強き想いは死を乗り越え…

赤々と燃える城内。

―「仕留め損ねましたね…」―

目の前で崩れ落ちるのは武装した若い女侍。

―「生きて…くだ…さい…」―

次の瞬間、猛り狂う炎が全身を包み込んだ。

「っ…!?」

私はすぐに半身を起こして辺りを見渡した。
だが城内は燃えておらず、武装した若い女侍もいない。

「(夢…か…)」

気付けば毛布を固く握りしめていた。

「(やけに生々しい夢だったな…)」

手の平を見れば異常なまでに手汗をかいていた。

「(それもその筈だ…今の夢は実際、本当に体験したことだ)」

私は布団から出ると護身刀を持って庭園に出た。
夏の虫は鳴りを潜め、秋の虫の鳴き声が庭園から静かに聞こえる。
夜空を見上げれば今宵は月が見えない。
深夜という事もあり、城内は静寂に包まれている。

「む…?」

すると前方に異様な気配を感じた。
その気配は人ではない何か別の気配。
私は護身刀に手をかけて口を開いた。

「そこにいる者、姿を現せ!」

暗闇の中に問いかけたが返答がない。

「返事をせずともいいが私の間合いだぞ?」

すると闇の中から甲冑の音が聞こえた。

「(人の言葉が分かるのか…?)」

暫くして薄ぼんやりとだが輪郭が見えてきた。
まだ暗くてはっきりとわからないが、どうやら若い女性のようだ。

「どうやって、ここへ来た?」
「…」
「もしや、この城に縁《ゆかり》ある者か?」
「…」

しかし、若い女性は答えない。

「では、こんな夜更けに何の用だ?」
「…」
「はぁ…今宵は月の光がない、早々に立ち去れ」

それだけを言い残し、寝所へ戻ろうとした直後の事だった。

「…っ!?」

闇の中に煌めく凶刃が見えた。
私は咄嗟に鞘から刀身を抜き、それを受け止める。

「女…何の真似だ?」
「…」
「どこぞの領主より、派遣された刺客か?」
「…」

だが女性は黙ったまま凶刃を振るう。
暗闇ゆえに私は防戦に徹する。
相手の目的もわからないから迂闊に手を出せない。

「やめろ!そなたと刃を交える理由がない!」

暗闇の中、不気味に響く剣戟の音。

「(この女…)」

防戦で気づいた。
女性は真っ暗な闇の中だというのに的確に凶刃を振ってくる。

「(それにこの太刀筋…まさか!?)」

瞬間、脳裏に過去の記憶が蘇った。










記憶の中、見えたのは城内の庭園。
今の庭園よりも広い庭園だ。
私はその場所を知っている。
否、忘れるはずもない。

「君の剣技はいつ見ても惚れ惚れするよ」

そこでは二十歳前後の女性が刀を構えて鍛練を行なっていた。
美しい容姿、長いまつ毛、黒い瞳、長い黒髪を後ろで束ね、額に鉢巻。
この国には侍道着が男性用と女性用の二着あり、若い娘は女性用を着ている。
故に侍道着を着ているのは珍しい事ではない。

「ありがとうございます」

若い娘は一旦、鍛練を止め、片膝をつき、お辞儀をする。
彼女の家は私の先祖から代々仕える武家の女性で剣術の腕前はかなりある。
幼き頃より、仕えている為、自然と顔見知りになった。
幼馴染のような関係で私の三つ年上の姉みたいな存在でもある。

「けど、あまり無理はしないでくれよ?椿姫」
「心得ております」

それはいつもと変わらない城内での毎日。
だが、そこで事件は起きた。
それは皆が寝静まった深夜の刻。
気配を感じ、目が覚めると何かの焼ける匂いがした。
それは人が焼ける匂いではなく、城が焼ける匂いだった。
不審に思い、外を見ると夜空が赤く燃え、小さな城下町が炎に包まれていた。

「…っ!?」

城下町に視線を移すと多くの民達が逃げ惑っている。

「(一体誰が…?いいや、それよりも!)」

すると武装した女侍の椿姫が現れた。

「ご無事ですか?」
「ああ、すぐに支度する…待っててくれ」
「はっ!」

私は急いで侍道着に着替え、刀を腰に下げる。
何者かの仕業かは分からない。
だが私には民の安全を守る義務がある。

「よし」
「既に火の手は上がっております!」
「分かった、民たちはどうだ?」
「既に事態収集の為、各々侍方も動いております」
「城内に残っている者は?」
「今、確認が取れているのは冬夜様と大殿…わたしの三人です」
「(つまり他の侍たちの安否は分からないと…)」

大殿とは私の父親の事だ。
私は急ぎ、椿姫と一緒に向かおうとした。
だが既に火の手は目の前にまで迫っていた。

「お早くお逃げ下さい!」
「そうはいきません」
「何奴!」

赤い炎の中、一人の男がいた。
椿姫はすぐさま戦闘態勢を取った。

「私は“ある人物”から依頼を受けた者です」
「ある人物?」

そこに佇むは白い戦闘服を着た死神。

「故あって貴方を葬ります」
「葬る?」
「だから悪く思わないでくださいね?如月家次期領主…如月冬夜!!」
「っ!?」
「危ない!冬夜様!」

刀を抜く間もない一瞬の出来事だった。
私を庇うように椿姫は暗殺者に背中を向けて間に入る。

「うぐっ」

胸当てで覆い隠された椿姫の柔肌の胸を貫くは暗殺者の凶刃。

「椿姫ぃいいいいい!!」
「仕留め損ねましたね…」

暗殺者は突き刺した剣を椿姫から抜いた。
炎の中でもはっきりと分かる真っ赤な血が私の顔にかかる。

「冬夜…様…が、ご無事…で…何より…です」

そのまま椿姫は膝から崩れ落ち、覆いかぶさるように倒れこむ。

「運のいいこと…ですが次はしくじりませんよ?」

目の前では椿姫が血を流し、呆然自失の私に暗殺者の刃が迫る。
しかし、痛みはない。

「くっ…」

視線を上げると、そこには満身創痍となった父…如月冬治の姿。

「父上!」
「大丈夫か?」

父は全身血だらけになりながら凶刃を受け止める。

「おや?貴方は確か最初に仕留めたはず…」
「生憎と黄泉にいる我が伴侶に背中を叩かれてな…」

つばぜり合いのまま父は暗殺者をはじき返す。

「あの世から再度、この世へ戻ってきた…というわけだ」
「なるほど…しかし私の役目はここまでです」

男は、そう言うと剣を収めた。

「じきに、ここも炎に包まれる事でしょう…私は一足先に撤収します、それでは…」

すると男は、あっという間に撤退した。

「ごはっ…」
「父上!」

燃え続ける赤い炎の中、父は血を吐くと刀を畳に突き、片膝をついた。
そして致死量の血を流し、畳に伏せる椿姫に声をかけた。

「よく…冬夜を護ってくれた…椿姫殿、感謝する」
「いえ…それがわたしの役目ですから」
「それでも、ありがとう」

次に燃え盛る炎の中、父は私の前に来た。

「冬夜…お前に、この宝刀を授ける」

父は肌身離さず持っていた刀を腰から外し、私に手渡した。

「この宝刀は必ず…お前の助けとなる…」

私はそれを受け取った。

「少し…疲れた…私は…眠ることにしよう…」
「父上…」
「冬夜よ…我等が民の事…頼むぞ…」

父の瞳から徐々に光が失われていき、瞼を閉じた。
その後、父が目を覚ますことは二度となかった。

次に私は椿姫を抱きかかえた。

「わたしは貴方のお役に立てたでしょうか?冬夜様…」
「ああ…ああっ!!だから…だから私の前からいなくならないでくれ!」

椿姫を腕に抱きかかえ、懸命に叫んだ。
しかし彼女の命の燈火は徐々にだが確実に消えていく。

「出会いの…数だけ…別れも…あります…悲しま…ないで…ください」

「貴方に…出会えて…よかった…冬夜…様…」

「わたしの…大切な主…そして…最愛の主…冬夜…様…」

「愛おしい…貴方の…腕の…中で…眠れる…ことを…嬉しく…思います」

「最後の…お願い…聞いて…ください…」

私は椿姫の手を固く握りしめた。

「聞く!聞くから最後っていうな!」

既に血の気はなく冷たくなっている。

「冬夜様…いえ、冬夜…貴方と口づけがしたい」

私は涙を流しながら炎の中、椿姫と口づけを交わす。
彼女もそれに応えるように、まだ動く左手で私の侍道着を掴む。
私はその手を掴み、互いの手と指を絡ませ合う。

「もう…これで…思い残す…ことは…ありません」
「椿姫…椿姫っ!?」
「行って…くだ…さい…冬夜…様…貴方…には…まだ…やることが…残って…いる…のです…から…生きて…くだ…さい…」

翌日、焼け残った城に行き、二人と最後に別れた場所へ向かった。
しかし、そこに彼女の姿はなかった。
父親の遺体は残っていたのだが椿姫の姿だけなかった。
私は城炎上の関係者全員で慰霊碑を作って弔った。
犠牲者は尊敬する父・如月冬治と行方不明の椿姫。
それと城内に残っていた侍方複数だった。





私は頭を押さえた。

「ぐっ」

見れば若い女性の猛攻は止んでいた。

「(い、今のは…あの日の夜の記憶か…?)」

若い女性は暗闇の中、無言で見つめていた。
夜目が効かない為、どういった表情なのか分からない。
けど不思議と、その眼差しは、どこか優しかった。

「(まるで…)」
「冬夜様?」

鈴の音の声にハッと我に返る。
そのまま私は声の方向へ顔を向ける。
そこには忍び装束のくノ一がいた。

「こんな夜更けにどうしましたか?」
「鈴音?」

彼女はくノ一の鈴音。
私より三つ年下で一年前に成人を迎えた。
文字通り、鈴の音のような声をしている容姿の整った娘である。
一年ほど前から護衛や簡単な身の回りの世話等してくれる。
勿論、夜のアレやコレなどは一切頼んでない。
それに朝起きたら体が怠いとかもない。
そのような下心は私にも鈴音にも一切ない。
私が寝ている間、鈴音が何をしているか不明だが。
彼女の本職はあくまでも私の護衛である。

「はい、冬夜様専属のくノ一鈴音です」
「専属って…別に私は君の事そういう風に思ってないよ?」
「似たようなものです」
「まぁいいけど…それより、どうして鈴音がここに?」
「ご様子を窺おうとしたらお姿が見えず、ご心配で辺りを見渡しましたら冬夜様が、こちらの庭園にいらっしゃったのでお声をかけたのです」
「そうだったのか…」
「冬夜様は何故、こちらに?」
「いや、ここに誰かが…」

言いながら視線を戻した。

「あ、あれ?」

だが先程感じた異様な気配は既に消えていた。

「誰もいらっしゃいませんが…」
「い、いや…さっきまで、ここに若い女性が居たんだ」
「若い女性…ですか?」
「ああ」
「どのような背丈や格好でしたか?」
「背丈は私より低かった…女侍のようで甲冑の音が聞こえたな」
「他に特徴はございましたか?」
「剣の腕が確かで…暗闇の中だというのに的確に振っていたな」

鈴音は何か無言で考え込んでいる。
こういう時、変な疑りをかけないから安心する。
どんな時でも私を信頼し、信用してくれるから心強い。

「冬夜様」
「なに?」

鈴音は私をまっすぐ見つめる。

「あの日の夜からどれくらい経ちましたか?」
「一年…だな」
「そうですか…」

再び鈴音は考え込む。
しかし今度はすぐに口を開いた。

「冬夜様、満月の晩はお気を付けてください」
「あ、ああ…」

満月は今夜から一週間後である。

「わたしもできる限り、冬夜様をお守りいたします」
「分かった、お願いする」
「はい、今宵は床についてください」

鈴音の意味深な言葉を頭の片隅に残し、私は再び眠りについた。

あれから一週間が経過した。

「すっかり遅くなってしまったな」

今宵は月明かりの美しい満月の晩。
一週間前の鈴音の言葉が脳裏をかすめる。

―「満月の晩はお気を付けてください」―

ここ一週間、特に変わったことはなかった。
朝晩は肌寒く、晴れた空は高く澄み渡り、風に爽やかさを感じる
夏の高い湿度から解放され、乾燥した空気がジパングを覆う。
稲は黄金色となり、市場には秋の果物が並んでいた。

「(だが用心するに越したことはない)」

道場から城へ続く帰り道。
その道中、前方に異様な気配を感じた。

「(この気配は…っ!?)」

それは一週間前に感じた気配と同じ。
だが以前よりも明らかに強い。
理由は“満月”が関係している。

「(満月は本能や妖力などが非常に高まる…か、全くその通りだな)」

いつでも刀を抜けるように私は臨戦態勢を取る。

「(さて鬼が出るか蛇が出るか、それとも…)」

月明かりに照らされ、その全貌が明らかとなる。
そこには長い黒髪を束ね、鉢巻を巻いた椿姫が生前のまま静かに佇んでいた。

「っ!?」

身を護る防具は生前と異なり、籠手だけ。
胸にサラシを巻き、その中央から血がにじみ出ている。

「そ、そんな…」

また瞳や肌の色からも生気を全く感じられない。
しかし、その瞳には確固たる意志が宿っている。

「冬夜…」
「やめろ…っ!!」
「一年ぶりですね」

その声は生前も聞いていた優しく凛々しい声。

「やめてくれ!彼女は…椿姫は、あの炎の中で亡くなった!」
「わたしは生きております」

しかし今は、その声が逆に恐ろしい。
全身に嫌な汗が流れ、手が震える。
全力で本能が“逃げろ!”と叫んでいる。
だが私の身体は金縛りにあったように動かない。
ゆっくりと近づく椿姫の姿をした亡霊…その時。

「冬夜様!」

凛とした鈴の音のような声と共に金縛りが解けた。
すると椿姫の亡霊と私の間に影が舞い降りた。
その影は闇に溶け込む忍び装束姿をしている。

「鈴音!」
「お下がりください!」
「あ、ああっ…」

私は一歩下がる。

「中々、帰ってこられないので心配いたしました」
「すまない…」
「冬夜様が無事なら何よりです…それよりも」

くノ一の鈴音は椿姫の亡霊を睨み付ける。

「冬夜様を惑わす亡霊よ…退きなさい!」
「誰…?貴女」
「わたしは冬夜様に仕える忍び…名を鈴音!」

鈴音は苦無と小太刀を構えて亡霊と相対する。

「我が主に危害を加えると言うのなら容赦しない!」
「ふふっ」
「何が可笑しいの?」
「だって…ふふっ」

すると椿姫は腰に下げた鞘から刀を抜いた。
抜刀した刃からは異様な妖気が溢れ、妖しい剣光を放つ。
その姿は“決して退かない”という決意の表れ。

「忍び相手に戦うと?」
「ええ、彼に…“冬夜”に仕えるのは、わたしの役目だからよ」
「ならば…鈴音、参ります!!」

女忍と女侍は同時に動いた。
月明かりの中に響く剣戟音。
鈴音は体術を駆使し、素早く身軽な動きで相手を翻弄する。
しかし、一方で椿姫は相手の動きを的確に読み、冷静に戦う。

「(あの鈴音相手に…)」

椿姫は生前の頃から剣術の腕は確かで、それに加えて容姿も美しかった。
日々鍛錬を怠らず、剣士としての力も日に日に高め、磨き続けていた。
結果、類《るい》を見ない剣の腕前となり、隣国中から登用が殺到した。
しかし、椿姫は決して首を縦に振ることはなかった。
それが影響してか今度は、その気高さから婚儀の誘いが複数来た。
あれには当時、私も驚いた。
確かに椿姫は強く美しく、それでいて忠義にも厚い。
故に自分たちの下《もと》に置きたくなる気持ちは分かる。

「その程度で冬夜に仕えているのかしら?」
「無駄口を…」
「叩かせたくなければ、もう少し善処しなさい」
「っ!?」

鈴音の苦無と小太刀を握る手に力が入る。

「挑発に乗るな!鈴音!」

その一瞬で鈴音は冷静さを取り戻した。

「は、はい!」
「冬夜…それは酷くない?」
「な、なんで…」
「あの晩の事…もう忘れたの?」

今度は私に揺さぶりをかけてきた。

「あの日…熱く燃えた夜の事を貴方は忘れてしまったの?」
「やめろ…っ!」

私は耳を塞ぎ、その場にうずくまる。
あの日の夜は決して忘れることはできない。
赤々と燃える城下町、逃げ惑う民。
血を吐き、倒れ伏す満身創痍の父。
無残にも胸を貫かれた椿姫。

「あの時は嬉しかった…やっと貴方と心が通じ合えたから」

あの光景は今でも目を瞑ればたまに蘇る。
いっそのこと全て忘れてしまったほうが、いいのかもしれない。
だけど決して忘れてはならない。
自分の力不足の所為で、あのような結果を招いた。
もっと強ければ、あの事態は避けられたかもしれない。

「けど、もう大丈夫…今度こそ、わたしが貴方を護るから」
「椿姫…」
「亡霊の言葉に耳を貸してはなりません!冬夜様!!」

耳を貸すなと言われても傾けてしまう。
それだけ鈴音と戦っている椿姫は生前とよく似ている。
いや、似ているのではなく“全くの同一人物”なのだ。

「わたしは知っています!冬夜様!!」
「私の何を知っている…?」
「確かに、あの日の出来事は冬夜様の心に深く刻み込まれています」
「ああ…」
「だけど、それを乗り越え、今の冬夜様がいらっしゃいます」
「…」
「負けないでください…過去に縛られないでください!冬夜様のお傍には、あの夜を共に乗り越え、成長した“仲間達”がいます!」
「…っ!?」
「そして思い出してください、冬夜様の父君が貴方に託したことを!!わたしに話してくれたことを!」

―「冬夜よ…我等が民の事…頼むぞ…」―

私は立ち上がる。

「(そうだ…何を恐れている、椿姫だって我等が領地の民…如月家に代々から仕えてきた武家の娘…そして、私の愛した女性なのだから)」

父から託された宝刀を構えた。

「私に斬れるのか…?」
「斬るのではありません、貴方の愛した椿姫様を助けるのです!!」

私は目の前の亡霊…いや、椿姫の身体に憑依した女を見る。
正確には椿姫の握る妖刀から放たれる負の妖気だ。

「椿姫…聞こえるか!椿姫!!」
「『無理よ、この女の肉体は既に我のもの』」

正体を見抜かれた妖刀は椿姫の身体に完全に憑依した。
私は祓魔《ふつま》の宝刀を腰に下げる。
そのままゆっくりと鞘から刀身を抜いた。

「力を貸してくれ…我が宝刀よ」

身の内に流れる“祓魔の血”が躍動する。
それに呼応するように刀身が銀色に煌めく。

「ありがとう」
「『そ、その刀…まさかっ!?』」
「如月家に代々伝わる宝刀『冬幻《とうげん》』」
「『だが斬れるのか?迷いある者がそれを振るえば器となる人間もろとも葬る事になるのだぞ?』」
「知っている…」
「『ならば…』」
「何を焦っている?」
「『小僧が…図に乗るなぁっ!!』」

遂に正体を現した妖刀の亡霊が肉薄する。

「椿姫、必ず助けるから待っていてくれ!!」

斬りかかる寸前、亡霊は一瞬だけ動きを止めたような気がした。
だが動きが止まろうが、そんなことは関係ない。
今、やらなければならない事はただ一つ。
亡霊から椿姫を助けることだけだ。

「如月流・祓魔の閃『氷解』」

次の瞬間、椿姫の肉体から亡霊が分離した。

「鈴音!」
「承知!」

鈴音は倒れこむ椿姫を支える。

「如月流・祓魔の閃『残雪』」

同時に亡霊を祓魔の宝刀で斬り裂いた。

「憐れな魂よ…輪廻の輪に還りたまえ」

次に光の粒子となって消えた亡霊に鎮魂の祝詞を捧げた。

「安らかなれ…御魂よ、次に生まれ変わりし時は共に酒を飲み交わそう」

そのまま刀身を鞘に戻した。
一瞬の静寂。

「冬夜様!」

すぐさま鈴音に駆け寄り、しゃがみ込むと椿姫を抱きかかえる。

「お見事でした」
「鈴音のお蔭でもある」
「いえ、椿姫様を助けたのは冬夜様です」
「ありがとう…それでどうだ?」
「恐らく椿姫様は“落武者”と思われます」
「落武者?」
「はい、武士や侍と呼ばれる戦士の屍に妖力が宿り、蘇ったものです」
「ふむ」
「彼女達はアンデッドでありながら瞳には確固たる“意志”が宿っており、ある者はかつての主君に再び仕えるべく生前居た場所へと戻り、ある者は新たな主君を求めて彷徨い歩き、そこで見つけた人間の男性の忠実な僕《しもべ》となるのです」
「つまり椿姫の場合は炎の中、何らかの理由で目覚めたということか?」
「想いが強いほど、もう一度想い人に逢いたいと思うのは必然です…それに妖力が呼応して椿姫様が蘇ったのです」
「そうか…」
「冬夜様は椿姫様に愛されていたのですね」

私の腕で瞳を瞑り、抱きかかえられている椿姫をみた。
本来、死者の身体は冷たいはずなのだが、そんな事はない。
仄かに温もりを感じる。

「ん…」

ゆっくりと椿姫が瞳を開けた。
かつては黒曜石のように美しかった瞳が今は琥珀色。
だが不思議と違和感はない。

「冬…夜?」

その口から本当の意味で懐かしさを感じた。

「椿姫」
「本当に…冬夜なの?」
「そうだよ」
「冬夜…冬夜、逢いたかった」

椿姫が侍道着にしがみつく。
もう決して離さないという強い想いが伝わってきた。

「こんな姿になってしまったけど愛してくれる?」
「関係ない、どんな姿でも私にとって椿姫は大切な人だ」
「嬉しい」
「死がふたりを分かつまで絶対に離さない」

私は鈴音が控えている事も忘れ、椿姫に誓いの口づけをした。
椿姫も、それに応えるように受け入れてくれた。
互いに何度も口づけを交わし、存在を確かめ合う。
一年という歳月の溝を埋め合わせるかのように。
暫くしてためらいがちな鈴の音が聞こえた。

「お愉しみ中、大変恐縮なのですが冬夜様、我が術式を用いて寝所に防音の術式を構築いたしますので続きはお城の寝所で行なってくださいませ…」

その声で我に返った。
考えてみれば、この場所は道のど真ん中だ。
既に皆は寝ていると思われるが夜だから響く。
夜の営み真っ最中の領民夫婦もいる事だ。

「そ、そうだな」
「そ、そうね」

私は椿姫を起き上がらせた。
そのまま互いに手と手を絡ませ合い城へ戻った。





寝所。
月明かりの下。
わたしは布団の上で仰向けに寝そべる。
美しく引き締まったわたしの身体を見て冬夜がほめてくれた。

「綺麗だ」
「ありがとう」

既に寝所はわたしの愛液と冬夜の汗とが入り混じった空間になっている。
冬夜のペニスの先っぽが飲み込まれ、わたしの乙女に当たって止まる。
処女膜がピンと張ってピリピリする。
冬夜は何度か先っぽで突っついて感触を確かめる。

「いくよ?」

涙がぽろっとこぼれた。
嬉しいような悲しいような変な感じ。

「来て…冬夜」

冬夜はゆっくりと腰を突き出す。
ずちゅっと音を立て、ペニスが膣口をくぐる。

「(わたしの処女…ずっと守ってきた純潔、冬夜に捧げます)」

そして粘膜の裂ける音が小さく鳴った。
薄膜が裂ける……死者でも、それだけは痛いと思う。
けど……私……。
気づけば処女膜が裂ける刺激に甘い声を上げていた。

「あっ!あんっ!ああっ!」

熱い塊が敏感な女の門を潜り抜け、奥に入ってくる。
生前の一族の頃、よく刺されるとか貫かれるとか表現されていたから殿方とつながるのは、つらいものだと思っていた。
けど実際の結合は熱くて、甘くて、痺れるみたいだった。

「うぁっ(破れた処女膜が先に食いついてくる)」

冬夜がうっとりとした顔をしてくれている。
わたしの身体で気持ち良くなってる……その事実が嬉しかった。
ペニスは中ほどまでわたしの身体の中に入っていた。
ちょうど破れた処女膜がペニスの頭の一番太い部分に引っかかる。

「痛くないか?」
「痛い……痛い……けど」
「けどなに?」
「痛いけど気持ち良い」

わたしは正直に言った。
裂けた処女膜は本当に痛い、けど不思議……痛いのが気持ち良い。

「痛くても気持ち良いっておかしい?」
「そんなことないさ、感度がいいってことだと思う」

冬夜が褒めてくれた。

「冬夜も上手…気持ち良い」
「その……あ、ありがとう」

甘いキスをもう一度した。
切なくて胸が苦しい。

「もう少しで一番奥まで入るから、もう少し頑張れる?」

わたしが頷くと、ゆっくりとペニスが奥に入ってくる。
まだ破れかけの処女膜がペニスの先っぽに引っかかって奥まで入ってくる。

「あぁぁぁ……くっ……うぅ……あぁぁぁぁん」

ペニスがめり込み、わたしの女性の最後の叫びが響く。

「(ああ……ついに処女膜が……完全に破れた)」

先ほどまで痺れるように痛かった。
けど先っぽが膣道を潜り抜けて完全に破れると痛みは嘘のように消えた。
破れる瞬間が痛くて、それを過ぎると痛くなくなった。
熱いペニスの先っぽは、そのままわたしの一番奥までやってきた。
固い頭が子宮にコツンと口づけをした。

「ああぁぁ……あっ!奥まで、奥まで来たぁ……子宮まで来た」

目から涙が出た。
嬉しいような切ないような不思議な感じ。
冬夜がわたしの涙を舐めて、そのまま口づけをしてくれた。
わたしはむしゃぶりつくように応え、しばらく抱き合った。
その間、冬夜は小刻みに腰を動かしている。
子宮の奥へ突き込んで来たり、腰を回転させて掻き混ぜるように動かす。
右へ左へ降るようにペニスを動かしたり、膀胱を押し上げる。
最初は優しくしてくれてるのかと思ったけどこれは違う。
徐々に冬夜が何をしているのか分かってきた。
強張ったわたしの処女膜の筋肉を柔らかくしてる。

「あっ……ああ……あんっ……ああっ……ああぁぁ」

わたしは短く甘い声を上げた。
強張った膣の筋肉をほぐしてくれる感触は甘く痛い。
最初は異物感がすごかった。
けど中の筋肉が徐々に柔らかくなっていくのがわかる。

「(ああ……わたし……女になったのね……冬夜の手で)」

わたしはペニスを抵抗なく受け入れていた。
小さく閉じていた膣道は、すっかり冬夜のペニスの形に変形していた。

「(生前の頃から鍛錬を欠かさずにいたから鍛えられたのかもしれない)」

冬夜は少し早めに腰を振り始めた。
柔らかい粘膜の擦れ合う音と熱い肌の衝突音が鳴る。

「あんっ……ああっ……あぁぁっ……」

ホトから愛液が洪水のように流れる。

「(初めて……なのに……わたし……感じてる)」

姫鳴りの音が恥ずかしいくらいに鳴く。

「(きっと……相手が……冬夜……だから)」

粘りつくような音。
膣の粘膜が擦られるごとに甘い快感が走る。
熱くて固い先っぽが子宮に、ぶつかる度に天地がひっくり返るような感じ。

「ああっ……子宮……ゴッツン……ダメぇ……あぁぁぁっ!!」

わたしがダメというと冬夜は更に強く子宮を叩いてきた。

「うっ!うぅ……ぐぅっ!あぁぁっ!!ぐううぅぅ!うぐぅ!ああっ!うぐぅぅ!!」

子宮が突かれる度、お腹の中の横隔膜がびっくりしてせり上がる。
お腹の中が掻き混ぜられるような凄い刺激。
身体が貫かれるごとに徐々に高まってくるのが分かる。
絶頂の気配が濃くなって登り詰めるような逆に落下するような感じがする。

「う……っ……」

冬夜は苦しそうにうめいた。
同時にわたしの中に突き込んでくる速度が段々、早くなる。
肉と肉が衝突し、汗と愛液が飛び散り、甘いような甘酸っぱいような香りをまき散らす。

「あっ!あぁぁっ!くうっ!ああっ!ああんっ」
「ぐっ!うぐっ!」




狂った動物みたいに、私と椿姫は声を上げた。
椿姫の意思に反して彼女の膣内が強く締まる。
生前から鍛えていたとはいえ、膣内の締まり具合が凄い。

「中に……中に出すから……」
「いいよ!来て!来て!子宮に!中に来てぇぇぇ!!」

ぎゅうぅぅとなりすぎて椿姫の膣内が痙攣を始めた。

「ぐっ……!椿姫の子宮に……出すから」
「あっ、あっ、あっ……ああ……!来て……っ!冬夜!!」

次の瞬間、視界が真っ白になった。

びゅっ!びゅびゅうぅっ!どびゅっ!どびゅびゅっ!

マグマみたいな塊が椿姫の子宮口を突き抜ける。
散々突いた椿姫の子宮口は柔らかく拡げられていた。
濃くて熱いゼリー状の塊が、ぽっかり口をあけた子宮へなだれ込む。
既に意識は地の底まで落ちた後、急に天高くまで打ち上げられるような異様な感覚に包まれた。
今の現実が本当にそこにあるのかわからない。

………
……


意識が天と地を彷徨って現実に帰ってきたのは数分後の事だった。
椿姫の下腹部は私の精液を含んで膨らんでいる。
子宮はパンパンで入りきらなかった精液はコポリと音を立ててこぼれる。
椿姫は膣口を閉め、一滴も残さず体内に吸収した。

「大丈夫か?」
「ええ……わたしは大丈夫……数分も経過しないうちに回復するから……だから、もう一度やろうね?次はわたしが冬夜を気持ち良くする番……今夜は寝かせないから覚悟しててね?うふふっ」

その後、椿姫と夜通し布団の上で愛し合った。
失った一年の歳月を取り戻すかのように互いを求め合った。
またその影で一人のくノ一が自慰をしていたとは、この時の私には分からなかった。







あれから冬幻《とうげん》は眠りについた。
刀身を抜いても、語りかけても何の反応もない。
何が冬幻を目覚めさせたのか、何が引き金なのかは結局、分からないままだ。
ただ、あの時は“椿姫を助けたい”の一心だった。

17/05/21 14:59 蒼穹の翼


久しぶりの投稿です。
[エロ魔物娘図鑑・SS投稿所]
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33