地下墓地に住まう犬と荒野の騎士
とある一団が砂漠一歩手前の岩と砂で覆われた荒野を進んでいた。 しかしこの一団、一目見ただけでは何の集団なのか判断がつかないほどに、まとまりの無い集団だった。 大多数の男達は降り注ぐ太陽の光を薄汚い白布で全身を覆って遮り、発掘道具や食料を背負って運んでいる。 この人たちだけを見れば遺跡荒らしの盗掘屋だと判断できるのだが、この一団の中に居る二人の男がその判断を狂わせる原因となっている。 一人目の年若そうな男は、線の細い体全体をシルク布で覆い、宝石と金で装飾を施された護身用の剣を腰に括り付け、根拠のなさそうな自信に満ち溢れた表情をし、荷物を持つ男たちに幌付きの駱駝の上から命令している。 その男を評するならば、御伽噺に出てくる砂漠の馬鹿王子のようである。 もう片方の男も駱駝に乗っているのは先の男と一緒だが、体を布ではなく純白に塗られた鉄鎧で覆い、腰には装飾の無い実用的な長剣を帯び、首もとには砂塵避けの布を巻き、頭にはターバンを乗せていた。 顔つき体つきの方はというと、ターバンからはみ出た金糸のようにきめ細かな髪は光をキラキラと跳ね返し、眉目秀麗でありながらも誇りを秘めた目付きとキリリと引き締まった口元に、鎧と服の上からでも判るほどに鍛え込まれた無駄のない筋肉。 総評して美丈夫と呼んで差し支えないほど――それこそ英雄譚に出てくる伝説の勇者のようでありながらも、まだ面持ちに少年の若さを含んだ青年。 だがその見た目とは裏腹に、太陽光など存在していないかのように涼しい顔をし、起伏の激しい岩場や駱駝の足を取られそうな砂場でも、あたかも平地であるかのように軽々と操るその姿は、歴戦の砂漠の戦士のような雰囲気を醸し出していた。 馬鹿な王族とその家来にしては、騎士風の青年は威風堂々としすぎており、王族風の男の下で付き従っている様子ではない。 逆に騎士風の青年がこの一団の主かといえば、王族風の男が発する命令に荷物持ちの男達が唯々諾々と従っているのに説明が付かない。 見るもの全てに別々の印象と、チグハグ感を抱かせるこの一団の目的はといえば、それは王族風の男が持っている一枚の地図にあった。 「っち、この地図間違ってんじゃねーか?なあどう思うよ、騎士モノーグ」 「知りませんよ。俺より貴様の方が詳しいのでしょう。次期子爵のフローティン・ベルゴルヌ殿」 「相変わらずお前は無礼な奴だな。次期子爵に取り入ろうとは考えないのか?」 「俺の所属は国王の騎士団であって、次期子爵殿の父上――ベルゴルヌ卿がお持ちになられている私設騎士団では無いので、取り入る必要性を感じません」 視線すら合わせないモノーグと呼ばれた騎士に舌打ちを一つした後で、フローティン次期子爵はああでもないこうでもないと地図をひっくり返して見ている。 「それに俺としては、さっさと宝など諦めて、貴様が領地へ引っ込んでくれると助かるのですよ」 「いやそうはいかない。私とて名門ベルゴルヌ家の次期当主だ、魔物が娘子に変化したために魔物相手の戦争が無くなったこの時代、貴族の箔を付けるにはこういう事もせねばならん」 このフローティンが持つ地図は宝の地図と呼ばれている一品であり、その宝の在り処がこの荒野の中にあるとされている。 しかし宝の地図などというのは、もともとは金の余っている貴族が女に対して一夜の夢物語を語るために買い求めたり、商人が価値のわからない馬鹿に高値で売りつけたりするような物で、フローティンの様に真面目に財宝を狙うのは間違った使い方である。 だが今回の宝の地図は、そんなフローティンの馬鹿な使用法が順目に出たようだった。 「それが何がしかの因果で貴様の護衛を命じられた俺にとっては、はだはだ迷惑だって言っているんですけど……まあいいですよ、目的の場所は見えたようですし」 「何!? 何処だ!!?……金字塔(ピラミッド)は無いようだが?」 確かに見渡す限り岩と砂の荒野が広がり、王家の墓の代表格である金字塔は見当たらなかった。 「なに言ってるんですか?その地図は金字塔ではなく、地下墓地(カタコンベ)の場所を書いてあるものですよ」 モノーグの指差す先には、岩場の影に隠されながらも、確かにぽっかりと暗い口を開ける地下への入り口があった。 |
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