読切小説
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小さき挑戦者と大きな旅人。


「僕がまだ9歳のとき。
僕はこんなうわさを聞いたんだ。
さいきん近くの森でわるさをする人をやっつけたっていう強い旅人さんがいるって。
だから、どうしても僕はその人に会ってみたかったんだ。
その人がいるっている森に、自分の剣をもって、走っていったんだ」


・1日目


「ねぇ、あなたがうわさの旅人さん?」

む、君は誰だい?

「僕はあなたのうわさを聞いてここまで来たんだ!強い旅人さんがいるって!」

そうか、それは光栄だな。
それで、私に何か用かな?

「僕と勝負してよ!」

何?

「勝負だよ!剣の勝負!旅人さん強いんでしょ?戦ってみたいんだ!」

ふむ、こんな小さい子と戦うのは私も気が引けるのだがな。

「バカにしないでよ!!僕はまだ小さいけど、そのうちたいりくでいちばん強い剣士になるんだから!!!」

ほう、それは何とも頼もしいな。
失礼したね。

「それに、これでも村じゃけっこう強いほうなんだよ!旅人さんより強いかもよ!?」

私より強いか・・・ふむ。
・・・それでは、お詫びに相手をしてあげよう。

「ホント!?よーし!それじゃ行くよ!」

さて、君の腕前を見せてもらおうか。





・・・・・ ・・・・・





「うぅ・・・」

ふふっ。
やっぱりまだまだだな。
私の勝ちだ。

「ま、まだ負けてないよ!立てるし、剣ももてる!」

でももうボロボロじゃないか。
剣を杖の代わりにして立っているのがやっとだろう?

「でも!」

それに日も暮れてきてしまった。
日が沈んだら村に帰れなくなってしまうんじゃないかい?
親も心配するだろう。
もしかすると魔物に襲われてしまうかもしれないぞ?

「それはヤだけど・・・僕どうしても旅人さんに勝ちたいよ!」

・・・仕方がないな。
それでは、明日にしよう。

「え?」

明日、ここにまたおいで。
もう一度だけ、相手をしてあげよう。

「ホント?待っててくれるの?」

ああ、そうだ。

「嘘つかない?」

嘘じゃないとも。私は嘘が嫌いでね。
約束しよう。
私は明日、ここにいる。

「約束だよ!絶対だからね!」

ああ、それじゃ気をつけて帰るんだよ。

「うん!」


あれだけフラフラしてたのに、走って帰るか・・・
全く、子供は元気だな。






・2日目


「旅人さん!来たよ!」

やあ、待っていたよ。
ずいぶん早いね。朝に来るなんて。
昨日の怪我は大丈夫かい?

「あんなのへっちゃらだよ!僕は強いんだから!」

そうだったね。
それじゃ、始めようか。





・・・・・ ・・・・・





「うぐぐ・・・」

驚いたな。
昨日より筋がいい。
でもやっぱり私の勝ちだ。

「ま、まだ・・・」

地面にお腹をつけているのに、戦えないだろう。
そのまま少し休んでなさい。

「うぅ・・・負けちゃった・・・」

昨日よりも素直になったな。
それに少し腕もあがっていた。
何かあったのか?

「お父さんに、少し教わったんだ。お父さんも強いんだよ!」

へぇ、そうなのか。
一度手合わせしてみたいものだな。

「ねえ、僕を弟子にしてよ!」

何だって?君を弟子に?

「旅人さんみたいに強くなりたいんだ!おねがい!弟子にして!」

強いお父さんがいるなら、そのお父さんに教わればいいだろう?
私じゃなくてもいいじゃないか。

「お父さん、忙しいから・・・あまりめいわくかけられないし・・・」

それに私は弟子を取らないんだ。
今は一人旅をしたいからね。

「おねがいしますっ!!!」

・・・参ったな。

「おねがいします・・・!!!」



・・・。


・・・やっぱり私は弟子は取らない。

「・・・っ!!うぅ・・・」シュン

だが、相手はしてあげよう。

「えっ・・・」

私はしばらくここにいるよ。
君がここに来るというなら、相手をしてあげる。
それでどうだ?

「ここに、いてくれるの・・・?僕の剣の相手、してくれるの!?」

そういうことだな。
でも絶対に手は抜かない。剣士としての礼儀だからな。
まあ君がそれで嫌なら、私はまた旅に出るが・・・

「行くよ!ぜっっっったいに行く!!!毎日ここに来るからね!!」

そうか。
では待っているよ。
でも今日はもう帰りなさい。
しっかり休むことも大事だから。

「分かった!ありがとう!・・・あ、でも」

どうかしたかな?

「う、動けるまでもう少し待って・・・」

・・・ふふっ。






・3日目


「旅人さん!今日もよろしくおねがいします!」ペコッ

ああ。
随分礼儀正しくなったね。

「お父さんに話したら、ちゃんとあいさつをしなさいって!」

そうか。
確かに挨拶は大事だな。剣士として、最低限の礼儀だ。
いいお父さんじゃないか。

「へへっ・・・だって僕のお父さんはすごいから!」

それじゃ、始めようか。

「おねがいしますっ!」





・・・・・ ・・・・・





「むぐ・・・」

私の勝ちだ。
流石に昨日の疲れが残っていただろう。

「そんなことないよ!僕強いから、疲れなんてへっちゃらだよ!」

無茶はするな。満足に身体が動いてなかったのが良い証拠だ。
そこでしばらく休んでいるといい。

「うぅ・・・」

・・・君は何故、強くなりたいのかな?

「僕は早く大きくなって、強くなって!お父さんみたいな強い剣士になりたいんだ!」

何故お父さんみたいになりたいんだ?

「だってカッコイイから!お父さんは村のみんなを守ってるんだ!」

そうか、君もそんな風になりたいんだな。
立派なお父さんじゃないか。

「うん!へへっ・・・なんだかうれしいなぁ!」

嬉しいのか?

「旅人さんみたいな強い人にお父さんをほめられると、僕もうれしいんだ!」

・・・早く君も、お父さんみたいに強くなれるといいな。

「うん!そのためにもがんばって旅人さんに勝つよ!」

楽しみにしているよ。






・5日目


「旅人さん!こんにちは!」

やあ、また今日も来たね。
毎日勝負なんて、飽きないのか?

「ぜんぜん!むしろ楽しいよ!」

・・・同じ年頃の友達とかは、いないのか?

「村に何人かいるけど、今は旅人さんとの勝負がだいじだ!」

駄目じゃないか。友達をほったらかしにしては。

「でも・・・!僕が来なかったら、旅人さんいなくなっちゃうんでしょ!」

・・・ああ、そうだったな。
ふむ、いかんな。
よし、約束しよう。

「約束?」

私は1ヶ月はここを去らない。
だから、その間は君が来なくても私はここにいるよ。

「えっ・・・ホント?」

ああ。
それにこのままだと、君が風邪を引いた時でもここへ来てしまいそうだからな。
それに、今はちゃんと友達と遊ぶことも、強くなることへの一歩になるんだぞ?

「そうなの!?」

私は嘘はつかないよ。

「じゃあ、明日は友達と遊んでくる!でもその次の日にはまた来るからね!」

ああ、分かった。
それじゃ、今日の勝負、始めようか。

「うん!おねがいしますっ!」






・10日目


「旅人さん!今日も来たよ!」

ああ、君か。
いらっしゃい・・・おや?その後ろの子は?

「この子は僕の友達だよ!今日は旅人さんと勝負をするから一緒に行こうって!」

そうか。
こんにちは、お嬢さん。

「ひっ・・・!」

ん?・・・ああ。
いきなり近づいてしまってすまない。
私が怖いよな。
こんな恐ろしい姿をしているのだから。

「そんなことないよ!!旅人さんは優しいもん!怖くなんかないよ!!!」

・・・ありがとう。
それでは、勝負を始めようか。





・・・・・





「あででで・・・」

今日も私の勝ちだな。
でも最初に会った時より剣が鋭くなってきている。
今日は今までで一番いい動きをしていたぞ。

「ホント!?へへっ・・・やっぱり友達がいたからかな!」

きっと、そうかもしれないな。
あの子、途中から君のことを応援していたものな。

「だってカッコワルイところは見せられないよ!でもまた負けちゃった・・・」

・・・負けることは、カッコ悪いことではないよ。
負けるからこそ学ぶこともある。

「そうなの?」

ああ。負けた分だけ強くなれるのさ。
現に、君だって前より強くなっている。

「でも・・・やっぱり負けるのはヤだよ!勝ちたい!」

君も、もう少し大きくなれば分かるようになるさ。

「ちぇー・・・」


「あ、あの・・・」

ん?どうかしたかな、お嬢さん。

「さ、さっきは、こわがってしまって、ご、ごめんなさい・・・」

別に、気にしてないよ。
慣れているから。
私を怖いと思うのは当たり前さ。

「でも、たたかっているたびびとさん・・・きれいでした!かっこよかったです!」

ありがとう。
そう言ってくれると、私も嬉しいよ。

「ま、また、見にきてもいいですか・・・?わたしは、たたかえ、ないけど・・・」

ああ、歓迎するよ。
頑張って、あの子を応援してあげるといい。

「! は、はいっ!」




二人共・・・ありがとう。






・15日目


「旅人さん、今日もよろしくおねがいします!」
「こ、こんにちは」

ああ、こんにちは。
それじゃあ早速だけど、始めようか。






・・・・・





「あぐぅ・・・」

私の勝ちだ。
うん。少しずつだが良くなってるよ。

「旅人さんに勝つのも・・・遠くないかもねっ!!」

そうだな。
でもまだまだ先は長いぞ?
少なくとも、剣が私の身体に触れるくらいにはならないとな。

「むぐ・・・」ガックリ

「あの、たびびとさんは、どうしてここにいるの?なんで、村にこないの・・・?」

む・・・
私が村に行けば、きっと皆怖がってしまうだろう。
こんな見た目をしているのだからな。

「そんなことないよ!村のみんなはみーんな優しいよ!!」

仮にそうだとしても・・・
やはり怖がる人はいるんだよ。
得体の知れないよそ者ということには変わりないんだから。
私はここの方が居心地が良いのさ。

「そう、ですか・・・」

それに、私がこの子と戦ってボロボロにしている姿を、大人は見たくないだろうしな。
大人気ないと思われてしまうし、何よりこの子が恥ずかしい思いをしてしまうよ。
村の皆がいる中で負けてしまってはね。

「なんだとー!!みんながいたら旅人さんにもぜったい負けないやい!!!」

そうか?
剣が私に触れないのにどうやって勝つのかな?

「うがー!いい気になっていられるのも今のうちだけだからね!」

ふふふ。

「あはははっ!」


「二人共笑わないでよぉー!!!」






・20日目


「旅人さん!今日こそ勝つよ!」
「こんにちはー!」


こんにちは、二人共。
元気がいいね。
何か良いことでもあったかい?

「へへーん!今日は旅人さんに負けない『ひみつのわざ』をよういしたもんね!!」
「そ、それを言っちゃだめじゃないかな・・・」

おお、それは楽しみだな。
では早速始めようか。





・・・・・ ・・・・・


どうした?そんなものか?

「ぅう・・・なら、これでどうだっ!」

!!

「ひっさつ、『ふみこみ斬り』ー!!!!」

おおっと!
なかなかの速さだ。
一気に間合いを詰めるなんてね。
でも。

ガキィン!

「うわぁあっ!?」

まだまだ甘いぞ。

ドカァン





「へぶ・・・」

私の勝ちだ。
でも驚いたな。
いつの間にそんな技を。

「僕はつねにせいちょうしつづけてるんだよ!」

「おじさんにがんばって教えてもらってたもんね」

「ちょっと!お父さんに教わったこと言っちゃだめ!!」

なるほど。お父さんに教えてもらったのか。
でもまだ、使いこなせてないな。

「うぐぐ・・・せっかくいきなり強くなったことにしたかったのに・・・」

「ご、ごめんね・・・」

「・・・別にいいよ、こっちもどなってごめん」

仲直りできたかな?
にしても驚いたよ。
頑張って練習したんだな。

「でも・・・届かなかった」

そんなことはないよ。
ほら、ここ。

「え・・・?」

少し、服に傷が付いているだろう。
これは今の戦いでできた傷だ。

「じゃ、じゃあ」

ああ。
君はようやっと私に剣で一撃加えた、ということになるな。

「!!! やっっっっっったああああああああ!!!!」

「お、おめでとう!!」

ふふっ。やられてしまったのに、何だかこっちまで嬉しくなってしまうな。
成長か・・・。できれば、ずっと見ていたいものだがな・・・。




(やった・・・やっと、旅人さんに、触れたんだ・・・!)






・25日目


「こんにちは旅人さん!!」
「こんにちは!」

やあ二人共。今日も元気だな。
それじゃ、勝負を・・・

「あの、その前にひとつ聞きたいことがあるの・・・」

ん?何かな?お嬢さん。

「あなたの名前をおしえて・・・くれませんか・・・?」

そういえば、名乗っていなかったな。
今更だけど。
てっきり、既に知っているものかと思ったよ。

「僕も聞くの忘れてた・・・」

ふふっ。
でも何だか今更言うのも恥ずかしいな。
よし、そうだ。
私に勝てたら、名前を教えてあげよう。

「えーっ!?それじゃ教えてくれないのと同じじゃん!!」

おや?もしかして、勝つ気がないのかな?
いつもあれだけ私に勝つと言っているのに。
あれは嘘だったのかな?

「なっ!?ちがうっ!!ウソなんかつくもんか!!ぜったい勝って聞き出してやる!!」

「が、がんばって!」

ふふっ。
今日は一段と楽しめそうだな。





・・・・・ ・・・・・





「ふぎゅ・・・」

私の勝ちだな。
名前はまた今度の機会ということだ。

「うぅ、くやしい・・・!くやしいっ・・・!!」

その悔しさは、君をもっと強くする。
強くなるには何をすべきかを、教えてくれるだろう。

「・・・うん。次はぜったいに勝って、名前を聞くからね!!」

ああ、楽しみにしているよ。
でも、手は抜かないからな。

「うん!」




(へへっ・・・胸がドキドキしてる・・・もし次は負けても、いつか名前を教えてもらうからね!)






・30日目


「それじゃいってきまーす!!」

「暗くならないうちに帰るんだぞ」

「はーい!!」





「よーし、今日こそ勝つぞ!」

「でも、どうやったらたびびとさんに勝てるかなぁ・・・」

「うーん、今日はフェイントかけるとか。難しいけどやってみよう!」

「頑張ってね!」



「へっへっへ・・・ちょっと止まりなよ」

「!?誰だ!」

「小さいガキが二人か・・・捕まえて売りゃあいくらになるかねぇ・・・」
「カカカ・・・物好きの貴族に売りゃあ相当な金になるだろうよ」

「な、何の話だ!!」

「知らなくていいぜぇ?しばらく眠っときな」チャキ・・・

「う、うう!」シャキン!

「あー?そんな短っけぇ剣で何ができんだよ!おとなしくしとけやぁ!!」ブォン!

「うおおおおおっ!!」

ベシィ

「うわっ!?」

「弱っちいなぁ、お前。痛い目みたくなかったら、ジッとしてろよ・・・カカカ」



待て。

「!た、旅人さん!」

「あぁ?何だオメェはぁ〜?」

まだゴロツキの残りがいたか。
全員捕まえたと思ったが・・・
やはりここにいて正解だったな。

「!お、お前はあん時の・・・!」

その子達は私の知り合いでね。
手を出すならば・・・容赦しないぞ。

「・・・ハッ、手を出すぅ〜?こんな風にかぁ?」ガシィ!
「こいつらがどうなってもいいならおとなしくしてろよ・・・カカカ」

「う、うわぁ!!」
「い、嫌っ!!」

ヒュッ

「え、消え」


メキィ・・・


容赦しないと、言ったはずだ。


ズバァン!!


「カ・・・・カハッ・・・・」ドサ
「バ・・・・ガな・・・・・・・・・」ドサ



大丈夫か?
怪我はないか?

「た、旅人さん・・・」

どうした?どこか痛むか?

「そんなに、強かったの・・・?」

・・・ああ、そうだよ。

「僕との勝負は、手を抜いてたの・・・!?」

・・・本気では、なかったな。

「僕はいつも本気だったのに・・・!本気で向かってたのに!!旅人さんは応えてくれてなかったの!!?」

・・・すまない。

「ひどいよ・・・!!剣士としての礼儀じゃなかったの!?手は抜かないって言ってたよね!」

・・・。

「なにか言ってよ・・・!そうじゃないと、僕は・・・僕は・・・!!」

・・・。

「う、うう・・・ううううっ・・・・・・うわぁぁぁん!」タタタタ・・・
「あ!待ってよ!・・・ごめんなさい、たびびとさん!助けてくれてありがとう!!」
タタタタタ・・・




やはり、そうだよな。
自分との、力の差を知ってしまったら。
自分は強くなったと思ってたのに。近づけたと思ったのに。
本気を出してないと、自分相手では全力ですら戦ってもらえてないと。
分かってしまったら・・・無理もないよな・・・。
・・・。






・1ヶ月目


「ほら、行こうよ。ちゃんとたびびとさんにおれい言わないと」

「でも、僕・・・旅人さんにあえないよ・・・
 手を抜いてもらってることくらい、分かってた。
 分かってたのに・・・
 でも、ウソ、ついてたんだって・・・
 手を抜いてたんだって思ったら、おこっちゃって・・・
 僕、最低だよ・・・」

「・・・だから、にげるの?」

「え?」

「きっとたびびとさんはぜんぶ分かってるよ。さみしいかお、してたもん・・・」

「・・・」

「きのうのことおこってないよ。たびびとさんはおこってない。
 それに、今あわなかったら、二度とあえなくなっちゃうかもよ・・・?」

「ヤだ・・・!」

「うん・・・」

「旅人さんにあえなくなっちゃうなんて、ぜったいにイヤだ!!
 旅人さんは、僕の、強くて、カッコよくて、あこがれで・・・
 僕の大好きな人なんだ・・・!!」

「うん・・・!」

「だから、なかなおりしなくちゃ・・・
 これからも、勝負してくれるように。
 ありがとう!あいにいくよ!旅人さんに!」

「うん!行こっ!」





・・・・・ ・・・・・





「旅人さーん!どこにいるのー!!?」

「いた!?」

「いない・・・いないよ・・・」

「そう・・・」

「やっぱり、旅に出ちゃったんだ・・・
 僕が、もうこないと思っで・・・ひっぐ
やっばり、も゛っどはやぐ、あ゛やまれば、よがったんだ・・・グス」

「もっとよくさがしてみようよ!まだ近くにいるかもしれないよ!!」

「・・・う゛ん」グシュ





・・・・・ ・・・・・





「ダメ・・・見つからない・・・」

「うう、う゛う゛・・・?」

「どうかしたの?」

「あそごのぎに・・・な゛にがあ゛る・・・」ズビズビ・・・

「ホントだ、木に紙が・・・これ手紙だよ!たびびとさんからの手紙!」

「ふぇ?」

「あ、たびびとさんが使ってた剣もある!とにかく手紙をよんでみようよ!」

「う゛ん・・・!」


『 名も知らぬ私の友人達へ

 突然ですまないが、私はここを離れることにした。
 黙って行ってしまってごめんなさい。
 でも最初の約束の通り、1ヶ月を過ぎてしまったんだ。
 私は旅をしているが、やらなければならないことがある。
 果たさなければならない約束があるんだ。
 だから、ここにずっと居続けるわけにはいかなかった。

 言い訳になってしまうが、君との勝負、私は手を抜いているつもりはなかった。
 真剣な目で私に勝負を挑む君に応えようと。
 君を必要以上に傷をつけまいと、全力で勝負に臨んでいたよ。
 それでも、本気を出していなかったことに変わりはない。
 すまなかった。
 
 でも君は強くなれる。もっともっと強くなれる。
 村を守る君のお父さんのように絶対に強くなれることは、私が保証する。
 村で強さを学び、心を学び、そして大人になったなら。
 村を離れ、旅に出てみるといい。
 今の君には想像もつかないような世界が、君を待っているはずだ。

 旅に出たら、君ともどこかで会えるかもしれないな。
 でもそんな偶然を願うだけでは、君は納得しないだろう。
 だから10年後。私はここで、君を待つ。
 10年後のこの場所にいることを、私が生きている限り約束しよう。
 もし君が忘れたとしても、私は君を責めるつもりはない。
 私が勝手にやることだからね。

 お詫びに、というわけでもないが、この剣は君が使って構わない。
 この剣を使いこなせるようになれば、君は今より強くなっているはずだから。
 私のような者に優しくしてくれた、私からの感謝の証だ。
 受け取って欲しい。

 それではまた会える日を楽しみにしているよ。
 君達の成長した姿を、見られることを祈って。
 小さき挑戦者と戦える日を、楽しみに待っている。

                                   旅人より       』



「たびびとさん・・・」

「なんだよ・・・おれい言うの、10年も先になっちゃうじゃん・・・
 でも、二度とあえないわけじゃないんだ・・・
 分かったよ旅人さん。ごめんね、ここにいさせちゃって。
 僕、旅人さんがおどろくくらい強くなって。そしてきれいになって・・・
 旅人さんをあっと言わせてやるんだからね!!!
 だから・・・だからそれまでボクがんばるから!!
 ぜったいに・・・!
 ぜっだいに・・・わ゛ずれな゛い゛がら・・・!!!」グジュ・・・













・・・・・ ・・・・・






・・・・・・・ ・・・・・・・






・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・













・10年目


懐かしいな。
ここも全然変わってない。
私の約束も無事に果たせた。
あとは・・・
もう一つの約束を、果たせるかどうかだけだ。
果たせなくとも、仕方がないけどね。
もう10年も経ってるんだから・・・


確か、この木だったかな。
うん。手紙をさした傷もそのままだ。
少し木が大きくなったかな?
手紙がなくなってるということは、誰かしら気づいて持っていったんだろうね。





ザッ




「ねぇ、あなたがうわさの旅人さん?」


10年前と同じように、後ろから声をかけられた。
それには以前の子供っぽさを残しつつも、大人びた雰囲気があった。
私は、10年前と同じように、それに答える。




む、君は誰だい?

「僕はあなたのうわさを聞いてここまで来たんだ。強い旅人さんがいるって。
・・・10年前に聞いてね」

そうか、それは光栄だな。
それで、私に何か用かな?




その言葉と同時に振り向くと。
そこには・・・




以前よりもたくましく、そして美しく成長した君。
リザードマンである君の姿があった。




「僕と、勝負してよ」


さて、君の腕前を見せてもらおうか。





・・・・・ ・・・・・





ふふっ、参ったな。
完敗だ。
もう立てそうにない。
地面にお腹をつけていたら戦えないしな。

「やっと、勝てた」

ああ、君の勝ちだ。
10年越しの勝利だよ。

「やっと・・・あなたに勝てた」

おめでとう。
やられてしまったのに、何だかこっちまで嬉しくなってしまうな。

「やっと・・・旅人さんに・・・アグリィに勝てた」

おや?私の名前を知っているのか?

「調べたの。10年前のあの後、お父さんやお母さん、村の人みんなにも聞いたの」

そうか、では勝ったときに教える約束は果たせそうにないな。

「名前だけじゃない。あなたが何の約束をして、何故果たそうとしたのかも調べた。
 友達のために、薬を探してたんでしょ?万病に効く秘薬っていうのを」

そこまで、知っているのか。
そう。私は薬を探していたんだ。
まあでも、私は旅を楽しんでいたよ。
苦労はしたが、苦にはならなかった。

「その人、助かったの?」

ああ。おかげさまでね。
間に合ったよ。

「よかった・・・」

君は、相変わらず優しいんだな。

「そんなことないよ・・・10年前、あなたを傷つけてしまった」

ふむ。服に傷をつけていたことを気にしていたのか?

違うっ!!ごまかさなくてもいいの!
 あの時、ひどいこと言ってごめんなさい・・・
 そして、助けてくれて、ありがとう・・・」

礼を言うのは、こっちの方だ。

「え・・・?」

私は、見ての通り醜い。
片腕はなく、顔の半分が火傷で潰れている。
この姿を見て恐れず、そして優しい真っ直ぐな瞳で私を見てくれたのは君が初めてだった。
こんな瞳で私を見てくれる人が、まだいたんだと。
私は君に救われたのさ。

「あ、ありがとう・・・嬉しいな・・・///」

ああそうだ。
約束を一つ守れなかったんだ。
何か、埋め合わせをしないとね。

「それじゃあ、一つお願いを聞いてくれる?」

何かな?

「この僕を、ファティア・エフォートを・・・・






 あなたの、お嫁さんにしてください」






えっ?

「やっぱり、リザードマンはダメかな・・・」

私で、いいのか?
リザードマンは負けた相手には求婚しないだろう?

「アグリィ以外なんて考えられない!!この10年間、ずっとあなたのことを考えてた・・・
 10年前にあなたがいなくなって、僕は胸が張り裂けそうになった!!
 でもこの日に。今日という日だけを支えに、今まで頑張ったんだよ?
 あなたと、アグリィとこれからずっと一緒にいるために・・・」

ファティア・・・

「名前、呼んでくれたね・・・もう、アグリィと話してるだけで、我慢できそうにないの・・・
 へへっ・・・ちょっと濡れてきちゃった・・・♥」

・・・。

「返事を、聞かせてよ・・・嫌なら、ここから離れて・・・」プルプル・・・






ふふ。

「何で、笑ってるの・・・?」

離れろと言っても、今私は満足に動けないんだ。

「あっ・・・」

こんな状況に、魔物がいたら抵抗なんてできないなぁ。

「・・・・・・っ♥」ゴクッ

それに・・・離れる理由もない。

「っ! それじゃあ・・・!!♥」


ファティア、私と生涯を共にしてくれるか?

「はいっ!」










「じゃあ、合意ってことで、襲うね?♥」

お、お手柔らかに頼むよ・・・





・・・・・ ・・・・・





・?年目


あれから私とファティアは夫婦となった。
今は、彼女と二人で旅をしている。
彼女はずっと私の隣で微笑んでいるんだ。

ファティア、何か嬉しいことでもあったかい?

「僕は今すっごく幸せだよ!愛しの旅人さんが、ずっとそばにいてくれるから♥」


旅は何が起こるかわからない。

だが。

旅とは素晴らしいものだと、私はそう思う。


13/03/19 19:27更新 / 群青さん

■作者メッセージ

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?
さて、ここで一つ質問がございます。

『あなたはどこで子供がリザードマンで、大人が人間だと気づきましたか?』

きっと最初は、大人の方がリザードマンで、子供の方が人間だと思ったのではありませんか?
そういった、ちょっとしたトリックを今回は混ぜてみました。
もし「最初から分かってたよコノヤロウ」と言う方がいましたら、私もまだ全然修行が足りませんね。
精進します。
「あれ!?子供の方がリザードマンだったの!?」と驚いてくださるのなら、私の思惑通りです。
素直に嬉しいです。

今回は書き方を少し工夫すれば、目線だって変えられるということに挑戦してみました。
このような文章表現の面白さを少しでも伝えられたのなら、幸いです。

心残りを強いて言えば・・・
もっといちゃいちゃさせたかったですね。

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