魔界再編録
昔々、まだ魔物が人を食い殺す凶悪な存在だった頃。
人と魔族との間に長い長い戦争が起こっていました。
その戦争は魔族が突如人間の領地に侵略を開始した為に始まったとされ、百年にも及ぶ戦乱が世界中を駆け抜け、いまだ終結の目処すら立っていませんでした。
そんな時代の、とある魔界に近い国に王位を継ぐ予定の大変強い魔力と聡明な観察眼を持つ姫がおられました。
姫はある日、いつもついてくる護衛が煩わしくなり魔術を使い、たった一人で郊外の森に散歩に行き、とある魔物の少女と出会われたのです。
魔物の少女は姫より五歳ほど年が上と思われる外見をしたサキュバスでした。
姫が驚いて立ち尽くしていると、サキュバスの少女は姫に声を掛けました。
「人間さん、人間さん。貴女は私が怖い?」
姫は父王や騎士達、そして教団の司教から魔物は恐ろしく邪悪で忌むべきモノだと聞いてはいましたが、目の前のサキュバスは全然怖くなく、邪悪とも思えませんでした。
「いいえ、私は貴女が怖いと思わない」
姫が恐ろしくないとサキュバスに告げると、サキュバスは更に質問を重ねてきました。
「私を汚らわしいと思わない? 憎らしいと思わない? 許せないと思わない? おぞましいと思わない?」
姫はサキュバスの少女の質問を受け、きっぱりと答えました。
「いいえ。貴方はとても綺麗よ。その紅玉の様に美しい眼も、力強い翼も、魅力的な顔立ちも、全てが美しく見えるわ」
姫のこの言葉を聞いたサキュバスの少女は、少しの間あっけに取られた表情をしていましたが、やがてにこりと微笑み、言いました。
「人間さん。貴女と私、お友達になりましょう?」
姫はサキュバスの少女に質問をしました。
「貴方は私を傷つけない?」
サキュバスの少女は姫に喜色を浮かべながら答えました。
「勿論。私は、私を美しいと言った貴方を傷つける筈がない」
姫はサキュバスの少女とこの時を境に友達となりました。
姫はそれから時折城を抜け出してはあの日会った森でサキュバスの少女と遊びました。
サキュバスの少女は時折他の魔族を連れて来ては姫と引き合わせました。
時には爺だという恐ろしげな牛鬼、時にはペットだという不気味なローパー、時には近衛兵だという畏怖すら感じるマンティス、時には親友だという雄雄しいギルタブリル、参謀だという神秘的なケンタウロス。
姫は彼等を最初こそ怖がってはいましたが、彼等と話すうちに、姫は彼等にも家族がおり、愛する者がおり、人と同じように笑い、怒り、悲しみ、平和を望む存在だと知りました。
サキュバスの少女は言いました。
「ねぇ、貴女。私達魔族と人族が一つの種族となれば、戦争なんて起こらないと思わない? この戦争を終わらせられると思わない?」
姫はサキュバスの少女に言いました。
「そうね。だけど父上も司教様も貴方達を嫌っているし、怖がっているわ。怖いと思っている人達と人間は仲良く出来ないわ。それに貴方達の中には人を食べる者もいるでしょう? 捕食者と仲良くしたい被捕食者はいないと思うわ」
「そうね。でも安心して? 私が種族の壁を取り払うから約束する」
「ええ、約束よ」
姫とサキュバスの少女はこの日、約束を交わしました。
何時の日か必ず人と魔物が愛し合い、友情を育み、種族の違いを気にせず笑いながら暮らせる世界を創るのだ、と。
姫は魔族が教団が伝えているような理性の欠片もない野蛮で忌むべき邪悪な存在では無いと分かり、それが嬉しくて父王に早速報告しました。
しかし、父王はそんな姫を見て言いました。
「何たる事だ。我が愛しの姫は邪悪な魔族の呪術によって狂ってしまった。司教を呼べ、忌まわしい魔族の呪術を解かせるのだ」
姫は父王や教団の教え、考えが間違っている事を懇々と説きました。
しかし、それは『忌まわしい魔族に洗脳された哀れな姫の妄言』として片付けられました。
姫はそれから十年もの間教団の修道院に入れられ、サキュバスの少女が連れて来た魔族の語った事は姫を自分達の味方に取り込み、国家の転覆を狙う為の策略であり、サキュバスの少女は姫を騙おうとしていたのだと教えられ続けました。
しかし、姫は聡い人でした。
司教や修道女の表情や声色から何か嘘があると悟ったのです。
教団の者達は何かを隠す為に必死で魔族の悪に仕立て上げようとしている事を悟ると、自身の本音を誰にも悟られぬよう隠し、表面上は魔族の洗脳から脱した敬虔な教団の信徒を装い、他の修道女や司教の信頼を得て行き教団の深部に潜り込んでいきました。
そしてそこで姫は知ったのです。
この魔族との戦争が起こったのは実は人間に原因があったのです。
次々と土地を切り開いてきた人間は、やがて魔族の領地を侵すようになり始めたのです。
それに怒った魔族達も始めは寛容な態度で領地を荒らされる事を見過ごしてきました。
しかし、人間は次第に増長していき、ついに魔族の土地を教団の教えの名の下に略奪し、教団の法術を使って強制的に洗い清めて人が住める土地にするという行為を始めたのです。
流石にこのような蛮行を魔王は許せるはずもなく軍を投入し、それに人間も応戦したのが人と魔族との戦争の発端でした。
しかし、教団はこの事件の真相を捻じ曲げ、魔族が人族の土地を略奪したということにしたのです。
悪は人間の方だったのです。
姫は国に戻ると、男子が生まれなかった事を利用して病床に臥せっていた父王から王位を継承し、全ての人族を騙す段取りを始めました。
王国を自身の強大な魔力を使った結界で覆い、魔族が入れないようにしたのです。
こうする事によって戦火に追われた人々が安全を求めて流入して来て国力は上がり、強大な国家を形成し、教団はおろか、周辺国家に対しても大変な発言力を持つ国へと成長させたのです。
人々は王女となった姫を聖王と呼び、慕いました。
こうして全ての準備が整ったある日の夜、あのサキュバスの少女が姫の寝室を訪れたのです。
サキュバスの少女は姫が見ない間に姫の張った結界すら突破する力を持った魔族になっていたのです。
サキュバスの少女はその手に魔王の首を持っていました。
「こんばんわ。私、さっき魔王を倒して次の魔王になったの。とうとうあの日の約束を果たす日が来たわ」
サキュバスの少女の言葉を受けて姫は微笑みながら答えを返しました。
「ええ、あの日の約束を果たしましょう。私達は二人で魔族も人族も無い、争いの無い世界を創る鉢となるのね」
サキュバスの少女は姫に今から行う儀式の内容と姫に降りかかるであろう出来事を伝えました。
その儀式とは、魔王は神と魔物達とを繋ぐ中継点であるという事を逆手に取り、神が定めた『魔物は人間と対立し、人間を襲って喰らう。食物連鎖の上位の存在』という設定を書き換えて魔物は人と交わり、子を成す」というものにし、魔物と人との混血が多くしていき、やがては一つの種族に統合してしまおうというものだった。
そのためには姫に世界を縛る神の摂理との接続キーになって貰う事。
魔王一人の魔力では設定を変えきれない事。
そのために姫の莫大な魔力が必要となる事。
子供の頃に姫と接点を持ったのもこの計画に姫が必要だったから。
友情を利用して世界を変えようとする姫の友情を踏み躙る様な行為をこれから為そうという事。
そして姫は魔王たる自分が書き換えた『設定』を神から護る為の要となって貰う為、二度とまともな生活は送れず、魔王城の中で一生幽閉され、世界を縛る摂理に繋がる門となった為に二度と死ねない身になるであろう事。
それら全てを何度も謝罪しながら、涙を流しながらサキュバスの少女は姫に告げ、嫌なら自分と縁を切り、この国から叩き出して欲しい。そして自分を憎み続けてくれていいとも告げました。
姫はそんな泣き虫な魔王に答えを返しました。
「何を馬鹿な事を言っているのです? 私達はあの日約束したでしょう? 世界を、私達二人で変えるのだと。貴女は子供の頃の児戯に等しい約束を私を利用するためのものだったと言った。でも私は貴女との友情は確かにあったと感じています。例え最初は打算に満ちたものだったとしても、それは誰であろうと同じでしょう? なら貴女は何一つ恥じる必要など無い。そして、私が貴女を憎む理由すらない。さぁ、摂理に接続し、世界を変えましょう」
サキュバスの少女は姫の言葉で決意を固め、すぐに郊外で儀式を行おうと言いました。
こんな国の中心で儀式を行うと、どんな被害が出るか分からなかったからです。
しかし、姫はサキュバスの少女が予想していた答えと違う答えを告げました。
「いいえ、儀式はここでしましょう。貴女は何故私がこんなに巨大な国家を作り上げたと思っているのかしら? この都はね、こういう事もあるときのために用意した魔力の壺なの。都の要所5ヶ所に作った魔方陣が全て展開されると、この城を除く都に住む者達全てを純粋な魔力に変換するように都は作られているのよ。さ、この都に住む人々も魔力に変えて儀式を行いましょう」
サキュバスの少女はそんな事は望んでいなかった。
だから姫にそんな事は止めるように言いました。
ですが、姫は今までと変わらない微笑で言いました。
「いいえ、それはいけないわ。私達人族は最初に無辜の民だった貴方達魔族達から愛する故郷を奪った。なら、人も同じ報いを受けなくてはいけないわ」
姫は言いました。
「大丈夫。全ての罪は私が全て引き受ける。私は無辜の民を都ごと魔力に変える凶行を行った最悪の女王として語り継がれる。でもこのまま何もしないで貴方達魔族と血を交える事は私達人族の汚点になるもの」
姫はそう言って都の要所に作ってあった魔方陣を起動しました。
こうして聖王が築いた広大な都は一瞬で純粋な魔力の塊になりました。
姫はその魔力を全て自分に取り込むと、サキュバスの少女に言いました。
「さぁ、世界を変えましょう」
こうして世界は変わりました。魔物は魔物娘へと変わり、今日も世界中で一つの種族となるべく人族と交わり、子を成しています。
人と魔族との間に長い長い戦争が起こっていました。
その戦争は魔族が突如人間の領地に侵略を開始した為に始まったとされ、百年にも及ぶ戦乱が世界中を駆け抜け、いまだ終結の目処すら立っていませんでした。
そんな時代の、とある魔界に近い国に王位を継ぐ予定の大変強い魔力と聡明な観察眼を持つ姫がおられました。
姫はある日、いつもついてくる護衛が煩わしくなり魔術を使い、たった一人で郊外の森に散歩に行き、とある魔物の少女と出会われたのです。
魔物の少女は姫より五歳ほど年が上と思われる外見をしたサキュバスでした。
姫が驚いて立ち尽くしていると、サキュバスの少女は姫に声を掛けました。
「人間さん、人間さん。貴女は私が怖い?」
姫は父王や騎士達、そして教団の司教から魔物は恐ろしく邪悪で忌むべきモノだと聞いてはいましたが、目の前のサキュバスは全然怖くなく、邪悪とも思えませんでした。
「いいえ、私は貴女が怖いと思わない」
姫が恐ろしくないとサキュバスに告げると、サキュバスは更に質問を重ねてきました。
「私を汚らわしいと思わない? 憎らしいと思わない? 許せないと思わない? おぞましいと思わない?」
姫はサキュバスの少女の質問を受け、きっぱりと答えました。
「いいえ。貴方はとても綺麗よ。その紅玉の様に美しい眼も、力強い翼も、魅力的な顔立ちも、全てが美しく見えるわ」
姫のこの言葉を聞いたサキュバスの少女は、少しの間あっけに取られた表情をしていましたが、やがてにこりと微笑み、言いました。
「人間さん。貴女と私、お友達になりましょう?」
姫はサキュバスの少女に質問をしました。
「貴方は私を傷つけない?」
サキュバスの少女は姫に喜色を浮かべながら答えました。
「勿論。私は、私を美しいと言った貴方を傷つける筈がない」
姫はサキュバスの少女とこの時を境に友達となりました。
姫はそれから時折城を抜け出してはあの日会った森でサキュバスの少女と遊びました。
サキュバスの少女は時折他の魔族を連れて来ては姫と引き合わせました。
時には爺だという恐ろしげな牛鬼、時にはペットだという不気味なローパー、時には近衛兵だという畏怖すら感じるマンティス、時には親友だという雄雄しいギルタブリル、参謀だという神秘的なケンタウロス。
姫は彼等を最初こそ怖がってはいましたが、彼等と話すうちに、姫は彼等にも家族がおり、愛する者がおり、人と同じように笑い、怒り、悲しみ、平和を望む存在だと知りました。
サキュバスの少女は言いました。
「ねぇ、貴女。私達魔族と人族が一つの種族となれば、戦争なんて起こらないと思わない? この戦争を終わらせられると思わない?」
姫はサキュバスの少女に言いました。
「そうね。だけど父上も司教様も貴方達を嫌っているし、怖がっているわ。怖いと思っている人達と人間は仲良く出来ないわ。それに貴方達の中には人を食べる者もいるでしょう? 捕食者と仲良くしたい被捕食者はいないと思うわ」
「そうね。でも安心して? 私が種族の壁を取り払うから約束する」
「ええ、約束よ」
姫とサキュバスの少女はこの日、約束を交わしました。
何時の日か必ず人と魔物が愛し合い、友情を育み、種族の違いを気にせず笑いながら暮らせる世界を創るのだ、と。
姫は魔族が教団が伝えているような理性の欠片もない野蛮で忌むべき邪悪な存在では無いと分かり、それが嬉しくて父王に早速報告しました。
しかし、父王はそんな姫を見て言いました。
「何たる事だ。我が愛しの姫は邪悪な魔族の呪術によって狂ってしまった。司教を呼べ、忌まわしい魔族の呪術を解かせるのだ」
姫は父王や教団の教え、考えが間違っている事を懇々と説きました。
しかし、それは『忌まわしい魔族に洗脳された哀れな姫の妄言』として片付けられました。
姫はそれから十年もの間教団の修道院に入れられ、サキュバスの少女が連れて来た魔族の語った事は姫を自分達の味方に取り込み、国家の転覆を狙う為の策略であり、サキュバスの少女は姫を騙おうとしていたのだと教えられ続けました。
しかし、姫は聡い人でした。
司教や修道女の表情や声色から何か嘘があると悟ったのです。
教団の者達は何かを隠す為に必死で魔族の悪に仕立て上げようとしている事を悟ると、自身の本音を誰にも悟られぬよう隠し、表面上は魔族の洗脳から脱した敬虔な教団の信徒を装い、他の修道女や司教の信頼を得て行き教団の深部に潜り込んでいきました。
そしてそこで姫は知ったのです。
この魔族との戦争が起こったのは実は人間に原因があったのです。
次々と土地を切り開いてきた人間は、やがて魔族の領地を侵すようになり始めたのです。
それに怒った魔族達も始めは寛容な態度で領地を荒らされる事を見過ごしてきました。
しかし、人間は次第に増長していき、ついに魔族の土地を教団の教えの名の下に略奪し、教団の法術を使って強制的に洗い清めて人が住める土地にするという行為を始めたのです。
流石にこのような蛮行を魔王は許せるはずもなく軍を投入し、それに人間も応戦したのが人と魔族との戦争の発端でした。
しかし、教団はこの事件の真相を捻じ曲げ、魔族が人族の土地を略奪したということにしたのです。
悪は人間の方だったのです。
姫は国に戻ると、男子が生まれなかった事を利用して病床に臥せっていた父王から王位を継承し、全ての人族を騙す段取りを始めました。
王国を自身の強大な魔力を使った結界で覆い、魔族が入れないようにしたのです。
こうする事によって戦火に追われた人々が安全を求めて流入して来て国力は上がり、強大な国家を形成し、教団はおろか、周辺国家に対しても大変な発言力を持つ国へと成長させたのです。
人々は王女となった姫を聖王と呼び、慕いました。
こうして全ての準備が整ったある日の夜、あのサキュバスの少女が姫の寝室を訪れたのです。
サキュバスの少女は姫が見ない間に姫の張った結界すら突破する力を持った魔族になっていたのです。
サキュバスの少女はその手に魔王の首を持っていました。
「こんばんわ。私、さっき魔王を倒して次の魔王になったの。とうとうあの日の約束を果たす日が来たわ」
サキュバスの少女の言葉を受けて姫は微笑みながら答えを返しました。
「ええ、あの日の約束を果たしましょう。私達は二人で魔族も人族も無い、争いの無い世界を創る鉢となるのね」
サキュバスの少女は姫に今から行う儀式の内容と姫に降りかかるであろう出来事を伝えました。
その儀式とは、魔王は神と魔物達とを繋ぐ中継点であるという事を逆手に取り、神が定めた『魔物は人間と対立し、人間を襲って喰らう。食物連鎖の上位の存在』という設定を書き換えて魔物は人と交わり、子を成す」というものにし、魔物と人との混血が多くしていき、やがては一つの種族に統合してしまおうというものだった。
そのためには姫に世界を縛る神の摂理との接続キーになって貰う事。
魔王一人の魔力では設定を変えきれない事。
そのために姫の莫大な魔力が必要となる事。
子供の頃に姫と接点を持ったのもこの計画に姫が必要だったから。
友情を利用して世界を変えようとする姫の友情を踏み躙る様な行為をこれから為そうという事。
そして姫は魔王たる自分が書き換えた『設定』を神から護る為の要となって貰う為、二度とまともな生活は送れず、魔王城の中で一生幽閉され、世界を縛る摂理に繋がる門となった為に二度と死ねない身になるであろう事。
それら全てを何度も謝罪しながら、涙を流しながらサキュバスの少女は姫に告げ、嫌なら自分と縁を切り、この国から叩き出して欲しい。そして自分を憎み続けてくれていいとも告げました。
姫はそんな泣き虫な魔王に答えを返しました。
「何を馬鹿な事を言っているのです? 私達はあの日約束したでしょう? 世界を、私達二人で変えるのだと。貴女は子供の頃の児戯に等しい約束を私を利用するためのものだったと言った。でも私は貴女との友情は確かにあったと感じています。例え最初は打算に満ちたものだったとしても、それは誰であろうと同じでしょう? なら貴女は何一つ恥じる必要など無い。そして、私が貴女を憎む理由すらない。さぁ、摂理に接続し、世界を変えましょう」
サキュバスの少女は姫の言葉で決意を固め、すぐに郊外で儀式を行おうと言いました。
こんな国の中心で儀式を行うと、どんな被害が出るか分からなかったからです。
しかし、姫はサキュバスの少女が予想していた答えと違う答えを告げました。
「いいえ、儀式はここでしましょう。貴女は何故私がこんなに巨大な国家を作り上げたと思っているのかしら? この都はね、こういう事もあるときのために用意した魔力の壺なの。都の要所5ヶ所に作った魔方陣が全て展開されると、この城を除く都に住む者達全てを純粋な魔力に変換するように都は作られているのよ。さ、この都に住む人々も魔力に変えて儀式を行いましょう」
サキュバスの少女はそんな事は望んでいなかった。
だから姫にそんな事は止めるように言いました。
ですが、姫は今までと変わらない微笑で言いました。
「いいえ、それはいけないわ。私達人族は最初に無辜の民だった貴方達魔族達から愛する故郷を奪った。なら、人も同じ報いを受けなくてはいけないわ」
姫は言いました。
「大丈夫。全ての罪は私が全て引き受ける。私は無辜の民を都ごと魔力に変える凶行を行った最悪の女王として語り継がれる。でもこのまま何もしないで貴方達魔族と血を交える事は私達人族の汚点になるもの」
姫はそう言って都の要所に作ってあった魔方陣を起動しました。
こうして聖王が築いた広大な都は一瞬で純粋な魔力の塊になりました。
姫はその魔力を全て自分に取り込むと、サキュバスの少女に言いました。
「さぁ、世界を変えましょう」
こうして世界は変わりました。魔物は魔物娘へと変わり、今日も世界中で一つの種族となるべく人族と交わり、子を成しています。
11/09/19 22:59更新 / 没落教団兵A