1-2 暗中の戦い
「うっふふ、お姉ちゃんたちがここへ来てからずっと見てたんだよ」
そう言って笑ったゴーストの少女に、トレアは「え…?」とベッドの上で困惑した表情を浮かべた。
「どういうことだ…」
「そのまんまの意味だよ。ずっと誰も来なかったこの建物にお姉ちゃんたちが来てくれたの、私の王子さまを連れて…」
「なに…?」
ゴーストの少女はその場で楽しそうにくるくると回った。
「あのおかしな喋り方をするお兄ちゃんもかっこいいし、おじさまも素敵だなぁ…」
そう言うと彼女はトレアの方を見て止まり、手を後ろで組んで赤らめた顔をトレアに近づけた。
「でも、私はあの茶髪のお兄ちゃんが好みだなぁ♥」
「茶髪…トーマのことかっ!」
「あはっ、トーマって言うんだ、あのお兄ちゃん。素敵な名前〜♪」
トレアは険しい表情をした。
「貴様、トーマに何をする気だ…」
「え?何って、私の王子さまになってもらうの。それで…あんなことや、こんなことを…えへへへへ♥」
ゴーストは頬に両手を当てていやらしい笑い方をしたかと思うと、何かに気付いたような顔を浮かべ再びトレアに顔を突き出した。
「もしかして、お姉ちゃん…あのお兄ちゃんが好きなの?」
「なっ…!!!」
「あ、そうなんだ♪あ…じゃあもう付き合ったりしてるの…?」
ゴーストは残念そうな顔になり訊ねる。
トレアは流れで肯定したいと思いながらも、嘘をついても仕方ないと思い正直に答えた。
「…いや、まだ…だが…」
それを聞いたゴーストはコロッと表情を変え、嬉しそうに「えへへ〜」と笑った。
「じゃあトーマお兄ちゃんを私の物にしてもいいよねぇ?」
「な、ダメだッ―!」
トレアはつい強く反対してしまった。
「え〜、だって付き合ったりしてないんでしょ?」
「それは…そうだが…」
「じゃあいいじゃない」
「ダメだ、あいつは…」
(そうだ…トーマはいつか元居た…あいつの世界へ戻らなきゃダメなんだ…)
トーマはいつか彼自身の居場所に戻らなければならない、それなのにこの世界で何かあればトーマは戻りにくくなる。
そうさせてはいけないという思いが、トレア自身の彼への思いを封じ込めていた。
「…あいつにはあいつなりの事情もあるんだ…だから、ダメだ」
「もうっ!私そんなの知らないもんっ、お姉ちゃんのイジワルッ!」
「い、いじわるって、そんなことじゃ…」
「あ〜、わかったっ!お姉ちゃんはトーマお兄ちゃんを誰かに取られるのが嫌なんでしょ!だからそんなイジワル言うんだっ!」
ゴーストはまるで駄々っ子のように怒り、トレアの体を突き抜けて後ろに回り込んだ。
「うわぁッ―!?」
トレアは自分の体をすり抜けられ驚き、ベッドから立ち上がって後ろを振り向くがゴーストはそこにおらず、ぴったりとトレアの後ろにくっついていた。
「な、なにをっ―!?」
「お姉ちゃんは誰かにトーマお兄ちゃんを取られるのが嫌なんでしょ?…しょうがないからお姉ちゃんも一緒にしてあげる」
「な…どういう意味だ…?」
「ホントはお姉ちゃんだって、トーマお兄ちゃんにあんな事やこんな事されたいんでしょ?」
「そんなことっ…!?」
トレアの脳裏に、突然ビジョンが浮かぶ。それは自分がトーマに押し倒されている風景だ。
オレンジ色のライトが照らすベッドルームで、トーマは上の服を脱ぎ、自分は下着だけの状態で彼に覆いかぶさられている。
(な…んだ…これ…こんなのっ…)
トレアは戸惑った。勝手に状景が思い浮かび進んでいく。
「こ、こんな…よせ…」
「ほら、やっぱりそうじゃない…」
(もう、早く堕ちてくれないとグールのみんなに取られちゃうじゃないッ!)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
塔9階・西側の一室―
グールと運悪く遭遇し、塔の一室に逃げ込んだトーマだったが、彼女の嗅覚は易々と逃がしてくれるものではなかった。
トーマは彼女と対峙したまま、この状況を脱するための手段を探していた。
だがどうにもこうにもなりそうもない。携帯しているのは剣と超振動ナイフ、ハンドガンとポーチの中に閃光手榴弾が2つ。
ハンドガンはなるべく使いたくなかった、当たり所が悪ければ魔物と言えど危険だ。閃光手榴弾は脅しくらいにしかならない上、ここに逃げ込む前に一度使っているので手の内は読まれている。剣とナイフでは間合いを詰めてしまい、逆に危険だ。
「もう逃げられねぇぞぉ…もう捕まれよぉ…な♪」
「誰がっ…!」
(…こうなったら一か八かだ…)
トーマは姿勢を低くし、グールに向かって突っ込んだ。そう、彼がとった行動は正面突破、真正面から挑むことだった。
「おっ♪力比べかっ♪」
グールは身構えたが、それがトーマには好機となった。
「…なわけあるかっ!」
トーマは彼女の真ん前まで近づいて右足を出したと同時に体をひねり、右足を軸足に1回転しながらグールの体を躱して脇を抜けた。
「このっ!」
グールは振り返ると同時にトーマに飛びついた。彼はそれをその場から飛び退いて避けると、彼女もまた着地と同時に再び床を蹴り急転換して再び襲い掛かる。
そのあまりの速さに体勢を立て直しきれない間にトーマは床を転がって避け、またすぐに追ってくると確信しすぐに扉へ走るため床を蹴った。
床を蹴り足を踏み出しながらトーマはグールに振り向いた。
(はやっ―!?)
予想したよりもはるかに迫るのが速く、トーマは飛び掛かるグールの手を掴んで抵抗するしかなかった。
グールとて学習能力がないわけではない。その時にはもうトーマに向かって飛び掛かった後だったが、彼が立ち上がって走り出すと踏んだ彼女は奥の部屋とを間仕切る壁を蹴り瞬間的に方向を変えたのだ。
「ぐぁっ―!」
「捕まえたぞぉ…♪」
彼女は嬉しそうに笑った。
トーマは腕に力を籠め、一度は近づきかけた彼女を押し戻した。
「もう、強情だなっ!」
そう言い放ったグールと手と手を握り合わせ必死で押し合いの攻防をしている彼は、床に押し倒されたうえ体に覆い被さられているという状況に陥った。それに時折グールが体に食らい付こうと手や腕を狙ってきている。
「くっ…!」
(こいつにかぶり付かれたらアウトだ…!)
傍にはライトが転がり、壁に2人の影を投影している。
「ぅおぉぉらッ!」
「ぅぐッ―」
グールは腕と胸に力を込めてトーマの腕を押し込んだ。当然力負けした彼の肘は床に着き、ついに顔が間近に迫り豊満な胸はトーマの胸板に押し付けられている。
(くそっ…このままじゃまずいっ―!なにか…なにかっ―)
トーマは目を凄まじいスピードで動かし、転がったライトが薄明るく照らす部屋の中を見回した。視界の中に物が入るのはまさに一瞬だったが、この時の瞬間視と判断能力にはそれで十分だった。
(ロープ…壁から飛びでたフック…壊れた棚の破片…これだけかっ…!ロープはダメだ、あの細さじゃ縛ってもすぐ千切られる…壁から出たフック…あんなものじゃどうあがいてもダメージなんて…あの棚の破片なんて論外か…)
部屋の中にあったのは5メートル近くありそうなロープと、それが掛けられているフック、そしてこの部屋で見つかったときに破壊された棚の木片。使えそうなものはなかった。
「ほらほらっ、もう諦めろって♪」
グールはトーマの両腕を左右に広げて倒そうとしている。
「やな…」
トーマはそう呟きながら自分と、膝立ちに近しい形になっているグールの体の隙間に膝を折り曲げて足を入れた。
「…こったぁッ!」
そして彼女の体に足の脛と腕の力を使って、巴投げ要領で頭上へ投げ倒した。
「ぁがぅっ―」
トーマは即座に立ち上がり、距離を置いた。
今しがたグールを投げ飛ばした時、彼女の反応に気になるものがあったのを彼は見逃さなかった。それは丁度、グールの体に足を掛け投げ飛ばそうとした瞬間であった。
(あれは…まさか…だとすると、この手がいける。あぁ…いや、でも…)
トーマの脳裏には1つの打開策が浮かんでいたが、同時に複雑そうな顔もしていた。
そうしている内にグールは腰を擦りながら起き上った。
「くっそぉ…もう容赦しねぇぞっ!」
「っ…!」
彼女はトーマに向かって拳を振りかぶりながら突進した。初撃は左に大きく体を振って躱したが、続け様にアッパーが彼の顔に迫る。
両手を重ねてそれを防いだが、威力の強さから後ろに軽く弾き飛ばされてしまった。手にはジンジンと痺れるような痛みが走っている。
(なんて威力だ…)
グールは一呼吸置くと、攻撃を続行した。
「おらぁっ!」
トーマは直撃すれば一撃でダウン間違いないであろうパンチをスレスレで2発避け、繰り出された蹴りを屈んで凌いだ。
(しょうがないっ、背に腹は代えられないか…!)
グールは蹴りを放った流れで一周回ってパンチを繰り出した。
トーマはまた身を低くしてそれを避け、カウンターパンチを彼女の腹部に入れ、怯んだ彼女に続けて回し蹴りを叩き込んだ。
勢いで後ろに退いたものの、蹴りは辛うじてガードされてしまい、腹部に決まったカウンターも彼女には目立った効果はない。さすがは魔物娘というところか、と彼は感心した。
「こんな抵抗じゃ無駄なんだよッ!」
中々抵抗をやめないトーマにイラつき気味に彼女は怒鳴った。
トーマはしゃがみながら言った。
「それはどうかなっ…!」
彼は手の届く範囲にあった少し大きめの棚の破片を手当たり次第にグールに向かって投げつけた。
「ふんっ!」
飛んで行った木片はまさに粉砕という具合に彼女によって木端微塵に砕かれていく。
「だから無駄だって言ってんだろッ!」
彼女はまた怒鳴ったが、トーマは続けて木片を投げつけた。
舌打ちをして2つ3つ破片を砕いた時、砕いた木片の陰から円筒状の物が現れ、驚く暇すらなかった。
凄まじい音と光が彼女の視覚と聴覚を一時的に奪い、大きな隙を生ませる。トーマは木片を投げている隙にピンを抜き、最後のいくつかと一緒に投げることで不意を衝くことに成功した。
「ぅあぁ…ぁぁ…このッ…こんなことしたってなぁッ!」
グールはしばらくヨロヨロと目を抑えてふら付いていたが、やがてショックが和らいだのか、片手を前に付きだして探りながら匂いを頼りに歩き出した。
匂いは奥の部屋から漂っていて、外に逃げた様子はない。奥の部屋に入って匂いを嗅ぎ、トーマがどこにいるのかは大体分かった。
「この…今度こそ…」
「ああ、今度こそ逃げさせてもらう」
「あ?…何を…」
シュルシュルッと何かがこすれる音がしたかと思えば、グールは急に与えられた刺激に思わず声を挙げた。
「うあぁんッ―!?」
トーマがこの作戦を思いついた切欠は、もちろん彼女を投げ飛ばす瞬間に見せた反応に他ならなかった。ではその反応とは何か?
あの時、トーマとグールの顔はかなり近く、表情まできっちり見て取れた。
「んふぁぁ…!」
そう甘い声を漏らした彼女の顔は、不意を衝かれて驚いたというものともう一つ、眉が垂れ眉間にしわを寄せた切なげな表情が満面に表れていた。さらに体から力が急激に抜けたのもトーマは感じた。
この時彼が足を掛けたのは、偶然にも彼女の一番敏感な部分だった。いや、むしろ必然的なことだったかもしれない。トーマの体を跨いでいざ立ちの状態でいたなら、その場所に足がかかろうが自然なことだ。
トーマの考えた作戦は次の通りだ。
彼女が閃光手榴弾の効果で怯んでいるうちに、ライトを拾って壁のフックに掛けられたロープに駆け寄り、そこから向かい側の壁を照らす。すると彼の希望通りに向かいの壁にもフックがあった。
まずロープを片方のフックに引っ掻け、二重にして床に垂らしながら途中で結び目を作りつつ反対側のフックに同じ側から回りこむように引っ掻ける。準備はこれだけだ。
あとはグールがその場所の上に来るのを見計らって縄を力一杯引いて固定すればいいだけだ。
トーマはグールが爪先立ちになる程まで縄を張りつめさせ、余った部分を持ったまま悶える彼女の元まで行くと彼女を押して少し後退させた。
「ぁあぁンッ―」
彼女の弱点である生殖器が丁度いくつかこしらえた結び目の1つに接し、体がビクンビクンと小刻みに震えた。
トーマはグールの腕を前に引っ張り、縄が弛まないように注意しながらその伸ばした腕の手首に縄の端を縛り付けた。
これが一体どういうことになるかというと、もし引きちぎろうと力を籠めれば縄は引っ張られ一層刺激が強くなってしまい彼女は動けなくなる。逆に緩めようと前に進もうとすればロープが擦れて刺激になる上、短い間隔で作られた結び目が生殖器を刺激し同じく動けなくなる。
すなわち、生殖器が非常に敏感なグールの彼女にとっては、もうどうにもならない拘束状態が出来上がっているわけなのである。
彼女が身動きができないことを見届けたトーマは手をパンパンと払った。
「悪いな、ここでお前に捕まるわけにはいかないんだ」
「んッ…くふぅ…ぅあぁ…」
トーマは床に転がったライトを拾うと、後ろにグールの喘ぎ声を聞きながらその部屋を後にした。
(まったく…『あいつ』の部屋でたまたま見つけた本が役に立つなんて…奇妙なもんだ…)
そう思った彼の顔には苦笑とも取れるような笑みが浮かんでいた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
塔7階・東側の一室―
フィアはこの部屋に匿われてからすぐ、部屋の前を大勢の足音が通り過ぎるのを聞いた。
(トーマ…大丈夫かなぁ…)
ここに隠れてからすでに15分近く経つが、外からは今まで足音も聞こえてきていない。トーマがゾンビたちを引きつれていってくれた証拠だ。
ふと彼女はライトを点け、部屋の中を見回す。部屋は今いる空間が12畳ほどで、奥にもマジ着られて空間が広がっているようだ。
辺りはしんと静まり返っており、ゾンビが隠れていそうな気配もない。フィアは壁際に座り、溜め息をこぼした。
(…今までも野生の魔物に何回か遭ったけど…今日が一番厄介かも…)
ガシャンッ―
「ッ―!」
部屋の奥から何かが落ちる音がして、フィアは身を強張らせた。
ライトを点け、フィアは恐る恐る部屋の奥へと向けた。奥のフロアへの入り口から見えるのは、金属製の棚や台。
下ろしていた腰を上げ、ゆっくりと奥のフロアへ向かうと、そこにはメスやハサミなどの医療器具が並んでいて、中央には人1人が寝られる大きさの台があった。
「手術…室…」
その光景を目の前にして、一気に彼女の中の恐怖心が増す。
よりにもよってどうしてこんなところに逃げ込んでしまったのだろう、そんな後悔を思いながら辺りを見回す。
すると、床に転がった鉄製の皿が目に入ってきた。そして、その近くには一匹のネズミ。
(なんだ…ネズミか…)
ホッと胸を撫で下ろし、入り口に戻ろうと振り向いた。
「アァ…」
「………」
一瞬それと目が合った。
「キャアアァッ!」
すぐ目の前にゾンビが1人立っていた。
フィアは思わず突き飛ばして後ろに下がり距離を置く。
(うそ…うそ…)
突き飛ばされたゾンビは倒れたまま、ゆっくりノソノソと這いより、やがてヨタヨタと立ち上がると目の前の獲物に近づいた。
「やめて…来ないで…来ないでっ!」
彼女は半泣きになりながらゾンビから逃げた。手当たり次第に辺りの物を自分と相手の間に落とし牽制しようとするが、ゾンビはまったく意にも解さない様子で歩み寄ってくる。
手術台を迂回してフィアは一気に入口まで逃げようとして走り出した。
「キャッ―!」
何かに、足首を掴まれた。
手術台に向かって倒れ、手を付いたフィアが足元に目線を向ける。見上げるゾンビとまた目が合った。
(うそ…もう1人いたの…!?)
「離してッ、離してッ!」
慌てて足を無茶苦茶に動かし、掴む手を振り切った。ところが、いつのまにか迫っていたもう1人が彼女を手術台の上に押し倒した。
「やめてッ、離してよッ!」
彼女は腕が開いた状態で手首辺りを押さえつけられ、抵抗を試みるがその拘束から逃れられない。
一見、ノロマで非力そうに見えるゾンビたちだが、その印象に反して力は強い。正しく言うなら、魔物の中でも非力な部類ではあるが、人間の若い男性の力くらいはあるのだ。
フィアを見下ろす彼女たちの顔は、血色が悪い肌の色をしているにも関わらず方が赤らんでいた。目もトロンと微睡んでいる風にも見える。
「精…ちょうだい…」
手首を押さえつけたゾンビは、そう言うとフィアの首筋に舌を這わせた。
「ひっ…」
彼女たちの冷たい唾液を帯びた舌のヌルリとした感触に、ゾクッという感覚が体を駆け巡る。
少し荒い彼女の鼻息が首に辺り、ピチャピチャという音が耳のすぐそばで聞こえる。
「やだ…やめて…」
思わず声が小さくなってしまう。
「な…ふあっ…」
もう1人のゾンビが露出した太ももの内側を舐め始め、そのくすぐったいような感覚に思わず声が漏れる。
その舌は少しずつ少しずつ、舐め始める場所を足の付け根に近づけていた。それに伴ってくすぐったい感覚が強くなっていき、くすぐったいというよりも別の感覚が生まれていた。
首筋を舐めていた方は、胸元が開いたシャツから覗くデコルテへと移していた。
「んっ…あ、んッ…は、なして…」
小さく高い声がフィアから漏れる。だがそれでも抵抗はやめない。
脚を舐めていたゾンビの手がホットパンツにかかったことを感じてフィアは戸惑う。
「なっ…」
ホックとジッパーを外し、下着ごと下ろした。外気にさらされた股間が涼しくなったかと思うと、冷たく柔らかいものがそこに触れる。
「あンッ―」
ゾンビはフィアの女性器にむしゃぶり付いて、吸い上げながら舌を動かした。ゾンビはフェラをしているつもりらしいが、実際はクンニに他ならない。
出てくる液体も男性のそれとは違い、精などほとんど含まれておらず、ゾンビはおっとりと首を傾げ、また口を付けた。
「あッ、やッ…やめ、て…やめて…ってばッ―!」
「あうっ―」
フィアはゾンビの肩に足を掛けて蹴り飛ばし、ゾンビは後ろの棚に衝突して気を失った。
だがそんなことはお構いなしに、もう一人のゾンビは舐めることをやめ頭をあげた。そして自分の腰を彼女の腰へと近づけ、そっと降ろした。
「ンッ―」
「ぅあぅ…」
フィアは自分の秘部に暖かく粘液を帯びたものが振れるのを感じ、媚声をこぼした。
上に乗ったゾンビも顔を少しほころばせ、腰を動かした。
「ぅあっ…あンっ、あッ…」
「ンッ…あうッ、んッ…」
2人の女の喘ぎ声が静かで暗い部屋の中に響く。
だが、性的快感を感じながらもフィアの頭には逃れることしかない。
そしてようやくそのチャンスが巡ってきた、腰の動きをどんどん速くしていたゾンビの腕の力が弱まってきたのだ。
(今…ならっ…)
フィアはゾンビの拘束から腕を引き抜き、彼女を隣へ押し倒した。
体を起こしたフィアの腕に、ゾンビがしがみ付く。
「うあ…」
「やっ…離してよ……このっ…もうッ!」
一向に離そうとしないゾンビ、そんな彼女を何とかしようと意を決したフィアは思い切って彼女の秘部に手を伸ばす。
(うわ…グチョグチョだ…)
思い切って手を伸ばしたは良いものの、その感触と今やろうとしていることに羞恥心が湧き上がって、思わず躊躇ってしまう。
だがその躊躇いを振り切ってフィアは指を動かした。
ゾンビの秘部は、手や肌とは違い熱いほどに熱を持ち、蕩けてしまったのかと思うほどに濡れていた。
指を動かせばグチュリと淫靡な水音が鳴り、愛液が絡みついた。
そんなゾンビは徐々に腕を掴むというより、両手でしがみ付くという方がいい状態に変わってきた。欲情した喘ぎ声を漏らし、息はどんどんと荒くなる。
「あッ、あぁッ、あんッ…」
フィアは甘い香りを感じながら、ここぞとばかりに指を動かした。
彼女とて前の世界でウブだったわけではない。人並みに付き合ったこともあれば、性の知識もそれなりに。自慰もすることはある。
だが中指を穴に入れ、親指はクリトリスを捏ね繰りまわしていく、自らの自慰よりも断然激しい動きに、興奮と恥じらいを覚えずにはいられない。
やがて中指が徐々にキツくなって、指先に当たる子宮口が下がってくるのが分かった。
(あ…イきそう…なんだ…)
「えい…」
「あッ、ぅあッ〜〜〜〜!」
中指を曲げ、親指を押し付けた。
次の瞬間、ゾンビは下腹部と足を痙攣させ、息を詰まらせたように果てた。
腕を掴んでいた手からは力が抜けていた。フィアは今の内だ、と下着とパンツを履き、乱れた服を直した。
落としたライトを拾おうとしたとき、ふと、下着のクロッチが湿っている事に気付き、彼女は顔を赤くした。
(………。…あとで着替えなきゃ…)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「あっはは…ほら、素直になりなってば…」
少女の声が暗い部屋に響く。そして、もう1人の熱っぽい吐息も。
「はぁ…はぁ…、私…は…」
トレアは頭の中に流れ込むトーマとの淫らで、さらに魅力的でもあるビジョンに悩まされていた。止め処なく浮かぶ彼と、ゴーストの少女と、己が絡む厭らしい情事の光景に秘部はもう目を覆いたくなるほどに濡れきっていた。
必死に理性が抵抗するも、徐々に拒めなくなっていくのが判った。
濃厚で熱いキス、それと同時に下半身に延ばされる彼の手。
トーマの上に自分が密着して重なり、その後ろからゴーストの少女が胸を押し付けながら自分の胸を揉み次第ている。
彼のもう片方の手はすでに体を少しずらした少女の秘部へ当てがわれ、少女は自分の首筋に熱い吐息を吐き掛けていた。
「2人とも…こんなに濡らして…気持ちいいんだな」
トーマが絶対に吐きそうにもない台詞だったが、麻痺しかかっている頭はまた自分からは想像もできない答えを返す。
「とっても…いいの…おっぱいもアソコもすごく気持ちいいのっ…」
続けて、少女も発情しきった声で答える。
「トーマの指が…あッ、私の大事なところを…掻き回してッ…あンッ!」
現実のトレアの姿勢は前かがみになり、ただの幻覚であるはずの快感に悶えつつも堪えていた。
まだ想いすら伝えていないという理性と、己が戦士であるゆえのプライドが、彼女に与えられた唯一の盾であり、鎧だった。
だが着実に、その盾にはヒビが入り、鎧の繋ぎ目はほつれ掛けているのだ。
ゴーストは基本的に男性に対して自分の情事の妄想を共有させる。ただし、稀に女性や魔物に対してもそれをする。
その理由は、意中の男性に妻がいた場合に自分を受け入れさせるため。今回も似たようなものだった。
彼女はトレアがトーマに想いを寄せていることを敏感に感じ取っていた、そして、彼女は自分にとって大きな障害になるかもしれないと考えたのだ。それはいわば「意中の男性に妻がいる」という状況とほぼ同義だと考えてよかった。
障害を打破するのに一番早い方法は、快楽を強く求めさせ理性を破壊することだ。そのストレートでシンプルな方法こそ、なにより強い攻撃なのである。
「へぇ…こういうのが好きなんだぁ…、やっぱり女の子なんだね♪」
「うるさいっ………そんな…こと…っ、ふぁぅ…」
ゴーストの少女は『腹ペコ』で、本能が赴くままに動いている。そして、だからこそ嫌に頭が冴えた。
どれだけ拒もうと、多少なりとも「こうなればいい、こうしてくれればいい」という願望のようなものは湧くものだ。少女はそれを感じ取り、それに則したイメージをする。
要は、少女自身が好むプレイスタイルではなく、トレアが好む状況にすることで、抵抗を弱めているのだ。
トーマの指がゆっくりと膣腔の奥に向かって進入を始めた。
「あッ…」
やがて奥まで達した指先を彼は小さく動かし、子宮口をまるで指先で舐めるように愛撫した。
そっとトーマはトレアの耳元に口を近づける。
「愛してるよ、トレア…」
「ッ―! うぁッ、そんな…こと…っ、言われたらぁ…ンンンッ―――!!!」
妄想の中のトレアの体が激しく波を打って、絶頂を迎えたことを明らさまに表した。
「ぅくぅっ――!」
妄想の中だけに留まらず、現実の体にも影響は与えられた。膝が何度か落ちそうになり、体がブルッ、ブルッと震える。軽くイってしまったということは言うまでもないだろう。
「愛を囁き合いながらするいやらしいエッチ…かぁ♪ ロマンチックで刺激的ですっごく素敵…♪」
嗜虐的な色を覗かせる口調でゴーストの少女は耳元で囁いた。そしてさらに魔物らしい方向へ堕とすべくもう一言続けた。
「ねぇ…彼と『本当』にしてみたいと思わない?」
その言葉は、まるでがら空きになった体に食らわせるボディーブローの様に、トレアに浸透する。
(トーマと…本当に…)
わずかに残った、こんな妄想に浸り実際に達してしまったという背徳心と罪悪感、そしてこんなことを考えるべきでないという拒絶心が徐々に後退していく。
「ねぇ、どうなの?」
「…それは…」
トレアは顔を背けた。
「したいんでしょ?本当は………ずぅっと、トーマに抱かれて、愛されて、悦びたいんでしょ?」
(ずっと…トーマに…抱いて…ほしい…、愛してほしい…、悦ばせてほしい…)
「私と一緒に彼に喜ばせてもらおうよ」
「…うん…」
ゴーストの少女の口角がゆっくりと上がる。
もう障害はなくなった。トレアは、このリザードマンは完璧に手中に落ちたと確信した。
故に少女は気を抜き、蛇足を犯してしまった。
「さぁ、トーマお兄ちゃんを探しに行こう…きっと今1人で不安なはずだから」
「…うん」
ここまでで少女が止めておけば、トレアは少女の思惑通りになったかもしれなかった。
だが少女は放ってしまった、彼女の記憶から読み取った言葉を。その、諸刃の剣を。
「早く行こう、だって…」
「『俺の背中はお前に任せたからな』って言われなんでしょ?」
少女の思惑では、「そうだな、早くいかないと…」とトレアは自分と一緒にトーマの元へ向かうはずだった。
(そうだ…私はトーマに任せたと、信頼していると言われたんだ………信頼…どうして…何に…対して…?)
ところがそうはいかなかった。「お前に任せた」という言葉の意味を、彼女は思い出してしまったからだ。
(戦うために…なにと?…教会の騎士たちと…騎士…騎士?)
「ぁっ―!」
一気に脳裏にフラッシュバックしたのは血にまみれた騎士の顔。傷つき倒れるトーマの背中。忌まわしいあの日のこと。そして2人で過ごしたあの夜のこと。そう、「絶対に大丈夫だ」と言ってくれた、あの夜のこと。
(そうだ…私は…私たちは、こんなところで…)
トレアは踏み出しかけた足を止め、立ち止まった。
少女は彼女の異変に気づき振り返った。
「どうしたの?早く行きましょ?」
「ああ…そうだな、早くいかないと………。私たちはここで止まるわけにはいかない…」
「え…?」
「ここを出て、先に進まなければ…!」
「なっ…!?」
ゴーストの少女は焦燥した。取り除いたはずの障害が、再び依然としてそこに立ち塞がってしまった、と。
だが少女は、だったらもう一度落とすだけ、とでも言わんばかりにトレアに憑りついた。
「っ………!」
トレアの中に再び流れ込む妄想の嵐。だが今度はそう簡単に飲み込まれはしなかった。
妄想の中では、また先ほどの様にトレアはトーマと少女に板挟みにされていた。
「ほら、気持ちいでしょ?」
また後ろから自分の胸を揉みながら少女は言った。だが、少し焦りが見える。
トレアはもう流されなかった。今度のトレアは体勢を返し少女をベッドの上に倒した、という妄想をする。
「ああ、お前も気持ち良くしてやろう」
そう言って少女の太ももを持って開き、まだ幼さの残る綺麗な割れ目に舌を這わせた、妄想をする。
「ぁンッ―」
少女から漏れる媚声。
トレアは続けて妄想をする、舌を上へ下へ、強く弱く、激しく優しく、その純粋な性器に奔らせる様を。
「くぅ、あッ、ぅッ…このッ…!」
妄想の中で少女は反撃し、トレアを押しのけた。そうして一度は逃れたが、すぐに異変に気付く。
「えっ、なっ、なによこれッ…!?」
両腕は万歳の形に頭上へ持ち上げられ、両足は開いて伸ばされたまま少女はベッドに張り付けられた。
「妄想というのは便利だな…何せ、想像すれば何でもできるんだから…こんな風にいきなり縄を出して相手を縛ることも」
トレアは拘束した少女の秘部に手を伸ばす。そして人のそれへと変化させた手の指を割れ目の奥の穴に挿入させた。
「ぅあ…やめてっ…」
「悪いが時間がない。手早くさせてもらう」
そう言うと彼女はいきなり激しく膣腔の中を掻き回し始めた。愛液でグチョグチョになったアソコからは厭らしい水音がたち、ネットリとした飛沫がシーツを汚した。
「ひゃぁあああァァッ―――!!!」
悲鳴にも似た喘ぎ声が少女から放たれる。そしてすぐに足をつま先までピンと張って痙攣させて絶頂に達した。
ところがトレアの責めはまだまだ終わらない。
まだビクビクと蠢くその穴の中を変わらないペースで掻き回し続ける。
「おねーちゃッ―!だめッ、まだイってッ―ダメッまたぁぁ、ひぅッ―――!!!!」
今度はガクガクと腰を痙攣させながら息を詰まらせた。
トレアは口を彼女のまだ発育途中の双丘の頂上にある突起へと近づけ、優しく咥えこんだ。かと思うと激しく吸引し、舌で蹂躙する。
「あッ、あぁッ―!おっぱいだめぇぇっ…!」
縄に延ばしあげられた四肢を必死に引っ張り、その刺激から逃れようとする。だが胸からの甘い快感に力も弱まり、再開された下半身への愛撫によって少女は全ての抵抗を阻まれた。
改めて説明するが、淫らな行為が行われるのは妄想の中、ゴーストの十八番である。そして妄想であるが故に縄で縛られたなら『縄が切れる』という妄想をすればよいだけのこと。
ところが気を動転させた時点で少女はトレアに勝機を与えてしまったといって過言ではない。思考がマヒするほどの責めを与えられ、逆転はなくなったのだ。
現実のトレアは妄想の中とは違い、頬を紅潮させているものの静かな表情で立っていた。一方のゴーストの少女はというと、凛と立つトレアの目の前に浮いて、喘ぎを漏らしながらその身をよじらせていた。
トレアの頭の中に妄想を流し込む際、彼女のことをいち早く堕とすべく妄想がもたらす体への影響を一番大きくした形で入ったが、それが今少女自身を追い詰めていた。
そしてついに妄想の中では十数回目の大きな絶頂を迎え、それが現実にも影響をもたらす。
「くッ…ふぁァァッ―――!」
ゴーストの体は痙攣し、膝から崩れ落ちるかのごとく地面に墜落し横たわってしまう。
「トーマは…あなたになんてあげない…それに、今はそんなことをしていられない」
荒く息をする少女にトレアは言った。
そして彼女は少女の脇を通り過ぎ、出口へ向かった。ドアを開けようとしたとき、少女は言った。
「なによっ…まだ告白だってしてない、迷ってばっかりのくせにっ…!」
「………」
トレアは立ち止まり、少し沈黙した。
「せっかくのチャンス…ものにしなくてもいいの…?」
少女の誘惑の言葉。
これは彼女の言うとおりチャンスなのかもしれない、トレアもそう思った。ただ、もうそんな言葉には呑まれない。
「たしかに…私もいつ言えるかは分からない。それでも、今はこれでいいんだ…きっと」
そしてゴーストの少女を残し、ドアは閉ざされた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
塔15階・西通路―
「いやぁ…あっぶなー。行き止まりやったときは終わった思うたで…」
フィムはそう言って腰を下ろして一息ついた。
その隣にペタンと座り込んだのはキャス。そしてミラとノルヴィも安堵の様子を見せている。
「ゾンビにグールにスケルトン…アンデッド大集合だな…」
「うっふふ、でもこうしてみると壮観にも思えるわね」
ミラが冗談交じりにこたえる。
「もぉ…それにしたって数が多すぎるよ」
キャスは疲れた様子で天井を仰ぎながらぼやくと、他の3人と同じように目の前の光景に視線を向ける。
「おかげで…」
4人が視線を向けた先、そこには通路を長々と塞ごうかという巨大な氷塊と、氷漬けになったアンデッド属の魔物娘たちがいた。
「おかげで…僕の魔力空っぽだよ…」
そう言って笑ったゴーストの少女に、トレアは「え…?」とベッドの上で困惑した表情を浮かべた。
「どういうことだ…」
「そのまんまの意味だよ。ずっと誰も来なかったこの建物にお姉ちゃんたちが来てくれたの、私の王子さまを連れて…」
「なに…?」
ゴーストの少女はその場で楽しそうにくるくると回った。
「あのおかしな喋り方をするお兄ちゃんもかっこいいし、おじさまも素敵だなぁ…」
そう言うと彼女はトレアの方を見て止まり、手を後ろで組んで赤らめた顔をトレアに近づけた。
「でも、私はあの茶髪のお兄ちゃんが好みだなぁ♥」
「茶髪…トーマのことかっ!」
「あはっ、トーマって言うんだ、あのお兄ちゃん。素敵な名前〜♪」
トレアは険しい表情をした。
「貴様、トーマに何をする気だ…」
「え?何って、私の王子さまになってもらうの。それで…あんなことや、こんなことを…えへへへへ♥」
ゴーストは頬に両手を当てていやらしい笑い方をしたかと思うと、何かに気付いたような顔を浮かべ再びトレアに顔を突き出した。
「もしかして、お姉ちゃん…あのお兄ちゃんが好きなの?」
「なっ…!!!」
「あ、そうなんだ♪あ…じゃあもう付き合ったりしてるの…?」
ゴーストは残念そうな顔になり訊ねる。
トレアは流れで肯定したいと思いながらも、嘘をついても仕方ないと思い正直に答えた。
「…いや、まだ…だが…」
それを聞いたゴーストはコロッと表情を変え、嬉しそうに「えへへ〜」と笑った。
「じゃあトーマお兄ちゃんを私の物にしてもいいよねぇ?」
「な、ダメだッ―!」
トレアはつい強く反対してしまった。
「え〜、だって付き合ったりしてないんでしょ?」
「それは…そうだが…」
「じゃあいいじゃない」
「ダメだ、あいつは…」
(そうだ…トーマはいつか元居た…あいつの世界へ戻らなきゃダメなんだ…)
トーマはいつか彼自身の居場所に戻らなければならない、それなのにこの世界で何かあればトーマは戻りにくくなる。
そうさせてはいけないという思いが、トレア自身の彼への思いを封じ込めていた。
「…あいつにはあいつなりの事情もあるんだ…だから、ダメだ」
「もうっ!私そんなの知らないもんっ、お姉ちゃんのイジワルッ!」
「い、いじわるって、そんなことじゃ…」
「あ〜、わかったっ!お姉ちゃんはトーマお兄ちゃんを誰かに取られるのが嫌なんでしょ!だからそんなイジワル言うんだっ!」
ゴーストはまるで駄々っ子のように怒り、トレアの体を突き抜けて後ろに回り込んだ。
「うわぁッ―!?」
トレアは自分の体をすり抜けられ驚き、ベッドから立ち上がって後ろを振り向くがゴーストはそこにおらず、ぴったりとトレアの後ろにくっついていた。
「な、なにをっ―!?」
「お姉ちゃんは誰かにトーマお兄ちゃんを取られるのが嫌なんでしょ?…しょうがないからお姉ちゃんも一緒にしてあげる」
「な…どういう意味だ…?」
「ホントはお姉ちゃんだって、トーマお兄ちゃんにあんな事やこんな事されたいんでしょ?」
「そんなことっ…!?」
トレアの脳裏に、突然ビジョンが浮かぶ。それは自分がトーマに押し倒されている風景だ。
オレンジ色のライトが照らすベッドルームで、トーマは上の服を脱ぎ、自分は下着だけの状態で彼に覆いかぶさられている。
(な…んだ…これ…こんなのっ…)
トレアは戸惑った。勝手に状景が思い浮かび進んでいく。
「こ、こんな…よせ…」
「ほら、やっぱりそうじゃない…」
(もう、早く堕ちてくれないとグールのみんなに取られちゃうじゃないッ!)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
塔9階・西側の一室―
グールと運悪く遭遇し、塔の一室に逃げ込んだトーマだったが、彼女の嗅覚は易々と逃がしてくれるものではなかった。
トーマは彼女と対峙したまま、この状況を脱するための手段を探していた。
だがどうにもこうにもなりそうもない。携帯しているのは剣と超振動ナイフ、ハンドガンとポーチの中に閃光手榴弾が2つ。
ハンドガンはなるべく使いたくなかった、当たり所が悪ければ魔物と言えど危険だ。閃光手榴弾は脅しくらいにしかならない上、ここに逃げ込む前に一度使っているので手の内は読まれている。剣とナイフでは間合いを詰めてしまい、逆に危険だ。
「もう逃げられねぇぞぉ…もう捕まれよぉ…な♪」
「誰がっ…!」
(…こうなったら一か八かだ…)
トーマは姿勢を低くし、グールに向かって突っ込んだ。そう、彼がとった行動は正面突破、真正面から挑むことだった。
「おっ♪力比べかっ♪」
グールは身構えたが、それがトーマには好機となった。
「…なわけあるかっ!」
トーマは彼女の真ん前まで近づいて右足を出したと同時に体をひねり、右足を軸足に1回転しながらグールの体を躱して脇を抜けた。
「このっ!」
グールは振り返ると同時にトーマに飛びついた。彼はそれをその場から飛び退いて避けると、彼女もまた着地と同時に再び床を蹴り急転換して再び襲い掛かる。
そのあまりの速さに体勢を立て直しきれない間にトーマは床を転がって避け、またすぐに追ってくると確信しすぐに扉へ走るため床を蹴った。
床を蹴り足を踏み出しながらトーマはグールに振り向いた。
(はやっ―!?)
予想したよりもはるかに迫るのが速く、トーマは飛び掛かるグールの手を掴んで抵抗するしかなかった。
グールとて学習能力がないわけではない。その時にはもうトーマに向かって飛び掛かった後だったが、彼が立ち上がって走り出すと踏んだ彼女は奥の部屋とを間仕切る壁を蹴り瞬間的に方向を変えたのだ。
「ぐぁっ―!」
「捕まえたぞぉ…♪」
彼女は嬉しそうに笑った。
トーマは腕に力を籠め、一度は近づきかけた彼女を押し戻した。
「もう、強情だなっ!」
そう言い放ったグールと手と手を握り合わせ必死で押し合いの攻防をしている彼は、床に押し倒されたうえ体に覆い被さられているという状況に陥った。それに時折グールが体に食らい付こうと手や腕を狙ってきている。
「くっ…!」
(こいつにかぶり付かれたらアウトだ…!)
傍にはライトが転がり、壁に2人の影を投影している。
「ぅおぉぉらッ!」
「ぅぐッ―」
グールは腕と胸に力を込めてトーマの腕を押し込んだ。当然力負けした彼の肘は床に着き、ついに顔が間近に迫り豊満な胸はトーマの胸板に押し付けられている。
(くそっ…このままじゃまずいっ―!なにか…なにかっ―)
トーマは目を凄まじいスピードで動かし、転がったライトが薄明るく照らす部屋の中を見回した。視界の中に物が入るのはまさに一瞬だったが、この時の瞬間視と判断能力にはそれで十分だった。
(ロープ…壁から飛びでたフック…壊れた棚の破片…これだけかっ…!ロープはダメだ、あの細さじゃ縛ってもすぐ千切られる…壁から出たフック…あんなものじゃどうあがいてもダメージなんて…あの棚の破片なんて論外か…)
部屋の中にあったのは5メートル近くありそうなロープと、それが掛けられているフック、そしてこの部屋で見つかったときに破壊された棚の木片。使えそうなものはなかった。
「ほらほらっ、もう諦めろって♪」
グールはトーマの両腕を左右に広げて倒そうとしている。
「やな…」
トーマはそう呟きながら自分と、膝立ちに近しい形になっているグールの体の隙間に膝を折り曲げて足を入れた。
「…こったぁッ!」
そして彼女の体に足の脛と腕の力を使って、巴投げ要領で頭上へ投げ倒した。
「ぁがぅっ―」
トーマは即座に立ち上がり、距離を置いた。
今しがたグールを投げ飛ばした時、彼女の反応に気になるものがあったのを彼は見逃さなかった。それは丁度、グールの体に足を掛け投げ飛ばそうとした瞬間であった。
(あれは…まさか…だとすると、この手がいける。あぁ…いや、でも…)
トーマの脳裏には1つの打開策が浮かんでいたが、同時に複雑そうな顔もしていた。
そうしている内にグールは腰を擦りながら起き上った。
「くっそぉ…もう容赦しねぇぞっ!」
「っ…!」
彼女はトーマに向かって拳を振りかぶりながら突進した。初撃は左に大きく体を振って躱したが、続け様にアッパーが彼の顔に迫る。
両手を重ねてそれを防いだが、威力の強さから後ろに軽く弾き飛ばされてしまった。手にはジンジンと痺れるような痛みが走っている。
(なんて威力だ…)
グールは一呼吸置くと、攻撃を続行した。
「おらぁっ!」
トーマは直撃すれば一撃でダウン間違いないであろうパンチをスレスレで2発避け、繰り出された蹴りを屈んで凌いだ。
(しょうがないっ、背に腹は代えられないか…!)
グールは蹴りを放った流れで一周回ってパンチを繰り出した。
トーマはまた身を低くしてそれを避け、カウンターパンチを彼女の腹部に入れ、怯んだ彼女に続けて回し蹴りを叩き込んだ。
勢いで後ろに退いたものの、蹴りは辛うじてガードされてしまい、腹部に決まったカウンターも彼女には目立った効果はない。さすがは魔物娘というところか、と彼は感心した。
「こんな抵抗じゃ無駄なんだよッ!」
中々抵抗をやめないトーマにイラつき気味に彼女は怒鳴った。
トーマはしゃがみながら言った。
「それはどうかなっ…!」
彼は手の届く範囲にあった少し大きめの棚の破片を手当たり次第にグールに向かって投げつけた。
「ふんっ!」
飛んで行った木片はまさに粉砕という具合に彼女によって木端微塵に砕かれていく。
「だから無駄だって言ってんだろッ!」
彼女はまた怒鳴ったが、トーマは続けて木片を投げつけた。
舌打ちをして2つ3つ破片を砕いた時、砕いた木片の陰から円筒状の物が現れ、驚く暇すらなかった。
凄まじい音と光が彼女の視覚と聴覚を一時的に奪い、大きな隙を生ませる。トーマは木片を投げている隙にピンを抜き、最後のいくつかと一緒に投げることで不意を衝くことに成功した。
「ぅあぁ…ぁぁ…このッ…こんなことしたってなぁッ!」
グールはしばらくヨロヨロと目を抑えてふら付いていたが、やがてショックが和らいだのか、片手を前に付きだして探りながら匂いを頼りに歩き出した。
匂いは奥の部屋から漂っていて、外に逃げた様子はない。奥の部屋に入って匂いを嗅ぎ、トーマがどこにいるのかは大体分かった。
「この…今度こそ…」
「ああ、今度こそ逃げさせてもらう」
「あ?…何を…」
シュルシュルッと何かがこすれる音がしたかと思えば、グールは急に与えられた刺激に思わず声を挙げた。
「うあぁんッ―!?」
トーマがこの作戦を思いついた切欠は、もちろん彼女を投げ飛ばす瞬間に見せた反応に他ならなかった。ではその反応とは何か?
あの時、トーマとグールの顔はかなり近く、表情まできっちり見て取れた。
「んふぁぁ…!」
そう甘い声を漏らした彼女の顔は、不意を衝かれて驚いたというものともう一つ、眉が垂れ眉間にしわを寄せた切なげな表情が満面に表れていた。さらに体から力が急激に抜けたのもトーマは感じた。
この時彼が足を掛けたのは、偶然にも彼女の一番敏感な部分だった。いや、むしろ必然的なことだったかもしれない。トーマの体を跨いでいざ立ちの状態でいたなら、その場所に足がかかろうが自然なことだ。
トーマの考えた作戦は次の通りだ。
彼女が閃光手榴弾の効果で怯んでいるうちに、ライトを拾って壁のフックに掛けられたロープに駆け寄り、そこから向かい側の壁を照らす。すると彼の希望通りに向かいの壁にもフックがあった。
まずロープを片方のフックに引っ掻け、二重にして床に垂らしながら途中で結び目を作りつつ反対側のフックに同じ側から回りこむように引っ掻ける。準備はこれだけだ。
あとはグールがその場所の上に来るのを見計らって縄を力一杯引いて固定すればいいだけだ。
トーマはグールが爪先立ちになる程まで縄を張りつめさせ、余った部分を持ったまま悶える彼女の元まで行くと彼女を押して少し後退させた。
「ぁあぁンッ―」
彼女の弱点である生殖器が丁度いくつかこしらえた結び目の1つに接し、体がビクンビクンと小刻みに震えた。
トーマはグールの腕を前に引っ張り、縄が弛まないように注意しながらその伸ばした腕の手首に縄の端を縛り付けた。
これが一体どういうことになるかというと、もし引きちぎろうと力を籠めれば縄は引っ張られ一層刺激が強くなってしまい彼女は動けなくなる。逆に緩めようと前に進もうとすればロープが擦れて刺激になる上、短い間隔で作られた結び目が生殖器を刺激し同じく動けなくなる。
すなわち、生殖器が非常に敏感なグールの彼女にとっては、もうどうにもならない拘束状態が出来上がっているわけなのである。
彼女が身動きができないことを見届けたトーマは手をパンパンと払った。
「悪いな、ここでお前に捕まるわけにはいかないんだ」
「んッ…くふぅ…ぅあぁ…」
トーマは床に転がったライトを拾うと、後ろにグールの喘ぎ声を聞きながらその部屋を後にした。
(まったく…『あいつ』の部屋でたまたま見つけた本が役に立つなんて…奇妙なもんだ…)
そう思った彼の顔には苦笑とも取れるような笑みが浮かんでいた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
塔7階・東側の一室―
フィアはこの部屋に匿われてからすぐ、部屋の前を大勢の足音が通り過ぎるのを聞いた。
(トーマ…大丈夫かなぁ…)
ここに隠れてからすでに15分近く経つが、外からは今まで足音も聞こえてきていない。トーマがゾンビたちを引きつれていってくれた証拠だ。
ふと彼女はライトを点け、部屋の中を見回す。部屋は今いる空間が12畳ほどで、奥にもマジ着られて空間が広がっているようだ。
辺りはしんと静まり返っており、ゾンビが隠れていそうな気配もない。フィアは壁際に座り、溜め息をこぼした。
(…今までも野生の魔物に何回か遭ったけど…今日が一番厄介かも…)
ガシャンッ―
「ッ―!」
部屋の奥から何かが落ちる音がして、フィアは身を強張らせた。
ライトを点け、フィアは恐る恐る部屋の奥へと向けた。奥のフロアへの入り口から見えるのは、金属製の棚や台。
下ろしていた腰を上げ、ゆっくりと奥のフロアへ向かうと、そこにはメスやハサミなどの医療器具が並んでいて、中央には人1人が寝られる大きさの台があった。
「手術…室…」
その光景を目の前にして、一気に彼女の中の恐怖心が増す。
よりにもよってどうしてこんなところに逃げ込んでしまったのだろう、そんな後悔を思いながら辺りを見回す。
すると、床に転がった鉄製の皿が目に入ってきた。そして、その近くには一匹のネズミ。
(なんだ…ネズミか…)
ホッと胸を撫で下ろし、入り口に戻ろうと振り向いた。
「アァ…」
「………」
一瞬それと目が合った。
「キャアアァッ!」
すぐ目の前にゾンビが1人立っていた。
フィアは思わず突き飛ばして後ろに下がり距離を置く。
(うそ…うそ…)
突き飛ばされたゾンビは倒れたまま、ゆっくりノソノソと這いより、やがてヨタヨタと立ち上がると目の前の獲物に近づいた。
「やめて…来ないで…来ないでっ!」
彼女は半泣きになりながらゾンビから逃げた。手当たり次第に辺りの物を自分と相手の間に落とし牽制しようとするが、ゾンビはまったく意にも解さない様子で歩み寄ってくる。
手術台を迂回してフィアは一気に入口まで逃げようとして走り出した。
「キャッ―!」
何かに、足首を掴まれた。
手術台に向かって倒れ、手を付いたフィアが足元に目線を向ける。見上げるゾンビとまた目が合った。
(うそ…もう1人いたの…!?)
「離してッ、離してッ!」
慌てて足を無茶苦茶に動かし、掴む手を振り切った。ところが、いつのまにか迫っていたもう1人が彼女を手術台の上に押し倒した。
「やめてッ、離してよッ!」
彼女は腕が開いた状態で手首辺りを押さえつけられ、抵抗を試みるがその拘束から逃れられない。
一見、ノロマで非力そうに見えるゾンビたちだが、その印象に反して力は強い。正しく言うなら、魔物の中でも非力な部類ではあるが、人間の若い男性の力くらいはあるのだ。
フィアを見下ろす彼女たちの顔は、血色が悪い肌の色をしているにも関わらず方が赤らんでいた。目もトロンと微睡んでいる風にも見える。
「精…ちょうだい…」
手首を押さえつけたゾンビは、そう言うとフィアの首筋に舌を這わせた。
「ひっ…」
彼女たちの冷たい唾液を帯びた舌のヌルリとした感触に、ゾクッという感覚が体を駆け巡る。
少し荒い彼女の鼻息が首に辺り、ピチャピチャという音が耳のすぐそばで聞こえる。
「やだ…やめて…」
思わず声が小さくなってしまう。
「な…ふあっ…」
もう1人のゾンビが露出した太ももの内側を舐め始め、そのくすぐったいような感覚に思わず声が漏れる。
その舌は少しずつ少しずつ、舐め始める場所を足の付け根に近づけていた。それに伴ってくすぐったい感覚が強くなっていき、くすぐったいというよりも別の感覚が生まれていた。
首筋を舐めていた方は、胸元が開いたシャツから覗くデコルテへと移していた。
「んっ…あ、んッ…は、なして…」
小さく高い声がフィアから漏れる。だがそれでも抵抗はやめない。
脚を舐めていたゾンビの手がホットパンツにかかったことを感じてフィアは戸惑う。
「なっ…」
ホックとジッパーを外し、下着ごと下ろした。外気にさらされた股間が涼しくなったかと思うと、冷たく柔らかいものがそこに触れる。
「あンッ―」
ゾンビはフィアの女性器にむしゃぶり付いて、吸い上げながら舌を動かした。ゾンビはフェラをしているつもりらしいが、実際はクンニに他ならない。
出てくる液体も男性のそれとは違い、精などほとんど含まれておらず、ゾンビはおっとりと首を傾げ、また口を付けた。
「あッ、やッ…やめ、て…やめて…ってばッ―!」
「あうっ―」
フィアはゾンビの肩に足を掛けて蹴り飛ばし、ゾンビは後ろの棚に衝突して気を失った。
だがそんなことはお構いなしに、もう一人のゾンビは舐めることをやめ頭をあげた。そして自分の腰を彼女の腰へと近づけ、そっと降ろした。
「ンッ―」
「ぅあぅ…」
フィアは自分の秘部に暖かく粘液を帯びたものが振れるのを感じ、媚声をこぼした。
上に乗ったゾンビも顔を少しほころばせ、腰を動かした。
「ぅあっ…あンっ、あッ…」
「ンッ…あうッ、んッ…」
2人の女の喘ぎ声が静かで暗い部屋の中に響く。
だが、性的快感を感じながらもフィアの頭には逃れることしかない。
そしてようやくそのチャンスが巡ってきた、腰の動きをどんどん速くしていたゾンビの腕の力が弱まってきたのだ。
(今…ならっ…)
フィアはゾンビの拘束から腕を引き抜き、彼女を隣へ押し倒した。
体を起こしたフィアの腕に、ゾンビがしがみ付く。
「うあ…」
「やっ…離してよ……このっ…もうッ!」
一向に離そうとしないゾンビ、そんな彼女を何とかしようと意を決したフィアは思い切って彼女の秘部に手を伸ばす。
(うわ…グチョグチョだ…)
思い切って手を伸ばしたは良いものの、その感触と今やろうとしていることに羞恥心が湧き上がって、思わず躊躇ってしまう。
だがその躊躇いを振り切ってフィアは指を動かした。
ゾンビの秘部は、手や肌とは違い熱いほどに熱を持ち、蕩けてしまったのかと思うほどに濡れていた。
指を動かせばグチュリと淫靡な水音が鳴り、愛液が絡みついた。
そんなゾンビは徐々に腕を掴むというより、両手でしがみ付くという方がいい状態に変わってきた。欲情した喘ぎ声を漏らし、息はどんどんと荒くなる。
「あッ、あぁッ、あんッ…」
フィアは甘い香りを感じながら、ここぞとばかりに指を動かした。
彼女とて前の世界でウブだったわけではない。人並みに付き合ったこともあれば、性の知識もそれなりに。自慰もすることはある。
だが中指を穴に入れ、親指はクリトリスを捏ね繰りまわしていく、自らの自慰よりも断然激しい動きに、興奮と恥じらいを覚えずにはいられない。
やがて中指が徐々にキツくなって、指先に当たる子宮口が下がってくるのが分かった。
(あ…イきそう…なんだ…)
「えい…」
「あッ、ぅあッ〜〜〜〜!」
中指を曲げ、親指を押し付けた。
次の瞬間、ゾンビは下腹部と足を痙攣させ、息を詰まらせたように果てた。
腕を掴んでいた手からは力が抜けていた。フィアは今の内だ、と下着とパンツを履き、乱れた服を直した。
落としたライトを拾おうとしたとき、ふと、下着のクロッチが湿っている事に気付き、彼女は顔を赤くした。
(………。…あとで着替えなきゃ…)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「あっはは…ほら、素直になりなってば…」
少女の声が暗い部屋に響く。そして、もう1人の熱っぽい吐息も。
「はぁ…はぁ…、私…は…」
トレアは頭の中に流れ込むトーマとの淫らで、さらに魅力的でもあるビジョンに悩まされていた。止め処なく浮かぶ彼と、ゴーストの少女と、己が絡む厭らしい情事の光景に秘部はもう目を覆いたくなるほどに濡れきっていた。
必死に理性が抵抗するも、徐々に拒めなくなっていくのが判った。
濃厚で熱いキス、それと同時に下半身に延ばされる彼の手。
トーマの上に自分が密着して重なり、その後ろからゴーストの少女が胸を押し付けながら自分の胸を揉み次第ている。
彼のもう片方の手はすでに体を少しずらした少女の秘部へ当てがわれ、少女は自分の首筋に熱い吐息を吐き掛けていた。
「2人とも…こんなに濡らして…気持ちいいんだな」
トーマが絶対に吐きそうにもない台詞だったが、麻痺しかかっている頭はまた自分からは想像もできない答えを返す。
「とっても…いいの…おっぱいもアソコもすごく気持ちいいのっ…」
続けて、少女も発情しきった声で答える。
「トーマの指が…あッ、私の大事なところを…掻き回してッ…あンッ!」
現実のトレアの姿勢は前かがみになり、ただの幻覚であるはずの快感に悶えつつも堪えていた。
まだ想いすら伝えていないという理性と、己が戦士であるゆえのプライドが、彼女に与えられた唯一の盾であり、鎧だった。
だが着実に、その盾にはヒビが入り、鎧の繋ぎ目はほつれ掛けているのだ。
ゴーストは基本的に男性に対して自分の情事の妄想を共有させる。ただし、稀に女性や魔物に対してもそれをする。
その理由は、意中の男性に妻がいた場合に自分を受け入れさせるため。今回も似たようなものだった。
彼女はトレアがトーマに想いを寄せていることを敏感に感じ取っていた、そして、彼女は自分にとって大きな障害になるかもしれないと考えたのだ。それはいわば「意中の男性に妻がいる」という状況とほぼ同義だと考えてよかった。
障害を打破するのに一番早い方法は、快楽を強く求めさせ理性を破壊することだ。そのストレートでシンプルな方法こそ、なにより強い攻撃なのである。
「へぇ…こういうのが好きなんだぁ…、やっぱり女の子なんだね♪」
「うるさいっ………そんな…こと…っ、ふぁぅ…」
ゴーストの少女は『腹ペコ』で、本能が赴くままに動いている。そして、だからこそ嫌に頭が冴えた。
どれだけ拒もうと、多少なりとも「こうなればいい、こうしてくれればいい」という願望のようなものは湧くものだ。少女はそれを感じ取り、それに則したイメージをする。
要は、少女自身が好むプレイスタイルではなく、トレアが好む状況にすることで、抵抗を弱めているのだ。
トーマの指がゆっくりと膣腔の奥に向かって進入を始めた。
「あッ…」
やがて奥まで達した指先を彼は小さく動かし、子宮口をまるで指先で舐めるように愛撫した。
そっとトーマはトレアの耳元に口を近づける。
「愛してるよ、トレア…」
「ッ―! うぁッ、そんな…こと…っ、言われたらぁ…ンンンッ―――!!!」
妄想の中のトレアの体が激しく波を打って、絶頂を迎えたことを明らさまに表した。
「ぅくぅっ――!」
妄想の中だけに留まらず、現実の体にも影響は与えられた。膝が何度か落ちそうになり、体がブルッ、ブルッと震える。軽くイってしまったということは言うまでもないだろう。
「愛を囁き合いながらするいやらしいエッチ…かぁ♪ ロマンチックで刺激的ですっごく素敵…♪」
嗜虐的な色を覗かせる口調でゴーストの少女は耳元で囁いた。そしてさらに魔物らしい方向へ堕とすべくもう一言続けた。
「ねぇ…彼と『本当』にしてみたいと思わない?」
その言葉は、まるでがら空きになった体に食らわせるボディーブローの様に、トレアに浸透する。
(トーマと…本当に…)
わずかに残った、こんな妄想に浸り実際に達してしまったという背徳心と罪悪感、そしてこんなことを考えるべきでないという拒絶心が徐々に後退していく。
「ねぇ、どうなの?」
「…それは…」
トレアは顔を背けた。
「したいんでしょ?本当は………ずぅっと、トーマに抱かれて、愛されて、悦びたいんでしょ?」
(ずっと…トーマに…抱いて…ほしい…、愛してほしい…、悦ばせてほしい…)
「私と一緒に彼に喜ばせてもらおうよ」
「…うん…」
ゴーストの少女の口角がゆっくりと上がる。
もう障害はなくなった。トレアは、このリザードマンは完璧に手中に落ちたと確信した。
故に少女は気を抜き、蛇足を犯してしまった。
「さぁ、トーマお兄ちゃんを探しに行こう…きっと今1人で不安なはずだから」
「…うん」
ここまでで少女が止めておけば、トレアは少女の思惑通りになったかもしれなかった。
だが少女は放ってしまった、彼女の記憶から読み取った言葉を。その、諸刃の剣を。
「早く行こう、だって…」
「『俺の背中はお前に任せたからな』って言われなんでしょ?」
少女の思惑では、「そうだな、早くいかないと…」とトレアは自分と一緒にトーマの元へ向かうはずだった。
(そうだ…私はトーマに任せたと、信頼していると言われたんだ………信頼…どうして…何に…対して…?)
ところがそうはいかなかった。「お前に任せた」という言葉の意味を、彼女は思い出してしまったからだ。
(戦うために…なにと?…教会の騎士たちと…騎士…騎士?)
「ぁっ―!」
一気に脳裏にフラッシュバックしたのは血にまみれた騎士の顔。傷つき倒れるトーマの背中。忌まわしいあの日のこと。そして2人で過ごしたあの夜のこと。そう、「絶対に大丈夫だ」と言ってくれた、あの夜のこと。
(そうだ…私は…私たちは、こんなところで…)
トレアは踏み出しかけた足を止め、立ち止まった。
少女は彼女の異変に気づき振り返った。
「どうしたの?早く行きましょ?」
「ああ…そうだな、早くいかないと………。私たちはここで止まるわけにはいかない…」
「え…?」
「ここを出て、先に進まなければ…!」
「なっ…!?」
ゴーストの少女は焦燥した。取り除いたはずの障害が、再び依然としてそこに立ち塞がってしまった、と。
だが少女は、だったらもう一度落とすだけ、とでも言わんばかりにトレアに憑りついた。
「っ………!」
トレアの中に再び流れ込む妄想の嵐。だが今度はそう簡単に飲み込まれはしなかった。
妄想の中では、また先ほどの様にトレアはトーマと少女に板挟みにされていた。
「ほら、気持ちいでしょ?」
また後ろから自分の胸を揉みながら少女は言った。だが、少し焦りが見える。
トレアはもう流されなかった。今度のトレアは体勢を返し少女をベッドの上に倒した、という妄想をする。
「ああ、お前も気持ち良くしてやろう」
そう言って少女の太ももを持って開き、まだ幼さの残る綺麗な割れ目に舌を這わせた、妄想をする。
「ぁンッ―」
少女から漏れる媚声。
トレアは続けて妄想をする、舌を上へ下へ、強く弱く、激しく優しく、その純粋な性器に奔らせる様を。
「くぅ、あッ、ぅッ…このッ…!」
妄想の中で少女は反撃し、トレアを押しのけた。そうして一度は逃れたが、すぐに異変に気付く。
「えっ、なっ、なによこれッ…!?」
両腕は万歳の形に頭上へ持ち上げられ、両足は開いて伸ばされたまま少女はベッドに張り付けられた。
「妄想というのは便利だな…何せ、想像すれば何でもできるんだから…こんな風にいきなり縄を出して相手を縛ることも」
トレアは拘束した少女の秘部に手を伸ばす。そして人のそれへと変化させた手の指を割れ目の奥の穴に挿入させた。
「ぅあ…やめてっ…」
「悪いが時間がない。手早くさせてもらう」
そう言うと彼女はいきなり激しく膣腔の中を掻き回し始めた。愛液でグチョグチョになったアソコからは厭らしい水音がたち、ネットリとした飛沫がシーツを汚した。
「ひゃぁあああァァッ―――!!!」
悲鳴にも似た喘ぎ声が少女から放たれる。そしてすぐに足をつま先までピンと張って痙攣させて絶頂に達した。
ところがトレアの責めはまだまだ終わらない。
まだビクビクと蠢くその穴の中を変わらないペースで掻き回し続ける。
「おねーちゃッ―!だめッ、まだイってッ―ダメッまたぁぁ、ひぅッ―――!!!!」
今度はガクガクと腰を痙攣させながら息を詰まらせた。
トレアは口を彼女のまだ発育途中の双丘の頂上にある突起へと近づけ、優しく咥えこんだ。かと思うと激しく吸引し、舌で蹂躙する。
「あッ、あぁッ―!おっぱいだめぇぇっ…!」
縄に延ばしあげられた四肢を必死に引っ張り、その刺激から逃れようとする。だが胸からの甘い快感に力も弱まり、再開された下半身への愛撫によって少女は全ての抵抗を阻まれた。
改めて説明するが、淫らな行為が行われるのは妄想の中、ゴーストの十八番である。そして妄想であるが故に縄で縛られたなら『縄が切れる』という妄想をすればよいだけのこと。
ところが気を動転させた時点で少女はトレアに勝機を与えてしまったといって過言ではない。思考がマヒするほどの責めを与えられ、逆転はなくなったのだ。
現実のトレアは妄想の中とは違い、頬を紅潮させているものの静かな表情で立っていた。一方のゴーストの少女はというと、凛と立つトレアの目の前に浮いて、喘ぎを漏らしながらその身をよじらせていた。
トレアの頭の中に妄想を流し込む際、彼女のことをいち早く堕とすべく妄想がもたらす体への影響を一番大きくした形で入ったが、それが今少女自身を追い詰めていた。
そしてついに妄想の中では十数回目の大きな絶頂を迎え、それが現実にも影響をもたらす。
「くッ…ふぁァァッ―――!」
ゴーストの体は痙攣し、膝から崩れ落ちるかのごとく地面に墜落し横たわってしまう。
「トーマは…あなたになんてあげない…それに、今はそんなことをしていられない」
荒く息をする少女にトレアは言った。
そして彼女は少女の脇を通り過ぎ、出口へ向かった。ドアを開けようとしたとき、少女は言った。
「なによっ…まだ告白だってしてない、迷ってばっかりのくせにっ…!」
「………」
トレアは立ち止まり、少し沈黙した。
「せっかくのチャンス…ものにしなくてもいいの…?」
少女の誘惑の言葉。
これは彼女の言うとおりチャンスなのかもしれない、トレアもそう思った。ただ、もうそんな言葉には呑まれない。
「たしかに…私もいつ言えるかは分からない。それでも、今はこれでいいんだ…きっと」
そしてゴーストの少女を残し、ドアは閉ざされた。
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塔15階・西通路―
「いやぁ…あっぶなー。行き止まりやったときは終わった思うたで…」
フィムはそう言って腰を下ろして一息ついた。
その隣にペタンと座り込んだのはキャス。そしてミラとノルヴィも安堵の様子を見せている。
「ゾンビにグールにスケルトン…アンデッド大集合だな…」
「うっふふ、でもこうしてみると壮観にも思えるわね」
ミラが冗談交じりにこたえる。
「もぉ…それにしたって数が多すぎるよ」
キャスは疲れた様子で天井を仰ぎながらぼやくと、他の3人と同じように目の前の光景に視線を向ける。
「おかげで…」
4人が視線を向けた先、そこには通路を長々と塞ごうかという巨大な氷塊と、氷漬けになったアンデッド属の魔物娘たちがいた。
「おかげで…僕の魔力空っぽだよ…」
12/12/06 01:55更新 / アバロンU世
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