連載小説
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・七女がメドゥーサな場合

前回も言った通り、六女と七女は双子。
蛇属なせいか、口の強さは母さん譲り。
母さんの個性の強さを色濃く受け継いでいるのかもね。
でも今回は、妹達の中でもちょっと変わった妹の話。
おそらく、一番距離があるであろう妹の話だ。

・〜ある日の朝〜


「ティーナ、朝だぞ」

「・・・ぅう〜ん」

「ほらほら、さっさと起きる起きる」

「・・・ぐぅ」


寝ているのは七女のティーナ。
髪の毛と下半身が蛇のメドゥーサだ。
我が家の蛇属はあまり寝起きがよろしくない。
寝ぼすけが多いのだ。


「全く、何でかねぇ」ナデナデ

「・・・・・・んへへ〜・・・///(´∀`*)」シュルシュル

「あっ・・・」


しまった。
つい頭を撫でたら髪の蛇達に絡みつかれてしまった。
この蛇達もまだ寝ぼけているようで、目は閉じたまま。
俺の手に体を巻きつけていく。
このままティーナが起きると、ちょっと面倒なことになるな・・・


「・・・んむぅ?」

「あらら」


言ってるそばからこれだよ。
朝からタイミングが悪いなぁ。
それじゃ『覚悟』しとこうか・・・
懺悔の用意はできているか?俺はできている。


「ふわぁ・・・・・・タク兄、おはよ・・・」ゴシゴシ

「おう、おはよう・・・」

「・・・ん?あれ?」







「キャーーーーーー!!??///」


バシィン!!

「ひでぶっ」グラッ・・・





「ちょ、ちょっとタク兄ぃ!ななな何で私の頭触ってるの!!?///」

「スマン・・・つい、な」

「いいいつも言ってるでしょ!?か、髪の毛勝手に触らないでよっ!!///」

「ああ、悪かった・・・」


ああ、またやってしまった。
妹達を起こす際、頭を撫でるのが少し癖になってしまっているのだが、ティーナは俺に髪を勝手に触られるのを嫌っている。
まあ普通は誰だって触られたら嫌だろうけどな。
そのため、驚いたティーナに尻尾ビンタを顔面にくらったというわけである。
俺も気を付けようといつも思っているんだがな・・・痛いし。
でも気持ちよさそうな寝顔を見ていると、ついつい撫でたくなってしまうのだ。
撫でないと駄目などっかの妹もいるし・・・

まあ、この通り。うちのティーナは標準的なメドゥーサ。
母さんの強気な部分はしっかりと受け継いでいるらしい。


「次からは本当に気を付ける。朝からごめんな・・・」

「も、もういいわよっ!・・・私の方こそ、いきなり殴ってごめんなさい・・・」

「それは別に気にしてないよ。怒るのは当然のことだし、俺が全面的に悪い」

「で、でも・・・!」

「それにティーナの尻尾はいい気付けになる。よーく目が覚めるんだ」

「き、気付けって・・・馬鹿なこと言わないでよ!」

「とにかくすまなかった。お風呂沸いてるから入っておいで」

「う、うん・・・」


朝から、嫌な思いをさせてしまったな。
もう迂闊に頭に触るのは止めよう。
・・・まあそれができたら苦労はしないんだけど。
慣れって怖いね。・・・言っておくが俺はドMじゃないぞ。
普通に痛くて困ってるんだから。
でもこれは早めに直さないと。
困ることが、もう一つある。


「・・・・・・・・・」

「ど、どうしたの?」

「いや、頭の蛇達が離れないんだが」

「ええっ!?ちょ、ちょっと!アナタたち早く離れなさいっ!!///」

シャー♪シュルシュルシュル・・・

「余計に絡みついてきてるんですけど」ワシャワシャ

「あん・・・♥タク兄!手動かさないでよぉ・・・!///」

「俺は動かしてないぞ。蛇達が動かしてるんだ」ナデクリナデクリ

「くぅ・・・ふみゅぅ・・・♥い、いい加減にしてよぉ///」

「なあ蛇達。俺はまだやることがたくさんあるんだ。そろそろ離してはくれまいか」

シャー・・・チロチロ


俺がそう言うと、蛇達は俺の手から離れてくれた。
何とも申し訳なさそうに舌を動かしている。
力任せに引っ張れないから、聞き分けがよくて助かる。


「ありがとう。ティーナも重ね重ねすまないな」

「別に全然気にしてないよ・・・私は勝手に髪触られるの驚いただけだし・・・
・・・それに、本当はなでなでして・・・///♥


「何だ?あまりよく聞こえないが・・・」

「べ、別に何でもないわよっ!!それじゃお風呂入ってくるから!!///」

「ああ、ゆっくり入っといで」


何やら慌てて出て行ったが。
そんなに嫌だったのかな。
俺のせいだから仕方のないこととはいえ・・・
少し、凹むな・・・






(うぅ・・・本当はなでなですっごく嬉しいのにぃ・・・!/// 私の馬鹿っ!)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・〜ある日のお出かけ〜


「タク兄〜!お願いしたいことがあるんだけどっ!」

「どうした、そんなに慌てた声で」

「ちょっと髪整えてくれない!?まとまらなくて・・・」


ティーナはちょくちょく俺に髪型のセットを頼むことがある。
俺から触られることは嫌いなくせに、不思議な妹だよなぁ。
今日は街の友達と出かける用事があるって言ってたな。
それで髪型を決めかねていたのだろう。


「あー、じゃあそこに座って。櫛と髪留めはあるよね?」

「うんっ!可愛くしないと承知しないんだからねっ!///」

「はいはい」


妹の評判が俺の手にかかっていると思うと荷が重いね。
まあどんな髪型でも似合うんだけどな、ティーナの場合。


シャー

「ん。今まとめてやるから、蛇達もじっとしていろよ?」

シャッ

「よしよし」


この時ばかりは頭の蛇達も俺の手に絡み付こうとはしない。
邪魔になってしまうことが分かっているからだ。


「今日は友達とどこに行くんだっけか」


「最近新しい服屋さんができたから、友達と見てこようってことになっててね」

「なるほど」


新しい服屋というと・・・多分この前開店準備してたジョロウグモさんのとこかな。
オーダーメイドの仕立てもしてくれるらしい。
ちなみに旦那さん募集中だそうです。
・・・何で詳しいかって?
開店準備の看板取り付けるのに苦労してたから手伝ったことがあって。
その時にちょっと話しただけだよ。
まあ妹達には言わないけどね。聞かれてもないし。


「ティーナの気に入る服、あるといいな」

「今日は服を見るだけよ。他にも見て回るとこあるもの。それに今あまりお金無いし・・・」

「欲しい服を今無理して買わなくても、店員さんに言ってキープしてもらうってのもありだな」

「えっ!?そんなことできるの!?」

「頼めばしてくれるんじゃないの?
新しくできたお店なら顔もすぐ覚えてくれるだろうし、馴染みの店ならもっと頼みやすいよね」

「し、知らなかった・・・タク兄、よく知ってるわね」

「生活の知恵かな。伊達に長年街で買い物しているわけじゃないよ」


長年とは言ってもたかだか十数年だがな。
妹達が小さい頃から服とか買ってあげてたりしてたから。
普通こういうことは母親の役目なんだろうけど。
うちは両親共々忙しいからねー。
母さんも「タクトの方がセンスいいから任せるわー」って言ってくれてるし。


「あと今月のお小遣いまだでしょ?後で渡しておくから」

「いいのっ!?で、でもまだお小遣い貰える日じゃないし・・・」


うちではお金はお小遣い制。
ひと月に一回、決まった日に渡すようにしている。
本当は欲しい時に渡せるのがいいんだろうけど、そこまで蓄えないからなぁ。
でも遠慮はして欲しくないんだけどね。


「今日出かけるのにお金足りなくなったら嫌だろ。
それにティーナはお金の管理しっかりしてる方だからね。
今月は早めに渡しておくよ。いいね?」

「わ、わかった」

「その代わり、今日はしっかり楽しんできな」

「うんっ!!///・・・あ、ありがと・・・///

「ん?何か言ったか?」

「な、何でもないわよっ!!///」

「? おう」


なんで怒鳴られたのかは分からんが。
嬉しそうな顔してるし、気にしないことにしよう。
お小遣いも少し、色をつけてやるかな。



・・・・・



「兄さーん!雨降ってきたよー!」

「あー、やっぱり降ってきたかー」


夕方、洗い物をしているとクラリネが知らせてくれた通り。
どうやら雨が降りだしたようだ。
窓を見るとやや風も強いようで、窓に雨が打ち付けられている。
朝はサンサンと晴れていたというのに、今では見る影もないくらいドシャ降りだ。


「せ、洗濯物!取り込まなきゃっ!!」

「もう取り込んだから大丈夫だよ」

「へ?」キョトン

「さっき外に出たら雨の匂いがしたからね。大急ぎで取り込んでおいたのさ」


少しまだ湿っている物もあったけど。
部屋干しすればすぐ乾くだろう。


「ああそう・・・・・・ちょっと待って、雨の匂い?」

「それがどうかしたか?」





「ねえねえ。ちょっとホルン、コルネッタ」

「どうかしましたか?」
「何でありますか?」

「雨の匂いって・・・分かる?」

「流石にそれはちょっと・・・」
「分からないであります・・・」

「・・・だよねぇ。ウルフ種でも分かんないよねえ」





「ねえ、兄さん。兄さんって本当に人間だよね」

「なんだ藪から棒に。歴とした人間だよ、失礼な」

「だよねー、そうだよねー」

「? 変な妹だな・・・」



(時々、兄さんが人間かどうか疑わしくなるのは私だけかな・・・)

(それに関して言えば・・・)
(同意であります・・・)


何やら妹達がアイコンタクトを取ってるんだが。
一体何だって言うんだ。
雨の匂いくらい判別つくだろう。
しかし結構降ってるよなぁ。
これじゃ外にいる奴は大変・・・!?


「しまった!」ドタドタドタッ!!

「ちょ、ちょっと兄さん!傘持ってどこ行く気!?」

「ティーナ!傘持ってなかった!!渡しに行ってくる!!!」

ダダダダダダダダダダ・・・






「なんか、ああいうの憧れちゃうなー」

「まあ兄様なら私たち誰であってもああなると思いますよ?」

「・・・今度わざと傘忘れてみようかな、であります」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「あー・・・雨、止みそうにないわね」

私は今、店の中で雨宿りしています。
友達であるサキュバスとセイレーンの二人も一緒です。


「朝はあんなに晴れてたのにねー」

「こういうこともあるさ、仕方あるまい」


語尾を伸ばすことに定評のあるのがセイレーンのソプラちゃん。
クールな話し方の変わったサキュバスがジルちゃんです。
二人共、大事な私の友達です。


「これからどーやって帰ろっかー」

「流石に傘は持ち歩いていなかったな・・・」


私たち三人で街を巡り、買い物をしていました。
あとは帰るだけとなったんだけど、あいにくの雨。


「ごめんなさいねぇ。こんな物しか出せなくて・・・」


店の奥から出てきたのはジョロウグモの店主さん。
この店は午前中に行った、新しくできた服屋さんです。
雨のせいでお店に駆け込んだ私たちを快く迎えてくれました。
手には湯気が上っているお茶が3つ、トレーに乗せて持っています。


「少し寒いでしょう?温かいお茶、飲んでくださいね?」

「あ、ありがとうございます!」

「恩に着ます。ここまでしてくださって・・・」

「わー!あったか〜い〜」

「本当は傘も貸してあげたいんだけど・・・傘を丁度持っていなくて・・・」

「そ、そこまで気を遣わなくてもっ!!」

「だって、ウチの服を褒めてくださったお客様ですもの・・・これくらい普通ですよ」


気持ちはとっても嬉しいんだけど・・・
流石に申し訳ないです。
店に駆け込んだ挙句、ここまで良くしてもらってしまうと、気が引けちゃいます。


「それに服のご予約までされているのですから、大事にしないと罰が当たるというものです」

「いえ、こちらこそ無理を聞き入れてくださってありがとうございますっ!」

「別に無理ではありませんから♪そういうお客様、意外と多いんですよ?」


朝タク兄に言われた通り、欲しい服のキープをお願いしてみたら笑顔で引き受けてくれました。
お金的には実は足りているんですが、これはお小遣いを前倒ししてもらったお金。
ちゃんと本来の期日を過ぎてから買おうと思ったんです。
いつものお小遣いよりもちょっぴり多いみたいだし・・・
全く、タク兄ったら・・・///



カランカラーン♪



ふと、お店のドアの鈴が鳴りました。
こんなどしゃ降り雨の中一体誰が・・・




「すみません。ちょっとお尋ねしたいことが・・・」

「た、タク兄っ!!?」

「おー良かった。ここにいたか」





な、なんでタクお兄ちゃんがこんなところに!?
お、落ち着きなさい私!KOOLに、れれれ冷静になるのよっ!
うん。ちょっと落ち着いた。・・・いやどうだろう。
え、何で?何でここに居ることがわかったの!?
やっぱりタクお兄ちゃんとは赤い糸で結ばれているとでも言うの!?
私にはタクお兄ちゃんしかいないってことなの!?


「・・・/////////」←顔面真っ赤

「お、おい。大丈夫か?風邪でも引いちゃったか!?」

「ああ、大丈夫ですよお兄さん」ニヤニヤ
「多分、急なことでフリーズしちゃってるだけだろーねー」ニヤニヤ

「あらあら、うふふ♪」



「なんだこの状況・・・と、とにかく戻ってこい!ティーナ!」

「ハッ!?えと、タクおに・・・た、タク兄。なんで、タク兄がここに・・・?」

「ああ。ティーナ、傘持ってないだろ?雨に晒されてるとマズイと思って急いで持ってきたんだ。
今日この店に来るって言ってたから、とりあえずここに来て話を聞こうと思ってな。
でもここにいてくれて助かったよ・・・」

「そ、そういうことなの・・・」


私のこと、心配してくれたんだ・・・
嬉しい・・・///♥


「そうだ、友達の分の傘もあるぞ。ほら」

「あ、ありがとうございます!」

「ありがとー!!」

「店主さんもありがとうございました。うちの妹がお世話になったようで」

「いえいえ、お構いなく♪」


二人にも傘を渡し、店主さんにもお礼を言うタク兄。
本当に出来た兄で、私は誇らしく思っています。
・・・ぜ、絶対口では言わないけどねっ!///
は、恥ずかしいじゃない・・・///


「さて、それじゃ帰る・・・か・・・」

「ど、どうしたの・・・?」










「・・・傘、三本しかねぇ・・・」

「え?」

「しまった・・・俺の分を忘れてた」

「えぇっ!?」


三本ってことは私とジルちゃんとソプラちゃん。
タク兄の傘がないってことはつまり・・・



「これはおにーさんと『あいあい傘』するしかないねー♪」
「ああ。ティーナとお兄さんで『相合傘』しかないなこれは」



口を揃えてそう言う二人。
ってえええええっ!!!?
私とタク兄で相合傘!?
ふ、二人で一つの傘に入るってこと!?
しかも結構な雨だから密着しなくちゃいけないわけでっ!!
タク兄と!体を寄せ合わせなくちゃいけないわけでっ!!!
あいあいなんて・・・愛々傘なんてぇ・・・!





「あー、ティーナ。俺と傘一緒に入る?」

「で、出来るわけないじゃないっっっ!!!」

「だよなぁ。そうだよなぁー」





あれ?
今私、断っちゃった?
一世一代のチャンスを!?即座に!?
で、でも恥ずかしいし・・・///
あーもう!!断るつもりなんてないのにぃ!!///
べ、別に一緒に入りたいからってわけじゃないんだからねっ!!///
ただ、ちょっと興味はあるっていうか・・・ないっていうか・・・///
とにかくっ!い、今言い直せばっ!まだ!


「あ、あの、えーと・・・タク兄?」

「いやいやー。ティーナがそう反応するって分かってたからなぁ」

「えと、違くてっ、そうじゃなくて、あの・・・///

「まー仕方ないってことだ、うん。大丈夫!これはティーナの傘だから。安心しろ」

「えっ?ええと、タク兄・・・?」


あれ。
なんか話を聞いてくれない感じ・・・
若干タク兄も早口になってるし。
あぁ、やっぱり・・・怒ってるのかなぁ。


「・・・そんな顔をするな。大丈夫だから」

「えっ・・・?」


私の気持ちを表情から察したようにするタク兄。
分かっているようで、分かってない。
伝えたいのは、そっちじゃなくて・・・!


「あ、店主さん。これを・・・」

「あら・・・これは?」

「・・・・・・・・・」ゴニョゴニョゴニョ

「・・・ああ!なるほど・・・畏まりました」


タク兄と店主さんが何かを話しているけど、私には届かない。
私の声も、届かない。


「それじゃティーナ。気をつけて帰ってこいよ」

「ええ!?ちょっと!どういうこと!?」

「大丈夫大丈夫。俺、傘なくても帰れるから。店主さん、後はよろしくお願いします」

「は、はい・・・」


それだけ言うと、タク兄は。
店のドアを開け。私に笑みを向けながら。
走り出し。

雨の中に消えていった。






「まさか、傘だけ渡して帰るとはな。自分の身を顧みず」

「かっこいいけど、わたしには真似できないなー」


「あの・・・ティーナ、さん?」


あまりのことに呆然と立ちすくしている私に、店主さんが話しかけてきた。
手には、しっかりと袋に包まれた・・・
私の欲しかった服が、入っていた。


「あ、あの、これ・・・」

「先程、お兄さんから代金を頂きました。ティーナさんのことは、お見通しなんでしょうね」

「タク兄・・・」

「あと、『お金に関しては気にするな。これは日頃頑張ってるティーナへのプレゼントだ』だそうですよ」

「・・・っ!!」


タク兄には、何でもお見通しってことなのかなぁ。
欲しかった服があったことも。
相合傘に入ることを断ることも。

でも、本当の気持ちには、気づいてくれない・・・

全く、タク兄の馬鹿っ!
優しくて、気遣って、大事にしてくれるタク兄。
そんなタク兄が、私は大好き。
タクお兄ちゃんが、大好き。

・・・タクお兄ちゃんの、馬鹿・・・・・・



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



・〜ある日の深刻な始まり〜


ああ、朝か。
さて、今日も一日頑張るか。









・・・おかしいな。
体が重い。


「おはようございます。兄殿」

ああ、おはよう。コルネッタ。





「・・・兄殿?」


どうした?そんな心配したような顔をして。
俺はいつも通りじゃないか。


「何故反応がないでありますか?」


あれ?俺さっきおはようって言ったよな。
仕方ない。起きて顔を洗ってくるとするか。




ド サ ッ




「あ、兄殿!?」


んー?おっかしいなー。
何で、俺・・・床に這いつくばってんだ?
このっ、起きろよ体。


「兄殿!!しっかりするであります!!」


大丈夫だって。
ちょっと体が寒くて、ちょっぴり頭が痛いだけだから。
大げさだって。


「ほ、他の皆を呼んでくるであります!!待ってるであります!!!」


はははは・・・
今日はコルネッタに皆を起こされちゃうな。
朝早いんだから、まだ皆寝かせてやれよ・・・
俺もさっさと・・・朝ごはんの、準備・・・を・・・・・・





・・・・・





・・・・・・・・





・・・・・・・・・・






寒い。暑い。
今何時だ?
俺はどこにいる?

そんなことを考えていると、ガチャリとドアの開く音がした。


「タク兄・・・」

「ティーナか・・・!?ゴホッ!ゲホッ!」

「む、無理して起きちゃ駄目だよタク兄っ!!ひどい風邪ひいてるんだから!!」

「か、風邪・・・?」


なるほど。体が重くて寒いのはそのせいか。
参ったなぁ。風邪なんて何年ぶりだよ。
しかもここまでひどいのは初めてだ。
もしかして、朝は声が出てなかったのか?


「昨日、あんな雨の中・・・傘もなく走って帰るからっ・・・!」

「やっぱりそのせいか・・・ゴホ」


昨日、帰ってから。みんなに驚かれたっけな。
フルーとバレスが青い顔して、二人に着の身着のままお風呂に沈められたが。
そんなにひどい状態だったのかね。


「私のせいだ・・・」

「ん?」

「私が、変な意地張ったから・・・グス・・・タク兄の、傘に入るの、ひっぐ、断っちゃったがら゛・・・!」

「それは違うっ!」

「!?」

「あれは俺が勝手にやったことだ。ティーナが責任を感じることなんて一つもない!」

「でもっ!風邪ひいちゃったじゃない!一緒に帰ってればこうならなかった!!」

「・・・・・・」


ティーナは何も悪くない。
100%俺のせいだ。
ティーナは俺と一緒の傘に入るなんて絶対しないだろうと思ってた。
友達のいる真ん前で、そんなこと絶対にできないと。
だから、傘だけ渡して急いで帰れば大丈夫だと思ってた。
あん時の俺の馬鹿野郎。
何が大丈夫だ。風邪なんぞひきやがって。
反応が分かってたとは言え、地味にショックを受けたからって。
やっていい事と悪い事の判別もつかなくなったか。
俺が勝手にやったことが原因で、ティーナを悲しませている。
涙をポロポロ流させている。


「ごめんな」

「・・・違う・・・グス」

「風邪ひいちゃって、ごめんな。嘘ついちゃって、ごめんな」

「・・・違うもん・・・タク兄に、謝って欲しいわけじゃないもん・・・!」

「でも、ティーナが俺のせいで泣いている。謝るしか、今の俺にはできん」

「だからタク兄のせいじゃ・・・!」
「俺のせいだっ!!!!」


いきなり声を荒げてしまったことで、ティーナの体がビクッと震える。
ちくしょう、風邪のせいでいまいちうまくコントロールできない。
しかも、体力も一気に持っていかれたようだ。


「・・・ティーナが断ること、分かってた、つもりだった。断るって、決めつけてた」

「えっ・・・?」

「こんなことに、なるんだったら。分かっていたら。
俺が、無理やりにでも、ティーナと一緒に、帰ればよかったんだよ。
でも、俺の勝手な判断が、この結果を招いた。だから、俺のせいなんだ。
ティーナは、何にも悪くないのに。ティーナが、悪く思うこと、なんて、一つもない。
不甲斐ない、兄で、ごめんな・・・
もう、こんな無茶は、しないから。
また、同じようなことがあったら、今度は・・・一緒の傘で、帰るから。
それで、許してくれないか・・・?」


風邪のせいで途切れ途切れになってしまったが、何とか言えた。
体力はギリギリのようだ。だがいつも気力で乗り越えているようなもの。
これしきのことでまた倒れてたまるか。
ティーナの様子は・・・





「・・・許さない」

「え゛・・・」






「わ、私の看病を受けて、タク兄の風邪が治るまで・・・許さないもん・・・///」

「それじゃ、風邪がうつっちゃ」
「わ、悪いと思ってるなら口答えしないっ!!///」

「ぐ、ぐう」


な、何も言い返せん。く、悔しい。
これは風邪が治るまで従うしかないな。
自業自得とは、まさにこのことよ。


(それに、タクお兄ちゃんから風邪うつされるのなら、それも悪くないかな・・・///♥
タクお兄ちゃん・・・看病してくれるだろうし・・・///♥)

「どうした・・・?」

「な、なんでもないわよっ///・・・あ、タク兄食欲ある?苦しいとこない?」

「どれだけ、休んだか知らないが、おかげで食欲は少しある。でも、今は寝かせてくれ」

「分かった。じゃあ起きたら・・・わ、私が食べさせてあげるからっ!覚悟しときなさいよっ!///」

「あ、ああ」
「何かあったらすぐに私に言うこと!一人で無理しちゃ駄目なんだからね!!分かった!?」

「・・・はい」


一体何を覚悟しとけと?
羞恥心ですか、そうですか。
まさか、妹に食べさせられる日が来ようとは。
・・・えーい、もうどーにでもなーれぃ。
きっと、ティーナなら変なことにはならないから大丈夫だろう。・・・おそらく。

ティーナが部屋を出て行くのを確認するやいなや、俺は気を失うように眠りに落ちた。



・・・・・



あれからティーナの手厚い看病のおかげで、俺は一週間前後で風邪から回復した。
ティーナが少し残念がってたのが気になるが、まあいい。
ティーナとの距離も縮まったようで、嬉しいからな。




・・・何?看病の時の様子は話さないのか、だと?
あ、あんな出来事!!小っ恥ずかしくて話せるわけがないだろうっ!!?///
食事の時は「あーん」してもらったりだの!いきなり看護服(ナース服)で来られたりだの!
極めつけには・・・あ゛あ゛あ゛ッ!!もうこれ以上は話せんっ!!///
この話は御終いっ!解散ッ!///




コホン・・・
さーて、久しぶりのいつも通りの朝だ。
早速家事を・・・・・・んん?

訂正、いつも通りじゃないな。コルネッタがいない。
いつもなら起こしにきてるはずなんだが・・・寝てるのか?
まあリビングに行って朝ごはんの準備を・・・






「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」チーン






・・・。
えーと、まあ、なんだ。
上の妹達5人が屍のように真っ白に燃え尽きているんだが
口から魂のようなものが抜き出ているようにも見える。


「おいぃぃぃ!?一体何があった!?大丈夫かっ!!?」





(あ、あれだけの仕事量を・・・兄さんは、毎日・・・だと・・・)
(ふふ・・・こ、この私を・・・ここまで、追い詰めるとは・・・やるでは、ない・・・か・・・ガクッ)
(兄様のお痛み、心よりお労り申し上げます・・・はひぃ・・・)
(燃えたよ、燃え尽きた、真っ白にな・・・・・・で、あります・・・)
(兄貴・・・ゴメン・・・そして、毎日ありがとう・・・俺、今度から、ちゃんと家事手伝うよ・・・)








こうして、『兄タクトの病床事件』は幕を閉じた。
その日から、家事を手伝う妹が増えたことは、言うまでもない。

13/05/01 23:53更新 / 群青さん
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■作者メッセージ

はい。今回もお読みいただき、ありがとうございます。
七女の『ティーナ・オーケスティア』
メドゥーサです。
年齢は15歳。
メドゥーサは予想された方が多かったことでしょう。
六女のヤンデレ・・・もとい変態デレ(略してヘンデレ)に対?になるようツンデレです。
でもほぼ陥落済みのために多分あんまりツンツンしてません。すみません。
最初表記がメドゥーサじゃなくてメデューサだと思っていたことは内緒。
どちらも同じですけれどもね。

看病の時の詳細については、『もっと妹増えてからの方が面白くなるだろう』と思い、別枠にします。
期待していた方々、誠に申し訳ございません。楽しみにお待ちしていただけると幸いです。
それでもティーナ中心のお話にはなりそうですね。

4月には間に合わせたかったですが、色々と立て込んでました。すみませんでした。
謝ってばっかりですね。「言い訳乙」とでも言ってください・・・
ネタも少なめですし・・・悔しいですねぇ。

名前の由来は鍵盤楽器の『コンサーティーナ』から。
これはアコーディオンの一種で、蛇腹楽器です。もちろん蛇つながり。
でもアコーディオンの方が有名ですよね。
あと、ティーナの友人もちょこっと出演させてみました。
この二人はダンス用語と歌関連の語句を名前にしてます。
二人のお話も、また後ほど・・・出せるといいですね。

皆さんの感想や質問、いつも楽しみにしております。
感想があるとやはり嬉しくなりますね。

次は八女のお話なんだからねっ!
最近どんどん文字数が多くなりつつあるので、うまくまとめられるといいなぁ・・・

次回もお楽しみに。

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