あるTRPGネタ
あるドワーフの話
これは私が婆様から聞いた話で、婆様もその婆様に聞き、それも婆様から聞いたという、古くから伝わる話です。
この国は不思議な魔力により良質の魔界銀と宝石が取れ、取り尽くさなければ一年後にはまた元通りに増えるため繁栄している。昔、今より働く時間の方が長かった。
その頃、エルナというドワーフの娘がいました。
エルナは働き者でよくできた娘であり。芯が強く、結婚して夫と愛し合いながらも、しっかりと家庭を切り盛りいていたと聞きます。
彼女の笑顔は春のようで国中で評判だったそうです。その時の国の秘宝は魔界銀と宝石とエルナの笑顔と言われていました。
曰く、彼女が笑顔を浮かべるだけで、一日の明るさが少し増すとまで言われてました。
そんな彼女が一番の笑顔を浮かべるのは、いつも夫と娘ドルについて話す時でした。
ドルもいい娘でサハギンみたいに寡黙だけど優しく、両親の言うことをよく聞いてた。
家族にいい暮らしをさせようと宝石坑夫兼職人となって恋人がいないためか真面目にはたらいた。
ドルは優秀な坑夫で、大地と語らい、大地の声を聞くことができると噂された。まさにそれが真実のように彼女が掘り出す宝石は良質なこの国の中でも最高級のものばかりだったらしいわ。
だからこそ、その報告はドルを知る全ての者にとって寝耳に水のことだったの。
そう、若くして落盤事故によってこの世を去ることになったのよ。
その日、ドルの他にも、多くのドワーフやインキュバスが落盤事故で命を失いその過半数以上が若者達であったため地下都市全てが悲しみに包まれたと伝わっています。
その中でも最も悲しみが深かったのはエルナでした。落盤事故の後から三日三晩泣き続け春のような笑顔はなくなり、涙は水瓶を三度満たしても余りあるほどだった。夫や友の慰めも耳に入らず、泣き暮れるエルナ。しかし、四日目の朝にエナ様が現れました。
「泣かないで、エルナ。私も悲しいし、貴女の涙でこの地下街が水没してしまうでしょう」
しかし、エルナは首を振るう。
「娘が、娘が死んだのです。悲しくて心が張り裂けそうです。泣き止むことはできません」
「笑って、エルナ。悲しみに浸り泣き続けていても、悲しみが癒えることはありません。それではいつか心が死んでしまう。笑いなさい。貴女の笑顔は貴女だけでなく、貴女の周囲の者の悲しみも癒す力があるのですよ」
しかし、エルナは再び首を振るう。
「娘が死んで、笑うことはできませんし。泣き止むことももうできません。それに私はもう笑顔の作り方が思い出せません。涙の止め方もわからないのです」
エナは慈悲を顔(かんばせ)に湛え、微笑を浮かべると
「エルナ、貴女にエナの祝福を与えます」
エナ様の手がエルナの両目を拭った、すると、エルナの眼に込みあがってくる涙が、零れ落ちぬようになった。
「これで貴女が涙を流すことはなくなりました」
続いてエナ様がエルナの唇に触れると、エルナの口角が自然と上がった。「これで貴女は笑みを浮かべることができます」
エルナの眼はまだ大いなる悲しみを湛えていた。唇は哀しみに震えていた。しかし、彼女は涙を流すこともなく、笑顔を浮かべていました。
「エナ様。これは本当に祝福なのですか?涙は込み上げてくるものの流れず、意思に反して笑みを浮かべても心は張り裂けたままです。今の私にとって、これはまるで呪いのようです」
「いいの、今はそう思ってもいずれわかります」
エナ様は優しいで、声音労わるように言った。
「笑顔は幸福への道なのです。今は辛くとも、無理にでも笑顔を浮かべ、日々を生きていけばやがて本当の幸福を取り戻せる日が来るのですよ」
「そうは思えないのですが・・・」
エナ様は笑みを浮かべ、エルナを抱擁すると、立ち去った。笑顔を固定されてしまったエルナは、娘のために泣くことができなくなり、しばらくはエナ様を恨んでいた。しかし、やがてその瞳から嘆きの色は薄れていき、張り付いたような笑顔もぎこちなさをなくしていった。
エルナは夫と共にさらに子供を作り、孫に囲まれて天寿を全うした。その死に顔には、真なる笑顔が浮かんでいました。
「なんなんですかそれ!私、そんなことしてません!」
「本当ですか、エナ様」
「確かにエルナを慰めはしました。ですが、それは無理矢理涙を奪って笑顔を強制するなんて蛮行ではありません!そんなのをするのは過激派のデルエラ姉様ぐらいです。私がしたのは、彼女に、娘さんのような事故を無くすためにも、落盤予防について学び、研究することを薦めるように言っただけです。
そこから研究に集中することで娘さんの死を最終的に受け入れ、新たに子供を作れるまで立ち直ったのは、彼女自身の強さと、学問の力です」
「そ……そんな、馬鹿な……」
「彼女が呪いだって思って当然ですよ!無理矢理笑顔にしたところで、悲しみを癒すことは決してできませんし。幸せとは、笑顔とは、物事を学び、考え、創意工夫することで生まれるのです。
自ら学び、考え、幸せを掴み、そして笑顔になるのです。逆では決してありえません」
「なんていうこと……婆様の、婆様の婆様の婆様の婆様の婆様の婆様の婆様の婆様の婆様の代から伝わってたこの話が、間違っていたなんて……」
「私、流石にそこまで古いリリムじゃないです!」
「エナ様、お願いします。貴女の正しい説話と穏健派の考えをお教え願えますか」
「いいでしょう。学びとは喜びで、喜びはみんなの笑顔に通じます。よく学ぶのですよ」
エナの正しい伝承がこの地下都市に広まったのは数ヶ月後のことの話となる。
これは私が婆様から聞いた話で、婆様もその婆様に聞き、それも婆様から聞いたという、古くから伝わる話です。
この国は不思議な魔力により良質の魔界銀と宝石が取れ、取り尽くさなければ一年後にはまた元通りに増えるため繁栄している。昔、今より働く時間の方が長かった。
その頃、エルナというドワーフの娘がいました。
エルナは働き者でよくできた娘であり。芯が強く、結婚して夫と愛し合いながらも、しっかりと家庭を切り盛りいていたと聞きます。
彼女の笑顔は春のようで国中で評判だったそうです。その時の国の秘宝は魔界銀と宝石とエルナの笑顔と言われていました。
曰く、彼女が笑顔を浮かべるだけで、一日の明るさが少し増すとまで言われてました。
そんな彼女が一番の笑顔を浮かべるのは、いつも夫と娘ドルについて話す時でした。
ドルもいい娘でサハギンみたいに寡黙だけど優しく、両親の言うことをよく聞いてた。
家族にいい暮らしをさせようと宝石坑夫兼職人となって恋人がいないためか真面目にはたらいた。
ドルは優秀な坑夫で、大地と語らい、大地の声を聞くことができると噂された。まさにそれが真実のように彼女が掘り出す宝石は良質なこの国の中でも最高級のものばかりだったらしいわ。
だからこそ、その報告はドルを知る全ての者にとって寝耳に水のことだったの。
そう、若くして落盤事故によってこの世を去ることになったのよ。
その日、ドルの他にも、多くのドワーフやインキュバスが落盤事故で命を失いその過半数以上が若者達であったため地下都市全てが悲しみに包まれたと伝わっています。
その中でも最も悲しみが深かったのはエルナでした。落盤事故の後から三日三晩泣き続け春のような笑顔はなくなり、涙は水瓶を三度満たしても余りあるほどだった。夫や友の慰めも耳に入らず、泣き暮れるエルナ。しかし、四日目の朝にエナ様が現れました。
「泣かないで、エルナ。私も悲しいし、貴女の涙でこの地下街が水没してしまうでしょう」
しかし、エルナは首を振るう。
「娘が、娘が死んだのです。悲しくて心が張り裂けそうです。泣き止むことはできません」
「笑って、エルナ。悲しみに浸り泣き続けていても、悲しみが癒えることはありません。それではいつか心が死んでしまう。笑いなさい。貴女の笑顔は貴女だけでなく、貴女の周囲の者の悲しみも癒す力があるのですよ」
しかし、エルナは再び首を振るう。
「娘が死んで、笑うことはできませんし。泣き止むことももうできません。それに私はもう笑顔の作り方が思い出せません。涙の止め方もわからないのです」
エナは慈悲を顔(かんばせ)に湛え、微笑を浮かべると
「エルナ、貴女にエナの祝福を与えます」
エナ様の手がエルナの両目を拭った、すると、エルナの眼に込みあがってくる涙が、零れ落ちぬようになった。
「これで貴女が涙を流すことはなくなりました」
続いてエナ様がエルナの唇に触れると、エルナの口角が自然と上がった。「これで貴女は笑みを浮かべることができます」
エルナの眼はまだ大いなる悲しみを湛えていた。唇は哀しみに震えていた。しかし、彼女は涙を流すこともなく、笑顔を浮かべていました。
「エナ様。これは本当に祝福なのですか?涙は込み上げてくるものの流れず、意思に反して笑みを浮かべても心は張り裂けたままです。今の私にとって、これはまるで呪いのようです」
「いいの、今はそう思ってもいずれわかります」
エナ様は優しいで、声音労わるように言った。
「笑顔は幸福への道なのです。今は辛くとも、無理にでも笑顔を浮かべ、日々を生きていけばやがて本当の幸福を取り戻せる日が来るのですよ」
「そうは思えないのですが・・・」
エナ様は笑みを浮かべ、エルナを抱擁すると、立ち去った。笑顔を固定されてしまったエルナは、娘のために泣くことができなくなり、しばらくはエナ様を恨んでいた。しかし、やがてその瞳から嘆きの色は薄れていき、張り付いたような笑顔もぎこちなさをなくしていった。
エルナは夫と共にさらに子供を作り、孫に囲まれて天寿を全うした。その死に顔には、真なる笑顔が浮かんでいました。
「なんなんですかそれ!私、そんなことしてません!」
「本当ですか、エナ様」
「確かにエルナを慰めはしました。ですが、それは無理矢理涙を奪って笑顔を強制するなんて蛮行ではありません!そんなのをするのは過激派のデルエラ姉様ぐらいです。私がしたのは、彼女に、娘さんのような事故を無くすためにも、落盤予防について学び、研究することを薦めるように言っただけです。
そこから研究に集中することで娘さんの死を最終的に受け入れ、新たに子供を作れるまで立ち直ったのは、彼女自身の強さと、学問の力です」
「そ……そんな、馬鹿な……」
「彼女が呪いだって思って当然ですよ!無理矢理笑顔にしたところで、悲しみを癒すことは決してできませんし。幸せとは、笑顔とは、物事を学び、考え、創意工夫することで生まれるのです。
自ら学び、考え、幸せを掴み、そして笑顔になるのです。逆では決してありえません」
「なんていうこと……婆様の、婆様の婆様の婆様の婆様の婆様の婆様の婆様の婆様の婆様の代から伝わってたこの話が、間違っていたなんて……」
「私、流石にそこまで古いリリムじゃないです!」
「エナ様、お願いします。貴女の正しい説話と穏健派の考えをお教え願えますか」
「いいでしょう。学びとは喜びで、喜びはみんなの笑顔に通じます。よく学ぶのですよ」
エナの正しい伝承がこの地下都市に広まったのは数ヶ月後のことの話となる。
20/06/25 10:59更新 / 荒廃の魔王アゼル=イヴリスの友人の魔剣バハムート継承者