幼き王女と海賊王女のきままな一日
「ついた〜!」
「ここがシャルミッシか……大きな街だね」
「早速色々と見て回るか」
「せやな。しかし、中々楽しそうな街やな」
現在13時。
私たちはシャルミッシと言う大きな街を訪れていた。
シャルミッシとは親魔物領の大きな街で商売が盛んな街としても有名である。そこで折角だから旅に必要な物を買い揃える為に寄る事になったのだ。
「あのお店で売ってるジャガイモ安い!ここで買っておこうかな?」
「あ!アイスクリームやさんだ!サマリお姉ちゃん、一つかってもいい?」
「アメリちゃん、先ずは旅に必要な食材を買ってからだよ。アイスはその後に買ってあげるから」
「うん、わかった!」
「へぇ、武器屋なんて店もあるんだな」
「ん?なんや、ユウロ?新しく武器でも買うつもりか?」
「まさか、俺にはこの木刀だけで十分だ」
そして私たちは街の店を色々と見回りながら歩いている。
見たところお店で売られてる商品はどれも安い。商売が盛んで有名なだけはある。
「号外!号外だよー!」
「ん?」
すると、ハーピーと思われる魔物が大声で叫びながら新聞を配っていた。どうやら配られているのは号外の新聞らしい。
でも号外と言う事は……何か大きな事件でも起きたのだろうか?
「号外だって。何があったんだろう……」
「とりあえず、あのハーピーのお姉ちゃんに一まいもらってみよう」
「そうだな。すいませーん、一枚くださーい!」
「はいはい、どうぞ!」
号外の記事の内容を確認する為にハーピーの下へ歩み寄ると、ハーピーはユウロに号外の記事を手渡した。そして皆で一緒に号外の記事を見てみると……。
「なになに……『無敵の黒ひげ海賊団、教団の戦艦を無傷で沈没!伝説の名に偽り無し!』……海賊か……」
「教団の戦艦を!?戦艦って、かなり強いんでしょ?それを無傷で沈めるなんて……」
「けっこうつよいんだね……!」
なんと、黒ひげ海賊団と言う海賊が教団の戦艦を沈めたとの事。見出しのすぐ下には、黒くて長い髭を生やした中年の男の人が描かれている……いかにも海賊と言った感じの人だ。恐らく、この人がその黒ひげだろう。
教団の人たちでさえ強いのが沢山いるのに、戦艦ごと沈めてしまうなんて……相当の実力者なのだろう。
「あぁ、黒ひげ海賊団か……確かにあいつらなら余裕で出来るわ」
「え?カリンお姉ちゃん、黒ひげ海ぞく団を知ってるの?」
すると、何やらカリンが納得したかのように呟いた。
この反応からして、どうやら黒ひげ海賊団について知ってそうだけど……。
「ああ、実際に会った事は無いけどな。黒ひげ海賊団の船長を務めてるティーチ・ディスパー……通称黒ひげは極悪非道の海賊だと言われてるんや」
「極悪非道?」
「あくまで噂なんやけど、金や名声を得るためには女子供も容赦なく殺したり、自分の部下でさえ平気で見殺しにする男なんや。あと、これも噂なんやけど、教団の勇者の手足を縄で縛ったうえに、首に大砲の弾が付いた鎖を括り付けて、暗い海へ沈めたらしいんや」
「えぇ……なんだかこわいね……」
黒ひげの噂を聞いたアメリちゃんは、ちょっと怯えた表情を浮かべながら私の足にしがみ付いた。
でも、その話が本当だとしたらとんでもなく恐ろしい人なのだろう。号外の記事に描かれてる黒ひげの顔も、凄く悪そうに見えるし……。
「ただなぁ、この黒ひげについては情報が曖昧なんや」
「え?どう言う事?」
しかし、カリンが言うには黒ひげの情報は曖昧との事。
「それがな、悪い噂だけやなくて、良い噂まで流れてるんや。話によると、教団の勇者に殺されかけた魔物の子供を助けたそうやで」
「え?それ本当なの?だとしたら良い人だと思うんだけど……」
「いや、噂やから確証は持てないんや。本当なのかどうかも疑わしくてな……とにかく、こういった得体の知れない輩には近付かない方がええで。触らぬ神に祟り無しや」
「うん……まぁ確かにそうかもね」
魔物の子供を助けた……それだけ聞けば良い人だと思われるけど、噂は噂。そう簡単に信じ込むのは止めた方が良いだろう。
……あ、そうだ。海賊と言えば……。
「海賊か……そう言えばキッドさんたち、元気にしてるかな?」
ふと、頭の中にキッドさんたちの姿が思い浮かんだ。
「キッドさんか……今もどこかで仲間たちと一緒に冒険してるのかもな」
「ピュラ、元気にしてるかな……会いたいな……」
「また会おうって約束したんでしょ?それなら必ず会えるよ」
「うん!」
キッドさんは、旅の途中で無人島で遭難してた私たちを助けてくれた海賊だ。キッドさんの船、ブラック・モンスターに乗った日々の事は今でも憶えてる。
アメリちゃんにはピュラちゃんと言うマーメイドの友達が出来たり、ユウロは海賊の戦闘を経験して強くなったり、私は楓さんから料理を教わったりと、本当に充実した航海だった。お陰で私の海賊のイメージが少しだけ良くなったように思えた。まぁでも、キッドさんたちみたいな海賊の方が珍しいのだろうけど……。
「なぁ、ウチだけ話の内容が理解出来ないんやけど……そもそもキッドって誰なんや?」
私とアメリちゃんとユウロがキッドさんたちについて話し始めると、カリンが軽く片手を上げながら声をかけて来た。
あ、そうだった……あの時カリンは私たちと一緒に居なかったから、キッドさんたちとも会わなかったんだ。
「キッドさんはね……」
と、カリンにキッドさんたちについて話そうとしたら……。
「……あれ?これって、もしかして……」
急にアメリちゃんが周辺をキョロキョロと見渡し始めた。
どうやら魔力か何かを感じ取ってるように見えるけど……。
「アメリちゃん、どうしたの?」
「うん、近くにね……あ!」
そしてアメリちゃんは前方へと視線を移すと、何やら嬉しそうな表情を浮かべた。
そして……。
「お姉ちゃんだー!」
突然、前方へと走り出した。
お姉ちゃんって……まさか、リリムの事?
「な、なんや?お姉ちゃんって、リリムの事か?この街におったのか?」
「多分そうだね。とにかく、私たちも行こう」
「おう」
私たちは先に走り出したアメリちゃんの後を追いかけた…………。
***************
「わぁ〜!結構広いね!」
「ああ、中々賑やかな街だな」
私はバジルと一緒に親魔物領の街、シャルミッシを訪れていた。街の中は様々な魔物や人間で溢れていて、結構賑やかな雰囲気だ。至る所でお店も立ってて、商売も盛んなようだ。
「ここなら良い買い物が出来そうだね!旅に必要な食材を買ったら、服とアクセサリーと、それから……」
「メアリー、買い過ぎは駄目だからな?」
「わ、分かってるよ……」
バジルは口元を覆ってるマスクを撫でながら釘を刺して来た。
何時も真面目なバジルだけど、こういう時は特にしっかりしてるんだから……。
「さてと、先ずは食材を買いに行こう」
「確か……牛挽肉200gに卵一パック、あと玉葱三個と砂糖一袋だったな」
「それじゃ、先ずは八百屋にでも行ってみようか」
と、まずは旅に必要な食材を買い揃えようとしたら……。
「……ん?」
ふと、どこからか強力な魔力を感じた。そして思わず街中をキョロキョロと見渡してみる。
この強力な魔力……もしかして!
「どうしたんだ、メアリー?」
「うん、もしかしたらどこかに私の姉さん、もしくは妹がいる気がするの」
「それは……リリムの事か?」
「うん、この強力な魔力は間違いなくリリムのものだよ」
この魔力は私たちリリムのものだと確信を持って言える。でも、一体どこに……?
「お姉ちゃんだー!」
「……え?」
すると、右側から元気な女の子の声が聞こえた。その声の方向へと振り向いて見ると、そこには……!
「あ!もしかして!」
リュックらしき物を背負ってる小さな女の子がこちらに向かって走って来た。
白いセミロングの髪に紅い瞳、そして黒い角と翼と尻尾……間違いない!あの子、リリムだ!
「こんにちは!」
「こんにちは!もしかして君、リリムなの?」
「うん!アメリだよ!」
「やっぱり!始めまして、私はメアリー!よろしくね、アメリちゃん!」
「うん!よろしくね、メアリーお姉ちゃん!」
私の下へ駆け寄ってきたリリムはアメリちゃんと言う名前らしい。元気良く挨拶してくれた。
「いやぁ、こんなところで妹に会うなんて思わなかったな……」
「アメリもここにメアリーお姉ちゃんがいるなんて知らなかった!」
私がアメリちゃんの頭を優しく撫でてあげると、アメリちゃんは嬉しそうな表情を浮かべた。
あぁ……可愛いなぁ……自分にこんな可愛い妹がいたなんて……。
「おーい!アメリちゃーん!」
「あ、サマリお姉ちゃんたちだ!」
「ん?」
すると、今度は二人の魔物と一人の人間の男が駆け寄ってきた。
一人はワーシープで、もう一人は形部狸、それに加えてジパングっぽい顔つきの男の人……なんだか珍しい組み合わせだ。でも男の人からは魔物の魔力を感じない……恐らく、ワーシープとも形部狸とも夫婦の関係にはなってないようだ。
「もう、いきなり走り出すから何事かと思ったよ……」
「あはは、ゴメンね……でもメアリーお姉ちゃんに会えたよ!」
「ん?あなたは……もしかしてリリムですか?」
「うん、私はメアリー。見ての通り、アメリちゃんと同じリリムなんだ」
ワーシープが私の存在に気付いたので、とりあえず私から自己紹介をする事にした。
「そうですか……私はサマリです。アメリちゃんと一緒に旅をしています」
「俺はユウロです」
「ウチはカリンや。よろしゅうな」
「そっか……みんな、妹と一緒に居てくれてありがとう!」
「いえいえ……」
ワーシープの名はサマリ、男の人の名はユウロ、そして形部狸の名はカリンらしい。
三人とも優しそうで良い人のようだ。まぁ、妹が悪い人と一緒に旅なんてしてる訳が無いんだけどね。
「…………」
「あ、いけない!バジルを紹介するの忘れてた!」
「忘れてたって……」
「あはは、ゴメンゴメン……」
と、近くで黙々と私たちを見ていたバジルに気付き、慌ててバジルの腕を引いて彼を紹介する事にした。
「紹介が送れちゃったけど、この人の名前はバジル。一緒に旅をしてくれてる私の旦那様だよ♪」
「へぇ、メアリーお姉ちゃんのだんなさんか。よろしくね、バジルお兄ちゃん!」
「ああ、よろしく」
アメリちゃんによろしくと言われて、温かい笑みを浮かべて応えてくれるバジル。
こうしてみると、本当の兄妹にも見えて微笑ましい。あ、でもバジルは私の夫だから、事実上バジルはアメリの義理のお兄さんって事になるのかな?
「なぁ、ここで立ち話もアレやし、とりあえずどこかでお茶でも飲みながらゆっくりと話そうや」
「それもそうだね」
「丁度あそこに喫茶店がある。そこにしないか?」
「そうだね。それじゃあアメリちゃん、行こうか!」
「うん!」
そして私たちは、ゆっくりとお話する為に喫茶店へ向かった。
喫茶店に入るまでアメリちゃんと手を繋いで歩いたけど、アメリちゃんの手は本当に温かかった。その途中でも私に微笑みかけてくれる。
あぁ……もう、ホントに可愛いなぁ♪
===========
「へぇ、お姉さんたちに会う旅をしてるんだ。大変だね……」
「うん、でもサマリお姉ちゃんたちが一緒にいてくれるから毎日たのしいよ!」
喫茶店に入った私たちはお茶を飲みながらお話をしていた。六人掛けのテーブルでバジルとアメリちゃんが私を挟むように座り、その向かい側にはユウロ君とサマリちゃん、そしてカリンちゃんが座っている。
聞いた話によると、アメリちゃんはまだ会った事の無いお姉さんたちに会う旅をしているとか。我が妹ながら、しっかりしてて良い子だなぁ……。
「ところで、メアリーお姉ちゃんとバジルお兄ちゃんはなんで旅をしているの?」
「私はね、立派な海賊になる為に旅をしているんだ」
「え!?お姉ちゃんって海ぞくなの!?」
「ちょ、アメリちゃん!声が大きい!」
「あ、ゴメンゴメン……」
私が海賊だと知った途端にアメリちゃんは驚いたけど、その声が大きすぎたのか回りにいる他のお客さんが一瞬だけこちらを振り向いた。しかし、サマリちゃんがアメリちゃんを宥めると同時に、周囲のお客さんもこちらを見なくなった。
「あはは……まぁ、驚くのも無理はないよね」
「でも、なんでメアリーお姉ちゃんは立派な海ぞくになりたいの?」
「簡単に言うと……子供の頃から海賊に憧れててね、私も自由に海を渡れる立派な海賊になりたいと思って海に出たんだ」
「へぇ……」
自由に危険な海を渡り、仲間たちと共に苦難を乗り越えて旅をする……そんな海賊に子供の頃から憧れていて、私自身も立派な海賊になる為の旅をしている最中でもある。
今はまだ自分の船が無くて、黒ひげさんの船に乗せてもらってるけど、何時かは自分だけの船を手に入れて立派な海賊の船長になるつもりだ。
「あの……海賊と言う事は、もしかして自分の船を持ってたりしますか?」
「いや、実はまだ自分たちの船は持ってないんだ」
私の代わりにバジルがユウロ君の質問に答えた。
ここは私が答えるべきだと思ったけど……まぁ、良いかな。
「俺たちは今、別の海賊の船に乗せてもらってる……まぁ、居候と言った方が良いか?自分たちの船が手に入るまでの間だけ特別に乗せてもらう事になってるんだ」
「へぇ……ん?待てよ……もしかして、その海賊たちの船って近くにあったりします?」
「まぁ、そうだが……心配するな。そこいらの奴とは違って、無闇に人を襲わない海賊だからな。この街に害を齎すような真似はしないさ」
「そうですか……」
バジルの答えを聞いたユウロ君は少しだけ安心した様子を見せた。
まぁ、バジルが言った通り、黒ひげさんは無闇に人を襲うような危なっかしい人じゃないからね。
「そう言えばさ、アメリちゃんは今までどんなお姉さんたちと出会ったの?」
「う〜んと……あ!そうだ!」
私の質問に首を傾げたアメリちゃんは、急に何か思い出したような素振りを見せた。
「アメリね、ずっと前に海ぞくの船にのせてもらったことがあるんだ!」
「え!?そうなの!?」
「うん!それでね、キッドお兄ちゃんって人が船長をやっててね……」
「キッド!?」
アメリちゃんの口からキッドの名前が出た時には驚かずにはいられなかった。私の隣に座ってるバジルも面食らった表情を浮かべている。
「ね、ねぇアメリちゃん。そのキッドって人のフルネームは……キッド・リスカードだったりする?」
「え?う〜ん……たしかそんな気がする」
「それじゃあ……その人のお嫁さんはシー・ビショップで、サフィアって名前だったりする?」
「そうだよ」
「それじゃあ……その海賊の船に、ピュラって言う小さなマーメイドの女の子も乗ってた?」
「うん!ピュラにも会ったよ!でも、なんで知ってるの?」
「……やっぱりそうか……」
アメリちゃんの答えを聞いて確信出来た。
間違いない。これだけ条件が揃っていれば……もうあの人たちとしか考えられない。
「アメリちゃん、実はね、そのキッド君って人は私たちも会った事があるんだ」
「え!?そうなの!?」
「うん、少し前に一緒に戦った事があるんだ」
「懐かしいな。あの時は色々と大変だった……」
たった今アメリちゃんが話したキッド君と言う人は……私とバジルも会った事がある。キッド君とは共に強大な敵と戦った事があり、今では友達とも呼び合える関係となってる。
会った時から海賊にしては不思議な人だとは思ってたけど、まさかアメリちゃんと面識があったなんて知らなかったなぁ。人と人との巡り会わせは本当に予測できないものだ。
「あ、ゴメンゴメン。話の流れを切っちゃったね。それで、キッド君たちがどうかしたの?」
「うん、それでね……」
その後私たちは、アメリちゃんの旅の話を聞いた。会った事の無いお姉さんに会う旅のお話は本当に興味深いものだった…………。
〜〜〜数時間後〜〜〜
「楽しかったね、アメリちゃん!」
「うん!アイスもおいしかった!」
「いやぁ、この街の人たちは商売が上手やなぁ。関心してもうたわ」
「良い買い物が出来たね!」
喫茶店を出てから数時間後、私たちはアメリちゃんと一緒に買い物を楽しんでいた。それぞれ丁度必要な物を買い揃えた時には空が夕焼けに染まっていた。
私はアメリちゃんと一緒に過ごせて大満足!一緒に可愛い玩具屋を見たり、おやつにアイスクリームを食べたり、本当に楽しかった!サマリちゃんとカリンちゃんも買い物が出来て満足そうな笑みを浮かべている。
「……メアリー……余計な物まで買い過ぎだろ!なんだ、この服とアクセサリーの量は!?」
「……バジルさん、お疲れ様です……」
「憶えておけ、ユウロ。女はこういう生き物なんだ」
「あはは……肝に銘じておきます」
ただ……私が買った物を半ば強制的に持たされてるバジルは不満を露にしている。そんなバジルをユウロ君は苦笑いを浮かべながらも気にかけてくれていた。
「さて、買い物も終わったし……メアリーさんたちはこれからどうします?私たちはこれから宿を探しに行きますけど……」
「そっか……そろそろ宿を探さないと、泊まる場所が無くなっちゃうよね」
サマリちゃんが言うには、これから宿を探しに行くらしい。確かにもうそろそろ陽が沈むし、探しに行かないと野宿になるか……。
……あ!そうだ!
「ねぇねぇ!私に一つ提案があるんだけど……」
「え?どうしました?」
「あのね、私たちが他の海賊の船に居候してるって話は聞いたでしょ?それでね……」
私はたった今頭に浮かんだ考えをそのまま口にした。
「その海賊の船長に頼んで、今晩は私たちが乗ってる船に泊まるってのはどう?」
「え!?」
すると、サマリちゃんたちは一斉に驚いた表情を浮かべた。
まぁ、こんな突拍子も無い事を言ったら無理もないか。
「そ、そんな悪いですよ!急にお邪魔したら迷惑なんじゃ……」
「大丈夫!私たちが乗ってる船は結構大きいし、その船の船長も寛大な人だから受け入れてくれるよ!それに宿代も浮くから、悪い話じゃないと思うけど」
我ながら大胆な提案だと思ってる。黒ひげさんには悪いけど……もうちょっとアメリちゃんと一緒に居たいし、次は何時アメリちゃんに会えるか分からないから、少しでも一緒に居る時間を大切にしたい。そう思った故の提案だ。
仮にも黒ひげさんに断られたとしたら……何とか押し切って説得させよう!
「ええやんか。宿代が浮くのは助かるし、ここはお言葉に甘えとこうや」
「まぁ、ダメならダメで何とかすれば良いさ」
「アメリもメアリーお姉ちゃんと一緒にいたーい!」
「えへへ、ありがとうアメリちゃん!」
カリンちゃんとユウロ君、そしてアメリちゃんはその気になってくれたようだ。残りはサマリちゃんだけ……。
「……それじゃあ、お願いします」
「よし、決まり!」
サマリちゃんも一緒に来てくれる事になったし、私たちは早速黒ひげさんの船……ダークネス・キング号へと向かう事にした。
「ところで、その海賊船って何処にあるんですか?」
「ここから西南にある森を抜けたら海岸が見えるけど、そこに停泊してるよ。歩いて一時間は掛かるかな」
「一時間も!?結構長いんやな……」
一時間も掛かると知った途端、カリンちゃんは明らかにしんどそうな表情を浮かべた。
まぁ気持ちは分かる。さっきまでずっと歩き回ってたのに、更に一時間も森を歩き続けるなんて気が滅入る筈。でも心配は無用!
「大丈夫!バジルなら一時間も掛かる道のりも、たったの十分で済ませられるよ!」
「え?どう言う事ですか?」
「まぁ見てて。と言う訳でバジル、お願いね♪」
「ああ」
バジルにウィンクして合図を送ると、バジルは片手を前方へと突き出した。
そして……!
「出でよ……我が魔力鳥、ウィング・ファルコン!」
===========
「あはは!すごい!はやーい!」
「ヤッホー!アメリちゃん!乗り心地はどう?」
「ヤッホー!メアリーお姉ちゃん!すっごくいいよ!」
「バジル、間違っても落とさないように気を付けてね!」
「分かってる」
バジルによって操られてる巨大な隼、ウィング・ファルコンは快適にアメリちゃんたちを背中に乗せて羽ばたいている。私はその隣で自分の翼を羽ばたかせて飛んでいた。
アメリちゃんも翼があるから飛べるけど……本人曰く、巨大な隼に乗ってみたいとの事。自分で飛ぶより楽しいのか、アメリちゃんは我を忘れてるかのようにはしゃいでる。
「バジルお兄ちゃんってすごいね!こんなに大きいトリさんを魔力で作れるんだね!」
「まぁ、これも長年の修行の成果だ」
「私の旦那様は凄いでしょ?」
「うん!すごいね!」
「……そんなに褒めても何も出ないぞ?」
私とアメリちゃんに褒められてるバジルは手を振って軽くあしらったけど、満更でもなさそうだ。
でも照れくさそうにしてるバジルも良いねぇ……♪
「わぁぁ!凄い!高ーい!」
「風が当たって気持ちええわぁ!」
「空を飛ぶなんて初めてだけど、こんなに気持ち良いなんて知らなかった!」
「ほんまやな!この爽快感はハンパないでぇ!」
と、こんな感じでサマリちゃんとカリンちゃんは子供のように……それもアメリちゃん以上にはしゃいでる。まぁ空を飛ぶなんて滅多に無い経験だろうから、興奮せずにはいられないのだろう。
「あはは……すいませんバジルさん。乗せてもらってるのに、騒がしくて……」
「別に気に障ってないさ。むしろ、喜んでもらえたようで嬉しく思ってる」
ユウロ君は苦笑いを浮かべながらバジルに謝ってる。でもバジルは気にする様子も見せずに温かい笑みを浮かべて応えた。
この調子なら十分位でダークネス・キング号に着きそうだ。到着したら早速アメリちゃんたちを船に泊まらせてくれるように黒ひげさんに頼もう。
……あ、そう言えば……まだアメリちゃんたちに黒ひげさんの事を話してなかった。
ま、着いた後でも問題無いか。
〜〜〜十分後〜〜〜
「…………」
「あの〜、みんな……」
「ちょいメアリー!こんなん聞いておらへんで!」
「いや、だから落ち着いてよ……」
……えっと、とりあえず状況を整理してみよう。
無事にダークネス・キング号に着いた私たちは、早速船の中に入って、この船の船長である黒ひげさんに会う為に船長室を訪ねた。
そこまでは良い。何の問題も無い。
それで、部屋を訪ねるとちょうど黒ひげさんが部屋の中に居た。
それも大丈夫。ノープロブレム。
でも……問題は今の状況だ。
「お世話になってる海賊って黒ひげだったのかよ!」
「なんでこんな危なっかしい男の世話になっとるんや!」
「ご、号外の記事と同じ顔……しかも大きい身体……!」
「……会わされておいていきなり警戒されるとは……」
「ご、ゴメンね黒ひげさん」
「いや、それは構わぬが……」
黒ひげさんを見た瞬間、カリンちゃんたちは一斉に身構えてしまった。いきなり警戒されてる黒ひげさんは少々戸惑ってる。ユウロは木刀に手を掛けて、カリンちゃんは棍棒を構え、サマリちゃんは怯えた様子でアメリちゃんを抱きかかえている。この様子からして……みんな恐らく黒ひげさんを知ってたのだろう、悪い意味で。
参ったなぁ……こうなるんだったら、事前に黒ひげさんについてちゃんと説明しておくべきだった。あ、でも悪名高い黒ひげさんの名前を出したところで、そう簡単に信じてもらえる訳ないか……。
「……お前ら、少しは落ち着け」
すると、バジルがカリンちゃんたちの下へ歩み寄って話しかけた。
「よく考えろ。確かに黒ひげは極悪非道だなんて言われてるが、本当に悪人だったらわざわざお前たちをこんな所へ連れてきたりしないだろ?」
「それは……」
「それに、メアリーの妹であるアメリもいるんだ。自分の妹と極悪人を会わせる訳無いだろ?」
「……言われてみれば……」
バジルの発言を聞くと、みんなそれぞれ納得した様子を見せたが、まだ警戒を解いた訳ではなさそうだ。
「ほ、ほな聞くで!あんたは教団の勇者の手足を縛ったうえに、首に大砲の弾付きの鎖を括り付けて海へ沈めたなんて噂があるんやけど、そこんとこはどうなんや!?」
「……あぁ、確かにそのような事をしでかしたな……」
「なっ!?」
「だが後の事も考えた上での行動よ。海底へと沈む途中で勇者を助けようとする海の魔物の為に、首の鎖は比較的緩めに縛ったのだ。でなければ海の魔物は勇者を連れ去る事が出来ぬからな」
「……ほんまなんか?」
「必要の無い嘘を述べても無意味であろう?」
黒ひげさんはカリンちゃんの質問に正直に答えたものの、カリンちゃんは疑いの眼差しを黒ひげさんに向けている。
「本当だよ!私、その時に近くでちゃんと見てたよ!やり方は残虐だと思われるけど、黒ひげさんは勇者の事も、海の魔物たちの事も考えてくれてたんだよ!」
「そうなんか……?」
私が必死に弁護するも、カリンちゃんたちの誤解を解くには至らなかったようだ。
う〜ん……よし!ここはアメリちゃんに……!
「ほら、アメリちゃん!黒ひげさんに挨拶しなきゃ!」
「あ!ちょっと!メアリーさん!」
「あわわ!」
私はアメリちゃんの手を引いて黒ひげさんの下まで連れて行った。
「大丈夫だよアメリちゃん、ほら、ご挨拶」
「う、うん!はじめまして!アメリだよ!」
最初は戸惑ってたものの、私がアメリちゃんの肩に手を置いてあげるとアメリちゃんは笑顔で黒ひげさんに挨拶した。すると、黒ひげさんは温かい笑みを浮かべながら膝を曲げてアメリちゃんに話しかけた。
「おお、元気の良い娘よ。時に、歳は幾つぞ?」
「アメリは8さいだよ!」
「そうかそうか、よう来てくれた。どれ、飴玉をやろう」
「え!?アメくれるの!?やったー!ありがとう!」
「フハハハハ!可愛げのある娘よ!」
「えへへ……あむっ……おいしー♪」
「フフフ、微笑ましき事よ……」
話すうちに黒ひげさんに対する警戒心が無くなったのか、アメリちゃんは明るい笑顔を浮かべたまま黒ひげさんと話してる。更に黒ひげさんから貰った飴玉を口に入れて上機嫌になったようだ。
それにしても、なんだかお爺ちゃんと孫のやり取りみたいで微笑ましいなぁ……。
「……ねぇ、もしかして黒ひげさんって良い人だったりする?」
「俺もそう思えてきた……」
「なんや……ものごっつう微笑ましいわ……。もしかして、ほんまにええ人なんちゃう?」
「うん!本当に良い人だよ!黒ひげさんはキッド君と同じように、罪の無い人には絶対に襲わないんだから!」
黒ひげさんとアメリちゃんの光景を見ているサマリちゃんたちもようやく警戒心を解いたようだ。
よし、作戦成功!と、心の中でガッツポーズをした。
「時に……我に用があってここに来たのではないか?」
「あ、そうだった」
何時の間にかアメリちゃんの頭を撫でてる黒ひげさんが話しかけてきた。
そうだ……肝心な事を忘れるところだった。
「黒ひげさん、急にこんな頼みを言って悪いんだけど……今晩だけアメリちゃんたちをこの船に泊めてくれないかな?」
両手を合わせて深く頭を下げてお願いすると……。
「何かと思えば……それくらい容易いわ!思う存分寛いで行くが良い!」
「受け入れ早っ!良いの!?」
なんと、躊躇う事無く承諾してくれた。
頼んでおいてアレだけど、受け入れるの早過ぎるなぁ……。
「もう少し妹と共に過ごしたいのであろう?ならばその時間を大切に過ごすのだ!」
「あはは……もうお見通しだった訳か……」
「うむ、お主たちも遠慮せずに寛いで構わぬからな」
黒ひげさんに笑顔で話しかけられて、アメリちゃんたちの表情がようやく明るくなった。
「ありがとう、黒ひげおじさん!」
「あ、ありがとうございます!」
「え、えっと……変に警戒してごめんなさい!」
「ほんま、堪忍なぁ……」
「フハハハハ!構わぬ!ああいった反応には慣れておるわ!」
アメリちゃんたちのそれぞれの言葉に対し、黒ひげさんは纏めて豪快な笑いで受け止めた。
いや〜、良かった……アメリちゃんたちも打ち解けてくれたし、黒ひげさんからも許可を貰ったし、一先ず安心したよ。
「そうと決まれば……メアリー、バジル、早速この者たちを空部屋へと案内するのだ」
「は〜い!」
「え?空部屋ですか?」
「うむ、この船には空部屋など幾らでも余っておるからな、今晩はそこで寝てくれ」
「そうですか……ありがとうございます!」
「うむ、では案内は頼んだぞ」
そして私とバジル君は、アメリちゃんを空部屋へと案内する事になった。
時間的に数時間程経ったら夕食になるね。それまでアメリちゃんとゆっくりお話でもしてよう。
〜〜〜数時間後〜〜〜
「ごはんまだかな〜?アメリ、もうお腹ペコペコだよ〜」
「フハハ!もう少しの辛抱だ」
アメリちゃんたちを部屋へと案内してから休憩した後、ダイニングにてアメリちゃんたちと一緒に夕食を食べる事になった。
私の隣に座ってるアメリちゃんはお腹が減って元気が無いらしいけど、それを黒ひげさんが宥めている。こうして見ると、やっぱりお爺ちゃんと孫の組合せだ。
「ミートローフってそうやって作るのですね。勉強になります!」
「いえいえ、私なんて……サマリさんこそ、こんなに美味しくポトフを作れるなんて素敵です」
キッチンの方ではサマリちゃんと龍の姫香さんが一緒に料理を作っている。聞いた話によると、サマリちゃんも料理が作れるとの事で姫香さんのお手伝いを自ら引き受けてくれたのだ。
ちなみにサマリちゃんはポトフを作ってくれるらしい。ホント、ご飯が待ち遠しいな……。
「しっかし、これまたごっつうたまげたわ。龍にバフォメットにダークマター……どれも上位種の魔物ばかりやないか。しかも三人とも黒ひげの娘やなんて……」
「よく言われるのじゃ。でも血が繋がってないとは言え、わしらは親子なのじゃ」
「…………ファミリー、万歳……」
「血が繋がってなくても家族か……なんか、良いですね……」
「おお!ユウロ殿は分かっておるのう!」
そしてダイニングには私とバジルと黒ひげさん、アメリちゃんたちの他にも、バフォメットのエルミーラさんとダークマターのセリンちゃんも居た。
「なんちゅーか……黒ひげ海賊団のメンバーって少ないんやな。てっきり百数人はいるのかと思うたんやけど……」
「とある事情があっての、一から海賊団を作り直す事になったんじゃ。なぁに、船員なんてその気になればすぐに集められるのじゃ」
「…………お茶の子さいさい……」
エルミーラさんもセリンちゃんも、急な来客にも驚く事無く親しげに話してくれている。やっぱり人生経験の差なのかな……?
「黒ひげおじさん、ここに来るとちゅうで『ほうもつこ』の前を通ったんだけど、あの中にはなにがあるの?」
「うむ、あの宝物庫の中には、我が今まで集めた宝が収められておるのだ」
「宝があるの!?黒ひげおじさん、後でほうもつこの中を見せて!」
「うむ!では夕餉を食した後に見せてやろう!」
「やった〜!ありがとう!」
「……しかし、四人増えただけで結構賑やかになったな」
「そうだね。まるで大家族の食卓みたい」
私の隣に座ってるバジルは微笑ましそうにアメリちゃんと黒ひげさんの会話を見守っている。
確かにバジルが言った通り、アメリちゃんたちがいると賑やかになってる気がする。まぁ普段からも賑やかだけど、何時も以上にこの食卓が楽しい雰囲気になってるような気がした。やっぱり、大勢の人と楽しむ食事は良いね……。
「お待たせしました〜!ご飯にしますよ〜!」
「わー!おいしそー!」
と、こんな感じで話してると、サマリちゃんと姫香さんが料理を運んできてくれた。サマリちゃんはポトフを、姫香さんはミートローフをそれぞれ配膳してくれてる。
「さて、配膳も済み、全員座った事だし、そろそろ食べよう!」
「うん!それじゃあ……」
『いただきます!』
サマリちゃんと姫香さんがそれぞれ自分の席に座ったところで、私たちは早速夕食を食べる事にした。
さて、早速サマリちゃんが作ってくれたポトフを食べてみよう。スプーンを手にとって、サマリちゃんのポトフを口に運んでみる。
そのお味は……!
「……美味しい!ホントに美味しい!サマリちゃん、凄い!」
とっても美味しい!今まで食べたポトフの中でも一番美味しい!
「そ、そんな大袈裟ですよ」
「ううん!もう本当に美味しい!バジルもそう思うでしょ!?」
「確かに、これは美味いな!どうやったらこんなに美味く作れるんだ?」
「うむ!サマリは良い嫁になれるわ!」
「そんな……ありがとうございます!」
私に続いてバジルと黒ひげさんからも絶賛されて照れくさそうな表情を浮かべるサマリちゃん。
いやぁ、サマリちゃんって料理上手なんだね。黒ひげさんが言った通り、良いお嫁さんになれるよ。
「はむはむ……姫香お姉ちゃんが作ったミートローフもおいしいよ!」
「あら、ありがとうございますアメリさん!」
「このミートローフの肉汁、溜まらんわぁ……」
「ああ、本当に美味い!」
「あらあら、そんなに褒めてくださるなんて、作った甲斐がありました!」
一方、アメリちゃんとカリンちゃん、そしてユウロ君は姫香さんのミートローフを絶賛している。
どれどれ、今度はミートローフを…………って!
「あぐぁあ!?」
ミートローフのお皿と一緒に盛られてる付け合わせの野菜を見て絶句してしまった。
ニンジン、インゲン、この二つは問題無い。だけど……だけど!
「なんでブロッコリーなんて入れるの……」
そう……ミートローフの傍にはブロッコリーが盛り付けられていた。
私はピーマンもニンジンも葱も食べれる。でも……ブロッコリーだけはダメなのにぃ……!
「…………」
「もぐもぐ……いや、本当に美味い……ん?」
ちょうど私の隣に座って、サマリちゃんのポトフを美味しそうに食べてるバジルに無言の助けを求めた。私の視線に気付いたのか、バジルはふとこちらを向いてくれた。
お願いバジル、私のブロッコリーを食べて……!
「…………」
「……メアリー……お前の言いたい事は分かる」
「ホント!?それじゃあ……」
「だが断る!ブロッコリーくらい食え!」
「えぇ〜!」
私の助けが伝わったにも関わらず、バジルは拒否の意を示した。
うぅ……なんて冷たい対応なの!愛するお嫁さんが絶体絶命のピンチに追い込まれてるのに!
「あの……もしかしてメアリーさんって、ブロッコリー苦手ですか?」
「うん、子供の頃からずっとダメなの……」
サマリちゃんに質問されて、苦笑いを浮かべながら答えるしかなかった。
「全く……そのブロッコリーにどれだけのビタミンが入ってるのか分かってるのか?」
「そう言われても、食べれないのは食べれないよ!」
「子供か、お前は……」
「しょうがないでしょ!ねぇ、アメリちゃんも無理だよね?」
と、私の隣に座ってるアメリちゃんに話を振ると…………。
パクッ
「もぐもぐ……」
「…………」
「ごっくん……メアリーお姉ちゃん!ブロッコリー、おいしーよ♪」
「…………」
私の目の前で、自らフォークでブロッコリーを食べた。その時の幸せそうに顔を綻ぶ姿ときたら……。
「お、アメリはブロッコリー食べれるのか?」
「うん!おいしいよね!」
「うんうん、良い事だ。それに比べて、こいつときたら……」
バジルはジーっと私の顔を無表情で見つめてくる。その視線が痛いのなんの……。
「ちょ、そんな目で見ないでよ!」
「メアリー……お前より十歳も年下の妹だってちゃんと食べてるだろ?なのに姉であるお前が食べれないなんて……」
「好き嫌いに姉も妹も関係無いじゃん!」
「好き嫌いそのものが良くないのは確かだろ?」
「うぅ……」
「メアリーお姉ちゃん!」
「ん?」
突然、アメリちゃんに呼びかけられて思わず振り向くと……。
「あ〜ん♪」
「……え?」
アメリちゃんは何時の間にか私のブロッコリーをフォークで刺して食べさせようとしていた。
「ア、アメリちゃん……?」
「大丈夫だよ、メアリーお姉ちゃん!不味くないから!」
「で、でも……」
「ほら、あ〜ん♪」
無邪気にもブロッコリーを食べさせようとするアメリちゃん。その愛くるしい笑顔に一切邪気が無いのが罪深い……!
「ほら、姉なら妹の愛情を全て受け止めるべきだろ?」
傍からバジルが食べるように促してる。なんか、半分面白がってるように見えるのは私だけ……?
「メアリーお姉ちゃん、あ〜ん♪」
アメリちゃんも私の口にブロッコリーを近づけて食べさせようとしている。
うぅ……ここはアメリちゃんの姉として、応えない訳にはいかない……!
パクッ
うぇぇ……でも吐いちゃダメ!ちゃんと飲み込んで……!
ゴックン
「……はぁ……」
「ちゃんと食べれたね!」
「う、うん……」
ブロッコリーを飲み込んだ姿を見たアメリちゃんは無邪気な笑みを浮かべた。
はぁ……しんどかった……。
「フハハハハ!これじゃどっちが姉なのか分からんな」
「傍から見てて心が和んだよ」
「やっぱり姉妹だよな……」
「それ、意外とええ方法かもしれへんな」
「いやぁ、見てて微笑ましかったのう」
「姉妹って本当に仲が良いですね」
「…………シスター・ラブ……」
周りの人たちは微笑ましそうにこちらを見てるけど……正直、今はブロッコリーの味が口いっぱいに広がって辛い……。
「メアリーお姉ちゃん、えらい!」
「あ、ありがとう……」
……まぁ、アメリちゃんの愛くるしい笑みを見れたからもう良いか……。
「よくやったなメアリー。ほら、褒美にもう一個俺のブロッコリーを……」
「ぶっ飛ばすよ?」
「……そう睨むな、冗談だ」
『あはははは!』
と、こんな感じで、みんなで賑やかな夕食の一時を楽しんだ……。
〜〜〜数時間後〜〜〜
「わぁ〜!すごーい!」
「これ、全部黒ひげさんが集めたのですか!?」
「うむ!どれも滅多に手に入れられぬぞ!」
「流石は伝説の海賊……!」
「なんちゅうことや……此処にあるの、全部秘宝なんか!?これ全部精算したら、とんでもない金額になるで!」
夕食を食べ終えたアメリちゃんたちは、黒ひげさんと共に宝物庫の中を特別に見せてもらう事になった。食卓にてアメリちゃんが宝物庫の中を見たいと言うと、黒ひげさんは快く承諾してくれたのだ。
今この宝物庫には、私とバジルと黒ひげさん、そしてアメリちゃんたちが居る。
「あの、此処にある秘宝って、やっぱり触っちゃダメですよね?」
「いや、好きに触っても構わぬ!ここにある秘宝は全て頑丈なものばかりでな、手を滑らせて落としたくらいでは壊れんわい!」
「そうなん?そんじゃお言葉に甘えて……おお!これはかなり高く売れる代物や!」
「……カリン、黒ひげさんの秘宝を欲しがっちゃ駄目だよ?」
「わ、分かっとるわ!」
アメリちゃんは目を輝かせながら秘宝を見渡し、カリンちゃんは近くにあった壷の鑑定を始めてる。
見た事もない秘宝を目の当たりにして興奮しているのだろう。その気持ちは凄く分かるなぁ……。
「……ん?ねぇねぇ黒ひげおじさん、この赤い布は?」
「ん?おお、それか」
すると、アメリちゃんが何やら赤くて大きな布を持ってきた。一見すると、ただの赤い布にしか見えないけど……中央部分に小さめの白い正方形が描かれている。それ以外には何の変哲も無い普通の布だ。
「それはな……『クロノスの操歳布』よ!」
「そうさい……布?」
その赤い布はクロノスの操歳布と言うものらしい。
……ん?待てよ?クロノス……?
「黒ひげさん、クロノスって、時の神と呼ばれてる……」
「そう、そのクロノスよ!」
「あぁ、やっぱり……てことは、その布も時と関係があるの?」
「うむ」
私の質問に対して黒ひげさんは自信満々に答えた。
やっぱりか……クロノスは時の神とも呼ばれているとの事。前にもクロノスの過去鏡とか言うものを見たことがあるから以前から知ってる。
まぁ、クロノスの過去鏡のお陰で、私はバジルと結ばれたんだけどね……。
「その布はな、生き物の年齢を自由に操る事が出来る秘宝なのだ!」
「生き物の……歳を?」
「ちょうど良い。アメリ、その布を我に渡すのだ」
「え?あ、うん」
なんと、そのクロノスの操歳布は生き物の歳を操れるとの事だけど……本当にそんな事が出来るのだろうか?
そう思ってると、黒ひげさんはアメリちゃんから布を受け取った。
「よく見ておれ、ここに白い正方形があるであろう?ここに……」
そして黒ひげさんは白い正方形の部分に指で+10と書いた。
すると……。
「あ、数が……!」
「うむ、これは指で書くことが出来るのだ」
白い正方形から+10と数が浮かび上がった。
「面白いのはここからよ。ではアメリ、そこの鏡の前に立つのだ」
「え?いいけど……」
そして黒ひげさんはアメリちゃんを大きな鏡の前に立たせた。鏡にはアメリちゃんの可愛らしい姿が映っている。
「アメリ、そのまま動くでないぞ……」
すると、黒ひげさんは赤い布を持ったままアメリちゃんの背後に回りこみ……。
「うぉら!」
「ふぁあ!?」
アメリちゃんの頭から布を被せた……って、ちょっと!
「ま、前が見えないよぉ〜!」
「く、黒ひげさん!何をするんですか!?」
「落ち着け!心配は無用ぞ!」
「で、でも……!」
いきなり布で全身を包まれたアメリちゃんは布の中でジタバタと暴れてる。その様子を見たサマリちゃんは動揺するが、黒ひげさんはサマリちゃんを宥めるように片手を翳す。
すると…………!
「……あ、あれ?」
目の前で信じられない事が起きた。なんと、布で包まれてるアメリちゃんの身体が……どんどん大きくなってる!
「な、なんや!?身長が伸びとるんか!?」
「黒ひげさん、これは一体……!?」
「どうなってるんだ……!?」
「まぁ待て、すぐに終わる」
カリンちゃんとユウロ君も、そしてバジルも驚いた表情でアメリちゃんを見ている。一方、アメリちゃんの身長は伸び続けて……。
「……止まったか」
一定の高さまで伸びると、アメリちゃんの身長はピタリと伸びるのを止めた。見たところ私と同じくらいの高さまで伸びたと思われるけど……。
「ね、ねぇ、アメリはどうなっちゃったの?」
「心配するな。今布を取ってやるからな」
布の中からアメリちゃんの声が聞こえたけど……気のせいかな?どこか大人っぽい声に聞こえたような気がする。
そう思ってると、黒ひげさんがアメリちゃんを覆ってる布を徐に掴んだ。
「では……ふん!」
そして黒ひげさんは一気に布を引いてアメリちゃんを解放した。
「…………えぇ!?」
「なっ!?」
「嘘やろ……!?」
しかし、アメリちゃんの姿を見たサマリちゃんたちは一斉に驚いた表情を浮かべた。
それは無理も無い。私だってかなり驚いてるから。そして、アメリちゃんも……!
「……え……これって……!」
アメリちゃんは、鏡に映ってる自分の姿を見て目を見開いている。
それもその筈、何故なら今のアメリちゃんは……!
「アメリ、大人になっちゃった!!」
そう……そこには身体が大人に成長したアメリちゃんの姿があった!
元から着ていた子供の服は大人の身体に合わせて大きくなってるけど……体つきは大人の女性そのものだ!
身長は私と同じくらい高くなってて、顔立ちは綺麗に整っている。胸もかなり大きくなってて……信じられないけど、ほんの数秒で成長しちゃった!
「その布、本当にアメリちゃんの歳を……!」
「うむ、この布の白い部分に指で数字を書き、その状態で頭から被ると、その書いた数値分だけ若返ったり、歳を取ったりする事が出来るのだ。と言っても、流石に中身までは変わらぬがな」
「それじゃあ、このアメリちゃんは……」
「白い部分に+10と書いた為、十歳分歳を取ったのだ。これは八歳のアメリが十歳分歳を取った……つまり、十八歳のアメリだ」
布の力は本当だったんだ……十八歳になったアメリちゃんを見てサマリちゃんたちは未だに絶句しちゃってる。
「うわぁ〜!アメリって18さいになったら、こんな風になるんだ!ちょっと、ふしぎなかんじ!」
一方、身体が大人になったアメリちゃんは明るい表情で鏡に映ってる自分の姿を眺めている。
性格は元のままで無邪気だね。でも、その身体で元の明るい性格のままでも絶対モテる気がする。
「ビックリした……十八歳のアメリちゃんなんて初めて見たよ……」
「でもアメリちゃんってこんなに美人になるんだな……」
「これは世の男共が放っておかんで。血は争えないっちゅうことやな……」
「えへへ♪」
サマリちゃんたちは未だに大人のアメリちゃんを見て呆然としている。まぁ、いきなり自分たちの旅の仲間がこうなったら驚くのも無理はないか。
「こうして見るとメアリーと似てるな。これも血が通ってる所為かもしれないが……」
「ああ、言われてみれば確かにそんな気もする」
バジルがどこか感心した様子で言った。
確かにこうして見ると私とそっくりだ。やっぱり血が繋がった姉妹って事なんだね……。
「ちょっと隣失礼……」
「あ、本当にそっくりだね!」
「勿論!だって私たちは姉妹だから!ねー♪」
「ねー♪」
試しにアメリちゃんの隣に並んでみた。サマリちゃんからもそっくりと言われてたけど、悪い気はしない……むしろ嬉しいかも♪
それにしても……アメリちゃんも十年経ったらこんなに大きくなるんだね……特におっぱいが。
「いやぁ、それにしても……十年も経ったら、アメリちゃんのおっぱいもこんなに大きくなるんだね」
「うん、アメリもビックリだよ……」
十八歳のアメリちゃんのおっぱいは……結構大きい。巨乳とも言えるくらいのレベルだ。
「やっぱり私もアメリちゃんも、お母さんの娘だね。必要なところもしっかりと受け継いでる!」
「お母さんのも大きいからね〜」
「でもアメリちゃんのおっぱいもこれくらい大きくなるんだったら、男を魅了するのも朝飯前だね!」
「えへへ、そうかな?」
「……物凄く居心地が悪いんだが……」
「バジルさん、俺もそう思ってます……」
私とアメリちゃんが胸の話で盛り上がってると、バジルとユウロ君は気まずそうに視線を逸らした。
まぁ二人とも男だから…………ん?
「……アメリちゃん……十年も経ったらそんなに大きくなるんだ……」
「え!?」
……なんだかサマリちゃんの様子がおかしかった。体から黒いオーラが出てるし、私たちを見ている目が……怖い!
「なんでかな?なんでそんなに大きくなるのかなぁ……?」
「サ、サマリお姉ちゃん……なんかこわいよ……」
「だってさぁ……そんなに大きいの見せられたら……ねぇ?」
サマリちゃんに見つめられてるアメリちゃんは、少しだけビクビクと震えながら私の背後へ回り込んだ。
でも……どうなってるの?サマリちゃん、なんでそんなにドス黒いオーラを出してるの?
「……アメリちゃん、サマリちゃんは一体どうしちゃったの?」
「サマリお姉ちゃんはね、おっぱいのことになるとこわいんだ。自分より大きいおっぱいを見ると、あんな風になるんだよ……」
「そ、そう……」
サマリちゃんは自分の胸より大きい胸を見るとああなるらしいけど……。
正直に言うと、冗談抜きで怖い!
心なしか、私の方まで睨まれてる気がするし!
「お、落ち着けサマリ!流石にアメリちゃんを襲うのは駄目だ!」
「せや!間違ってももぎ取ろうとしたらあかんで!」
「分かってる……分かってる……でもさぁ!」
ユウロ君とカリンちゃんは慌ててサマリちゃんの前に立ちふさがって落ち着かせようと宥めている。しかし、それでもサマリちゃんはやり場のない嫉妬を抑え切れてないようだ。
……もうそろそろアメリちゃんは元に戻った方が良い。私の本能がそう察知した。
「ア、アメリちゃん!もう元に戻った方が良いんじゃない!?」
「うん、アメリもそうおもう……」
「と言う訳で黒ひげさん!早くアメリちゃんを元に戻して!」
「ぬ?もう終わりか?もう少しこの面白おかしい光景を……」
「黒ひげさん!」
「冗談だ。戻してやる」
黒ひげさんは布に-10と書き、アメリちゃんの頭から布を被せた。すると大人になってたアメリちゃんの身長が縮み始めて……最終的には、元のアメリちゃんの身長に戻った。
「戻ったか。では……ふん!」
「……あは、もどったー!」
黒ひげさんが布を引き取ると、そこには元の姿に戻ったアメリちゃんが居た。アメリちゃんは元に戻った自分の姿を鏡に映して明るい笑みを浮かべている。
「ふぅ……サマリ、少しは落ち着いたか」
「うん……アメリちゃん、ごめんね……」
「あはは……」
「……女の嫉妬は怖いな……」
「いやいやバジル、あれだけ異常なだけやから」
アメリちゃんが元に戻って落ち着いたのか、サマリちゃんはアメリちゃんにペコリと頭を下げて謝った。アメリちゃんの方は明るい笑みを見せて応えている。
いや〜、それにしても怖かった……サマリちゃんがあんな風に変わるなんて……。でも、見たところサマリちゃんも小さくはないと思うんだけどな……。
「ねぇねぇ、黒ひげおじさん!アメリ、他にもお宝が見たい!」
「フハハハハ!良かろう!他にも見せてやる!」
「わ〜い!」
「アメリちゃん、楽しそうだね」
「気持ちは分かるわ。こんなにおもろい物が周りにあったらはしゃいでまうわな」
「でも、これ全部集めるのは大変だったろうな……」
「まぁ、明らかに普通ではない男だがな」
「ねぇみんな〜!黒ひげおじさんがまたおもしろいものを見せてくれるよ〜!」
「ホント?今度はなんだろう……?」
その後も私たちは、黒ひげさんの秘宝を色々と見て楽しい一時を過ごした……。
〜〜〜数時間後〜〜〜
「メアリーお姉ちゃん、あったか〜い♪」
「アメリちゃんも温かいね♪」
外はもうすっかり暗くなり就寝の時間になった。私とアメリちゃんは同じ部屋で寝る事になり、今は二人で一緒にベッドに横たわって抱き合うように寝ている。
と言うのも、アメリちゃんとの時間を大切にしたいと思った私は、自分から一緒に寝るようアメリちゃんを誘ったのだ。アメリちゃんも喜んで誘いに乗ってくれたし、サマリちゃんたちも快く承諾してくれた。
それにしても……アメリちゃんって温かくて抱き心地が良いなぁ……。
「でもメアリーお姉ちゃん、本当にバジルお兄ちゃんとラブラブしないでいいの?」
「良いの良いの。今夜はアメリちゃんと一緒に寝たいの。バジルも分かってくれたし……ね?」
「うん!」
バジルの方も、私がアメリちゃんと一緒に寝るのを快諾してくれた。恐らく、バジルも気を遣ってくれたのだろう。
今夜はバジルにエッチなサービスをさせてあげられないのは申し訳ないけど、今はアメリちゃんとの一時を大切にしよう。
「それにしても、あっという間な一日だったね。アメリちゃんと会ったのがついさっきのように感じるよ」
「そうだね。でもアメリ、今日はたのしかったよ!メアリーお姉ちゃんにも会えたし、バジルお兄ちゃんと黒ひげおじさんもいっぱい遊んでくれたし、エルミーラお姉ちゃんと姫香お姉ちゃんとセリンお姉ちゃんもやさしく話してくれたし……アメリ、この船に来てよかった!」
「ホント?私も楽しかったよ!」
今日は本当に楽しい一日だった。偶然にもシャルミッシでアメリちゃんに出会って、その仲間たちとも一緒に買い物を楽しんで、ダークネス・キング号に招待して一緒に過ごして……本当に充実した一日だった。
明日になったらアメリちゃんたちはすぐに旅立って寂しいけど……でも、何時かまた会える日が必ず来る。そう思うと、少しは寂しさが和らいだような気がした。
「アメリ、明日になったらまた旅に出るけど……まだ会ったことのないお姉ちゃんたちに会うためにがんばるよ!」
「私も立派な海賊になるように頑張る!何時か自分だけの船を手に入れられたら、アメリちゃんも乗せてあげる!」
「うん、たのしみにしてるね!」
アメリちゃんはこれからも旅を続けるけど、不安だとは思わなかった。
それは……アメリちゃんと一緒に旅をしている人たちを見れば分かる。サマリちゃんは料理が上手だし、ユウロ君は元勇者なだけあって強いし、カリンちゃんはやりくり上手だし、アメリちゃんの旅の仲間はみんな優しくて頼もしい人たちばかりだ。あんなに良い人たちがアメリちゃんと一緒に居てくれるのなら、私も安心出来る。
アメリちゃんは、本当に良い仲間を持ったんだね……。
「ふぁ〜……」
「あ、もう眠くなってきた?」
「うん……」
すると、アメリちゃんは大きな欠伸をした。どうやら眠くなってきたようだ。
私も眠くなってきたし、そろそろ寝よう。
「おやすみ、メアリーお姉ちゃん……」
「おやすみ、アメリちゃん……」
アメリちゃんと優しく抱き合って、そのままゆっくりと目を閉じて静かに眠りに付いた。
アメリちゃんが温かかったお陰で、ぐっすりと気持ち良く寝る事が出来た…………。
〜〜〜翌日〜〜〜
「本当に色々とありがとうがざいました!」
「ううん、私たちもみんなと一緒に過ごせて楽しかったよ!」
「バジルさんも、わざわざ送ってくれてありがとうございます」
「あぁ、いや、気にするな」
現在の時刻は午前十時頃、ダークネス・キング号にてアメリちゃんたちと一緒に朝食を食べた後、私はバジルと一緒にアメリちゃんたちを見送る事にした。
アメリちゃんたちが黒ひげさんたちに一晩泊めてくれたお礼を言った後、バジルのウィング・ファルコンにアメリちゃんたちを乗せてシャルミッシの出入り口まで送って今に至る。これからちょうどバジルと一緒に、旅立つアメリちゃんたちを見送るところだ。
「それと……何度も同じ事を言って悪いんですけど、黒ひげさんたちにも改めてお礼を伝えてくれませんか?泊めてもらったうえに、こんなにお金を頂いてしまって……」
「大丈夫!ちゃんと伝えておくよ!」
実はアメリちゃんたちが船を出る際に、黒ひげさんは餞別として数枚の金貨が入った革袋を手渡したのだ。最初はサマリちゃんも断ったものの、黒ひげさんから半ば強引に押し付けられる形で受け取る事になったのだ。
「はぁ、もうアメリちゃんともお別れか……寂しくなるね……」
「そうだね、メアリーお姉ちゃん……でもまた会おうね!」
「うん!」
今日でもうアメリちゃんともお別れだ。昨日までアメリちゃんと過ごしてたのに、それが瞬く間に過ぎ去ってしまう。やっぱり楽しい時間は早く過ぎ去ってしまうものだ……。
「さて……アメリ、よかったらこれを貰ってくれないか?」
「え?」
すると、バジルがアメリちゃんに懐から一個の小さな水晶玉を差し出した。キラキラに輝いている、透明で綺麗な水晶玉だ。
バジル、何時の間にかそんな物を持ってたんだ。私ですら貰った事無いのに……。
「うわぁ!きれいな水晶玉!でもバジルお兄ちゃん、これは……?」
「この水晶玉は『ヒーリング・スワン』と言って、怪我や病気を患ってる人の身体の上に置くと白鳥の姿になり、大きな翼でその人の身体を包み、怪我や病気を完治させる能力を持っている。ただ、効果は一度だけしか使用できず、その後はただの水晶玉になるがな」
「へぇ、すごい……!でももらっちゃっていいの?」
「ああ、余計なお世話かもしれないが……これからのアメリたちの旅に少しでも貢献できたらと思ってな」
要するに、何でも完璧に治せる万能薬みたいなものか。そう言えばバジルは昨日、夜更かしをしていたらしいけど、これを作ってたんだ……。
きっと、バジルは自分なりにアメリちゃんたちの身を案じてくれているのだろう。これからも続くアメリちゃんの旅に役立てるように……。
「あぁ、迷惑なら受け取らなくても……」
「ううん!ありがとう、バジルお兄ちゃん!アメリ、大切にするね!」
「……ああ……」
アメリちゃんはキラキラと目を輝かせながらバジルから水晶玉を貰った。バジルの方も水晶玉を受け取ってもらえて安心した表情を見せた。
いいなぁ、アメリちゃん。ちょっと羨ましい……。
「それじゃあ、そろそろ……」
「うん、行ってらっしゃい!」
そして別れの時が来た。アメリちゃんたちは徐に旅路に沿って歩みを進める。
「メアリーお姉ちゃーん!また会おうねー!」
「アメリちゃーん!元気でねー!」
「バジルさんも、色々とあいがとうございましたー!」
「黒ひげさんたちにもお礼を伝えてください!」
「また機会があったら会おうなー!」
「ああ、またどこかで会おう!」
アメリちゃんたちの姿が見えなくなるまで、私たちはずっと手を振った…………。
「……行っちゃったね……」
「ああ……だが、また何時か会えるさ!」
「……そうだね!」
アメリちゃんたちとの出会いは、私にとって本当に貴重な経験になった。昨日まで一度も会った事の無かった妹と過ごした一日は、とても短くて、とても楽しい日となった。
これからもアメリちゃんは会った事のないお姉さんたちに会う旅を続ける……
あんなに小さい子が、毎日頑張って……!
これは……私も負けてられない!アメリちゃんがあんなに頑張ってるんだ!私も……立派な海賊になるよう頑張らなきゃ!
「さぁ、バジル!早くダークネス・キング号に戻ろう!黒ひげさんたちが待ってるよ!」
「ああ!」
立派な海賊になる!
心の中で改めてそう誓った私は、バジルと共にダークネス・キング号へと向かって行った…………。
「ここがシャルミッシか……大きな街だね」
「早速色々と見て回るか」
「せやな。しかし、中々楽しそうな街やな」
現在13時。
私たちはシャルミッシと言う大きな街を訪れていた。
シャルミッシとは親魔物領の大きな街で商売が盛んな街としても有名である。そこで折角だから旅に必要な物を買い揃える為に寄る事になったのだ。
「あのお店で売ってるジャガイモ安い!ここで買っておこうかな?」
「あ!アイスクリームやさんだ!サマリお姉ちゃん、一つかってもいい?」
「アメリちゃん、先ずは旅に必要な食材を買ってからだよ。アイスはその後に買ってあげるから」
「うん、わかった!」
「へぇ、武器屋なんて店もあるんだな」
「ん?なんや、ユウロ?新しく武器でも買うつもりか?」
「まさか、俺にはこの木刀だけで十分だ」
そして私たちは街の店を色々と見回りながら歩いている。
見たところお店で売られてる商品はどれも安い。商売が盛んで有名なだけはある。
「号外!号外だよー!」
「ん?」
すると、ハーピーと思われる魔物が大声で叫びながら新聞を配っていた。どうやら配られているのは号外の新聞らしい。
でも号外と言う事は……何か大きな事件でも起きたのだろうか?
「号外だって。何があったんだろう……」
「とりあえず、あのハーピーのお姉ちゃんに一まいもらってみよう」
「そうだな。すいませーん、一枚くださーい!」
「はいはい、どうぞ!」
号外の記事の内容を確認する為にハーピーの下へ歩み寄ると、ハーピーはユウロに号外の記事を手渡した。そして皆で一緒に号外の記事を見てみると……。
「なになに……『無敵の黒ひげ海賊団、教団の戦艦を無傷で沈没!伝説の名に偽り無し!』……海賊か……」
「教団の戦艦を!?戦艦って、かなり強いんでしょ?それを無傷で沈めるなんて……」
「けっこうつよいんだね……!」
なんと、黒ひげ海賊団と言う海賊が教団の戦艦を沈めたとの事。見出しのすぐ下には、黒くて長い髭を生やした中年の男の人が描かれている……いかにも海賊と言った感じの人だ。恐らく、この人がその黒ひげだろう。
教団の人たちでさえ強いのが沢山いるのに、戦艦ごと沈めてしまうなんて……相当の実力者なのだろう。
「あぁ、黒ひげ海賊団か……確かにあいつらなら余裕で出来るわ」
「え?カリンお姉ちゃん、黒ひげ海ぞく団を知ってるの?」
すると、何やらカリンが納得したかのように呟いた。
この反応からして、どうやら黒ひげ海賊団について知ってそうだけど……。
「ああ、実際に会った事は無いけどな。黒ひげ海賊団の船長を務めてるティーチ・ディスパー……通称黒ひげは極悪非道の海賊だと言われてるんや」
「極悪非道?」
「あくまで噂なんやけど、金や名声を得るためには女子供も容赦なく殺したり、自分の部下でさえ平気で見殺しにする男なんや。あと、これも噂なんやけど、教団の勇者の手足を縄で縛ったうえに、首に大砲の弾が付いた鎖を括り付けて、暗い海へ沈めたらしいんや」
「えぇ……なんだかこわいね……」
黒ひげの噂を聞いたアメリちゃんは、ちょっと怯えた表情を浮かべながら私の足にしがみ付いた。
でも、その話が本当だとしたらとんでもなく恐ろしい人なのだろう。号外の記事に描かれてる黒ひげの顔も、凄く悪そうに見えるし……。
「ただなぁ、この黒ひげについては情報が曖昧なんや」
「え?どう言う事?」
しかし、カリンが言うには黒ひげの情報は曖昧との事。
「それがな、悪い噂だけやなくて、良い噂まで流れてるんや。話によると、教団の勇者に殺されかけた魔物の子供を助けたそうやで」
「え?それ本当なの?だとしたら良い人だと思うんだけど……」
「いや、噂やから確証は持てないんや。本当なのかどうかも疑わしくてな……とにかく、こういった得体の知れない輩には近付かない方がええで。触らぬ神に祟り無しや」
「うん……まぁ確かにそうかもね」
魔物の子供を助けた……それだけ聞けば良い人だと思われるけど、噂は噂。そう簡単に信じ込むのは止めた方が良いだろう。
……あ、そうだ。海賊と言えば……。
「海賊か……そう言えばキッドさんたち、元気にしてるかな?」
ふと、頭の中にキッドさんたちの姿が思い浮かんだ。
「キッドさんか……今もどこかで仲間たちと一緒に冒険してるのかもな」
「ピュラ、元気にしてるかな……会いたいな……」
「また会おうって約束したんでしょ?それなら必ず会えるよ」
「うん!」
キッドさんは、旅の途中で無人島で遭難してた私たちを助けてくれた海賊だ。キッドさんの船、ブラック・モンスターに乗った日々の事は今でも憶えてる。
アメリちゃんにはピュラちゃんと言うマーメイドの友達が出来たり、ユウロは海賊の戦闘を経験して強くなったり、私は楓さんから料理を教わったりと、本当に充実した航海だった。お陰で私の海賊のイメージが少しだけ良くなったように思えた。まぁでも、キッドさんたちみたいな海賊の方が珍しいのだろうけど……。
「なぁ、ウチだけ話の内容が理解出来ないんやけど……そもそもキッドって誰なんや?」
私とアメリちゃんとユウロがキッドさんたちについて話し始めると、カリンが軽く片手を上げながら声をかけて来た。
あ、そうだった……あの時カリンは私たちと一緒に居なかったから、キッドさんたちとも会わなかったんだ。
「キッドさんはね……」
と、カリンにキッドさんたちについて話そうとしたら……。
「……あれ?これって、もしかして……」
急にアメリちゃんが周辺をキョロキョロと見渡し始めた。
どうやら魔力か何かを感じ取ってるように見えるけど……。
「アメリちゃん、どうしたの?」
「うん、近くにね……あ!」
そしてアメリちゃんは前方へと視線を移すと、何やら嬉しそうな表情を浮かべた。
そして……。
「お姉ちゃんだー!」
突然、前方へと走り出した。
お姉ちゃんって……まさか、リリムの事?
「な、なんや?お姉ちゃんって、リリムの事か?この街におったのか?」
「多分そうだね。とにかく、私たちも行こう」
「おう」
私たちは先に走り出したアメリちゃんの後を追いかけた…………。
***************
「わぁ〜!結構広いね!」
「ああ、中々賑やかな街だな」
私はバジルと一緒に親魔物領の街、シャルミッシを訪れていた。街の中は様々な魔物や人間で溢れていて、結構賑やかな雰囲気だ。至る所でお店も立ってて、商売も盛んなようだ。
「ここなら良い買い物が出来そうだね!旅に必要な食材を買ったら、服とアクセサリーと、それから……」
「メアリー、買い過ぎは駄目だからな?」
「わ、分かってるよ……」
バジルは口元を覆ってるマスクを撫でながら釘を刺して来た。
何時も真面目なバジルだけど、こういう時は特にしっかりしてるんだから……。
「さてと、先ずは食材を買いに行こう」
「確か……牛挽肉200gに卵一パック、あと玉葱三個と砂糖一袋だったな」
「それじゃ、先ずは八百屋にでも行ってみようか」
と、まずは旅に必要な食材を買い揃えようとしたら……。
「……ん?」
ふと、どこからか強力な魔力を感じた。そして思わず街中をキョロキョロと見渡してみる。
この強力な魔力……もしかして!
「どうしたんだ、メアリー?」
「うん、もしかしたらどこかに私の姉さん、もしくは妹がいる気がするの」
「それは……リリムの事か?」
「うん、この強力な魔力は間違いなくリリムのものだよ」
この魔力は私たちリリムのものだと確信を持って言える。でも、一体どこに……?
「お姉ちゃんだー!」
「……え?」
すると、右側から元気な女の子の声が聞こえた。その声の方向へと振り向いて見ると、そこには……!
「あ!もしかして!」
リュックらしき物を背負ってる小さな女の子がこちらに向かって走って来た。
白いセミロングの髪に紅い瞳、そして黒い角と翼と尻尾……間違いない!あの子、リリムだ!
「こんにちは!」
「こんにちは!もしかして君、リリムなの?」
「うん!アメリだよ!」
「やっぱり!始めまして、私はメアリー!よろしくね、アメリちゃん!」
「うん!よろしくね、メアリーお姉ちゃん!」
私の下へ駆け寄ってきたリリムはアメリちゃんと言う名前らしい。元気良く挨拶してくれた。
「いやぁ、こんなところで妹に会うなんて思わなかったな……」
「アメリもここにメアリーお姉ちゃんがいるなんて知らなかった!」
私がアメリちゃんの頭を優しく撫でてあげると、アメリちゃんは嬉しそうな表情を浮かべた。
あぁ……可愛いなぁ……自分にこんな可愛い妹がいたなんて……。
「おーい!アメリちゃーん!」
「あ、サマリお姉ちゃんたちだ!」
「ん?」
すると、今度は二人の魔物と一人の人間の男が駆け寄ってきた。
一人はワーシープで、もう一人は形部狸、それに加えてジパングっぽい顔つきの男の人……なんだか珍しい組み合わせだ。でも男の人からは魔物の魔力を感じない……恐らく、ワーシープとも形部狸とも夫婦の関係にはなってないようだ。
「もう、いきなり走り出すから何事かと思ったよ……」
「あはは、ゴメンね……でもメアリーお姉ちゃんに会えたよ!」
「ん?あなたは……もしかしてリリムですか?」
「うん、私はメアリー。見ての通り、アメリちゃんと同じリリムなんだ」
ワーシープが私の存在に気付いたので、とりあえず私から自己紹介をする事にした。
「そうですか……私はサマリです。アメリちゃんと一緒に旅をしています」
「俺はユウロです」
「ウチはカリンや。よろしゅうな」
「そっか……みんな、妹と一緒に居てくれてありがとう!」
「いえいえ……」
ワーシープの名はサマリ、男の人の名はユウロ、そして形部狸の名はカリンらしい。
三人とも優しそうで良い人のようだ。まぁ、妹が悪い人と一緒に旅なんてしてる訳が無いんだけどね。
「…………」
「あ、いけない!バジルを紹介するの忘れてた!」
「忘れてたって……」
「あはは、ゴメンゴメン……」
と、近くで黙々と私たちを見ていたバジルに気付き、慌ててバジルの腕を引いて彼を紹介する事にした。
「紹介が送れちゃったけど、この人の名前はバジル。一緒に旅をしてくれてる私の旦那様だよ♪」
「へぇ、メアリーお姉ちゃんのだんなさんか。よろしくね、バジルお兄ちゃん!」
「ああ、よろしく」
アメリちゃんによろしくと言われて、温かい笑みを浮かべて応えてくれるバジル。
こうしてみると、本当の兄妹にも見えて微笑ましい。あ、でもバジルは私の夫だから、事実上バジルはアメリの義理のお兄さんって事になるのかな?
「なぁ、ここで立ち話もアレやし、とりあえずどこかでお茶でも飲みながらゆっくりと話そうや」
「それもそうだね」
「丁度あそこに喫茶店がある。そこにしないか?」
「そうだね。それじゃあアメリちゃん、行こうか!」
「うん!」
そして私たちは、ゆっくりとお話する為に喫茶店へ向かった。
喫茶店に入るまでアメリちゃんと手を繋いで歩いたけど、アメリちゃんの手は本当に温かかった。その途中でも私に微笑みかけてくれる。
あぁ……もう、ホントに可愛いなぁ♪
===========
「へぇ、お姉さんたちに会う旅をしてるんだ。大変だね……」
「うん、でもサマリお姉ちゃんたちが一緒にいてくれるから毎日たのしいよ!」
喫茶店に入った私たちはお茶を飲みながらお話をしていた。六人掛けのテーブルでバジルとアメリちゃんが私を挟むように座り、その向かい側にはユウロ君とサマリちゃん、そしてカリンちゃんが座っている。
聞いた話によると、アメリちゃんはまだ会った事の無いお姉さんたちに会う旅をしているとか。我が妹ながら、しっかりしてて良い子だなぁ……。
「ところで、メアリーお姉ちゃんとバジルお兄ちゃんはなんで旅をしているの?」
「私はね、立派な海賊になる為に旅をしているんだ」
「え!?お姉ちゃんって海ぞくなの!?」
「ちょ、アメリちゃん!声が大きい!」
「あ、ゴメンゴメン……」
私が海賊だと知った途端にアメリちゃんは驚いたけど、その声が大きすぎたのか回りにいる他のお客さんが一瞬だけこちらを振り向いた。しかし、サマリちゃんがアメリちゃんを宥めると同時に、周囲のお客さんもこちらを見なくなった。
「あはは……まぁ、驚くのも無理はないよね」
「でも、なんでメアリーお姉ちゃんは立派な海ぞくになりたいの?」
「簡単に言うと……子供の頃から海賊に憧れててね、私も自由に海を渡れる立派な海賊になりたいと思って海に出たんだ」
「へぇ……」
自由に危険な海を渡り、仲間たちと共に苦難を乗り越えて旅をする……そんな海賊に子供の頃から憧れていて、私自身も立派な海賊になる為の旅をしている最中でもある。
今はまだ自分の船が無くて、黒ひげさんの船に乗せてもらってるけど、何時かは自分だけの船を手に入れて立派な海賊の船長になるつもりだ。
「あの……海賊と言う事は、もしかして自分の船を持ってたりしますか?」
「いや、実はまだ自分たちの船は持ってないんだ」
私の代わりにバジルがユウロ君の質問に答えた。
ここは私が答えるべきだと思ったけど……まぁ、良いかな。
「俺たちは今、別の海賊の船に乗せてもらってる……まぁ、居候と言った方が良いか?自分たちの船が手に入るまでの間だけ特別に乗せてもらう事になってるんだ」
「へぇ……ん?待てよ……もしかして、その海賊たちの船って近くにあったりします?」
「まぁ、そうだが……心配するな。そこいらの奴とは違って、無闇に人を襲わない海賊だからな。この街に害を齎すような真似はしないさ」
「そうですか……」
バジルの答えを聞いたユウロ君は少しだけ安心した様子を見せた。
まぁ、バジルが言った通り、黒ひげさんは無闇に人を襲うような危なっかしい人じゃないからね。
「そう言えばさ、アメリちゃんは今までどんなお姉さんたちと出会ったの?」
「う〜んと……あ!そうだ!」
私の質問に首を傾げたアメリちゃんは、急に何か思い出したような素振りを見せた。
「アメリね、ずっと前に海ぞくの船にのせてもらったことがあるんだ!」
「え!?そうなの!?」
「うん!それでね、キッドお兄ちゃんって人が船長をやっててね……」
「キッド!?」
アメリちゃんの口からキッドの名前が出た時には驚かずにはいられなかった。私の隣に座ってるバジルも面食らった表情を浮かべている。
「ね、ねぇアメリちゃん。そのキッドって人のフルネームは……キッド・リスカードだったりする?」
「え?う〜ん……たしかそんな気がする」
「それじゃあ……その人のお嫁さんはシー・ビショップで、サフィアって名前だったりする?」
「そうだよ」
「それじゃあ……その海賊の船に、ピュラって言う小さなマーメイドの女の子も乗ってた?」
「うん!ピュラにも会ったよ!でも、なんで知ってるの?」
「……やっぱりそうか……」
アメリちゃんの答えを聞いて確信出来た。
間違いない。これだけ条件が揃っていれば……もうあの人たちとしか考えられない。
「アメリちゃん、実はね、そのキッド君って人は私たちも会った事があるんだ」
「え!?そうなの!?」
「うん、少し前に一緒に戦った事があるんだ」
「懐かしいな。あの時は色々と大変だった……」
たった今アメリちゃんが話したキッド君と言う人は……私とバジルも会った事がある。キッド君とは共に強大な敵と戦った事があり、今では友達とも呼び合える関係となってる。
会った時から海賊にしては不思議な人だとは思ってたけど、まさかアメリちゃんと面識があったなんて知らなかったなぁ。人と人との巡り会わせは本当に予測できないものだ。
「あ、ゴメンゴメン。話の流れを切っちゃったね。それで、キッド君たちがどうかしたの?」
「うん、それでね……」
その後私たちは、アメリちゃんの旅の話を聞いた。会った事の無いお姉さんに会う旅のお話は本当に興味深いものだった…………。
〜〜〜数時間後〜〜〜
「楽しかったね、アメリちゃん!」
「うん!アイスもおいしかった!」
「いやぁ、この街の人たちは商売が上手やなぁ。関心してもうたわ」
「良い買い物が出来たね!」
喫茶店を出てから数時間後、私たちはアメリちゃんと一緒に買い物を楽しんでいた。それぞれ丁度必要な物を買い揃えた時には空が夕焼けに染まっていた。
私はアメリちゃんと一緒に過ごせて大満足!一緒に可愛い玩具屋を見たり、おやつにアイスクリームを食べたり、本当に楽しかった!サマリちゃんとカリンちゃんも買い物が出来て満足そうな笑みを浮かべている。
「……メアリー……余計な物まで買い過ぎだろ!なんだ、この服とアクセサリーの量は!?」
「……バジルさん、お疲れ様です……」
「憶えておけ、ユウロ。女はこういう生き物なんだ」
「あはは……肝に銘じておきます」
ただ……私が買った物を半ば強制的に持たされてるバジルは不満を露にしている。そんなバジルをユウロ君は苦笑いを浮かべながらも気にかけてくれていた。
「さて、買い物も終わったし……メアリーさんたちはこれからどうします?私たちはこれから宿を探しに行きますけど……」
「そっか……そろそろ宿を探さないと、泊まる場所が無くなっちゃうよね」
サマリちゃんが言うには、これから宿を探しに行くらしい。確かにもうそろそろ陽が沈むし、探しに行かないと野宿になるか……。
……あ!そうだ!
「ねぇねぇ!私に一つ提案があるんだけど……」
「え?どうしました?」
「あのね、私たちが他の海賊の船に居候してるって話は聞いたでしょ?それでね……」
私はたった今頭に浮かんだ考えをそのまま口にした。
「その海賊の船長に頼んで、今晩は私たちが乗ってる船に泊まるってのはどう?」
「え!?」
すると、サマリちゃんたちは一斉に驚いた表情を浮かべた。
まぁ、こんな突拍子も無い事を言ったら無理もないか。
「そ、そんな悪いですよ!急にお邪魔したら迷惑なんじゃ……」
「大丈夫!私たちが乗ってる船は結構大きいし、その船の船長も寛大な人だから受け入れてくれるよ!それに宿代も浮くから、悪い話じゃないと思うけど」
我ながら大胆な提案だと思ってる。黒ひげさんには悪いけど……もうちょっとアメリちゃんと一緒に居たいし、次は何時アメリちゃんに会えるか分からないから、少しでも一緒に居る時間を大切にしたい。そう思った故の提案だ。
仮にも黒ひげさんに断られたとしたら……何とか押し切って説得させよう!
「ええやんか。宿代が浮くのは助かるし、ここはお言葉に甘えとこうや」
「まぁ、ダメならダメで何とかすれば良いさ」
「アメリもメアリーお姉ちゃんと一緒にいたーい!」
「えへへ、ありがとうアメリちゃん!」
カリンちゃんとユウロ君、そしてアメリちゃんはその気になってくれたようだ。残りはサマリちゃんだけ……。
「……それじゃあ、お願いします」
「よし、決まり!」
サマリちゃんも一緒に来てくれる事になったし、私たちは早速黒ひげさんの船……ダークネス・キング号へと向かう事にした。
「ところで、その海賊船って何処にあるんですか?」
「ここから西南にある森を抜けたら海岸が見えるけど、そこに停泊してるよ。歩いて一時間は掛かるかな」
「一時間も!?結構長いんやな……」
一時間も掛かると知った途端、カリンちゃんは明らかにしんどそうな表情を浮かべた。
まぁ気持ちは分かる。さっきまでずっと歩き回ってたのに、更に一時間も森を歩き続けるなんて気が滅入る筈。でも心配は無用!
「大丈夫!バジルなら一時間も掛かる道のりも、たったの十分で済ませられるよ!」
「え?どう言う事ですか?」
「まぁ見てて。と言う訳でバジル、お願いね♪」
「ああ」
バジルにウィンクして合図を送ると、バジルは片手を前方へと突き出した。
そして……!
「出でよ……我が魔力鳥、ウィング・ファルコン!」
===========
「あはは!すごい!はやーい!」
「ヤッホー!アメリちゃん!乗り心地はどう?」
「ヤッホー!メアリーお姉ちゃん!すっごくいいよ!」
「バジル、間違っても落とさないように気を付けてね!」
「分かってる」
バジルによって操られてる巨大な隼、ウィング・ファルコンは快適にアメリちゃんたちを背中に乗せて羽ばたいている。私はその隣で自分の翼を羽ばたかせて飛んでいた。
アメリちゃんも翼があるから飛べるけど……本人曰く、巨大な隼に乗ってみたいとの事。自分で飛ぶより楽しいのか、アメリちゃんは我を忘れてるかのようにはしゃいでる。
「バジルお兄ちゃんってすごいね!こんなに大きいトリさんを魔力で作れるんだね!」
「まぁ、これも長年の修行の成果だ」
「私の旦那様は凄いでしょ?」
「うん!すごいね!」
「……そんなに褒めても何も出ないぞ?」
私とアメリちゃんに褒められてるバジルは手を振って軽くあしらったけど、満更でもなさそうだ。
でも照れくさそうにしてるバジルも良いねぇ……♪
「わぁぁ!凄い!高ーい!」
「風が当たって気持ちええわぁ!」
「空を飛ぶなんて初めてだけど、こんなに気持ち良いなんて知らなかった!」
「ほんまやな!この爽快感はハンパないでぇ!」
と、こんな感じでサマリちゃんとカリンちゃんは子供のように……それもアメリちゃん以上にはしゃいでる。まぁ空を飛ぶなんて滅多に無い経験だろうから、興奮せずにはいられないのだろう。
「あはは……すいませんバジルさん。乗せてもらってるのに、騒がしくて……」
「別に気に障ってないさ。むしろ、喜んでもらえたようで嬉しく思ってる」
ユウロ君は苦笑いを浮かべながらバジルに謝ってる。でもバジルは気にする様子も見せずに温かい笑みを浮かべて応えた。
この調子なら十分位でダークネス・キング号に着きそうだ。到着したら早速アメリちゃんたちを船に泊まらせてくれるように黒ひげさんに頼もう。
……あ、そう言えば……まだアメリちゃんたちに黒ひげさんの事を話してなかった。
ま、着いた後でも問題無いか。
〜〜〜十分後〜〜〜
「…………」
「あの〜、みんな……」
「ちょいメアリー!こんなん聞いておらへんで!」
「いや、だから落ち着いてよ……」
……えっと、とりあえず状況を整理してみよう。
無事にダークネス・キング号に着いた私たちは、早速船の中に入って、この船の船長である黒ひげさんに会う為に船長室を訪ねた。
そこまでは良い。何の問題も無い。
それで、部屋を訪ねるとちょうど黒ひげさんが部屋の中に居た。
それも大丈夫。ノープロブレム。
でも……問題は今の状況だ。
「お世話になってる海賊って黒ひげだったのかよ!」
「なんでこんな危なっかしい男の世話になっとるんや!」
「ご、号外の記事と同じ顔……しかも大きい身体……!」
「……会わされておいていきなり警戒されるとは……」
「ご、ゴメンね黒ひげさん」
「いや、それは構わぬが……」
黒ひげさんを見た瞬間、カリンちゃんたちは一斉に身構えてしまった。いきなり警戒されてる黒ひげさんは少々戸惑ってる。ユウロは木刀に手を掛けて、カリンちゃんは棍棒を構え、サマリちゃんは怯えた様子でアメリちゃんを抱きかかえている。この様子からして……みんな恐らく黒ひげさんを知ってたのだろう、悪い意味で。
参ったなぁ……こうなるんだったら、事前に黒ひげさんについてちゃんと説明しておくべきだった。あ、でも悪名高い黒ひげさんの名前を出したところで、そう簡単に信じてもらえる訳ないか……。
「……お前ら、少しは落ち着け」
すると、バジルがカリンちゃんたちの下へ歩み寄って話しかけた。
「よく考えろ。確かに黒ひげは極悪非道だなんて言われてるが、本当に悪人だったらわざわざお前たちをこんな所へ連れてきたりしないだろ?」
「それは……」
「それに、メアリーの妹であるアメリもいるんだ。自分の妹と極悪人を会わせる訳無いだろ?」
「……言われてみれば……」
バジルの発言を聞くと、みんなそれぞれ納得した様子を見せたが、まだ警戒を解いた訳ではなさそうだ。
「ほ、ほな聞くで!あんたは教団の勇者の手足を縛ったうえに、首に大砲の弾付きの鎖を括り付けて海へ沈めたなんて噂があるんやけど、そこんとこはどうなんや!?」
「……あぁ、確かにそのような事をしでかしたな……」
「なっ!?」
「だが後の事も考えた上での行動よ。海底へと沈む途中で勇者を助けようとする海の魔物の為に、首の鎖は比較的緩めに縛ったのだ。でなければ海の魔物は勇者を連れ去る事が出来ぬからな」
「……ほんまなんか?」
「必要の無い嘘を述べても無意味であろう?」
黒ひげさんはカリンちゃんの質問に正直に答えたものの、カリンちゃんは疑いの眼差しを黒ひげさんに向けている。
「本当だよ!私、その時に近くでちゃんと見てたよ!やり方は残虐だと思われるけど、黒ひげさんは勇者の事も、海の魔物たちの事も考えてくれてたんだよ!」
「そうなんか……?」
私が必死に弁護するも、カリンちゃんたちの誤解を解くには至らなかったようだ。
う〜ん……よし!ここはアメリちゃんに……!
「ほら、アメリちゃん!黒ひげさんに挨拶しなきゃ!」
「あ!ちょっと!メアリーさん!」
「あわわ!」
私はアメリちゃんの手を引いて黒ひげさんの下まで連れて行った。
「大丈夫だよアメリちゃん、ほら、ご挨拶」
「う、うん!はじめまして!アメリだよ!」
最初は戸惑ってたものの、私がアメリちゃんの肩に手を置いてあげるとアメリちゃんは笑顔で黒ひげさんに挨拶した。すると、黒ひげさんは温かい笑みを浮かべながら膝を曲げてアメリちゃんに話しかけた。
「おお、元気の良い娘よ。時に、歳は幾つぞ?」
「アメリは8さいだよ!」
「そうかそうか、よう来てくれた。どれ、飴玉をやろう」
「え!?アメくれるの!?やったー!ありがとう!」
「フハハハハ!可愛げのある娘よ!」
「えへへ……あむっ……おいしー♪」
「フフフ、微笑ましき事よ……」
話すうちに黒ひげさんに対する警戒心が無くなったのか、アメリちゃんは明るい笑顔を浮かべたまま黒ひげさんと話してる。更に黒ひげさんから貰った飴玉を口に入れて上機嫌になったようだ。
それにしても、なんだかお爺ちゃんと孫のやり取りみたいで微笑ましいなぁ……。
「……ねぇ、もしかして黒ひげさんって良い人だったりする?」
「俺もそう思えてきた……」
「なんや……ものごっつう微笑ましいわ……。もしかして、ほんまにええ人なんちゃう?」
「うん!本当に良い人だよ!黒ひげさんはキッド君と同じように、罪の無い人には絶対に襲わないんだから!」
黒ひげさんとアメリちゃんの光景を見ているサマリちゃんたちもようやく警戒心を解いたようだ。
よし、作戦成功!と、心の中でガッツポーズをした。
「時に……我に用があってここに来たのではないか?」
「あ、そうだった」
何時の間にかアメリちゃんの頭を撫でてる黒ひげさんが話しかけてきた。
そうだ……肝心な事を忘れるところだった。
「黒ひげさん、急にこんな頼みを言って悪いんだけど……今晩だけアメリちゃんたちをこの船に泊めてくれないかな?」
両手を合わせて深く頭を下げてお願いすると……。
「何かと思えば……それくらい容易いわ!思う存分寛いで行くが良い!」
「受け入れ早っ!良いの!?」
なんと、躊躇う事無く承諾してくれた。
頼んでおいてアレだけど、受け入れるの早過ぎるなぁ……。
「もう少し妹と共に過ごしたいのであろう?ならばその時間を大切に過ごすのだ!」
「あはは……もうお見通しだった訳か……」
「うむ、お主たちも遠慮せずに寛いで構わぬからな」
黒ひげさんに笑顔で話しかけられて、アメリちゃんたちの表情がようやく明るくなった。
「ありがとう、黒ひげおじさん!」
「あ、ありがとうございます!」
「え、えっと……変に警戒してごめんなさい!」
「ほんま、堪忍なぁ……」
「フハハハハ!構わぬ!ああいった反応には慣れておるわ!」
アメリちゃんたちのそれぞれの言葉に対し、黒ひげさんは纏めて豪快な笑いで受け止めた。
いや〜、良かった……アメリちゃんたちも打ち解けてくれたし、黒ひげさんからも許可を貰ったし、一先ず安心したよ。
「そうと決まれば……メアリー、バジル、早速この者たちを空部屋へと案内するのだ」
「は〜い!」
「え?空部屋ですか?」
「うむ、この船には空部屋など幾らでも余っておるからな、今晩はそこで寝てくれ」
「そうですか……ありがとうございます!」
「うむ、では案内は頼んだぞ」
そして私とバジル君は、アメリちゃんを空部屋へと案内する事になった。
時間的に数時間程経ったら夕食になるね。それまでアメリちゃんとゆっくりお話でもしてよう。
〜〜〜数時間後〜〜〜
「ごはんまだかな〜?アメリ、もうお腹ペコペコだよ〜」
「フハハ!もう少しの辛抱だ」
アメリちゃんたちを部屋へと案内してから休憩した後、ダイニングにてアメリちゃんたちと一緒に夕食を食べる事になった。
私の隣に座ってるアメリちゃんはお腹が減って元気が無いらしいけど、それを黒ひげさんが宥めている。こうして見ると、やっぱりお爺ちゃんと孫の組合せだ。
「ミートローフってそうやって作るのですね。勉強になります!」
「いえいえ、私なんて……サマリさんこそ、こんなに美味しくポトフを作れるなんて素敵です」
キッチンの方ではサマリちゃんと龍の姫香さんが一緒に料理を作っている。聞いた話によると、サマリちゃんも料理が作れるとの事で姫香さんのお手伝いを自ら引き受けてくれたのだ。
ちなみにサマリちゃんはポトフを作ってくれるらしい。ホント、ご飯が待ち遠しいな……。
「しっかし、これまたごっつうたまげたわ。龍にバフォメットにダークマター……どれも上位種の魔物ばかりやないか。しかも三人とも黒ひげの娘やなんて……」
「よく言われるのじゃ。でも血が繋がってないとは言え、わしらは親子なのじゃ」
「…………ファミリー、万歳……」
「血が繋がってなくても家族か……なんか、良いですね……」
「おお!ユウロ殿は分かっておるのう!」
そしてダイニングには私とバジルと黒ひげさん、アメリちゃんたちの他にも、バフォメットのエルミーラさんとダークマターのセリンちゃんも居た。
「なんちゅーか……黒ひげ海賊団のメンバーって少ないんやな。てっきり百数人はいるのかと思うたんやけど……」
「とある事情があっての、一から海賊団を作り直す事になったんじゃ。なぁに、船員なんてその気になればすぐに集められるのじゃ」
「…………お茶の子さいさい……」
エルミーラさんもセリンちゃんも、急な来客にも驚く事無く親しげに話してくれている。やっぱり人生経験の差なのかな……?
「黒ひげおじさん、ここに来るとちゅうで『ほうもつこ』の前を通ったんだけど、あの中にはなにがあるの?」
「うむ、あの宝物庫の中には、我が今まで集めた宝が収められておるのだ」
「宝があるの!?黒ひげおじさん、後でほうもつこの中を見せて!」
「うむ!では夕餉を食した後に見せてやろう!」
「やった〜!ありがとう!」
「……しかし、四人増えただけで結構賑やかになったな」
「そうだね。まるで大家族の食卓みたい」
私の隣に座ってるバジルは微笑ましそうにアメリちゃんと黒ひげさんの会話を見守っている。
確かにバジルが言った通り、アメリちゃんたちがいると賑やかになってる気がする。まぁ普段からも賑やかだけど、何時も以上にこの食卓が楽しい雰囲気になってるような気がした。やっぱり、大勢の人と楽しむ食事は良いね……。
「お待たせしました〜!ご飯にしますよ〜!」
「わー!おいしそー!」
と、こんな感じで話してると、サマリちゃんと姫香さんが料理を運んできてくれた。サマリちゃんはポトフを、姫香さんはミートローフをそれぞれ配膳してくれてる。
「さて、配膳も済み、全員座った事だし、そろそろ食べよう!」
「うん!それじゃあ……」
『いただきます!』
サマリちゃんと姫香さんがそれぞれ自分の席に座ったところで、私たちは早速夕食を食べる事にした。
さて、早速サマリちゃんが作ってくれたポトフを食べてみよう。スプーンを手にとって、サマリちゃんのポトフを口に運んでみる。
そのお味は……!
「……美味しい!ホントに美味しい!サマリちゃん、凄い!」
とっても美味しい!今まで食べたポトフの中でも一番美味しい!
「そ、そんな大袈裟ですよ」
「ううん!もう本当に美味しい!バジルもそう思うでしょ!?」
「確かに、これは美味いな!どうやったらこんなに美味く作れるんだ?」
「うむ!サマリは良い嫁になれるわ!」
「そんな……ありがとうございます!」
私に続いてバジルと黒ひげさんからも絶賛されて照れくさそうな表情を浮かべるサマリちゃん。
いやぁ、サマリちゃんって料理上手なんだね。黒ひげさんが言った通り、良いお嫁さんになれるよ。
「はむはむ……姫香お姉ちゃんが作ったミートローフもおいしいよ!」
「あら、ありがとうございますアメリさん!」
「このミートローフの肉汁、溜まらんわぁ……」
「ああ、本当に美味い!」
「あらあら、そんなに褒めてくださるなんて、作った甲斐がありました!」
一方、アメリちゃんとカリンちゃん、そしてユウロ君は姫香さんのミートローフを絶賛している。
どれどれ、今度はミートローフを…………って!
「あぐぁあ!?」
ミートローフのお皿と一緒に盛られてる付け合わせの野菜を見て絶句してしまった。
ニンジン、インゲン、この二つは問題無い。だけど……だけど!
「なんでブロッコリーなんて入れるの……」
そう……ミートローフの傍にはブロッコリーが盛り付けられていた。
私はピーマンもニンジンも葱も食べれる。でも……ブロッコリーだけはダメなのにぃ……!
「…………」
「もぐもぐ……いや、本当に美味い……ん?」
ちょうど私の隣に座って、サマリちゃんのポトフを美味しそうに食べてるバジルに無言の助けを求めた。私の視線に気付いたのか、バジルはふとこちらを向いてくれた。
お願いバジル、私のブロッコリーを食べて……!
「…………」
「……メアリー……お前の言いたい事は分かる」
「ホント!?それじゃあ……」
「だが断る!ブロッコリーくらい食え!」
「えぇ〜!」
私の助けが伝わったにも関わらず、バジルは拒否の意を示した。
うぅ……なんて冷たい対応なの!愛するお嫁さんが絶体絶命のピンチに追い込まれてるのに!
「あの……もしかしてメアリーさんって、ブロッコリー苦手ですか?」
「うん、子供の頃からずっとダメなの……」
サマリちゃんに質問されて、苦笑いを浮かべながら答えるしかなかった。
「全く……そのブロッコリーにどれだけのビタミンが入ってるのか分かってるのか?」
「そう言われても、食べれないのは食べれないよ!」
「子供か、お前は……」
「しょうがないでしょ!ねぇ、アメリちゃんも無理だよね?」
と、私の隣に座ってるアメリちゃんに話を振ると…………。
パクッ
「もぐもぐ……」
「…………」
「ごっくん……メアリーお姉ちゃん!ブロッコリー、おいしーよ♪」
「…………」
私の目の前で、自らフォークでブロッコリーを食べた。その時の幸せそうに顔を綻ぶ姿ときたら……。
「お、アメリはブロッコリー食べれるのか?」
「うん!おいしいよね!」
「うんうん、良い事だ。それに比べて、こいつときたら……」
バジルはジーっと私の顔を無表情で見つめてくる。その視線が痛いのなんの……。
「ちょ、そんな目で見ないでよ!」
「メアリー……お前より十歳も年下の妹だってちゃんと食べてるだろ?なのに姉であるお前が食べれないなんて……」
「好き嫌いに姉も妹も関係無いじゃん!」
「好き嫌いそのものが良くないのは確かだろ?」
「うぅ……」
「メアリーお姉ちゃん!」
「ん?」
突然、アメリちゃんに呼びかけられて思わず振り向くと……。
「あ〜ん♪」
「……え?」
アメリちゃんは何時の間にか私のブロッコリーをフォークで刺して食べさせようとしていた。
「ア、アメリちゃん……?」
「大丈夫だよ、メアリーお姉ちゃん!不味くないから!」
「で、でも……」
「ほら、あ〜ん♪」
無邪気にもブロッコリーを食べさせようとするアメリちゃん。その愛くるしい笑顔に一切邪気が無いのが罪深い……!
「ほら、姉なら妹の愛情を全て受け止めるべきだろ?」
傍からバジルが食べるように促してる。なんか、半分面白がってるように見えるのは私だけ……?
「メアリーお姉ちゃん、あ〜ん♪」
アメリちゃんも私の口にブロッコリーを近づけて食べさせようとしている。
うぅ……ここはアメリちゃんの姉として、応えない訳にはいかない……!
パクッ
うぇぇ……でも吐いちゃダメ!ちゃんと飲み込んで……!
ゴックン
「……はぁ……」
「ちゃんと食べれたね!」
「う、うん……」
ブロッコリーを飲み込んだ姿を見たアメリちゃんは無邪気な笑みを浮かべた。
はぁ……しんどかった……。
「フハハハハ!これじゃどっちが姉なのか分からんな」
「傍から見てて心が和んだよ」
「やっぱり姉妹だよな……」
「それ、意外とええ方法かもしれへんな」
「いやぁ、見てて微笑ましかったのう」
「姉妹って本当に仲が良いですね」
「…………シスター・ラブ……」
周りの人たちは微笑ましそうにこちらを見てるけど……正直、今はブロッコリーの味が口いっぱいに広がって辛い……。
「メアリーお姉ちゃん、えらい!」
「あ、ありがとう……」
……まぁ、アメリちゃんの愛くるしい笑みを見れたからもう良いか……。
「よくやったなメアリー。ほら、褒美にもう一個俺のブロッコリーを……」
「ぶっ飛ばすよ?」
「……そう睨むな、冗談だ」
『あはははは!』
と、こんな感じで、みんなで賑やかな夕食の一時を楽しんだ……。
〜〜〜数時間後〜〜〜
「わぁ〜!すごーい!」
「これ、全部黒ひげさんが集めたのですか!?」
「うむ!どれも滅多に手に入れられぬぞ!」
「流石は伝説の海賊……!」
「なんちゅうことや……此処にあるの、全部秘宝なんか!?これ全部精算したら、とんでもない金額になるで!」
夕食を食べ終えたアメリちゃんたちは、黒ひげさんと共に宝物庫の中を特別に見せてもらう事になった。食卓にてアメリちゃんが宝物庫の中を見たいと言うと、黒ひげさんは快く承諾してくれたのだ。
今この宝物庫には、私とバジルと黒ひげさん、そしてアメリちゃんたちが居る。
「あの、此処にある秘宝って、やっぱり触っちゃダメですよね?」
「いや、好きに触っても構わぬ!ここにある秘宝は全て頑丈なものばかりでな、手を滑らせて落としたくらいでは壊れんわい!」
「そうなん?そんじゃお言葉に甘えて……おお!これはかなり高く売れる代物や!」
「……カリン、黒ひげさんの秘宝を欲しがっちゃ駄目だよ?」
「わ、分かっとるわ!」
アメリちゃんは目を輝かせながら秘宝を見渡し、カリンちゃんは近くにあった壷の鑑定を始めてる。
見た事もない秘宝を目の当たりにして興奮しているのだろう。その気持ちは凄く分かるなぁ……。
「……ん?ねぇねぇ黒ひげおじさん、この赤い布は?」
「ん?おお、それか」
すると、アメリちゃんが何やら赤くて大きな布を持ってきた。一見すると、ただの赤い布にしか見えないけど……中央部分に小さめの白い正方形が描かれている。それ以外には何の変哲も無い普通の布だ。
「それはな……『クロノスの操歳布』よ!」
「そうさい……布?」
その赤い布はクロノスの操歳布と言うものらしい。
……ん?待てよ?クロノス……?
「黒ひげさん、クロノスって、時の神と呼ばれてる……」
「そう、そのクロノスよ!」
「あぁ、やっぱり……てことは、その布も時と関係があるの?」
「うむ」
私の質問に対して黒ひげさんは自信満々に答えた。
やっぱりか……クロノスは時の神とも呼ばれているとの事。前にもクロノスの過去鏡とか言うものを見たことがあるから以前から知ってる。
まぁ、クロノスの過去鏡のお陰で、私はバジルと結ばれたんだけどね……。
「その布はな、生き物の年齢を自由に操る事が出来る秘宝なのだ!」
「生き物の……歳を?」
「ちょうど良い。アメリ、その布を我に渡すのだ」
「え?あ、うん」
なんと、そのクロノスの操歳布は生き物の歳を操れるとの事だけど……本当にそんな事が出来るのだろうか?
そう思ってると、黒ひげさんはアメリちゃんから布を受け取った。
「よく見ておれ、ここに白い正方形があるであろう?ここに……」
そして黒ひげさんは白い正方形の部分に指で+10と書いた。
すると……。
「あ、数が……!」
「うむ、これは指で書くことが出来るのだ」
白い正方形から+10と数が浮かび上がった。
「面白いのはここからよ。ではアメリ、そこの鏡の前に立つのだ」
「え?いいけど……」
そして黒ひげさんはアメリちゃんを大きな鏡の前に立たせた。鏡にはアメリちゃんの可愛らしい姿が映っている。
「アメリ、そのまま動くでないぞ……」
すると、黒ひげさんは赤い布を持ったままアメリちゃんの背後に回りこみ……。
「うぉら!」
「ふぁあ!?」
アメリちゃんの頭から布を被せた……って、ちょっと!
「ま、前が見えないよぉ〜!」
「く、黒ひげさん!何をするんですか!?」
「落ち着け!心配は無用ぞ!」
「で、でも……!」
いきなり布で全身を包まれたアメリちゃんは布の中でジタバタと暴れてる。その様子を見たサマリちゃんは動揺するが、黒ひげさんはサマリちゃんを宥めるように片手を翳す。
すると…………!
「……あ、あれ?」
目の前で信じられない事が起きた。なんと、布で包まれてるアメリちゃんの身体が……どんどん大きくなってる!
「な、なんや!?身長が伸びとるんか!?」
「黒ひげさん、これは一体……!?」
「どうなってるんだ……!?」
「まぁ待て、すぐに終わる」
カリンちゃんとユウロ君も、そしてバジルも驚いた表情でアメリちゃんを見ている。一方、アメリちゃんの身長は伸び続けて……。
「……止まったか」
一定の高さまで伸びると、アメリちゃんの身長はピタリと伸びるのを止めた。見たところ私と同じくらいの高さまで伸びたと思われるけど……。
「ね、ねぇ、アメリはどうなっちゃったの?」
「心配するな。今布を取ってやるからな」
布の中からアメリちゃんの声が聞こえたけど……気のせいかな?どこか大人っぽい声に聞こえたような気がする。
そう思ってると、黒ひげさんがアメリちゃんを覆ってる布を徐に掴んだ。
「では……ふん!」
そして黒ひげさんは一気に布を引いてアメリちゃんを解放した。
「…………えぇ!?」
「なっ!?」
「嘘やろ……!?」
しかし、アメリちゃんの姿を見たサマリちゃんたちは一斉に驚いた表情を浮かべた。
それは無理も無い。私だってかなり驚いてるから。そして、アメリちゃんも……!
「……え……これって……!」
アメリちゃんは、鏡に映ってる自分の姿を見て目を見開いている。
それもその筈、何故なら今のアメリちゃんは……!
「アメリ、大人になっちゃった!!」
そう……そこには身体が大人に成長したアメリちゃんの姿があった!
元から着ていた子供の服は大人の身体に合わせて大きくなってるけど……体つきは大人の女性そのものだ!
身長は私と同じくらい高くなってて、顔立ちは綺麗に整っている。胸もかなり大きくなってて……信じられないけど、ほんの数秒で成長しちゃった!
「その布、本当にアメリちゃんの歳を……!」
「うむ、この布の白い部分に指で数字を書き、その状態で頭から被ると、その書いた数値分だけ若返ったり、歳を取ったりする事が出来るのだ。と言っても、流石に中身までは変わらぬがな」
「それじゃあ、このアメリちゃんは……」
「白い部分に+10と書いた為、十歳分歳を取ったのだ。これは八歳のアメリが十歳分歳を取った……つまり、十八歳のアメリだ」
布の力は本当だったんだ……十八歳になったアメリちゃんを見てサマリちゃんたちは未だに絶句しちゃってる。
「うわぁ〜!アメリって18さいになったら、こんな風になるんだ!ちょっと、ふしぎなかんじ!」
一方、身体が大人になったアメリちゃんは明るい表情で鏡に映ってる自分の姿を眺めている。
性格は元のままで無邪気だね。でも、その身体で元の明るい性格のままでも絶対モテる気がする。
「ビックリした……十八歳のアメリちゃんなんて初めて見たよ……」
「でもアメリちゃんってこんなに美人になるんだな……」
「これは世の男共が放っておかんで。血は争えないっちゅうことやな……」
「えへへ♪」
サマリちゃんたちは未だに大人のアメリちゃんを見て呆然としている。まぁ、いきなり自分たちの旅の仲間がこうなったら驚くのも無理はないか。
「こうして見るとメアリーと似てるな。これも血が通ってる所為かもしれないが……」
「ああ、言われてみれば確かにそんな気もする」
バジルがどこか感心した様子で言った。
確かにこうして見ると私とそっくりだ。やっぱり血が繋がった姉妹って事なんだね……。
「ちょっと隣失礼……」
「あ、本当にそっくりだね!」
「勿論!だって私たちは姉妹だから!ねー♪」
「ねー♪」
試しにアメリちゃんの隣に並んでみた。サマリちゃんからもそっくりと言われてたけど、悪い気はしない……むしろ嬉しいかも♪
それにしても……アメリちゃんも十年経ったらこんなに大きくなるんだね……特におっぱいが。
「いやぁ、それにしても……十年も経ったら、アメリちゃんのおっぱいもこんなに大きくなるんだね」
「うん、アメリもビックリだよ……」
十八歳のアメリちゃんのおっぱいは……結構大きい。巨乳とも言えるくらいのレベルだ。
「やっぱり私もアメリちゃんも、お母さんの娘だね。必要なところもしっかりと受け継いでる!」
「お母さんのも大きいからね〜」
「でもアメリちゃんのおっぱいもこれくらい大きくなるんだったら、男を魅了するのも朝飯前だね!」
「えへへ、そうかな?」
「……物凄く居心地が悪いんだが……」
「バジルさん、俺もそう思ってます……」
私とアメリちゃんが胸の話で盛り上がってると、バジルとユウロ君は気まずそうに視線を逸らした。
まぁ二人とも男だから…………ん?
「……アメリちゃん……十年も経ったらそんなに大きくなるんだ……」
「え!?」
……なんだかサマリちゃんの様子がおかしかった。体から黒いオーラが出てるし、私たちを見ている目が……怖い!
「なんでかな?なんでそんなに大きくなるのかなぁ……?」
「サ、サマリお姉ちゃん……なんかこわいよ……」
「だってさぁ……そんなに大きいの見せられたら……ねぇ?」
サマリちゃんに見つめられてるアメリちゃんは、少しだけビクビクと震えながら私の背後へ回り込んだ。
でも……どうなってるの?サマリちゃん、なんでそんなにドス黒いオーラを出してるの?
「……アメリちゃん、サマリちゃんは一体どうしちゃったの?」
「サマリお姉ちゃんはね、おっぱいのことになるとこわいんだ。自分より大きいおっぱいを見ると、あんな風になるんだよ……」
「そ、そう……」
サマリちゃんは自分の胸より大きい胸を見るとああなるらしいけど……。
正直に言うと、冗談抜きで怖い!
心なしか、私の方まで睨まれてる気がするし!
「お、落ち着けサマリ!流石にアメリちゃんを襲うのは駄目だ!」
「せや!間違ってももぎ取ろうとしたらあかんで!」
「分かってる……分かってる……でもさぁ!」
ユウロ君とカリンちゃんは慌ててサマリちゃんの前に立ちふさがって落ち着かせようと宥めている。しかし、それでもサマリちゃんはやり場のない嫉妬を抑え切れてないようだ。
……もうそろそろアメリちゃんは元に戻った方が良い。私の本能がそう察知した。
「ア、アメリちゃん!もう元に戻った方が良いんじゃない!?」
「うん、アメリもそうおもう……」
「と言う訳で黒ひげさん!早くアメリちゃんを元に戻して!」
「ぬ?もう終わりか?もう少しこの面白おかしい光景を……」
「黒ひげさん!」
「冗談だ。戻してやる」
黒ひげさんは布に-10と書き、アメリちゃんの頭から布を被せた。すると大人になってたアメリちゃんの身長が縮み始めて……最終的には、元のアメリちゃんの身長に戻った。
「戻ったか。では……ふん!」
「……あは、もどったー!」
黒ひげさんが布を引き取ると、そこには元の姿に戻ったアメリちゃんが居た。アメリちゃんは元に戻った自分の姿を鏡に映して明るい笑みを浮かべている。
「ふぅ……サマリ、少しは落ち着いたか」
「うん……アメリちゃん、ごめんね……」
「あはは……」
「……女の嫉妬は怖いな……」
「いやいやバジル、あれだけ異常なだけやから」
アメリちゃんが元に戻って落ち着いたのか、サマリちゃんはアメリちゃんにペコリと頭を下げて謝った。アメリちゃんの方は明るい笑みを見せて応えている。
いや〜、それにしても怖かった……サマリちゃんがあんな風に変わるなんて……。でも、見たところサマリちゃんも小さくはないと思うんだけどな……。
「ねぇねぇ、黒ひげおじさん!アメリ、他にもお宝が見たい!」
「フハハハハ!良かろう!他にも見せてやる!」
「わ〜い!」
「アメリちゃん、楽しそうだね」
「気持ちは分かるわ。こんなにおもろい物が周りにあったらはしゃいでまうわな」
「でも、これ全部集めるのは大変だったろうな……」
「まぁ、明らかに普通ではない男だがな」
「ねぇみんな〜!黒ひげおじさんがまたおもしろいものを見せてくれるよ〜!」
「ホント?今度はなんだろう……?」
その後も私たちは、黒ひげさんの秘宝を色々と見て楽しい一時を過ごした……。
〜〜〜数時間後〜〜〜
「メアリーお姉ちゃん、あったか〜い♪」
「アメリちゃんも温かいね♪」
外はもうすっかり暗くなり就寝の時間になった。私とアメリちゃんは同じ部屋で寝る事になり、今は二人で一緒にベッドに横たわって抱き合うように寝ている。
と言うのも、アメリちゃんとの時間を大切にしたいと思った私は、自分から一緒に寝るようアメリちゃんを誘ったのだ。アメリちゃんも喜んで誘いに乗ってくれたし、サマリちゃんたちも快く承諾してくれた。
それにしても……アメリちゃんって温かくて抱き心地が良いなぁ……。
「でもメアリーお姉ちゃん、本当にバジルお兄ちゃんとラブラブしないでいいの?」
「良いの良いの。今夜はアメリちゃんと一緒に寝たいの。バジルも分かってくれたし……ね?」
「うん!」
バジルの方も、私がアメリちゃんと一緒に寝るのを快諾してくれた。恐らく、バジルも気を遣ってくれたのだろう。
今夜はバジルにエッチなサービスをさせてあげられないのは申し訳ないけど、今はアメリちゃんとの一時を大切にしよう。
「それにしても、あっという間な一日だったね。アメリちゃんと会ったのがついさっきのように感じるよ」
「そうだね。でもアメリ、今日はたのしかったよ!メアリーお姉ちゃんにも会えたし、バジルお兄ちゃんと黒ひげおじさんもいっぱい遊んでくれたし、エルミーラお姉ちゃんと姫香お姉ちゃんとセリンお姉ちゃんもやさしく話してくれたし……アメリ、この船に来てよかった!」
「ホント?私も楽しかったよ!」
今日は本当に楽しい一日だった。偶然にもシャルミッシでアメリちゃんに出会って、その仲間たちとも一緒に買い物を楽しんで、ダークネス・キング号に招待して一緒に過ごして……本当に充実した一日だった。
明日になったらアメリちゃんたちはすぐに旅立って寂しいけど……でも、何時かまた会える日が必ず来る。そう思うと、少しは寂しさが和らいだような気がした。
「アメリ、明日になったらまた旅に出るけど……まだ会ったことのないお姉ちゃんたちに会うためにがんばるよ!」
「私も立派な海賊になるように頑張る!何時か自分だけの船を手に入れられたら、アメリちゃんも乗せてあげる!」
「うん、たのしみにしてるね!」
アメリちゃんはこれからも旅を続けるけど、不安だとは思わなかった。
それは……アメリちゃんと一緒に旅をしている人たちを見れば分かる。サマリちゃんは料理が上手だし、ユウロ君は元勇者なだけあって強いし、カリンちゃんはやりくり上手だし、アメリちゃんの旅の仲間はみんな優しくて頼もしい人たちばかりだ。あんなに良い人たちがアメリちゃんと一緒に居てくれるのなら、私も安心出来る。
アメリちゃんは、本当に良い仲間を持ったんだね……。
「ふぁ〜……」
「あ、もう眠くなってきた?」
「うん……」
すると、アメリちゃんは大きな欠伸をした。どうやら眠くなってきたようだ。
私も眠くなってきたし、そろそろ寝よう。
「おやすみ、メアリーお姉ちゃん……」
「おやすみ、アメリちゃん……」
アメリちゃんと優しく抱き合って、そのままゆっくりと目を閉じて静かに眠りに付いた。
アメリちゃんが温かかったお陰で、ぐっすりと気持ち良く寝る事が出来た…………。
〜〜〜翌日〜〜〜
「本当に色々とありがとうがざいました!」
「ううん、私たちもみんなと一緒に過ごせて楽しかったよ!」
「バジルさんも、わざわざ送ってくれてありがとうございます」
「あぁ、いや、気にするな」
現在の時刻は午前十時頃、ダークネス・キング号にてアメリちゃんたちと一緒に朝食を食べた後、私はバジルと一緒にアメリちゃんたちを見送る事にした。
アメリちゃんたちが黒ひげさんたちに一晩泊めてくれたお礼を言った後、バジルのウィング・ファルコンにアメリちゃんたちを乗せてシャルミッシの出入り口まで送って今に至る。これからちょうどバジルと一緒に、旅立つアメリちゃんたちを見送るところだ。
「それと……何度も同じ事を言って悪いんですけど、黒ひげさんたちにも改めてお礼を伝えてくれませんか?泊めてもらったうえに、こんなにお金を頂いてしまって……」
「大丈夫!ちゃんと伝えておくよ!」
実はアメリちゃんたちが船を出る際に、黒ひげさんは餞別として数枚の金貨が入った革袋を手渡したのだ。最初はサマリちゃんも断ったものの、黒ひげさんから半ば強引に押し付けられる形で受け取る事になったのだ。
「はぁ、もうアメリちゃんともお別れか……寂しくなるね……」
「そうだね、メアリーお姉ちゃん……でもまた会おうね!」
「うん!」
今日でもうアメリちゃんともお別れだ。昨日までアメリちゃんと過ごしてたのに、それが瞬く間に過ぎ去ってしまう。やっぱり楽しい時間は早く過ぎ去ってしまうものだ……。
「さて……アメリ、よかったらこれを貰ってくれないか?」
「え?」
すると、バジルがアメリちゃんに懐から一個の小さな水晶玉を差し出した。キラキラに輝いている、透明で綺麗な水晶玉だ。
バジル、何時の間にかそんな物を持ってたんだ。私ですら貰った事無いのに……。
「うわぁ!きれいな水晶玉!でもバジルお兄ちゃん、これは……?」
「この水晶玉は『ヒーリング・スワン』と言って、怪我や病気を患ってる人の身体の上に置くと白鳥の姿になり、大きな翼でその人の身体を包み、怪我や病気を完治させる能力を持っている。ただ、効果は一度だけしか使用できず、その後はただの水晶玉になるがな」
「へぇ、すごい……!でももらっちゃっていいの?」
「ああ、余計なお世話かもしれないが……これからのアメリたちの旅に少しでも貢献できたらと思ってな」
要するに、何でも完璧に治せる万能薬みたいなものか。そう言えばバジルは昨日、夜更かしをしていたらしいけど、これを作ってたんだ……。
きっと、バジルは自分なりにアメリちゃんたちの身を案じてくれているのだろう。これからも続くアメリちゃんの旅に役立てるように……。
「あぁ、迷惑なら受け取らなくても……」
「ううん!ありがとう、バジルお兄ちゃん!アメリ、大切にするね!」
「……ああ……」
アメリちゃんはキラキラと目を輝かせながらバジルから水晶玉を貰った。バジルの方も水晶玉を受け取ってもらえて安心した表情を見せた。
いいなぁ、アメリちゃん。ちょっと羨ましい……。
「それじゃあ、そろそろ……」
「うん、行ってらっしゃい!」
そして別れの時が来た。アメリちゃんたちは徐に旅路に沿って歩みを進める。
「メアリーお姉ちゃーん!また会おうねー!」
「アメリちゃーん!元気でねー!」
「バジルさんも、色々とあいがとうございましたー!」
「黒ひげさんたちにもお礼を伝えてください!」
「また機会があったら会おうなー!」
「ああ、またどこかで会おう!」
アメリちゃんたちの姿が見えなくなるまで、私たちはずっと手を振った…………。
「……行っちゃったね……」
「ああ……だが、また何時か会えるさ!」
「……そうだね!」
アメリちゃんたちとの出会いは、私にとって本当に貴重な経験になった。昨日まで一度も会った事の無かった妹と過ごした一日は、とても短くて、とても楽しい日となった。
これからもアメリちゃんは会った事のないお姉さんたちに会う旅を続ける……
あんなに小さい子が、毎日頑張って……!
これは……私も負けてられない!アメリちゃんがあんなに頑張ってるんだ!私も……立派な海賊になるよう頑張らなきゃ!
「さぁ、バジル!早くダークネス・キング号に戻ろう!黒ひげさんたちが待ってるよ!」
「ああ!」
立派な海賊になる!
心の中で改めてそう誓った私は、バジルと共にダークネス・キング号へと向かって行った…………。
13/01/05 22:20更新 / シャークドン