言した。これが俺の意思だ。迷いなんてものは無い。
「お姉ちゃん!遂にキッドお兄ちゃんと結ばれたんだね!おめでとう!」
ピュラは愛くるしい笑みを浮かべて嬉しそうに祝福してくれた。それに対しサフィアは頬を赤く染めながらも笑顔でVサインを送って応えた。
俺は叔父さんとアミナさんへと視線を移したが、二人とも動じる事無く、まるで全てを見通したかのように温かい笑みで俺とサフィアを見守っていた。やがて叔父さんは立ち上がり、住民たちに呼びかけた。
「静粛に、みんな静粛に!気持ちは分かるが、今はちゃんとキッドの話を聴こうじゃないか」
叔父さんの言葉に、住民たちは我を取り戻したかの様に徐々に静まり返った。俺は一旦住民たちを見渡して再び話し始めた。
「俺は、サフィアと初めて会った日から共に過ごしていく内に自分の気持ちに気付いていた。だが、サフィアはより多くの人間と魔物が結ばれる事を願っている。俺の個人的な問題でサフィアを困らせたくなかった。その結果、5年かけてようやく再会するまで、俺はサフィアへの想いを伝える事ができなかった。本当に情けない話だ」
住民たちは黙然と俺の話を聴き続けた。
「だが、俺は決めた。逃げないで自分の想いを伝える事を!そして、サフィアはその想いに応えてくれた!その時、俺は決心した!例え過酷であろうとも、サフィアの意思を尊重し、なおかつ共に生きる道を選ぶ事を!」
俺は海賊として敵と戦い、様々な国や島を冒険する。サフィアは多くの人間と魔物の夫婦を導く。目的は違えど、俺とサフィアは共に旅をする事に決めた。サフィアは俺と一緒にいたいと言ってくれた。それは俺も同じだ。だから、一緒にいればいい。
それがどれ程甘い考えであるかは俺にも分かっている。だが、何時会えるか分かる事もできずに大切な人と離れるのは本当につらい事だ。俺の仲間たちが嫁を乗せてくる様に、俺もまた愛する人を船に乗せ、危険から守り、共に生きる。そう決めたんだ!この決意は揺るがない!
「俺は……いや、俺とサフィアは、みんなに応援して欲しいんだ。ここは……カリバルナは俺が生まれ育った故郷だ。ここで沢山の人たちが俺を助けてくれて、今日も旅から帰省してきた俺たちを歓迎してくれた。俺とサフィアは、そんな優しいこの国の人たちに……仲間たちに応援して欲しいんだ!」
俺は一歩前に出て住民たちを見渡しながら言った。
「俺とサフィアの門出を……見守ってくれ!」
……ほんの少しの間だけ静寂が漂う。だが、そんな静かな雰囲気もすぐに壊された。
「……よく言った」
背後から叔父さんが声をかけた。俺は思わず振り返って叔父さんへと視線を移した。
「確かに、君たちにはこれから幾つもの困難が待ち受けているだろう。だが、その迷いの無い決意は本当に大したものだ。私は、君たちの門出を心から祝おう!」
叔父さんに続いて、次はアミナさんから祝辞を述べられた。
「今ここに、人間と魔物が夫婦となった。こんなに嬉しい事はないわ。二人とも、おめでとう!」
叔父さんとアミナさんは、同時に拍手を送ってくれた。
「……連れて行くからには、ちゃんとサフィアさんを守らなきゃダメだからね?…………おめでとう」
「おめでとう!おめでとう!!」
見守る様な笑みを浮かべながら拍手を送るヘルム。まるで自分の事の様に喜んで祝福するピュラ。
それぞれの行動が住民たちに祝福させる発端となった。
「キッドー!サフィアちゃーん!おめでとー!」
「船長!アンタ、スゲェよ!男の中の男だよ!」
「何時までも幸せにねー!」
盛大なる拍手が鳴り始め、住民たちの誰もが俺たちを祝福してくれた。感謝したくても、し切れない位に。
「……うふふ……」
「……サフィア?」
静かに笑っているサフィアに視線を移した。
「今まで……数え切れない位の夫婦たちを祝福してきましたけど……」
サフィアは俺に幸せそうな笑みを見せて言った。
「祝福されるのがこんなに嬉しいなんて、初めて知りました!」
……この笑顔は、絶対に絶やさせはしない!
「では、これにより、我が国の海賊団歓迎会を兼ねた祝宴会を開催する!」
叔父さんの言葉に住民たちから歓喜の声が上がった。俺は住民たちに、心からの感謝を示した。
「ありがとうございました!!」
深くお辞儀すると同時に、その歓声はより高く響き渡った。
俺は改めて住民たちに感謝し、サフィアの下へ歩み寄った。
「……俺が必ず、幸せにしてやる。だから、一生ついてきてくれ!」
「……キッド……」
サフィアは自分の腕を俺の腕に絡ませ、愛おしい笑顔を俺に見せながら言った。
「大好き!!」
この笑顔を守る。それが俺の生きる意味だ!
続く
11/09/13 20:39更新 / シャークドン
戻る
次へ