K.O!!渾身の一撃!!
ザパァン!
「よし、野朗ども!やっちまいな!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
キッドの海賊船、ブラック・モンスターから次々と武器を携えた船員たちが教団兵に挑んで行った。対する教団兵も応戦を試みるが、突然の敵の来襲に的確な対応が出来ずに苦戦を強いられてるようだ。
「奈々!大丈夫!?」
「すみません船長!僕が目を離した隙にルト君が……!」
「おう、美知代!それに武吉!こっちは大丈夫だ!」
すると、背後から美知代と武吉が慌てた様子で駆け寄ってきた。二人とも怪我はしてないようだし、何事も無かったようだ。
「ちょうど良かった。二人とも、ルトを頼む。今度はちゃんと守っててくれよ!」
「分かったわ。それにしても、どうやら形勢逆転みたいね。それも……思わぬ助っ人が来てくれたお陰で」
「あぁ、詳しい事情は分からないが、一緒に戦ってくれるみたいだ」
「まぁ、そう言う訳でよろしくな」
「え、えぇ……」
美知代と武吉もキッドの出現に驚いてるようだ。
そりゃそうか。つい数日前まで話題になってた男が目の前に現れたんだ。事実、俺だってこれでも少し驚いてる。
だがまぁ、理由はともあれ助太刀してくれるのはありがたい。ここは一先ず共闘した方が良い選択だろう。
「アンタ、確か奈々……だよな?あの兵士の軍団は俺の仲間たちに任せれば大丈夫だろう。問題はあのちょび髭のオッサンだが……」
「あぁ、気を付けろよ。ああ見えて意外とそれなりに強い」
「だろうな……」
俺とキッドは横に並んでモーガンを見据えた。モーガンの方は分かり易くも、形勢逆転されて顔に苛立ちを表している。
雑魚敵はキッドの部下たちに任せれば問題は無い。だが、厄介なのはこのモーガンだ。破壊力抜群のハンマーに奇妙な魔術……戦闘に秀でてるのは確かだ。一筋縄では勝てない。
「こうなれば……邪魔する者は一人残らず消し去ってくれる!」
モーガンは改めてハンマーを構え直し、俺とキッドを睨みつけて漆黒の殺気を放った。
とことん邪魔をされて癪に障ってるようだな。モーガンの野朗もそろそろ殺しに掛かってくるだろう。俺も本腰を入れないとな!
「……言っておくが、あのちょび髭野朗は俺が止めを刺す。それだけは譲れねぇな」
「そうか。それじゃあサポートはするが、最後は任せても良いか?」
「勿論」
俺とキッドは同じタイミングで武器を構え直し、戦闘の姿勢に入った。
キッドが一緒に戦ってくれるのはありがたいが、止めを刺す役だけはどうしても譲れない。こいつは……こいつだけは俺が倒してやらないと気が済まない。
何よりも、今まで残酷な虐待を受けてたルトの苦しみを晴らしてやらないとな!
「お喋りは終わりだ!覚悟しろ!」
こっちが色々と話してるうちに、モーガンの方から凄まじい勢いでこちらに駆け寄ってきた。
おっと、呑気に話してる場合じゃ……。
「悪いな!一番手はやらせてもらうぜ!」
「あ、おい!」
俺がモーガンを迎撃しようと思った瞬間、キッドが先陣切ってモーガンに突っ込んだ。
「うぉら!」
するとモーガンはキッドに向かってハンマーを縦に振り下ろした。鋼鉄の塊がキッドの脳天目掛けて振り下ろされる。
このまま直撃すれば一溜まりもないが……!
キィン!
「……そんなもんかよ?」
「ば、馬鹿な!剣の切っ先で……!?」
なんと、キッドは右手に持ってる長剣の切っ先でハンマーを受け止めてしまった。ハンマーと長剣……破壊力を考えればハンマーの方が圧倒的に上なのに、勢いを止められてピクリとも動かなくなってしまなんて……。
どうやらモーガンもかなりの怪力だが、キッドの腕力も相当なものなのだろう。
「ほら、腹がお留守だぜ!」
「グハァッ!」
「まだまだぁ!」
「ごぁあ!?」
その隙にキッドは左手のショットガンでモーガンの腹を撃ち抜いた。防ぎようのない攻撃に怯んでしまい、一瞬の隙が生じる。そこを突いたキッドは素早くモーガンの横面に回し蹴りをお見舞いした。
「くっ……おのれ、小僧……!」
「ほらほら、どうした?」
蹴られた反動で五、六歩程後退はしたが、倒れないようになんとか踏ん張ったようだ。しかし、しかめっ面を浮かべてるモーガンに対してキッドは余裕の笑みを浮かべている。
成程……どうやら噂通り実力も相当あるようだな……って、呑気に見てる場合じゃねぇ!
「おい、一人で勝手に楽しんでんじゃねーよ!あいつは俺が止めを刺すって言ったのによ!」
「あぁ、悪い悪い。つい出来心でな」
「何が出来心だよ、ったく……」
このままボケッと傍観してちゃ、うまいところ全部持って行かれちまう。俺は急いでキッドの隣に移動してモーガンに向き直った。
「貴様ら、図に乗るなぁ!」
「あぁ!?」
しかし、相手も黙ってない。モーガンはハンマーを上空へ投げ飛ばし、魔術でハンマーを操り一瞬だけ戸惑ってるキッドに襲い掛かった。
「うぉっ!?面白い術だな!」
「ふん!面白いのはここからよ!」
横に振られるハンマーをキッドは咄嗟に長剣で受け止めて攻撃を防いだ。
やっぱり武器が勝手に動くってのは厄介だな。迂闊に近づけない……。
……待てよ?……そうだ!このハンマーをキッドに任せれば……!
「キッド、悪いがそのハンマーの相手をしててくれないか?」
「え?アンタはどうするんだよ?」
「あの野朗をぶちのめす!」
「……よし!任せろ!」
動くハンマーは厄介だが、キッドに任せておけば楽にモーガンに近づける。それに今のモーガンは主要武器が手元に無くて思うように戦えないだろう。倒すなら今がチャンスだ!
キッドは快く引き受けてくれたし、後は俺がやるべき事をやるのみ!
それは……!
「うぉらぁぁぁ!!」
鉄砕棍を構え、ハンマーの相手をしてるキッドの横を通り抜けてモーガンに突撃する。
しかし、モーガンは眉を動かさず、懐から何か小さな物を……って、まさか!?
「うぉっと!危ねぇ!」
「ふん……」
背中からゾッとする寒気を感じると同時に、俺は身体を仰け反らせて金属棒の一撃を避けた。
そうだった……あの警棒があったんだった。高圧電流を纏ってる警棒が!
「ふっ!おっと!おわわ!うぉ!」
「ほれほれ、避けてばかりでは話にならぬぞ?」
さっき、鉄砕棍で受けた時は不覚にも電流を喰らってしまった。その事から考えて、迂闊に武器で受け止めない方が良いと判断した俺は執拗に振られてくる警棒をなんとか避け続けた。
警棒が振られる度にバチバチと電気の音が耳に入ってくる。また同じように喰らったら、その時こそ……!
「おい、どうしたんだよ!そんな武器、アンタなら簡単に弾き飛ばせるだろ!?」
「そうも行かないんだよ!この警棒、電流を纏ってて迂闊に触れないんだ!」
「……成程、そう言う事か」
勝手に動いてるハンマーの相手をしているキッドに、俺は警棒を避け続けながら答えた。
そりゃ俺だって、こんな小さな武器くらい簡単に弾けるさ。だが、電流を纏ってちゃどうしようも……!
「なぁおい!俺ならその警棒を振れずに弾き飛ばせるが、お望みなら手ぇ貸してやろうか!?」
「あぁ!?そんな事出来るのかよ!?」
「……余所見してる暇は無いぞ?」
「あ、やば!」
避け続けながら話を続けていると、モーガンは警棒を縦に振り下ろす構えに入った。
受けないように後方へ下がろうとしたら……!
「頭下げろ!」
「!?」
キッドの叫びを聞いて反射的にしゃがんでしまった。
武器は縦に振られるんだから、しゃがんでも意味が無い……と思ったのも束の間!
ドカァン!
「ぐわぁぁぁぁ!?」
突然、モーガンの手が爆発を起こし、振り下ろさせる筈だった警棒が爆発の威力で吹き飛んだ。
なんで?と思ったが、怯んでる今が一撃のチャンス!
「なろがぁ!!」
「ぐぉあああ!」
俺は腕に力を注ぎ、鉄砕棍で強力な一突きをモーガンの腹にお見舞いしてやった。
手応えあり!モーガンの身体は後方へと勢い良く飛ばされて、甲板に身体を何度も打ち付ける様に転げ回った。
「……へへ!どうよ!」
ほんの一瞬だけ視線を逸らすと、そこにはショットガンをモーガンに向けてるキッドが不敵な笑みを浮かべていた。
ハンマーの方は大丈夫なのか?と思ってたら、その心配は無さそうだ。ハンマーが甲板に横たわってるのを見るからに、モーガンが怯んだ所為で魔術が解けたんだろうな。
「……ほう……良い腕前だな」
「褒めてくれて光栄だぜ」
あの様子を見て俺は瞬時に状況を呑み込めた。
恐らく、ショットガンでモーガンの手を狙い撃ったんだろう。あの弾は爆発性のもので……最初のよりは劣るが、それでも十分な威力だったな。
「くっ!おのれ……どいつもこいつも洒落臭い!」
徐に起き上がり、血まみれ状態の右手を抑えながら睨んでくるモーガン。戦闘において手は主要なものだからな、利き手をやられたのは致命的だろうよ。
「今に見てろ!すぐに叩き潰してやるからな!」
モーガンが片手を翳すと、横たわってるハンマーが宙を浮かび、そのままモーガンの手元に戻って来た。そしてモーガンはハンマーを構えて俺たちに向かって突っ走ってくる。
どうやら魔術に頼らずに武器を使う気になったようだな。だが、二対一の状況は変わらない。
「はぁっ!」
「よっと!」
「ふっ!」
縦に振り下ろされたハンマーをかわすように、俺とキッドは左右逆に軽く跳んだ。そしてモーガンを挟み撃ちにするように取り囲み、二人同時に鉄砕棍と長剣をモーガンに振り下ろした。
しかし……!
「うらぁぁぁ!!」
「うぉっ!?」
「おわっ!?」
モーガンは重量のハンマーを目にも留まらぬ速さで振り回した。その所為で俺とキッドの攻撃は容易く弾かれてしまい、一歩間だけ退いてしまう。
「うらうらうらぁ!」
「お、うぉ!っとぉ!」
「ぬぉ……素早いな、おい!」
更にモーガンはハンマーで俺とキッドを交互に攻撃し始めた。ハンマーの打撃を鉄砕棍で防ぎつつ反撃を試みるも、動きが速過ぎて隙を突けない。
これだけデカくて重い武器を軽々と……やっぱり一筋縄じゃいかないって訳か!
こうなったら……!
「くっ!こうなりゃ……!」
このままじゃ埒が明かない……!
覚悟を決めた俺は瞬時に鉄砕棍を甲板に投げ捨てて、振り下ろされて来たハンマーの丈の部分を素手で受け止めた。
「なっ!?く、貴様……離せ!」
俺の手を振りほどこうと、モーガンはハンマーを握ったまま暴れ始めた。
どんなに抗っても無駄だ。力比べじゃ負けねぇよ!
「今だキッド!」
「おう!」
俺が呼びかけると、キッドはそれに応えるかのように片足を高く上げた。
そしてその足をモーガン目掛けて……!
「おぅら!」
「がっ!」
踵落としが見事に決まった!脳震盪が起こったのか、脳天をやられたモーガンの手に力が入らなくなり、ハンマーから手を離してしまった。
……ハンマーを奪ったとしても、またすぐに魔術で手元に戻されてしまう。
だったら……!
「こんなもの!」
二度と戻って来れないように……ハンマーを海へと投げ捨てた!鋼鉄のハンマーはクルクルと回転しながら、水飛沫を上げて海底へと沈んでいった。
あれだけ重い武器なら二度と浮かび上がってくる事は無い。それにモーガンの魔術も流石に海中には届かないだろう。
……さぁて、俺もこいつに一発喰らわしてやらねぇとな!
「うらぁ!」
「がはっ!」
「うぉっと!」
未だにクラクラ状態のモーがんの顔面を力いっぱい殴り飛ばしてやった。危うくキッドがモーガンの身体にぶつかりそうになったが、咄嗟に身を翻したお陰で巻き添えを食らわずに済んだようだ。
「あ、悪い。ちゃんと見てなかった」
「はぁ……まぁいいさ」
甲板に寝転んでる鉄砕棍を拾いながら謝ると、キッドは苦笑いを浮かべた。
だが、これで勝手に動く厄介なハンマーは無くなった。後は……!
「おい、とっとと立てよ!まだ殴り足りねぇぞ!」
「ぐほっ!ぐぅ……おのれ……!」
顔面を殴られたモーガンはよろよろと起き上がり、鼻血を流しながら俺を睨んできた。
倒すべき敵はモーガンただ一人だ!主要武器も失われた今、もはやこいつには勝機が無い!
「……じゃ、後は頼む」
「え?」
すると、キッドは長剣とショットガンを鞘に戻して後方に下がった。
一見すると戦闘放棄だと思われるが……?
「お、おい、どういうつもりだよ?」
「どうもこうも、俺はこれ以上手は出さない。まぁ、危なくなったら俺も前に出るけどな」
「なんでまた急に……?」
「俺が止めを刺しちゃダメなんだろ?」
「あ……」
そう言う事か……納得。
「すまんね。気を遣わせちまって」
「気にすんな。その代わり、悔いが残らないよう、その手でしっかりと終わらせてやれ!」
「おう!」
キッドの心遣いに感謝しつつ、俺は鉄砕棍を構えてモーガンに向き直った。
「殺してやる!貴様ら全員……あの生意気なクソガキも殺してやるぞ!」
怒りが頂点に達したのか、モーガンは手の平に炎の塊を浮かべて俺を睨みつけている。どうやら本気で殺しに掛かってくる気だな。
だが……最後の『生意気なクソガキ』ってのは聞き捨てならないな。
「おい、まさかルトの事を言ってるんじゃないだろうな?」
「そのまさかだ!私の言う事を聞かない悪童は殺してやる!私に逆らう者は皆殺しにしてやるのだ」
「ふざけんな!ルトは悪童なんかじゃねぇよ!そもそも、主神に仕える立場の人間が皆殺しとか言うのはいただけないな!」
「主神だと?そんな奴、知るか!所詮は金儲けの為の建前でしかならんのだよ!」
「は?」
建前だと?こいつ、心から主神を崇拝してる訳じゃないのか?
「教団にとって勇者は希望のようなものだ!その希望を私が作り上げれば、金と名誉を得られる!そして私が作った勇者が魔物を殺して活躍する度に、私の名誉も高まる!そう……全ては金と名誉の為なのだ!主神の言い分や理想などに興味は無い!」
「…………」
……成程な。つまりこいつは、自分の薄汚い欲だけの為に主神の名を語って悪行を働いてるって訳か。
個人的には教団は昔から好いてなかったが、今回ばかりは同情せざるを得ないぜ。こんな男の所為で名前に泥を塗られちまってるんだからな!
「ルトはな、私にとって初の門下生だったのだよ。あのガキが勇者に成り上がり、名声が各地に広がれば、その勇者を作り上げた私の名も同時に広まる筈だった!それがどうだ!?あろうことか私の下から逃げて、勇者になるのを拒んだ!あのガキは私の幸福を奪ったのだよ!これは許しがたい罪だ!」
「…………」
「今に見てろ……先ずは貴様を焼け焦がし、その次にあのガキを殺してやる!貧弱でクズの癖に、この私に逆らった罰を与えt」
ドガァッ!!
「ぐぉあっ!?」
喋り終える前に、その汚い面を素手で殴り飛ばしてやった。モーガンの身体は大きく後方へ飛ばされ、仰向けになるように倒れこんだ。
「……もう……堪忍袋の緒が切れた……!」
「……な、に……?」
ヨロヨロと起き上がりながら俺を睨んでくるモーガンの目を……今まで以上に強く睨み返した。
俺は……なにも正義を語る気は毛頭無い。俺自身、粗悪で野蛮な海賊だから正義なんて語る資格は無いからな。
だが、それでも俺の心が呼びかける。
俺の心が燃え上がる。
……こいつだけは……許してはならない!
「……これだけ言っておくが、俺はアンタを殺す気は無いから安心しな。アンタの事は大嫌いだが、それでも人の命を潰すなんて後味が悪いからな」
「……なんだと?」
「だが……ルトはアンタの下らない欲望だけの為に理不尽な暴行を受けたんだ。身体の傷は薬や治癒魔法で簡単に癒せるけどな……心の傷は薬でも魔法でも癒せないんだ。アンタにはその罪の重さを思い知ってもらう」
「……下らぬ!実に下らぬわ!利用出来る『物』を利用して何が悪い!現にあのガキは私に育てられたようなものだ!どうしようが私の勝手だろうが!」
……そう答えた時点で、モーガンの運命は決まったようなものだ。
結局は物扱いかよ!同じ人間として見てないとは……!
もはやこいつには、情けの言葉を掛けてやる価値も無い!
「どうやらテメェは……神でも仏でも救えないようだな……!」
徐に鉄砕棍を構え、両目で標的に狙いを定める。
全身に覇気を纏わせて……目の前にいる悪魔を仕留める準備が整った!
「覚悟しろ、モーガン・ギルフ!!」
蜘蛛の足の一本一本に力を込めて、モーガンに向かって突撃した。
「おのれ、海賊風情が!」
すると、モーガンは両手を翳して火の玉を俺に向かって放ってきた。熱気を纏った二つの玉が俺に襲ってくるが……それでも俺は足を止めなかった。
足止め程度で考えて放ったようだが、甘すぎるぜ。こんな炎じゃ……!
「俺は止まんねぇんだよぉ!!」
鉄砕棍を振って、二つの炎の玉を打ち消してやった。その際に熱気が手から感じられたが、そんなもの大した事は無い。
「ば、馬鹿な……!」
「馬鹿はテメェだ!」
「ごはぁっ!」
予想外の対応で目を見開いてるモーガンの肩を鉄砕棍で叩きつけてやった。
「なろがぁっ!」
「ぶっ!」
次は顔面!
「おらぁっ!」
「ぐぁっ!」
次はこめかみ!
「まだだ!」
「ごほっ!」
その次は胸!
「もういっちょ!」
「ごっ!」
その次は脇腹!
「ぶっ飛べぇ!」
「ぐぉあ!」
そして顎だ!
ガシャァン!!
怒涛の連続攻撃が見事に決まり、最後に顎を打ち上げられたモーガンの身体は樽の列に飛び込んだ。
「おぅら、こっちに来いよ!」
休ませる暇も与えはしない。
蜘蛛の糸を噴出し、樽の残骸に紛れて倒れこんでるモーガンの足に巻きつけて勢い良く引っ張り出す。
「くっ……おのれ!」
俺の下まで引っ張られたところで、モーガンが俺に向かって火の玉を放った。
「当たるかよ」
「なっ!?この距離で避けたdぐはぁ!?」
だが、俺は寸前で身体を少しだけ傾けて火の玉を避ける。そして瞬時に鉄砕棍でモーガンの腹を叩きつけてやった。
どうやらダメージが溜まってる所為で、思うように身体が動かなくなってるようだな。さっきと比べたら動きが読まれやすくなってる。
「……いいか、クソジジイ」
俺は鉄砕棍でモーガンの腹を抑えたまま話しかけた。
「金とか名誉とかを望むなとは言わねぇさ。人間なら欲しがって当然のものだ。だがな、人を虐げて得られる金や名誉なんてな、ゴミ箱に捨てられてる鼻紙よりも価値が低いんだよ!テメェはそんな価値の無いゴミを執拗に求めてたようなもんだ!そう見られても仕方ないだろ!」
「……黙れ……」
「だいたいな、ルトはテメェの欲を満たす玩具じゃねぇんだよ!ルトの人生の決定権は、ルト自身が持ってるんだ!」
「黙れ!」
モーガンは怒鳴り声を吐き散らしながら鉄砕棍を払いのけ、身体を跳ね起き上がらせて俺の鉄砕棍に掴みかかってきた。押し退けようと腕に力を入れてくるモーガンに逆らうように、俺も腕に力を入れてモーガンを押し返す。その最中でも、俺は口を閉ざそうとしなかった。
「テメェは自分の身を挺してまで仲間や部下を守った事はあるか?敵わないと分かっても、勇気を出して立ち向かおうとした事はあるか!?」
「何を言ってる……!」
「無いよな!?そりゃそうだ!自分より小さい少年を平気で痛みつけるような輩にはそんな真似は出来ない!俺はテメェの事なんてこれっぽっちも知らねぇが、これだけは言える!テメェは自分の欲に忠実すぎて、人の心と真剣に向き合おうとしてない!人の心を理解するのを避けるなんて、弱い人間のやる事だ!テメェは強くない!この世界の誰よりも弱い!」
「なんだと!」
「テメェは……ちったぁルトの心を見習うべきだな!敵わないと分かっても、怖いと思ってても……ルトは正面から立ち向かったんだ!あいつの心はテメェより強い!数倍も、数十倍も、数百倍も強い!テメェなんか足元にも及ばねぇんだよ!」
「貴様……この期に及んで侮辱するかぁ!」
怒りに満ち溢れた表情でモーガンが俺に殴りかかってきた。だが、俺は鉄砕棍から片手だけ離してその拳を受け止めた。
「この私をコケにしおって!許さん!貴様だけは許さんぞ!今ここで殺してやる!」
「……あ!?」
すると、モーガンの拳から熱いものを感じた。どうやら魔術で拳に炎を宿らせたようだ。拳を受け止めてる俺の手が徐々に熱くなってくる。
「うっ……く……」
「どうだ、熱いか?苦しいのであれば離しても良いのだぞ?」
炎が少しずつ強くなってきてるのか、手が焦げるかと思うくらい熱くなってくる。顔を歪めた俺を見るなり、モーガンは薄っすらと下衆な笑みを浮かべた。
だが、仮にも手を離したら、その瞬間にモーガンはもっと強力な炎を俺に放ってくるだろう。この至近距離でまともに喰らったら一溜まりも無い。
だったら……!
「……ねぇよ……!」
「ん?」
「……こんなの……熱くねぇよ……!」
俺はモーガンの拳を握ってる手に力を入れた。その際に炎の熱が一層伝わってきて火傷しそうになるが、それでも俺は手を離さなかった。
「フハハハハ!強がるのも大概にしろ!苦しんでるのが目に見えとるわ!」
「いや……本当に熱くないし……苦しくもねぇよ……!」
「貴様、何を……って、うぅ!」
ここでモーガンの表情に苦痛が浮かんできた。それもその筈、片手の力を更に強めてるし、手首も少しだけ捻ってるからな。
「こんなの……ルトが味わってきた理不尽な痛みと比べたら……大したこと無いな……!」
「な、何故だ!貴様の何処にこんな力が……!」
「ルトを守る為なら……この程度の熱さくらい迷わずに受け止めてやれるぜ……!」
「くっ!き、貴様!」
「こんな微妙な弱火で……俺が屈するとでも……!」
頭を徐に後方へと仰け反らせ……!
「思うなよ!」
「んがっ!」
渾身の頭突きを食らわしてやった。更にモーガンが怯んだ瞬間に鉄砕棍で顔面を殴り飛ばすと、ちょうど後方にはメインマストが立ってる。そしてモーガンの身体は背中を叩きつけるようにマストにぶつかってしまった。
「今だ!」
その一瞬の隙も見逃さない!
俺は蜘蛛の糸を噴出してモーガンの身体をマストに巻きつけた。モーガンの方もダメージが効いてて思うように抵抗できないでいるのか、瞬く間にモーガンの動きを封じてやった。
「……これでもう、逃げられねぇぞ……!」
鉄砕棍を両手で握り、ゆっくりと……そして一歩一歩確実にモーガンの下まで歩み寄る。
俺の両目に捉われてるモーガンは、もはや焦りの表情を浮かべるしかなかった。
「ま、待て!止めろ!」
「止めろだぁ?ルトに同じ事を言われても、テメェは止めなかっただろ?」
「だ、だから待て!私はもう引き返す!ルトとも二度と会わないから!」
「今更命乞いとは見苦しいぜ」
「で、では金貨二十枚……いや、三十枚やるから……」
「……もういい。喋るな。口を閉じろ」
最終的には金で解決かよ。呆れて言葉も出ないぜ。
最初から決めてた事だが……こいつには情けを掛けてやる気は毛頭無い。
「これは……ルトを酷い目に遭わせた報いだと思え!」
頭上で鉄砕棍を回転させて、勢いを増加させる。鉄砕棍が回る度に風圧が発生して回りの塵を吹き飛ばす。
そして俺は、モーガンに……ルトを苦しめた仇に……!
「止めろ!止めないか!止めt」
「うぉおおぅるぁぁあああああ!!」
ズドォォォォォォォン!!
渾身の一撃と共に、強烈な衝撃波が放たれた。
死なないように多少の手加減はしたものの、モーガンの脳天に振り下ろされた鉄砕棍からは、確かに頭蓋骨の手応えを感じた。
「……ぁ……」
そしてモーガンは頭から血を流し、白目を剥かせながらその場で力なくうな垂れた…………。
「……はっ!ザマァ見やがれ!」
鉄砕棍を甲板に突き刺し、肩をポキポキと鳴らす。今まで経験した事の無かった苦戦でもあった為か、頑丈な俺の身体も少しばかり悲鳴を上げてるように思えた。
……そうだ、敵の兵士たちは?
さっきまでモーガンとの戦闘に集中し過ぎて、教団兵の軍団の事をすっかり忘れてた。
視線を移すと、そこには教団兵の姿は一人も存在せず、キッドの仲間と思われる海賊たちが勝利の歓喜を上げていた。
どうやら教団兵は全員倒したようだ。まぁ、ドラゴンにヴァンパイアと、上級の魔物が揃っているから最初から問題無かったのかもしれないな。
「見事な一撃だな。見てて爽快だったぞ」
「おう、そりゃ良かった」
すると、今まで俺の戦闘を見守ってたキッドが俺の渾身の一撃を称えながら歩み寄ってきた。
「……で、殺す気が無いんだったら、そのオッサンはどうする?」
と、キッドは未だに蜘蛛の糸で縛られつつ気を失ってるモーガンに目配せをしながら訊いて来た。
そうだ……勝負には勝ったが、問題はモーガンをどうするかだ。
ハッキリ言うのも駄目なんだろうが、こいつだけは好きになれない。寧ろ嫌いだ。
だが、それでも此処で命を奪う気にはどうしてもなれない。どんなに嫌いな敵でも、人間の命を奪うなんて俺には出来ない。
だったら、パンツ一丁にして海に突き落としてやろうか?いや、流石に海の魔物でも、ここまで性根の腐った野朗を好きになってくれるとは思えないし……。
「なぁ、殺す気が無いんだったら放っておけば良いだろ?勝負には勝ったんだ。後は船にある食料や金品を全部盗って、適当に見放しておこうぜ」
色々と思案に暮れてると、キッドが傍から話しかけてきた。
しかし見放すとは……なんか甘やかしてるような気がしてならない。
くどいようだが、モーガンの野朗には惨い仕打ちを受けて貰わなければ気が済まない。
「放っとくだぁ?そんな甘い処置で良いのかよ?いいか、こいつはな……」
「まぁ聞けって。詳しくは理解出来てないが、アンタとオッサンの会話を聞いて大体の事情は察した」
「……だったら、あんたも分かるだろ?俺は……こいつだけはどうしても許せない!」
「確かにそのオッサンは許しがたいが、そんな奴には元から殴ってやる価値も、殺してやる価値も無いだろ?それに意味の無い暴力を振るうなんて、そのオッサンと同類だぞ」
「それは……言われてみれば、確かに……」
「だろ?もうこれ以上手を出す理由も無い。俺ら流の侮辱で見送ってやろうぜ」
……心の片隅ではモヤモヤが残ってるが、それが良い方法なのかもしれない。
確かに、これ以上手を出す理由が見つからない。何よりも、ルトの目の前で惨たらしい暴力を振るったら、それこそルトとの間に溝が出来てしまう。
殴る価値も、殺す価値も、ましてや言葉を掛けてやる価値も無い。だから見放す。
こういった罰も、アリかもしれないな……。
「……ああ、そうしよう」
「うっし!そうと決まれば……」
俺の賛同を得ると、キッドは自分の仲間たちに向き直り、大声で号令を出した。
「野朗ども!早いとこ船の食料と金品を根こそぎ集めて来い!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
勇ましい雄たけびと同時に、キッドの仲間たちによる戦利品の回収が始まった。過半数は船の中へ入り、残りは船の外部を探索し始める。
「……あぁ、言っとくが、戦利品の二割は俺たちが貰うぞ。あいつらだって懸命に戦ってくれたんだからな」
「……二割?」
「ん?多すぎるか?」
「寧ろ少ねぇよ。五割くらい貰っとけ」
「良いのか?五割って、半分だぞ」
「たりめーだ。一応俺たちを助けてくれたんだからな」
キッドは戦利品の二割を貰うつもりらしいが……少なすぎるから半分は譲る事にした。
理由はどうあれ、ピンチに陥ってた俺たちを助けてくれたんだからな……。
〜〜〜数十分後〜〜〜
「よう、終わったぞー」
「あ、奈々さん!大丈夫ですか!?痛いところは無いですか!?」
「おいおいルト、心配し過ぎだぞ。俺はこの通り元気だぞ」
「そうですか?よかった……」
「な?言った通りだろ?ウシオニの再生能力を舐めちゃいけねぇぜ」
「キッド……あんたがそれを言うか?」
戦闘が終わってから数十分後……戦利品を全部回収し終えて、気絶してるモーガンが乗ってる教団船を海流に任せて放置した俺たちは、キッド率いる海賊団と共に元居た無人島に戻っていた。
そして俺はモーガンとの戦闘による身体の怪我を美知代に手当てしてもらい、治療が終わったところで砂浜にいるルトとキッドのところまで戻って来たところだった。
「ちょうど良かったな。もうそろそろ宴の準備が出来る頃合だったんだ」
「お!美味そうな肉の匂いがするな!」
「ああ、酒もいっぱいあるぞ」
「よっし!ルト、お前も腹いっぱい食って良いからな!」
「は、はい!」
時刻はもう夜になって、俺の仲間たちは無人島の砂浜でキッドの仲間たちと協力して宴の準備を進めている。
俺の仲間たちと、キッドの仲間たちが親しくなるのに時間は掛からなかったようだ。もうすっかり打ち解けあったようで、互いに笑いあいながら楽しそうに料理をしたり、飲み物を運んでいる様子が見れた。
短い時間で仲良くなって何よりだ。ここまで来たらもう敵同士じゃなくなったようなものかもな。
キッドの方も『俺たちはもう敵じゃない。同じ志を掲げる仲間だ』と言ってきた。そう言ってくれて俺も良い気分だ。勇猛で仲間想い……そんなキッドの事は、俺自身も嫌いじゃないからな。
あ、そう言えば……。
「……そうだ。まだ聞いてない事があった」
「ん?」
ふと、今まで気になってた点を思い出し、俺は何気なくキッドに訊いてみた。
「……なぁ、今更訊くのもアレだが……なんで俺たちを助けてくれたんだ?」
そう……まだ俺たちを助けてくれた理由を聞いてなかった。
当然ながら、俺は今までキッドとは何の接点も無いし、出会った事すら無かった。仮にもキッドたちが俺たちのピンチを知ったとしても、駆けつけてやる理由もメリットも無い。
それなのに何故……?
「あぁ、それはだな……」
と、キッドが口を開いたその瞬間……。
「キッドー!」
「お兄ちゃーん!」
「おう、サフィア、ピュラ」
背後から二人の女の声が聞こえた。一人はお淑やかな女性の声だが、もう一人の方は明るい子供の声だと思えた。
不意に背後を振り返ってみると……。
「……あ!」
そこで思わず目を見開いてしまった。
そこにはシー・ビショップと思われる魔物と、その隣にはマーメイドの子供が居た。
シー・ビショップはともかく、隣のマーメイドの女の子は見た事がある……。
この子は確か……。
「あ!ウシオニさん!無事だったんだね!」
「お前は……確か夕方の……えっと、名前は……なんだっけ?」
「うん!私はピュラ!あの時はありがとう!」
やっぱりそうだ。今日の夕方に俺が助けたマーメイドの子供だ。
あの時は名前を聞くのを忘れてたんだが、この子はピュラって言うのか……。
「まさかこんな所で会えるとはな……」
「えへへ……私もビックリしちゃった。お礼のお菓子をあげに行ったら、教団の人たちと戦ってたんだから」
「ん?どういう事だ?」
教団の人たちと戦ってたって言ってるが……もしかして、さっきの教団との戦いを見てたのか?
「あのね、あの時ウシオニさんに助けてもらった後、お礼にお菓子をあげようと思って、お姉ちゃんと一緒にもう一回あの場所に行ったんだ」
「ん?そのお兄ちゃんってのは……?」
「うん、キッドお兄ちゃんの事だよ!あと、お姉ちゃんってのはサフィアお姉ちゃんの事で、キッドお兄ちゃんのお嫁さんなんだ!」
ピュラがシー・ビショップのサフィアを指差すと、サフィアはニッコリと優しく微笑みかけてきた。聖母のような温かい微笑みに対し、俺は思わず目礼をした。
ピュラのお兄ちゃんって、キッドの事だったのか。で、キッドの妻はシー・ビショップって訳か。
通りでキッドから魔物の魔力を感じると思ったら、そう言う事か。
「でね、そこでウシオニさんたちが教団の人たちと戦ってるのを見て、慌ててお兄ちゃんの船に戻ったんだ。それでお兄ちゃんにウシオニさんたちを助けるようにお願いしたら、『必ず助けてやる!』って言ってくれたんだよ!」
「ピュラの話を聞く限り、どうやら悪い海賊だとは思えなくてな。それに、大切な妹を助けてくれた恩もあるから、放っておくなんて真似は出来ないと思って駆けつけたんだ」
「そうだったのか……」
これでようやく合点がいった。今まで何の関わりも無かったキッドが駆けつけたのは、妹のピュラの頼みでもあったのか。
しかし、自分でも知らないうちにキッドが近くに居たなんてな。案外気付かないものだ。
「まぁ何はともあれ、みんな無事で本当に良かったです。教団の人たちは強いから、今回の戦いも心配してたので……」
「俺らはあんな奴らには負けないさ。そうだろ、奈々?」
「ああ!」
サフィアの言う通り、みんな無事で本当に良かった。
ただ、今回の戦いで教団の実力はしっかりと身に染みたからな。今度戦う時は、もっと気を引き締めて臨むとしよう。
「船長さーん!準備が出来ました!号令をお願いします!」
キッド海賊団の料理人である稲荷……確か、楓と言ったか。
楓が口元に手を添えてキッドに呼びかけた。どうやら宴の準備が整ったらしい。砂浜に集まってる仲間たちが、宴はまだかと言いたげに俺たちに視線を送ってくる。
「よし、今日は新しい同志と親睦を深めるぞ!と言う訳で奈々、アンタも一緒にな!」
「……ああ!」
キッドの言うとおり、俺たちはもう同志だ。
この出会いを祝して、激戦の勝利を分かち合い……!
「オメェ等!今夜は宴だぁ!!新しい同志と共に楽しむぞぉ!!」
「野朗ども!飲んで食って踊ってはしゃげ!遠慮は無用だ!特別に羽目を外しちまいな!!」
「イェェェェェェイ!!」
海賊たちの宴が……ここで始まった。
「ん?おいキッド、それはなんだ?」
「あぁ、これはカリバルナ産のビールだ。飲むか?」
「おお!一杯くれ!」
「うふふ、奈々さんはお酒が好きなんですね」
「まぁな。ん……ゴクゴクゴク……お、美味いな!もう一杯くれ!」
「……奈々、宴だからって飲みすぎないでよね?」
「良いじゃねぇか美知代!宴だから飲むんだよ!」
「そうそう!楽しまなきゃ損だろ?」
「……ねぇサフィアさん。ウチの奈々と貴方の旦那さん、似てるわね」
「あら、やっぱり貴方もそう思いますか?」
「そうね。でも貴方の旦那さんの方がちゃんと自己管理出来てるわ。それに比べて、奈々ときたら……」
「まぁまぁ、そう仰らずに美知代さんも楽しみましょう」
「そうね。折角だから私も一杯頂こうかしら」
その宴の最中だが……。
「どうだルト、美味いか?」
「はい、美味しいです」
ずっと前までは酷い虐待を受けていたルトだが……
「ほら、こっちのウィンナーも食べな」
「え?あ、ありがとうございます」
今日、ようやく呪縛から解放された……。
「あむ……美味しい……」
「お、そうそう!その調子でいっぱい食べろよ!」
今、俺に見せてるルトの満面の笑みは……
「奈々さん……」
「んー?」
「僕……こんなに楽しいの、初めてです!」
「……そうか!それじゃあもっと楽しもうぜ!」
俺にとって、何よりも温かく……愛おしいものだった…………。
「よし、野朗ども!やっちまいな!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
キッドの海賊船、ブラック・モンスターから次々と武器を携えた船員たちが教団兵に挑んで行った。対する教団兵も応戦を試みるが、突然の敵の来襲に的確な対応が出来ずに苦戦を強いられてるようだ。
「奈々!大丈夫!?」
「すみません船長!僕が目を離した隙にルト君が……!」
「おう、美知代!それに武吉!こっちは大丈夫だ!」
すると、背後から美知代と武吉が慌てた様子で駆け寄ってきた。二人とも怪我はしてないようだし、何事も無かったようだ。
「ちょうど良かった。二人とも、ルトを頼む。今度はちゃんと守っててくれよ!」
「分かったわ。それにしても、どうやら形勢逆転みたいね。それも……思わぬ助っ人が来てくれたお陰で」
「あぁ、詳しい事情は分からないが、一緒に戦ってくれるみたいだ」
「まぁ、そう言う訳でよろしくな」
「え、えぇ……」
美知代と武吉もキッドの出現に驚いてるようだ。
そりゃそうか。つい数日前まで話題になってた男が目の前に現れたんだ。事実、俺だってこれでも少し驚いてる。
だがまぁ、理由はともあれ助太刀してくれるのはありがたい。ここは一先ず共闘した方が良い選択だろう。
「アンタ、確か奈々……だよな?あの兵士の軍団は俺の仲間たちに任せれば大丈夫だろう。問題はあのちょび髭のオッサンだが……」
「あぁ、気を付けろよ。ああ見えて意外とそれなりに強い」
「だろうな……」
俺とキッドは横に並んでモーガンを見据えた。モーガンの方は分かり易くも、形勢逆転されて顔に苛立ちを表している。
雑魚敵はキッドの部下たちに任せれば問題は無い。だが、厄介なのはこのモーガンだ。破壊力抜群のハンマーに奇妙な魔術……戦闘に秀でてるのは確かだ。一筋縄では勝てない。
「こうなれば……邪魔する者は一人残らず消し去ってくれる!」
モーガンは改めてハンマーを構え直し、俺とキッドを睨みつけて漆黒の殺気を放った。
とことん邪魔をされて癪に障ってるようだな。モーガンの野朗もそろそろ殺しに掛かってくるだろう。俺も本腰を入れないとな!
「……言っておくが、あのちょび髭野朗は俺が止めを刺す。それだけは譲れねぇな」
「そうか。それじゃあサポートはするが、最後は任せても良いか?」
「勿論」
俺とキッドは同じタイミングで武器を構え直し、戦闘の姿勢に入った。
キッドが一緒に戦ってくれるのはありがたいが、止めを刺す役だけはどうしても譲れない。こいつは……こいつだけは俺が倒してやらないと気が済まない。
何よりも、今まで残酷な虐待を受けてたルトの苦しみを晴らしてやらないとな!
「お喋りは終わりだ!覚悟しろ!」
こっちが色々と話してるうちに、モーガンの方から凄まじい勢いでこちらに駆け寄ってきた。
おっと、呑気に話してる場合じゃ……。
「悪いな!一番手はやらせてもらうぜ!」
「あ、おい!」
俺がモーガンを迎撃しようと思った瞬間、キッドが先陣切ってモーガンに突っ込んだ。
「うぉら!」
するとモーガンはキッドに向かってハンマーを縦に振り下ろした。鋼鉄の塊がキッドの脳天目掛けて振り下ろされる。
このまま直撃すれば一溜まりもないが……!
キィン!
「……そんなもんかよ?」
「ば、馬鹿な!剣の切っ先で……!?」
なんと、キッドは右手に持ってる長剣の切っ先でハンマーを受け止めてしまった。ハンマーと長剣……破壊力を考えればハンマーの方が圧倒的に上なのに、勢いを止められてピクリとも動かなくなってしまなんて……。
どうやらモーガンもかなりの怪力だが、キッドの腕力も相当なものなのだろう。
「ほら、腹がお留守だぜ!」
「グハァッ!」
「まだまだぁ!」
「ごぁあ!?」
その隙にキッドは左手のショットガンでモーガンの腹を撃ち抜いた。防ぎようのない攻撃に怯んでしまい、一瞬の隙が生じる。そこを突いたキッドは素早くモーガンの横面に回し蹴りをお見舞いした。
「くっ……おのれ、小僧……!」
「ほらほら、どうした?」
蹴られた反動で五、六歩程後退はしたが、倒れないようになんとか踏ん張ったようだ。しかし、しかめっ面を浮かべてるモーガンに対してキッドは余裕の笑みを浮かべている。
成程……どうやら噂通り実力も相当あるようだな……って、呑気に見てる場合じゃねぇ!
「おい、一人で勝手に楽しんでんじゃねーよ!あいつは俺が止めを刺すって言ったのによ!」
「あぁ、悪い悪い。つい出来心でな」
「何が出来心だよ、ったく……」
このままボケッと傍観してちゃ、うまいところ全部持って行かれちまう。俺は急いでキッドの隣に移動してモーガンに向き直った。
「貴様ら、図に乗るなぁ!」
「あぁ!?」
しかし、相手も黙ってない。モーガンはハンマーを上空へ投げ飛ばし、魔術でハンマーを操り一瞬だけ戸惑ってるキッドに襲い掛かった。
「うぉっ!?面白い術だな!」
「ふん!面白いのはここからよ!」
横に振られるハンマーをキッドは咄嗟に長剣で受け止めて攻撃を防いだ。
やっぱり武器が勝手に動くってのは厄介だな。迂闊に近づけない……。
……待てよ?……そうだ!このハンマーをキッドに任せれば……!
「キッド、悪いがそのハンマーの相手をしててくれないか?」
「え?アンタはどうするんだよ?」
「あの野朗をぶちのめす!」
「……よし!任せろ!」
動くハンマーは厄介だが、キッドに任せておけば楽にモーガンに近づける。それに今のモーガンは主要武器が手元に無くて思うように戦えないだろう。倒すなら今がチャンスだ!
キッドは快く引き受けてくれたし、後は俺がやるべき事をやるのみ!
それは……!
「うぉらぁぁぁ!!」
鉄砕棍を構え、ハンマーの相手をしてるキッドの横を通り抜けてモーガンに突撃する。
しかし、モーガンは眉を動かさず、懐から何か小さな物を……って、まさか!?
「うぉっと!危ねぇ!」
「ふん……」
背中からゾッとする寒気を感じると同時に、俺は身体を仰け反らせて金属棒の一撃を避けた。
そうだった……あの警棒があったんだった。高圧電流を纏ってる警棒が!
「ふっ!おっと!おわわ!うぉ!」
「ほれほれ、避けてばかりでは話にならぬぞ?」
さっき、鉄砕棍で受けた時は不覚にも電流を喰らってしまった。その事から考えて、迂闊に武器で受け止めない方が良いと判断した俺は執拗に振られてくる警棒をなんとか避け続けた。
警棒が振られる度にバチバチと電気の音が耳に入ってくる。また同じように喰らったら、その時こそ……!
「おい、どうしたんだよ!そんな武器、アンタなら簡単に弾き飛ばせるだろ!?」
「そうも行かないんだよ!この警棒、電流を纏ってて迂闊に触れないんだ!」
「……成程、そう言う事か」
勝手に動いてるハンマーの相手をしているキッドに、俺は警棒を避け続けながら答えた。
そりゃ俺だって、こんな小さな武器くらい簡単に弾けるさ。だが、電流を纏ってちゃどうしようも……!
「なぁおい!俺ならその警棒を振れずに弾き飛ばせるが、お望みなら手ぇ貸してやろうか!?」
「あぁ!?そんな事出来るのかよ!?」
「……余所見してる暇は無いぞ?」
「あ、やば!」
避け続けながら話を続けていると、モーガンは警棒を縦に振り下ろす構えに入った。
受けないように後方へ下がろうとしたら……!
「頭下げろ!」
「!?」
キッドの叫びを聞いて反射的にしゃがんでしまった。
武器は縦に振られるんだから、しゃがんでも意味が無い……と思ったのも束の間!
ドカァン!
「ぐわぁぁぁぁ!?」
突然、モーガンの手が爆発を起こし、振り下ろさせる筈だった警棒が爆発の威力で吹き飛んだ。
なんで?と思ったが、怯んでる今が一撃のチャンス!
「なろがぁ!!」
「ぐぉあああ!」
俺は腕に力を注ぎ、鉄砕棍で強力な一突きをモーガンの腹にお見舞いしてやった。
手応えあり!モーガンの身体は後方へと勢い良く飛ばされて、甲板に身体を何度も打ち付ける様に転げ回った。
「……へへ!どうよ!」
ほんの一瞬だけ視線を逸らすと、そこにはショットガンをモーガンに向けてるキッドが不敵な笑みを浮かべていた。
ハンマーの方は大丈夫なのか?と思ってたら、その心配は無さそうだ。ハンマーが甲板に横たわってるのを見るからに、モーガンが怯んだ所為で魔術が解けたんだろうな。
「……ほう……良い腕前だな」
「褒めてくれて光栄だぜ」
あの様子を見て俺は瞬時に状況を呑み込めた。
恐らく、ショットガンでモーガンの手を狙い撃ったんだろう。あの弾は爆発性のもので……最初のよりは劣るが、それでも十分な威力だったな。
「くっ!おのれ……どいつもこいつも洒落臭い!」
徐に起き上がり、血まみれ状態の右手を抑えながら睨んでくるモーガン。戦闘において手は主要なものだからな、利き手をやられたのは致命的だろうよ。
「今に見てろ!すぐに叩き潰してやるからな!」
モーガンが片手を翳すと、横たわってるハンマーが宙を浮かび、そのままモーガンの手元に戻って来た。そしてモーガンはハンマーを構えて俺たちに向かって突っ走ってくる。
どうやら魔術に頼らずに武器を使う気になったようだな。だが、二対一の状況は変わらない。
「はぁっ!」
「よっと!」
「ふっ!」
縦に振り下ろされたハンマーをかわすように、俺とキッドは左右逆に軽く跳んだ。そしてモーガンを挟み撃ちにするように取り囲み、二人同時に鉄砕棍と長剣をモーガンに振り下ろした。
しかし……!
「うらぁぁぁ!!」
「うぉっ!?」
「おわっ!?」
モーガンは重量のハンマーを目にも留まらぬ速さで振り回した。その所為で俺とキッドの攻撃は容易く弾かれてしまい、一歩間だけ退いてしまう。
「うらうらうらぁ!」
「お、うぉ!っとぉ!」
「ぬぉ……素早いな、おい!」
更にモーガンはハンマーで俺とキッドを交互に攻撃し始めた。ハンマーの打撃を鉄砕棍で防ぎつつ反撃を試みるも、動きが速過ぎて隙を突けない。
これだけデカくて重い武器を軽々と……やっぱり一筋縄じゃいかないって訳か!
こうなったら……!
「くっ!こうなりゃ……!」
このままじゃ埒が明かない……!
覚悟を決めた俺は瞬時に鉄砕棍を甲板に投げ捨てて、振り下ろされて来たハンマーの丈の部分を素手で受け止めた。
「なっ!?く、貴様……離せ!」
俺の手を振りほどこうと、モーガンはハンマーを握ったまま暴れ始めた。
どんなに抗っても無駄だ。力比べじゃ負けねぇよ!
「今だキッド!」
「おう!」
俺が呼びかけると、キッドはそれに応えるかのように片足を高く上げた。
そしてその足をモーガン目掛けて……!
「おぅら!」
「がっ!」
踵落としが見事に決まった!脳震盪が起こったのか、脳天をやられたモーガンの手に力が入らなくなり、ハンマーから手を離してしまった。
……ハンマーを奪ったとしても、またすぐに魔術で手元に戻されてしまう。
だったら……!
「こんなもの!」
二度と戻って来れないように……ハンマーを海へと投げ捨てた!鋼鉄のハンマーはクルクルと回転しながら、水飛沫を上げて海底へと沈んでいった。
あれだけ重い武器なら二度と浮かび上がってくる事は無い。それにモーガンの魔術も流石に海中には届かないだろう。
……さぁて、俺もこいつに一発喰らわしてやらねぇとな!
「うらぁ!」
「がはっ!」
「うぉっと!」
未だにクラクラ状態のモーがんの顔面を力いっぱい殴り飛ばしてやった。危うくキッドがモーガンの身体にぶつかりそうになったが、咄嗟に身を翻したお陰で巻き添えを食らわずに済んだようだ。
「あ、悪い。ちゃんと見てなかった」
「はぁ……まぁいいさ」
甲板に寝転んでる鉄砕棍を拾いながら謝ると、キッドは苦笑いを浮かべた。
だが、これで勝手に動く厄介なハンマーは無くなった。後は……!
「おい、とっとと立てよ!まだ殴り足りねぇぞ!」
「ぐほっ!ぐぅ……おのれ……!」
顔面を殴られたモーガンはよろよろと起き上がり、鼻血を流しながら俺を睨んできた。
倒すべき敵はモーガンただ一人だ!主要武器も失われた今、もはやこいつには勝機が無い!
「……じゃ、後は頼む」
「え?」
すると、キッドは長剣とショットガンを鞘に戻して後方に下がった。
一見すると戦闘放棄だと思われるが……?
「お、おい、どういうつもりだよ?」
「どうもこうも、俺はこれ以上手は出さない。まぁ、危なくなったら俺も前に出るけどな」
「なんでまた急に……?」
「俺が止めを刺しちゃダメなんだろ?」
「あ……」
そう言う事か……納得。
「すまんね。気を遣わせちまって」
「気にすんな。その代わり、悔いが残らないよう、その手でしっかりと終わらせてやれ!」
「おう!」
キッドの心遣いに感謝しつつ、俺は鉄砕棍を構えてモーガンに向き直った。
「殺してやる!貴様ら全員……あの生意気なクソガキも殺してやるぞ!」
怒りが頂点に達したのか、モーガンは手の平に炎の塊を浮かべて俺を睨みつけている。どうやら本気で殺しに掛かってくる気だな。
だが……最後の『生意気なクソガキ』ってのは聞き捨てならないな。
「おい、まさかルトの事を言ってるんじゃないだろうな?」
「そのまさかだ!私の言う事を聞かない悪童は殺してやる!私に逆らう者は皆殺しにしてやるのだ」
「ふざけんな!ルトは悪童なんかじゃねぇよ!そもそも、主神に仕える立場の人間が皆殺しとか言うのはいただけないな!」
「主神だと?そんな奴、知るか!所詮は金儲けの為の建前でしかならんのだよ!」
「は?」
建前だと?こいつ、心から主神を崇拝してる訳じゃないのか?
「教団にとって勇者は希望のようなものだ!その希望を私が作り上げれば、金と名誉を得られる!そして私が作った勇者が魔物を殺して活躍する度に、私の名誉も高まる!そう……全ては金と名誉の為なのだ!主神の言い分や理想などに興味は無い!」
「…………」
……成程な。つまりこいつは、自分の薄汚い欲だけの為に主神の名を語って悪行を働いてるって訳か。
個人的には教団は昔から好いてなかったが、今回ばかりは同情せざるを得ないぜ。こんな男の所為で名前に泥を塗られちまってるんだからな!
「ルトはな、私にとって初の門下生だったのだよ。あのガキが勇者に成り上がり、名声が各地に広がれば、その勇者を作り上げた私の名も同時に広まる筈だった!それがどうだ!?あろうことか私の下から逃げて、勇者になるのを拒んだ!あのガキは私の幸福を奪ったのだよ!これは許しがたい罪だ!」
「…………」
「今に見てろ……先ずは貴様を焼け焦がし、その次にあのガキを殺してやる!貧弱でクズの癖に、この私に逆らった罰を与えt」
ドガァッ!!
「ぐぉあっ!?」
喋り終える前に、その汚い面を素手で殴り飛ばしてやった。モーガンの身体は大きく後方へ飛ばされ、仰向けになるように倒れこんだ。
「……もう……堪忍袋の緒が切れた……!」
「……な、に……?」
ヨロヨロと起き上がりながら俺を睨んでくるモーガンの目を……今まで以上に強く睨み返した。
俺は……なにも正義を語る気は毛頭無い。俺自身、粗悪で野蛮な海賊だから正義なんて語る資格は無いからな。
だが、それでも俺の心が呼びかける。
俺の心が燃え上がる。
……こいつだけは……許してはならない!
「……これだけ言っておくが、俺はアンタを殺す気は無いから安心しな。アンタの事は大嫌いだが、それでも人の命を潰すなんて後味が悪いからな」
「……なんだと?」
「だが……ルトはアンタの下らない欲望だけの為に理不尽な暴行を受けたんだ。身体の傷は薬や治癒魔法で簡単に癒せるけどな……心の傷は薬でも魔法でも癒せないんだ。アンタにはその罪の重さを思い知ってもらう」
「……下らぬ!実に下らぬわ!利用出来る『物』を利用して何が悪い!現にあのガキは私に育てられたようなものだ!どうしようが私の勝手だろうが!」
……そう答えた時点で、モーガンの運命は決まったようなものだ。
結局は物扱いかよ!同じ人間として見てないとは……!
もはやこいつには、情けの言葉を掛けてやる価値も無い!
「どうやらテメェは……神でも仏でも救えないようだな……!」
徐に鉄砕棍を構え、両目で標的に狙いを定める。
全身に覇気を纏わせて……目の前にいる悪魔を仕留める準備が整った!
「覚悟しろ、モーガン・ギルフ!!」
蜘蛛の足の一本一本に力を込めて、モーガンに向かって突撃した。
「おのれ、海賊風情が!」
すると、モーガンは両手を翳して火の玉を俺に向かって放ってきた。熱気を纏った二つの玉が俺に襲ってくるが……それでも俺は足を止めなかった。
足止め程度で考えて放ったようだが、甘すぎるぜ。こんな炎じゃ……!
「俺は止まんねぇんだよぉ!!」
鉄砕棍を振って、二つの炎の玉を打ち消してやった。その際に熱気が手から感じられたが、そんなもの大した事は無い。
「ば、馬鹿な……!」
「馬鹿はテメェだ!」
「ごはぁっ!」
予想外の対応で目を見開いてるモーガンの肩を鉄砕棍で叩きつけてやった。
「なろがぁっ!」
「ぶっ!」
次は顔面!
「おらぁっ!」
「ぐぁっ!」
次はこめかみ!
「まだだ!」
「ごほっ!」
その次は胸!
「もういっちょ!」
「ごっ!」
その次は脇腹!
「ぶっ飛べぇ!」
「ぐぉあ!」
そして顎だ!
ガシャァン!!
怒涛の連続攻撃が見事に決まり、最後に顎を打ち上げられたモーガンの身体は樽の列に飛び込んだ。
「おぅら、こっちに来いよ!」
休ませる暇も与えはしない。
蜘蛛の糸を噴出し、樽の残骸に紛れて倒れこんでるモーガンの足に巻きつけて勢い良く引っ張り出す。
「くっ……おのれ!」
俺の下まで引っ張られたところで、モーガンが俺に向かって火の玉を放った。
「当たるかよ」
「なっ!?この距離で避けたdぐはぁ!?」
だが、俺は寸前で身体を少しだけ傾けて火の玉を避ける。そして瞬時に鉄砕棍でモーガンの腹を叩きつけてやった。
どうやらダメージが溜まってる所為で、思うように身体が動かなくなってるようだな。さっきと比べたら動きが読まれやすくなってる。
「……いいか、クソジジイ」
俺は鉄砕棍でモーガンの腹を抑えたまま話しかけた。
「金とか名誉とかを望むなとは言わねぇさ。人間なら欲しがって当然のものだ。だがな、人を虐げて得られる金や名誉なんてな、ゴミ箱に捨てられてる鼻紙よりも価値が低いんだよ!テメェはそんな価値の無いゴミを執拗に求めてたようなもんだ!そう見られても仕方ないだろ!」
「……黙れ……」
「だいたいな、ルトはテメェの欲を満たす玩具じゃねぇんだよ!ルトの人生の決定権は、ルト自身が持ってるんだ!」
「黙れ!」
モーガンは怒鳴り声を吐き散らしながら鉄砕棍を払いのけ、身体を跳ね起き上がらせて俺の鉄砕棍に掴みかかってきた。押し退けようと腕に力を入れてくるモーガンに逆らうように、俺も腕に力を入れてモーガンを押し返す。その最中でも、俺は口を閉ざそうとしなかった。
「テメェは自分の身を挺してまで仲間や部下を守った事はあるか?敵わないと分かっても、勇気を出して立ち向かおうとした事はあるか!?」
「何を言ってる……!」
「無いよな!?そりゃそうだ!自分より小さい少年を平気で痛みつけるような輩にはそんな真似は出来ない!俺はテメェの事なんてこれっぽっちも知らねぇが、これだけは言える!テメェは自分の欲に忠実すぎて、人の心と真剣に向き合おうとしてない!人の心を理解するのを避けるなんて、弱い人間のやる事だ!テメェは強くない!この世界の誰よりも弱い!」
「なんだと!」
「テメェは……ちったぁルトの心を見習うべきだな!敵わないと分かっても、怖いと思ってても……ルトは正面から立ち向かったんだ!あいつの心はテメェより強い!数倍も、数十倍も、数百倍も強い!テメェなんか足元にも及ばねぇんだよ!」
「貴様……この期に及んで侮辱するかぁ!」
怒りに満ち溢れた表情でモーガンが俺に殴りかかってきた。だが、俺は鉄砕棍から片手だけ離してその拳を受け止めた。
「この私をコケにしおって!許さん!貴様だけは許さんぞ!今ここで殺してやる!」
「……あ!?」
すると、モーガンの拳から熱いものを感じた。どうやら魔術で拳に炎を宿らせたようだ。拳を受け止めてる俺の手が徐々に熱くなってくる。
「うっ……く……」
「どうだ、熱いか?苦しいのであれば離しても良いのだぞ?」
炎が少しずつ強くなってきてるのか、手が焦げるかと思うくらい熱くなってくる。顔を歪めた俺を見るなり、モーガンは薄っすらと下衆な笑みを浮かべた。
だが、仮にも手を離したら、その瞬間にモーガンはもっと強力な炎を俺に放ってくるだろう。この至近距離でまともに喰らったら一溜まりも無い。
だったら……!
「……ねぇよ……!」
「ん?」
「……こんなの……熱くねぇよ……!」
俺はモーガンの拳を握ってる手に力を入れた。その際に炎の熱が一層伝わってきて火傷しそうになるが、それでも俺は手を離さなかった。
「フハハハハ!強がるのも大概にしろ!苦しんでるのが目に見えとるわ!」
「いや……本当に熱くないし……苦しくもねぇよ……!」
「貴様、何を……って、うぅ!」
ここでモーガンの表情に苦痛が浮かんできた。それもその筈、片手の力を更に強めてるし、手首も少しだけ捻ってるからな。
「こんなの……ルトが味わってきた理不尽な痛みと比べたら……大したこと無いな……!」
「な、何故だ!貴様の何処にこんな力が……!」
「ルトを守る為なら……この程度の熱さくらい迷わずに受け止めてやれるぜ……!」
「くっ!き、貴様!」
「こんな微妙な弱火で……俺が屈するとでも……!」
頭を徐に後方へと仰け反らせ……!
「思うなよ!」
「んがっ!」
渾身の頭突きを食らわしてやった。更にモーガンが怯んだ瞬間に鉄砕棍で顔面を殴り飛ばすと、ちょうど後方にはメインマストが立ってる。そしてモーガンの身体は背中を叩きつけるようにマストにぶつかってしまった。
「今だ!」
その一瞬の隙も見逃さない!
俺は蜘蛛の糸を噴出してモーガンの身体をマストに巻きつけた。モーガンの方もダメージが効いてて思うように抵抗できないでいるのか、瞬く間にモーガンの動きを封じてやった。
「……これでもう、逃げられねぇぞ……!」
鉄砕棍を両手で握り、ゆっくりと……そして一歩一歩確実にモーガンの下まで歩み寄る。
俺の両目に捉われてるモーガンは、もはや焦りの表情を浮かべるしかなかった。
「ま、待て!止めろ!」
「止めろだぁ?ルトに同じ事を言われても、テメェは止めなかっただろ?」
「だ、だから待て!私はもう引き返す!ルトとも二度と会わないから!」
「今更命乞いとは見苦しいぜ」
「で、では金貨二十枚……いや、三十枚やるから……」
「……もういい。喋るな。口を閉じろ」
最終的には金で解決かよ。呆れて言葉も出ないぜ。
最初から決めてた事だが……こいつには情けを掛けてやる気は毛頭無い。
「これは……ルトを酷い目に遭わせた報いだと思え!」
頭上で鉄砕棍を回転させて、勢いを増加させる。鉄砕棍が回る度に風圧が発生して回りの塵を吹き飛ばす。
そして俺は、モーガンに……ルトを苦しめた仇に……!
「止めろ!止めないか!止めt」
「うぉおおぅるぁぁあああああ!!」
ズドォォォォォォォン!!
渾身の一撃と共に、強烈な衝撃波が放たれた。
死なないように多少の手加減はしたものの、モーガンの脳天に振り下ろされた鉄砕棍からは、確かに頭蓋骨の手応えを感じた。
「……ぁ……」
そしてモーガンは頭から血を流し、白目を剥かせながらその場で力なくうな垂れた…………。
「……はっ!ザマァ見やがれ!」
鉄砕棍を甲板に突き刺し、肩をポキポキと鳴らす。今まで経験した事の無かった苦戦でもあった為か、頑丈な俺の身体も少しばかり悲鳴を上げてるように思えた。
……そうだ、敵の兵士たちは?
さっきまでモーガンとの戦闘に集中し過ぎて、教団兵の軍団の事をすっかり忘れてた。
視線を移すと、そこには教団兵の姿は一人も存在せず、キッドの仲間と思われる海賊たちが勝利の歓喜を上げていた。
どうやら教団兵は全員倒したようだ。まぁ、ドラゴンにヴァンパイアと、上級の魔物が揃っているから最初から問題無かったのかもしれないな。
「見事な一撃だな。見てて爽快だったぞ」
「おう、そりゃ良かった」
すると、今まで俺の戦闘を見守ってたキッドが俺の渾身の一撃を称えながら歩み寄ってきた。
「……で、殺す気が無いんだったら、そのオッサンはどうする?」
と、キッドは未だに蜘蛛の糸で縛られつつ気を失ってるモーガンに目配せをしながら訊いて来た。
そうだ……勝負には勝ったが、問題はモーガンをどうするかだ。
ハッキリ言うのも駄目なんだろうが、こいつだけは好きになれない。寧ろ嫌いだ。
だが、それでも此処で命を奪う気にはどうしてもなれない。どんなに嫌いな敵でも、人間の命を奪うなんて俺には出来ない。
だったら、パンツ一丁にして海に突き落としてやろうか?いや、流石に海の魔物でも、ここまで性根の腐った野朗を好きになってくれるとは思えないし……。
「なぁ、殺す気が無いんだったら放っておけば良いだろ?勝負には勝ったんだ。後は船にある食料や金品を全部盗って、適当に見放しておこうぜ」
色々と思案に暮れてると、キッドが傍から話しかけてきた。
しかし見放すとは……なんか甘やかしてるような気がしてならない。
くどいようだが、モーガンの野朗には惨い仕打ちを受けて貰わなければ気が済まない。
「放っとくだぁ?そんな甘い処置で良いのかよ?いいか、こいつはな……」
「まぁ聞けって。詳しくは理解出来てないが、アンタとオッサンの会話を聞いて大体の事情は察した」
「……だったら、あんたも分かるだろ?俺は……こいつだけはどうしても許せない!」
「確かにそのオッサンは許しがたいが、そんな奴には元から殴ってやる価値も、殺してやる価値も無いだろ?それに意味の無い暴力を振るうなんて、そのオッサンと同類だぞ」
「それは……言われてみれば、確かに……」
「だろ?もうこれ以上手を出す理由も無い。俺ら流の侮辱で見送ってやろうぜ」
……心の片隅ではモヤモヤが残ってるが、それが良い方法なのかもしれない。
確かに、これ以上手を出す理由が見つからない。何よりも、ルトの目の前で惨たらしい暴力を振るったら、それこそルトとの間に溝が出来てしまう。
殴る価値も、殺す価値も、ましてや言葉を掛けてやる価値も無い。だから見放す。
こういった罰も、アリかもしれないな……。
「……ああ、そうしよう」
「うっし!そうと決まれば……」
俺の賛同を得ると、キッドは自分の仲間たちに向き直り、大声で号令を出した。
「野朗ども!早いとこ船の食料と金品を根こそぎ集めて来い!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
勇ましい雄たけびと同時に、キッドの仲間たちによる戦利品の回収が始まった。過半数は船の中へ入り、残りは船の外部を探索し始める。
「……あぁ、言っとくが、戦利品の二割は俺たちが貰うぞ。あいつらだって懸命に戦ってくれたんだからな」
「……二割?」
「ん?多すぎるか?」
「寧ろ少ねぇよ。五割くらい貰っとけ」
「良いのか?五割って、半分だぞ」
「たりめーだ。一応俺たちを助けてくれたんだからな」
キッドは戦利品の二割を貰うつもりらしいが……少なすぎるから半分は譲る事にした。
理由はどうあれ、ピンチに陥ってた俺たちを助けてくれたんだからな……。
〜〜〜数十分後〜〜〜
「よう、終わったぞー」
「あ、奈々さん!大丈夫ですか!?痛いところは無いですか!?」
「おいおいルト、心配し過ぎだぞ。俺はこの通り元気だぞ」
「そうですか?よかった……」
「な?言った通りだろ?ウシオニの再生能力を舐めちゃいけねぇぜ」
「キッド……あんたがそれを言うか?」
戦闘が終わってから数十分後……戦利品を全部回収し終えて、気絶してるモーガンが乗ってる教団船を海流に任せて放置した俺たちは、キッド率いる海賊団と共に元居た無人島に戻っていた。
そして俺はモーガンとの戦闘による身体の怪我を美知代に手当てしてもらい、治療が終わったところで砂浜にいるルトとキッドのところまで戻って来たところだった。
「ちょうど良かったな。もうそろそろ宴の準備が出来る頃合だったんだ」
「お!美味そうな肉の匂いがするな!」
「ああ、酒もいっぱいあるぞ」
「よっし!ルト、お前も腹いっぱい食って良いからな!」
「は、はい!」
時刻はもう夜になって、俺の仲間たちは無人島の砂浜でキッドの仲間たちと協力して宴の準備を進めている。
俺の仲間たちと、キッドの仲間たちが親しくなるのに時間は掛からなかったようだ。もうすっかり打ち解けあったようで、互いに笑いあいながら楽しそうに料理をしたり、飲み物を運んでいる様子が見れた。
短い時間で仲良くなって何よりだ。ここまで来たらもう敵同士じゃなくなったようなものかもな。
キッドの方も『俺たちはもう敵じゃない。同じ志を掲げる仲間だ』と言ってきた。そう言ってくれて俺も良い気分だ。勇猛で仲間想い……そんなキッドの事は、俺自身も嫌いじゃないからな。
あ、そう言えば……。
「……そうだ。まだ聞いてない事があった」
「ん?」
ふと、今まで気になってた点を思い出し、俺は何気なくキッドに訊いてみた。
「……なぁ、今更訊くのもアレだが……なんで俺たちを助けてくれたんだ?」
そう……まだ俺たちを助けてくれた理由を聞いてなかった。
当然ながら、俺は今までキッドとは何の接点も無いし、出会った事すら無かった。仮にもキッドたちが俺たちのピンチを知ったとしても、駆けつけてやる理由もメリットも無い。
それなのに何故……?
「あぁ、それはだな……」
と、キッドが口を開いたその瞬間……。
「キッドー!」
「お兄ちゃーん!」
「おう、サフィア、ピュラ」
背後から二人の女の声が聞こえた。一人はお淑やかな女性の声だが、もう一人の方は明るい子供の声だと思えた。
不意に背後を振り返ってみると……。
「……あ!」
そこで思わず目を見開いてしまった。
そこにはシー・ビショップと思われる魔物と、その隣にはマーメイドの子供が居た。
シー・ビショップはともかく、隣のマーメイドの女の子は見た事がある……。
この子は確か……。
「あ!ウシオニさん!無事だったんだね!」
「お前は……確か夕方の……えっと、名前は……なんだっけ?」
「うん!私はピュラ!あの時はありがとう!」
やっぱりそうだ。今日の夕方に俺が助けたマーメイドの子供だ。
あの時は名前を聞くのを忘れてたんだが、この子はピュラって言うのか……。
「まさかこんな所で会えるとはな……」
「えへへ……私もビックリしちゃった。お礼のお菓子をあげに行ったら、教団の人たちと戦ってたんだから」
「ん?どういう事だ?」
教団の人たちと戦ってたって言ってるが……もしかして、さっきの教団との戦いを見てたのか?
「あのね、あの時ウシオニさんに助けてもらった後、お礼にお菓子をあげようと思って、お姉ちゃんと一緒にもう一回あの場所に行ったんだ」
「ん?そのお兄ちゃんってのは……?」
「うん、キッドお兄ちゃんの事だよ!あと、お姉ちゃんってのはサフィアお姉ちゃんの事で、キッドお兄ちゃんのお嫁さんなんだ!」
ピュラがシー・ビショップのサフィアを指差すと、サフィアはニッコリと優しく微笑みかけてきた。聖母のような温かい微笑みに対し、俺は思わず目礼をした。
ピュラのお兄ちゃんって、キッドの事だったのか。で、キッドの妻はシー・ビショップって訳か。
通りでキッドから魔物の魔力を感じると思ったら、そう言う事か。
「でね、そこでウシオニさんたちが教団の人たちと戦ってるのを見て、慌ててお兄ちゃんの船に戻ったんだ。それでお兄ちゃんにウシオニさんたちを助けるようにお願いしたら、『必ず助けてやる!』って言ってくれたんだよ!」
「ピュラの話を聞く限り、どうやら悪い海賊だとは思えなくてな。それに、大切な妹を助けてくれた恩もあるから、放っておくなんて真似は出来ないと思って駆けつけたんだ」
「そうだったのか……」
これでようやく合点がいった。今まで何の関わりも無かったキッドが駆けつけたのは、妹のピュラの頼みでもあったのか。
しかし、自分でも知らないうちにキッドが近くに居たなんてな。案外気付かないものだ。
「まぁ何はともあれ、みんな無事で本当に良かったです。教団の人たちは強いから、今回の戦いも心配してたので……」
「俺らはあんな奴らには負けないさ。そうだろ、奈々?」
「ああ!」
サフィアの言う通り、みんな無事で本当に良かった。
ただ、今回の戦いで教団の実力はしっかりと身に染みたからな。今度戦う時は、もっと気を引き締めて臨むとしよう。
「船長さーん!準備が出来ました!号令をお願いします!」
キッド海賊団の料理人である稲荷……確か、楓と言ったか。
楓が口元に手を添えてキッドに呼びかけた。どうやら宴の準備が整ったらしい。砂浜に集まってる仲間たちが、宴はまだかと言いたげに俺たちに視線を送ってくる。
「よし、今日は新しい同志と親睦を深めるぞ!と言う訳で奈々、アンタも一緒にな!」
「……ああ!」
キッドの言うとおり、俺たちはもう同志だ。
この出会いを祝して、激戦の勝利を分かち合い……!
「オメェ等!今夜は宴だぁ!!新しい同志と共に楽しむぞぉ!!」
「野朗ども!飲んで食って踊ってはしゃげ!遠慮は無用だ!特別に羽目を外しちまいな!!」
「イェェェェェェイ!!」
海賊たちの宴が……ここで始まった。
「ん?おいキッド、それはなんだ?」
「あぁ、これはカリバルナ産のビールだ。飲むか?」
「おお!一杯くれ!」
「うふふ、奈々さんはお酒が好きなんですね」
「まぁな。ん……ゴクゴクゴク……お、美味いな!もう一杯くれ!」
「……奈々、宴だからって飲みすぎないでよね?」
「良いじゃねぇか美知代!宴だから飲むんだよ!」
「そうそう!楽しまなきゃ損だろ?」
「……ねぇサフィアさん。ウチの奈々と貴方の旦那さん、似てるわね」
「あら、やっぱり貴方もそう思いますか?」
「そうね。でも貴方の旦那さんの方がちゃんと自己管理出来てるわ。それに比べて、奈々ときたら……」
「まぁまぁ、そう仰らずに美知代さんも楽しみましょう」
「そうね。折角だから私も一杯頂こうかしら」
その宴の最中だが……。
「どうだルト、美味いか?」
「はい、美味しいです」
ずっと前までは酷い虐待を受けていたルトだが……
「ほら、こっちのウィンナーも食べな」
「え?あ、ありがとうございます」
今日、ようやく呪縛から解放された……。
「あむ……美味しい……」
「お、そうそう!その調子でいっぱい食べろよ!」
今、俺に見せてるルトの満面の笑みは……
「奈々さん……」
「んー?」
「僕……こんなに楽しいの、初めてです!」
「……そうか!それじゃあもっと楽しもうぜ!」
俺にとって、何よりも温かく……愛おしいものだった…………。
13/03/16 21:09更新 / シャークドン
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