ムカデに小便かけたら大変なことになった
旅の薬売りである二衛門は、一人街道を歩いていた。
別に彼に目的地があるわけではない。
旅人というのは殊更病気に罹りやすく、よく安値の薬が売れるために、彼は旅人が良く歩く街道を歩いているだけだ。
そんな普通の薬売りとはやや毛色の違う彼の行動は、彼が薬師組合に属していない元忍者であることと関係していた。
彼の生まれ故郷の忍の里は、彼が成人する前に普通の里へと変貌した。
それは里が属していた藩が親魔物派へと傾き、そしてそれにクノイチという魔物が関わっていたために、全ての忍びの仕事を彼女らに奪われた里の忍者は廃業を余儀なくされた。
もっとも、忍者らしい仕事にそんなにお呼びがかからなかった連中は、あっさりと忍者を辞めてそそくさと畑仕事や鍛冶仕事へと転換したし、忍の腕に自身があった者は戦場でかち合ったクノイチと夫婦になり、クノイチの里へと去っていたりと、廃業は円満に行われたのだった。
そんな改変期に成人となった二衛門は経った一年で忍を辞め、忍の薬の知識を生かした薬師へと自分の役目を設定し、時折野山で薬草を取りつつも諸国を漫遊し、そこで見聞きした出来事を手紙にして送る毎日を送っていた。
「さて、今度はどこへ行くかな。たまには船旅で島へ足を伸ばすのも良いが……」
そんな事をつらつらと考えていた二衛門は、不意にぶるりとその身を震わせた。
何も忍の感が働いたわけではない。ただ単に小便がしたくなっただけである。
しかしここは街道の真っ只中、厠などあるわけは無い。
そうなれば旅の者は如何するかといえば、普通にその辺で済ますのだ。
「さーてと……」
街道脇の崖下に何も無い事を確認した二衛門は、裾を捲り上げ股引を下ろし褌から一物を取り出すと、じゃばじゃばと溜まりに溜まった小便を放ち始めた。
ちなみにこの小便の仕方で旅慣れているかどうかが直ぐに判る。
旅慣れない者は厠でするのが身についているため、壁や木などに小便を打ちつける帰来があるが、それでは跳ね返えり流れてきた小便が草鞋に吸い込まれてしまい、臭い草鞋を履き続けるか買い換えるかを余儀なくされてしまう。
旅慣れた者などはそれを嫌というほど知っているため、二衛門がそうしているように、崖下に誰かいないかを確認した後で放尿するのである。そうすれば足元に出した小便が流れてくる心配も無く、そして目の前に邪魔な木や壁など無いので、開放感に浸りながらする事ができで気分が良い。
「ふいぃ〜〜……ん？」
まだまだじょろじょろと出続ける二衛門の小便が、不意に何かに当たるような音を放ち始めた。
視線を遠くへと向けていた二衛門が不審に思い、視線を下へ向けてみるとそこに女の顔があり、二衛門の出した小便はその女の面の真っ只中へと注ぎ込まれていた。
全く予想だにしなかった展開に、二衛門が呆然とその女の顔を見ているし、小便を面に受けている女もその小便を避けようとする訳でもなく、ただ少し頬を上げた嬉しそうな表情で、黄みかかった二衛門の小便を浴びている。
そんな異様な光景は二衛門が小便を出し切るまで続いた。
「すまない。そんな所に居るとは思わず……さあこれで顔を拭うと――」
一物を仕舞うより先に懐から手ぬぐいを出し、女に近づいてそれを手渡そうとする二衛門。
しかしそこまで言葉を出した二衛門は、いまその女が何処にいるのかを思い出し、そしてその女の頭の上に二本の触覚があることを確認すると、慌てて女から飛び退さる。
「お前、大百足か！」
その二衛門の言葉に呼応したのか、崖下に顔をだしていた女――大百足は下半身にある虫の数多の脚を蠢かせ、街道へと這い上がってきた。
危うく大百足の魔の手にかかるところだったと胸を撫で下ろしている二衛門だったが、不意に左足に快楽感を伴った痺れが走る。
はっとして痺れる足を見てみれば、脹脛に何時の間にやら出来た虫刺されの様な痕。
慌てて毒を受けた箇所から一番近い関節に手ぬぐいを巻きつけ、血流を止めて毒が回るのを遅延させつつ、懐から出した毒消しを口に含みながら二衛門は視線を自分が小便をしていた場所へ向ける。
するとそこには二衛門の立っていた場所の後ろへ回り込んだ大百足の尾っぽが、毒液を滴らせながら顎肢をカチカチとかみ合わせていた。
そして視線を虫の足を蠢かせてにじり寄ってくる大百足の顔に向けると、伸びきった前髪から時折見える表情には、間抜けな得物をあざ笑うかのように陰気な笑みが張り付いていた。
（大百足に俊敏性は無い。ここは逃げるが勝ちだ！）
踵を返して走り出そうとしたところで、毒を受けていた左足が全く動かない事に気が付く。
強力無比な大百足の毒は、既に二衛門の左足の自由を奪い去っていた。
忍秘伝の解毒薬を口に含んでいるというのに、それでも大百足の毒を中和するには力不足であった。
そしてそれらの心の内の葛藤もまた、二衛門にとって悪い方向へと走る。
「しまッ！」
こうなれば足を引きずってでもと逃走しようとする二衛門の腰に、いつの間にか近寄ってきた大百足の蟲の下半身が巻き付き、そして首には大百足の腕が回された。
目の前に広がる髪の伸びきった陰気そうな女の顔に、二衛門の表情は恐怖から巌のように硬くなる。
「逃――ない――」
「ぐァッ！」
そう二衛門の首筋に顔を寄せた大百足の口から小さな声が漏れると同時に、二衛門の首筋に噛まれた痛みが一瞬走り、やがて首筋から血脈を通り全身に毒が回った二衛門は、ぐったりと大百足へ体を預けてしまう。
痺れから力が抜けた二衛門の体を、大百足は笑いなれていない者特有のぎこちない笑みを浮かべて抱きしめると、そのままずりずりと彼を引きずって崖へと向う。
崖下へ二衛門共々降りようとする大百足だったが、彼の背にある邪魔な薬箱を取り除こうとしたものの、肩紐の結び方が特殊であったために、大百足は諦めてその薬箱ごと、崖下の住処へと崖を蟲の体で器用に下り始めた。
哀れ二衛門は、大百足に捕食されてしまい。彼のたびはここで終わってしまった。
完
と悲劇物の語り草ならばここで締めるべきなのだろうが、これは寧ろ男と女のお話であるため、ここからこそが物語の中核。
さてじめっとした横穴につれてこられた二衛門は、背中の薬箱をそのままに、土壁に背中を預けさせられていた。
そしてつれて来た大百足はというと、二衛門の全てを覚えようとするかのように、前を肌蹴させて露になった二衛門の胸板に手を這わせ、噛んだ首元に下を蠢かせ、力ない左足に蟲の体を巻きつかせている。
それら全ての行為が、毒で快楽に痺れている二衛門にとってむず痒く、蟲が這い回っている様な錯覚を覚えていた。
「―― ――」
首筋を舐めながら何かを呟いている様子の大百足だが、あいにくその声は小さすぎて二衛門の耳には入ってこない。
このまま大百足のなすがままに蹂躙される運命かと思われた二衛門だったが、大百足に捕まる前に口に含んだ毒消しが漸く効いてきたのか、段々と体の痺れは取れ始めた。もっとも手ぬぐいで血流を止めていた左足は、血が足らずに痺れが走ったままである。
このままもっと痺れが抜けてから反撃に転じるかと思案していた二衛門だったが、堅い薬箱が当たる背中が痛み始めたため、早々にその案を却下した。
そして二衛門は意を決したように、大百足の脇から手を差し込むと、彼女の下乳を持ち上げるようにして揉んだ。
「――！？」
まさか反撃されるとは思わなかったのか、それとも行き成り乳を揉まれたからか、大百足は二衛門から人間の体を離した。
そして胸を揉み続ける二衛門の行動で、毒が効いていない事が判った大百足は、大口を開けてまた二衛門の首筋に噛み付こうとする。
「待った！」
しかしそれを胸から離した手を使って押し止めた二衛門は、大百足に噛んで含めるような言い方で次のように語った。
「俺は逃げん！背中のモノを下ろして、足に巻いたこの布を取りたいだけだ。その後はお前の好きにするが良い」
その二衛門の言葉に暫し考えていた様子の大百足だったが、足に蟲の体を巻きつけているから大丈夫だと判断したのか、暫し二衛門と距離を置いた。
二衛門の方も大百足が了承してくれていると察し、ゆっくりと荷の紐を緩めに罹る。
特殊な結び方で括られた肩紐は、しかし二衛門の手に罹るとスルスルと解けていき、程なくして荷が二衛門の背から地面へと移動した。
そして足に巻いていた手ぬぐいを取り去った二衛門は、見つめている大百足を刺激しないように、ゆっくりと手ぬぐいを荷の上に置く。
ようやく終わったのかとばかりに、大百足が大口を開けて毒液を二衛門へ注入しようとするところで、また二衛門が大百足の体を手で制した。
「待った、噛むのは無し。相手はちゃんとする」
そう言うや否や、大百足の了承を得る前に、彼女の両胸を両手で救い上げるように持ちつつ揉み、そして大百足の胸元から方にかけてある黒い刺青のような筋に舌を這わせる二衛門。
「――！！？」
行き成り毒腺の上を舐められるとは思っても見なかったのか、ビクリと体を振るわせる大百足。
まさか弱点を知っているのかと訝しむ瞳で二衛門を見つめる大百足に、二衛門は彼女の耳元に口を寄せて「気持ちよくなかった？」と何も知らない様子で聞いてきた。
偶々舌が毒腺の上を舐めただけだと判断した様子の大百足は、二衛門の問いに可愛らしく小首を縦に振った。
「じゃあそのまま俺に任せな」
そう言いながら口付けしようとしてきた二衛門に、思わず顔を背けてしまう大百足。
「口付けは嫌なのか……じゃあしょうがないな」
そう言うと二衛門は毒腺の無い首筋を舐め始めた。
弱点ばかりを攻められそうになっていた大百足は、毒とは関係の無い気持ちよさに警戒心をやや解いて、二衛門が舐めている首筋と揉んでいる胸の感触を確かめ始めた。
そしてゆっくりと体を温めるような快楽に、思わず大百足の人間の口が開き、首元と尾っぽの先にある二つの顎肢がギチギチと鳴ってしまう。
「うん？もしかしてこの首に有るのもお前の口か？」
二衛門の問いに少し悩む大百足。
顎なのだから口と言えなくは無いが、果たして尾の先と首元にあるそれを口と呼んで良いのか悩んでいる風だった。
「ああ、そんなに真剣に考えるな。ここに口付けしても良いか尋ねたかっただけだ」
そんな大百足の様子に苦笑する二衛門。
笑われた大百足は顔を真っ赤にしながらも、大口を開けて噛み付くぞと無言で威嚇してから、二衛門の提案を考えていた。
まさか毒液が滴る顎肢に口を付けたいという猛者がいるとは思わなかったのだろう、二衛門の提案に困惑した様子の大百足。
しかし人の口を吸われて唾液と毒液が混ざり、それを飲み込んでは一大事だが、飲み込む器官のない顎肢に口を付けられても何も問題は無く、むしろそんなところを弄った経験が自他含めて無い場所への愛撫の魅力に、大百足はおずおずとだが首を縦に振って了承の意志を示した。
「じゃあ、舐めるぞ？」
視線を伸びきった髪の合間に垣間見える大百足の瞳に向けつつ、ぺろりと二衛門は首の顎肢の片方を舐めた。
するといままで余り意識していなかった場所に感じた性感は、やはり格別だったのか、びくりと大百足の背中が反り返る。
「お気に召してくれたようで」
その大百足の反応に気を良くしたのか、二衛門は顎肢をぺろぺろと舐めていたかと思えば、今度はそれが男の一物であるかのように口に含みつつ、舌の上でつるつるとした表面を舐め上げ、そして毒液を吸いだそうとするかのように吸い付いてきた。
「―――ァァ！」
さすが様々な場所に潜入や調査をする修行をしていた元忍者。衆道の稽古も修めていたのか、その口使いはそこいらの夜鷹や淫乱女など足元にも及ばない程の、見事な口遊びである。
その証拠に、小さく弱弱しい声しか出していなかった大百足の口から、小さいながらもはっきりとした嬌声が漏れていた。
じゅぷじゅぷと口の中を鳴らし、唾液と毒液が混ざった液体が口の端を流れ落ちても、二衛門の口遊びは止まらない。いやむしろより一層激しさを増して、そこだけで大百足を達しさせようとしているように見える。
しかしやおら口を顎肢から離す二衛門。
まさかこれで終わりかという大百足の視線に、二衛門は大百足の首元にあるもう片方の顎肢に吸い付くことで応えた。
「――ァッ！」
そして二衛門の口での愛撫に、また大百足の喉が震えた。
しかも先ほどまで愛撫されていた場所は、二衛門の片手が巻き付き、男根を絞ろうとするかのような手つきで扱いている。
そんな未知の快楽に犯された大百足は、程なくして声は無く体だけを震わせて絶頂した。
しかし絶頂しても二衛門の責めは、達しすぎてぐったりと大百足が体から力を抜くまで続いた。
「――ァ――ァゥ――」
ぐったりと二衛門へ体を預けるようにしてもたれかかる大百足。
そんな大百足の顔へ自分の顔を寄せる二衛門。
先ほどは嫌がったのに、まともな判別が出来ない様子の大百足は、こんなに気持ちよくしてくれた二衛門の口を労うかのように、自分から口付けを交わした。
二人の舌が絡み合う。
その絡み合いの最中に、二衛門の口からどろりとした液体が大百足の喉に流し込まれると、大百足はハッとした様子で抵抗をし始めた。
だが快楽に酔っていた体が付いてこず、弱弱しい抵抗しか出来ず、程なくして大百足の喉はこくりと流し込まれた液体を飲み下してしまう。
そして直ぐ大百足の体に訪れたのは、甘く蕩けながらも全身を包み込むほどの強烈な快楽の痺れ。
「手間取らせてくれた」
口を拭いながら足に絡みつく蟲の体を引き剥がす二衛門。
そう二衛門は捕まってから今まで、逃げだすために愛撫をし、そして大百足が油断しきるこの瞬間を待っていたのだ。
元々二衛門は忍の稽古で大百足の弱点を知っていた。
彼女の体の黒い刺青のような筋が毒腺であることも、そこに舌を這わせれば大百足に快楽が走ることや、大百足の顎肢から出る毒は人の唾液と混ざると大百足にも効く様になることを。
だから最初に愛撫をして性感を高めてやり、そして体を許すようになってから不意に口を吸おうとして警戒感を一旦高めてから、口で顎肢から直接毒を吸い唾液と混ぜ合わせつつも、しっかりと大百足を普通に達しさせて身も心も快楽濡れにする。
そしてぐったりと警戒感を解いた大百足の口に、唾液と混合した毒液を流し込み無理矢理飲ませ、痺れさせて逃げようという算段。
しかしここまで見事に型にはまるとは思ってはいなかった二衛門は、心の中で安堵の溜息を吐いていた。
「さて、それじゃあ俺はここから去る。また何時か何処かでな」
そう言いつつも、もう二度とこの街道を通ることは無いなと、胸の中だけで一人ごちる二衛門。
荷物を背負い直し、横穴から出ようとしたところで、不意に袖が何かに引っ張られた。
どこかに引っ掛けたかと後ろを見てみると、震える手で必死に二衛門の袖を引っ張っている大百足がそこにいた。
なんだとばかりにその手を蹴り剥がそうとした二衛門は、しかしながら長い前髪の間から垣間見えたその瞳の色に、二の足を踏んでしまう。
それは今まで旅をしてきて、道中で出会った病持ちの旅人と同じ、何かに縋ろうとする目をしていた。
見捨てて去れという忍の教育で培った理性と、助けないのかと問う薬師としての己が鬩ぎ合い、葛藤の末にどちらか一方が勝った。
「判った。お前にも情けをくれてやろう――だが、ただではやれん」
勝った薬師の心に従いつつも、薬の見返りに金を要求するように、二衛門は大百足に条件を出す。
しかしそれを二衛門は口に出すことは無く、おもむろに大百足の尾っぽの顎肢に吸い付いた。
「――ァァァゥ！！」
全身を快楽の痺れに浸された上に、またもや毒液を吸われた大百足は、それだけで達してしまった。
しかしこの責めに耐えるのが二衛門の条件ではない。
二衛門は元は忍といえども今は薬師。その条件も薬である。
そう、今まさに口の中で混ぜ合わしている、大百足の毒液と二衛門の唾液との混合液。
これを飲み干すのが大百足に情けをやる条件。
「ろうら、のむは？」
大百足の目の前で大口を開けて、毒液と唾液を舌で混ぜ合わせる様を見せ付ける二衛門。
たっぷりと二衛門の口の中にある毒液に、これを飲み干せば自分がどうなるかなど、想像するまでもないというのに、大百足は痺れで震える手を二衛門に向ける。
「――」
そっと二衛門の頬に添えた手を軽く引き寄せつつ、自分から口付けをする。そして自分の舌で二衛門の口から毒液を掬い取ると、こくりこくりと喉を鳴らして飲み干していく。
一飲みするたびに体に走る快楽の痺れに悩まされながらも、そして口に溢れる毒液に二衛門の唾液が混ざり合い新たな淫毒になろうとも、それら全ての液体を飲み下す。
「――ぷァ」
息も絶え絶えな様子で口を離した大百足は大きく息を吸った後で、許容量を超えた毒液により、その場に崩れ落ちた。
ガクガクと絶え間なく毒により絶頂し続ける大百足は、しかしどうすることも出来ず、ただただ土床の上に絶頂感でのた打ち回りながら、膣の口からはどろどろとした愛液が洪水のごとく流れ落ちていた。
「それでは、ちゃんと情けをくれてやろう」
股引と褌を取り払った二衛門は、暴れまわる大百足を組み敷いて、その秘所に怒張していた一物をあてがう。
「――アァぃ！」
行き成り敏感な場所に感じる熱さに、思わず体が跳ね飛ぶ大百足。
そんな彼女の行動など意に介した様子も無く、二衛門は一気に一物を膣へと滑り挿入れた。
しかし先ほど一物をあてがったときより、大百足は静かだった。いやむしろ一言も発していなかった。
一物に絡みつく赤い液体に、もしや痛みで喋れないのかと顔を見ても、顔に張り付いた前髪でうかがうことは出来ない。
恐る恐るゆっくりと前髪を捲り上げると、大百足は余りに強い性感に目を見開きつつ白目を剥いて失神していた。
二衛門が幾ら起こそうと試みても、起きる端から絶頂して失神する有様で、終に二衛門は諦めてしまった。
まあ約束だからと二衛門が律儀に腰を振り、そして一物から精の迸りを放ってもなお、大百足は白目を剥いて別世界へと旅立ったままだった。
しかし大百足の膣と子宮は、精に反応してきゅっきゅっと二衛門の射精を促してくれていたのは、さすが妖怪の性といったところだろうか。
二人が致した後、大百足を敬遠している風だった二衛門と、二衛門に毒液を鱈腹飲まされて嫌気が刺しているはずの大百足は、しかしながら未だに一緒に横穴の空間にいた。
「ううむ……懐かれてしまったな」
ぎゅっと蟲の体に抱きつかれつつ、しかし毒液を注入する素振りは見せない大百足の、その頭にある触覚を撫で回しつつそう零す二衛門。
頭を撫でる優しげな二衛門の手つきにうっとりとしつつ、二衛門の胸板に手をあてがいながら彼の心音を耳で聞いている大百足。
そんな彼女の様子を見て、なにやらを感じ取った二衛門は、思い立ったかのように不意に口を開いた。
「袖刷りあうのもなんとやらだ。俺と共にくるか？というかいっそ夫婦にでもなるか？」
行き成り出てきた二衛門の告白に、暫し呆然としていた大百足だったが、陰気な表情など何処かへと吹き飛ばして喜色満面な笑みに、加えて目尻に涙を浮かべて大きく頷く。
「はい！」
そして嬉しそうにそう大きな声で答える大百足。
それは二衛門が始めて聞くちゃんとした大百足の声だった。
思いのほか可愛らしい声であったために、二衛門の頬が朱に染まっていた。
このあと――幾つかの場所へ旅をした後、生まれ故郷へ大百足――百日（ももか）と帰った二衛門は、旅で得た知識を元に絵草子を書いて出版する傍ら、クノイチや他のジパングの妖怪向けに、生成した百日の淫毒を販売した。
精魂込めて作った絵草子より、片手間で作った百日の毒の方が売り上げが良いことに少し頭を悩ませつつも、二衛門と百日は出来た子と共に末永く暮らしたそうである。
12/03/16 22:08更新 / 中文字