1話 握手厳禁!?
ジパングを出発して数日、長旅の末とうとう目的地の竜皇国ドラゴニアに到着した。
「あ〜疲れた〜〜」
気持ちいいほどの快晴。照らされる街並み。ジパングにも爬虫類系の魔物娘達は暮らしているが、ここまで多いのは初めて見た。
「えっと…まずはガイドさんか」
相手が居ない男が1人で「比較的安全に」旅をするのならガイドさんは必須。
ジパングを経つ時「若い男は私達にとってはどんな宝物より貴重なもの。それが異国の男なら尚更。気をつけなさい。」と既婚者含め何人かの魔物娘達に教えてもらった。
旅行に行くと決めた時、近所や友人からかなり反対されたものだ。
もちろん、魔物に対して良くない意見を持つ人達では無い。彼ら……というかほとんど彼女らなのだが、彼女らからすれば「外で嫁探しするのなら地元で嫁探しをすればいいのに」という価値観なのだろう。
「ただの旅行なんだけどね〜…」
とは言っても、やはり一人旅は不安になる。知り合いと連絡も直ぐに取れない状態で異国にしばらく留まるのだから。
「ありがとうございました〜」
買い物をしていた夫婦─もちろん奥さんは魔物娘だ─に道を教えてもらい、大きな通りに出た。名前はまだ分からないが、後でガイドさんに教えてもらおう。
大通りを歩いていると、ジパングとは違う街並みに圧倒されてしまう。ワーム、ドラゴン、ワイバーンを中心にその他の種族も歩いている。その多くがやはり家族連れだったりする。
両親を呼ぶ楽しそうな女の子の声とパタパタと羽ばたく音。新婚旅行だろうか、地図を手に仲良く手を繋ぎ歩く夫婦。店や家が建ち並び、魔物も人も関係なく共に歩むこの風景はジパングも変わらない。
医者「何はともあれ、しばらく安静にしてください。いいですね?」
「はい…」
ワイバーン「ごめんなさい…」
さて、こうなった経緯は横にいる美人さんとの出会いに遡る。
ワイバーン「お兄さ〜ん!観光客の方ですか〜?」
元気な声で話しかけられ、右肩を軽く引っ張られた瞬間
コキャッ!
周囲の人が思わずこちらを見てしまう程の音をたてて、肩が外れてしまったのだ。
幼い頃高所から落ち、地面にぶつかる前に父親が右手を捕まえて事なきを得たものの、衝撃が全て右肩にかかってしまい、外れやすくなってしまったのだ。
ここがジパングなら「いつもの事」で済むのだがここは異国、ドラゴニア。何も事情を知らない彼女はもちろん大いに慌てて病院まで連れてきてくれたのだ。
連れて来てもらった病院では「外れやすいのなら尚更安静にしろ!身体は大事にするものだ」とお医者さんとその奥さんのドラゴンに怒られてしまった。
ワイバーン「という訳なんです…」
尻尾を椅子の足に絡ませて、しょんぼりしながら上司らしきワイバーンに報告する彼女を見ているとこちらまで申し訳なくなってしまう。
山に沿う形のドラゴニアはガイドがいなければ初めて訪れる人間には危険な場所。
公認観光案内所のガイドにはこの国の「竜騎士」なる組織の所属の人もいるのだとか。
彼女もそんな場所の新人ガイドらしい。ガイドが観光客の肩を外した─正確には弱すぎて外れたのだが─という話はあまりよろしくないようだ。気にしてないのに。
先輩ワイバーン「この度は本当に申し訳ございません…折角来ていただいたのに…」
ドラゴン、というか龍や爬虫類系の魔物娘の人達。例えば温泉の方々だったりにはよくしてもらっているのでどうも頭が上がらないことがあるのだがこうして頭を下げられてしまうと逆に困ってしまう。
「大丈夫ですよ。昔から癖なだけですから。それで、ガイドさんの話なんですが…」
先輩ワイバーン「この娘にはしっかり言っておきますので…」
本当に困った。謝らせるつもりなんてないのに。どうせなら、偶然とはいえ出会ったこの新人ガイドさんに案内を頼もうと思ってここまで来たのだ。
鱗は落ち着いた深緑、翼膜は穏やかな緑、髪は薄く白みがかかった緑と全身が緑なのだが薄肌色の肌と琥珀のように輝く切れ長だが優しい目。
人間とは違う箇所のある魔物娘達を見てきたが、故郷の国では見れない美しさに気づけば心を奪われていた。
「これも何かの縁でしょう。出来れば彼女にガイドをお願いしたいのです。なので…この件は私が転けて怪我をしてしまったという事で…」
先輩ワイバーン「しかし…」
「お手数をお掛けしたのはこちらもですから」
先輩ワイバーン「わかりました。本当に申し訳ございません。セルカ、わかったわね?」
この新人ガイドさんは「セルカ」という名前らしい。ジパングではあまり聞かない音だからか余計に惹かれるものがあった。
セルカ「それでは改めまして。今年ガイドになりました、セルカと申します。お兄さん、よろしくお願いしますね?」
「はじめまして。空といいます。」
セルカ「えーっと…ちょっと待ってくださいね?ここがこうだから………」
新人ということでやはり仕事に慣れていないようだが、こちらの為に必死に旅行の計画を立ててくれるその姿、見ていても飽きないとはこのことだろうか。
「それなら、一緒に考えませんか?」
セルカ「えっ?…ですが…」
「僕と貴女の2人で回るための計画なんですから、一緒に考えましょう?」
腕を吊りながら何を言っているのだろうか。
セルカ「は…はい!!まずはすぐそのの竜翼通りから…」
「すぐそこの、ですか?」
セルカ「そうですそうです!「すぐそこの」です!」
噛んでしまったことに気づいて真っ赤になる顔。なんとも可愛い。まるで親かあるいはは所有物に対して愛情を示すような言葉になってしまうがなんとも言えない可愛いさがある。
セルカ「はい!ここがドラゴニアのメインストリート、竜翼通りです!!!」
「おお…!さっきよりも人が増えてる…!」
病院に連れて行ってもらう前より何倍も人が増えている。昼頃ということもあってか、目立つのは家族や恋人同士で食事処に並ぶこの国の人々の姿。
セルカ「でしょうでしょう!!!夜は夜でとっても綺麗なんですよ!お兄さ…あ、ソラさん!楽しみにしていてくださいね!………ところで、「ソラ」ってどういう意味なんですか?」
確かにジパングならまだしも、この国では「そら」という音の並びの名前は珍しいのかもしれない。
「そらはね、アレのことだよ。」
そう言って空を指さす。ジパングの文字の通り「空」から名前がとられている。名前を決める時に「この名前が将来的に縁起のいい」ものになると聞かされていたが飛竜と呼ばれるらしい彼女と会えた事を考えると確かにそうなのだろう。
セルカ「空…なるほど!お空の「ソラ」だったんですね!」
パタパタと翼を動かして今にも飛びそうなほど大きな反応を示してくれる。
セルカ「ソラさん!ドラゴニアのお空はどうですか?」
「そうだね…まだ晴れた空しか見てないからね…夜空とか雨空も見てみたいな。」
実際山の多いジパングの地形と同じような天気になるのなら、山の頂上から見た空はきっと素晴らしいのだろう。
セルカ「色々な空を見てみたい………」
「どうかしましたか?」
セルカ「いえいえなんでも!さぁ、そろそろお昼ですからレストランへ行きましょう!」
昼頃、清々しいほどの晴天はいつしか照りつける暑さへと変わりつつある。
とは言うものの、屋根の下で食事をするのなら関係はない。建物が陽の光を反射し、眩く輝く様を眺めて一休みできるいい席だ。
「はんばぁがぁ」なる料理や「すてーき」という肉料理はジパングから1歩も外に出たことの無い異郷の地の者にはかなり美味しく感じられた。
セルカ「美味しいでしょう?」
「ええ。ジパングには無い味だ。」
店の中はちょっとした喧騒に満たされている。喧騒と言っても、大方次はどこへ行こうかと予定を決める家族や恋仲なのだが、巡回中なのだろうか、武具を身につけた魔物娘と男性の2人組も見受けられる。
セルカ「竜騎士にご興味が?」
「竜騎士?」
セルカ「ドラゴニア竜騎士団です。竜騎士は馬の代わりに騎竜に乗るんです。あのお2人もパートナーでしょうね。」
そういえば、ジパングの家の近くにあった道場では落ち武者となって蘇った奥さんとかなり昔から師範代をしている先生もいた。そんな感じだろうか。
「なるほど…。強い絆で結ばれた仲ってところかな」
セルカ「そういう認識でいいと思います!ところで私にも一口くれませんか?ちょっとこの翼だと取りづらくて。」
そういうと口を開けてくる彼女。
「はい、どうぞ。」
セルカ「あひはほうこはいまふ!」
「何も食べながら話さなくても」
セルカ「ぷは〜っ。次は何処に行きましょう?地下水路なんてのもいいですよ!他にも大きな滝だってありますから!」
「お口についてますよ?」
宝石のような目をキラキラと輝かせて話す彼女。口についている食べ物の欠片を指でとってパクリ。
セルカ「あっ…その……」
「嫌だったかな?」
セルカ「いえ…それするなら直接…」
小さく何かを呟く。機嫌を損ねてしまっただろうか。
「どうかしたの?」
セルカ「大丈夫です!さ、行きましょう!」
差し出される左手─というか翼─その手を掴もうとして、少し止まってしまう。
セルカ「あっ……」
「大丈夫ですよ。さ。」
今度はこちらから左手を出す。硬質だが確かな暖かさを感じた。
セルカ「竜の寝床横丁なんてどうですか?他にも竜泉郷という温泉街もあるんですよ!」
旅は道連れだの袖触れ合うも他生の縁だの言うが、今日出会ったばかりの女性と並んで歩く。これを縁と言わずして何と言うのだろうか。昼下がりの街を共に歩く間ずっと考えていた。
「あ〜疲れた〜〜」
気持ちいいほどの快晴。照らされる街並み。ジパングにも爬虫類系の魔物娘達は暮らしているが、ここまで多いのは初めて見た。
「えっと…まずはガイドさんか」
相手が居ない男が1人で「比較的安全に」旅をするのならガイドさんは必須。
ジパングを経つ時「若い男は私達にとってはどんな宝物より貴重なもの。それが異国の男なら尚更。気をつけなさい。」と既婚者含め何人かの魔物娘達に教えてもらった。
旅行に行くと決めた時、近所や友人からかなり反対されたものだ。
もちろん、魔物に対して良くない意見を持つ人達では無い。彼ら……というかほとんど彼女らなのだが、彼女らからすれば「外で嫁探しするのなら地元で嫁探しをすればいいのに」という価値観なのだろう。
「ただの旅行なんだけどね〜…」
とは言っても、やはり一人旅は不安になる。知り合いと連絡も直ぐに取れない状態で異国にしばらく留まるのだから。
「ありがとうございました〜」
買い物をしていた夫婦─もちろん奥さんは魔物娘だ─に道を教えてもらい、大きな通りに出た。名前はまだ分からないが、後でガイドさんに教えてもらおう。
大通りを歩いていると、ジパングとは違う街並みに圧倒されてしまう。ワーム、ドラゴン、ワイバーンを中心にその他の種族も歩いている。その多くがやはり家族連れだったりする。
両親を呼ぶ楽しそうな女の子の声とパタパタと羽ばたく音。新婚旅行だろうか、地図を手に仲良く手を繋ぎ歩く夫婦。店や家が建ち並び、魔物も人も関係なく共に歩むこの風景はジパングも変わらない。
医者「何はともあれ、しばらく安静にしてください。いいですね?」
「はい…」
ワイバーン「ごめんなさい…」
さて、こうなった経緯は横にいる美人さんとの出会いに遡る。
ワイバーン「お兄さ〜ん!観光客の方ですか〜?」
元気な声で話しかけられ、右肩を軽く引っ張られた瞬間
コキャッ!
周囲の人が思わずこちらを見てしまう程の音をたてて、肩が外れてしまったのだ。
幼い頃高所から落ち、地面にぶつかる前に父親が右手を捕まえて事なきを得たものの、衝撃が全て右肩にかかってしまい、外れやすくなってしまったのだ。
ここがジパングなら「いつもの事」で済むのだがここは異国、ドラゴニア。何も事情を知らない彼女はもちろん大いに慌てて病院まで連れてきてくれたのだ。
連れて来てもらった病院では「外れやすいのなら尚更安静にしろ!身体は大事にするものだ」とお医者さんとその奥さんのドラゴンに怒られてしまった。
ワイバーン「という訳なんです…」
尻尾を椅子の足に絡ませて、しょんぼりしながら上司らしきワイバーンに報告する彼女を見ているとこちらまで申し訳なくなってしまう。
山に沿う形のドラゴニアはガイドがいなければ初めて訪れる人間には危険な場所。
公認観光案内所のガイドにはこの国の「竜騎士」なる組織の所属の人もいるのだとか。
彼女もそんな場所の新人ガイドらしい。ガイドが観光客の肩を外した─正確には弱すぎて外れたのだが─という話はあまりよろしくないようだ。気にしてないのに。
先輩ワイバーン「この度は本当に申し訳ございません…折角来ていただいたのに…」
ドラゴン、というか龍や爬虫類系の魔物娘の人達。例えば温泉の方々だったりにはよくしてもらっているのでどうも頭が上がらないことがあるのだがこうして頭を下げられてしまうと逆に困ってしまう。
「大丈夫ですよ。昔から癖なだけですから。それで、ガイドさんの話なんですが…」
先輩ワイバーン「この娘にはしっかり言っておきますので…」
本当に困った。謝らせるつもりなんてないのに。どうせなら、偶然とはいえ出会ったこの新人ガイドさんに案内を頼もうと思ってここまで来たのだ。
鱗は落ち着いた深緑、翼膜は穏やかな緑、髪は薄く白みがかかった緑と全身が緑なのだが薄肌色の肌と琥珀のように輝く切れ長だが優しい目。
人間とは違う箇所のある魔物娘達を見てきたが、故郷の国では見れない美しさに気づけば心を奪われていた。
「これも何かの縁でしょう。出来れば彼女にガイドをお願いしたいのです。なので…この件は私が転けて怪我をしてしまったという事で…」
先輩ワイバーン「しかし…」
「お手数をお掛けしたのはこちらもですから」
先輩ワイバーン「わかりました。本当に申し訳ございません。セルカ、わかったわね?」
この新人ガイドさんは「セルカ」という名前らしい。ジパングではあまり聞かない音だからか余計に惹かれるものがあった。
セルカ「それでは改めまして。今年ガイドになりました、セルカと申します。お兄さん、よろしくお願いしますね?」
「はじめまして。空といいます。」
セルカ「えーっと…ちょっと待ってくださいね?ここがこうだから………」
新人ということでやはり仕事に慣れていないようだが、こちらの為に必死に旅行の計画を立ててくれるその姿、見ていても飽きないとはこのことだろうか。
「それなら、一緒に考えませんか?」
セルカ「えっ?…ですが…」
「僕と貴女の2人で回るための計画なんですから、一緒に考えましょう?」
腕を吊りながら何を言っているのだろうか。
セルカ「は…はい!!まずはすぐそのの竜翼通りから…」
「すぐそこの、ですか?」
セルカ「そうですそうです!「すぐそこの」です!」
噛んでしまったことに気づいて真っ赤になる顔。なんとも可愛い。まるで親かあるいはは所有物に対して愛情を示すような言葉になってしまうがなんとも言えない可愛いさがある。
セルカ「はい!ここがドラゴニアのメインストリート、竜翼通りです!!!」
「おお…!さっきよりも人が増えてる…!」
病院に連れて行ってもらう前より何倍も人が増えている。昼頃ということもあってか、目立つのは家族や恋人同士で食事処に並ぶこの国の人々の姿。
セルカ「でしょうでしょう!!!夜は夜でとっても綺麗なんですよ!お兄さ…あ、ソラさん!楽しみにしていてくださいね!………ところで、「ソラ」ってどういう意味なんですか?」
確かにジパングならまだしも、この国では「そら」という音の並びの名前は珍しいのかもしれない。
「そらはね、アレのことだよ。」
そう言って空を指さす。ジパングの文字の通り「空」から名前がとられている。名前を決める時に「この名前が将来的に縁起のいい」ものになると聞かされていたが飛竜と呼ばれるらしい彼女と会えた事を考えると確かにそうなのだろう。
セルカ「空…なるほど!お空の「ソラ」だったんですね!」
パタパタと翼を動かして今にも飛びそうなほど大きな反応を示してくれる。
セルカ「ソラさん!ドラゴニアのお空はどうですか?」
「そうだね…まだ晴れた空しか見てないからね…夜空とか雨空も見てみたいな。」
実際山の多いジパングの地形と同じような天気になるのなら、山の頂上から見た空はきっと素晴らしいのだろう。
セルカ「色々な空を見てみたい………」
「どうかしましたか?」
セルカ「いえいえなんでも!さぁ、そろそろお昼ですからレストランへ行きましょう!」
昼頃、清々しいほどの晴天はいつしか照りつける暑さへと変わりつつある。
とは言うものの、屋根の下で食事をするのなら関係はない。建物が陽の光を反射し、眩く輝く様を眺めて一休みできるいい席だ。
「はんばぁがぁ」なる料理や「すてーき」という肉料理はジパングから1歩も外に出たことの無い異郷の地の者にはかなり美味しく感じられた。
セルカ「美味しいでしょう?」
「ええ。ジパングには無い味だ。」
店の中はちょっとした喧騒に満たされている。喧騒と言っても、大方次はどこへ行こうかと予定を決める家族や恋仲なのだが、巡回中なのだろうか、武具を身につけた魔物娘と男性の2人組も見受けられる。
セルカ「竜騎士にご興味が?」
「竜騎士?」
セルカ「ドラゴニア竜騎士団です。竜騎士は馬の代わりに騎竜に乗るんです。あのお2人もパートナーでしょうね。」
そういえば、ジパングの家の近くにあった道場では落ち武者となって蘇った奥さんとかなり昔から師範代をしている先生もいた。そんな感じだろうか。
「なるほど…。強い絆で結ばれた仲ってところかな」
セルカ「そういう認識でいいと思います!ところで私にも一口くれませんか?ちょっとこの翼だと取りづらくて。」
そういうと口を開けてくる彼女。
「はい、どうぞ。」
セルカ「あひはほうこはいまふ!」
「何も食べながら話さなくても」
セルカ「ぷは〜っ。次は何処に行きましょう?地下水路なんてのもいいですよ!他にも大きな滝だってありますから!」
「お口についてますよ?」
宝石のような目をキラキラと輝かせて話す彼女。口についている食べ物の欠片を指でとってパクリ。
セルカ「あっ…その……」
「嫌だったかな?」
セルカ「いえ…それするなら直接…」
小さく何かを呟く。機嫌を損ねてしまっただろうか。
「どうかしたの?」
セルカ「大丈夫です!さ、行きましょう!」
差し出される左手─というか翼─その手を掴もうとして、少し止まってしまう。
セルカ「あっ……」
「大丈夫ですよ。さ。」
今度はこちらから左手を出す。硬質だが確かな暖かさを感じた。
セルカ「竜の寝床横丁なんてどうですか?他にも竜泉郷という温泉街もあるんですよ!」
旅は道連れだの袖触れ合うも他生の縁だの言うが、今日出会ったばかりの女性と並んで歩く。これを縁と言わずして何と言うのだろうか。昼下がりの街を共に歩く間ずっと考えていた。
21/09/22 19:47更新 / 白黒トラベラー(旧垢)
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