八化け狸に狙われて

連載小説

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おまけの後日談

　二人の人影が上がり框を挟んで笑い合っている。

「つい最近聞いて驚きましたけど、しかし今のお縞さんからでは、昔は業突く張りの金貸し狸だったなんて考えも付きませんよ」
「もう止してくださいよ、清水堂の若旦那。あれは若気の至りというやつで、今は従妹に両替商の跡目を譲っているんですから」

　一人は商人風の衣服を身に包んだ男。もう一人は頭に丸みを帯びた耳を持つ、町人風の衣装で身を包んだ女。
　男は清水堂と呼ばれる雑貨屋の主人の息子で、女はこの家の奥方で――昔は金貸しとして名を馳せたお縞である。　

「笑い話の最中申し訳ないが、頼まれていたもの出来たぞ」

　そしていま部屋の奥から頼まれていた安物の竹で出来た櫛を十ほど持って現れたのは、この家の主人でありお縞の旦那である丁。
　そうお縞と丁の二人はあの騒ぎの後、そう間を置かずに夫婦となったのだった。
　二人ともその時よりも幾分か歳は取ったが、人間の尺度でもまだ若いと言って差し支えの無い歳である。

「いや御免よ丁さん。こんなちゃちな仕事を頼んじゃって」
「仕事にちゃちや高尚も無いだろうに」
「そうだよ若旦那。それに家の人ったら久しぶりに竹で櫛が作れるって、子供みたいに張り切っちゃって」
「それは言うなつってたろうに……」
　
　お縞の軽口に合わせて丁も合いの手を入れる。
　その睦まじい姿は、まさに夫婦の鑑と言ったところだろう。
　しかしその二人の姿を見ていた若旦那は、これから始まる地獄のような時間を脳裏に思い浮かべたのか、少し額に汗をかいていた。

「それで仕事の御代のご相談なんですが」
「承りましょう」

　ぱちぱちと何時の間にやら手に持った算盤を弾くお縞と、さて清水堂の若旦那の腕前拝見といった感じで見ている丁の姿に、若旦那はこの二人が『商人の登竜門』と呼ばれている事を頭の中で反芻していた。

　青い顔で値段の交渉を終えた清水堂の若旦那は、二人に頭を下げてから精も根も尽き果てたといった足取りで、よろよろと自分の住処へと引き上げていった。

「あの調子じゃあ、まだまだ大事な商いは任せられないねぇ」
「少しは手加減してやれよ。最後らへんは完璧に心が折れていたぞ」

　底意地悪そうに笑うお縞を窘めるような口調の丁だが、ついさっきまで彼も内心は、若旦那がお縞との交渉でのおたおた振りを面白がっていた。
　
「そんなの駄目よ。清水堂の旦那からは「手加減無用」と言付けを貰っていたのだし」
「大商いの番頭も泣かすお縞に手加減無用とは、旦那も酷だ……しかしここ最近、良いように周りの連中に使われている気がしないでもないな」

　その丁の言葉通りに、ここ最近は丁に飾職の仕事を頼むついでに、期待をかけるお抱え商人を鍛えてくれと頼まれている事が多い。
　昔にこの界隈で幅を利かせていた元金貸し屋の狸と、仕事に一切の妥協をしない腕利きの飾職人で、さらに商人の内情にも明るい丁の組み合わせは、確かに商人たちにとっては二つと無い稀有な『試しの場』であることは間違いがない。
　当初は仕事が舞い込むのならば別に良いかと放っておいた丁だったのだが、噂が噂を呼びこちらもこちらもと仕事の量が増し、更には値の交渉で時間を大幅にとられてしまう今日この頃では、それが間違いであったと言いたくなる状況だった。

「教育料として、品物を少し割高で取引しているんだから良いじゃないのさ」
「俺としてはそれが不満なんだよ。俺の作をもっと広く人の手に渡って欲しいのに、これじゃあ値を高く設定されて手を出されにくくなる」
「それは気にしなくても良いさ。取引先には最も高値でこの値で売ってくんなきゃ、取引は今後無しって言ってあるし」

　ぱちぱちっと算盤を弾いてその値を丁に見せるお縞。
　確認するとこれならば丁も不満はないと思える程度の値が、算盤の珠で形作られていた。
　流石は出来た嫁だと丁が内心褒めたのも束の間。

「だって頼むって言われたから高値で取引させるように交渉しているのに、向こうが高すぎるって値を吊り上げるんじゃあ、教育にならないしねぇ」

　目の周りに遮が入ったあくどい笑みを浮かべるお縞の顔に、この町で幅を利かせていた頃の金貸しの名残を見た丁は、今後取引に来るであろう商人に『お縞の楽しみの餌食になってくれ』と心の中で南無南無と口で唱えながら手を合わせた。
　
「さて、今日はもう受け取りに来る人は無いし、アンタの仕事も切迫したのは無いはずね」
「切迫したのは無いが、まだ日が出てる内は仕事をするぞ」

　お縞のしたいことやりたいことを察しつつも、世間体というものを気にする丁に応じるつもりは無い。
　それにお縞が受け入れた仕事のお陰で、直ぐ先に納入が重なっている日があるのだ。うっかりとすれば期日が過ぎてしまいかねない。
　丁の職人魂には、それは受け入れられない事柄だった。
　
「妻が抱いておくれって頼んでいるんだよ～。少しばかりいいじゃないか」

　しかしお縞も丁と短くは無い月日を共に過ごしているからか、そんな彼の反応も予想していたようで、座ったままですすっと近づき彼の手をとると、自分の胸へと押し当てた後、その手を使ってその乳房をこね始めた。

「ここ最近丁ちゃんが忙しくて交わってなかったから、もう切なくてしょうがないの」

　もじもじと内股を擦り合わせながら、そうおねだりする様に耳元で囁いてくるお縞。
　そんなお縞を振りほどいて仕事に取り掛かれるのかと言われれば、丁はそんなお縞を好いているので無理としか言いようがない。

「この淫乱狸め。本当に仕様の無い可愛い女だな、お前は」

　お縞に無理矢理動かされていた手に、今度は自分の意志で力を入れた丁は、服越しなのを加味して強めな力加減でお縞の胸を捏ね繰り回し始め、空いているもう一方の手は足の合わせから侵入すると、するすると膝先から股間までの内股を撫で上げていく。

「ぅんッ、丁ちゃん、口付け……口を吸ってぇ」

　お縞の言葉を受けて、丁の顔がゆっくりとお縞の顔に近づいていく。
　そしてもう少しで唇同士がくっ付くというところで、不意に丁の唇が上へ上へと逸れていく。
　思わず逃げる唇を追おうと首を伸ばしかけたお縞だったが、股間を下穿き越しに丁の指で擦られて、思わず与えられた快感に首が竦んでしまった。

「この狸耳を軽く齧られるのが好きだったよな」
「好きだけどぉ、あッん、いまはぁ、口付けしてほしい気分なのぉ」

　耳の縁を丁の糸切り歯で軽く噛み付かれて、欲しいものとは違うはずなのに、お縞の腰は思わずくねくねと泳いでしまう。
　そんなお縞の様子を唇の端を上げて嬉しそうに見ていた丁は、胸を揉んでいた手を一先ず止めると、その手を胸元から滑り込ませてお縞の服を緩ませてから、さらに奥へと侵入していく。その間でも耳と股間への愛撫は止めていない。

「相変わらずお縞は着痩せする性質だな。見た目と揉み応えは全く違うなんて……まさか化かしたりしてないよな？」
「こんな色々な所を弄り回されて、変化の術が保てる分けないじゃな、ひぃぁッ！」

　乳首と陰核を同時に服の下で抓られたお縞は、思わずといった感じで口から嬌声が漏れてしまった。
　お縞の可愛らしいそんな声をもっと聞きたくなったのか、丁はそのまま同じ場所を弄り回し続ける。
　最初は柔らかかった二つの場所も、丁が指で一撫で、摘んで一捻りする度に硬さが増していき、やがて中に芯が入っているのかというほどにコリコリと硬い感触を丁の指に与えていた。

「止めて丁ちゃん。このままだと達して漏らしちゃう。脱ぐから。服脱ぐから」
「後で洗えば良いさ。だから気にせずに、一気に達しろ！」
「くひゅぃいぃいいいい！」

　丁の手がお縞の胸の形を変えるほどの力で揉み付けつつも、その人差し指と中指で乳首を力強く挟み上げるのと同時に、下をまさぐっていた手でも陰核を人差し指と親指とで押しつぶすほどに挟みつつ捻る。
　するとお縞の口からは、体を駆け抜ける雷に強制されるように大きな声が漏れ出し、股間の口からは間欠泉のように透明な液体が噴出し、それは下穿きを濡らしきっても収まらず、お縞の着ている服の股の部分に濡れ染みを拡げていく。
　ふるふると絶頂の余韻で震えつつ股間を濡らしているお縞を抱き寄せた丁は、その髪から簪を腰から帯を抜き取ると、ゆっくりとお縞の体を畳みの上に横たえさせた。

「今日はなんだか、丁ちゃんが意地悪だよぉ」

　畳みの上で花が開くように、お縞の髪と着物がばさりと広がり、そして薄い襦袢から浮かび上がる、お縞の生々しくも美しい肢体。
　着物という包みから解き放たれたお縞の体は、呼吸の度に小さく揺れる胸元が愛する男を手招きし、その視線を釘付けにしようと股間は濡れそぼち、そして脳を蕩けさせる甘く痺れる匂いを放ってその体を引き入れようとしている。

「久しぶりにお縞のあくどい商人の顔を見たら、どうしても懲らしめてやりたくなってな」
「あくどく無いし、商人の顔なんてしてない」

　心外なと言いたげに、絶頂から来た潤みで瞳を濡らしたお縞は、可愛らしく震えた眼で睨みつけている。
　ここ最近お縞は何故か商人に見えると丁に言われると、なぜか機嫌が悪くなる。
　それは妖怪らしく伴侶を大切にしたいという気持ちが強いことと、刑部狸が金子を稼ぐのはそれが男を手に入れる手段であり、手に入れた後の生活を潤いに満ちたものにするための道具でしかない事から照らし合わせて考えると、要するに伴侶に商人ぽいと言われる事は『お前は俺が不満なのか』と問われていると同意義なのかもしれない。
　
「悪かったよ、拗ねるなって。ッちゅ」
「もっとしたら許してあげる。あむッ、ちゅ、ちゅぱ、はむッ――」

　最初は丁から愛しい妻の機嫌を伺うように、次にお縞が愛しい男の唇を独占したいと願うように始まった口付けは、最終的にお互いを求めるような口付けへとなる。
　丁がお縞を押し倒しているような形のまま、二人の両手の指がお互いの両手の指へと絡みつき、唇も舌も相手のものと同化しようとするかのようにくっ付いて離れようとはしない。
　
「「じゅぷ、じゅじゅる、ぐちゅ、ぐちゅるぅ」」

　うねる舌と溢れ出そうな唾液が奏でる音が、お互いの口から辺りへと放たれる。
　押し倒される形で口内を蹂躙し続けられるお縞の口の中はもう唾液で一杯なのだろうか、時折その細く白い美しい喉が動き、口の中のモノを胃の腑へと押しやっている。しかしその舌はより情熱的に、より相手を引き込もうとするように蠢く。
　押し倒している形の丁は、物の怪らしい巧みな舌使いを見せるお縞に対抗するかのように、より攻撃的に舌を絡みつかせ、よりお縞を蹂躙しようと唇を押し付けている。
　やがて肺の空気が尽き、鼻から吸う息では賄えなくなっても、それでも二人とも離れようとはしない。
　脳へ送る空気が無くなり、二人の頭が芯から酸欠と快楽で痺れ、お互いの舌がお互いの舌の味を覚えて、漸く満足したかのようにしかし名残惜しそうに唇が離れた。

「はあー……はあーー」
「はぅはぅ――ぁーーんッ」

　丁は尽きた肺の空気を取り込もうと――次の行為の為に少しでも体力を回復させようと言うようなほどに、目を血走らせながら肩で息をするのを繰り返す。
　お縞はそんな獣欲に取り付かれているような丁の様子を嬉しそうに見つめながら、息をする傍らで口にねっとりと絡みつく愛しい雄の唾液の味を舌で舐めとると、愛しい雄を妖怪が狙っているような目付きをしつつ、再度それを味わうように舌の上で転がしている。

「お縞、お縞ぁー！」

　とうとうお縞の体から放たれる匂いと魔力に脳まで侵された様子の丁は、薄襦袢を力任せに剥ぎ取ると、お縞の太腿を掴んで大きく広げた。

「そんなに慌てなくても、私は逃げやしないよ、あぁああッん！」
「じゅるるぅ～～」

　そして顔を濡れに濡れたお縞の股間へ押し付け、蜜が止めなく出てくる花弁の形をした陰唇へとその口を付け、そしてその蜜を飲み干さんばかりの勢いで吸い付きつつ、膣道に下を突き入れて穿り回す。
　乱暴ながら的確な場所を突いてくる丁の舌に、お縞の口からは愛しい雄が欲に狂う歓喜と、その狂った雄に蹂躙される悲鳴が合わさった異様な声が紡ぎ出される。
　しかしお縞の妖怪の体は愛しい男の愛撫に堪えきれないのか、股間は丁へ押し付けるように前後に揺れ、腰から上は快楽の奔流を堪えようとしているように、体の下に広がる着物の裾を手でぎゅっと掴んでいる。
　そしてそのままどれだけの時間がたっただろうか。少なくとも先ほど二人が口付けを交わしていた時よりは長い時間が流れた。
　お縞の股間から顔を上げた丁は、もどかしげに自分の身を包む服を脱ぎ捨てて横へ放り投げる。
　そして長時間股間を舐められ続けたお縞は、濡れて花開いた股間を隠そうともしない大股開きで、ぐったりと体の力を抜き目の光も弱いながらも、時折与えられた快楽の余韻でびくびくと体の彼方此方が跳ねている。
　しかしその濡れた股間に熱く硬い物を押し付けられたお縞の目の光が強くなる。
　動かしにくそうに首を動かしたお縞は、限界まで怒張した丁の陰茎が突き入れる準備をするように、お縞の股間から流れる愛液でその身を濡らしていた。

「待って、丁ちゃん。私、達しすぎてつら――おおッ？おおぉぉほぉおおぉ！」

　我に返ったお縞が押し止めるのも聞かず、丁は濡らした陰茎をお縞の膣口に付けるや否や、力強く腰を前に突き出した。
　膣道を割って入った陰茎は、お縞の膣肉の歓迎の抱擁を後ろに突き進み、一番奥にある子宮の口まで押し入ると、そこを問答無用に突き上げた。
　すると散々丁の舌で股間を弄られていたお縞の体は、陰茎の突き上げで与えられた許容限界の刺激で、全身を強張らせながら脳内に快楽をぶちまけ、お縞の意識は真っ白に塗り替えられるような気分を味わいながら絶頂する。

「おしま、おしま――」
「達したから、もう達したってば、あんぅう！！」

　しかしまだ射精を終えていない丁は止まらない。
　突き入れたモノを今度は限界まで引き抜くと、再度奥まで突き入れる。そしてまた抜き、突き入れる。抜いて、突く。
　段々と早まるその腰使いで止め処なく与えられる快楽で目から涙を流しつつも、お縞の妖怪の体は丁の動きに合わせる様に、時折きつく締まりうねる膣道で扱き上げたりと、健気な動きで丁の射精を促す。
　
「はあ、はあ、はあ」
「うんぁああぅぅ！もうおぉおぉ、なんだかぁ、わからないぃいぃい！！」

　何度となく膣肉を丁の陰茎の括れで掘り返され、そして子宮を餅つきのように突かれて、もう体の何処をどう弄られているのかという感覚が判らなくなったのか、丁に縋りつくように両手足でその体を抱え込む。
　お縞の手足に纏わり付かれて多少体が動かし難くなったはずなのに、丁の腰使いは緩む所かますます勢いを増し、そしてその勢いで蹂躙されるお縞の膣口からは、膣から滲み出る透明な愛液と子宮の口から出る濁った白い液が混ざったものがだらだらと流れ落ち、お縞の体の下に潰されるように敷かれている服の濡れ染みを、より大きく染め広げていく。
　しかしそんな激しい行為も、丁の下腹に溜まった子種汁が尿道を駆け上がってきたことで、とうとう終わりの瞬間を迎えることになった。

「はあぁぁうぅうぅうう゛ぅう゛う゛」
「ああぁぅ、射精てるぅ、丁ちゃんの温かい子種が、奥にぃ……」

　一番奥の更に奥へと押し付けるように丁が腰を突き入れ、腰から下を震わせながら射精するのを、お縞は両手足で丁を抱擁しながら、奥へと溢れるほどに注がれる丁の精液の感覚を下腹で感じていた。
　そしてお縞の膣へ精を詰める作業が終わり、全身に滾っていた力を抜き射精して少し頭がすっきりした様子の丁がふと下を見ると、そこには涙で畳を濡らすお縞の姿があった。

「酷いよ、酷いよ、丁ちゃん。待ってっていったのに」

　さめざめと涙を流して畳を濡らすお縞の姿に、丁の心にあった淫熱が急速に冷えていった。

「わ、悪い。余りにお縞が色っぽくて加減が利かなかった」

　このままでは愛しい妻に嫌われると思ったのか、わたわたと慌てながらお縞に弁明する丁。
　その顔をお縞が涙で濡れる目で見つつ丁の弁明を聞いていたお縞だが、次の瞬間には例の目の周りに遮の入ったあくどい笑みを浮かべると、巧みな体の動かし方で、丁とお縞の体勢がぐるりと入れ替わる。
　何が起きたのか判らない様子の丁は広がった着物の上に横たわれさせられ、してやったりと笑うお縞は丁の一物を咥え込んだまま、その上に腰を下ろすという、あり大抵に言ってしまえば騎乗位の形になっていた。

「というわけで、今からお返しするさね。もちろんツケと利子合わせて十倍返しだから、覚悟して頂戴ね」
「はめやがったな、お縞」
「間違っているよ丁ちゃん。今からハメるの」
「ちくしょうめー！」

　そうしてまた日が山の稜線に隠れ、黄昏時が終わりを告げて夜が来る。
　つまり妖怪が本領を発揮する時間帯。
　この日の二人が何時まで頑張る事やら、そんな事は判ったものではなく、ただただ女の嬌声と男の堪える声が暗い空を駆け抜けていった。
　
　

12/02/18 19:41更新 / 中文字

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