優しい雷に抱かれて
「ん、んんぅ……」
遠くで、雨音が聞こえる。
草薙薫は、頬に伝う水滴の冷たさに目を覚まし、身体を起こした。
辺りを見回すと、そこは洞窟のようである。外では雷鳴が轟き、激しい雨が滝のように降り注いでおり、 彼はその隅に敷かれた藁の寝床の上で寝かされていたようであった。
「僕……どうしてここに?確か……山菜を取りに山道を歩いていたら、雷が近くで……」
そこまでは覚えているのだが、そこから先はスッパリと途切れている。
寝床から起き上がり、薫は洞窟の外を見る。
激しい雨に混じって、雷鳴が時々洞窟の中を照らす。雷が唸るような轟音を轟かせると、薫は反射的に耳を塞ぎ、身体を縮ませる。
雷は、嫌いだ。この音には、嫌な思い出しかない。嫌な思い出がーーー蘇ってくる。
山菜を入れたカゴが見当たらないが、この天気では雨が止むのを待った方がいい。薫は立ち上がると、雷から逃げるように洞窟の奥へと向かって歩き出しーーー突然、洞窟の入口で雷が落ちた。
「うわぁあああッ!?」
眩い閃光と衝撃を受け、薫はその場に尻餅をついてしまう。クラクラと頭が揺れるのを感じながら立ち上がろうとすると、その正面に人影が立った。
「やっと起きたか、少年」
「ぁ、え……?」
顔を上げた薫の目の前には、女性が居た。
第一印象は、絶世の美女。女性にしてはすらりと背が高く、透明感漂う美貌は気品に溢れ、輪とした切れ長の瞳は知的さと妖艶さを併せ持つ。鮮やかな山吹色の帯で結ばれた、濃い藍色の着物はやたら裾の短く、豊満な胸元を強調するように着崩して纏っている。
しかし、あちこち跳ねた癖っ毛の長い蒼髪の上には、大きな二つの尖った耳、そして腰には狼のような尻尾。どことなくだが、彼女の身体は淡い青色の光を帯びているような気がする。
彼女は、紛れもなく魔物。ゴクリと緊張に生唾を飲み込む薫が固まっていると、女性は彼と視線の高さを合わせるように膝を曲げた。
「ほら。これはキミの物なのだろう?」
「あっ、それ……」
女性の手には、今しがた見当たらなかった薫のカゴが抱えられている。彼が頷いてみせると、女性は満面の笑みを浮かべた。
「やはりそうか。山道を歩いている間、ずっと大事そうに抱えていたからな。運んできた甲斐があった」
「あ、ありがとう……ございます。えっと……貴方は、一体……?」
「私か?私は珊瑚。キミ達人間からは……ああ、そうだ、雷獣?そんな風に呼ばれていたな」
雷獣。聞いた話では、このような雷雨の日に雷と共にやってきて、人間を襲うのだという。
話の流れから、彼女が自分を連れてきたのは間違いない。ということは、やはりそういうことなのだろうか。
「あ、あのっ、珊瑚さん。何故、僕はここに連れて来られたんでしょう……?」
「うん?それは、決まっているだろう」
やや掴み所のない感じの雷獣、珊瑚は満面の笑み。カゴを脇に置くと、ポンと薫の肩に手を置いた。
「キミを……夫にするためさ」
バチィッ!!
薫の肩に置かれた珊瑚の手から紫電の輝き。電流は一瞬にして彼の身体を駆け巡り、その無垢な瞳が大きく開かれた。
「ぅあ、ああ……?」
一体、何が起こったのか。グラリと薫の身体が傾き、石の地面に仰向けに倒れ込んだ。時折思い出したように手足はピクピクと痙攣し、身体が全く動かせない。痛み、ではない別の、自分の知らない感覚が甘い余韻となって麻痺した身体に残されていた。
「おやおや、少し強すぎたかな。まぁ、こちらの方が手間が省けていいな」
頬を掻きながらそう呟き、珊瑚は薫の身体を抱き上げると、寝床の藁の上に彼の身体を横たえた。さらに、薫の着物に手を掛けると力を込め、紙でも破るように真っ二つに引き裂いてしまう。
「ほぅ……思った通り、綺麗な身体だ。肌も柔らかく、雪のようで……なるほど、飽きない感触だ」
「や、やめへ……さわりゃない、へ」
雷の余韻が身体の中に残っているのか、口が回らない。むず痒い痺れが身体に残り、身体を捩っていた。
「ふふっ……私の雷は気持ち良いだろう?ここ数ヶ月、キミのためにタップリと蓄電しておいたからな。大切な初夜だ。お互い最高の一夜にしよう……」
薫の裸体を満足げに見下ろし、珊瑚は薫に覆い被さるように身体を倒した。薄い布越しにたわわな水蜜桃が胸の上で潰れ、柔らかな感触と触れた箇所からピリピリとした微弱な電流が薫の身体を撫でるように通りすぎていく。
「んっ……これは、たまらないな。早速、キミの味を味わってみるとしようか」
「んっ、く……っ!い、いやだ、ぁ……」
指一本動かせない薫に向かって、ゆっくりと珊瑚の顔が迫ってくる。彼女の興奮に合わせてか、身体の密着した箇所から流れてくる電流が強くなる。直接快楽神経を掻き回されているような感覚に、顔は声を堪えるだけでも精一杯。身体だけは我慢が利かず、無意識のまま腰が浮いてしまっていた。
「あぁ……やっと、やっとだ。どれだけ私が待ちわびたことか……んむっ」
薫の両手を押さえ込み、感極まった表情のままの珊瑚は無防備な薫に口付けた。唇同士を擦り付けるように何度も角度を変えては深く密着させ、自分の唾液を塗り付けるように舌を踊らせる。
「んっ、れる……ちゅっ、ちゅぅ……ん……っ」
唇を通じて、珊瑚の電気が薫の身体に流れ込む。その妖艶な身体に溜めた、快楽の電流。まだまだ微弱なものとはいえ、性の味を知らない少年にはあまりにも強すぎた。
諦めたように、薫の身体から力が失われていく。そして、珊瑚は遂に薫の口内に舌を伸ばし、歯列や舌を絡め取りーーー
「……っ!?」
口元を押さえ、珊瑚が突然身体を離した。
口の端から垂れるのは、一筋の鮮血。驚いた表情のまま固まる珊瑚の様子に、薫はしてやったりと笑みを浮かべる。珊瑚の舌に噛み付いた、並びの良い白い歯を見せつけながら。
「そういう……ムリヤリなのは嫌いです。だから、逃がしてもらえませんか……?」
「…くっ、くくっ……あーっはっはっはっはっ!!」
怒るかと思いきや、狂ったように珊瑚は突然笑いだした。薫に拒絶されてなお、この状況が嬉しくて堪らないとでも言うように。わけもわからず、困惑する薫を見下ろしながら、珊瑚は口元の血を舐め取った。
「…やはり、私の目に狂いはなかったようだ。キミこそ、私の夫に相応しい。でも……少し、おいたが過ぎたようだね」
「く…ぅ……っ!? 」
珊瑚は妖しげな笑みを浮かべたまま、薫の目の前にしゃがみこんだ。手を伸ばせば届く至近距離。身体の自由が利かない薫には、珊瑚から逃れる手段などあるはずもなかった。
「繋がる前に、少し親睦を深めるとしようか。そうだね……ここは、どうかな?」
「ん、くっ……っ」
ぷに。珊瑚の指が、薫の胸の小さな突起。桜色の先端に指先を触れさせた。一度たりと意識したことは無かったが、そこを触れられることで与えられる形容し難いくすぐったさに、薫は悩ましげに身体を震わせた。
「ほう……なるほど。どうやら、キミはここも敏感みたいだね」
「や、やだ……変なことしないでよ……!」
「嫌なのかい?でも、キミのここは凄く喜んでいるみたいだけど」
徐々に硬度を増していき、ピンと立った乳首を転がすように弄りながら、珊瑚は健気にも固く立ち上がった薫のぺニスを指先で撫でるように触れ、愉快そうに笑う。
「ひっ、あ、ぅあっ!や、やだ、だめだってば……ぁ……っ」
刺激に脆い少年の未熟な男根を、電流の流れる指がゆっくりと上下に扱き続けた。
まとわりついてくるような快楽に、身体が全力疾走の直後のように熱くなり、呼吸が乱れる。じんわりと熱いマグマのようなたぎりが、扱かれるぺニスから腰へと広がっていくようであった。
「う……あぁ……くふっ……」
亀頭が痺れたように熱くなり、早くも先端からは先走りの滴が溢れ出していた。
「気持ち良いだろう?では……こうしてみるとどうかな」
その瞬間、珊瑚の指先から弾ける電流。薫の胸に、そしてぺニスに集中して、電撃を浴びせかけた。
「ひぁッ!?いっ……んんぅううーーーーーーッ!!」
歯を食い縛り、薫は声にならない絶叫を上げた。痛みはない。ただ強烈な快楽が絶えず、何度も、凄まじい強さで叩き付けられる。視界の中にパチパチと星が瞬き、意識が遥か彼方まで飛ばされてしまいそうな感覚に襲われた。
「どうだい、気持ちの良いところに快楽が集中する感覚は堪らないだろう?気に入ってくれると嬉しいんだが……聞こえていないか」
「うぁ、ああっ!んぅあああーーーーッ!!」
珊瑚が指を離してなお、電撃はその場に留まった。ビクビクと跳ねるぺニスからは噴水のように精液が迸り、理性を保とうとするも直接神経に突き刺さるような快楽の波がそれを許さない。涙を流し、快楽に悶える薫を見下ろしながら、珊瑚はその腰に跨がった。
「さぁ……そろそろ繋がろうか。今のキミなら、きっと私を受け入れてくれると思う。ここも、凄く元気のようだしね」
もどかしいとばかりに、珊瑚は纏っていた着物を脱ぎ捨てた。肌の色はミルクのような白さで、薄闇の中に白く輝く様は、まさに雪月華。芸術的とも言えるプロポーションが露となるが、今の薫にそれを意識する余裕は微塵もない。
珊瑚は精液にまみれた薫の肉棒に指を添え、自らのしっとりと濡れた陰唇にそれをあてがった。
「なかなか、いよいよ一つになると思うと緊張するものだね。キミもそうは思わないかい?……おや?」
返事がない。珊瑚が自分の世界に浸っている間に、薫は気絶してしまっていた。薄く開いた瞳は虚空を見つめており、僅かな呼吸に合わせて胸が上下している。軽く珊瑚が肩を揺すってみるも、目が覚める様子はなかった。
「…少々、加減を間違えたかな。でも、せっかくの初夜を一人で楽しむのも勿体ないし……ねっ」
薫がそんな状態にも関わらず、珊瑚は勢いよく腰を落とした。
根元まで一気に薫の逸物は呑み込まれ、ざらざらとした肉壁が絡み付く。のたうち回りたくなるほどの快楽に、気を失っていた彼の身体が跳ねた。
「……っあッ!?ぁ、あっ、あぁ……っ!」
「お目覚めのようだね。これで晴れて夫婦になるんだ、最後まで一緒に楽しもうじゃないか」
頭の許容を越えるほどの快楽による強制的な覚醒。目覚めてなお、息も絶え絶えといった薫のぺニスを、珊瑚の膣は包み込むように舐め回していた。
「ふふっ…… どうかな、私の中は?今日から毎日、キミの味わう快楽の味だよ」
「んっ、ふぁ、ぁ……んん……っ」
「そうか、そんなに気に入ってくれたのなら、女冥利に尽きるというものだ。しかし……本番は、これからだよ」
珊瑚は腰を力強く、そして激しく弾ませる。
「ひゃああんっ!やっ、やめ、やめて……ぅああっ!」
まるで性感に翻弄される少女のような悲鳴を上げて悶える薫。激しい腰使いとうねる肉壁、さらに快楽の電撃が休む暇もなく彼の身体を責め立てる。
気絶しては、一瞬で覚醒する。現実との境界線で悶える薫に、珊瑚は覆い被さる。彼の頬に両手を添え、拒絶された口付けをもう一度実行するために。
「…抵抗しても、いいんだよ。その時は、もっとキミと仲良くなればいい。先ほどよりももっと……気持ち良くしてあげよう」
「ひっ……くっ、んん……っ」
珊瑚は、返答も待たずに再び薫と唇を重ねた。舌を突き入れ、薫の抵抗が無いことを確認すると、その感激を表すように満遍なく口内に舌を踊らせ、引っ込みがちだった彼の舌を絡めとる。
お互いの唾液を交換し、かき混ぜ、舌と一緒に吸い上げる。顔が涎で汚れるのもお構い無しに珊瑚は小刻みに震える薫の身体を抱きしめ、深く、さらに深く口付けを交わす。ピリピリと帯電した舌の上で踊るほど薫の理性は溶かされていき、少しずつ珊瑚を受け入れていった。
「さ……珊瑚さ、もう……っ」
「ふふ……っ、出そうなんだね?いいよ、全て受けとめてあげよう。さぁ……キミの命の元を、私の中に出しておくれ」
薫の限界と同時に、一際強く腰を叩きつけた珊瑚は全身で包み込むように彼の身体を抱きしめた。
身体の奥で迸る熱いたぎりを受けた珊瑚は身体を震わせる。瞳を閉じると、身体全体へと染み渡っていくかのような薫の精の鼓動、温かさを感じ入っているかのように背を反らした。
「んんっ……すごいな。こんなにビクビク脈打って……それに量も……んっ」
年頃の少年ならではの激しい射精運動を受けて、珊瑚は恍惚の溜め息をつく。やがて、射精が完全に終わったところで、珊瑚は静かに瞳を開いた。
喰らう者と、喰らわれる者。二人の視線が正対する。激しい交わりの後に訪れたのは、柔らかな充実した安心感であった。
「少年、大丈夫かい?今は放電を止めているから、幾分楽だと思うが……」
「…珊瑚さん、でしたっけ?」
「ああ、そうだ。もう覚えてくれたのか、感激だな」
そう笑って、珊瑚は薫の頭を撫でる。彼も、抵抗は一切しなかった。彼女に身体を預け、遠慮がちに顔を見上げている。
「一つ、教えて下さい。どうして、珊瑚さんは僕を選んだんです?僕と貴方は、初対面のはずじゃないですか」
「初対面、か……キミから見ると、そうかもしれないね。でも、私はいつもキミを見ていたんだよ」
それを聞いて、驚いた表情を浮かべる薫に珊瑚は笑みを浮かべてみせる。
「そうだな……初めてキミを見たのは、葬式の列の中だった。キミの大好きだった、お父さんとお母さんの、ね」
「え……っ?」
薄暗い、今日と同じ雷雨の日。大勢の大人によって運ばれていく大きな木の桶に、雨に打たれながらすがり付いて泣く少年の姿。瞳を閉じると、珊瑚は鮮明にそれを思い出すことができた。
流行り病。町から遠く離れたこの土地でも、それは容赦なくやって来た。毎日のように山道を通る葬式の列の中で、珊瑚は一人の少年、薫に目を奪われていたのだった。
「キミは気付いていなかっただろうが……お墓の前で泣くキミの後ろで、私はいつもキミを見ていたよ。その時に声を掛けられればと思っていたんだが、こんな性格でね。あの時の私には、キミに掛ける言葉が……勇気が足りなかったんだ」
だが、今は違う。藁の上に押し倒した少年の身体を、珊瑚は強く抱きしめる。もう離したくはない。その思い一つだけだった。
「…私と一緒に暮らそう。雷が鳴る日、キミがいつも両親のことを思い出して泣いているのも知っている。私が、もう二度と悲しい想いはさせない。だから……」
「…珊瑚、さん……」
抱きしめてくる珊瑚に、薫も彼女の身体に腕を回す。驚いた表情を浮かべる珊瑚に、薫も自然と笑みを浮かべていた。
「…僕なんかで、いいんですか?力も無いですし、身体も……小さいですよ」
「構わないよ。私は仲間内でも身体が大きな方でね。キミと似たようなものさ」
「お金もありませんし……貧しい思いをさせてしまうかもしれません」
「こう見えて、狩りは得意でね。私に全て任せて欲しい。料理の腕も、大したものだと自負している」
「…村の人とも、あんまり仲は良くないんです。珊瑚さんに酷いことを言う人もいるかも……」
「ならばここに住めばいい。キミには私がいて、私にはキミがいる。それだけで十分だろう?」
「あの……っ、あ……の……っ」
薫は、珊瑚の胸に顔を埋めていた。溢れる涙を見せないように。もう、彼女の前で涙を見せないように。
珊瑚も、薫が泣いていることは気付いているだろう。それでも、敢えて何も言わず、そっと背中を撫で続けた。
「…もう一度、聞くぞ。私と……一緒に居てくれるか?」
「…僕なんかで、良ければ」
涙の跡を残しながら、薫は珊瑚に笑顔を向けた。
見つめ合う二人の距離は少しずつ近付いていき、再び唇が触れ合った。
雨は、もう降ってはいなかった。
遠くで、雨音が聞こえる。
草薙薫は、頬に伝う水滴の冷たさに目を覚まし、身体を起こした。
辺りを見回すと、そこは洞窟のようである。外では雷鳴が轟き、激しい雨が滝のように降り注いでおり、 彼はその隅に敷かれた藁の寝床の上で寝かされていたようであった。
「僕……どうしてここに?確か……山菜を取りに山道を歩いていたら、雷が近くで……」
そこまでは覚えているのだが、そこから先はスッパリと途切れている。
寝床から起き上がり、薫は洞窟の外を見る。
激しい雨に混じって、雷鳴が時々洞窟の中を照らす。雷が唸るような轟音を轟かせると、薫は反射的に耳を塞ぎ、身体を縮ませる。
雷は、嫌いだ。この音には、嫌な思い出しかない。嫌な思い出がーーー蘇ってくる。
山菜を入れたカゴが見当たらないが、この天気では雨が止むのを待った方がいい。薫は立ち上がると、雷から逃げるように洞窟の奥へと向かって歩き出しーーー突然、洞窟の入口で雷が落ちた。
「うわぁあああッ!?」
眩い閃光と衝撃を受け、薫はその場に尻餅をついてしまう。クラクラと頭が揺れるのを感じながら立ち上がろうとすると、その正面に人影が立った。
「やっと起きたか、少年」
「ぁ、え……?」
顔を上げた薫の目の前には、女性が居た。
第一印象は、絶世の美女。女性にしてはすらりと背が高く、透明感漂う美貌は気品に溢れ、輪とした切れ長の瞳は知的さと妖艶さを併せ持つ。鮮やかな山吹色の帯で結ばれた、濃い藍色の着物はやたら裾の短く、豊満な胸元を強調するように着崩して纏っている。
しかし、あちこち跳ねた癖っ毛の長い蒼髪の上には、大きな二つの尖った耳、そして腰には狼のような尻尾。どことなくだが、彼女の身体は淡い青色の光を帯びているような気がする。
彼女は、紛れもなく魔物。ゴクリと緊張に生唾を飲み込む薫が固まっていると、女性は彼と視線の高さを合わせるように膝を曲げた。
「ほら。これはキミの物なのだろう?」
「あっ、それ……」
女性の手には、今しがた見当たらなかった薫のカゴが抱えられている。彼が頷いてみせると、女性は満面の笑みを浮かべた。
「やはりそうか。山道を歩いている間、ずっと大事そうに抱えていたからな。運んできた甲斐があった」
「あ、ありがとう……ございます。えっと……貴方は、一体……?」
「私か?私は珊瑚。キミ達人間からは……ああ、そうだ、雷獣?そんな風に呼ばれていたな」
雷獣。聞いた話では、このような雷雨の日に雷と共にやってきて、人間を襲うのだという。
話の流れから、彼女が自分を連れてきたのは間違いない。ということは、やはりそういうことなのだろうか。
「あ、あのっ、珊瑚さん。何故、僕はここに連れて来られたんでしょう……?」
「うん?それは、決まっているだろう」
やや掴み所のない感じの雷獣、珊瑚は満面の笑み。カゴを脇に置くと、ポンと薫の肩に手を置いた。
「キミを……夫にするためさ」
バチィッ!!
薫の肩に置かれた珊瑚の手から紫電の輝き。電流は一瞬にして彼の身体を駆け巡り、その無垢な瞳が大きく開かれた。
「ぅあ、ああ……?」
一体、何が起こったのか。グラリと薫の身体が傾き、石の地面に仰向けに倒れ込んだ。時折思い出したように手足はピクピクと痙攣し、身体が全く動かせない。痛み、ではない別の、自分の知らない感覚が甘い余韻となって麻痺した身体に残されていた。
「おやおや、少し強すぎたかな。まぁ、こちらの方が手間が省けていいな」
頬を掻きながらそう呟き、珊瑚は薫の身体を抱き上げると、寝床の藁の上に彼の身体を横たえた。さらに、薫の着物に手を掛けると力を込め、紙でも破るように真っ二つに引き裂いてしまう。
「ほぅ……思った通り、綺麗な身体だ。肌も柔らかく、雪のようで……なるほど、飽きない感触だ」
「や、やめへ……さわりゃない、へ」
雷の余韻が身体の中に残っているのか、口が回らない。むず痒い痺れが身体に残り、身体を捩っていた。
「ふふっ……私の雷は気持ち良いだろう?ここ数ヶ月、キミのためにタップリと蓄電しておいたからな。大切な初夜だ。お互い最高の一夜にしよう……」
薫の裸体を満足げに見下ろし、珊瑚は薫に覆い被さるように身体を倒した。薄い布越しにたわわな水蜜桃が胸の上で潰れ、柔らかな感触と触れた箇所からピリピリとした微弱な電流が薫の身体を撫でるように通りすぎていく。
「んっ……これは、たまらないな。早速、キミの味を味わってみるとしようか」
「んっ、く……っ!い、いやだ、ぁ……」
指一本動かせない薫に向かって、ゆっくりと珊瑚の顔が迫ってくる。彼女の興奮に合わせてか、身体の密着した箇所から流れてくる電流が強くなる。直接快楽神経を掻き回されているような感覚に、顔は声を堪えるだけでも精一杯。身体だけは我慢が利かず、無意識のまま腰が浮いてしまっていた。
「あぁ……やっと、やっとだ。どれだけ私が待ちわびたことか……んむっ」
薫の両手を押さえ込み、感極まった表情のままの珊瑚は無防備な薫に口付けた。唇同士を擦り付けるように何度も角度を変えては深く密着させ、自分の唾液を塗り付けるように舌を踊らせる。
「んっ、れる……ちゅっ、ちゅぅ……ん……っ」
唇を通じて、珊瑚の電気が薫の身体に流れ込む。その妖艶な身体に溜めた、快楽の電流。まだまだ微弱なものとはいえ、性の味を知らない少年にはあまりにも強すぎた。
諦めたように、薫の身体から力が失われていく。そして、珊瑚は遂に薫の口内に舌を伸ばし、歯列や舌を絡め取りーーー
「……っ!?」
口元を押さえ、珊瑚が突然身体を離した。
口の端から垂れるのは、一筋の鮮血。驚いた表情のまま固まる珊瑚の様子に、薫はしてやったりと笑みを浮かべる。珊瑚の舌に噛み付いた、並びの良い白い歯を見せつけながら。
「そういう……ムリヤリなのは嫌いです。だから、逃がしてもらえませんか……?」
「…くっ、くくっ……あーっはっはっはっはっ!!」
怒るかと思いきや、狂ったように珊瑚は突然笑いだした。薫に拒絶されてなお、この状況が嬉しくて堪らないとでも言うように。わけもわからず、困惑する薫を見下ろしながら、珊瑚は口元の血を舐め取った。
「…やはり、私の目に狂いはなかったようだ。キミこそ、私の夫に相応しい。でも……少し、おいたが過ぎたようだね」
「く…ぅ……っ!? 」
珊瑚は妖しげな笑みを浮かべたまま、薫の目の前にしゃがみこんだ。手を伸ばせば届く至近距離。身体の自由が利かない薫には、珊瑚から逃れる手段などあるはずもなかった。
「繋がる前に、少し親睦を深めるとしようか。そうだね……ここは、どうかな?」
「ん、くっ……っ」
ぷに。珊瑚の指が、薫の胸の小さな突起。桜色の先端に指先を触れさせた。一度たりと意識したことは無かったが、そこを触れられることで与えられる形容し難いくすぐったさに、薫は悩ましげに身体を震わせた。
「ほう……なるほど。どうやら、キミはここも敏感みたいだね」
「や、やだ……変なことしないでよ……!」
「嫌なのかい?でも、キミのここは凄く喜んでいるみたいだけど」
徐々に硬度を増していき、ピンと立った乳首を転がすように弄りながら、珊瑚は健気にも固く立ち上がった薫のぺニスを指先で撫でるように触れ、愉快そうに笑う。
「ひっ、あ、ぅあっ!や、やだ、だめだってば……ぁ……っ」
刺激に脆い少年の未熟な男根を、電流の流れる指がゆっくりと上下に扱き続けた。
まとわりついてくるような快楽に、身体が全力疾走の直後のように熱くなり、呼吸が乱れる。じんわりと熱いマグマのようなたぎりが、扱かれるぺニスから腰へと広がっていくようであった。
「う……あぁ……くふっ……」
亀頭が痺れたように熱くなり、早くも先端からは先走りの滴が溢れ出していた。
「気持ち良いだろう?では……こうしてみるとどうかな」
その瞬間、珊瑚の指先から弾ける電流。薫の胸に、そしてぺニスに集中して、電撃を浴びせかけた。
「ひぁッ!?いっ……んんぅううーーーーーーッ!!」
歯を食い縛り、薫は声にならない絶叫を上げた。痛みはない。ただ強烈な快楽が絶えず、何度も、凄まじい強さで叩き付けられる。視界の中にパチパチと星が瞬き、意識が遥か彼方まで飛ばされてしまいそうな感覚に襲われた。
「どうだい、気持ちの良いところに快楽が集中する感覚は堪らないだろう?気に入ってくれると嬉しいんだが……聞こえていないか」
「うぁ、ああっ!んぅあああーーーーッ!!」
珊瑚が指を離してなお、電撃はその場に留まった。ビクビクと跳ねるぺニスからは噴水のように精液が迸り、理性を保とうとするも直接神経に突き刺さるような快楽の波がそれを許さない。涙を流し、快楽に悶える薫を見下ろしながら、珊瑚はその腰に跨がった。
「さぁ……そろそろ繋がろうか。今のキミなら、きっと私を受け入れてくれると思う。ここも、凄く元気のようだしね」
もどかしいとばかりに、珊瑚は纏っていた着物を脱ぎ捨てた。肌の色はミルクのような白さで、薄闇の中に白く輝く様は、まさに雪月華。芸術的とも言えるプロポーションが露となるが、今の薫にそれを意識する余裕は微塵もない。
珊瑚は精液にまみれた薫の肉棒に指を添え、自らのしっとりと濡れた陰唇にそれをあてがった。
「なかなか、いよいよ一つになると思うと緊張するものだね。キミもそうは思わないかい?……おや?」
返事がない。珊瑚が自分の世界に浸っている間に、薫は気絶してしまっていた。薄く開いた瞳は虚空を見つめており、僅かな呼吸に合わせて胸が上下している。軽く珊瑚が肩を揺すってみるも、目が覚める様子はなかった。
「…少々、加減を間違えたかな。でも、せっかくの初夜を一人で楽しむのも勿体ないし……ねっ」
薫がそんな状態にも関わらず、珊瑚は勢いよく腰を落とした。
根元まで一気に薫の逸物は呑み込まれ、ざらざらとした肉壁が絡み付く。のたうち回りたくなるほどの快楽に、気を失っていた彼の身体が跳ねた。
「……っあッ!?ぁ、あっ、あぁ……っ!」
「お目覚めのようだね。これで晴れて夫婦になるんだ、最後まで一緒に楽しもうじゃないか」
頭の許容を越えるほどの快楽による強制的な覚醒。目覚めてなお、息も絶え絶えといった薫のぺニスを、珊瑚の膣は包み込むように舐め回していた。
「ふふっ…… どうかな、私の中は?今日から毎日、キミの味わう快楽の味だよ」
「んっ、ふぁ、ぁ……んん……っ」
「そうか、そんなに気に入ってくれたのなら、女冥利に尽きるというものだ。しかし……本番は、これからだよ」
珊瑚は腰を力強く、そして激しく弾ませる。
「ひゃああんっ!やっ、やめ、やめて……ぅああっ!」
まるで性感に翻弄される少女のような悲鳴を上げて悶える薫。激しい腰使いとうねる肉壁、さらに快楽の電撃が休む暇もなく彼の身体を責め立てる。
気絶しては、一瞬で覚醒する。現実との境界線で悶える薫に、珊瑚は覆い被さる。彼の頬に両手を添え、拒絶された口付けをもう一度実行するために。
「…抵抗しても、いいんだよ。その時は、もっとキミと仲良くなればいい。先ほどよりももっと……気持ち良くしてあげよう」
「ひっ……くっ、んん……っ」
珊瑚は、返答も待たずに再び薫と唇を重ねた。舌を突き入れ、薫の抵抗が無いことを確認すると、その感激を表すように満遍なく口内に舌を踊らせ、引っ込みがちだった彼の舌を絡めとる。
お互いの唾液を交換し、かき混ぜ、舌と一緒に吸い上げる。顔が涎で汚れるのもお構い無しに珊瑚は小刻みに震える薫の身体を抱きしめ、深く、さらに深く口付けを交わす。ピリピリと帯電した舌の上で踊るほど薫の理性は溶かされていき、少しずつ珊瑚を受け入れていった。
「さ……珊瑚さ、もう……っ」
「ふふ……っ、出そうなんだね?いいよ、全て受けとめてあげよう。さぁ……キミの命の元を、私の中に出しておくれ」
薫の限界と同時に、一際強く腰を叩きつけた珊瑚は全身で包み込むように彼の身体を抱きしめた。
身体の奥で迸る熱いたぎりを受けた珊瑚は身体を震わせる。瞳を閉じると、身体全体へと染み渡っていくかのような薫の精の鼓動、温かさを感じ入っているかのように背を反らした。
「んんっ……すごいな。こんなにビクビク脈打って……それに量も……んっ」
年頃の少年ならではの激しい射精運動を受けて、珊瑚は恍惚の溜め息をつく。やがて、射精が完全に終わったところで、珊瑚は静かに瞳を開いた。
喰らう者と、喰らわれる者。二人の視線が正対する。激しい交わりの後に訪れたのは、柔らかな充実した安心感であった。
「少年、大丈夫かい?今は放電を止めているから、幾分楽だと思うが……」
「…珊瑚さん、でしたっけ?」
「ああ、そうだ。もう覚えてくれたのか、感激だな」
そう笑って、珊瑚は薫の頭を撫でる。彼も、抵抗は一切しなかった。彼女に身体を預け、遠慮がちに顔を見上げている。
「一つ、教えて下さい。どうして、珊瑚さんは僕を選んだんです?僕と貴方は、初対面のはずじゃないですか」
「初対面、か……キミから見ると、そうかもしれないね。でも、私はいつもキミを見ていたんだよ」
それを聞いて、驚いた表情を浮かべる薫に珊瑚は笑みを浮かべてみせる。
「そうだな……初めてキミを見たのは、葬式の列の中だった。キミの大好きだった、お父さんとお母さんの、ね」
「え……っ?」
薄暗い、今日と同じ雷雨の日。大勢の大人によって運ばれていく大きな木の桶に、雨に打たれながらすがり付いて泣く少年の姿。瞳を閉じると、珊瑚は鮮明にそれを思い出すことができた。
流行り病。町から遠く離れたこの土地でも、それは容赦なくやって来た。毎日のように山道を通る葬式の列の中で、珊瑚は一人の少年、薫に目を奪われていたのだった。
「キミは気付いていなかっただろうが……お墓の前で泣くキミの後ろで、私はいつもキミを見ていたよ。その時に声を掛けられればと思っていたんだが、こんな性格でね。あの時の私には、キミに掛ける言葉が……勇気が足りなかったんだ」
だが、今は違う。藁の上に押し倒した少年の身体を、珊瑚は強く抱きしめる。もう離したくはない。その思い一つだけだった。
「…私と一緒に暮らそう。雷が鳴る日、キミがいつも両親のことを思い出して泣いているのも知っている。私が、もう二度と悲しい想いはさせない。だから……」
「…珊瑚、さん……」
抱きしめてくる珊瑚に、薫も彼女の身体に腕を回す。驚いた表情を浮かべる珊瑚に、薫も自然と笑みを浮かべていた。
「…僕なんかで、いいんですか?力も無いですし、身体も……小さいですよ」
「構わないよ。私は仲間内でも身体が大きな方でね。キミと似たようなものさ」
「お金もありませんし……貧しい思いをさせてしまうかもしれません」
「こう見えて、狩りは得意でね。私に全て任せて欲しい。料理の腕も、大したものだと自負している」
「…村の人とも、あんまり仲は良くないんです。珊瑚さんに酷いことを言う人もいるかも……」
「ならばここに住めばいい。キミには私がいて、私にはキミがいる。それだけで十分だろう?」
「あの……っ、あ……の……っ」
薫は、珊瑚の胸に顔を埋めていた。溢れる涙を見せないように。もう、彼女の前で涙を見せないように。
珊瑚も、薫が泣いていることは気付いているだろう。それでも、敢えて何も言わず、そっと背中を撫で続けた。
「…もう一度、聞くぞ。私と……一緒に居てくれるか?」
「…僕なんかで、良ければ」
涙の跡を残しながら、薫は珊瑚に笑顔を向けた。
見つめ合う二人の距離は少しずつ近付いていき、再び唇が触れ合った。
雨は、もう降ってはいなかった。
15/10/07 20:09更新 / Phantom