大切な宝 |
「…」
「…」 俺は魔物の中でも非常に危険とされる"地上の王者"の御前に居る。 強靭な肉体と極めて高い知能を持つエキドナに続く最高位の魔物…ドラゴン。 その鱗は鋼鉄の様に硬く、その爪は如何なる鉄も紙切れ同然に切り裂き、その口からは全てを焼き尽くす灼熱の炎を吐く等の云われもある。 また種類や地域にもよるが氷の息や毒の息など吐く等の報告もある。 「人間…何をしにここへ来た?」 殺気とはまた違った感覚…全てを呑みこんでしまうほど重い波動。 「今一度聞く、人間…何故ここへ来た?」 何故この状況か、その答えは数時間前に遡(さかのぼ)る。 まだ騎士に入団してない頃、俺は大陸を放浪していた。 目的地が別に決まっていたわけじゃない、ただ旅をしてみたかっただけ。 ギルドの依頼をこなしながら稼いでいたがそんな矢先、旅の資金が底を尽いてしまった。 「やばい金欠だ」 俺は商人ほどお金を管理する能力に長けていない、ただの旅人だからな。 だが一般常識として安い宿屋に宿泊し、必要な物等は確保してた。 けどよくよく考えれば旅先でお金に困ってる"人"(盗賊等は省く)に分けてた記憶がある。だからこの旅で腰を落ち着かせる事が出来る国があれば、そこで落ち着け"困ってる人達の役に立ちたい"と我ながら子供じみた願いがあった。 その為どんな危険な任務でも高額な依頼をギルドで遂行して資金を稼ぐ必要があった。 「これじゃ宿にも泊まれない…」 俺は資金を確保する為、ギルドへと足を運ぶ。 「へぇ〜こんなに支払われるのか…よし決めた」 ギルド掲示板を見た俺は早速契約手続きに向かう。 マスターは手慣れた手つきで契約書に書き記す。 「しかし…本当にこれだけの額が支払われるのか?」 「まぁ国王直々の依頼だからな…と契約完了だ、サインを頼む」 俺はマスターから契約書を受け取り、名前を書いた後に手渡す。 ここで落とし穴があった事に気付くのは依頼書を受け取った後の事だ。 金欠…加えて報酬が高額だった為、俺は肝心な部分を見落としていた。 「若いのに勇気があるな」 「そうか?今まで色々難易度の高い依頼は遂行してきたけどな」 「それなら問題無いな、頑張って来い『ドラゴン退治』」 俺は暗い洞窟内を松明の明かりを頼りに進む。 中は意外と広く天井も高い為、靴の音が非常に響く。 よく考えれば分かっていた事だ…こんな旨い話ある筈ないって事くらい。 だが契約書にきちんと目を通していればこんな事にはならなかった。 だから今回は完全に俺のミス…金額に目を奪われていた俺が悪い。 「国王直々か…おかしいと言えばおかしい」 俺は誰にも聞こえるわけでもなく独り言のように呟いた。 だってそうだろ?国王って言ったら国の最高機関であり責任者だ。 それほどまでに地位のある人が護衛も付けずギルドへ依頼にくるか? 何処で命を狙われているか分からないんだぞ…不用心にも程がある。 俺は旅先で多くの国や地域を見て来たけどライブラは珍しい。 珍しいと言えばライブラは基本的に彼女達と共生する国でもある。 他にも多くの親魔物派の国を見て来た。 王国都市国家ライブラは割と遥か東方の島国ジパング寄りにある。 ジパング寄りと言っても"飛ぶ"や"歩く"等で行ける距離でないのは明白。 ライブラは大陸とジパング、二つの文化を備えているが九割近くが大陸の言葉や文化等が多い。だがライブラを治めているのはジパング出身の者である。 俺は改めて受け取った依頼書に目を通した。 依頼主:国王 報酬:金貨千枚 内容:東の洞窟に居るドラゴンを説得。相手がこちらの要求を呑まないのなら武力行使もやむなし。願わくば双方に被害が無い事を…。 「…」 何も言わず依頼書をしまう。 「武力行使もやむなし…」 俺は内容に記された、そこに突っ込みを入れる。 「ドラゴン相手に一人で武力行使なんか出来るかぁああああああ…っ」 洞窟内で鼓膜が破れてしまいそうなほど大きな声で思いっきり叫んだ。 「話し合いで解決だ…武力行使なんかしたら確実に、あの世へ直行!」 弱気だった自ら心を鼓舞して洞窟の最深部へと向かう為、歩を進めた。 最深部に近づけば近づくほど今まで感じられなかった覇気に身が震える。 少しでも気を抜いたなら重力と言う名の覇気に押しつぶされてしまう。 一歩…また一歩と確実に歩を進め、暫らく歩くと広い空間に出た。 洞窟内とは思えないほど辺りは明るい…光コケが大量にある証拠だ。 「こ…ここ…に…ドラゴンが…居る…のか?」 辺りを見渡してもそれらしき大きな影は見当たらないが全身に突き刺さる覇気は本物だ。俺は覇気を全身に浴びながら止まってしまった歩を再び進める。 既に体力・気力・精神力も限界に近いが、それでも歩き続ける。 もう俺には高額報酬より、なんとかして任務を遂行する事しか頭に無い。 直接覇気を浴び続けて十分以上…どうにか最深部の先に到着して今に至る。 「答えられないのか?」 既に口を開く余裕はないが視線だけを動かして彼女を見ると目を疑った。 伝承とは全く異なる非常に容姿の美しい見目麗しい長身の女性だ。濃い藍色の腰まで長い髪、目は釣り上がっているが冷たい感じがしない。 耳を見れば若干大きなエラ、背中には大空を飛翔する為に必要な双翼。尾てい骨辺りからは尻尾が生え、四肢は世代交代前のドラゴンの腕と脚。 また"人"で言う衣服は背中を露出させて胸部を覆い、下半身はドラゴンの頭部をモチーフにした様なもので大事な場所を隠している。 「ふむ、覇気が強すぎたか?人間は取るに足らない存在だと思っていたが、お前は中々骨のある人間の様だな、私の覇気を浴び続けながらもこうして…」 次の瞬間、深い暗闇に包まれた俺は意識を完全に失った。 「お……い……おい……」 俺が目を覚ました時、次に見たのは至近距離にある彼女の整った顔。 吐息が触れるほど近い距離に顔があり、ドギマギしてしまう。 また後頭部には柔らかい感触があり、それが彼女の両腿だった事に気付くのは起きた後の事だ。俺は彼女に膝枕をしてもらい意識を取り戻すまで寝ていた。 「大丈夫か?」 「なんとか…」 俺は彼女の膝枕から起き上がると、ある事に気付く。 それは先程まで突き刺さる様な覇気が少々弱まっていた事だ。 「これ…貴女が?」 「そうだ、お前と話し合う為に抑えた」 「話し合い…?」 「先刻お前が気を失った時、"これ"を読ませてもらった」 彼女が手渡したのは俺がギルドから受けた依頼書。 ドラゴン…つまり彼女と話し合うか戦うかと言う重大な資料だ。 「いっ!?」 「安心しろ、私はここで休ませてもらってるだけだ」 「え?」 俺は彼女が何故この洞窟に居るのか理由を聞かせてもらった。 彼女は本来、山岳地帯に住居を構えるけど何の因果か教団に追われてる。 俺も旅先で教団の騎士団に入団しないかどうかと散々聞かされた。 彼等の言う彼女達つまり魔物は悪で、人間を殺して喰らうと広めてるらしい。 けど旅先で見た真実は全く違う、手を取り合い共に生きる者達が殆どだ。 「けど…あの覇気は?」 「負傷しているとは言え、覇気くらい出せる」 「そうか?」 「当たり前だ!私は誇り高きドラゴンだぞ」 「す、すいません…」 俺は素直に謝罪した…だってそうだろ?彼女は最高位のドラゴンだ。 下手に刺激して話し合いで解決したのに、また振り出しに戻るのはごめんだ。 だから素直に謝るのが一番いい…覚えておけよ? 「そろそろ、私は行く」 「大丈夫なのか?」 「人間に心配されるか…私も落ちたものだな」 「い、いや…別にそういう意味で言ったわけじゃ…」 ちゅっ、と俺の頬に柔らかな感触がした。 突然の出来事だった為、俺は取り乱してしまう。 「っ!?」 だが混乱する俺を余所に彼女は美しく微笑む。 「分かっている…お前がそんな事言う人間じゃないって事くらいな」 「あ…はははっ、そうか?」 何か分からないが非常に恥ずかしい。 「そう言えば…互いに名前を名乗って無かったな…私はオリビアだ」 「俺はレオン」 「レオンか…勇ましく雄々しい名前だ」 「なぁ、本当に完治したのか?理由を話せばきっと…」 「くどい!しつこい男は嫌われるぞ」 俺の言葉を彼女…オリビアにあっさり斬り捨てられる。 自分でも良く分からないけど彼女が心配な自分がどこかに居る。 それが何なのか分からないけど、このまま彼女を行かせてしまえば取り返しの着かない事態に陥りそうな気がする。 何が俺をそうさせたのか、何も言わずにオリビアの前に立ちはだかる。 「退け!何の真似だ?」 「傷が完治してない所、教団の襲撃を受けたら危険だ」 彼女の全身から発せられた、これまでに無い覇気が俺を襲う。 だがこれに屈してしまえば俺は絶対に後悔する事となる。 「退けと言うのが分からんのか?」 その言葉は先程、俺に対して話していた穏やかな言葉じゃない。 大陸の歴史文献や古文書で知る暗黒時代、破壊の化身ドラゴンそのものだ。 「何と言われようが、ここを退く気はない」 「なら別の方法で行くとする」 次の瞬間、彼女の足元に巨大な五芒星の魔法陣が浮かび上がる。 「(あれは転移魔法!)待ってくれ!」 「先程は怒鳴って済まなかった…私は大丈夫だ」 「(あと少し…)」 「今まで何度も奴等の追撃を振り切ってきた」 もう少しと言う所で俺は彼女の腕を掴む事が出来なかった。 そのまま彼女の身体は転移魔法によって洞窟の外に送られた。 「教団はそんなに甘い相手じゃない…くっ!」 俺は全速力で洞窟内を駆け、オリビアの許へ向かう。 「転移魔法無事完了」 私は久しぶりに外の空気を吸う。 今まで洞窟内部だったから新鮮だ。 「この後は…うっ」 「見つけたぞ!汚らわしい魔物め」 翼を広げようとした矢先、傷口に氷魔法が直撃した。 周囲に気を配っていたとは言え、これはあまりにも不覚。 私は傷口を押さえながら辺りを見渡すと総勢二十人近くの人間が居る。 間違いない、全員が白装束を身に纏って服には十字架の刺繍。 「(教団の者か…くぅ…)」 「最高位とも在ろう魔物が一切の反撃もないのですか?」 その中で白装束を束ねる統率者が私の前に現れる。 「…貴様ら如き私が手を下す必要が無い」 「私達も嘗められたものです…まぁいいでしょう」 ぱちん、とリーダー格の人間が指を鳴らす。 「強気で居られるのも今のうちですよ」 「ふん、私は行かせてもらう」 「どうぞどうぞ」 気味の悪い笑みだ…レオンとは全く違う。 再び翼を広げ、大空に向かおうとした時に電流が走る。 「あぐっ」 「まぁ逃げれればの話ですがね」 「これは…結界…か」 「ご名答」 見れば足元に奇妙な白魔法陣が形成されてる。 本来なら上を見れば空が広がっているが、この結界には天井がある。 「これは貴女の様な最高位の魔物に最適な魔法陣です」 「こんな結界!あぐぅ」 「おっと言い忘れてましたが、そこに触ると危険ですよ?」 私が触った部分は何も無い筈だが見れば鉄格子の様なものがある。 この結界は言うなれば巨大な檻であり、私はその中に捕らえられている。 「もう一つありまして貴女、何か変化はありませんか?」 「そんなものあるはず…」 無いと最後まで言い切れなかった。私の身体だ、自分が一番よく知ってる。 「貴様…何をした、あうぅ」 「良い声で啼きますね…魔物とは思えない」 「そんな……魔力が使えない……どうして?」 「簡単に言えば貴女の魔力等を檻が吸収してるのです」 確かに私の魔力等があの結界に触れた時、吸い取られた感覚がある。 つまり結界を形成してるリーダー格を何とかしなければ私は出られない。 この檻は私の行動を制限する一種の拘束具でもあるわけか。 「さて…このまま的になってみますか?」 ぱちん、と再び統率者が指を鳴らすと私は両腕を挙げられて拘束される。 「我等、教団の鉄槌」 「その身に受けろ」 「くたばれ」 「汚らわしい魔物が!」 無数の氷の魔法弾は無防備状態となった私の全身に放たれる。 防御も何もできない私は成すがまま奴等の氷塊の的になる。 もう何度目の氷塊だろう…既に視界は霞み、身体中は満身創痍。 膝を付く事も許されない私は、ただ断罪を受け続けている。 ねぇ…現魔王サキュバス様、どうして人間は私達を憎むのだろうか? どうして魔物の生態を変化させたのか教えてくれないか? 私は人間の命を容易く奪う力があるのに貴女の所為で率先して人間を傷つける事が出来ない…護ってくれるものが無くなった今、一人になってしまった。 私はここで生涯を終えるのか?この身体になって私はまだ愛する人に胸の内に秘めた想いすら告げてない…その時、私の瞳から一滴の涙が流れた。 「魔物の分際で涙を流すのか?」 「あれは我等の放った氷塊が溶けたんですよ」 「そうだ、魔物が泣く訳ない」 「では、とどめ刺すか…特級の巨大な氷塊でな」 四肢を封じられた私にはもう何も出来る事はない。 ただ一つ一つだけ心残りが…。 「終わりだ…魔物!」 「(レオン…貴方に…もう一度…逢いたかった)」 私は瞳を瞑り、この運命を受け入れようとした。 しかし身体中の痛みが一向に治まらない…死後の世界なら痛みはない。 私たち魔物にも、きちんと痛覚が備わっている。けど今はどうだろう。 不思議に思って私は瞳を開く…すると居るはずの無い人物がそこに居た。 「レオン…」 「ごめん、オリビア…遅れた」 瞳を開ければ魔法障壁で氷塊を受け止めるレオンの姿があった。 「どうして…魔物の私を助ける?」 「俺が助けたいから助けた」 「そんな事したらお前まで教団に狙われる」 「覚悟の上さ…俺は…くっ」 レオンは雨の様に降り注ぐ氷の矢を長剣で弾き防ぐ。 私は四肢が拘束されている為、叫ぶ事しかできない。 なんで…どうして私なんかを助ける…私は魔物なのに。 「私の事はいい!私は…私は…」 「死にたいなんて言わないでくれ…俺はオリビアに告げたい事がある」 「なら今ここで言ってくれ!私はお前を失いたくない!」 「それは俺も同じだ…だから何があってもここから離れない」 闖入者に最初、教団は驚いたが魔物を助ける側を敵と認識した。 「おや?誰かと思えば我等の勧誘を断った青年ではありませんか」 「それがどうした」 「いけませんね…私達は正義の名の許、そこの魔物を排除する所ですよ?」 「抵抗出来ない女性に集中魔法する…それの何処が正義だ!」 俺は抵抗できないオリビアに攻撃魔法を放った教団より、むしろ大切な人を傷つけた教団に怒りを覚えた。俺の力じゃオリビアに全く及ばない…それでも、それでも生涯ただ一人護ると決めた女性を傷つけた教団が許せなかった。 「このぉおお…なめるなぁああっ」 徐々に俺は巨大な氷塊を押し退ける。 「人は…護りたいものがある限り強くなれる」 「それがどうしました?我等は神に選ばれた存在」 「ならあんた達は彼女達と共存の道を選んだ人達には決して敵わない」 「その減らず口を今、閉じてさしあげましょう」 気味の悪い笑みを浮かべてた奴の顔が瞬時に変わった。 その顔は全ての魔物を憎む憎悪と言う名の笑み。 奴は氷弓を創り、研ぎ澄まされた刃の様な矢を弦につがえる。 そのまま弦を思いっきり引き絞った統率者は矢を放った。 「そこまでだ」 突如現れた声と同時に氷の矢は砕け、俺が受け止めていた巨大な氷塊も敢え無く真っ二つになった。何がどうなったのか真相を探る為、視線を前に移す。 そこには居たのは王国都市国家ライブラを治める若き国王だった。 彼の手には一振りの大太刀、確かジパング製の"カタナ"という武器だ。 「これ以上…領土内でこの二人を傷つけるのなら…許さんぞ」 鷹の様な鋭い視線が統率者と、その部下を射抜く。 見れば若き国王の周囲に不思議な文様が浮かび上がってる。 古代魔法等の類ではないが、そこには確かに強大な魔力の渦が出来てる。 なるほど…なぜ護衛も無しに城下町を歩く事が可能なのか分かった気がする。 国王自身も護ってもらう側の人間じゃない…言うなれば魔法剣士なんだな。 「くっ…退け!退け!国王…この借りはいずれ必ず返す」 比較的に多い捨て台詞を残し、白の教団は消えていった。 勿論、オリビアを捕らえた牢屋と両腕の拘束具は解除された。 「少し自警団や騎士団を増やすか?いや、しかし…」 「あ、あの…国王様!」 「ん?あ…すまない、大丈夫…なわけないか、特にそちらの女性」 俺が視線を移せば彼女…オリビアの身体中には痛々しい傷跡がある。 いくら教団が彼女達の事を憎むとは言え、ここまでするものなのか? 無防備の相手に容赦も慈悲も無く集中砲火を浴びせるなんておかしい。 「オリビア、大丈夫か?」 「あ、ああ…なんとかな」 「すまない…もう少し早く駆け付けていれば…」 「一国の王が簡単に頭を下げるな」 「しかし…」 「お前はドラゴンの生命力をなめていないか?こんな傷すぐに治る」 私はドラゴンとしての誇りを守る為、人間の前で気丈に振る舞う。 実際は相当、身体中の被害は尋常ではない…危険だ。 何故危険なのか?わかるだろう…再び襲撃を受ければ命の保証はない。 だが私は誇り高きドラゴン…教団の奴らに負けるわけにはいかない。 例えこの身朽ち果てようとも私は、ただでは死なない。 「それでは王宮に戻る…レオン、と言ったな?」 「はい」 「後でまた話そう」 すると風の様に若き国王は居なくなった。 国王が居なくなってから数分後、突然オリビアが口を開いた。 「レオン…」 「なに?」 「先程、私を助けてくれた時に何を言いたかったのだ?」 「…オリビアこそ、どうして下等種族である俺を失いたくなかったんだ?」 「質問を質問で返すな…ばか」 気のせいだろうか?オリビアの顔が少し赤い。 「私の事はどうでもいいのだ、レオンの気持ちを聞かせてくれないか?」 「言えるわけないだろ」 「ならレオンが教えてくれるまで私も言わない」 無言の時間が流れ、それに耐えきれなくなった俺が根負けした。 「最初…」 「ん?」 「最初、オリビアに出会ったときから心は奪われてた」 「それは愛の告白か?」 「ああ、一目惚れってやつだ…」 俺は自分でも何を口走っているのか分からない。 相手は誇り高きドラゴン…地上の王者に俺は愛の告白をしてしまった。 突き放される覚悟はある…けど返って来た言葉は全く別の答えだった。 「私も…レオンが好きだ」 「え?」 俺は自分の耳を疑った。 「私の覇気を直接浴びながらも進むレオンの姿に惚れた」 「じゃ…あれか?俺達は出会った時から既に…」 「相思相愛だったわけだ…レオン…」 柔らかい感触…気付けばオリビアが美しい顔を近づけて俺と唇を重ねていた。 突然の出来事だった為、俺は自分がされた行為に未だ驚いている。 だってどうだろ?今、俺は美女とも言える人とキスをしているんだぞ。 「んっ……んんっ……ん……っ……」 オリビアの口づけは更に熱を帯び、徐々に激しくなる。 俺もそれに続き、答える様に彼女の唇を貪る。 此処が野外だと言う事も忘れ、俺達は一心不乱に互いの唇をついばむ。 どれくらいの間、俺達は口づけを交わしていたのか…互いの唇を離す。 「だ…ダメだ…もう…我慢…できない…続きは洞窟の深層だ」 言うや否や俺の腕はがっちりとホールドされ、洞窟に連れて行かれる。 「ま、待て!俺達はまだそこまでいっていいほど仲は良くない!」 「何を今さら…既にレオンは私の夫、私の大切な宝だ…さ、いくぞ」 「まてまて…俺は…その…何と言うか…経験が無いんだ!」 「ん?童貞か?構わん…私も初だ、互いに初体験を堪能しよう」 俺がどんなに抵抗してもドラゴンの腕力には敵わない。 「ああ…それと、そこに隠れてる王妃」 「ばれてました?」 「魔力を抑えているのだろうが私には分かる」 「ははっ…さすがドラゴンね」 木の陰からオリビアとまた違う女性が現れた。 「先程の行為…見てたな?」 「はい!」 「なら国王にある程度省いて伝えてくれ」 「りょ〜かい♪ほどほどにね?」 「言われるまでもない」 俺はオリビアに腕を引かれて連行され、何の苦もなく深層に辿り着いた。 そのまま俺は植物で作られた柔らかなベッドに静かに寝かされる。 「レオン…私はお前の全てが欲しい」 四つん這いになったオリビアの四肢はすらりとした人間の手足に変化する。 また頭頂の二つの角、尾てい骨の長い尻尾、背中の双翼は完全に身体と同化。 オリビアの姿は何処からどう見ても人間の女性そのものだった。 四つん這いの彼女は俺を挑発するかのように大きな胸を寄せて谷間を作る。 「私にお前の全てをくれ…」 魔性の色香に犯された俺は頷く。 「わかった、俺にもオリビアの全てをくれ…」 徐々に美しい顔を近づけて来るオリビアと唇を重ねる。 そのまま彼女は俺の唇を優しくついばみ始めた。 もう我慢できないとばかりに彼女の口づけは更に激しさを増す。 唇を完全に塞いだ彼女は俺の口内で舌の躍動を開始する。 「(舌が入って……っ!?)」 「んっ……んんっ……ん……っ……」 彼女は一つ一つ丁寧に俺の口内を舐め取って甘美な唾液を送ってくる。 気付けば俺は彼女によって既に押し倒され、地面に逃げ場が無い状態だ。 仮に逃げ場があったとしても俺にはオリビアを拒む理由が全くない。 徐々にオリビアの舌遣いは激化し、ついには舌を絡められた。 「(ま、待て……激し……すぎ……っ)」 「んちゅっ……ちゅっ……くちゅっ……」 初めての割に彼女の舌遣いは群を抜いているため腰が砕けそうになる。 これが魔物としての本能なのか…俺の神経と言う神経が全て麻痺を起こし、残っている感覚は重ね合わせた唇と絡められた舌の感覚だけ。 充分に堪能したオリビアが俺の口から舌を抜くと二人の間に透明な糸が引かれた。 「はぁ、はぁっ……は……ぁ」 「私の……はぁ……キスの……はあっ……味は……どうだ?」 「何て……はぁ……表現すれば……いいのか……分からない……」 「いい、はぁっ……思うまま……はぁっ……言ってくれ……」 息を整えた俺は思うがままに伝えた。 「その…凄く…気持ち良かった……かな?」 「ふふ…嬉しいぞ、レオンの"ここ"も主張してる」 気付けばオリビアの綺麗な手が俺の膨らんだ下腹部を優しく撫ぜていた。 「私は初めてだから優しくしてくれ…」 「勿論、俺も初めてだから激しくしないでくれよ?」 「ふふ…私は気性が荒いからな…約束はできない」 「怖い事を言うな」 「だが最善は尽くす…私の大切な宝レオン」 そのまま最深部の奥深くで一糸纏わぬ姿で互いを見つめ合い唇を重ねる。 植物のベッドの上で肌を重ねて温もりを感じ、激しく互いの舌を求め合う。 種族なんか関係ない…そこに"愛"がある限り俺達は一緒だ、何があろうと…。 その後、オリビアの洞窟を拠点に活動を始めた俺は実力を認められて騎士になる。 また国王も王妃も国民も婚儀を認めてくれた御蔭で俺達は盛大な結婚式を挙げる事が出来た。その後、国王と王妃に忠誠を誓う『蒼穹の騎士団』の一員になった俺に授与された称号は『龍の騎士』レオン。 |
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久しぶりの投稿で読み切りを書いてみました。
図鑑に記載されてるドラゴン娘と少々異なるかもしれません(汗 誤字脱字等ありましたらお待ちしております。 さて初めて書いた連載等も終わらせなければ…。 最後に一晩考えた結果"花婿"から"騎士"に変更させて頂きました ご迷惑をおかけします 10/08/01 10:14 蒼穹の翼 |