連載小説
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2話 異国の遊廓街
手と翼を繋いで大通りから裏路地へ。やはりというか予想通り、ジパングにもある遊廓が多い。

セルカ「もしかして、こういうところ慣れてらっしゃるんですか?」

おつかいとして知り合いのカク猿に会いに行った時、働いている魔物娘に肩を叩かれ外れたことを思い出す。

「慣れてるというか…肩が外れたというか…こういうところは嫌ってはいないんだけどね、何かと肩が外れたことが多くて……」

セルカ「なら大丈夫ですよ!私だっていますし、今はギブスつけてますから!」

右肩を固定している器具、お医者さんによると「たとえ翼が折れていようとも痛みなく、常日頃と変わらぬ飛行ができる優れものだ!!」と言って貸してもらった。
肩甲骨にかけてを固定するものなので翼が有ろうと大丈夫な作りになっている。最も、僕には翼が無いけれども。


「これね〜。確かに防具みたいになってるし、大丈夫かなと」

セルカ「防具としてはというか…防具してても脱がしちゃいますよ?」

いたずらっぽい笑顔を浮かべて正面からぐっと顔を近づけられるが、たぶん何か誤解されている気がする。

「そうじゃなくて、これまで直接衝撃が来てたからね。少しは外れにくくなるんじゃないかと思って」

セルカ「あ…そういう事でしたか!…脱がされるのが好みなのかと…」

かあっと紅くなる顔。翼で隠してるつもりなのかもしれないが、肝心の翼を畳んでいるので頭の前で手を組み合わせているだけになっている。

「アッハハハ!!どうしたんですかそんな可愛い顔して」

セルカ「からかわないでください!もう…さぁ行きますよ!!」

左手を掴んで先に行く彼女。案内役として先導したいのだろうけれども、一緒にこの国を回る相手なのだから対等にいるべきだろう。少し歩みを速めて横に並ぶ。


客引き「お兄さん。お相手さんとどうかしら?」

「すいません、先に行く場所があるので」

客引きの誘いに対してやんわり断る。断られた客引きは笑顔で手を振り、また別の2人を誘う。

心做しか彼女が手を引く力を強める。

セルカ「ソラさん、この後も一緒に行きたい場所があるんですから。それに……ね?」

手を引く力が弱まり、歩みも遅くなる。

セルカ「着きました!ここが私オススメのバーです!」



彼女の知り合いの店らしく、店内には何人かのワイバーン達にリザードマンやワームも。

同僚ワイバーン「へぇ〜ジパングから。あちらにも温泉あるんでしょう?こっちの温泉には入った?」

「いえ、それはまだですよ」

先輩ワーム「もったいない。ここに来るとしたら夜、色々回ってからなのに。どうしてなの?」

セルカ「それは……温泉を最後にしたかったので…」

やはり魔物娘がガイドとなるのならこういう場所が「最後」なのだろうが、今回は一緒に考えた計画に沿って旅行しているのでそれが新人が紹介すべき道順と違うという理由で彼女が小言をもらうのは違うだろう。

「ジパングの出身なので温泉街の方に泊まりたかったんです。この旅行計画、一緒に考えてもらったんですよ」

同僚ワイバーン「一緒に!?ちょっとこっち来なさいよ!」

同僚らしきワイバーンとその他数名に店の端へ連れていかれる彼女。何かを話しているようだ。

バーテンダー「その右肩、何かありましたか?」

彼女が囲まれている間、「カクテル」というお酒を店員のワームの方からもらった。
地図を見せて色々聞いているとそれとなく、器具の事を聞いてくる。

「これですか?右肩が昔から外れやすくて…それで来て早々病院でつけてもらったんです」

バーテンダー「なるほど…それで左手にそんなに匂いがついているのですね」

「え?」

本当にそうなのかと左手を見てみるとクスクスと笑われてしまった。

バーテンダー「もちろん、人間の方にはわかりませんよ。私達だからわかる程ですが。それにしても珍しい。新人ガイドが観光客の方と一緒に計画を立てるなんて。あり得るとしたら、ドラゴニア観光2回目以降の方ですね」

確かに一度か二度と訪れた場所を再び旅行する時はもう一度同じように回るか別の場所を回るかと選択肢が増える。
何も知らない人間が初めて来る土地で案内役と旅行計画を立てるのは確かに変な気もする。

ガイド達「「「えぇ!?」」」

何かあったのだろうか。

バーテンダー「どうしたのでしょうね?そういえば、知っておられるかもしれませんがガイドの娘達には竜騎士団所属で、まだパートナーのいない娘もいるんです。そういう娘達との出会いもドラゴニア観光の醍醐味なんですよ。大荷物のようですし、何処かに住まれるご予定が?もしドラゴニアにお住いになられるのなら彼女と竜騎士を目指してみてはどうですか?彼女の先輩のワイバーンやワームは今では騎竜なんですよ?こうして後輩達と話に来ることはありますけれども」

竜騎士というからにはそれなりに身体が丈夫である必要がありそうだが、如何せんこの肩なので無理だろう。

確かに旅行先で永住する覚悟ももちろんあるので貯めたお金も全て使い、その上で永住しても良いと思えるこの国を最初の旅行先に選んだのだから。
ただ、ジパング生まれの人間が簡単にこの国の文化に携わる職に就けるかと言われれば自信はない。

「そうか〜…住むならお金もだし服も家も…温泉街とかなら働けるかな〜…」

バーテンダー「温泉街で働いておられたのですか?」

「少しだけ。ジパングの温泉と同じようなら働けるはずです」

きっとこの国の温泉にも「そういう効能」の温泉はあるだろう。
お小遣い稼ぎとしてそういう場所で働いていたりしたせいか、「効く時は効くけどかなり強くて、効かない時があると次に効く時もっと強くなる」といった、ちょっとした耐性とそれに対する跳ね返りがあるのだ。

バーテンダー「なるほど。温泉街の宿の方でしたら貴方に合う浴衣もあるかもしれませんね」

「浴衣があるんですか?」

バーテンダー「ええ。ドラゴニア観光に来られた方はそこで東方の文化を楽しまれますね。お饅頭もありますので食べてみては?」

まさかこの国で温泉饅頭を食べれるとは思っていなかった。これまで通った場所はジパングとは違った文化、街並みだったのだ。暮らす人はそのまま、街並みだけが故郷に近くなる事を考えると少し楽しみになる。

バーテンダー「あちらのお話も終わったようですね。こちらをどうぞ」

「ありがとうございます」




──さて、時間はほんの少し遡って──


同僚ワイバーン「いいな〜。そんなゲットの仕方。右肩を怪我してるのは別として、いい男じゃない!」

先輩や同僚にソラさんと一時的に引き離され、店の隅でお話中。ソラさんはバーテンダーさんに地図を見せて話をしている。

同僚リザードマン「それで…どうでしたか?」

「どうって…何が?」

先輩ワーム「なるほど、味見はまだなのね」

味見と言われて思い出すのはレストランでの出来事。ちょっと忘れていたが少し考えれば今日初めて会った人に食べさせてもらっていることを考えると…

「………………」

先輩ワイバーン「逆に味見されちゃった?」

「いえっ…!そこまでは……」

先輩ワーム「ヤレない理由でも?あの右肩?確かに危ないかもしれないわね」

「実はあの肩…私が外しちゃって…」

ガイド達「「「えぇ!?」」」

「ちょっと声が!!」

この距離ならハッキリ聞かれてしまったかもしれない。

先輩ワーム「もしかして…あの人そういう好み?」

「違いますよ!たぶん…」

同僚ワイバーン「先輩さすがにそれはないかと…だいたい、それで惚れるようなら相当ですよ?」

もし彼がそういう趣味だとしたら私には難しいだろう。アリとは思うが。

同僚リザードマン「この辺りでは珍しい髪色と目の色ですし、唾つけてるのなら早めに匂い濃くしないと。まだガイドと観光客の関係なんでしょ?あっちがなびく可能性はまだあるんだから」

確かに、同意の上で一夫多妻制の家族もいるが、そもそも今日知り合って形式上は仕事中と旅行中。
それを考えると少し焦ってくる。

「どうしよう…!」

先輩ワーム「やっぱりまだここに住むつもりか分からない以上無理強いは出来ないわ。こちらがあちらの故郷に行ってでも同棲したいと示すのがいいでしょうね。この後温泉に行くんでしょう?他の人に目がいかないように釘付けにするのよ!」

先輩ワイバーン「きっと大丈夫よ。あの人、結構貴女の匂いが左手についてるから。故郷の人達らしき匂いもするけど、今一番強いのは貴女ね。どう?いけそう?」

先輩ワーム「別に私達みたいになる騎竜と竜騎士の関係のパートナーである必要はないもの。そうね……服なんかプレゼントしてみてはどう?あの人まだ東方の服着てるし、手作りだと間に合わないだろうからその場しのぎでもいいから自分の物だって主張できるものを渡さないと。」

確かに、荷物は分けて持っているとはいえ、服装は周りと浮いていていかにも旅行中といった感じ。
でも、受け取ってくれるだろうか。

同僚ワイバーン「何はともあれ、待たしてるし、まだ一緒に飲んでないじゃないの。ほら、飲んできなさい!」

そうこうして同僚や先輩に背中を押される形で元の席に戻った。

バーテンダー「あちらのお話も終わったようですね。こちらをどうぞ」

空「ありがとうございます」



──時間は戻って──


「おかえりなさい。」

バーテンダーさんからお酒の入った容器を2つもらい片方は自分に、片方は彼女へ渡す。

なんだかとっても注目されている気がするが。

セルカ「あの…まだ夜ではないですけれど…今日はどうでしたか?」

もちろん楽しかった。これからのことも楽しみにしている。

「もちろん、楽しかったですよ。どうかしましたか?」

セルカ「あの…その…この国の服とか……興味ありますか?この後行く温泉街には確かにソラさんの国の文化もありますけれど…ここの国の服とかも着てもらいたいな〜…なんて…」

確かにずっとジパングの服を着ていたんだし、温泉街に行っても結局このままなのは旅行としてどうなのだろう。お金はまだ余裕があるので大丈夫だろう。

「いいですね。案内頼めますか?」

先輩ワイバーン「よっ…!」

先輩ワーム「ちょっと!」

セルカ「…………」

何やら騒がしいが、どうかしたのだろうか。1人のワイバーンが他の魔物娘達に抑え込まれている。

セルカ「きっとゲームでもして勝ったんですよ。お店の迷惑になるから抑え込んだんじゃないですか?…たぶん…」

それならいいのだが。なんだか申し訳なくなる。

「それじゃあ、早速行きませんか?」

今まではこちらが手を取っていたがこちらから手を差し出してみる。

セルカ「はい!行きましょう!」

2人手を取って、もうすぐ沈みそうな陽に紅く染められた街を温泉街目指して歩いて行った。







先輩ワーム「よっし!!!」

先輩ワイバーン「頑張るのよ、セルカ!!」

同僚ワイバーン「結婚式呼んで貰えますかね?」

先輩ワイバーン「ジパングだとしても行くのよ!……ガイドなんだからしっかりリードしないとって息巻いていたあの娘と一緒に並んでくれる人ができたなんて………」

同僚リザードマン「確かに、男の方前には出てませんね。」

先輩ワイバーン「そこが良いのよ!どっちが上とかじゃなくて、常に対等で有ろうとするのが!!」

バーテンダー「そういう事じゃないと思いますけど……何はともあれ、めでたいですね。」




店の中から何か聞こえた気がしたが気にせず歩こう。
21/09/22 19:47更新 / 白黒トラベラー(旧垢)
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