連載小説
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後編
 何日にもわたる王子様の婚礼の儀が終わった頃、街では奇妙な噂が流れていました。なんでもガラスで出来た靴を持った旅人が舞踏会に呼ばれた家々を回り、その靴にぴったり合う足の持ち主と結婚したいと言っているというのです。
「何それ。そんな怪しい奴がやってきたところで、試す以前に追い返して終わりでしょ普通」
 妹から噂の話を聞いた上の継姉はこう答えましたが、下の継姉は首を横に降りました。
「それがね、その旅人ってのが実はここから山をいくつも超えたところにある広い領地を治めている、伯爵家のご令息らしいのよ。社会勉強のために従者も付けずにこの辺りの国々を回っているとかで、腕っぷしも強いらしくてね。この国の国境近くの山で山賊に襲われたらしいけど、剣1本だけでまとめて返り討ちにしちゃったんですって」
「ほんと? 相当な優良物件じゃない」
 舞踏会では結婚相手を見つける事ができなかった継姉達ですが、もしそのご令息と結婚できれば将来の伯爵夫人。それも夫は剣術の達人かつ優秀な冒険者で武勇伝付きとなれば社交界でも大きな顔ができそうです。
「何としてもガラスの靴とやらにこの足をねじ込むしかないわね!」
 色めき立つ継姉達とは裏腹に、その噂話に聞き耳を立てていた灰かぶりは真っ青な顔をしていました。彼だけは「ガラスの靴」という言葉の意味を知っているからです。伯爵令息だとかいうその旅人は、舞踏会の初日に王子様の前に現れた謎のお姫様が、翌日に現れて王子様と結婚した人物とは別人だと恐らく気づいているのだという事に。

 それから更に数日が経ち、ついに灰かぶりの家であるお屋敷にも噂の旅人がやってきました。旅人は夜会に出るようなタキシードの上に旅行用のマントと帽子を身に着け、腰にサーベルを下げています。継母や継姉達が見た印象ではどれも見るからに仕立てのいいものを身体の一部のように見事に着こなしており、彼女達も確かにこの人は伯爵のご令息に違いないと一目で納得してしまいました。何より盗賊団を単身で返り討ちにしたという噂から山のようにごつごつした大男を想像していた継姉達にとっては、このご令息が中性的とも言える線の細い顔をした、優男然とした人物である事も嬉しい誤算でした。
 灰かぶりが廊下からこっそり様子を伺う中、応接間では早速ご令息が持ってきたガラスの靴が置かれ、まず上の継姉が足を通そうとします。足はそのまま靴の中にすっぽり収まるかに見えましたが、まるで靴が足を拒んでいるかのようにかかとが引っ掛かってしまいました。
「次は私ね」
 落胆する上の継姉とは裏腹に、今度は下の継姉が靴に足を通そうとスカートの裾を持ち上げます。しかしその時、継母が待ったをかけました。彼女は灰かぶりが様子を伺っている廊下に下の実娘を連れ出すと、台所に行って何かを取ってきました。それは、灰かぶりの父親が商人の仕事で霧の大陸から運んできた、大きくて分厚い包丁でした。
「お母様、それで何をなさるの?」
「あんたの足の先を削るのよ。見たところあんたの足はお姉ちゃんよりかかとが小さいけど、その代わりにつま先が大きいみたいだからね」
 その言葉に下の継姉はたちまち真っ青になりました。
「何を言っているんです。冗談でしょう?」
「冗談でこういう事言うもんですか。この機会を逃したら、次にいつ条件の良い結婚話のチャンスが舞い込んでくるかわからないのよ」
 継母は完全に目が座っています。継姉は慌てて逃げようとしましたが、その前に足を掴まれてその場に尻もちをついてしまいました。
「お母様、どうか考え直してください。そもそも、あの靴は透明なガラスで出来ているんですのよ。血まみれの足で履いたりしたらすぐに気づかれてしまいますわ(編注:これは内容の似通った別の類話が混同されたことによる齟齬と考えられています)」
 継姉は涙目になりながら訴えますが、継母は聞く耳を持ちません。
「とにかく履いて見せれば後はどうとでも言いくるめられるわ」
 継母は左手で継姉の足を床に押さえつけたまま、右手に握った包丁を振り上げます。そしてそれが降ろされるかに見えたその時、継母の後ろから彼女の右手を掴む者がありました。灰かぶりです。
「この。何をする」
「お姉さま、逃げてっ!」
 灰かぶりの叫び声と同時に、彼に気を取られた継母の力が緩み、継姉はするりと逃げ出してしまいました。怒った継母は彼女の右手からまだ包丁を取り上げようとしている灰かぶりの鼻に思いっ切り肘打ちを食らわせます。そして痛そうに両手で鼻を抑える灰かぶりの頬をはたき、継母は叫びました。
「あんたは何も解っていない! この国でも私達が元居た国でも、女がいい暮らしをするには条件の良い男と結婚するしかないんだ。男達のお眼鏡に叶うような女か、そして父親や夫や息子がどんな男か。私達女はそれだけで評価されるんだよ。例え太くて丈夫な足があったとしてもね、独り身の女には好きなところに歩いていくような自由なんて誰も認めてくれやしない」
 継母の声は次第に怒声から涙声へと変わっていき、包丁を持った手を下ろしてそのまま泣き出してしまいました。
「私はね、夫が亡くなってあの娘達と3人だけで放り出されて、それを嫌って程思い知らされたのよ。だから娘には同じ苦労をさせたくないって頑張って考えたのに」
――王子様の血を引いた力強い男の子を産むことこそ、王女の役目だものね。
――私もこの草花と同じなのです。人間にとって美しく見えるようにするために掛け合わされ、切り刻まれ、限られた庭園の中でだけ咲き誇ることを許される。
 継母の言葉を聞いた灰かぶりの脳裏に、継姉や舞踏会で会った王子様の言葉が過りました。灰かぶりはバフォ様の言葉を思い出します。
――その靴はまだおぬしに何かを為そうとしておるのかもしれん。
 ガラスの靴はこの事を僕に伝えようとしたのだろうか。灰かぶりがそこまで思いを巡らせた時、応接間の扉が大きな音を立てて勢いよく開きました。
「ただ事じゃない物音が聞こえたぞ。何があったんだ。なぜそんな物を持っている」
 包丁をご令息に見つかってしまっては、継母にはこれ以上誤魔化しようがありませんでした。

 その後、一応下の継姉もガラスの靴に合うかどうか確かめてみましたが、継母の予想通りつま先が引っ掛かってしまいました。これでご令息は帰ってしまうかに思われましたが、ご令息は灰かぶりに目を留めました。
「彼は?」
 上の継姉が答えます。
「こいつはこの家の小間使いです。どんくさくていつも灰だらけになっている奴でして」
 継姉は灰かぶりが余計な事を言わないように目で制します。ご令息はそれに気づかぬ様子で、灰かぶりにこう言いました。
「ふむ。じゃあ一応君もこの靴に合うかどうか試してみないか」
「本気ですか? こんなのに触らせたらせっかくの美しい靴が台無しになってしまいます。それに、確かにこいつはチビでなよなよしていてまあ女の子に見えなくもない顔していますが、これでも男ですよ。大体、さっきご令息様も『彼』と仰ったじゃないですか」
「物は試しって奴だ。見たところ彼も君たちとそんなに体格は変わらないみたいだしね。そもそも、この靴に合う相手と結婚したいという事自体僕が勝手に言っている我儘なんだし、もし彼に靴が合うならどうするかはその時考えるさ」
 ご令息の言葉に上の継姉がまだ何か言おうとしたとき、別の人物が消えそうなか細い声で口を挟みました。
「私も……履いてみるくらいならやってみてもいいと思う」
 それは、さっき灰かぶりに助けられた下の継姉でした。早速ご令息は灰かぶりを椅子に座らせ、その前にガラスの靴を置いたので灰かぶりは渋々と自分の足を差し出します。ご令息が彼の足にガラスの靴を宛がうと、靴は彼の足にぴったりと合いました。
 その時、応接室の扉が再び勢いよく開き、バフォ様と魔女のお姉ちゃんが入ってきました。
「お取込み中の所失礼するぞ。おぬしが探しておるガラスの靴の君というのは、この姫君ではないかね?」
 バフォ様の言葉と同時に、魔女のお姉ちゃんが杖で灰かぶりを軽く叩きます。すると、彼の服装や髪があっという間に舞踏会の時のそれに早変わりしました。何も知らない継姉達はあっけにとられます。
「嘘! どうしてあんたがあのお姫様ってことになるのよ。だって、あの人はこの前確かに王子様と結婚して、豪華な式を挙げて……」
 その時、灰かぶりとご令息の顔を互いに見比べた下の継姉が何かに気づきました。
「思い出した! この人2日目の舞踏会で、例のお姫様を王子様の所に連れてきた人だわ」
 しかし、ご令息はそんな継姉達の反応とは裏腹に、むしろこの事態も予測していたような顔で灰かぶりの前に跪き、彼の手にそっとキスをしてこう言いました。
「やっと見つけた。ずっと貴方を探していたんだ。その……そういえば貴方の名前を聞いていなかったな」
「彼は灰か――」
「エラです」
 上の継姉が「灰かぶり」の名前を言おうとしましたが、魔女のお姉ちゃんがそれを遮りました。
「彼はエラです。灰かぶりなんかじゃありません」
 念を押すようにもう1度言います。そして今度は魔女のお姉ちゃんが、上の継姉に余計な事を言わないようにと目で制します。
「エラか。良い名前だ。では、エラ。どうか僕と結婚していただけないだろうか」
「ちょっと待ってください。何度も言いますけど、こいつは男ですよ?」
 すると、バフォ様が笑いをこらえきれないといった様子でクスクスと笑い始めました。
「こやつが男であるというのはおぬしにとっては別に問題ではないのではないかね。むしろ好都合、と言った方がいいかもしれん。のう、『お嬢さん』」
 その言葉に、ご令息はやれやれといった様子で首を横に振ります。
「やはりバフォメットの目は誤魔化せなかったか」
 そして、マントとタキシードの上着を脱ぎ、その下のシャツのボタンを外してはだけて見せました。バフォ様以外の一同は思わず「あっ」と驚きの声を上げます。布できつく締め付けられてはいましたが、男性の胸筋とは明らかに異なる膨らみがそこにあったのです。
「騙すような真似をしてすまない。女だけでの一人旅となると、どうしても変な奴が絡んできたりして面倒な事になったりするからね。こうして男のふりをする必要があったんだ」
「じゃあ、伯爵令息だって言うのは……?」
「伯爵の子供というのは本当さ。伯爵と言っても僕の母は人間じゃなくて魔物娘の貴族ヴァンパイアで、僕はヴァンパイアと人間の間に生まれたダンピールだけどね」
「ちょっと待ちなさい。じゃあ、最初から探している相手が本当は男だって知りながら、それを黙って私達に靴が合うか試していたって言うの?」
「そうよ。私なんて、そのせいで危うく足を切られる所だったのよ」
「それは本当にすまないと思ってる。舞踏会から慌てて出て行った様子を見ると、女装した男だって知られたくないみたいだったからね。こっちも『王子様の舞踏会に女性のふりをして参加した男性はあなたですか』って馬鹿正直に言うわけにもいかなくて困っていたんだ」
 すると、今度は魔女のお姉ちゃんが口を挟みました。
「え? それじゃあ舞踏会の時に気づいていたんですか? あの舞踏会にエラが着ていったドレスはバフォ様の魔法で精の匂いを遮断するようになっていましたし、実際誰も気づいた様子はありませんでしたのに」
「僕も最初は気づかなかったし、気づいたときは驚いたよ。さっきも言ったように、僕には半分吸血鬼の血が流れていてね。彼とぶつかった時、強い精を含んだ血の匂いを感じたんだ」
 灰かぶりはそれを聞いて、このご令息、ではなくダンピールのご令嬢を前に見たことを思い出しました。その時、少し前に転んだ時の怪我で膝から少し血が出ていたことも。
「もしかして、お城から出ていく時にぶつかった方ですか」
 ダンピールは首を縦に振って言いました。
「あの時から、ずっと君の事が気になっていた。僕の夫になってほしいと思うくらいに」
「でも、僕は話をお受けする以前に貴女について何も存じ上げておりません」
 灰かぶりは舞踏会で王子様に求婚された時と同じ言葉を口にします。でも、それに対する返事は違っていました。
「僕もさ。だからこそ君の事をもっと知りたいし、僕の事も知ってほしいんだ」
 そう言って灰かぶりを見つめる情熱的なまなざしに、彼は恋する乙女のように顔を真っ赤にしながら、気づけば首を縦に振っていました。灰かぶりがそれを認識したのは、自分とダンピールの唇が1つに重なった時でした。

 それから、2人はぴったりくっついて離れなくなったかのように、しばらくの間夢中でキスをしていました。バフォ様と魔女のお姉ちゃんは嬉しそうに、継姉達と離れた所で椅子に座って項垂れていた継母は理解が追い付かない様子でそれを見ています。
 そして、2人がようやく顔を離した時、バフォ様はダンピールに向かって言いました。
「お嬢さんや、エラがおぬしの探していた姫君だという証拠を一応確認しておいた方がいいんじゃないかね? エラ、わしの言った通りもう片方のガラスの靴をちゃんと持っておるじゃろうな。他の者に見つからない場所と言うと、大方屋根裏部屋にでも隠しておるんじゃないか? おぬしの"寝室"に」
 寝室、という部分を明らかに強調した言い方に、ダンピールの目の色が変わりました。
「なるほど。それはちゃんと確認しておかなければならないな。場合によっては何時間もかけてじっくり。エラ、君の寝室まで案内してくれ」
 ダンピールはエラをお姫様抱っこで持ち上げると、颯爽とした足取りで彼を大広間から運び出していきました。




「なんてひどい。あの人達は君をこんな所で寝かせていたというのか」
 ダンピールに抱えられて屋根裏部屋まで運ばれた灰かぶりは、ベッド代わりの藁の下に隠していたもう片方の靴を取り出し、両方そろったガラスの靴を履いて見せましたが、ダンピールはそちらよりも藁の方に注目しました。
「僕の父も僕が小さい頃は母から使用人扱いされていたけどね、寝室はもっとまともな部屋を与えられていたよ。もっとも、母は自分の気持ちに素直になる前も、なんだかんだ理由を付けて父を自分の部屋で添い寝させることも多かったけどね。とにかく、これでは僕の夫にふさわしい寝具とは言えないな」
 そう言うと、ダンピールは手袋を外し、指をパチンと鳴らしました。すると、藁の山が天蓋付きの立派なベッドに早変わりします。部屋の中にずっと吹き付けていた隙間風や、階下でようやく事態を理解した継母や継姉達が騒ぐ声もぴたりと止みました。
「この部屋に結界を張ったから、これで余計な邪魔が入る心配は無いはずだ」
 そして、ダンピールは灰かぶりをそっとベッドの上に押し倒し、ガラスの靴を脱がせました。それから灰かぶりのドレスのスカートの裾を持ち上げ、その中に頭を潜り込ませていきます。舞踏会の日にバフォ様が魔法で変えたドレスには下にパニエが付いていたのですが、さっき魔女のお姉ちゃんが魔法で変えたドレスにはこの時の事を考えてかそれが付いていませんでした。
「ちょっと腰を上げてくれないか」
 灰かぶりが言われたとおりにすると、ダンピールはするりと彼の下着を取り去ってしまいました。それから灰かぶりは自分のおちんちんが暖かくてぬるぬるした感覚に包まれるのを感じます。ドレスのスカートに隠れてよく見えませんでしたが、ダンピールが彼のおちんちんを咥えていることは明らかでした。それに気づいた灰かぶりのおちんちんがむくむくと起き上がると、ダンピールもそれに応えるように右手でおちんちんを支えて頭を速く動かします。左手では震えながら自分のタキシードのズボンのベルトを外した後ズボンの内側に手を入れ、中からくちゅくちゅと淫らな水音を立て始めました。
「あっ。出そう」
 彼が射精感を覚え、か細い声で呟きながら足をもじもじさせ始めると、ダンピールはそれを見計らったかのように口を離し、膝立ちになりました。
「お互い準備は万端みたいだね。さっそく本番に入ろうか」
 そう言って彼女はズボンを一気に下ろし、片足を外してしまいます。その下からは湿った熱気とともにぬるぬるとした液体を滴らせるおマンコが露わになりました。
「あれ? 下着穿いてない……?」
 灰かぶりが指摘すると、ダンピールは淫靡な笑みを浮かべながら答えます。
「淫らに、貪欲に、いつでも夫と交われるように。魔物娘の社交界ではそれが最も大事な淑女のマナーなのさ」
 そして彼女は灰かぶりのドレスのスカートを捲り、彼の上に跨って自分のおマンコを彼のおちんちんに宛がいましたが、その時灰かぶりが上半身を起こし、彼女を制止しました。
「あの、本当に僕でよろしいのでしょうか。僕は背が小さいしお母さまやお姉さまからはなよなよしていて男らしくないといつも言われます。それに、たぶん小さいのは身長だけじゃなくて……」
 すると、ダンピールはこれから自分の体内に迎え入れようとしているモノをちらりと見て答えました。
「僕は他の男のモノと言ったら父が母と仲良くしているときのくらいしか見たことないが、確かに父が人間だったころのそれよりも小さいかもしれないな。でも心配する事はないさ。インキュバスになったら大きさも精を生み出す力も大きくなるはずだ。人間の頃の大小に気をもんでいた事が馬鹿らしくなるくらいにね。それに……んっ」
 彼女は一気に腰を落としました。灰かぶりは自分のおちんちんの先が何かを突き破るような感触を覚えます。同時に激しい快感が彼を襲い、思わず大きな喘ぎ声を上げてしまいました。
「ほら。解るかい? 相手が処女のまだ広がっていないおマンコでも、んっ、大きな負担をかけないように、してくれる、優しいおちんちんだ」
 それから、一旦腰の動きを止めて話を続けます。
「僕たちダンピールはね、魔物娘の中でも人間に近い考え方で物を考えると言われている種族なんだ。他の同族の娘はどうか知らないけど、僕はこうやって強がってはいても、いざ好きな男に初めてを捧げるとなると正直緊張するし不安を覚えたりもしているんだよ。もしひたすら痛いだけだったらどうしよう、もし君を気持ちよくできなかったらどうしようってね」
 しかし、やっぱり我慢できないというようにダンピールの腰が上下にじわじわと動き始めます。
「でも、んっ、やっぱり、1番大事な事は、そこじゃ、ないな。もし君より魅力的なモノを持った男が、目の前に、現れても、あっ、それが、エラじゃないなら、意味がない。僕は君と繋がりたい。君じゃなきゃ、んっ、嫌なんだ」
 ダンピールは灰かぶりの両肩を掴み、彼をベッドに押さえつけると、ますます速く腰を動かし始めました。言葉でも体でも一途に自分を求めてくる彼女の姿に、灰かぶりの心臓も高鳴り、おちんちんがますますダンピールのおマンコの中を押し開こうとしていきます。
「不思議な、気分だ。まるで僕が男の人になって、美しいお姫様を、んっ、犯しているみたいにぃっ、見えるのに、僕のお腹の中は、全く逆の事を言っているんだ。このおチンポを離したくない、このオスの精子が欲しいって。とても不思議で、とても、興奮する」
 その言葉を裏付けるかのように、ダンピールのおマンコの内側が灰かぶりのおちんちんに絡みつき、精液を搾り出そうとするかのような動きをします。ダンピールは灰かぶりの首筋に顔を近づけると、そこに犬歯を突き立て、傷口から零れ出す血を啜り始めました。不思議と痛みはなく、噛みつかれた部分からじんじんと心地よい痺れが灰かぶりの身体中に広がっていきます。それに反応するように心臓がどくんと高鳴ったかと思うと、おちんちんがますます固くなっていきました。灰かぶりのお尻や脚の筋肉がこわ張り、足の指先がぎゅっと丸まり、おちんちんがビクビクと震えます。
「今度こそ、出ます」
 彼の言葉に、ダンピールが腰を密着させ、首筋に吸いつく力を強めた時。おちんちんから勢いよくドロドロした精液が吹き出し、彼の首筋に密着したダンピールの口から「んっ」と嬉しそうな呻き声が漏れ、おマンコの内側が強く収縮しました。それから彼女はようやく口を離して上半身を起き上がらせ、お腹をさすりながら呆然とした顔で言いました。
「すごい。君のおちんちん、正直子宮まで全然届いていなかったんだけど、それでもお腹の奥まで満たされるくらいに濃厚な精液が勢いよく飛び出してきたよ」

 それから、2人は互いの位置を入れ替え、今度はダンピールの方がベッドの上に座りました。灰かぶりに見せつける形で自分の両足を大きく広げ、おマンコに両手を添えて広げます。そこは既にいろんな体液にまみれてドロドロになっており、広げた時にくぱぁ、という音が灰かぶりの耳に届いたような気がしました。
「エラ。さっき僕が君にさせたことを、今度は君の方からしてくれないか。さっきのだと僕が君を一方的に襲っているだけ、勝手に君の子供を孕もうとしているだけだ。もし君も僕を好きになってくれたなら、それを行動で示してほしいんだ」
 ダンピールの手の中で彼女のおマンコが震え、愛液と血液と精液が混ざった液体がどろりと流れ出してきました。それは灰かぶりの視覚と嗅覚を刺激し、彼の体についさっき刻まれたダンピールの魔性の快楽をまざまざと思い出させます。
「……できれば早くしてもらえないか。さっきあまりにもおいしい血を飲んでしまって、さらにはもっと濃厚な子種で種付けされて、僕の魔物としての部分が抑えきれなくなってきているんだ。このままじゃ、また君を押さえつけて無理やり犯してしまう」
 灰かぶりのおちんちんも再びはち切れそうなほどに頭を持ち上げており、もはや選択肢はありませんでした。彼は自分の両手でスカートの裾を捲り上げると、その下から出てきたものをダンピールが求める場所へと近づけていきます。しかし、そこで問題が起きました。灰かぶりからは彼自身が持ち上げているスカートの裾で互いの下腹部が見えなくなり、両手もふさがっているのでどう動いたらいいのか解らなくなったのです。
 その時、ダンピールがかすかに微笑み、片手で灰かぶりのおちんちんをそっと摘んで入るべき場所に導きました。結婚式のケーキ入刀のようにおちんちんの先がゆっくりと、しかし確実におマンコの中へと沈んでいきます。そこから、灰かぶりは一気におちんちんを根元まで押し込みました。
「うあああっ!」
 ダンピールは思わず大きな叫び声をあげます。しかし、その声は苦痛ではなく歓喜の色に染まっていました。灰かぶりはダンピールとの交わりの快楽や彼女の吸血によって注がれた魔力により極限にまで引き出された本能的欲求に従い、文字通り精いっぱいの力で腰を動かしていきます。もはや2人とも言葉を発する余裕さえなく、ひたすらに愛しい者の体を求め合って互いに悦びの咆哮を上げるつがいの獣になっていました。ダンピールは灰かぶりのおちんちんが抜けないように手足を彼の体に絡め、灰かぶりは懸命に腰を動かしながらも、喘ぎ声を上げ続ける彼女の口に自らのそれを重ねます。ダンピールの言っていた通り互いの口の中さえも隅々まで知ろうとするかのように、2人の舌や口の粘膜が激しく絡み合っていきました。
 そんな状態で長く我慢できるわけもなく、すぐに灰かぶりの体に限界が訪れました。先ほどよりもさらに多くの精液がおちんちんの中を駆け上がり、彼の子供を欲している場所を満たしていきます。しかし、それでも止まりません。灰かぶりは射精し続けながらも、なおも収まらない衝動に突き動かされて腰を動かし続けます。やがて彼の意識がすべて真っ白な快楽に染まり、そのまま何かがぷつりと途切れました。

 愛しい夫の愛情と性欲と精を全身で感じながら、ダンピールも自分の意識全てが尽きることのない悦びに染まるのを楽しんでいました。しかしその時、急に灰かぶりの動きが止まったかと思うと、彼がダンピールの方へと覆いかぶさるように倒れこんできました。
「……エラ?」
「すぅ……すぅ……」
 見ると、彼は安らかな寝息を立てて眠りこけていました。体に不調が起きたわけではなさそうなので、ダンピールもほっと安心します。
「初めてでいきなり色々やったものだから、体がびっくりしちゃったんだな」
 ダンピールは灰かぶりと繋がった体勢のまま、この愛する夫をそっと抱きしめました。その光景は絵本に出てくる王子様が、愛するお姫様を抱きしめる姿そのものです。少なくとも上半身は。
「舞踏会の時の直感は正しかったよ。今日ほどに魔物娘に生まれてよかったと思った日は無い」
 彼女は自分の子宮が貪欲にも更なる精液を求めて疼き始め、おマンコが咥えたままのおちんちんに早くもおねだりしているのを感じながらも、ゆっくりと目を閉じ、幸せな眠りの中へと落ちていきました。




 灰かぶりとダンピールが屋根裏部屋から降りてきたのは、既にどっぷり日が暮れた後になってからでした。魔法の効果もとっくに切れ、灰かぶりの服は再び灰色のみすぼらしい服に戻っています。2人がお屋敷の玄関ホールに向かうと、そこに継母と継姉達が待っていました。まず最初に下の継姉が灰かぶりの姿に気づき、彼のところに歩み寄ってきました。
「ずっと言いそびれていたけど、さっきは助けてくれてありがとう。そして今までごめんなさい」
 灰かぶりは下の継姉に置き土産としてガラスの靴を握らせると、彼女に優しくこう言いました。
「貴女にも自分の足にぴったり合う『靴』が見つかる事を祈っています。自分の足を包丁で切り落とさなくても履ける靴が」
 そして、上の継姉と継母にはこう言い放ちました。
「僕は今まで貴女達にされた仕打ちを忘れることも許すこともできそうにありません。でも、その事でこれ以上責める気にもなれません。だからこの家にはもう帰ってこない事にします。さようなら」
「彼がこう言っているから今回は追及しない。だが、もしまたおまえ達がエラを酷い目に遭わせようとするようなことがあったら、その時は僕の方がお前たちをワイトやリッチの知り合いに頼んでゾンビにでも変えてもらって、いつまでもこき使ってやるから覚悟しろ」
 もちろん、ダンピールも本当にそんな事をするつもりはないでしょう。しかし、魔物娘だって夫を守るためなら脅しの言葉くらいは使います。実際、そう言い放つ彼女の姿には本当にやりかねないと思わせるだけの凄みがありました。灰かぶりは3人が震え上がるのを見ると、新しい妻の袖を引いて共に玄関ホールを後にします。灰かぶりの脳裏に、継母が娘の足を切ろうとしたときの言葉が過りました。彼は昨日まで継母と継姉達を酷く恐れていましたが、今は彼女達、特に継母はとにかく気の毒な人だとしか思えませんでした。

「さっきは僕1人の判断で勝手にガラスの靴を渡してしまってごめんなさい。貴女も欲しかったかもしれないのに」
「とんでもない。僕は君から最も価値のある物を既に貰っているんだ。他にもプレゼントをくれだなんて、そんな贅沢は言えないよ」
 笑ってそう言いながら、ダンピールは自分のお腹を嬉しそうにさすりました。それを見た灰かぶりの顔は真っ赤になります。
「あ、でもさっき貰ったプレゼントの『おかわり』は何回でも欲しいな。なんだったらこれから街の宿屋に戻った後すぐにでも」
 それから、ダンピールは真剣な顔つきになって言いました。
「それよりこれからの話をしようか。お金だったら心配はいらないよ。盗賊をやっつけた時の報酬で結構な資金があるからね。それに、僕はこの国の王子様からすれば、結婚したいと思っていた正体不明のお姫様を連れてきた恩人だからね。彼に声をかけられたんだよ。『うちの騎士団で剣術の指南役になってくれないか』ってね」
「でも、そのお姫様ってドッペルゲンガーなんですよね? 王子様をペテンにかけたみたいになりませんか」
「人聞きの悪い言い方をしないでくれよ。別に僕の方から対価を要求したわけじゃない。彼らがお似合いの夫婦になると思ったからちょっと手を貸しただけさ。それとも君はやっぱり、王子様と結婚したかったのかい?」
「そうじゃないですけど……」
 王子様と結婚したかったわけではない。灰かぶりは魔女のお姉ちゃんに言ったのと同じことを言っていましたが、その足取りはあの時と比べてとても軽い物でした。彼にはもう、かぼちゃの馬車はありません。青いドレスや、ガラスの靴さえも。あるのは裁縫道具が入った小さなカバンと、灰色のみすぼらしい服と靴と帽子だけです。しかしその靴は、ガラスの靴とは違って履きなれたとても歩きやすく感じるものでした。それにもう1つ。
「明日になったらこれからの新居も探さないといけないね。ちょうど目を付けている物件があるんだよ。大きくて歴史のあるお屋敷なんだけどね、なんでも幽霊が住み着いているとかで、買い手が見つかっても気味悪がってすぐに出ていくらしいんだ。ずいぶんと値が下がっていたよ」
 そう。彼にはダンピールがいます。継母の言う「好きなところに歩いていくような自由」を超常的な力でもぎ取り、実際にいくつもの山を越えてやってきた彼女が。彼女と一緒なら、灰かぶり――いや、エラもどこまでも歩いていけるのではないか。そう思えてきます。
「ゆ、幽霊?」
「何。怖がることはない。僕はアンデッドの貴族からさえも天敵と恐れられるダンピールだ。幽霊屋敷を自分の物にするのにこれほど相応しい種族が他にあるか? それにどんなアンデッドが住んでいたとしても、包丁を持った継母より恐ろしいってことは無いだろう」

 それから、ダンピールはそのままエラの実家の敷地を出ていこうとしましたが、エラはその前に1つだけ持っていきたいものがあると言ってお屋敷の庭に寄らせてもらいました。
 彼が庭の隅にあるハシバミの木の所に向かうと、その傍に人影が1つ立っていました。魔女のお姉ちゃんです。
「もう行っちゃうのね?」
 エラは頷くと、魔女のお姉ちゃんをそっと抱きしめました。その時、1本の枝がエラの帽子に引っ掛かり、それを持ち上げます。彼は名残惜しそうに魔女のお姉ちゃんから体を離すと、帽子を引っ掛けた枝に手を伸ばしました。
「お姉ちゃん。僕、なりたいもの見つけたよ」
「聞いてもいい?」
 エラはハシバミの枝を折り取ると、その先にかかっている帽子を被り直しました。
「僕は『父親』になりたい。それも自分の子供だけでなく、それどころか男も女も人間も魔物も関係なく、『人形』を必要とする子供にはみんなにそれを作ってあげられる。そんなお父さんに」
 そう言うと、彼はハシバミの枝を両手で慈しむようにしっかりと握りしめました。この枝がこれから暮らす新しい家の庭先で、今度は子供の涙ではなく笑い声を受けて大きな木に成長することを祈りながら。




・編者あとがき
 このお話に登場するサバトは先代の魔王様の時代、現在で言う主神教団の拡大に伴って人間社会の中で周縁化されていった他の神や宗教がモデルではないかと言われています。そうした宗教の中には男性が獣の皮を使って女性の扮装をして騒ぐという祭りを行っていた宗教もあり、現在でも主神教団の一部宗派では異性装が固く禁じられています。
 しかし一方で、魔女のお姉ちゃんが「エラ」というあだ名をつけ直すという設定には主神教団において子供に洗礼名を授ける洗礼式や、その洗礼式に立ち会い、子供の親同然の教育者となる相手であるゴッドマザー(代母)のイメージとの類似点も指摘されています。

 また、このお話の元になった「灰かぶり」と呼ばれる民話には、土地や時代によって細部が異なる様々な類話が存在しており、その起源は霧の大陸とも、現在のファラオの元になった人間達が支配していた時代の砂漠地帯とも言われています。
 そうした類話の中には例えば継母や継姉達にきっちり報復をするものや、灰かぶりがサバトの魔物娘達ではなく「母の墓に植えたハシバミの木に集まってきたハーピー」や「継母に没収された人形が変化したリビングドール」あるいは「アンデッドの魔物娘となった実母」といった魔物娘に助けられるもの、ダンピールは登場せずに灰かぶりが魔女のお姉ちゃん(のポジションに相当する魔物娘)と結婚するもの、王子様と結婚してアルプになるものやアルプになるという点は同じでもその後サバトの魔物娘になるもの等もあります。
 更には「働いたら負け」と書いたシャツを着て暖炉の前で寝転がってばかりで灰かぶりと呼ばれていた少女が、彼女の父親の農場を荒らしていた「にょわー」と変わった声でいななくケンタウロスを諫めて友達になり、その友達と協力して王子様が課した嫁探しの試練を乗り越えるという、このお話とはまったく異なる印象を受ける類話も存在します。
17/10/15 01:26更新 / bean
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■作者メッセージ
最初はただ女装男子と男装女子の絡みを書きたかっただけだったのに、気づけば「それ以外」の部分が長くなってしまいました。

今回の話のベースはペロー童話版ですが、グリム童話版(ハシバミの木、豆の選り分けなど)やディスニーのアニメ・実写映画版(母の形見のピンクのドレス、ネズミの友達、庭園など)を意識した要素も入れています。以下に自分でも入れ方が解りにくかったかなと思った小ネタをいくつか書いておきます。

裁縫:この話では灰かぶりの小さい頃からの趣味という事になっていますが、ディスニーのアニメ映画ではネズミ達がシンデレラの母の形見のドレスを手直ししてあげるシーンの歌で「縫うのは女性に任せて」という歌詞があったり、実写映画版では継母から屋根裏部屋を押し付けられるシーンで一緒に裁縫道具を押し付けられていたりしています。今回は男性のシンデレラということで敢えて真逆の立ち位置にしてみました。ついでに書いた後で気づいたけどヴラド3世も裁縫を嗜んでいたらしいので、その点でもダンピールの夫になるフラグだったのかもしれません。

伯爵:ダンピールの母親が女伯爵というのはもちろん1番にはドラキュラを意識しているのですが、シンデレラを元にした実写映画「エバー・アフター」では使用人を救うために貴族に扮していた主人公のダニエル(シンデレラ)が咄嗟に女伯爵を名乗ったり、ディズニーの実写映画版では王子が平民と結婚するのを阻止する見返りとして継母が大公に女伯爵の爵位を要求するシーンがあります。

霧の大陸の包丁:元ネタではシンデレラは継姉達よりも足が小さかったおかげで王子様と結婚できたわけですが、この設定は昔の中国での「纏足」という風習がモチーフになっているという説もあるそうです。

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