連載小説
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2-3 展開
 捜索3日目になるこの日、トーマはトレア、ミラとは別行動をとり、ハンソン氏の会社にいるハーピーを訪ねていた。
「彼女はいなくなる前に何か言っていなかったか?」
「何かって?」
 休憩所を出た屋上の快晴の下で、綺麗な緑色の髪のハーピーに話を聞いていた。ただ、普通なら暗いような若干の緊迫感を感じるはずだが、そのハーピーの声が高くポワンポワンとした話し方をするおかげで全く緊迫感の欠片も感じられない。
「どこに行く、何をする、というようなことだ。何か聞いていないか?」
「う〜ん…わっかんないなぁ。言ってたよ〜な〜、言ってなかったよ〜な〜」
 ハーピーは遠い昔でも思い出すようにじっくり考え込んだが、結局は
「やっぱわっかんない。思い出したらまた話すよ〜」
 ということで終わった。
 ハーピーは羽根を広げ荷物を持って飛び立っていった。
 空を眺めていても仕方ないので、続けてトーマは会社内にいた別の行方不明女性の友人に話を聞きにいく。すると、
「ごめんなさい、私は何も聞いていないわ…」
「そうですか…」
「あ、でも…」
 と彼女は続けた。
「あの子、この前地下の倉庫に書類を届けに行ったとき、そこにいた男の子に一目惚れしたらしいのよ。それでたしか付き合うことになったって言ってたわ。だからもしかしたら彼に聞けば分かるかも…」
「わかりました。それでなんという方です?」
「えっと…たしか…アルフレッド…そう、アルフレッドって」
「アルフレッドですね。分かりました」
 トーマはエレベーターを使い地下に下りた。
 エレベーターを出たところは三段に積まれた木箱よりも少し高い位置にあり、スロープで下に下りられるようになっていた。
 地下はすべての空間が倉庫として使われており、木箱が大量に積まれていて、男たちに混じりミノタウロスたちも働いていた。木箱は主に人の腰あたりの大きさのものがほとんどで、荷車を使って移動したり、数人で下に積み下ろしをしていた。
 トーマは下を通りかかった男に声をかけた。
「すまない、アルフレッドという男はいるか?」
「ん?アルになんか用か?」
「行方不明事件の捜査なんだ」
「ああ、そう言うことか」
 男は三段に積まれていた木箱をヒョイヒョイッと跳ねあがり、辺りを見回した。
「お、いた。おーい、アルー、お客さんだー!」
「客って誰だー?」
「行方不明事件の捜査なんだとよー、いいからこっち来てくれー!」
 男が跳ね降りてくると同じくして、箱でできた迷路のような通路の中から男が一人やってきた。
「あれ?事件の捜査だっつーから、てっきり保安だと思ってたんだけど、誰だ?」
「俺はギルドの依頼で捜査してるんだ。あなたがアルフレッドさん?」
「ああ」
 アルフレッドは真面目そうな好青年だった。荷積みの仕事もしているだけあってたくましく、誰が惚れても不思議はなかった。
「今ミリアさんの消える前の足取りを追おうとしているんだが、彼女は君に何か言っていなかったか?」
「…そうさな…いや、聞いていない…」
「そうか…」
 トーマはふと、そのフロアの奥の方に別のエレベーターを見つけた。
「なあ、あれもエレベーターか?」
「ん?ああ。あっちのは馬車を入れる時のやつだよ。まさか馬車を表から入れるわけにもいかないからな。あとあっちにももう一台あるぜ。動いてるのはみねぇけどな」
 アルフレッドの言うとおり、そのエレベーターの真向かいにも同じようなエレベーターがあった。
「使われていないのか?」
「さぁな。動くには動くだろうが、あっちは町の塀の真下だからな。使う意味がねぇだろ」
「へぇ…」
「なんであんなとこに作っちまったかねぇ、不思議だよ。あ、そうそう、不思議っつえばもう一つあってよ」
 アルフレッドは腕組みをして話し出した。
「なんだ?」
 トーマが訊くと、アルフレッドはそのエレベーターの横にある横開きの扉を指した。その扉は赤く塗装され、壁の灰色のなかでは目立っていた。大きさは三段に積んだ木箱より少し大きく、スロープの上の踊り場からであればすぐに見つけられた。
「あそこのドアは貴族や上流階級の方への荷物かあるらしいんだけどな、あの前を通ると必ず眠気が襲うんだとさ」
「眠気?」
「ああ、らしいぜ。俺は配置が違うからよくわからねぇがあのあたりの配置の奴らはたまになるらしい。んで、この前はそのせいで1人が居眠りしちまって軽い怪我しちまったんだ。中は鍵がかかってて担当しか入れねぇからどうなってるかは知らねぇ」
「へぇ…」
「っと、悪いな。無駄話しちまった」
「いや…」
「…頼む。ミリアを見つけてくれッ…!」
「ああ。最前は尽くす」
「頼む…」
 そしてトーマはビルを後にした。

 そして次の行動を考えつつ町を歩いていると、ばったりとミラに出会った。
「あら、トーマ」
「ん?なんだ、ミラか。あれ…一人なのか?」
「ええ、トレアは今足取りを追っている途中よ。朝から追ってはいたんだけど、なかなか確たる手がかりもなくてね。それで、私たちの前にもギルドで依頼を受けてた人たちがいたのを思い出して、その人たちに話を聞けないかと思って」
 確かに以前に依頼を請けた者たちの持っている情報の中に手掛かりがある可能性もある。
「それで今その所属者のところに向かうところか?」
「ええ。でもその前にギルドカウンターで誰が受けてどこにいるのか確認しないとね。ギルドならだれが請けたかもわかるし、住んでる場所も探してもらえるわ」
「俺も行こう。今また会社を当たってきたとこだが、有力なものもなかったから次の行先を考えていたところだ」
 そういうわけで、2人はギルドカウンターに向かった。
 再び掲示板で依頼の内容を確認してみると、依然には5組の所属者が依頼を受託していた。
 受付に事情を話し、以前請けた所属者の居所を探してもらったのだが。
「えっと…みなさんこの町にはいらっしゃいませんね…」
「いない?」
「はい、皆さん旅をなさっている方のようですね」
「見ても構いませんか?」
「はい、どうぞ」
 トーマは受託者の記録を受け取って内容に一通り目を通した。
「ん?この『依頼主直接報告』っていうのは?」
「それは依頼の断念をギルドじゃなくて依頼主に直接報告することよ。だから、ハンソン氏に直接報告したんじゃないかしら」
「はい、ハンソン氏から後日報告がありました。手がかりもなく、用件も出来たということでした」
「そうですか…お手間をおかけしました」
「いえ、がんばってくださいね」
「…はい」

 2人はギルドカウンターを出たのだが、どうもトーマが浮かない顔をしている。
「どうしたの、トーマ」
「あ、いや…ちょっとな…」
「何かあるのなら話してくれない?」
「・・・・・」
 トーマは空を仰いでから歩き出した。
「ちょっと拙い考えがよぎったんだ。さっきの記録書の依頼主直接報告ってのを見てな…」
「確かに普通の手続きじゃないけど、でもあることよ?」
「そりゃそうだろうけど、同じ依頼を請けた半分以上がそんな手続きを取るのか?」
「そこまではないわね。でも条件が重なれば…」
「そいつら全員女だったんだよ…」
「…え?………え、でもそれって…」
 それを聞いて、ミラの脳裏に『もしかすると…』という推測がよぎった。ただ、それを証明するのは状況証拠以外になく、確信を得ることはできなかった。何より、彼女自身がそうでないことを祈ったのだ。
「そう…できれば違っててほしいんだけどな…」
 2人が脳裏にかかったその霧のような疑惑を払拭したかったのか定かではないが、自然と宿へ帰る足の歩幅が広くなっていった。
 宿に着けばどうなるということはない。だが、2人はともかくその疑惑から目を背けたかった。なぜなら、それに縛られ判断を誤ることを恐れているから。

 宿に帰る途中、母親らしき女性と手をつないで歩いている先日話を聞いた女の子と再会した。
「あ、お兄ちゃん」
「あ、お嬢ちゃんか。お母さんとお出かけかい?」
 気付いた少女は元気そうに手を振り、声をかけてきた。
「デリィ、だあれ?」
「あのね、綺麗な服を着たお姉ちゃんを探してるからね、昨日ね、お話を聞かれたの」
 母親はトーマとミラを順番に見た。
「今ギルドの仕事で、ちょっとした事件の捜査中なんです」
「あぁ、大変ですね」
「ええ、この子のおかげで手掛かりも少々ながら増えました」
 女の子はトーマのジャケットの裾をクイクイッと引っ張った。
「どうした?」
「あのね、思い出したことがあるの」


 宿に着き、束の間の安息を得ることができると思えた。少なくともミラは多少その疑惑に対する反論は思いついただろう、ただし、トーマは違っていた。
 彼は頭がどうかしたのかと思うほどに、今まで得た情報が脳内を駆け巡っていた。そしてその情報のどれもが疑惑の背中を押している。
 そしてとうとう、その時がやってきたのである。
 トーマが部屋で休んでいると、血相を変えたミラが慌てて入ってきた。
「トーマッ!」
「…どうした?」
「もしかしたら、拙いかもしれない…」
「え?」
 ミラの後ろからひょっこり顔を出した者がいた。それはハンソン氏の会社のハーピーだった。
「ちょっとあんた、いきなり何飛び出してるのよ?!」
 彼女はミラにそう文句を言った。するとトーマが訊き返した。
「…どうしたんだ?」
「いやぁさ、あんたたちの仲間のリザードマンが私の落とした荷物の中身回収するの手伝ってくれるって、そういうもんだから先に南西の森行っといてって言ったんだけど、行っても誰もいなくてさ。一言文句言おうと思ってきたんだけど…いないの?」
 この説明で、トーマは事態を理解した。あの疑惑は間違っていなかったことも、いま拙い状況にあるということも。
 トーマは「南西の森だなっ?!」と怒鳴るように確認すると、ドアの横に立て掛けてあった武装を入れたケースをかっさらって飛び出した。
 宿をそのままの勢いで飛び出し、表にいた人にぶつかりそうになりながら南西の森に近い町の出口に走った。ミラとハーピーもそのあとを追いかけて宿を後にした。
「どいてくれっ!」
 道行く人に罵声も浴びせられることも気に留めず、トーマは町の中を掛け抜けた。そして町の出口に差し掛かった時、彼は足を止めた。
「っはぁ…はぁ…っはぁ…はぁ…」
〔この道は…〕
 肩で息をする彼の視線は、今いる出口前で合流した左からの道に向いていた。その道の向こうの方に、一度は見た風景があった。その道は、行方不明者の一人であるジーナが辿ったであろう道だった。
「トーマっ!」
「あんた、何焦ってんのよ?」
「…ミラ、ジーナという女性は確かにこの道を通ってきたんだ。そしてこの出口から外に出た…」
「ええ、そのようね…」
 二人が話す間、ハーピーは困惑していた。
「ね、ねぇ、何の話?」
「あんた、今から保安のところに一っ飛びして呼んできてくれ」
「行方不明事件に関わることよ、お願い」
 2人の緊迫した雰囲気に押され、ハーピーは後ずさりしながら「わかった」と言って飛び立った。
「行くぞ…」
「ええ」
 2人は町の外へ出ると、森の中へ入った。木の葉の隙間から日光が差す程度で、日の暮れかけているこの時間では少し薄暗かった。
「トレア、どこだっ!」
「トレア、返事をしてっ!」
 2人は森の中を叫びながら探し回った。だがトレアの姿も彼女の声すらも感じることはできなかった。
 とうとう日も完全に沈み、森の中は暗闇に包まれた。トーマはケースの中に入っていたライトをミラに渡し、自分はサブマシンガンについているライトで辺りを照らして手掛かりがないか探した。
「トーマ、来て」
「何かあったのか?」
「これ…」
「これはっ…」
 ミラの指差した物、それは切っ先を天に向け地中にその半分ほどが埋まった剣の等身だった。明らかに異常な状態のそれを掘り出してみると、その鍔と柄には緑色の鱗をあしらった装飾が施されていた。
「トレアのよ…」
「…と…いうことは…」
「まさか…トレアはこの下に埋まっているっていうの?!」
 あまりお目にかかりたくない光景が二人の脳裏に浮かぶ。
「いや…だがそれでこれを仕掛けた奴にメリットがあるとも思えない…」
「でも…だったらこの剣はどう説明するの?剣は明らかに地中に半分埋まっていたわ、切っ先を上にしてね。普通埋めるにしても指すにしても切っ先は上を向くなんてありえない…まるでそのまま沈んだみたいよ…」
「じゃあ、トレアもそのままこの下に…この下…?」
 トーマは突然バッと町の方を見上げた。そして「町の中に戻るぞ!」と言って町の入り口に走った。
 道に入った途端、ハーピーが数人の保安兵を連れてやってきた。その中にはゴードンもいた。
「お二人とも、急いでどうしました?聞くところによれば、行方不明者事件に関わることのようですが」
「ああ、来てくれ!」
 トーマは彼らを連れて、ある場所へ向かった。
「ここは…」
「ハンソンカンパニー…」
 彼らはすっかり人気の失われた建物内に入ると、エレベーターで地下の倉庫に向かった。
「ここは…」
 ミラはここに来るのは初めてで、辺りを見回した。
「会社の地下倉庫だ…」
「トーマさん、なにかあるんですか?」
「あの扉…」
「あの扉がどうかされましたか?」
 トーマは扉に向かって通路を進み始めた。ミラもゴードンたちもそれに付いて荷の間の通路を進んだ。
「…この扉はの奥に部屋があるとすれば、それはおそらくミラの剣があった場所の真下だ…」
「え?!」
「どういうことですか?」
「眠くならない…ということはまだ平気か…」
 そう言うとトーマは扉を開けた。扉は最初こそ重いが、すぐスムーズに開いた。中には1人の人影があった。

12/06/11 02:00更新 / アバロンU世
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■作者メッセージ
次で犯人が分かります。というか、もう感づいてるでしょ?
その通りです。

幼稚な感じで申し訳ないですが、ご勘弁を。
次でラブコメ感出します;

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