読切小説
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リザードマン嬢の憂鬱
「やぁやぁやぁ」

 彼女は『彼』に言った。

「私はね、君とずっっっっと一緒にいたいんだ。」

 彼女は頬を赤く染める。

「ははは。面と向かって改めてこんなことをいうのはなんだか恥ずかしい   ね。」

 頬は染めていても、目だけは真剣に続ける。

「……でもね、本当に、本当に
 そう思っていたし、思っているし、思っていくよ。これからも。」 

 そう言い終わると彼女は遠くにある何かを見るような目で
 窓の外を見た。
 …………。
 ふぅー、と溜息をついた後、彼女は『彼』の方を向いた。

「…………君と出会ってから、いろーんな嬉しいことがあったんだ。」

 『彼』に笑顔を向ける。

「君にはあるのかな?私との嬉しい思い出みたいなもの。
 あると良いなぁ。
 聞いてみたいんだけど………うーん、まあいいや。
 それを聞いてもなんの言い訳にもならないし、
 もし、私がそれを聞いたとしても君は多分、
 『あるかもしれないし、ないかもしれないね』
 なんて言うと思うし。」

 「私はね、君のことなら何でも知ってるんだから。」

 誇らしげにふふふ、と笑う。

「私にとって、君との思い出はぜ−んぶ宝物さ。
 …………あれ?
 普通、今のを言う役目は君だと思うんだけど?」

 まぁいいや、と彼女は続ける。

「今から思い出話をしようと思うんだ。
 …………駄目かな?良いだろう?
 今日の今、この時ぐらいは、さ。」

 『彼』からの返事はない。
 それでも彼女は嬉しそうに、
 
「そうだな……。
 やっぱり、君と初めて会った時のことかな。」

 と、話し始めた。



         ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 今の状況を『客観的』に説明しようと思う。
 彼女と『彼』がいる場所は、彼女の家だった。
 時は夕暮れ時。
 彼らはリビングのテーブルに向かい合うように座っていた。
 説明終わり。
 簡単、簡単。
 

         ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽


「君と最初に出会ったのは、なんと7歳の時なんだよ?
 多分君は高校生の時、って勘違いしてるのだろうけどね。
 本当は私たちが出会ったのは7歳の時なんだ。
 ………ほら、私にはこの鱗があるだろう?
 そのせいで人間の子供にいじめられていたんだ。
 この化け物め、みたいにね。
 魔物を受け入れるようになったばかりの頃だったからね。
 魔物に対して忌避感を覚えるのは当然のことだったんだ。
 石とか木の棒とか投げられたりもしたなぁ。
 私はその頃、まだ武芸を習っていなくてやられ放題だったよ。」

 そこで彼女は言葉を切る。

「確か、お母さんにお使いを頼まれたんだ。
 まぁ内容は覚えてないけどね。
 それを買うのに公園を通ると近道だったことは覚えてる。
 で、私はそこを通った。
 でも、公園の中に私をいつもいじめてくる奴が遊んでたんだ。
 それに気付いた私は、公園の隅の方を通ろうとしたんだ。
 ………だけど、どんくさい私は転んでしまってね。
 見つかってしまったんだ。彼らに。
 あ!化け物だ!皆やっつけろ!、てね。
 恐かったなぁ、あの時は。
 だって10人くらいの子供が全員石や棒を持ってるんだよ?
 そうやって縮こまっている私の前に、ある男の子が現れたんだ。」

 にこりと彼女は『彼』に笑い掛けた。

「そう。君さ。
 今でも覚えているよ。
 君の雄姿を。
 10人の敵に立ち向かっていく、君のを、ね。
 殴る、殴る、蹴る、殴る、蹴る。
 格好良かったよ。
 それこそテレビの中のヒーローみたいだった。
 子供たちがどこかへ逃げ去った後、君は私に手を差し出してくれたんだ。
 大丈夫か?って。
 私が恋に落ちるのには申し分なかったよ。
 でも君はその後どこかへ行ってしまったんだ。
 名前すら聞けなかった。
 残ったのは、君に対しての私の恋心だけ。」

 これで終わり、と彼女は言う。

「次に会うのは高校生になってから。」

 しみじみと彼女は言う。

「結構、辛かったよ。君に会えなかった9年間は。
 でも次会った時、私も君みたいに強くなったんだって胸を張って
 言いたかったから、強くなれるようただひたすらに頑張ったよ。
 でも」

 言葉をそこで切り、彼女は『彼』を半眼で見た。

「私のことを覚えてなかったとはねぇ………。
 ま、いいさ。君がそういう人間だったんだと考慮しなかった
 私も悪いんだし。」
 
 そこで彼女は笑顔に戻った。

「でも、君と偶然同じ学校に通えると知った時は本当に嬉しかったな。」

 にこにこ。

「そしてそれからのことが今私が君に話したいことだよ。
 っといっても君が、もう知っていることだからそんなに話さなくても
 いいだろう?」

 大切な、大切な宝物を誰かに見せる時のように、
 恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに話し続ける。

「今でも忘れないよ。
 相手に忘れられているのだから告白しても無駄なんじゃないか?
 って悩んだ時のこと。
 告白の仕方をどうすればいいのか悩んだ時のこと。
 あの時はちゃんと口で言ったんだよね。
 告白の時に言おうと思っていたこと全部忘れちゃて
 結局、『好きです。付き合ってください』としかいえなかった時のこと。
 でも君が『はい』って言ってくれた時のこと。
 初めてのデートに、動物園に行った時のこと。
 最初は、ギクシャクギクシャクとしてたけど、動物を見て、
 お弁当を食べて、動物と触れ合っている内に自然に笑いあえてた時のこと。
 ………そして、その後の帰り道にキスをしたこと。」

 恋する乙女のような、(いや、実際そうなのだろう)
 そんな誰もが見惚れてしまうだろう笑みを、彼女は浮かべた。
 
「2回目のデートの時のこと。
 ショッピングに行ったっけ。
 さり気無く、プレゼントをして欲しいことを伝えたのに、気付かれなかった
 ことは覚えてるよ。
 3回目のデートの時のこと。
 4回目のデート、5回目のデート、
 6回目、7回目、8回目。」

「初めてのエ、エッチの時のこと。」

 彼女は顔を赤く染めながら、言う。

「全部、全部、楽しかった。嬉しかった。
 やっぱり私の目は曇ってない、なんて思ったよ。」

「大好き。本当に。」

「だから、だから―――――――――
 
 彼女の瞳に、妖しい炎が灯った。

「君が悪いんだよ?」


          ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽


「私、見ちゃったんだ。
 君が、君が………他の女の子と一緒にいるところを。
 お互いに笑いあっている所を。」

「君はその日、用事があるからって私と高校から帰ってくれなかったんだ。」

「最初、見間違いだって思った。」

「次は、嘘だって思った。」

「見直しても、見直しても、君は他の女の子と笑ってたんだ。」

「悲しかった。
 哀しかった。
 悔しかった。」

「その日、私の所に来た君は、何事も無かったかのように私にキスを
 してくれた。」

「次の日も、そのまた次の日も、君は一緒に帰ってくれなかった。」

「多分、その女の子といたんだろうね。」

 『彼』は何も言わなかった。

「泣いたよ。うん、泣いた。
 君が私以外の子に笑いかけていたことに。
 君が私の傍にいてくれないことに。
 それでも、君との関係を終わらせたくないがために君に何も言えない
 私自身に。」

 ゆらゆらと瞳の炎は燃え上がる。

「そうやって1週間が経った時、
 思いついたんだ。
 魅了の魔法が使えない私にも出来る、
 君とずぅっっっっっと一緒にいられる方法を。」

 ふふふ、と彼女は笑う。

「好きだった」「本当に、好きだった。」「本当の本当に。」
「大好きだったんだ。」「ずっと、ずっと。」「大好き」
「いやもっとこの思いを伝えるには・・・・・・・・」
「そう、愛してたんだ。」「7歳のときから。」「ずっと。」
「愛してる。」「愛してる。」「愛してる。」「愛してる。」
「愛してる。」「愛してる。」「愛してる。」「愛してる。」
「愛してる。」「愛してる。」「愛してる。」「愛してる。」








      




         

         「ねぇ、分かってる?」









 『彼』はその問いに答えない。
 いや、答えることができない。
 そもそも喋ること等出来ない。
 当たり前だ。
 何故ならば。
 彼の胸には。
 彼の心臓には。
 包丁が。
 突き■さって。
 いるのだから。





          ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽



 恋は人を狂わせる、と昔から色んな場所で話されている。
 その結果が。

 その結果が―――――――――




       

         ー――――――――――――彼女だ。







 
12/04/23 17:11更新 / 五月雨

■作者メッセージ
 違う。違うんだ
 俺はちゃんと気付いたんだ。
 君が、プレゼントを欲しがっていたことを。
 だけどそれはその時買うには高すぎて。
 だから、俺は君に会わずにバイトをして。
 知り合いの子に何処で買ったら安いのか聞いて。
 案内を頼んで。

 決して君のことを忘れた、なんてことはないんだ。
 俺だって君と一緒にいたいんだ。
 俺だって、俺だって、君のことを。



・・・・・という訳でこの小説は終わりです。
いやぁ、最初は本当にラヴコメを書こうと思ったんですよ。
なんか衝撃的なラストにしようと思ったらこんな風になりやがりました。
・・・・・・よく考えたらそこまで衝撃的な訳じゃないですね。(泣)



グロ注意と打つべきでしょうか・・・・・?

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