2-2 足取り
そこは町の中心部にあった。二階建ての面積の大きな建物で、レンガ造りの他の建物の中にある白い壁が特徴的だ。
建物は高い塀に囲われていて、正面には大きな鉄柵の門があった。その前には二人の槍を携えた憲兵が立っていた。
「お前たち、何の用だ?」
「俺たちはギルドで人探しの依頼を受けた者だ。輸送業を営むハンソン氏の依頼だが、保安の方に情報をいただきたい」
「ではまず、依頼受託証を呈示願う」
トーマは受託証を渡した。
「ん、確かに。担当はゴードン・ウィリアムス以下5名だ。取り次いでもらえ」
「わかった」
多き鉄柵の門の横の小さな入口から中に入り、建物の中へ入る。すると受付があった。
「ゴードン・ウィリアムスという方に取り次いでいただきたいのだが…」
トーマは受付の女性憲兵に言った。
「…ウィリアムスはただいま出ております」
女性がそう言うやいなや、3人の後ろから若そうな男の声がした。
「ゴードン・ウィリアムスは私ですが、何か?」
振り向いた3人の前には、スタイルのいいメガネをかけた若い男がいた。黒の短髪で好青年と言った感じの人物だった。
3人は勝手にもっと筋肉質な男を想像していただけに、少々驚いていた。
「あら、ウィリアムスさん。この方々がご用だそうです」
「どう言ったご用件でしょうか?」
「私たちは、トーマス・ハンソン氏の依頼を受けて、行方不明者の捜索をしているの」
「ああ、それで私たちに情報提供を求めてきたと?」
「ええ、かまわないかしら?」
「では、立ち話もなんですから、部屋の方へどうぞ」
ウィリアムスに案内された一室は、ディスクが3つ、ソファー1対にテーブルといった非常にこじんまりとした部屋であったが、机の上には捜査資料らしきものが乱雑に置かれていた。
「今、他の者は聞き込みや捜査に赴いています」
「そうですか」
「どうぞ」
ウィリアムスは椅子に掛けるように促した。そして自分はディスクの上の乱雑に置かれた資料の中から、必要だと思われるものを選抜して持ってきた。
「これが行方不明者の粗方の資料です。ハンソン氏の会社の社員、浮浪者などですが、全員に一致するような点は女性であるということ以外見られませんでした」
「そのようですね…」
「…この人たちはお互いに顔見知りだったとかはないのか?」
「そうですね…2、3人同士ではあるようですが、全員がということはありませんね…」
「…そうか」
それからしばらく資料に目を通し話を聞いたりもしていたが、正直なところ成果は思ったほどもなかった。
いつの間にか日も暮れ、この日の捜索はこれで終了した。
宿に帰ると、ノルヴィが先に帰っていた。
「おう、おつかれさま」
「おつかれさま、じゃないっ!…全く、あんな依頼を受けてきて、どういうつもりだ」
「あんな依頼?…ああ、あのハンソンとかいうおっさんの依頼か。なんだ、そんなに大変な依頼なのか?」
なんと、話を持ってきたノルヴィ本人はあっけらかんとしている。
「まさかどういう依頼かも知らずに寄越したのかッ!…あぁ呆れたものだな…」
「まぁまぁ、トレア。ノルヴィが内容も知らず引き受けたとはいえ、人の役に立とうとしてるんだし…」
トーマはそう言って宥めつつトレアの肩に手を当てると、トレアは一拍間を空けてから反論した。
「トーマは甘いんだっ。このノルヴィという男は、つまらん見栄や儲かる話にのってしまうような男なんだ、ちゃんと前例もある」
彼女はノルヴィにグイッと眉間の間に向かって指さして詰め寄り、ノルヴィはそのまま後ろに押されるような形で壁際に追い詰められた。
「い、いやだなぁ、トレアさん…そんなわけないじゃないですかぁ…」
「ほう、なら私の目を見ながら言うんだな」
「…いや、っというか第一受託を決めたのはそちらさんでしょうよっ」
ノルヴィはハッとして指をさし返すと、トレアは一瞬たじろいだ。
「なにを…そんな苦し紛れな言い訳で流されるものか」
「苦し紛れでも言い訳でもないね、これは事実だ。俺は確かにお前たちに相談を持ちかけるよう提案はしたが、実際にそれから受託を決めたのはお前らじゃないのか?」
「うっ…」
ノルヴィの言うことは正論である。ハンソン氏が相談に来たあの場では拒否することも当然できた。
トレアはすごすごと下がった。
「ま、まったく…言いがかりは勘弁してくれよ…」
「いや、すまなかった、許せ」
「いいって、元々は俺に前例があるのも悪い」
「そう言ってくれると助かる。それじゃ、先に部屋に戻らせてもらう。ミラ、シャワーは私が先でいいか?」
「ええ、構わないわよ」
トレアはそう言って部屋を出ようとした。するとトーマが声をかけた。
「トレア、それなら先に夕飯にしないか?湯冷めしてしまってもなんだろ?」
「それもそうだな」
「場所は角の店でいいわよね?」
角の店というのは、この町に来てから4人が利用している、すぐそこの四つ角の一角にある酒場だ。
「ああ、構わない」
「俺もそれでいいけど、この荷物を片づけてからにするわ。先行っててくれて構わんよん」
「わかった、じゃあ私たちは先に行っているぞ」
そう言ってトレアとトーマは先に部屋を出た。
とそこで、ノルヴィは内心危なかったと思っていた。
〔まさか、ぽろっと聞こえた金に釣られて「平気平気、どうせ今ウチのは暇だからぁ」とか「受けてもらいましたって感じで帰れば流れで受けるってぇ」とか言ったなんて言えねぇしな…〕
するとまだ部屋にいたミラはじっとノルヴィの顔を見て一言。
「危なかったわねぇ」
と笑顔で言った。
「え…な、なにが?」
「あら、どうせ「私たちは暇だから平気」だとか私たちなら「その場の流れで受ける」とか言ったんじゃないの?」
「ギクッ…!」
「図星かしら?」
「ソ、ソンナコトナイヨォ」
ノルヴィは脂汗を掻きながら言った。が、片言では意味がない。
「まぁ私は依頼完了できれば私たちも相手側も助かるからいいと思うわ。秘密にもしといてあげるわよ」
「あ、あはは…すみませんね…」
「それじゃ、先に行ってるから」
「あ、ああ」
その時ノルヴィは思った。彼女は「怒らせてはいけない」と。
翌日3人はトーマの提案で、ハンソン氏の会社のある女性の友人を当たっていた。彼女はメリーと言い、行方不明者の1人であるジーナとは幼いころより親しいなかであった。
「彼女と最後にあったのは?」
事情を話し、家に入れてもらったとたんにトーマは質問を切り出した。
「えっと…ジーナが居なくなった日の朝です。詳しいことは保安の担当だという方に話しましたが…」
「ええ、こちらもその情報を元に訪ねて来ていますが、直接あなたの口から訊きたいと思ったもので。もしかしたら、何か思い出すかもしれませんし」
メリーは「はあ…」といった感じで座って話し始めた。
「あの日の朝は、いつもと同じように私が彼女の家に料理を作りに行っていました。あ、私たちたまにお互いの家にご飯を作りに行くのがいつからか習慣になっているんです。それで、その日は私の番でした。
ご飯を作って食べて食器を片づけているとき、彼女は野菜が切れたから買いに行くと言って出ていきました。それで…それっきり…」
「そうですか。彼女のその時の服装とかは?」
彼女はだんだん暗い顔をして俯いていった。
「服装…ですか?えっと…あ、ちょうど私の着ているワンピースの色違いです。確か青みを帯びた生地に花柄は赤だったと思いますけど…」
「ありがとうございます。それだけ聞ければ十分です」
「いえ…」
トーマはそう言うと外に出た。2人も外に出たが、彼の意図を未だ解せずにいた。
「ミラ、ここからで買い物をしに行くとすればどこだ?」
「えっと…そうねぇ。ここから近いのは南の市場だけど…ああ、そういうこと…」
「南の市場、そこに向かおう」
トーマはそう言うとさっさと歩きだしていた。2人もその後を追って歩き出した。
「なぁ、ミラ。私にはあいつの意図がさっぱり読めないんだが…」
歩きながらトレアは訊いた。
「あら、まだわからないの?前から思ってたけど、あなたって鈍いのねぇ…」
ミラはじっとトレアを見た、可哀そうな子を見るような目で。
「な、なんだその目はっ!?分からないものはしょうがないだろうっ?」
「まぁいいわ。トーマは行方不明者の足取りを追っているのよ。そして周辺で聞き込みをすれば、もしかしたらどこに行ったか分かるっていう考えよ」
「ああ、そういうことか…」
「普通気付きそうなものだけど…」
「なぁあっ、そう人の傷をねちねち責めるのはやめてくれっ!」
「ふふふふふ…」
「笑うなよぉ…」
市場にやってくると、トーマは早速野菜を売っている商店を片っ端から当たって行った。
市場には複数の八百屋があり、そのいずれかに訪れていたなら彼女はここに来た後でいなくなったということは確定するのである。
「ああ、メリーちゃんなら確かに来たよ」
何軒目かの八百屋のおばさんが言った。
「本当か?」
「嘘なんか吐くもんかい。なんだい?あんちゃん、ジーナちゃん捜してんのかい?」
「ああ、ギルドで依頼を受けてな」
「そうかい…あの子は気立てのいい、いい子だったんだけどね…」
「彼女は買い物をした後、どこに行ったかわかりますか?」
「さあ…詳しくは分からないねぇ。ただ、家に帰る方向に歩いてったねぇ」
「そうですか、ありがとうございます」
3人は市場を出たものの、確実な手掛かりはここでいったん途切れてしまった。
「さて、これからどうする?」
「そうね、ここは人通りも多いし、聞き込みって言っても効率が悪いわ…」
「そうだな。俺も思い立ってはみたが、どうしようもない。別の人物を当たるか…」
と、その時だった。男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「コラァッ坊主ッ!毎度毎度こんなとこで走り回ってんじゃねぇッ、あぶねぇだろうが!」
「へんっ、俺たちあんたらみたいにとろくないもんっ!」
「そうだぞ、とろくないもんっ!」
「ないもんっ!」
「んだとぉ〜!」
男は怒った様子で手を振り上げた。
「あ、殴るのか?殴るのかぁ!?」
「ッ―!っち、坊主ども、怪我する前によしとけよ…ったく…」
一歩のところで踏みとどまり、男はそう言うと歩いて行った。
「へへっ、大人なんて流すの楽だよ」
「ニック君すごい」
「すごい」
子供たちは得意げに騒いでいる。
その様子を見ていたトーマは「あ…」というと、その子供たちに近づいて行った。
「トーマ?」
トレアはどうしたのかと思った。
「なぁ、君たち」
トーマは子供たちに話しかけた。
「ん?にいちゃん、俺たちになんか用?」
「君らはいつもここで遊んでるのか?」
「そうだけど、なに?」
「なら、3週間前にこの辺りで市場から出てくる赤い花柄のワンピースの女の人見なかったか?」
すると子供の一人はすこし呆れた顔をして、
「ねぇ、にいちゃんは一々通り過ぎていく人を覚えてる?」
と言った。
「…まぁそれはそうだ…」
トーマは内心、なんと可愛げのない子供だろうと思った。すると女の子は「あっ…」と言った。
「あたし覚えてるよ♪」
「ホントか?」
「うん、かわいい服だったからあたしもほしいなぁって思ったの」
「その人どこに行ったのかな?」
「えっとねぇ、馬車から出てきた男の人とちょっと話してからあっち行ったよ」
と女の子は町の西へ行く道を指さした。
「その男の人はどんな格好だったか分かるか?」
「えっとねぇ…わかんない。馬車の向こう側に居て、女の人だけ見えてたの。あ、でもズボンだったし男の人は間違いないと思う」
「そうか…助かったよ、ありがとう」
トーマは2人のもとにもどると、今聞いたことを話した。
「馬車の男か…それは怪しいな」
「ええ」
そして3人はジーナの行ったであろう道をたどるが、そこは人通りも少なく、彼女を見たものは現れなかった。
「すっかり日も落ちてきてしまったな…これ以上は期待できそうもない」
「トレアの言うとおりね。今日は諦めて、また明日にしましょう」
「そうだな。俺は明日ハーピーたちを当たってみようと思う」
「なら、私たちはまた別の人たちを当たってみるわ」
二日目の捜索はこれをもって終了した。
そして三日目、トレアが消えた。
建物は高い塀に囲われていて、正面には大きな鉄柵の門があった。その前には二人の槍を携えた憲兵が立っていた。
「お前たち、何の用だ?」
「俺たちはギルドで人探しの依頼を受けた者だ。輸送業を営むハンソン氏の依頼だが、保安の方に情報をいただきたい」
「ではまず、依頼受託証を呈示願う」
トーマは受託証を渡した。
「ん、確かに。担当はゴードン・ウィリアムス以下5名だ。取り次いでもらえ」
「わかった」
多き鉄柵の門の横の小さな入口から中に入り、建物の中へ入る。すると受付があった。
「ゴードン・ウィリアムスという方に取り次いでいただきたいのだが…」
トーマは受付の女性憲兵に言った。
「…ウィリアムスはただいま出ております」
女性がそう言うやいなや、3人の後ろから若そうな男の声がした。
「ゴードン・ウィリアムスは私ですが、何か?」
振り向いた3人の前には、スタイルのいいメガネをかけた若い男がいた。黒の短髪で好青年と言った感じの人物だった。
3人は勝手にもっと筋肉質な男を想像していただけに、少々驚いていた。
「あら、ウィリアムスさん。この方々がご用だそうです」
「どう言ったご用件でしょうか?」
「私たちは、トーマス・ハンソン氏の依頼を受けて、行方不明者の捜索をしているの」
「ああ、それで私たちに情報提供を求めてきたと?」
「ええ、かまわないかしら?」
「では、立ち話もなんですから、部屋の方へどうぞ」
ウィリアムスに案内された一室は、ディスクが3つ、ソファー1対にテーブルといった非常にこじんまりとした部屋であったが、机の上には捜査資料らしきものが乱雑に置かれていた。
「今、他の者は聞き込みや捜査に赴いています」
「そうですか」
「どうぞ」
ウィリアムスは椅子に掛けるように促した。そして自分はディスクの上の乱雑に置かれた資料の中から、必要だと思われるものを選抜して持ってきた。
「これが行方不明者の粗方の資料です。ハンソン氏の会社の社員、浮浪者などですが、全員に一致するような点は女性であるということ以外見られませんでした」
「そのようですね…」
「…この人たちはお互いに顔見知りだったとかはないのか?」
「そうですね…2、3人同士ではあるようですが、全員がということはありませんね…」
「…そうか」
それからしばらく資料に目を通し話を聞いたりもしていたが、正直なところ成果は思ったほどもなかった。
いつの間にか日も暮れ、この日の捜索はこれで終了した。
宿に帰ると、ノルヴィが先に帰っていた。
「おう、おつかれさま」
「おつかれさま、じゃないっ!…全く、あんな依頼を受けてきて、どういうつもりだ」
「あんな依頼?…ああ、あのハンソンとかいうおっさんの依頼か。なんだ、そんなに大変な依頼なのか?」
なんと、話を持ってきたノルヴィ本人はあっけらかんとしている。
「まさかどういう依頼かも知らずに寄越したのかッ!…あぁ呆れたものだな…」
「まぁまぁ、トレア。ノルヴィが内容も知らず引き受けたとはいえ、人の役に立とうとしてるんだし…」
トーマはそう言って宥めつつトレアの肩に手を当てると、トレアは一拍間を空けてから反論した。
「トーマは甘いんだっ。このノルヴィという男は、つまらん見栄や儲かる話にのってしまうような男なんだ、ちゃんと前例もある」
彼女はノルヴィにグイッと眉間の間に向かって指さして詰め寄り、ノルヴィはそのまま後ろに押されるような形で壁際に追い詰められた。
「い、いやだなぁ、トレアさん…そんなわけないじゃないですかぁ…」
「ほう、なら私の目を見ながら言うんだな」
「…いや、っというか第一受託を決めたのはそちらさんでしょうよっ」
ノルヴィはハッとして指をさし返すと、トレアは一瞬たじろいだ。
「なにを…そんな苦し紛れな言い訳で流されるものか」
「苦し紛れでも言い訳でもないね、これは事実だ。俺は確かにお前たちに相談を持ちかけるよう提案はしたが、実際にそれから受託を決めたのはお前らじゃないのか?」
「うっ…」
ノルヴィの言うことは正論である。ハンソン氏が相談に来たあの場では拒否することも当然できた。
トレアはすごすごと下がった。
「ま、まったく…言いがかりは勘弁してくれよ…」
「いや、すまなかった、許せ」
「いいって、元々は俺に前例があるのも悪い」
「そう言ってくれると助かる。それじゃ、先に部屋に戻らせてもらう。ミラ、シャワーは私が先でいいか?」
「ええ、構わないわよ」
トレアはそう言って部屋を出ようとした。するとトーマが声をかけた。
「トレア、それなら先に夕飯にしないか?湯冷めしてしまってもなんだろ?」
「それもそうだな」
「場所は角の店でいいわよね?」
角の店というのは、この町に来てから4人が利用している、すぐそこの四つ角の一角にある酒場だ。
「ああ、構わない」
「俺もそれでいいけど、この荷物を片づけてからにするわ。先行っててくれて構わんよん」
「わかった、じゃあ私たちは先に行っているぞ」
そう言ってトレアとトーマは先に部屋を出た。
とそこで、ノルヴィは内心危なかったと思っていた。
〔まさか、ぽろっと聞こえた金に釣られて「平気平気、どうせ今ウチのは暇だからぁ」とか「受けてもらいましたって感じで帰れば流れで受けるってぇ」とか言ったなんて言えねぇしな…〕
するとまだ部屋にいたミラはじっとノルヴィの顔を見て一言。
「危なかったわねぇ」
と笑顔で言った。
「え…な、なにが?」
「あら、どうせ「私たちは暇だから平気」だとか私たちなら「その場の流れで受ける」とか言ったんじゃないの?」
「ギクッ…!」
「図星かしら?」
「ソ、ソンナコトナイヨォ」
ノルヴィは脂汗を掻きながら言った。が、片言では意味がない。
「まぁ私は依頼完了できれば私たちも相手側も助かるからいいと思うわ。秘密にもしといてあげるわよ」
「あ、あはは…すみませんね…」
「それじゃ、先に行ってるから」
「あ、ああ」
その時ノルヴィは思った。彼女は「怒らせてはいけない」と。
翌日3人はトーマの提案で、ハンソン氏の会社のある女性の友人を当たっていた。彼女はメリーと言い、行方不明者の1人であるジーナとは幼いころより親しいなかであった。
「彼女と最後にあったのは?」
事情を話し、家に入れてもらったとたんにトーマは質問を切り出した。
「えっと…ジーナが居なくなった日の朝です。詳しいことは保安の担当だという方に話しましたが…」
「ええ、こちらもその情報を元に訪ねて来ていますが、直接あなたの口から訊きたいと思ったもので。もしかしたら、何か思い出すかもしれませんし」
メリーは「はあ…」といった感じで座って話し始めた。
「あの日の朝は、いつもと同じように私が彼女の家に料理を作りに行っていました。あ、私たちたまにお互いの家にご飯を作りに行くのがいつからか習慣になっているんです。それで、その日は私の番でした。
ご飯を作って食べて食器を片づけているとき、彼女は野菜が切れたから買いに行くと言って出ていきました。それで…それっきり…」
「そうですか。彼女のその時の服装とかは?」
彼女はだんだん暗い顔をして俯いていった。
「服装…ですか?えっと…あ、ちょうど私の着ているワンピースの色違いです。確か青みを帯びた生地に花柄は赤だったと思いますけど…」
「ありがとうございます。それだけ聞ければ十分です」
「いえ…」
トーマはそう言うと外に出た。2人も外に出たが、彼の意図を未だ解せずにいた。
「ミラ、ここからで買い物をしに行くとすればどこだ?」
「えっと…そうねぇ。ここから近いのは南の市場だけど…ああ、そういうこと…」
「南の市場、そこに向かおう」
トーマはそう言うとさっさと歩きだしていた。2人もその後を追って歩き出した。
「なぁ、ミラ。私にはあいつの意図がさっぱり読めないんだが…」
歩きながらトレアは訊いた。
「あら、まだわからないの?前から思ってたけど、あなたって鈍いのねぇ…」
ミラはじっとトレアを見た、可哀そうな子を見るような目で。
「な、なんだその目はっ!?分からないものはしょうがないだろうっ?」
「まぁいいわ。トーマは行方不明者の足取りを追っているのよ。そして周辺で聞き込みをすれば、もしかしたらどこに行ったか分かるっていう考えよ」
「ああ、そういうことか…」
「普通気付きそうなものだけど…」
「なぁあっ、そう人の傷をねちねち責めるのはやめてくれっ!」
「ふふふふふ…」
「笑うなよぉ…」
市場にやってくると、トーマは早速野菜を売っている商店を片っ端から当たって行った。
市場には複数の八百屋があり、そのいずれかに訪れていたなら彼女はここに来た後でいなくなったということは確定するのである。
「ああ、メリーちゃんなら確かに来たよ」
何軒目かの八百屋のおばさんが言った。
「本当か?」
「嘘なんか吐くもんかい。なんだい?あんちゃん、ジーナちゃん捜してんのかい?」
「ああ、ギルドで依頼を受けてな」
「そうかい…あの子は気立てのいい、いい子だったんだけどね…」
「彼女は買い物をした後、どこに行ったかわかりますか?」
「さあ…詳しくは分からないねぇ。ただ、家に帰る方向に歩いてったねぇ」
「そうですか、ありがとうございます」
3人は市場を出たものの、確実な手掛かりはここでいったん途切れてしまった。
「さて、これからどうする?」
「そうね、ここは人通りも多いし、聞き込みって言っても効率が悪いわ…」
「そうだな。俺も思い立ってはみたが、どうしようもない。別の人物を当たるか…」
と、その時だった。男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「コラァッ坊主ッ!毎度毎度こんなとこで走り回ってんじゃねぇッ、あぶねぇだろうが!」
「へんっ、俺たちあんたらみたいにとろくないもんっ!」
「そうだぞ、とろくないもんっ!」
「ないもんっ!」
「んだとぉ〜!」
男は怒った様子で手を振り上げた。
「あ、殴るのか?殴るのかぁ!?」
「ッ―!っち、坊主ども、怪我する前によしとけよ…ったく…」
一歩のところで踏みとどまり、男はそう言うと歩いて行った。
「へへっ、大人なんて流すの楽だよ」
「ニック君すごい」
「すごい」
子供たちは得意げに騒いでいる。
その様子を見ていたトーマは「あ…」というと、その子供たちに近づいて行った。
「トーマ?」
トレアはどうしたのかと思った。
「なぁ、君たち」
トーマは子供たちに話しかけた。
「ん?にいちゃん、俺たちになんか用?」
「君らはいつもここで遊んでるのか?」
「そうだけど、なに?」
「なら、3週間前にこの辺りで市場から出てくる赤い花柄のワンピースの女の人見なかったか?」
すると子供の一人はすこし呆れた顔をして、
「ねぇ、にいちゃんは一々通り過ぎていく人を覚えてる?」
と言った。
「…まぁそれはそうだ…」
トーマは内心、なんと可愛げのない子供だろうと思った。すると女の子は「あっ…」と言った。
「あたし覚えてるよ♪」
「ホントか?」
「うん、かわいい服だったからあたしもほしいなぁって思ったの」
「その人どこに行ったのかな?」
「えっとねぇ、馬車から出てきた男の人とちょっと話してからあっち行ったよ」
と女の子は町の西へ行く道を指さした。
「その男の人はどんな格好だったか分かるか?」
「えっとねぇ…わかんない。馬車の向こう側に居て、女の人だけ見えてたの。あ、でもズボンだったし男の人は間違いないと思う」
「そうか…助かったよ、ありがとう」
トーマは2人のもとにもどると、今聞いたことを話した。
「馬車の男か…それは怪しいな」
「ええ」
そして3人はジーナの行ったであろう道をたどるが、そこは人通りも少なく、彼女を見たものは現れなかった。
「すっかり日も落ちてきてしまったな…これ以上は期待できそうもない」
「トレアの言うとおりね。今日は諦めて、また明日にしましょう」
「そうだな。俺は明日ハーピーたちを当たってみようと思う」
「なら、私たちはまた別の人たちを当たってみるわ」
二日目の捜索はこれをもって終了した。
そして三日目、トレアが消えた。
12/06/11 01:59更新 / アバロンU世
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