3話 異国でお買い物?
竜翼通りに戻ってからもしばらくの移動。そういえば山岳地帯の移動はどうするのだろうか。仮に乗せてくれる手筈だとしても、この肩では少々無理がある。
「乗る」というか「跨る」というのかは別として、やはり知り合ったばかりの女性の背に負われるのは少し気が引ける。逆ならまだしも。
セルカ「着きました!ちょっとお高いですけれど…それでも良い服揃ってます!」
中に入ると落ち着いた雰囲気の店内に男性用、女性用の服が置いてある。
この国に多く住むドラゴンやワイバーンなどの服は分かるが、ジパングでも見られる種類の魔物娘の為の服まで取り扱っているのはすぐそこに竜泉郷なる場所が近いからだろうか。
予想はしていたが、それ以上の祖国の文化の多さに驚いた。
店主「いらっしゃいませ。」
店員ドラゴン「観光客か?見ると東方の国からのようだな。ようこそ我が国ドラゴニアへ!ゆっくり見ていくと良い。」
声をかけてきたのは燃えるような緋色の鱗のドラゴンと店主にして夫らしい男性。
店主「観光客の方ですね?どうでしょう、そちらとは製法が少々違いますがこの国らしい模様に仕上がっております。」
「おお……!こんなにジパングの衣装が…」
店主に勧められて探すとジパング近隣の服も多少あるようだ。確かに今着ている服と似ているが刺繍等は時折外で見る物に近い。
セルカ「故郷を懐かしむのも良いんですけれど、こっちもどうです?」
店員ドラゴン「そうだ。折角はるばる来てもらったのだ。我が国の文化を楽しんで貰うべきだ。」
声のする方を見ると普段着を中心に売っているらしき区画で服を見繕っていてくれたようだ。
セルカ「早速着てみませんか?」
かれこれ十数着ほど試着した。どれも素敵なのだが、ジパングの友人や家族にも送ってあげたい気持ちが混み上がってくる。
「これとか椿さん喜ぶかな〜…」
椿さんというのはお世話になっていた番台さんのこと。もちろん、魔物娘だ。姉妹8人で子供も双子が生まれやすいこともあって大家族なのだ。
セルカ「……もしかして……お相手が……?」
恐る恐る聞いてくるセルカさん。お相手というより、上司なのだが。
「いや、既婚者ですよ?子供も沢山いますから」
セルカ「そうでしたか………」
どこかホットしている。
「いや、だって上司ですよ?さすがにないでしょう。人の奥さんを取るなんて。」
店主「あれ?お客さんの奥さんじゃないのかい?」
何やら勘違いされているようだが椿さんもその夫も100年は余裕で務めているであろう古株の番台さん。その子供達もこちらからすれば姉のようなもの。
まだまだ二十年そこらしか生きていないのだからまずありえない。
店主「そうだったか!悪い!」
店員ドラゴン「当たり前だ。そうでなければこの娘がこの男に…」
セルカ「わぁ〜〜!!!!!ごめんなさい!早とちりしてしまいまして!ソラさん、その方について少しお話してくれませんか!?」
「というわけで、椿さんは既婚者ですよ?」
セルカ「分かりましたから………」
ほとんど同時に戻ってきたのだが、店主さんと店員さんは話をしていると店の奥に行ってしまった。
一応戻ってきたが、突然「ペアルックだ!ペアルックの服を作るぞ!」と言ってまた店の奥へ引っ込んでしまった。
セルカ「…綺麗でしたね、奥さん」
確かにあの緋色の鱗は美しかった。口調や性格と合っているのもあるのかもしれないが。
「ですね。でも僕はセルカさんみたいな落ち着いた色の方が好みですよ?」
大昔、「月が綺麗」という言葉で愛を伝えたという話を思い出して、月の代わりに色を使って言ってみた。
セルカ「そっ…そそ…そうですか?そうなんだ……やった…!」
ちょっとずつ小さくなる声。俯いてしまうその姿がなんとも愛おしい。
お土産として色々買ってしまった以上、この数は一度国へ戻らねばならないだろう。また来た時、この人はどうしているのだろうか。
もちろん、たとえ所帯を持っていたとしてもこの国に戻ってきて、彼女の子供と触れ合って、老いて逝くだけだ。
ただ、その事は今は黙っておきたかった。
店員ドラゴン「できたぞ!会心の1作だ!」
店主「男の人の方はもう少し待ってね」
翼の邪魔にならないようになのか袖の無い服である分出来上がるのが早かった。
澄んだ空色に優しい青みがかった緑と彼女に良く似合うであろう素晴らしい服だ。
そこまで長く待っていなかったのでとても驚いた。
「早い…!それにしても、いい色味ですね」
店員ドラゴン「おっ、気に入って貰えたか。同じような色で作っているからな並ぶと良く映えるぞ!」
セルカ「ありがとうございます!」
店主「時間はかかったけどこちらも完成だよ」
店主さんが持ってきたのは彼女と同じ色の布の上の服、黒色の二股に分かれた長い袖の下半身用の服。そして上着もそれらに合うような色で作られている。
店主「どうだい?安くしておくよ」
「ありがとうございます」
店員ドラゴン「早速着てみると良い。あちらを使え。」
店員さんに押されて店の壁沿いにある仕切られた箱の中へ。どうやらここで着替えれるらしい。
何とか肩に負担をかけないように着替えることができた。元々この服の上からつける用なのか、肩を固定している器具もつけていて気にならない。
「似合ってますか?」
店員ドラゴン「ああ、似合っているぞ。ほら、出てきて見てやれ!」
セルカ「ちょ…ちょっとぉ!?」
半ば引きづられるような形ではあるがでてくる彼女。
やはり良く似合っていた。
セルカ「まだちょっと途中で……」
「良いじゃないですか。似合ってますよ」
セルカ「あ…ありがとうございます……」
「そういえば、ここで買った物をジパングへ送る事ってできますか?」
店主「少々時間はかかりますが可能ですよ。ご自分でお持ち帰りになられた方が確実ではありますが」
なるほど。可能ならば後々頼むのもいいかもしれない。出来れば手渡しで渡して礼を伝えてこちらへ蜻蛉返りしたいのだが。
「わかりました。ありがとうございます」
セルカ「ソラさん着替え終わりましたよ。温泉行きましょう!」
それなりの時間寄り道していたが、また2人で手を繋いですぐ近くの温泉へ向かった。
店員ドラゴン「懐かしい。あのような時期が私達にもあったのだな。」
店主「店を構えて100年ほどだったかな?お互い変わらないな。それにしても100周年の節目に良い物が見れたよ」
店員ドラゴン「まったくだ。さて、今日は早めに店じまいとしよう。3日は眠れないと思え?」
店主「久しぶりではないが…楽しめるかな?」
お店を出る前に、お店の2人から「開業100周年記念の客」として、服に揃いの刺繍をしてもらった。
頭を垂れる飛竜の顔に手を添え、額を合わせる人の刺繍。
刺繍の中の竜はワイバーンだが、きっとこの国が目指す姿を現した刺繍なのだろう。
店を出てからしばらく手を振ってくれていたあの夫婦のような幸せの時間を左に立つ人と過ごせれたらどんなに幸せなことか。
「乗る」というか「跨る」というのかは別として、やはり知り合ったばかりの女性の背に負われるのは少し気が引ける。逆ならまだしも。
セルカ「着きました!ちょっとお高いですけれど…それでも良い服揃ってます!」
中に入ると落ち着いた雰囲気の店内に男性用、女性用の服が置いてある。
この国に多く住むドラゴンやワイバーンなどの服は分かるが、ジパングでも見られる種類の魔物娘の為の服まで取り扱っているのはすぐそこに竜泉郷なる場所が近いからだろうか。
予想はしていたが、それ以上の祖国の文化の多さに驚いた。
店主「いらっしゃいませ。」
店員ドラゴン「観光客か?見ると東方の国からのようだな。ようこそ我が国ドラゴニアへ!ゆっくり見ていくと良い。」
声をかけてきたのは燃えるような緋色の鱗のドラゴンと店主にして夫らしい男性。
店主「観光客の方ですね?どうでしょう、そちらとは製法が少々違いますがこの国らしい模様に仕上がっております。」
「おお……!こんなにジパングの衣装が…」
店主に勧められて探すとジパング近隣の服も多少あるようだ。確かに今着ている服と似ているが刺繍等は時折外で見る物に近い。
セルカ「故郷を懐かしむのも良いんですけれど、こっちもどうです?」
店員ドラゴン「そうだ。折角はるばる来てもらったのだ。我が国の文化を楽しんで貰うべきだ。」
声のする方を見ると普段着を中心に売っているらしき区画で服を見繕っていてくれたようだ。
セルカ「早速着てみませんか?」
かれこれ十数着ほど試着した。どれも素敵なのだが、ジパングの友人や家族にも送ってあげたい気持ちが混み上がってくる。
「これとか椿さん喜ぶかな〜…」
椿さんというのはお世話になっていた番台さんのこと。もちろん、魔物娘だ。姉妹8人で子供も双子が生まれやすいこともあって大家族なのだ。
セルカ「……もしかして……お相手が……?」
恐る恐る聞いてくるセルカさん。お相手というより、上司なのだが。
「いや、既婚者ですよ?子供も沢山いますから」
セルカ「そうでしたか………」
どこかホットしている。
「いや、だって上司ですよ?さすがにないでしょう。人の奥さんを取るなんて。」
店主「あれ?お客さんの奥さんじゃないのかい?」
何やら勘違いされているようだが椿さんもその夫も100年は余裕で務めているであろう古株の番台さん。その子供達もこちらからすれば姉のようなもの。
まだまだ二十年そこらしか生きていないのだからまずありえない。
店主「そうだったか!悪い!」
店員ドラゴン「当たり前だ。そうでなければこの娘がこの男に…」
セルカ「わぁ〜〜!!!!!ごめんなさい!早とちりしてしまいまして!ソラさん、その方について少しお話してくれませんか!?」
「というわけで、椿さんは既婚者ですよ?」
セルカ「分かりましたから………」
ほとんど同時に戻ってきたのだが、店主さんと店員さんは話をしていると店の奥に行ってしまった。
一応戻ってきたが、突然「ペアルックだ!ペアルックの服を作るぞ!」と言ってまた店の奥へ引っ込んでしまった。
セルカ「…綺麗でしたね、奥さん」
確かにあの緋色の鱗は美しかった。口調や性格と合っているのもあるのかもしれないが。
「ですね。でも僕はセルカさんみたいな落ち着いた色の方が好みですよ?」
大昔、「月が綺麗」という言葉で愛を伝えたという話を思い出して、月の代わりに色を使って言ってみた。
セルカ「そっ…そそ…そうですか?そうなんだ……やった…!」
ちょっとずつ小さくなる声。俯いてしまうその姿がなんとも愛おしい。
お土産として色々買ってしまった以上、この数は一度国へ戻らねばならないだろう。また来た時、この人はどうしているのだろうか。
もちろん、たとえ所帯を持っていたとしてもこの国に戻ってきて、彼女の子供と触れ合って、老いて逝くだけだ。
ただ、その事は今は黙っておきたかった。
店員ドラゴン「できたぞ!会心の1作だ!」
店主「男の人の方はもう少し待ってね」
翼の邪魔にならないようになのか袖の無い服である分出来上がるのが早かった。
澄んだ空色に優しい青みがかった緑と彼女に良く似合うであろう素晴らしい服だ。
そこまで長く待っていなかったのでとても驚いた。
「早い…!それにしても、いい色味ですね」
店員ドラゴン「おっ、気に入って貰えたか。同じような色で作っているからな並ぶと良く映えるぞ!」
セルカ「ありがとうございます!」
店主「時間はかかったけどこちらも完成だよ」
店主さんが持ってきたのは彼女と同じ色の布の上の服、黒色の二股に分かれた長い袖の下半身用の服。そして上着もそれらに合うような色で作られている。
店主「どうだい?安くしておくよ」
「ありがとうございます」
店員ドラゴン「早速着てみると良い。あちらを使え。」
店員さんに押されて店の壁沿いにある仕切られた箱の中へ。どうやらここで着替えれるらしい。
何とか肩に負担をかけないように着替えることができた。元々この服の上からつける用なのか、肩を固定している器具もつけていて気にならない。
「似合ってますか?」
店員ドラゴン「ああ、似合っているぞ。ほら、出てきて見てやれ!」
セルカ「ちょ…ちょっとぉ!?」
半ば引きづられるような形ではあるがでてくる彼女。
やはり良く似合っていた。
セルカ「まだちょっと途中で……」
「良いじゃないですか。似合ってますよ」
セルカ「あ…ありがとうございます……」
「そういえば、ここで買った物をジパングへ送る事ってできますか?」
店主「少々時間はかかりますが可能ですよ。ご自分でお持ち帰りになられた方が確実ではありますが」
なるほど。可能ならば後々頼むのもいいかもしれない。出来れば手渡しで渡して礼を伝えてこちらへ蜻蛉返りしたいのだが。
「わかりました。ありがとうございます」
セルカ「ソラさん着替え終わりましたよ。温泉行きましょう!」
それなりの時間寄り道していたが、また2人で手を繋いですぐ近くの温泉へ向かった。
店員ドラゴン「懐かしい。あのような時期が私達にもあったのだな。」
店主「店を構えて100年ほどだったかな?お互い変わらないな。それにしても100周年の節目に良い物が見れたよ」
店員ドラゴン「まったくだ。さて、今日は早めに店じまいとしよう。3日は眠れないと思え?」
店主「久しぶりではないが…楽しめるかな?」
お店を出る前に、お店の2人から「開業100周年記念の客」として、服に揃いの刺繍をしてもらった。
頭を垂れる飛竜の顔に手を添え、額を合わせる人の刺繍。
刺繍の中の竜はワイバーンだが、きっとこの国が目指す姿を現した刺繍なのだろう。
店を出てからしばらく手を振ってくれていたあの夫婦のような幸せの時間を左に立つ人と過ごせれたらどんなに幸せなことか。
21/09/24 07:25更新 / 白黒トラベラー(旧垢)
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