Last Dinosaur
レーヴィが死んで、私がレーヴィになった。
そこからの私の行動は早かった。着物や家財や社、そして土地をすべて売り払い、金を作った。
その金を情報屋に渡し、あの男の所在や動向を突き止めさせた。情報屋は私が金を払うとニヤつきながらそれを受け取る。言い値を払ったのだが、恐らくかなり盛られた額なのだろう。だが、どうでもいい。金はもはや私にとっては無用の長物だ。
次にあの子が使った薬の残りを調べて成分を突き止め、量を増やした。復讐に足る量になるまでに一月を要した。準備は整った。
今あの男は家族とキャンプに出掛けている。
その場所が見渡せる丘で、私は一週間前から雨乞いの舞を舞っていた 。本来山頂で火を炊き、我が主である龍神が如く舞うのが常だが、あの男には湖に獣の臓物を投げ込む忌わしの術を使った。
岩山に立ち、私の自らの怒りを舞で表す。そして、雨を呼ぶ。恵みの雨ではなく災いの雨を。
青い空が灰色に染まり、ポツリポツリと雫が垂れる。
だがまだ足りない。もっとだ。
私の怒りはこんなものじゃない。
目には目を。歯には歯を。外道には外道を。
舞は激しさを増す。髪を振り乱し、悪魔の形相の蛇が舞う。
怒りが天へ昇っていく。
私の思いを汲み取ったかのようなどす黒い暗雲が立ち込める。
私は舞の中に水の魔術の動きを混ぜ始める。それに合わせて岩山の麓の古井戸が水柱をあげた。古井戸にはあの薬をありったけ投げ込んである。
こいがたきを昇るが如く、水柱は天へ向かう。
雨音が段々と激しくなる。私は雨水を操り、結界を自らの周りに作る。周りの草花は徐々に朽ち始めている。
奴らもそろそろ浴びた雨水からひりひりとした痛みを感じ出したようだ。テントの中へと逃げ込んでいく。
だが、逃がさない。
雫が絶えず落ち、空が哭く。私が盛った毒を受けた雨を落した。あの男の元へ、災いを落とす。
小さな悲鳴が聞こえた気がした。空耳だろうか。さぁ、最後の仕上げだ。
私はありったけの魔力を悲鳴の元へ飛ばした。魔力は雨水を集め疾風の如くそこへ向かい、強烈な雨風と成って吹き込む。
雨に溶けた災いがテントを溶かし、穴を開けた。その中に容赦無く雨水を叩き込む。
今度の悲鳴は空耳ではなかった。三人分の悲鳴が私の元へと届く。
「うふふ、ふふふ....。
はは!あはははあああははははは、はははははははは!!
あははははははははははははははははは!」
わたしは舞をやめ、蛇腹を岩場に下ろして狂ったように笑う。きっと私はこの世のどんな悪魔より悪魔的な笑顔をしているんだろう。
「....ねぇ、見ているレーヴィ?貴方の仇.....とったよ?
今から、あいつのところに行って謝らせるからね?
その後で、私も貴方の処へ行くからね?」
私はよろよろと立ち上がると、甘くて黒い薬を飲んだ。そして傍に置いてあったレインコートに、雨を中和する薬を垂らして袖を通す。
二股に別れた脚までをすっぽり覆えるコートだ。これならあの雨の中歩ける。私は岩山を下り、あの男の元へと向かった。あの男に自らの罪を思い知らせる為に。
あの男はテントの中で妻と共に虫ケラのように倒れていた。クズには相応しい最期だ。
「うあ....ああ。」
うずくまる奴の元に、私は屈み込んだ。
「痛いか...?思い知ったか...?
あの子の痛みを......!」
そして、蛇特有の長い舌をちろちろと出してあざ笑う。
それを見てこいつもわたしの正体に気づいたようだ。なぜこんな目に合っているのかも。
だが、今更もう遅い。お前達はこのままボロ雑巾のようになって死ねばいいんだ。
「助かりたいか?」
私は男の髪の毛を掴んで顔を向けさせる。
「た、助けてくれるのか?」
「助けるわけないでしょう?」
男の顔を殴りつける。引っ張られた男の髪の毛は、皮膚と一緒に剥がれて私の指にとどまる。
痛みで絶叫する男の首を私は締め上げた。
「あの子が死んで!!お前みたいな奴が生きている!!そんなの!!許されるはずが!!無い!!」
私の指が、男の溶けた首の皮に食い込み穴を開ける。血液の流れが血管から直接伝わる。
「た、助けて......
俺はどうなってもいい...。ただ、妻と子どもだけでも.....!」
自分を犠牲に、家族を助けたいらしい。だが、その姿は私の怒りにさらに火をつけた。
私の脳裏に、生まれてこれなかった小さな命と絶望し命を絶った母親が浮かぶ。
「.........なんでよ?なんでその気持ちをあの子とお腹の赤ん坊に分けてあげられなかった!!?
こいつらとあの子たちのなにが違うっていうのよ!!!!?」
あんな事、許されるはずが無いんだ。
「すまなかった......!
でも、お願いだ。悪いのは...俺だけなんだ。妻と子供に罪はないんだ....!」
「あの子とお腹の子どもにも罪なんてなかったじゃないか!!!!!」
ふざけるな。ふざけるな。あの子たちにお前は同じ事を言えるのか。
怖かったんだろう。苦しかったんだろう。痛かったんだろう。
お前のせいなんだぞ。
男の態度が私を無性に腹立たせる。
悔しくて涙が零れてきた。
「私も、命はいらない...!あの子さえ助かれば...それで良い!!」
それまで一言も発さなかった男の妻が掠れた声で私に縋る。ぐずぐずに崩れた身体で、私に頭を下げる。泣いている。
「.......ふざけるなよッ......!」
私は目を背けた。その姿が、目の輝きが、強さが、あの子と同じだったからだ。
母親。なんて美しいんだろう。
私。なんて醜いんだろう。
私は気づいていた。
私はこの男と何も変わらない。
なんの罪のない母と子供を殺した。
超えてはいけない一線を超えた。
私は虚しく地面を叩く。
「畜生.......!!畜生!!!!
なんなのよ、私は!?」
だが、どうすれば良かったというのか。
あの子の幸せを奪ったあの男を許せというのか。どうしても、それだけは出来なかった。許せなかった。
「.....誰も、助かりませんか?」
そんな私に、妻が声を掛ける。
私は懐から雨の中和剤を取り出すが、もう殆ど残っていない。
「こんな量じゃ.....」
「私は、...夫が何をしたのか知りません。貴方が何故私たちを殺そうとしたのかも.....知りません。
でも、もし息子を救ってくれたのなら......。
あの子を守り、あの子の居場所になってくれるのなら......あなたを.....許しましょう。」
「頼む....息子だけでも....。息子だけは.......。」
父と母が指を差す。
ゆっくり彼らが指す方向を振り向くと、息も絶え絶えな男の子が倒れていた。
見たところ、溶けたのは右眼だけだ。あれならこの量の中和剤で応急処置ができるかもしれない。
私の足は勝手に動いていた。男の子の目に中和剤を流し込むと、雨を被らないようレインコートの中に押し込む。
少し窮屈だろうが、がまんしてもらおう。
私が抱き抱えると、男の子は恐怖から逃れるように抱き締め返してきた。
そのまま立ち上がり、テントを出る。
振り向くと、母親と父親は死んでいた。
先程まで言葉を話していた人間が、ただの肉になった。虚ろな目、千切れた肉、開いた口、はみ出た内臓。
「....あ、ああ........。」
死体が恐ろしかった。
そして何より、この惨劇を生み出したの自分自身が恐ろしかった。
「うあああ...ああ......あああああああああああああああああ!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
私はその場を離れた。逃げたという方が正しい。罪の意識というどうやっても逃れられない真実から逃げ出した。
応急処置を済ませ、私はあの魔法の家にこの子を運んだ。社はもう売ってしまった私には、他にアテがなかった。
五日後、この子は目覚めた。
「大丈夫?」
どの口がそんなことを言えるのか、私はこの子を気遣う資格など無いのに。
この子は私を見つめ、顔を赤くした後鏡を見つめる。途端に顔を青くして震え出した。
クリクリした片方しか無い目からポロポロと涙が落ち、倒れそうになるのを私は慌てて抱きとめた。
「ぼ、僕.....ひとり......ぼっちに.....なっちゃった......んだ。」
私の胸が罪悪感で張り裂けそうになる。逃げ出したいのを堪えながら、この子を安心させてあげたいと話しかけた。
「.....っ!わ..私が.........側に.....いてあげるよ。
絶対.......なにがあっても......守って...あげる。」
男の子は私の言葉を聞き顔をあげようとするが、私は抱き締める力を強めてそれを止めた。いまの私の顔は、他人に見せられるものじゃない。自分の発言に死にたくなった。
「あなたのお母さんとか...お父さんの代わりになんてなれないのはわかってるけど.....。それでもあなたの居場所になら、なれる。
あなたを....ひとりぼっちになんて、絶対にさせない!
それに、あなたの家族を殺したやつは、私が絶対見つけて始末するから......!」
これが償い。この子が大人になるまで、私が育て、守ろう。そしてその後で、死のう。私は許されないから。
「.........うう。うわああああああああああああ!」
私はこの子を抱いて泣き止むまで撫でる。不規則だった呼吸が段々と落ち着き、可愛らしい寝息を立てるまで。
その日から、私とこの子の生活が始まった。
私は真実を告げることなく引き取った。
何も知らないこの子は私に心を許し、弟のように甘えてくれた。
夜、私が抱き締めながら床に就くと、眠りながら私の乳房に顔を押し付けてきた。唇がひな鳥が餌をねだるように動く。その可愛らしいくちばしの動きはいつも同じ。
『おかあさん』。
私はこの子のおかあさんであり、お姉ちゃんであり続けた。
吐き気がするほどの罪悪感に耐えながら。
セックスをしたのはそれから一年たったころだ。私は処女だった。
この子が私を性的な目で見ているのは気づいていたので、求められれば受け入れようと決めていた。
しかし、いま思えば私から誘ったようなものだった。この子に犯されることで、許されたかったのかもしれない。
この子は私をお姉ちゃんと呼んでくれた。お姉ちゃんでいる間だけは私はレーヴィでいなくてすんだ。
本当はレーヴィと呼ばれることが辛かった。
「お姉ちゃん!!....お姉ちゃん!!!」
私の口内で毛も生えていない陰茎が震える。さっきお風呂で念入りに洗ってあげたので、石鹸のいい香りしかしない。お互い生まれたままの姿で私たちは絡み合う。
「ん!んむ!...あむ...!...っはぁ。
気持ち....良い.....?」
裏筋を優しく舌でなぞると、歯を食いしばりながら息を止めて私を見つめる。
「気持ち良いけど.....、こんなの.....駄目だよ.......っ!」
口の中に射精するのが申し訳ないのか、私の肩を掴んで離そうとする。しかし、私はこの子の白いお尻に手を回しているので離すことは不可能だ。
「うっ……あっ……はっ……」
私が陰茎を口に含み、舌の先で尿道をこじ開けるように舐めると声変わりの済んでいない甲高い声で小さく喘いだ。
「もう、駄目......!ごめんなさい、お姉ちゃんの口に出しちゃう!!」
「んむ!いいんだよ?
好きなだけ、お姉ちゃんの口に出して?」
この子の射精が近いことを悟った私は、口をすぼめて舌を絡めた陰茎を上下に擦る。
「うっ、で、出るっ……よ?
お姉ちゃん!出る!」
私の頭を抑えるように抱きつくと、うめき声と共に、多量の精液が口内に吐き出された。
「うんっ、うぐっ、うん……。」
私はそれをゆっくりと嚥下させると、肉棒を吸い上げた。
「くっ……うっ……。」
「ふぅ……いっぱい出たねぇ……。」
私は口周りの精液を拭き取りながら脇目でこの子を見る。
陰茎の勃起はおさまっておらず、シーツを濡らす私の秘所を見つめている。
私が足を広げてこの子の方を向くと、可愛らしい陰茎がぴくりと反応してくれる。
「.....ほら、おいで?
お姉ちゃんに好きなだけ甘えていいんだよ?」
私は肘を付いて自らの乳房を揉みしだき、逆の手で秘所に広げる。前戯なんていらない。もっと私を責めて、罰して、犯してほしい。
「...あっ!ああっ!.......あああんっ!」
仰向けの私の膣に、この子の小さな陰茎が挿入される。
回数を重ねるたび、この子は私の弱いところを知っていく。淫らな声がこぼれてしまう。
「あ!あああああ!あんっ!あんっ!」
乳房を物欲しそうに見つめるので、私は乳首をこの子の口元に運ぶ。
「いい...よぉ?お姉ちゃんのおっぱい、吸って...いいからぁ!
ああんっ!!」
少し戸惑いがちな表情をうかべるが、私が促すとおずおずと乳首に吸い付いてくれる。
この子が乳首を吸う様子がいじらしくてたまらない。この子に甘えられると、温かいもので胸がみちあふれる。
「あんっ、あんっ、ああっ……ひゃっ、ひゃっ、ひゃぁんっ……」
小さな右手が一生懸命私の乳房を掴んで離さない。左手は私の掌をまるで恋人同士のためのように握る。
「お姉ちゃん...。お姉ちゃんのナカ、すごいよ....っ!
温かくて、気持ち良くて、.......優しい......。」
私の乳房に頬をこすりつけながら泣き目の上目遣いで腰を振る。その表情を見るだけで、私の秘所は締め付けを増し、この子の射精を促す。
「ああぅっ、あっ、ああんっ……」
「くっ、くぅっ……くっ……」
この温かい気持ちは、きっと母性本能だけでは無い。もっと別の、古来から謳われてきた感情。人々はこの感情をもとにした詩をたくさん作ってきた。街ゆく男女はこれを語り合い、育み、未来に繋ぐ。
きっとこの子も私にそれを求めているんだろう。
でも、私にそれは許されない。
「あっ!!?またイっちゃう!お姉ちゃんのナカでイっちゃうよ!?」
「いいよぉ....。来て?お姉ちゃんの膣に....全部出してぇ......!
お姉ちゃんもイキそうだから.....っ!」
私に抱きつきながら腰を激しく上下させ、射精が近いことを告げる。私は足を絡ませて抱き締め、身体を横に倒す。私とこの子の腰が密着し、一つになる。
「やんっ、やっ、やぁっ……それ凄い、あっ……それ凄いよぉっ……あんっ、あっ、ああっ……」
私の腰を掴みながら私の秘所に陰茎を何度も何度も挿入を繰り返す。亀頭が私の膣の敏感な部分をこすり、絶頂を迎えさせた。
「ああっ、あっ、ああんっ……やぅっ、やっ、やはぁっ……はっ、はっ、はぁんっ……いいよぉ?
それ、凄いのぉ....。イって、お姉ちゃんのナカでイって!
お姉ちゃんも一緒にイクからぁ...!イクっ!イっちゃうよぉおおおおおおお!あんっ、あんっ、あぁあああああああああんっ!」
「ぐっ、くぅっ!」
私の絶頂と同時に膣に精が放たれた。この子の小さな身体から信じられないほどの熱が送られ、子宮が満たされるのを感じる。
「あ……ああ……ああ……」
「おねぇ......ちゃん......、好きぃ......。」
私の手を握る小さな手を、しっかりと握り返す。
『離れたく無い』
すがるように私の胸に抱きつき、甘える仕草がそう言っているのがわかる。
頭を撫でてあげると、嬉しそうに目を細める。膣から陰茎が抜けた。子宮から精液が零れる。
「...ひゃ....ん!?こ、こらぁ....、駄目だよ.....?」
不意に乳首を舐められた。絶頂をむかえたばかりで敏感な身体に、くすぐったさが走る。
「おねぇちゃんにも.....、気持ち良くなって欲しいんだ.....。」
乳首、乳房、谷間、腋、首筋とこの子の舌がどんどん私の身体をのぼってくる。
私の正面に、この子の顔がある。潤んだ目が私を見つめる。私の白い髪を気持ち良さそうに撫でながら、ゆっくりと唇を近づける。
だが私は額を前に出してこの子の額に痛くないようゆっくりぶつけた。まるで母親が子供の熱を測るような格好でキスを止めた。この子の顔に一瞬悲しそうな表情を浮かび心がずきんと痛むが、それを無視した。
しっかりこの子を胸に抱きとめ、暖かな毛布を被せる。
「さぁ、今日は寒いからお姉ちゃんと一緒に寝よ?」
この子は何も言わずにただコクリと首を縦に振ると、顔を見せずに私の背中に手を回す。
裸で抱き合う私たち。小さな背中を撫でながら、ゴメンねと心の中で呟く。
でも、この子には私なんかを好きになって欲しくなかった。ただの性欲処理の道具でいたかった。
私はこの子の幸せを壊したから、愛される資格なんて無い。
胸元から聞こえる可愛らしい寝息を確認し、私は眠りについた。
そこからの私の行動は早かった。着物や家財や社、そして土地をすべて売り払い、金を作った。
その金を情報屋に渡し、あの男の所在や動向を突き止めさせた。情報屋は私が金を払うとニヤつきながらそれを受け取る。言い値を払ったのだが、恐らくかなり盛られた額なのだろう。だが、どうでもいい。金はもはや私にとっては無用の長物だ。
次にあの子が使った薬の残りを調べて成分を突き止め、量を増やした。復讐に足る量になるまでに一月を要した。準備は整った。
今あの男は家族とキャンプに出掛けている。
その場所が見渡せる丘で、私は一週間前から雨乞いの舞を舞っていた 。本来山頂で火を炊き、我が主である龍神が如く舞うのが常だが、あの男には湖に獣の臓物を投げ込む忌わしの術を使った。
岩山に立ち、私の自らの怒りを舞で表す。そして、雨を呼ぶ。恵みの雨ではなく災いの雨を。
青い空が灰色に染まり、ポツリポツリと雫が垂れる。
だがまだ足りない。もっとだ。
私の怒りはこんなものじゃない。
目には目を。歯には歯を。外道には外道を。
舞は激しさを増す。髪を振り乱し、悪魔の形相の蛇が舞う。
怒りが天へ昇っていく。
私の思いを汲み取ったかのようなどす黒い暗雲が立ち込める。
私は舞の中に水の魔術の動きを混ぜ始める。それに合わせて岩山の麓の古井戸が水柱をあげた。古井戸にはあの薬をありったけ投げ込んである。
こいがたきを昇るが如く、水柱は天へ向かう。
雨音が段々と激しくなる。私は雨水を操り、結界を自らの周りに作る。周りの草花は徐々に朽ち始めている。
奴らもそろそろ浴びた雨水からひりひりとした痛みを感じ出したようだ。テントの中へと逃げ込んでいく。
だが、逃がさない。
雫が絶えず落ち、空が哭く。私が盛った毒を受けた雨を落した。あの男の元へ、災いを落とす。
小さな悲鳴が聞こえた気がした。空耳だろうか。さぁ、最後の仕上げだ。
私はありったけの魔力を悲鳴の元へ飛ばした。魔力は雨水を集め疾風の如くそこへ向かい、強烈な雨風と成って吹き込む。
雨に溶けた災いがテントを溶かし、穴を開けた。その中に容赦無く雨水を叩き込む。
今度の悲鳴は空耳ではなかった。三人分の悲鳴が私の元へと届く。
「うふふ、ふふふ....。
はは!あはははあああははははは、はははははははは!!
あははははははははははははははははは!」
わたしは舞をやめ、蛇腹を岩場に下ろして狂ったように笑う。きっと私はこの世のどんな悪魔より悪魔的な笑顔をしているんだろう。
「....ねぇ、見ているレーヴィ?貴方の仇.....とったよ?
今から、あいつのところに行って謝らせるからね?
その後で、私も貴方の処へ行くからね?」
私はよろよろと立ち上がると、甘くて黒い薬を飲んだ。そして傍に置いてあったレインコートに、雨を中和する薬を垂らして袖を通す。
二股に別れた脚までをすっぽり覆えるコートだ。これならあの雨の中歩ける。私は岩山を下り、あの男の元へと向かった。あの男に自らの罪を思い知らせる為に。
あの男はテントの中で妻と共に虫ケラのように倒れていた。クズには相応しい最期だ。
「うあ....ああ。」
うずくまる奴の元に、私は屈み込んだ。
「痛いか...?思い知ったか...?
あの子の痛みを......!」
そして、蛇特有の長い舌をちろちろと出してあざ笑う。
それを見てこいつもわたしの正体に気づいたようだ。なぜこんな目に合っているのかも。
だが、今更もう遅い。お前達はこのままボロ雑巾のようになって死ねばいいんだ。
「助かりたいか?」
私は男の髪の毛を掴んで顔を向けさせる。
「た、助けてくれるのか?」
「助けるわけないでしょう?」
男の顔を殴りつける。引っ張られた男の髪の毛は、皮膚と一緒に剥がれて私の指にとどまる。
痛みで絶叫する男の首を私は締め上げた。
「あの子が死んで!!お前みたいな奴が生きている!!そんなの!!許されるはずが!!無い!!」
私の指が、男の溶けた首の皮に食い込み穴を開ける。血液の流れが血管から直接伝わる。
「た、助けて......
俺はどうなってもいい...。ただ、妻と子どもだけでも.....!」
自分を犠牲に、家族を助けたいらしい。だが、その姿は私の怒りにさらに火をつけた。
私の脳裏に、生まれてこれなかった小さな命と絶望し命を絶った母親が浮かぶ。
「.........なんでよ?なんでその気持ちをあの子とお腹の赤ん坊に分けてあげられなかった!!?
こいつらとあの子たちのなにが違うっていうのよ!!!!?」
あんな事、許されるはずが無いんだ。
「すまなかった......!
でも、お願いだ。悪いのは...俺だけなんだ。妻と子供に罪はないんだ....!」
「あの子とお腹の子どもにも罪なんてなかったじゃないか!!!!!」
ふざけるな。ふざけるな。あの子たちにお前は同じ事を言えるのか。
怖かったんだろう。苦しかったんだろう。痛かったんだろう。
お前のせいなんだぞ。
男の態度が私を無性に腹立たせる。
悔しくて涙が零れてきた。
「私も、命はいらない...!あの子さえ助かれば...それで良い!!」
それまで一言も発さなかった男の妻が掠れた声で私に縋る。ぐずぐずに崩れた身体で、私に頭を下げる。泣いている。
「.......ふざけるなよッ......!」
私は目を背けた。その姿が、目の輝きが、強さが、あの子と同じだったからだ。
母親。なんて美しいんだろう。
私。なんて醜いんだろう。
私は気づいていた。
私はこの男と何も変わらない。
なんの罪のない母と子供を殺した。
超えてはいけない一線を超えた。
私は虚しく地面を叩く。
「畜生.......!!畜生!!!!
なんなのよ、私は!?」
だが、どうすれば良かったというのか。
あの子の幸せを奪ったあの男を許せというのか。どうしても、それだけは出来なかった。許せなかった。
「.....誰も、助かりませんか?」
そんな私に、妻が声を掛ける。
私は懐から雨の中和剤を取り出すが、もう殆ど残っていない。
「こんな量じゃ.....」
「私は、...夫が何をしたのか知りません。貴方が何故私たちを殺そうとしたのかも.....知りません。
でも、もし息子を救ってくれたのなら......。
あの子を守り、あの子の居場所になってくれるのなら......あなたを.....許しましょう。」
「頼む....息子だけでも....。息子だけは.......。」
父と母が指を差す。
ゆっくり彼らが指す方向を振り向くと、息も絶え絶えな男の子が倒れていた。
見たところ、溶けたのは右眼だけだ。あれならこの量の中和剤で応急処置ができるかもしれない。
私の足は勝手に動いていた。男の子の目に中和剤を流し込むと、雨を被らないようレインコートの中に押し込む。
少し窮屈だろうが、がまんしてもらおう。
私が抱き抱えると、男の子は恐怖から逃れるように抱き締め返してきた。
そのまま立ち上がり、テントを出る。
振り向くと、母親と父親は死んでいた。
先程まで言葉を話していた人間が、ただの肉になった。虚ろな目、千切れた肉、開いた口、はみ出た内臓。
「....あ、ああ........。」
死体が恐ろしかった。
そして何より、この惨劇を生み出したの自分自身が恐ろしかった。
「うあああ...ああ......あああああああああああああああああ!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
私はその場を離れた。逃げたという方が正しい。罪の意識というどうやっても逃れられない真実から逃げ出した。
応急処置を済ませ、私はあの魔法の家にこの子を運んだ。社はもう売ってしまった私には、他にアテがなかった。
五日後、この子は目覚めた。
「大丈夫?」
どの口がそんなことを言えるのか、私はこの子を気遣う資格など無いのに。
この子は私を見つめ、顔を赤くした後鏡を見つめる。途端に顔を青くして震え出した。
クリクリした片方しか無い目からポロポロと涙が落ち、倒れそうになるのを私は慌てて抱きとめた。
「ぼ、僕.....ひとり......ぼっちに.....なっちゃった......んだ。」
私の胸が罪悪感で張り裂けそうになる。逃げ出したいのを堪えながら、この子を安心させてあげたいと話しかけた。
「.....っ!わ..私が.........側に.....いてあげるよ。
絶対.......なにがあっても......守って...あげる。」
男の子は私の言葉を聞き顔をあげようとするが、私は抱き締める力を強めてそれを止めた。いまの私の顔は、他人に見せられるものじゃない。自分の発言に死にたくなった。
「あなたのお母さんとか...お父さんの代わりになんてなれないのはわかってるけど.....。それでもあなたの居場所になら、なれる。
あなたを....ひとりぼっちになんて、絶対にさせない!
それに、あなたの家族を殺したやつは、私が絶対見つけて始末するから......!」
これが償い。この子が大人になるまで、私が育て、守ろう。そしてその後で、死のう。私は許されないから。
「.........うう。うわああああああああああああ!」
私はこの子を抱いて泣き止むまで撫でる。不規則だった呼吸が段々と落ち着き、可愛らしい寝息を立てるまで。
その日から、私とこの子の生活が始まった。
私は真実を告げることなく引き取った。
何も知らないこの子は私に心を許し、弟のように甘えてくれた。
夜、私が抱き締めながら床に就くと、眠りながら私の乳房に顔を押し付けてきた。唇がひな鳥が餌をねだるように動く。その可愛らしいくちばしの動きはいつも同じ。
『おかあさん』。
私はこの子のおかあさんであり、お姉ちゃんであり続けた。
吐き気がするほどの罪悪感に耐えながら。
セックスをしたのはそれから一年たったころだ。私は処女だった。
この子が私を性的な目で見ているのは気づいていたので、求められれば受け入れようと決めていた。
しかし、いま思えば私から誘ったようなものだった。この子に犯されることで、許されたかったのかもしれない。
この子は私をお姉ちゃんと呼んでくれた。お姉ちゃんでいる間だけは私はレーヴィでいなくてすんだ。
本当はレーヴィと呼ばれることが辛かった。
「お姉ちゃん!!....お姉ちゃん!!!」
私の口内で毛も生えていない陰茎が震える。さっきお風呂で念入りに洗ってあげたので、石鹸のいい香りしかしない。お互い生まれたままの姿で私たちは絡み合う。
「ん!んむ!...あむ...!...っはぁ。
気持ち....良い.....?」
裏筋を優しく舌でなぞると、歯を食いしばりながら息を止めて私を見つめる。
「気持ち良いけど.....、こんなの.....駄目だよ.......っ!」
口の中に射精するのが申し訳ないのか、私の肩を掴んで離そうとする。しかし、私はこの子の白いお尻に手を回しているので離すことは不可能だ。
「うっ……あっ……はっ……」
私が陰茎を口に含み、舌の先で尿道をこじ開けるように舐めると声変わりの済んでいない甲高い声で小さく喘いだ。
「もう、駄目......!ごめんなさい、お姉ちゃんの口に出しちゃう!!」
「んむ!いいんだよ?
好きなだけ、お姉ちゃんの口に出して?」
この子の射精が近いことを悟った私は、口をすぼめて舌を絡めた陰茎を上下に擦る。
「うっ、で、出るっ……よ?
お姉ちゃん!出る!」
私の頭を抑えるように抱きつくと、うめき声と共に、多量の精液が口内に吐き出された。
「うんっ、うぐっ、うん……。」
私はそれをゆっくりと嚥下させると、肉棒を吸い上げた。
「くっ……うっ……。」
「ふぅ……いっぱい出たねぇ……。」
私は口周りの精液を拭き取りながら脇目でこの子を見る。
陰茎の勃起はおさまっておらず、シーツを濡らす私の秘所を見つめている。
私が足を広げてこの子の方を向くと、可愛らしい陰茎がぴくりと反応してくれる。
「.....ほら、おいで?
お姉ちゃんに好きなだけ甘えていいんだよ?」
私は肘を付いて自らの乳房を揉みしだき、逆の手で秘所に広げる。前戯なんていらない。もっと私を責めて、罰して、犯してほしい。
「...あっ!ああっ!.......あああんっ!」
仰向けの私の膣に、この子の小さな陰茎が挿入される。
回数を重ねるたび、この子は私の弱いところを知っていく。淫らな声がこぼれてしまう。
「あ!あああああ!あんっ!あんっ!」
乳房を物欲しそうに見つめるので、私は乳首をこの子の口元に運ぶ。
「いい...よぉ?お姉ちゃんのおっぱい、吸って...いいからぁ!
ああんっ!!」
少し戸惑いがちな表情をうかべるが、私が促すとおずおずと乳首に吸い付いてくれる。
この子が乳首を吸う様子がいじらしくてたまらない。この子に甘えられると、温かいもので胸がみちあふれる。
「あんっ、あんっ、ああっ……ひゃっ、ひゃっ、ひゃぁんっ……」
小さな右手が一生懸命私の乳房を掴んで離さない。左手は私の掌をまるで恋人同士のためのように握る。
「お姉ちゃん...。お姉ちゃんのナカ、すごいよ....っ!
温かくて、気持ち良くて、.......優しい......。」
私の乳房に頬をこすりつけながら泣き目の上目遣いで腰を振る。その表情を見るだけで、私の秘所は締め付けを増し、この子の射精を促す。
「ああぅっ、あっ、ああんっ……」
「くっ、くぅっ……くっ……」
この温かい気持ちは、きっと母性本能だけでは無い。もっと別の、古来から謳われてきた感情。人々はこの感情をもとにした詩をたくさん作ってきた。街ゆく男女はこれを語り合い、育み、未来に繋ぐ。
きっとこの子も私にそれを求めているんだろう。
でも、私にそれは許されない。
「あっ!!?またイっちゃう!お姉ちゃんのナカでイっちゃうよ!?」
「いいよぉ....。来て?お姉ちゃんの膣に....全部出してぇ......!
お姉ちゃんもイキそうだから.....っ!」
私に抱きつきながら腰を激しく上下させ、射精が近いことを告げる。私は足を絡ませて抱き締め、身体を横に倒す。私とこの子の腰が密着し、一つになる。
「やんっ、やっ、やぁっ……それ凄い、あっ……それ凄いよぉっ……あんっ、あっ、ああっ……」
私の腰を掴みながら私の秘所に陰茎を何度も何度も挿入を繰り返す。亀頭が私の膣の敏感な部分をこすり、絶頂を迎えさせた。
「ああっ、あっ、ああんっ……やぅっ、やっ、やはぁっ……はっ、はっ、はぁんっ……いいよぉ?
それ、凄いのぉ....。イって、お姉ちゃんのナカでイって!
お姉ちゃんも一緒にイクからぁ...!イクっ!イっちゃうよぉおおおおおおお!あんっ、あんっ、あぁあああああああああんっ!」
「ぐっ、くぅっ!」
私の絶頂と同時に膣に精が放たれた。この子の小さな身体から信じられないほどの熱が送られ、子宮が満たされるのを感じる。
「あ……ああ……ああ……」
「おねぇ......ちゃん......、好きぃ......。」
私の手を握る小さな手を、しっかりと握り返す。
『離れたく無い』
すがるように私の胸に抱きつき、甘える仕草がそう言っているのがわかる。
頭を撫でてあげると、嬉しそうに目を細める。膣から陰茎が抜けた。子宮から精液が零れる。
「...ひゃ....ん!?こ、こらぁ....、駄目だよ.....?」
不意に乳首を舐められた。絶頂をむかえたばかりで敏感な身体に、くすぐったさが走る。
「おねぇちゃんにも.....、気持ち良くなって欲しいんだ.....。」
乳首、乳房、谷間、腋、首筋とこの子の舌がどんどん私の身体をのぼってくる。
私の正面に、この子の顔がある。潤んだ目が私を見つめる。私の白い髪を気持ち良さそうに撫でながら、ゆっくりと唇を近づける。
だが私は額を前に出してこの子の額に痛くないようゆっくりぶつけた。まるで母親が子供の熱を測るような格好でキスを止めた。この子の顔に一瞬悲しそうな表情を浮かび心がずきんと痛むが、それを無視した。
しっかりこの子を胸に抱きとめ、暖かな毛布を被せる。
「さぁ、今日は寒いからお姉ちゃんと一緒に寝よ?」
この子は何も言わずにただコクリと首を縦に振ると、顔を見せずに私の背中に手を回す。
裸で抱き合う私たち。小さな背中を撫でながら、ゴメンねと心の中で呟く。
でも、この子には私なんかを好きになって欲しくなかった。ただの性欲処理の道具でいたかった。
私はこの子の幸せを壊したから、愛される資格なんて無い。
胸元から聞こえる可愛らしい寝息を確認し、私は眠りについた。
14/02/15 10:31更新 / 蔦河早瀬
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