トラ猫と医者
ここは、ジパング地方のとある国の城下町。いつも、大勢の人で賑わってごった返してる。
ウチは、その下町の隅でひっそりと暮らしてる。町のみんなは、たまにご飯もくれるし、それなりに相手にしてくれる。
ウチはいつものように、ねぐらからの散歩道をいつもの調子で歩いてた。すると向こうの方で人だかりができてるのが見えた。
「野郎ッ、てめぇやんのかコラッ！」
「おぉう、やってやろうじゃねぇかッ！」
喧嘩や。よくあることやから、べつに珍しくもないのに…なんであんなに集るんやろう？ウチには不思議でたまらない。
ウチは人だかりから少し離れて壁際を歩いていた。ここなら被害被ることはないはず。
「うぐっ！」
人ごみを割いて、男が一人飛び出してきた。男は鼻血を噴き出させ、壁に立てかけられていた板に当たった。
板は、群れになってウチに…倒れてきた。
「にゃあッ！」
上手く避けれんかった。左前脚に当たって、皮膚が削げた。血が流れてて、一応舐めてはみたけど、そんなことでは当然済まへん。
そんなうちに気が付いたんか、うちの周りにも何人か集まってきた。
「あら、かわいそうに…」
「ひでぇな、皮膚が剥がれてるぜ？」
みんな口々に「かわいそう」やとか「ひどい怪我や」とかいうけど、だれも何もしてはくれへん。あ～、ちがう、何もできへんのや。
「どいてくれ」
人をかき分けて、一人の男がうちの前に跪いた。ウチは条件反射で後ろに退こうとしたけど、前足の傷が余計に痛んだだけやった。男はウチの傷ついた前足を優しくつかんで、木箱の中から臭いのきつい液体に浸った木綿玉を、細い金属の箸みたいな棒で取り出した。
それでウチの傷口をチョンチョンと叩いた。
「にゃーーーーッ!!ニャッ、ニャァーッ！」（いたーーーーッ!!ちょッ、イタァーッ！）
えげつなく痛い。あまりの痛さに腕をつかむ男の腕をひっかき、ついには噛みついてもた。
「あだだだだだだッ!?ん………よしよし…痛かったな、すまんすまん…」
男はそういうと、腕に包帯を巻きだした。自分の腕や手から血が流れているのも気に留めず、包帯の端を結んだ。
「さて」
男はそういうと、ウチの体を持ち上げた。
な、なに、なにする気？
ウチは驚くあまりに、身を固くしてしまった。ウチはそのまま男の腕に抱かれて揺られて、気が付いた時には男の家らしいところに入っていた。
ようするに、ウチはお持ち帰りされてしまったわけや。
男はウチをそっと下ろした。そして部屋の棚や押し入れの中をひっくり返して、何かを探している風やった。
「お、あったあった…」
男は布きれと淵の低い籠を持ってきて、ウチの隣に籠を置き、布を中に敷いた。彼はウチをその布の上にゆっくりと寝かせた。
「にゃあ？」（なに？）
ウチは通じるはずもない言葉で訊いた。けど、たぶん雰囲気とかで分かったのかもしれん。男は答えた。
「ん？ああ…お前の怪我はしばらく面倒見ないといけないからな、おとなしくしといてくれよ？」
男はウチの頭を撫でようとした。けど、ふんわりと漂ってきた男の匂いが…匂いが…にお…
ウチは咄嗟に籠から飛び出ていた。
「…ははっ…まぁいいさ。あんまり動き回るなよ？」
男は笑ってそう言った。
彼は良くしてくれた。毎日消毒と包帯の交換はしてくれるし、ご飯もくれた。包帯の交換と消毒のたびにウチが引っ掻いたり噛みついたりしても、怒りもせずに宥めた。
彼は町のはずれに住んでいる。どうやって生計を立てているのか、しばらくの間は分からなかった。それがわかったのは、この家に来てから五日が過ぎたときやった。
「ショウゼンはんッ、ちょっと診てくれまっか?!」
いきなり一人の男が飛び込んできた。その男はあわてた様子でそう言った。
「どないした？」
「東龍一家の若頭が、西虎一家の奴らに切られたんやッ！ひどい傷やねん！」
「わかった、そこに寝かせッ」
その男の後ろから、二人の男が血だらけの男を肩に担いで入ってきた。男たちは指示通りに床に寝かせた。
「左鎖骨から右脇腹にかけて切断…鎖骨…肋骨…腹筋と腹斜筋が切断されとる。間合いに入りきっとらんかってよかったな、動脈は無事や。出血も比較的軽い…すぐに魔陣療術で細胞結合を施して止血する」
そいつは慣れた様子で肉のすっぱりと切れた傷口を見て、診断した。それでウチは分かった、この男は医者やったんや。やからあの怪我をした時もすぐに処置してもらえた。
彼は床に寝かせた男の周りに、棚から取り出した円筒に入ってた筆と、その円筒の反対側の墨入れの墨で丸い模様を描き始めた。
それはよく魔陣療術に使われる紋様やというのはウチかて知ってる。ただ、間近で見たんは初めてやった。それに加えて彼は、棚から携帯の筆墨と一緒に取り出してあった札を寝かせた男の周りの三方に配置した。
「ほな、あんたらどいといてくれ。あとお前も…」
言われる前にウチは下がった。離れな危ないんは分かったから。
「ふっ…お前はかしこいな」
当たり前や。一応ウチ、猫又やし。
「んじゃ、いっちょやっか…」
彼は陣に手を触れた。すると稲妻のように魔力が走り、魔力が男の傷口に集中して傷を塞いでいった。
やがて彼は術を止めた。
「…ふぅ…この辺にしとかねぇと、こいつ自身の治癒力が弱ってまうからな」
「若頭は大丈夫なのか!?」
「ああ。ただ応急的に血管と筋肉と骨を繋いで、皮膚を塞いだだけや。完全に治るにはまだ時間かかるから、安静にやな」
「そうか、ひとまずは安心やな…なぁシュウゼンはん、魔陣療術ってのやと、完治は無理なんか？」
「いや、できるけど、それやと元々の治癒力が下がんねん。それは好まし無いやろ？」
「そうやな」
彼らが話している一方で、男に意識が戻りつつあるのをウチは感じた。
「にゃ～ん…」
「ん？どないした？」
「うっ…ぐっ…」
男の目が薄らと開いた。
「あ、兄貴ッ！」
「ワイは…生きとるんか…？」
「はいっ、シュウゼン先生が助けてくれはりましたっ」
「シュウゼン先生…おおきに…」
「かまわへん、それが仕事や」
男らは、また後に礼をしに来ると言って男を担いで出て行った。
それから、他の猫又や魔物たちから聞いた話によれば、あのシュウゼンという男は、名を由良気秋然(ゆらきのしゅうぜん)といい、ウチも名を聞いたことはある男やった。
表立ったところから、裏の裏まで、あらゆる方面から信頼を得ている医者だった。極道から役人まで相手にして、実はこの町の裏社会を牛耳れる立場だとも言われている男やった。
一週間も経つ頃には、ウチの怪我はすっかり治ってた。
「なんかもうすっかりウチの猫やな、自分」
「にゃ～」
秋然のそばにおるんは、ウチも嫌やなかった。
「あ、そうゆうたら、自分の名前決めてなかったな？ 名前…ん～、そやな…、そや、夜見(よみ)、夜見でどうや？」
「にゃ～♪」
「気に入ったか、そうか」
夜見…ウチの名前。めっちゃうれしかった。
ただ、一週間経っても、ウチと秋然が触れ合うんは傷の手当のときだけやった。なんでて訊かれたら………そんなん、秋然の匂いとか…あったかさ？とか…声とか…とか………にゃああぁぁぁぁッ！
とっにっかっくっ！ ……な、なんかハズいねん…
秋然はたまにウチを抱き上げたり、撫でたりしに来た。けど、ウチはハズいから逃げ回った。かと思ったら、忙しいんか知らんけどほとんど構ってくれんことがある。ウチはなんか…寂しなって、秋然に寄っていく。
もう二か月、それがウチと秋然の日常になってた。
梅雨の時期、雨の降り続いた時のことやった。
その日、ウチは格子窓から雨の降り続く外を見ながら、秋然の帰りを待っていた。
いつもの診療に出かけて、もう三刻半(＝約七時間)………そろそろ雨音に交じって、秋然の足音が聞こえてもいい頃やった。
ピシャ…ピシャ…
あ、秋然の足音や。もう、戸をあけて入ってくる。
「あぁ、くっそー」
帰ってきた秋然はびしょ濡れやった。出ていくときは傘を持って行ったはずやのに…
「にゃぁん？」
「うん？…ああ、傘な。大風で骨が折れてもうてな、走って帰ってきたんや。もうびっしょびしょやで…」
秋然はそういうと着物を脱ぎ散らかして、軽く夕飯を食べて布団に潜って寝てもうた。
次の日、秋然の様子がなんか変や。起きる時間になっても起きてけぇへん。
「にゃ～？」
「ん？ゴホッ…夜見…」
秋然の顔は赤みを帯びてあった。
「なっさけないな…医者の不養生とか…風邪引いたみたいや」
昨日、ろくに体も髪も乾かさんと裸同然で寝たんや、風邪抉らせても無理ないとウチは思った。
「すまんな、俺は平気やさかい、食いもんやったらあの籠の中や。勝手に食べ」
秋然はそういうと寝てもうた。ウチは言われた通り、籠の中から食べもんを取って食べた。それから、外を見たり、部屋の中を歩き回ったりした。
雨はまだ昨日から降り続いてて、雨音が耳障りやった。
ウチはふと秋然を見た。寒いんやろか…唇…ううん、体が震えてる…
心配になってウチは秋然に近寄って、枕元に座った。
「…ん…、夜見…」
「にゃぁ？」（平気？）
気が付いた秋然に、通じないとわかっていながらも、そう言葉をかけた。
「夜見…」
「にゃッ!?」
いきなり秋然に抱き上げられ、そのまま、布団の中へ引き込まれた。ウチはびっくりしてすっとんきょな声を挙げてもうた。
あかんッ、これはあかんッ。布団の中、秋然の匂いがいっぱいで、心臓の音も近くで………！
「あったかいな…夜見…」
「っ―！」
ウチ…もうあかん…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は若干霞んだ頭で夜見を抱いた。めっちゃあったかい…
いきなり俺は違和感を感じた。なんか、夜見がおっきなっていくような………違う、明らかにデカくなっていっとる。ただ、なんか人肌みたいな感触が…
「夜見…？」
俺は目を開けた。目の前には俺の上にまたがって、俺を見下ろす一人の女がおった。猫の耳があって、目も人のやない。ただ、その女が夜見やと、俺は思った。
「はぁ…はぁ…」
夜見らしき女は…いや、夜見は…息が荒かった。
「あんたが…」
夜見はそう言葉を切り出した。
「秋然が…悪いんやからな…」
俺は訳が分からんかった。俺が何かしたか？
そんなこと思うとると、柔らかい肉球の着いた手で、夜見が俺の胸に触った。一瞬、少し悲しそうな顔をしたんが、強く俺の印象に残った。
「冷たい…ウチが、暖めたげるな？」
そういうと夜見は、俺の体の上に倒れるように体を重ねた。俺の胸に柔らかい感触が…それと一緒に唇にも…
「ん…くふぅ…」
俺はただ目を閉じて、彼女を受け入れた。ざらつきのある舌が、俺の口の中を弄り、彼女の口から息が漏れた。
「………阿呆、風邪…うつるで…？」
「そんなんええの。それより…ウチ、暖かい？」
「ああ、めっちゃぬくい…」
「…シュウのココは…熱いんやね？」
そう言うた彼女の片手は、俺の股間に添えられていた。俺は、彼女の一糸纏わぬその裸体に、熱で霞んだ頭ででも興奮していた。
俺は下着だけを身に着けた状態で寝とった。やから、夜見の猫みたいな手であっても、俺の下半身を露出させることは簡単やった。
夜見は俺の頭に尻の方を向けて、俺のむき出しのそれを柔らかい肉球で挟んでしごき始めた。激しくない、ゆっくりと優しい愛撫。
「シュウ…気持ちぃ？」
「…ああ…めっちゃいい…」
ほんまに気持ち良かった。それ以外に言葉がよう出てこうへんかった。
俺はヒョロヒョロと動く二本の尻尾に目が行った。次に肛門、そんで最後にアソコ。
俺はぼうっとした頭で、夜見の割れ目に口を着け舌を這わせた。
「にゃッ―、ふにゃンッ―」
夜見の手の動きが止まって、体が一瞬硬直したのが分かった。
俺の舌がネトッとした液体の感触を捉えた。もう夜見の秘部は、愛液で濡れきってあった。
「シュ、シュウぅッ…、アカン…ッ、ニャッ！」
俺は夜見の尻を腕でガッチリ掴んだまま、何度も舌を動かした。すると、夜見は俺のソレを両手で強く挟んだ。肉球が柔らかいせいで痛くはなかったし、逆に気持ちよかったくらいや。
俺の下腹部に、夜見のエロい声と息が当たる。
「シュウゥ…ホンマにアカン…ッ、イってまうッ―」
夜見の息はどんどん早なって、声も切羽詰ったもんに変わってきてんのはわかってた。
「…イってええよ」
俺はそう言うて、舌先に何度も当たってあった突起を吸って舐め挙げた。
「アカァッ―ニャアァッ―ニャアアァァッ―」
夜見はそう啼きながら体を硬直させた。呼吸が引きつって、腹が震えとった。
呼吸が少し整いだしたと思った時に、夜見は起き上がってこっちに体ごと向いた。
「にゃ…やっぱりシュウのせいやからにゃッ…」
そう言うて、夜見は俺のモノの先に割れ目を触れさせた。
つか、やから『にゃ』って、あれワザとか？天然か？
気が付いたら、夜見は腰を落とし始めとった。
「ニャッ…イぃッ…」
目をギュッと閉じた夜見の顔は、やっぱり痛そうに見えた。
根元まで咥えこんだ時には、夜見の息は絶え絶えやった。
「平気か…？」
「ちょっとだけ痛いけど…平気…」
そう言うた夜見は腰を動かし始めた。その時に発せられた声は、痛みに悶えるというよりかは、快感に悶えてる感じやった。
「にゃッ、んッ、んにゃッ」
キツうて、熱うて、ヌルヌルで、気持ちよすぎる。俺はもうイきそうになった。
「夜見…もうイくで…？」
「エエよ…んッ…いつでも来てッ…」
「ぁぁッ―！」
俺がイくまでにそんなに時間は掛からんかった。背徳感と解放感が沸き起こってきた。
「シュウの…あつ…ッ、ウチもッ…またぁッ―ニャアぁぁッ♪」
夜見の膣が縮こまって、俺の尿道から精液を絞り出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
とうとうヤッてもた。
そう思ってシュウを見ると、眠っとった。無理もあらへん、熱あるときにこんなことしたら疲れて当然や。
ウチはゆっくりシュウのチンチンを自分のアソコから抜いた。抜くときまで気持ちよかった…
ウチは精液で汚れたシュウのアソコを綺麗に舐めて、下着を戻した。それから火照った体を冷ますために、猫の体になって雨の止んだ外へ出た。
ウチがしばらくして家に戻ると、シュウは起きていた。
シュウは伸びをしていたが、ウチを見るなり『フッ…』と笑って頭を掻いた。
「よう、夜見…やっぱり夢やったか…」
ウチはすぐに分かった。シュウは熱で夢と現実の境があやふやになってもうてたんや、と。
本当は見せたかった― ウチの、本当の姿、猫又としての姿を。やけど、アカンかった。
怖かった…拒まれるんが。あの時はシュウの頭が少し霞んでいたから、やからウチを受け入れたのかも知れへん。
それからウチはまた、普通の『茶色い縞模様の雌猫』として日常を送った。
やっぱりもどかしいこともあったし、何度も本当のウチを見てもらいたかった。やけど、できんかった。
二週間が経った頃やった。
家に怪我人が運ばれてきた。刀傷を負って、死にかけていた。
その男は西虎一家の若頭。以前ここに担ぎ込まれた、東龍一家の若頭を襲ったヤクザの若頭やった。
「…よし…魔陣療術…完了」
シュウはすぐに魔陣療術を施した。ほんとに危ない状態やったらしく、魔陣療術にかなりの集中力と魔力を要し、彼は疲弊していた。
ウチは何人かの人間が走ってくる気配を感じた。
「にゃあっ」
「ん…なんや…？」
シュウが返事を言い終わるのが早いか、戸を荒々しく、叩きつけるように開けて男たちが入ってきた。手には…短刀。
「なんやお前らッ！」
「秋然先生、そこに寝てる男、こっちに渡してもらえんか？」
「…東龍一家…やな？」
「そうや。先生には借りがあるが、渡してくれへんのやったら………少々覚悟してもらわなあきまへんわ」
シュウは立ち上がって奴らと対峙した。
「腹は決まっとる…か。それは…残念や…」
男らがシュウに襲い掛かった。シュウは刀を避けながら、隙を見ては反撃した。
切りかかる男を躱し、繰り出した一発の掌底が男の顔に当たった。
「このボケェッ!!」
男は切れてシュウに襲い掛かった。それは避けれやん攻撃やなかった、ただ魔陣療術で体力を消耗したシュウは足をふら付かせて、体勢を崩した。
「しまっ…」
ウチの体は、考えるよりも早く動いた。ウチの爪が男の顔を裂いた。
「いッ―」
「フシャーッ！」
「このクソ猫がッ―」
「ミャッ―！」
ウチは男に蹴り飛ばされて、腹を鈍い痛みが襲った。
「夜見ッ―！」
「おっと、動かんといてもらおか…」
男らがシュウに刀を向けた。
ウチはまたふら付いた体で飛び掛かった。
「ニャッ―！」
一瞬視界が途切れた。ウチは男の一人に蹴り飛ばされたらしい…
「クソ猫が、二回も食らうかよッ！」
「ミャゥ…」
ウチは首を掴まれて持ち上げられた。息が…、できやん…
「この…猫の分際で俺たちに刃向おうなんざ、ムカつくんだよッ！まずぁ、てめぇの安いタマから取ってやるぜッ！」
あかん…ウチ…
「げぶほっ―!?」
「みゃッ!?」
男の手がウチを突然離した。反射的に姿勢を立て直して着地したウチが見たんは、戸を突き破って吹っ飛んだ男の姿やった。
なんや、何が起こったんや…？
「おい…」
声に振り向いたウチは、吹き飛んだ男にシュウが手を向けて、周りの三人の男がたじろぐ風景を見た。
「じぶん今何言うた…『安いタマ』言うたのぅ…」
シュウの雰囲気が…いつもと違う。
「命に…安いもへったくれもないんじゃコラァアァッ！」
シュウは怒鳴りながら、家の外で起き上がった男に魔力の衝撃を浴びせた。
「ぼげはぁッ―！」
男は気絶して、残った男らはシュウの気迫にジリジリと家の外へ追いやられていった。
「おまんら…ワレに覚悟せいか何か言うたのぅ…覚悟すんのは自分らじゃボケェ…自分らみたいなヤクザ相手に仕事しとるんじゃ、毎日人の死ぬ瞬間に向きあっとんのじゃ…覚悟できとらんわけないやろがぁあぁッ！」
「ひぃっ…！」
「とっとと去(い)ね…医者怒らせたら…知らんぞ」
男たちは気絶した男を担いで逃げて行った。
シュウはウチへ寄ってくると、さする様に体中を撫でた。ウチはすっかり呆気にとられて、さすられた所為で鼓動を早くした。
「…一応大丈夫みたいだな…」
シュウ、ウチのこと気遣ってくれたんや…
シュウはそう言うと散らかった家の片づけを始めた。
しばらくして西虎一家の男が若頭を引き取って行った。
そして家にウチをシュウ以外おらんようになったところで、シュウはウチにご飯をくれた。
「ほら、食べな…」
ウチは皿に乗せられた焼き魚の余りを食べた。するとウチはいきなり後ろから抱きかかえられた。
「ニャッ―!?」
「夜見…さっき、ありがとうな」
ウチはシュウと向かい合って抱えられてた。シュウはウチの顔を見ながらそう言うた。
「助けてくれようとしたんやろ……ごめんなぁ、その所為で痛い思いさせてもうたな…」
シュウはそう言うて、ウチを胸に抱えた。
………
てかあかんてッ！ シュウ、自分温かいわッ、なんかめっちゃええ匂いするしッ、ちょ、もう…ウチ…アカン………
ぼんッて煙に巻いて、ウチの変化が解けた。
シュウは呆気に取られとる。そりゃそうやろ、いきなり猫がマッパの女になったんやから…
「…よ、み…？」
「あ…シュウ…あの、あのな…！」
ウチは取り繕おうとしたけど、誤魔化す言葉なんかなかった。
「ふふっ…あっははははっ…」
「にゃッ!?な、なんで笑うん!?」
なんかいきなり笑い出したんですけどぉーッ
なんで？なぜ？なに？
「いや、すまんすまん。あれ、夢やなかったんやと思てな」
あれっていうのは、あの熱出した時の事や。
「あ…の…その…ごめん、ウチ…」
「気にすんなよ、夜見」
シュウはそう言って、目を逸らせたウチの頭を撫でた。
「あ～、あかん…シュウ…自分温かいし、ええ匂いするし…ウチ、もう…」
ウチは今、シュウと向かい合ってシュウの胡坐をかいた足の上に座ってる。やから、温かさも匂いも全部近い…近すぎる。
「ニャンッ―!?」
ウチのアソコをシュウが指で触った。その時に、クチュってゆう恥ずかしくなる音がした。
「しゅ、シュウ!?」
「したいんやろ？」
「………うん」
ウチは秋然に布団の上に寝かされた。
「な、なぁシュウ…」
「ん？」
「う、ウチのあ…アソコ吸うん…あれアカンで…」
「なんで？嫌やった？」
「だって…あれ気持ちよすぎて…」
「わかった…まぁ『アカン』てことは『やって』ってことやんなぁ…」
「え、ちょぉ、アカンてッ！」
ちょ、足開くなぁッ、やめてッ、アカンてッ！ちょぉ待って！
「な、シュウ、ニャァアァッ―！」
あかん…もう気持ちよすぎて…頭真っ白…
ウチは、その下町の隅でひっそりと暮らしてる。町のみんなは、たまにご飯もくれるし、それなりに相手にしてくれる。
ウチはいつものように、ねぐらからの散歩道をいつもの調子で歩いてた。すると向こうの方で人だかりができてるのが見えた。
「野郎ッ、てめぇやんのかコラッ！」
「おぉう、やってやろうじゃねぇかッ！」
喧嘩や。よくあることやから、べつに珍しくもないのに…なんであんなに集るんやろう？ウチには不思議でたまらない。
ウチは人だかりから少し離れて壁際を歩いていた。ここなら被害被ることはないはず。
「うぐっ！」
人ごみを割いて、男が一人飛び出してきた。男は鼻血を噴き出させ、壁に立てかけられていた板に当たった。
板は、群れになってウチに…倒れてきた。
「にゃあッ！」
上手く避けれんかった。左前脚に当たって、皮膚が削げた。血が流れてて、一応舐めてはみたけど、そんなことでは当然済まへん。
そんなうちに気が付いたんか、うちの周りにも何人か集まってきた。
「あら、かわいそうに…」
「ひでぇな、皮膚が剥がれてるぜ？」
みんな口々に「かわいそう」やとか「ひどい怪我や」とかいうけど、だれも何もしてはくれへん。あ～、ちがう、何もできへんのや。
「どいてくれ」
人をかき分けて、一人の男がうちの前に跪いた。ウチは条件反射で後ろに退こうとしたけど、前足の傷が余計に痛んだだけやった。男はウチの傷ついた前足を優しくつかんで、木箱の中から臭いのきつい液体に浸った木綿玉を、細い金属の箸みたいな棒で取り出した。
それでウチの傷口をチョンチョンと叩いた。
「にゃーーーーッ!!ニャッ、ニャァーッ！」（いたーーーーッ!!ちょッ、イタァーッ！）
えげつなく痛い。あまりの痛さに腕をつかむ男の腕をひっかき、ついには噛みついてもた。
「あだだだだだだッ!?ん………よしよし…痛かったな、すまんすまん…」
男はそういうと、腕に包帯を巻きだした。自分の腕や手から血が流れているのも気に留めず、包帯の端を結んだ。
「さて」
男はそういうと、ウチの体を持ち上げた。
な、なに、なにする気？
ウチは驚くあまりに、身を固くしてしまった。ウチはそのまま男の腕に抱かれて揺られて、気が付いた時には男の家らしいところに入っていた。
ようするに、ウチはお持ち帰りされてしまったわけや。
男はウチをそっと下ろした。そして部屋の棚や押し入れの中をひっくり返して、何かを探している風やった。
「お、あったあった…」
男は布きれと淵の低い籠を持ってきて、ウチの隣に籠を置き、布を中に敷いた。彼はウチをその布の上にゆっくりと寝かせた。
「にゃあ？」（なに？）
ウチは通じるはずもない言葉で訊いた。けど、たぶん雰囲気とかで分かったのかもしれん。男は答えた。
「ん？ああ…お前の怪我はしばらく面倒見ないといけないからな、おとなしくしといてくれよ？」
男はウチの頭を撫でようとした。けど、ふんわりと漂ってきた男の匂いが…匂いが…にお…
ウチは咄嗟に籠から飛び出ていた。
「…ははっ…まぁいいさ。あんまり動き回るなよ？」
男は笑ってそう言った。
彼は良くしてくれた。毎日消毒と包帯の交換はしてくれるし、ご飯もくれた。包帯の交換と消毒のたびにウチが引っ掻いたり噛みついたりしても、怒りもせずに宥めた。
彼は町のはずれに住んでいる。どうやって生計を立てているのか、しばらくの間は分からなかった。それがわかったのは、この家に来てから五日が過ぎたときやった。
「ショウゼンはんッ、ちょっと診てくれまっか?!」
いきなり一人の男が飛び込んできた。その男はあわてた様子でそう言った。
「どないした？」
「東龍一家の若頭が、西虎一家の奴らに切られたんやッ！ひどい傷やねん！」
「わかった、そこに寝かせッ」
その男の後ろから、二人の男が血だらけの男を肩に担いで入ってきた。男たちは指示通りに床に寝かせた。
「左鎖骨から右脇腹にかけて切断…鎖骨…肋骨…腹筋と腹斜筋が切断されとる。間合いに入りきっとらんかってよかったな、動脈は無事や。出血も比較的軽い…すぐに魔陣療術で細胞結合を施して止血する」
そいつは慣れた様子で肉のすっぱりと切れた傷口を見て、診断した。それでウチは分かった、この男は医者やったんや。やからあの怪我をした時もすぐに処置してもらえた。
彼は床に寝かせた男の周りに、棚から取り出した円筒に入ってた筆と、その円筒の反対側の墨入れの墨で丸い模様を描き始めた。
それはよく魔陣療術に使われる紋様やというのはウチかて知ってる。ただ、間近で見たんは初めてやった。それに加えて彼は、棚から携帯の筆墨と一緒に取り出してあった札を寝かせた男の周りの三方に配置した。
「ほな、あんたらどいといてくれ。あとお前も…」
言われる前にウチは下がった。離れな危ないんは分かったから。
「ふっ…お前はかしこいな」
当たり前や。一応ウチ、猫又やし。
「んじゃ、いっちょやっか…」
彼は陣に手を触れた。すると稲妻のように魔力が走り、魔力が男の傷口に集中して傷を塞いでいった。
やがて彼は術を止めた。
「…ふぅ…この辺にしとかねぇと、こいつ自身の治癒力が弱ってまうからな」
「若頭は大丈夫なのか!?」
「ああ。ただ応急的に血管と筋肉と骨を繋いで、皮膚を塞いだだけや。完全に治るにはまだ時間かかるから、安静にやな」
「そうか、ひとまずは安心やな…なぁシュウゼンはん、魔陣療術ってのやと、完治は無理なんか？」
「いや、できるけど、それやと元々の治癒力が下がんねん。それは好まし無いやろ？」
「そうやな」
彼らが話している一方で、男に意識が戻りつつあるのをウチは感じた。
「にゃ～ん…」
「ん？どないした？」
「うっ…ぐっ…」
男の目が薄らと開いた。
「あ、兄貴ッ！」
「ワイは…生きとるんか…？」
「はいっ、シュウゼン先生が助けてくれはりましたっ」
「シュウゼン先生…おおきに…」
「かまわへん、それが仕事や」
男らは、また後に礼をしに来ると言って男を担いで出て行った。
それから、他の猫又や魔物たちから聞いた話によれば、あのシュウゼンという男は、名を由良気秋然(ゆらきのしゅうぜん)といい、ウチも名を聞いたことはある男やった。
表立ったところから、裏の裏まで、あらゆる方面から信頼を得ている医者だった。極道から役人まで相手にして、実はこの町の裏社会を牛耳れる立場だとも言われている男やった。
一週間も経つ頃には、ウチの怪我はすっかり治ってた。
「なんかもうすっかりウチの猫やな、自分」
「にゃ～」
秋然のそばにおるんは、ウチも嫌やなかった。
「あ、そうゆうたら、自分の名前決めてなかったな？ 名前…ん～、そやな…、そや、夜見(よみ)、夜見でどうや？」
「にゃ～♪」
「気に入ったか、そうか」
夜見…ウチの名前。めっちゃうれしかった。
ただ、一週間経っても、ウチと秋然が触れ合うんは傷の手当のときだけやった。なんでて訊かれたら………そんなん、秋然の匂いとか…あったかさ？とか…声とか…とか………にゃああぁぁぁぁッ！
とっにっかっくっ！ ……な、なんかハズいねん…
秋然はたまにウチを抱き上げたり、撫でたりしに来た。けど、ウチはハズいから逃げ回った。かと思ったら、忙しいんか知らんけどほとんど構ってくれんことがある。ウチはなんか…寂しなって、秋然に寄っていく。
もう二か月、それがウチと秋然の日常になってた。
梅雨の時期、雨の降り続いた時のことやった。
その日、ウチは格子窓から雨の降り続く外を見ながら、秋然の帰りを待っていた。
いつもの診療に出かけて、もう三刻半(＝約七時間)………そろそろ雨音に交じって、秋然の足音が聞こえてもいい頃やった。
ピシャ…ピシャ…
あ、秋然の足音や。もう、戸をあけて入ってくる。
「あぁ、くっそー」
帰ってきた秋然はびしょ濡れやった。出ていくときは傘を持って行ったはずやのに…
「にゃぁん？」
「うん？…ああ、傘な。大風で骨が折れてもうてな、走って帰ってきたんや。もうびっしょびしょやで…」
秋然はそういうと着物を脱ぎ散らかして、軽く夕飯を食べて布団に潜って寝てもうた。
次の日、秋然の様子がなんか変や。起きる時間になっても起きてけぇへん。
「にゃ～？」
「ん？ゴホッ…夜見…」
秋然の顔は赤みを帯びてあった。
「なっさけないな…医者の不養生とか…風邪引いたみたいや」
昨日、ろくに体も髪も乾かさんと裸同然で寝たんや、風邪抉らせても無理ないとウチは思った。
「すまんな、俺は平気やさかい、食いもんやったらあの籠の中や。勝手に食べ」
秋然はそういうと寝てもうた。ウチは言われた通り、籠の中から食べもんを取って食べた。それから、外を見たり、部屋の中を歩き回ったりした。
雨はまだ昨日から降り続いてて、雨音が耳障りやった。
ウチはふと秋然を見た。寒いんやろか…唇…ううん、体が震えてる…
心配になってウチは秋然に近寄って、枕元に座った。
「…ん…、夜見…」
「にゃぁ？」（平気？）
気が付いた秋然に、通じないとわかっていながらも、そう言葉をかけた。
「夜見…」
「にゃッ!?」
いきなり秋然に抱き上げられ、そのまま、布団の中へ引き込まれた。ウチはびっくりしてすっとんきょな声を挙げてもうた。
あかんッ、これはあかんッ。布団の中、秋然の匂いがいっぱいで、心臓の音も近くで………！
「あったかいな…夜見…」
「っ―！」
ウチ…もうあかん…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は若干霞んだ頭で夜見を抱いた。めっちゃあったかい…
いきなり俺は違和感を感じた。なんか、夜見がおっきなっていくような………違う、明らかにデカくなっていっとる。ただ、なんか人肌みたいな感触が…
「夜見…？」
俺は目を開けた。目の前には俺の上にまたがって、俺を見下ろす一人の女がおった。猫の耳があって、目も人のやない。ただ、その女が夜見やと、俺は思った。
「はぁ…はぁ…」
夜見らしき女は…いや、夜見は…息が荒かった。
「あんたが…」
夜見はそう言葉を切り出した。
「秋然が…悪いんやからな…」
俺は訳が分からんかった。俺が何かしたか？
そんなこと思うとると、柔らかい肉球の着いた手で、夜見が俺の胸に触った。一瞬、少し悲しそうな顔をしたんが、強く俺の印象に残った。
「冷たい…ウチが、暖めたげるな？」
そういうと夜見は、俺の体の上に倒れるように体を重ねた。俺の胸に柔らかい感触が…それと一緒に唇にも…
「ん…くふぅ…」
俺はただ目を閉じて、彼女を受け入れた。ざらつきのある舌が、俺の口の中を弄り、彼女の口から息が漏れた。
「………阿呆、風邪…うつるで…？」
「そんなんええの。それより…ウチ、暖かい？」
「ああ、めっちゃぬくい…」
「…シュウのココは…熱いんやね？」
そう言うた彼女の片手は、俺の股間に添えられていた。俺は、彼女の一糸纏わぬその裸体に、熱で霞んだ頭ででも興奮していた。
俺は下着だけを身に着けた状態で寝とった。やから、夜見の猫みたいな手であっても、俺の下半身を露出させることは簡単やった。
夜見は俺の頭に尻の方を向けて、俺のむき出しのそれを柔らかい肉球で挟んでしごき始めた。激しくない、ゆっくりと優しい愛撫。
「シュウ…気持ちぃ？」
「…ああ…めっちゃいい…」
ほんまに気持ち良かった。それ以外に言葉がよう出てこうへんかった。
俺はヒョロヒョロと動く二本の尻尾に目が行った。次に肛門、そんで最後にアソコ。
俺はぼうっとした頭で、夜見の割れ目に口を着け舌を這わせた。
「にゃッ―、ふにゃンッ―」
夜見の手の動きが止まって、体が一瞬硬直したのが分かった。
俺の舌がネトッとした液体の感触を捉えた。もう夜見の秘部は、愛液で濡れきってあった。
「シュ、シュウぅッ…、アカン…ッ、ニャッ！」
俺は夜見の尻を腕でガッチリ掴んだまま、何度も舌を動かした。すると、夜見は俺のソレを両手で強く挟んだ。肉球が柔らかいせいで痛くはなかったし、逆に気持ちよかったくらいや。
俺の下腹部に、夜見のエロい声と息が当たる。
「シュウゥ…ホンマにアカン…ッ、イってまうッ―」
夜見の息はどんどん早なって、声も切羽詰ったもんに変わってきてんのはわかってた。
「…イってええよ」
俺はそう言うて、舌先に何度も当たってあった突起を吸って舐め挙げた。
「アカァッ―ニャアァッ―ニャアアァァッ―」
夜見はそう啼きながら体を硬直させた。呼吸が引きつって、腹が震えとった。
呼吸が少し整いだしたと思った時に、夜見は起き上がってこっちに体ごと向いた。
「にゃ…やっぱりシュウのせいやからにゃッ…」
そう言うて、夜見は俺のモノの先に割れ目を触れさせた。
つか、やから『にゃ』って、あれワザとか？天然か？
気が付いたら、夜見は腰を落とし始めとった。
「ニャッ…イぃッ…」
目をギュッと閉じた夜見の顔は、やっぱり痛そうに見えた。
根元まで咥えこんだ時には、夜見の息は絶え絶えやった。
「平気か…？」
「ちょっとだけ痛いけど…平気…」
そう言うた夜見は腰を動かし始めた。その時に発せられた声は、痛みに悶えるというよりかは、快感に悶えてる感じやった。
「にゃッ、んッ、んにゃッ」
キツうて、熱うて、ヌルヌルで、気持ちよすぎる。俺はもうイきそうになった。
「夜見…もうイくで…？」
「エエよ…んッ…いつでも来てッ…」
「ぁぁッ―！」
俺がイくまでにそんなに時間は掛からんかった。背徳感と解放感が沸き起こってきた。
「シュウの…あつ…ッ、ウチもッ…またぁッ―ニャアぁぁッ♪」
夜見の膣が縮こまって、俺の尿道から精液を絞り出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
とうとうヤッてもた。
そう思ってシュウを見ると、眠っとった。無理もあらへん、熱あるときにこんなことしたら疲れて当然や。
ウチはゆっくりシュウのチンチンを自分のアソコから抜いた。抜くときまで気持ちよかった…
ウチは精液で汚れたシュウのアソコを綺麗に舐めて、下着を戻した。それから火照った体を冷ますために、猫の体になって雨の止んだ外へ出た。
ウチがしばらくして家に戻ると、シュウは起きていた。
シュウは伸びをしていたが、ウチを見るなり『フッ…』と笑って頭を掻いた。
「よう、夜見…やっぱり夢やったか…」
ウチはすぐに分かった。シュウは熱で夢と現実の境があやふやになってもうてたんや、と。
本当は見せたかった― ウチの、本当の姿、猫又としての姿を。やけど、アカンかった。
怖かった…拒まれるんが。あの時はシュウの頭が少し霞んでいたから、やからウチを受け入れたのかも知れへん。
それからウチはまた、普通の『茶色い縞模様の雌猫』として日常を送った。
やっぱりもどかしいこともあったし、何度も本当のウチを見てもらいたかった。やけど、できんかった。
二週間が経った頃やった。
家に怪我人が運ばれてきた。刀傷を負って、死にかけていた。
その男は西虎一家の若頭。以前ここに担ぎ込まれた、東龍一家の若頭を襲ったヤクザの若頭やった。
「…よし…魔陣療術…完了」
シュウはすぐに魔陣療術を施した。ほんとに危ない状態やったらしく、魔陣療術にかなりの集中力と魔力を要し、彼は疲弊していた。
ウチは何人かの人間が走ってくる気配を感じた。
「にゃあっ」
「ん…なんや…？」
シュウが返事を言い終わるのが早いか、戸を荒々しく、叩きつけるように開けて男たちが入ってきた。手には…短刀。
「なんやお前らッ！」
「秋然先生、そこに寝てる男、こっちに渡してもらえんか？」
「…東龍一家…やな？」
「そうや。先生には借りがあるが、渡してくれへんのやったら………少々覚悟してもらわなあきまへんわ」
シュウは立ち上がって奴らと対峙した。
「腹は決まっとる…か。それは…残念や…」
男らがシュウに襲い掛かった。シュウは刀を避けながら、隙を見ては反撃した。
切りかかる男を躱し、繰り出した一発の掌底が男の顔に当たった。
「このボケェッ!!」
男は切れてシュウに襲い掛かった。それは避けれやん攻撃やなかった、ただ魔陣療術で体力を消耗したシュウは足をふら付かせて、体勢を崩した。
「しまっ…」
ウチの体は、考えるよりも早く動いた。ウチの爪が男の顔を裂いた。
「いッ―」
「フシャーッ！」
「このクソ猫がッ―」
「ミャッ―！」
ウチは男に蹴り飛ばされて、腹を鈍い痛みが襲った。
「夜見ッ―！」
「おっと、動かんといてもらおか…」
男らがシュウに刀を向けた。
ウチはまたふら付いた体で飛び掛かった。
「ニャッ―！」
一瞬視界が途切れた。ウチは男の一人に蹴り飛ばされたらしい…
「クソ猫が、二回も食らうかよッ！」
「ミャゥ…」
ウチは首を掴まれて持ち上げられた。息が…、できやん…
「この…猫の分際で俺たちに刃向おうなんざ、ムカつくんだよッ！まずぁ、てめぇの安いタマから取ってやるぜッ！」
あかん…ウチ…
「げぶほっ―!?」
「みゃッ!?」
男の手がウチを突然離した。反射的に姿勢を立て直して着地したウチが見たんは、戸を突き破って吹っ飛んだ男の姿やった。
なんや、何が起こったんや…？
「おい…」
声に振り向いたウチは、吹き飛んだ男にシュウが手を向けて、周りの三人の男がたじろぐ風景を見た。
「じぶん今何言うた…『安いタマ』言うたのぅ…」
シュウの雰囲気が…いつもと違う。
「命に…安いもへったくれもないんじゃコラァアァッ！」
シュウは怒鳴りながら、家の外で起き上がった男に魔力の衝撃を浴びせた。
「ぼげはぁッ―！」
男は気絶して、残った男らはシュウの気迫にジリジリと家の外へ追いやられていった。
「おまんら…ワレに覚悟せいか何か言うたのぅ…覚悟すんのは自分らじゃボケェ…自分らみたいなヤクザ相手に仕事しとるんじゃ、毎日人の死ぬ瞬間に向きあっとんのじゃ…覚悟できとらんわけないやろがぁあぁッ！」
「ひぃっ…！」
「とっとと去(い)ね…医者怒らせたら…知らんぞ」
男たちは気絶した男を担いで逃げて行った。
シュウはウチへ寄ってくると、さする様に体中を撫でた。ウチはすっかり呆気にとられて、さすられた所為で鼓動を早くした。
「…一応大丈夫みたいだな…」
シュウ、ウチのこと気遣ってくれたんや…
シュウはそう言うと散らかった家の片づけを始めた。
しばらくして西虎一家の男が若頭を引き取って行った。
そして家にウチをシュウ以外おらんようになったところで、シュウはウチにご飯をくれた。
「ほら、食べな…」
ウチは皿に乗せられた焼き魚の余りを食べた。するとウチはいきなり後ろから抱きかかえられた。
「ニャッ―!?」
「夜見…さっき、ありがとうな」
ウチはシュウと向かい合って抱えられてた。シュウはウチの顔を見ながらそう言うた。
「助けてくれようとしたんやろ……ごめんなぁ、その所為で痛い思いさせてもうたな…」
シュウはそう言うて、ウチを胸に抱えた。
………
てかあかんてッ！ シュウ、自分温かいわッ、なんかめっちゃええ匂いするしッ、ちょ、もう…ウチ…アカン………
ぼんッて煙に巻いて、ウチの変化が解けた。
シュウは呆気に取られとる。そりゃそうやろ、いきなり猫がマッパの女になったんやから…
「…よ、み…？」
「あ…シュウ…あの、あのな…！」
ウチは取り繕おうとしたけど、誤魔化す言葉なんかなかった。
「ふふっ…あっははははっ…」
「にゃッ!?な、なんで笑うん!?」
なんかいきなり笑い出したんですけどぉーッ
なんで？なぜ？なに？
「いや、すまんすまん。あれ、夢やなかったんやと思てな」
あれっていうのは、あの熱出した時の事や。
「あ…の…その…ごめん、ウチ…」
「気にすんなよ、夜見」
シュウはそう言って、目を逸らせたウチの頭を撫でた。
「あ～、あかん…シュウ…自分温かいし、ええ匂いするし…ウチ、もう…」
ウチは今、シュウと向かい合ってシュウの胡坐をかいた足の上に座ってる。やから、温かさも匂いも全部近い…近すぎる。
「ニャンッ―!?」
ウチのアソコをシュウが指で触った。その時に、クチュってゆう恥ずかしくなる音がした。
「しゅ、シュウ!?」
「したいんやろ？」
「………うん」
ウチは秋然に布団の上に寝かされた。
「な、なぁシュウ…」
「ん？」
「う、ウチのあ…アソコ吸うん…あれアカンで…」
「なんで？嫌やった？」
「だって…あれ気持ちよすぎて…」
「わかった…まぁ『アカン』てことは『やって』ってことやんなぁ…」
「え、ちょぉ、アカンてッ！」
ちょ、足開くなぁッ、やめてッ、アカンてッ！ちょぉ待って！
「な、シュウ、ニャァアァッ―！」
あかん…もう気持ちよすぎて…頭真っ白…
11/05/15 12:36更新 / アバロンⅡ世