感情
「…それで?じゃあ、僕が指揮者ってこと?」
「そうなります。」
とりあえずこの人形のような、ゴーレムという存在を持ち帰ってみた。
本人曰く、「私は生物ではなく、魔力塊なので。」らしいので、というか妙にそれを押し付けてくるので、人間扱いをあまり出来なくなってしまっていた。
「名前は?」
「私に名前と呼ばれるものはありませんが、強いていうのならば、番号32番といったところでしょうか。」
「…そりゃ、名前じゃないね。」
「でしょうね。」
つまりは少なくとも32体、このような物が存在するっぽい。
僕は初めて見たのだがもしかしたらたっくさん溢れ帰ってるのかもしれないなぁ。
「ちなみに、なんであんな橋の下に置かれてたのさ。」
「それはお答えできません。」
「なんで。」
「記憶にないからです。」
記憶にないって。
自分があんな所に居た理由が分からないのだろうか、というかなんでそれ忘れてて製造番号みたいなモノは覚えているのだろう。
「そっか。」
「はい。」
「じゃあ、無理には聞けないね。」
「思い出す事があれば、包み隠さずお答えいたしますよ、マスター。」
マスター。
どうやらあのちんぷんかんぷんな文字はルーン文字と言われていて、そのルーン文字を使って名前を刻み込むと、その名前の物をマスターと判断するらしい。
これ、おんなじ名前の人が同タイミングで目の前に現れたらどっちをマスターと判断するんだろう。
やってみたいところではあるが、一緒の名前の人も、というか、友達すらいない。
「スラム、というものには初めて来ましたが、汚れていますね。色々。」
と、ちょっと考えていると、彼女の方から口を開いた。
「そうだね、空気すら汚れてる。」
「その表現は私には理解しえませんが、しかし、あまりここに居ても体を崩してしまう気がします。」
「僕はここ以外に、居場所がないからね。」
地上でつったってても、僕自身は何も悪いことをしていなくても、化け物と言われてしまうのだから、この世界は皮肉だ。
いや、悪い事してるのかな、気付かないだけで。
気付かないうちに人を傷つけるのは割と容易かったりするらしいし。
もっとも、悪意的な傷付けられ方しかしたことないけれど。
うーん、どうしてもマイナスの方向に話が進んでしまうな、病んでるのだろうか。病んでるか、病んでるわ、うん。
ただ、なんか割と今はスッキリしている。
いや射精したからとかじゃなくて、そういう意味じゃなくて。
僕が思ってた以上に、会話というのは大事なものだったらしい。
相手が女性(これが性別かは分からないけれど、見かけは。)だからというのもあるのかもしれない。
無感情で無表情だが、トゲトゲしいモノは一切感じることはないし。
「ここ以外に居場所がないというのは、除け者にされているということですね。」
前言撤回、ズカズカ踏み入ってくる。
「…概ねそのとおりであって、反論はしたくないんだけれど…しかしね、そういう率直に思ったことをすぐに言っちゃうのは…よくないと思うよ。」
「なぜでしょう。」
「傷付くから。」
「傷付いたのですか、何か布のような物があれば…」
「外部の損傷じゃなくてね?」
ここらへん機械っぽいなー、なんて思う。
まぁ機械ならしかたないし、嫌味ではなく天然で言ってしまっているのであろうからそれを怒るのは筋違いである。多分。
「あぁ、そういえば、1つ思い出しました。」
「ん?」
「肩に特定のルーンを刻み込んでくれれば、思い出すかもしれません。」
「…いや、いいよ、もしかしたら辛いモノがあるのかもしれないしね。」
「そうですか。」
「うん。」
自然と思い出すのでも待とう。
と、いうか、あれ?いつの間にか僕彼女と一緒にずっと暮らせるつもりでいたけど…
「…ねぇ、」
「どうしましたか。」
「…いや、名前は掘ったけどさ、エネルギーも…補給されたわけだし、削ってあげた方がいいのかな。」
「そうしてくれると有難いですが。」
「…そう。」
あぁ、そうか、そうだよなぁ。
何を馬鹿なことを考えてたんだろう、僕自身の近くに、誰か一緒にいてくれる訳が無いじゃないか。
はは、まぁ、ちょっとでも話すことが出来ただけ、良かったかもしれないな。
「悲しそうな顔をするんですね。」
「…そーいうのは分かるんだ。」
「顔の識別くらいは出来ます。まあ、悲しいというものがどういう事かは分かりませんが。」
いつまでも無表情に、短調に言葉を紡いでいる。
うん、別に僕は彼女の特別ではない。
マスター、と呼ばれようとなんであろうと、それは、凄く強い縛りではないのだ。
僕の寂しさなんかで、この縛りを強くしてはいけない。
縛られるのが辛いことは、僕自身一番知っている。
「…じゃ、削るから、そこ座ってよ。立ったまんまだと僕、背伸びしないといけないから。」
「小さいですもんね。」
「言わないでよ。」
そう、うん、彼女身長170程度あると思うのだが、僕はまだ150ちょいしかないのだ。
別に、歳をとれば伸びるさ。
伸びる伸びる。
「座りましたよ。」
「あぁ…うん、分かった。」
彼女は床、といってももう地べたのようなものだが…に正座した。
「……削られるのは、痛くないの?」
「どちらかといえば、心地いいです。」
「…そっか、ならいいんだけど。」
かかとの硬い部分を取る感じなのだろうか、またはねずみの歯を削る感じ、そんな感じだと思う、多分。
「…さ、削るよ。」
「えぇ、宜しくお願いします。」
これを削り終われば、お終いである。
久しぶりに楽しかった、気がする。
一応伝えてみようか、僕はもう少し彼女に話しかけることにした。
「…あのさ。」
「はい。」
「…こんなこと言うのも、変なんだけど、凄く楽しかったよ。」
「何がでしょうか」
「…君と居れて。」
こんなこと言っても恐らく、彼女には伝わらないし、これを削ってしまえば完全に繋がりはなくなるのだから関係ないと思う。
「……」
「…ありがとね、嫌がらず話してくれて。」
「…いえ。」
スッキリした気がする。
というのは、さっきも言ったが、やっぱり会話やら言葉やらというのはかなり強力なようだ。
「また行き倒れないようにね?」
「…生き倒れはしませんね、生きてませんし。」
「はは、面白いや。」
感情無くても言葉遊びのような冗談は使えるんだなぁ、と、感心しつつ、最後の文字の線を消すことにする。
これを消しきれば恐らく、もう会うことはないだろう。
…もう、ね。
「……ほんと、ありがと。」
「……」
「…初めて人を、ちょっとだけ好きになれたよ。」
厳密には、人、じゃあないのだが。
なんだか消そうとする手が震えている気がするが、気の所為と信じよう。
僕は何か溢れ出てくる感情をありったけ詰め込むようにして、最後の線を消した。
「……はい、おしまい。」
「……」
彼女はゆっくりと立ち上がって、自分の状況を分析しているようだった。
そして彼女は口を開いた。
「すいません、その石を貸してもらえますか?」
「えっ、あ、う、うん、分かった…」
ナイフなんて物はない、やっぱりそこらへんに落ちてなんてないから、石、っていうのはナイフ変わりにつかった奴だ。
「有難うございます」
彼女はまたゆっくりと石を受け取り、肩にルーンを刻み出した。
「……」
なんとも言えぬ気持ちだった、上書き、というか、なんというか。
女性関係なんて一回もしたことはないけれど
、彼女が別の男に乗り換えたような、そんな気分である。
そして刻み終わったのであろう、石を床に置いてから
彼女は僕を抱きしめた。
「…では、今からもう一度、貴方がマスターです。」
「…はっ?」
何が起こったのか分からない、機械のような物なら、誤作動だろうか。
「な、なんで…」
「…私は、帰る気が起きません。」
「いや、でも、こんな所に居るよりは、」
「…私は、貴方と一緒に居たいのです。貴方がいいのです。」
その言葉を聞いた途端、なんだか、ゆっくりと僕の目から、頬をあっつい液体が流れていった。
「貴方が誰にも必要とされていないのなら、私が貴方を必要としましょう、貴方の居場所がないのなら、私が居場所になりましょう。だから。
だから、私を貴方の傍に置いてください。」
彼女に感情なんてものはない筈なのだけれど、その言葉には、優しさがこもっているような気がした。
僕は初めて受けた感情を、すがるように抱きしめた。
「…お願い…僕の傍に居て…」
「…当たり前です、マスター。」
その言葉を聞いて、僕の涙腺は決壊した。
後日談というか、今回のオチ。
僕はその後も勿論イジメられたが、対して辛くはなくなった。
癒される場が出来たのである。
某ポケットモンスターの、ポケモンセンターと言う奴である、多分。
あと、彼女にはアイラという名前をつけた。
喜怒哀楽、の四字熟語から取った名前である。
感情が、さらに芽生えるといいな、とか思いつつつけた名前である。
「ただいま。」
いつも通り、スラムに住んでいるのは変わらないけれど
「おかえりなさいませ、マスター。」
僕を迎えてくれる優しい存在が、増えた。
「そうなります。」
とりあえずこの人形のような、ゴーレムという存在を持ち帰ってみた。
本人曰く、「私は生物ではなく、魔力塊なので。」らしいので、というか妙にそれを押し付けてくるので、人間扱いをあまり出来なくなってしまっていた。
「名前は?」
「私に名前と呼ばれるものはありませんが、強いていうのならば、番号32番といったところでしょうか。」
「…そりゃ、名前じゃないね。」
「でしょうね。」
つまりは少なくとも32体、このような物が存在するっぽい。
僕は初めて見たのだがもしかしたらたっくさん溢れ帰ってるのかもしれないなぁ。
「ちなみに、なんであんな橋の下に置かれてたのさ。」
「それはお答えできません。」
「なんで。」
「記憶にないからです。」
記憶にないって。
自分があんな所に居た理由が分からないのだろうか、というかなんでそれ忘れてて製造番号みたいなモノは覚えているのだろう。
「そっか。」
「はい。」
「じゃあ、無理には聞けないね。」
「思い出す事があれば、包み隠さずお答えいたしますよ、マスター。」
マスター。
どうやらあのちんぷんかんぷんな文字はルーン文字と言われていて、そのルーン文字を使って名前を刻み込むと、その名前の物をマスターと判断するらしい。
これ、おんなじ名前の人が同タイミングで目の前に現れたらどっちをマスターと判断するんだろう。
やってみたいところではあるが、一緒の名前の人も、というか、友達すらいない。
「スラム、というものには初めて来ましたが、汚れていますね。色々。」
と、ちょっと考えていると、彼女の方から口を開いた。
「そうだね、空気すら汚れてる。」
「その表現は私には理解しえませんが、しかし、あまりここに居ても体を崩してしまう気がします。」
「僕はここ以外に、居場所がないからね。」
地上でつったってても、僕自身は何も悪いことをしていなくても、化け物と言われてしまうのだから、この世界は皮肉だ。
いや、悪い事してるのかな、気付かないだけで。
気付かないうちに人を傷つけるのは割と容易かったりするらしいし。
もっとも、悪意的な傷付けられ方しかしたことないけれど。
うーん、どうしてもマイナスの方向に話が進んでしまうな、病んでるのだろうか。病んでるか、病んでるわ、うん。
ただ、なんか割と今はスッキリしている。
いや射精したからとかじゃなくて、そういう意味じゃなくて。
僕が思ってた以上に、会話というのは大事なものだったらしい。
相手が女性(これが性別かは分からないけれど、見かけは。)だからというのもあるのかもしれない。
無感情で無表情だが、トゲトゲしいモノは一切感じることはないし。
「ここ以外に居場所がないというのは、除け者にされているということですね。」
前言撤回、ズカズカ踏み入ってくる。
「…概ねそのとおりであって、反論はしたくないんだけれど…しかしね、そういう率直に思ったことをすぐに言っちゃうのは…よくないと思うよ。」
「なぜでしょう。」
「傷付くから。」
「傷付いたのですか、何か布のような物があれば…」
「外部の損傷じゃなくてね?」
ここらへん機械っぽいなー、なんて思う。
まぁ機械ならしかたないし、嫌味ではなく天然で言ってしまっているのであろうからそれを怒るのは筋違いである。多分。
「あぁ、そういえば、1つ思い出しました。」
「ん?」
「肩に特定のルーンを刻み込んでくれれば、思い出すかもしれません。」
「…いや、いいよ、もしかしたら辛いモノがあるのかもしれないしね。」
「そうですか。」
「うん。」
自然と思い出すのでも待とう。
と、いうか、あれ?いつの間にか僕彼女と一緒にずっと暮らせるつもりでいたけど…
「…ねぇ、」
「どうしましたか。」
「…いや、名前は掘ったけどさ、エネルギーも…補給されたわけだし、削ってあげた方がいいのかな。」
「そうしてくれると有難いですが。」
「…そう。」
あぁ、そうか、そうだよなぁ。
何を馬鹿なことを考えてたんだろう、僕自身の近くに、誰か一緒にいてくれる訳が無いじゃないか。
はは、まぁ、ちょっとでも話すことが出来ただけ、良かったかもしれないな。
「悲しそうな顔をするんですね。」
「…そーいうのは分かるんだ。」
「顔の識別くらいは出来ます。まあ、悲しいというものがどういう事かは分かりませんが。」
いつまでも無表情に、短調に言葉を紡いでいる。
うん、別に僕は彼女の特別ではない。
マスター、と呼ばれようとなんであろうと、それは、凄く強い縛りではないのだ。
僕の寂しさなんかで、この縛りを強くしてはいけない。
縛られるのが辛いことは、僕自身一番知っている。
「…じゃ、削るから、そこ座ってよ。立ったまんまだと僕、背伸びしないといけないから。」
「小さいですもんね。」
「言わないでよ。」
そう、うん、彼女身長170程度あると思うのだが、僕はまだ150ちょいしかないのだ。
別に、歳をとれば伸びるさ。
伸びる伸びる。
「座りましたよ。」
「あぁ…うん、分かった。」
彼女は床、といってももう地べたのようなものだが…に正座した。
「……削られるのは、痛くないの?」
「どちらかといえば、心地いいです。」
「…そっか、ならいいんだけど。」
かかとの硬い部分を取る感じなのだろうか、またはねずみの歯を削る感じ、そんな感じだと思う、多分。
「…さ、削るよ。」
「えぇ、宜しくお願いします。」
これを削り終われば、お終いである。
久しぶりに楽しかった、気がする。
一応伝えてみようか、僕はもう少し彼女に話しかけることにした。
「…あのさ。」
「はい。」
「…こんなこと言うのも、変なんだけど、凄く楽しかったよ。」
「何がでしょうか」
「…君と居れて。」
こんなこと言っても恐らく、彼女には伝わらないし、これを削ってしまえば完全に繋がりはなくなるのだから関係ないと思う。
「……」
「…ありがとね、嫌がらず話してくれて。」
「…いえ。」
スッキリした気がする。
というのは、さっきも言ったが、やっぱり会話やら言葉やらというのはかなり強力なようだ。
「また行き倒れないようにね?」
「…生き倒れはしませんね、生きてませんし。」
「はは、面白いや。」
感情無くても言葉遊びのような冗談は使えるんだなぁ、と、感心しつつ、最後の文字の線を消すことにする。
これを消しきれば恐らく、もう会うことはないだろう。
…もう、ね。
「……ほんと、ありがと。」
「……」
「…初めて人を、ちょっとだけ好きになれたよ。」
厳密には、人、じゃあないのだが。
なんだか消そうとする手が震えている気がするが、気の所為と信じよう。
僕は何か溢れ出てくる感情をありったけ詰め込むようにして、最後の線を消した。
「……はい、おしまい。」
「……」
彼女はゆっくりと立ち上がって、自分の状況を分析しているようだった。
そして彼女は口を開いた。
「すいません、その石を貸してもらえますか?」
「えっ、あ、う、うん、分かった…」
ナイフなんて物はない、やっぱりそこらへんに落ちてなんてないから、石、っていうのはナイフ変わりにつかった奴だ。
「有難うございます」
彼女はまたゆっくりと石を受け取り、肩にルーンを刻み出した。
「……」
なんとも言えぬ気持ちだった、上書き、というか、なんというか。
女性関係なんて一回もしたことはないけれど
、彼女が別の男に乗り換えたような、そんな気分である。
そして刻み終わったのであろう、石を床に置いてから
彼女は僕を抱きしめた。
「…では、今からもう一度、貴方がマスターです。」
「…はっ?」
何が起こったのか分からない、機械のような物なら、誤作動だろうか。
「な、なんで…」
「…私は、帰る気が起きません。」
「いや、でも、こんな所に居るよりは、」
「…私は、貴方と一緒に居たいのです。貴方がいいのです。」
その言葉を聞いた途端、なんだか、ゆっくりと僕の目から、頬をあっつい液体が流れていった。
「貴方が誰にも必要とされていないのなら、私が貴方を必要としましょう、貴方の居場所がないのなら、私が居場所になりましょう。だから。
だから、私を貴方の傍に置いてください。」
彼女に感情なんてものはない筈なのだけれど、その言葉には、優しさがこもっているような気がした。
僕は初めて受けた感情を、すがるように抱きしめた。
「…お願い…僕の傍に居て…」
「…当たり前です、マスター。」
その言葉を聞いて、僕の涙腺は決壊した。
後日談というか、今回のオチ。
僕はその後も勿論イジメられたが、対して辛くはなくなった。
癒される場が出来たのである。
某ポケットモンスターの、ポケモンセンターと言う奴である、多分。
あと、彼女にはアイラという名前をつけた。
喜怒哀楽、の四字熟語から取った名前である。
感情が、さらに芽生えるといいな、とか思いつつつけた名前である。
「ただいま。」
いつも通り、スラムに住んでいるのは変わらないけれど
「おかえりなさいませ、マスター。」
僕を迎えてくれる優しい存在が、増えた。
15/06/23 00:02更新 / みゅぅん
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