楓の海賊日記
$$$$年○月△日
今日から日記を書く事になりました。これから私の海賊生活を赤裸々に書いていきたいと思います。
さて、初めての日記である為か、何を書けば良いのか分からないので……とりあえず今日一日の食事のメニューを書いてみました。
〜朝食〜
・焼き立てのトースト、バターロール、クロワッサンなどのパン類(バター、苺ジャム付き)
・レタスたっぷりのサラダ
・スクランブルエッグ
・ローストハム、ソーセージ
・コーヒー、紅茶、ミルク、オレンジジュース(船員の方々が自由に決める)
〜昼食〜
・カルボナーラパスタ
・プチトマト入りのサラダ
・コンソメスープ
〜夕食〜
・サーロインステーキ
・バターロール、もしくはご飯(船員の方々が自由に決める)
・ポテトサラダ
・ミネストローネ
・バニラアイスクリーム(デザート)
……と、こんな感じですが、こうして振り返ってみると色々と気付いた点が多いですね。
まず、三食とも必ずサラダが入ってますね。まぁ、野菜が不足しがちな生活ですから、誰も文句は言わないと願いたいです。
それと、最近洋食が多い事に気付きました。私、ジパング産まれなのに……そうだ!明日の夕食には揚げだし豆腐を作りましょう!それと、魚のお刺身と茶碗蒸しも作りましょう!うん、腕が鳴ります!
さて、今日はこれでお終い。明日も頑張って書こう。それでは、おやすみなさい。
_____________
×月○日
今日は親魔物領の国を訪れました。そこは農業が盛んな国で、毎日新鮮なお野菜を食べているとのこと。あぁ、羨ましいです……。
私は早速野菜の調達の為に市場へ行きました。市場は主に魔物の方々が切り盛りしているらしく、活気に満ち溢れていました。
さて、肝心の野菜はと言うと……大根、人参、トマトにキャベツにトウモロコシ、どれも瑞々しくて美味しい物ばかり!一口だけ試食させて貰ったのですが、これがまた絶品!どうやったらこんなに美味しく出来るのか不思議です!しかも、野菜を売ってる農婦のワーラビットさんが気前良く値引きしてくれた上に、人参を三本もおまけしてくれたのです!おかげで船長さんから支給された食糧費がかなり余っちゃいました。
それと、ここの市場は野菜だけじゃなくてリンゴやオレンジ、レモンなど果物も一緒に売ってたので、余った食糧費でリンゴとレモンも買っちゃいました♪ああ、どうしましょう……買い物が楽しくなってきちゃいました♪
さてさて、昨日に引き続き今日の食事を振り返って……あ、書くスペースが無い……。
仕方ないので省略したいと思います。明日も良い一日になりますように…………。
P.S
今日のお買いもので予想以上にお金が余りました。せっかくなので……新しい服を買っちゃった♪あ、これ船長さんには、ヒ・ミ・ツ♪テへへ♪
**********************
「……私、こんなの書いたのですか……?」
自分で書いたとは言え、あまりにもおちゃらけた文章を読んで自己嫌悪に陥った。
気分が良かったからって、これはちょっとふざけてる……余ったお金で服を買うなんて……。それにしても、船長さんも良く気付かなかったわね。あの日から一カ月は経ってるのに……。
私は静かに次のページをめくった。
**********************
○月☆△日
今日は海上にて久々に戦闘が始まりました。敵は本能の赴くままに暴れまわる海賊たち。ただ、同業者とは言えども、正直言って大した事は無かったです。私も船の甲板にて魔術を駆使して応戦しましたが、全く持って手応えがありませんでした。敵の海賊たちは剣もまともに振れない素人ばかりで、私ですら無傷で十人程倒せました。結局、戦闘は私たちの大勝利で幕を下ろし、敵の海賊たちは一人残らず海へと沈みました。きっと、今頃スキュラやネレイスの方々に拾われて一緒に暮らす羽目になってるでしょう。敵の海賊と、海の魔物の方々に幸あれ…………。
あ、そうそう、戦闘が終わった際に船長さんが『そんなんで良く海賊やってこれたな』なんて半ば呆れ気味に呟いてました。でも、敵が弱いのではなくて船長さんが異常なまでに強いのだと思うのですが……尤も、当の本人は全く自覚していないらしいですけど。
さて、今日一日のメニューを書いてみましょう。
〜朝食〜
・炊きたてご飯
・わかめと油揚げの味噌汁
・焼き魚
・厚焼き卵
・梅干し
〜昼食〜
・バジルとモッツァレラチーズのピザ
・シーフードピザ
・ハムとソーセージのピザ
〜夕食〜
・鰻重
・山芋サラダ
・お吸い物
・沢庵
お昼のピザパーティーはとても楽しかったです。また機会があればやりたいですね。作るの大変ですけど……。
さて、今日は戦闘で疲れました。明日はのんびりできると良いな……。
_____________
○月☆■日
うぅ……もう泣きそう……いえ、いっその事泣きたい……。
また……またですよ。また戦闘ですよ!今度の相手は教団の人間たち!昨日の素人海賊たちとは桁外れの強さです!しかも教団の人たち、私たち魔物相手に容赦なく攻撃してくるし、明らかに殺気立ってるし…………うぅ…………怖かったよぉ……。
でも最終的にはなんとか勝てました。ちょっとした損害は出たたけど、こうして生きてるだけで何事にも代え難いです。
それにしても、今日の船長さんは凄く勇ましかったです。『俺の仲間を傷付ける奴は許さねぇ!!』なんて敵のボスに挑んで……かっこよかったです♥
はぁ……サフィアさんが羨ましいです。あんなにも優しくて頼れる旦那様がいて……。私にもあんな夫が居たらどんなに幸せな事か……うぅ……早く旦那さんが欲しいです。
って、なんだか虚しくなってきたのでそろそろ寝ます。
**********************
「そう言えば、あの時はやたらと戦闘が多かったですね……」
あの時は本当に大変でした。幾ら追い払っても次々と襲って来るし、戦闘が終わった後でも筋肉痛が身体を襲うし、料理中でも身体を動かす度に身体が痛むし……もう散々でした。私としては、なるべく戦闘だけは避けたいですね。
**********************
△月×日
今日の夜、サキュバスのシャローナさん、ドラゴンのオリヴィアさんと一緒にティータイムを楽しんでいた時、船長さんが逃げ込む様にダイニングに来ました。どうやら、またしてもヴァンパイアのリシャスさんにクレームを付けられたらしく、今度はリシャスさんの夫であるコリックさんの昇給を要求されたそうです。船長さんも大変ですね……。
でも、せっかく来てくれたので船長さんにもティータイムに参加して頂く事になりました。多くの方と楽しむ紅茶は何よりも格別です♪
_____________
△月□日
今日の夜もティータイムが始まりました。今日はシャローナさんとオリヴィアさん、サフィアさんにリシャスさんにピュラちゃん、そして私も含めた六人で楽しみました。普段ならサフィアさんとリシャスさんはそれぞれの夫と過ごす日が多いし、ピュラちゃんはまだ子供だから夜中には寝ているから女全員で集まる日が滅多にありませんでした。なので、今日の夜のティータイムはとても楽しかったです。
でも……あの話題で盛り上がった時は……ちょっとね……。
お話の最中にシャローナさんが『そういえばさ……サフィアちゃんとリシャスちゃん、最近どう?愛しい旦那様との関係は』なんて言った途端、お二人のお惚気モードが大暴走。
サフィアさんは……『この前の夜は最高でした!キッドったらもう積極的で、私も何度も先にイッちゃったことやら♥あぁ……キッドの逞しいおちんちん……思い浮かべるだけでもう私……♥』
リシャスさんは……『コリックは私よりも年下で背が低い、俗に言うショタッ子だが、夜の営みにおいてもその可愛さは健全でな。私の胸に顔を埋めたり、乳首に吸いついてきたり……ダメだ、身体が火照って来た……!』
すると突然、二人揃って『もう我慢できない!!』とか言って疾風の如くそれぞれの夫の下へ行ってしまいました。
その場に残ったのは夫が居ない独身の方々のみ……あの時の虚無感ときたらもうホントに……。
シャローナさんは『……何であんな事聞いたのよ……私のバカ……』と言ってましたけど……それ、私の方が言いたいです。何であんな事聞いたのですか!?ホントにもう!!
ピュラちゃんだけは『仲良しって良いね!』と無邪気に笑ってました。その子供らしい純真無垢な振舞いを見てたら、少し心が和みました。ありがとう、ピュラちゃん♪
……はぁ……この日記を書いてる時でも、あの二人は楽しんでるんだろうなぁ……うぅ……私まで身体が火照ってきた……無意識のうちに狐火とか産み出しちゃいそうです……。
と言う訳で、半ばヤケですけど気が済むまでオナニーしてから寝ます!
**********************
「……早く夫が欲しい……」
不意にもそんな独り言を呟いてしまいました。
サフィアさんとリシャスさん、夫が居て本当に幸せそうですから……。
「はぁ……稲荷で、海賊で、料理人で、処女……こんな私を受け入れてくれる殿方に会えるのでしょうか……」
って、そんなに都合良く会える訳ないですよね…………。
次のページをめくる寸前、私はその内容を読むのを躊躇った。何故なら、次のページからはあまりにも暗い内容だから。
「………………」
暫くの沈黙の間、結局私は昨日の内容を思い返しながら日記を閉じた。
次のページには確かこう書かれていた……。
**********************
△月#日
今日も疲れました……こう毎日作ってばかりだと疲労が溜まります……。
さて、今日は疲れたのでここまでにします。明日も頑張らないと……。
_____________
△月★日
なんだか疲れが取れないです……料理人って毎日皆様のお食事を作らなきゃいけないので中々休めない……憂鬱です……。
料理を作るのが私の仕事。それは十分分かっています。でも…………私、やっていけるのかな……もしかして、海賊に向いてないのかな……そうだとしたら……辞めようかな…………。
**********************
「……なんてこと書いてるんだろ、私…………」
倦怠期の主婦じゃあるまいし、これじゃ日記と言うより愚痴をぶちまけているだけですね。でも、それだけストレスが溜まってるって事かもしれません。料理を手伝ってくれる方は少ないし、夫が居ないから性欲処理の方法もオナニーしか無いし……まぁ、ちょっとおこがましいかもしれませんけど……。
「……もう寝よう」
なんだか気は晴れないけど、もうやるべき事は何も無い。日記もこの気持ちで書く気になれない。明日から気を引き締めて頑張ろう。
私はベッドに寝そべろうとした……その時、
コンコン!
ドアをノックする音が聞こえた。
誰だろう?こんな時間に…………。
不思議に思いながらも、私は徐にドアを開いた。
「よぉ、悪いな、こんな時間に」
そこには船長さんが立っていた。
こんな時間に船長さんが来るなんて珍しい。普段ならこの時間になるとサフィアさんと一緒にいるのに……。
「どうしたのですか?こんな時間に……」
「ああ、ちょっと明日の夜のメシなんだがな、デザートを一品だけ追加してくれないか?」
デザート?これまた珍しい。船長さんからメニューのリクエストが来るなんて。
「良いですけど……何でまた急に……」
「ああ、何と言うか、その……気分的なもんだ」
……なんだか、理由になってない気がします。
「これ、食べたいデザートの一覧な」
そう言って、船長さんは四つに折りたたんだ一枚の紙を手渡した。
メモに書き記すって事は、食べたい物が結構あるってことでは……だとしたら勘弁して欲しいです。今、ただでさえ精神的にも参ってるのに…………。
「あの……船長さん……」
「それじゃ、おやすみ」
船長さんは私の言葉を聞かずにそそくさと自室へ帰って行った。
……何なの、アレ。変な人。
不審に思いながらも、私はドアを閉めてベッドに座り、船長さんから渡された紙を開いて読んでみた。
「……あれ?これって…………」
その内容は、私が予想していたものとはだいぶ違っていた。
それは、デザートの名前ではなく手紙の様な文章だった…………。
『楓……こんな形で伝えるのも白状だと思われるかもしれないが、何分不器用な上に、正面切って言葉で伝えるのも照れ臭いから許してくれ』
文の最初の書き出しがこれだった。私は黙って手紙を読み続けた。
『お前が疲れているのは昨日から薄々感付いていた。お前、なんだか疲れ切った顔してたからな。サフィアも心配していたぜ』
「……バレてましたか……」
船長さんには何でもお見通しって事ですね。本当に敵いません……。
『お前の気持ちは十分分かるさ。休む日は来ないと分かってても、毎日俺たちの食事を作ってくれて、その度に疲れて……』
「…………」
私は黙って更に手紙を読み続けた。
『でもな、今こうして俺や仲間のみんなが元気でいられるのは、全部お前のお陰だ。お前が毎日美味い料理を作ってくれるお陰で、俺たちはこうして生きていられるんだ』
「……!」
私の……お陰……!?
その言葉を読んだ時、曇っていた私の心が晴れていくように感じた。
『お前がこの船に居なかったら、俺たちは間違いなく死んでいた。食料に困り、十分な栄養が摂れなくなり、最悪の場合には餓死していた。それを回避出来ているのは、お前が毎日頑張って料理を作ってくれるお陰だ。これは慰めでも気休めでもない。紛れも無い事実だ』
「……船長さん……」
次第に、私の心は喜びに満ち溢れた。
『毎日頑張ってくれてるお前に大した褒美もやれなくて済まないと思ってる。なんせこの不安定な海賊生活……小遣いもやれる余裕すらない。だからお前が以前、余った食糧費でこっそり服を買ったのを黙ってたんだ。これくらいの見返りなら大目に見てやろうと思ってな』
「……え!?あれもバレてたの!?」
今までてっきり気付かれてないと思ってたのに……船長さん、あなた千里眼の持ち主ですか?
『少なくとも、俺はちゃんと見てるぞ。お前は俺たちの為に頑張ってくれてる。お前は俺たちにとって必要不可欠な存在なんだ。だから、これだけは言わせてくれ』
私は徐に下の行の文へ視線を移した。
『何時も美味い料理をありがとう!お前は最高のシェフだ!心から感謝してるぜ!!あと……デザートはいらねぇ。たまには手を抜いて体を労われよ』
「…………船長……さん……」
……私……なんて下らない事で気落ちしてたんだろう……私の傍に……こんなにも嬉しい事を言ってくれる人がいるのに……料理人失格ですね…………そうだ!
嬉し涙を堪えながらも、私はすぐに立ち上がって机に向かい、日記を書き始めた…………。
**********************
△月♥日
今日の夜、船長さんが私の下に訪ねて一枚の紙を渡して来ました。その紙に書かれている文章を読んで、嬉しさのあまりに泣いてしまいそうでした。紙には、船長さんから私への感謝の気持ちが沢山詰まっていました。ありがとうとか、感謝してるとか……読んでるだけで本当に嬉しかったです。この紙は日記に挟んで大切にします。私がまた挫けそうになったら、この紙を読んで自分を励まします。
私、改めて決心しました。ずっと船長さんに付いて行こう。弱音でも『海賊辞めよう』なんて絶対言わない。どんなに辛くても……何があっても……船長さんに精一杯尽くそう。
船長さん……ありがとう♥
今日から日記を書く事になりました。これから私の海賊生活を赤裸々に書いていきたいと思います。
さて、初めての日記である為か、何を書けば良いのか分からないので……とりあえず今日一日の食事のメニューを書いてみました。
〜朝食〜
・焼き立てのトースト、バターロール、クロワッサンなどのパン類(バター、苺ジャム付き)
・レタスたっぷりのサラダ
・スクランブルエッグ
・ローストハム、ソーセージ
・コーヒー、紅茶、ミルク、オレンジジュース(船員の方々が自由に決める)
〜昼食〜
・カルボナーラパスタ
・プチトマト入りのサラダ
・コンソメスープ
〜夕食〜
・サーロインステーキ
・バターロール、もしくはご飯(船員の方々が自由に決める)
・ポテトサラダ
・ミネストローネ
・バニラアイスクリーム(デザート)
……と、こんな感じですが、こうして振り返ってみると色々と気付いた点が多いですね。
まず、三食とも必ずサラダが入ってますね。まぁ、野菜が不足しがちな生活ですから、誰も文句は言わないと願いたいです。
それと、最近洋食が多い事に気付きました。私、ジパング産まれなのに……そうだ!明日の夕食には揚げだし豆腐を作りましょう!それと、魚のお刺身と茶碗蒸しも作りましょう!うん、腕が鳴ります!
さて、今日はこれでお終い。明日も頑張って書こう。それでは、おやすみなさい。
_____________
×月○日
今日は親魔物領の国を訪れました。そこは農業が盛んな国で、毎日新鮮なお野菜を食べているとのこと。あぁ、羨ましいです……。
私は早速野菜の調達の為に市場へ行きました。市場は主に魔物の方々が切り盛りしているらしく、活気に満ち溢れていました。
さて、肝心の野菜はと言うと……大根、人参、トマトにキャベツにトウモロコシ、どれも瑞々しくて美味しい物ばかり!一口だけ試食させて貰ったのですが、これがまた絶品!どうやったらこんなに美味しく出来るのか不思議です!しかも、野菜を売ってる農婦のワーラビットさんが気前良く値引きしてくれた上に、人参を三本もおまけしてくれたのです!おかげで船長さんから支給された食糧費がかなり余っちゃいました。
それと、ここの市場は野菜だけじゃなくてリンゴやオレンジ、レモンなど果物も一緒に売ってたので、余った食糧費でリンゴとレモンも買っちゃいました♪ああ、どうしましょう……買い物が楽しくなってきちゃいました♪
さてさて、昨日に引き続き今日の食事を振り返って……あ、書くスペースが無い……。
仕方ないので省略したいと思います。明日も良い一日になりますように…………。
P.S
今日のお買いもので予想以上にお金が余りました。せっかくなので……新しい服を買っちゃった♪あ、これ船長さんには、ヒ・ミ・ツ♪テへへ♪
**********************
「……私、こんなの書いたのですか……?」
自分で書いたとは言え、あまりにもおちゃらけた文章を読んで自己嫌悪に陥った。
気分が良かったからって、これはちょっとふざけてる……余ったお金で服を買うなんて……。それにしても、船長さんも良く気付かなかったわね。あの日から一カ月は経ってるのに……。
私は静かに次のページをめくった。
**********************
○月☆△日
今日は海上にて久々に戦闘が始まりました。敵は本能の赴くままに暴れまわる海賊たち。ただ、同業者とは言えども、正直言って大した事は無かったです。私も船の甲板にて魔術を駆使して応戦しましたが、全く持って手応えがありませんでした。敵の海賊たちは剣もまともに振れない素人ばかりで、私ですら無傷で十人程倒せました。結局、戦闘は私たちの大勝利で幕を下ろし、敵の海賊たちは一人残らず海へと沈みました。きっと、今頃スキュラやネレイスの方々に拾われて一緒に暮らす羽目になってるでしょう。敵の海賊と、海の魔物の方々に幸あれ…………。
あ、そうそう、戦闘が終わった際に船長さんが『そんなんで良く海賊やってこれたな』なんて半ば呆れ気味に呟いてました。でも、敵が弱いのではなくて船長さんが異常なまでに強いのだと思うのですが……尤も、当の本人は全く自覚していないらしいですけど。
さて、今日一日のメニューを書いてみましょう。
〜朝食〜
・炊きたてご飯
・わかめと油揚げの味噌汁
・焼き魚
・厚焼き卵
・梅干し
〜昼食〜
・バジルとモッツァレラチーズのピザ
・シーフードピザ
・ハムとソーセージのピザ
〜夕食〜
・鰻重
・山芋サラダ
・お吸い物
・沢庵
お昼のピザパーティーはとても楽しかったです。また機会があればやりたいですね。作るの大変ですけど……。
さて、今日は戦闘で疲れました。明日はのんびりできると良いな……。
_____________
○月☆■日
うぅ……もう泣きそう……いえ、いっその事泣きたい……。
また……またですよ。また戦闘ですよ!今度の相手は教団の人間たち!昨日の素人海賊たちとは桁外れの強さです!しかも教団の人たち、私たち魔物相手に容赦なく攻撃してくるし、明らかに殺気立ってるし…………うぅ…………怖かったよぉ……。
でも最終的にはなんとか勝てました。ちょっとした損害は出たたけど、こうして生きてるだけで何事にも代え難いです。
それにしても、今日の船長さんは凄く勇ましかったです。『俺の仲間を傷付ける奴は許さねぇ!!』なんて敵のボスに挑んで……かっこよかったです♥
はぁ……サフィアさんが羨ましいです。あんなにも優しくて頼れる旦那様がいて……。私にもあんな夫が居たらどんなに幸せな事か……うぅ……早く旦那さんが欲しいです。
って、なんだか虚しくなってきたのでそろそろ寝ます。
**********************
「そう言えば、あの時はやたらと戦闘が多かったですね……」
あの時は本当に大変でした。幾ら追い払っても次々と襲って来るし、戦闘が終わった後でも筋肉痛が身体を襲うし、料理中でも身体を動かす度に身体が痛むし……もう散々でした。私としては、なるべく戦闘だけは避けたいですね。
**********************
△月×日
今日の夜、サキュバスのシャローナさん、ドラゴンのオリヴィアさんと一緒にティータイムを楽しんでいた時、船長さんが逃げ込む様にダイニングに来ました。どうやら、またしてもヴァンパイアのリシャスさんにクレームを付けられたらしく、今度はリシャスさんの夫であるコリックさんの昇給を要求されたそうです。船長さんも大変ですね……。
でも、せっかく来てくれたので船長さんにもティータイムに参加して頂く事になりました。多くの方と楽しむ紅茶は何よりも格別です♪
_____________
△月□日
今日の夜もティータイムが始まりました。今日はシャローナさんとオリヴィアさん、サフィアさんにリシャスさんにピュラちゃん、そして私も含めた六人で楽しみました。普段ならサフィアさんとリシャスさんはそれぞれの夫と過ごす日が多いし、ピュラちゃんはまだ子供だから夜中には寝ているから女全員で集まる日が滅多にありませんでした。なので、今日の夜のティータイムはとても楽しかったです。
でも……あの話題で盛り上がった時は……ちょっとね……。
お話の最中にシャローナさんが『そういえばさ……サフィアちゃんとリシャスちゃん、最近どう?愛しい旦那様との関係は』なんて言った途端、お二人のお惚気モードが大暴走。
サフィアさんは……『この前の夜は最高でした!キッドったらもう積極的で、私も何度も先にイッちゃったことやら♥あぁ……キッドの逞しいおちんちん……思い浮かべるだけでもう私……♥』
リシャスさんは……『コリックは私よりも年下で背が低い、俗に言うショタッ子だが、夜の営みにおいてもその可愛さは健全でな。私の胸に顔を埋めたり、乳首に吸いついてきたり……ダメだ、身体が火照って来た……!』
すると突然、二人揃って『もう我慢できない!!』とか言って疾風の如くそれぞれの夫の下へ行ってしまいました。
その場に残ったのは夫が居ない独身の方々のみ……あの時の虚無感ときたらもうホントに……。
シャローナさんは『……何であんな事聞いたのよ……私のバカ……』と言ってましたけど……それ、私の方が言いたいです。何であんな事聞いたのですか!?ホントにもう!!
ピュラちゃんだけは『仲良しって良いね!』と無邪気に笑ってました。その子供らしい純真無垢な振舞いを見てたら、少し心が和みました。ありがとう、ピュラちゃん♪
……はぁ……この日記を書いてる時でも、あの二人は楽しんでるんだろうなぁ……うぅ……私まで身体が火照ってきた……無意識のうちに狐火とか産み出しちゃいそうです……。
と言う訳で、半ばヤケですけど気が済むまでオナニーしてから寝ます!
**********************
「……早く夫が欲しい……」
不意にもそんな独り言を呟いてしまいました。
サフィアさんとリシャスさん、夫が居て本当に幸せそうですから……。
「はぁ……稲荷で、海賊で、料理人で、処女……こんな私を受け入れてくれる殿方に会えるのでしょうか……」
って、そんなに都合良く会える訳ないですよね…………。
次のページをめくる寸前、私はその内容を読むのを躊躇った。何故なら、次のページからはあまりにも暗い内容だから。
「………………」
暫くの沈黙の間、結局私は昨日の内容を思い返しながら日記を閉じた。
次のページには確かこう書かれていた……。
**********************
△月#日
今日も疲れました……こう毎日作ってばかりだと疲労が溜まります……。
さて、今日は疲れたのでここまでにします。明日も頑張らないと……。
_____________
△月★日
なんだか疲れが取れないです……料理人って毎日皆様のお食事を作らなきゃいけないので中々休めない……憂鬱です……。
料理を作るのが私の仕事。それは十分分かっています。でも…………私、やっていけるのかな……もしかして、海賊に向いてないのかな……そうだとしたら……辞めようかな…………。
**********************
「……なんてこと書いてるんだろ、私…………」
倦怠期の主婦じゃあるまいし、これじゃ日記と言うより愚痴をぶちまけているだけですね。でも、それだけストレスが溜まってるって事かもしれません。料理を手伝ってくれる方は少ないし、夫が居ないから性欲処理の方法もオナニーしか無いし……まぁ、ちょっとおこがましいかもしれませんけど……。
「……もう寝よう」
なんだか気は晴れないけど、もうやるべき事は何も無い。日記もこの気持ちで書く気になれない。明日から気を引き締めて頑張ろう。
私はベッドに寝そべろうとした……その時、
コンコン!
ドアをノックする音が聞こえた。
誰だろう?こんな時間に…………。
不思議に思いながらも、私は徐にドアを開いた。
「よぉ、悪いな、こんな時間に」
そこには船長さんが立っていた。
こんな時間に船長さんが来るなんて珍しい。普段ならこの時間になるとサフィアさんと一緒にいるのに……。
「どうしたのですか?こんな時間に……」
「ああ、ちょっと明日の夜のメシなんだがな、デザートを一品だけ追加してくれないか?」
デザート?これまた珍しい。船長さんからメニューのリクエストが来るなんて。
「良いですけど……何でまた急に……」
「ああ、何と言うか、その……気分的なもんだ」
……なんだか、理由になってない気がします。
「これ、食べたいデザートの一覧な」
そう言って、船長さんは四つに折りたたんだ一枚の紙を手渡した。
メモに書き記すって事は、食べたい物が結構あるってことでは……だとしたら勘弁して欲しいです。今、ただでさえ精神的にも参ってるのに…………。
「あの……船長さん……」
「それじゃ、おやすみ」
船長さんは私の言葉を聞かずにそそくさと自室へ帰って行った。
……何なの、アレ。変な人。
不審に思いながらも、私はドアを閉めてベッドに座り、船長さんから渡された紙を開いて読んでみた。
「……あれ?これって…………」
その内容は、私が予想していたものとはだいぶ違っていた。
それは、デザートの名前ではなく手紙の様な文章だった…………。
『楓……こんな形で伝えるのも白状だと思われるかもしれないが、何分不器用な上に、正面切って言葉で伝えるのも照れ臭いから許してくれ』
文の最初の書き出しがこれだった。私は黙って手紙を読み続けた。
『お前が疲れているのは昨日から薄々感付いていた。お前、なんだか疲れ切った顔してたからな。サフィアも心配していたぜ』
「……バレてましたか……」
船長さんには何でもお見通しって事ですね。本当に敵いません……。
『お前の気持ちは十分分かるさ。休む日は来ないと分かってても、毎日俺たちの食事を作ってくれて、その度に疲れて……』
「…………」
私は黙って更に手紙を読み続けた。
『でもな、今こうして俺や仲間のみんなが元気でいられるのは、全部お前のお陰だ。お前が毎日美味い料理を作ってくれるお陰で、俺たちはこうして生きていられるんだ』
「……!」
私の……お陰……!?
その言葉を読んだ時、曇っていた私の心が晴れていくように感じた。
『お前がこの船に居なかったら、俺たちは間違いなく死んでいた。食料に困り、十分な栄養が摂れなくなり、最悪の場合には餓死していた。それを回避出来ているのは、お前が毎日頑張って料理を作ってくれるお陰だ。これは慰めでも気休めでもない。紛れも無い事実だ』
「……船長さん……」
次第に、私の心は喜びに満ち溢れた。
『毎日頑張ってくれてるお前に大した褒美もやれなくて済まないと思ってる。なんせこの不安定な海賊生活……小遣いもやれる余裕すらない。だからお前が以前、余った食糧費でこっそり服を買ったのを黙ってたんだ。これくらいの見返りなら大目に見てやろうと思ってな』
「……え!?あれもバレてたの!?」
今までてっきり気付かれてないと思ってたのに……船長さん、あなた千里眼の持ち主ですか?
『少なくとも、俺はちゃんと見てるぞ。お前は俺たちの為に頑張ってくれてる。お前は俺たちにとって必要不可欠な存在なんだ。だから、これだけは言わせてくれ』
私は徐に下の行の文へ視線を移した。
『何時も美味い料理をありがとう!お前は最高のシェフだ!心から感謝してるぜ!!あと……デザートはいらねぇ。たまには手を抜いて体を労われよ』
「…………船長……さん……」
……私……なんて下らない事で気落ちしてたんだろう……私の傍に……こんなにも嬉しい事を言ってくれる人がいるのに……料理人失格ですね…………そうだ!
嬉し涙を堪えながらも、私はすぐに立ち上がって机に向かい、日記を書き始めた…………。
**********************
△月♥日
今日の夜、船長さんが私の下に訪ねて一枚の紙を渡して来ました。その紙に書かれている文章を読んで、嬉しさのあまりに泣いてしまいそうでした。紙には、船長さんから私への感謝の気持ちが沢山詰まっていました。ありがとうとか、感謝してるとか……読んでるだけで本当に嬉しかったです。この紙は日記に挟んで大切にします。私がまた挫けそうになったら、この紙を読んで自分を励まします。
私、改めて決心しました。ずっと船長さんに付いて行こう。弱音でも『海賊辞めよう』なんて絶対言わない。どんなに辛くても……何があっても……船長さんに精一杯尽くそう。
船長さん……ありがとう♥
12/03/26 16:52更新 / シャークドン