連載小説
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14「来たぞぼくらのオーガさん(前編)」
 「チナツのゆるふわラジオカフェテリア」、続いては更紗市のラジオネーム・ウルトラ鬼姫さんからっ!

「こんにちは! チナツさんっ!」

 はいこんにちは。メッセージありがとうねっ。

「突然だけど、チナツさんはどんなタイプのオトコが好きなんだ?」

 おっと、またどストレートな質問っ。
 そうだね〜、そりゃイケメンとかスポーツマンとかもいいと思うけど、やっぱり付き合ってて楽しいヒトがタイプかなぁ。

「アタシ、自分では強くてたくましいオトコが好きだと思ってたんだけど、最近知り合った年下の子がなんか気になってるんだ」

 ほうほう、続けたまえ……読むのあたしだけど。

「そいつはアタシよりちっちゃくて、当然背も低いし、アタシが一発殴ったらあっさり伸びちまいそうな奴なんだけど──」

 って、ちょっとちょっと殴っちゃダメでしょ(笑)。

「けど、なんか夢中になったらまわりが見えないトコがあるし、アタシが目を離したらイヤな目にあうんじゃないかとかいろいろ考えて、ちょっとモヤってるんだ」

 うーん、無鉄砲な後輩男子くんの世話を焼く先輩お姉さんって感じかな? でもそういうの、チナツさんめっちゃ好きだわ♪

「アタシに結構懐いてくれてるし、お節介かもだけど、今はあいつが夢中になってるコトを全力で応援して守ってやるつもり。それでアタシのこの気持ちがなんなのか、わかるような気がするんだ」

 答えはもう出ているかと思うんだけど……鬼姫さん自身が納得するまで、その後輩くんに付き合ってあげたらいいんじゃないかな?

 ……あ、でも逆に後輩くんから、好きです、付き合ってとか真顔で言われたり真剣に告白されたりしたら、その気にさせた責任、ちゃんと取らなくちゃねっ♪



─ cerulean ─

 二十四時間後の近未来。季節は夏。

「おいおまえらっ! 何やってんだっ!?」

 背後からそう呼びかけると、一人を取り囲んで笑い声を上げていた少年たちはビクッと肩を強張らせ、あわてて振り返ってきた。
 放課後の、ヒト気のない通学路。知り合いの家を訪ねようとした彼女がそこを通りかかったのは、たまたまだった。

「げっ」

 誰ともなく漏れるつぶやき。そこから滲み出る驚きと嫌悪感。
 そんな空気を物ともせず、明緑館学園の夏用女子制服を着崩した赤髪浅緑肌二本ツノの鬼娘──オーガ娘のサキは彼らの横を通り過ぎ、取り囲まれていた男子の前に立った。
 まわりの少年たちより、頭ひとつ低い背丈。水筒に入った飲み残しのお茶を頭からぶっかけられたらしく、髪の毛やTシャツが濡れていた。
 半眼で軽く凄んでやると、その身体を押さえつけてハーフパンツをずらそうとしていた二人はあわてて手を放し、おずおずと後ずさった。

「…………」
「大丈夫、そうだな」

 歯を食いしばって見上げてくるその目に視線を合わせ、首に掛けていたスポーツタオルを投げ渡す。

「で、どう見てもイジメにしか見えねえんだが──」

 そう言いながら、サキは肩越しに後ろを睨め付けた。「……おまえら、アタシが止めなかったらコイツに何する気だったんだ?」

「「「…………」」」

 長身のオーガ娘にびびって、あるいはちっと舌打ちして目をそらす少年たち。だがその中の一人がハッと気づいて彼女に人差し指を突きつけ、小馬鹿にしたような口調で言い返してくる。

「あ〜っ、魔物オンナは人間のツレがいないと外に出れないんだぞ〜っ! ホウリツイハンじゃ〜ん!」
「はっ! コイツで定期的に居場所知らせたら、一人でも外出がOKってなったんだよ。ガキがアタシの心配するなんざ二万年早えってのっ!」

 そうだそうだと言いかけた彼らの機先を制して振り返り、手にしたスマホを振ってニヤリと笑みを浮かべるサキ。
 そばにあるマンションの集積場に置かれていたゴミ袋が、故意か元からかわからないがいくつか破られて中身が見えていた。この場でイジメがエスカレートしたら、次に彼が浴びせられるのはそれだっただろう。いや、ハーフパンツに手をかけられスマホのレンズを向けられていたから、あるいは──

「「「…………」」」

 そして、そんな行為ですら「おふざけ」で済ませてしまう。だから無言で彼女に恨みがましい目を向けていた少年たちは、互いに目配せし合い、一転、白けた表情を浮かべると、

「くだんね」「遊んでただけだし」「カンケーねえし」
「カラまれた。あ〜気分わるっ」「ほっとこうぜ」「行こ行こ」

 などと悪態をつきながら、踵を返して逃げ去っていった。
 そもそも往来で一人を取り囲んでイジメていた時点で罪悪感なんか欠片もないし、見咎められた(止めてもらった)なんて意識もない。あるのはいきなり魔物娘に脅かされたということだけ。
 明日は親を通して学校に、ないことないこと抗議の連絡が殺到するかもしれない。

「捨て台詞のテンプレ教科書でもあんのかね」

 フンと鼻を鳴らしてこちらも吐き捨てるように言うと、サキはイジメられていた男子に向き直った。

「よく手ぇ出さずに我慢したな。えらいぞ」
「……!?」

 その言葉に、うつむいていた彼は思わず鬼娘の顔を見返した。
 彼女がしゃがみ込んで視線を合わせてくる。そしてタオル越しに大きな手のひらで、頭をわしゃわしゃと撫でられた。少し痛くて恥ずかしかったけど、嫌な気はしなかった。

「しっ、審査会が、あるから……」
「……?」

 なんの審査会なのかはわからないが、それのためにやり返さなかったのだろう。サキは頭を撫でていた手を離し、自己紹介がまだだったなと口を開いた。

「アタシはサキ。明緑館学園高等部一年C組、種族は見ての通りオーガ……オニだ」

 ゴツい爪の付いた親指で胸元を指差し、牙を見せてニヤッと笑う。男子は一瞬たじろいたが、おずおずと名乗り返した。

「い、石垣(いしがき)、透也(とうや)……」

 んで? と目線で促され、彼──透也は「椋鳥小学校、四年生」と付け加えた。



 次の日──

 バンッ──!「頼むコースケ! ホノカ! ちょっとの間でいい! 二人のメガパペット、アタシに貸してくれっ!」

「…………」「えっ、と……」

 いきなり机に手をつき頭を下げてくるオーガ娘に、甲介とサイクロプス娘ホノカの二人は、揃って目を瞬かせた。
 朝っぱらから何事かと、クラス中の視線が彼らに集まる。

「全国大会の準備とかがあるのはわかってるっ! でも、そこを曲げて頼むっ!」
「いや、急にそんなこと言われても……」
「な、何か、あったの? サキ」
「…………」

 胡乱な視線を向けるホノカ。勢い込んでいたサキは言葉を途切れさせて目をそらせ、やがて照れたように頬を掻くと、「あー、えっと、実は、その……」

「「「…………」」」
「その、まあ、なんだ……」

 いつもの彼女らしくない、奥歯にものが挟まったような言い方にホノカと甲介だけでなく、そばにいた文葉やゲイザー娘のナギ、ヴァルキリーのルミナでさえその顔をうかがってくる。
 そんなまわりをぐるりと見回し、鬼娘は「わ、笑うなよ」と前置きして昨日の出来事を話し始めた……

 …………………………………………
 ……………………
 …………
 ……

「……ロボTRYって、メガパペットってヒトガタで闘うやつだろ? もちろん知ってるぜ」

 イジメられていた透也をほっておけなかったお節介な鬼娘は、あのあと近くの公園に場所を変え、彼の口からいきさつを聞き出そうとした。
 もっとも初対面、しかも魔物娘の自分に対してすぐに心を開いてくれるなんて思ってはいなかった……が、そばにあった自販機で買ったオレンジジュースのペットボトルを手渡すと、透也は「あ、あの、さ、えっと……ろ、ロボTRYって、知ってる?」と遠慮がちに問いかけてきた。

 ──なんでそれがイジメと関係あるんだ?

 疑問符を浮かべるサキだったが、話のとっかかりになるなら……と思い直して答えた。
 次の瞬間、緊張で固くなっていた透也の表情が、ぱっと明るくなった。

「じゃ、じゃあ、あのサイクロプスのメカニックと友だちなのか? 同じオニの魔物娘だし!」
「もちろんだぜ! っていうかアタシも一応、チーム・モノアイガールズのクルーだからなっ!」

 タメ口で食いついてきた透也に、彼女は得意げに笑みを浮かべて胸を張る。
 クルーというのは言い過ぎかもだが、メガパペット〈ブラウホルン〉の修理を手伝ったこともあるし、モーションプログラム最適化のために甲介の組み手の相手をしたこともある(04、08話参照)。

「マジ? すげえ……」

 そんなことを話してやると、憧れの眼差しを向けられた。フカした分だけ、ちょっと恥ずい。

「ま、まあ、な。……んで、それがどうした?」
「お、オレ、さ、今度、ろ、ロボTRYのライセンス審査会に、出るんだ──」

 透也の話によると、彼の父親の友人がJRAA(ロボテック競技協会)の役員で、その伝手でシミュレータやレンタル機を遊びで使わせてもらっているうちに、競技資格取得審査への出場を勧められたのだとか。

「へ〜え、トーヤもコースケみたくロボTRYのプレイヤーになるのか。すごいじゃんか」
「…………」

 からかうつもりで言ったわけじゃなかったが、鬼娘のその言葉に透也はまた顔を曇らせた。

「……けど、クラスでそれ、話したら…………アイツらに、目、つけられて──」
「…………」

 審査会へのエントリーが済んだ次の日に、嬉しさで舞い上がっていた透也は友だちにそのことを得意げに自慢した。勉強は苦手、背が低くて運動もそこそこ、そんな自分がはじめて夢中になれるものが見つかって、嬉しくてハイになっていたのかもしれない。

「目、つけられて、それで……」

 だが、次の日にクラスの男子たち、それも今まで全く接点のなかった、それこそクラスの「みんなあそび」でしか遊ばないような男子たちが、いきなり絡んできたのだ。

 おんや〜、ア◯ロくぅ〜ん、学校なんかに来てないでさっさとジ◯ン星人倒しに行ってこいヨォ〜。

「それで……、それ、で……」

 キモい、ウザい、イキんな、消えろ──言葉でのそれが間を置かずに落書きや物隠し、嫌がらせ等具体的な<Cジメ行為へと変わる。しかし担任教師に相談しても「ケンカ両成敗」「自慢したあなたも悪い」と全く取り合ってもらえない。
 暴力沙汰を起こしたらエントリーを取り消される──と、やり返さず我慢していたが、抵抗してこないと見なされてイジメはますますエスカレートしていき……

「…………」

 サキは黙って透也の隣に座り直すと、右手のひらを彼の頭の上にポンと置いた。
 そこから伝わる温もりで、目から流れそうになった涙がすっと引っ込んだ。

「トーヤはあきらめてないんだろ? その審査会とかいうの」
「……!」

 弾かれたようにサキの顔を見上げ、それでも彼はうなずいた。
 大きく、力強く。

「いいじゃん。それでこそオトコノコだっ!」

 ニヤリと笑みを向け、嬉しそうにその頭をわしゃわしゃ撫でてやる。
 知らず知らずのうちに手に力が入っていたらしく、鬼娘は透也に「い、痛いよサキさん」と言われて赤面した。

 …………………………………………
 ……………………
 …………
 ……

「……というわけで改めて頼むっ! 来週の審査会まででいい、〈ブラウホルン〉を貸してやってくれっ!」
「いやそんなことよりもオーガっ! 貴っ様よりにもよって年下の子どもに手を出すなどっ、イジメも許せんがそちらも万死に値するぞっ!!」
「お、おいちょっと待てぇっ! 何処をどう聞いたらそうなるんだっ!? イジメられてたから元気づけてやっただけだろっ! 脳ミソだけマーチヘアかおまえはああっ!!」
「あ〜もぅ二人とも〜っ、やめなさいってばっ!」

 ハリセン片手に詰め寄ってくる戦天使に、顔を真っ赤にして怒鳴り返すサキ。そんな二人の間に、B組クラス委員(兼、ルミナちゃん係)の文葉が呆れ声とともに割って入る。

「えっと……つまり、サキが知り合った、その男の子をはげますために、〈ブラウホルン〉を使わせたい、って、こと?」
「きししししっ、ま〜たいいカッコして安請け合いしたんだろ? アタシもチーム・モノアイガールズの一員だーとか言って♪」

 話が進まない……と、ヒトツ目を半眼にしながらホノカが問い直し、それに乗っかったナギがいつもの調子で混ぜ返した。
 図星を突かれて「うぐっ」と言葉を詰まらせた鬼娘だったが、

「い、いやその……あ、あれだったら、ト、トーヤのモチベも爆アガがるし、そっ、それにっ、ぜ、全国大会出場決めたホノカとコースケに機体を貸してもらってるってわかればっ、イジメてくるガキどもも、だ、黙らせられるしなっ!」

 しどろもどろになりながら、言い訳めいた理由をこじつけた。

「…………」
「カナタ?」

 いつもと違って無言でサキたちを見つめるパートナーに違和感をおぼえ、ナギがヒトツ目でその顔をうかがう。

「ん〜まあ、見せたり触らせたりするのは別にかまわないんだけど……」

 含みがあるような甲介の言葉に、鬼娘は「けど、なんだっ?」と被せるように話の先をうながした。

「……えっと、ライセンス審査会はJRAAが用意した規定のメガパペットを使うから、〈ブラウホルン〉を持ち込むことはできないんだ」
「は?」

 ホノカとコースケの機体なら、楽勝合格だぜっ! とか思っていたサキの目が点になる。プレイヤーライセンスの試験なのだから、条件を揃えるのは当然だ。
 ちなみにロボTRYのジュニアクラス(U13)も、JRAA規定の機体同士で試合を実施する。メガパペットを所有していなくても競技にエントリーできるよう、配慮されたためだ。

「あ〜、要するに本番では使えないってことか? まあいいや。じゃあ明後日の金曜日でどうだ? アタシの顔を立てると思って、なっ」
「「…………」」

 両手を合わせて頼み込んで……と見せかけて(?)しれっと約束を取り付けようとするサキに、甲介もホノカも顔を見合わせ、苦笑を浮かべるしかなかった。



 金曜日の放課後、市民公園グラウンド──

「機体が重い。トリガーの遊びもほとんどない……」
「僕のマニューバに合わせて調整されてるからね」

 地区予選会の優勝者、甲介とホノカを目の前にして緊張していた透也だったが、プロポ(有線操縦器)を握らせてもらった頃には二人にすっかり打ち解けていた。

「マスタースレイブ、アクティブ確認……い、いくぞっ」

 スカイブルーとブルーグレーに塗り分けられた人型重機──メガパペット〈ブラウホルン〉が、透也の操作でゆっくりと歩きだす。そのまま左右の腕を大きく振り、ストライドを伸ばして走行モードに移行。そのレスポンスの早さに驚いて、思わず声を上げる。

「うわわっ!」
「透也くん、機体に合わせて移動して!」
「は、はいっ!」

 そして自分もあわてて走りだす。
 プロポから伸びたケーブルをしならせて急制動、ターン、機体の腕を振って姿勢制御、一歩踏み込んでワン、ツー、ブロック。

「よかった、楽しそうで。……イジメられてるって、聞いてた、から」
「だから言ったろ? あれを使わせてやればトーヤの気持ちがアガるって。あと、校長が向こうの学校に言い返してくれたのも効いてるんかもな」

 甲介に教えられながら空色の機体を動かす透也を見て、制服姿のホノカとサキが言葉を交わす。
 あのあと予想していた通り、イジメ行為をしていた連中の親から椋鳥小学校を通じて明緑館学園に抗議──曰く、ふざけ合っていただけなのに、鬼の魔物娘がいきなり怒鳴ってきた──が入ったのだが、明貴校長はそれを一蹴。透也に対してイジメがあることを逆に認めさせ、くだんの保護者ともどもきっちり指導することを確約させた。

 うちの生徒は、イジメを目撃したので止めたと言ってましたが?

 なんでしたら、そばにあったマンションの防犯カメラの録画を確かめてみましょうか?

 カメラの前でイジメをするやつなんかいるわけない、ですか。……つまり、映ってないところでイジメをしている児童がいるということですね──

 日本政府に魔物娘たちの国籍取得その他もろもろを認めさせた人物である。保護者や教育委員会の顔色をうかがい、体裁を取り繕うことだけしかできない並の校長など敵ではない。

「サキさん!」

 手にしていたプロポを甲介に返して、透也が駆け戻ってくる。オーガ娘も駆け寄って両手を広げ……かけて思い直し、その手を腰に当てた。

「どっ、どうだトーヤ、アタシらの〈ブラウホルン〉をいじった感想は?」
「すごいよ! レンタルしたメガパペットと全然違う!」

 興奮を隠せない口調で、嬉しそうに答える透也。サキはそうかよかったなと、こちらも嬉しそうにうなずく。
 サイクロプス娘が「アタシらの?」と後ろからヒトツ目をジト目にしてにらんできたが、とりあえず知らんぷり(笑)。

「リミッターかかってても振り回されそうになった!」
「でもちゃんと動かしてたじゃないか。さすがはトーヤだっ」
「へへっ、それほどでも……って、痛いってばサキさんっ」
「うるせえっ。撫でやすい高さにおまえの頭があるのが悪いっ」

 サキは透也の首を二の腕で抱え、空いた手でその髪をわしゃわしゃとかき回す。じゃれ合う二人に、呆れたような視線を向けて息を吐くホノカ。
 そんな彼女のそばに、甲介が〈ブラウホルン〉を歩かせながら戻ってきた。機体の首に、パウチされた公園内歩行許可証がIDカードみたいにぶら下がっているのがお茶目。

「おつかれさま。トーヤくん、どうだった?」
「あ、うん、なんていうかさ──」

 甲介は静止した自機を見上げて、脚部のカウリングに空いた手をやった。

「〈ブラウホルン〉は、ホノカちゃんが僕専用にチューンしてくれた機体だ。でも、透也くんは初めてのはずなのに、自分のマニューバのクセをすぐ修正して、これに対応していた」

 本人にそんな自覚ないだろうけど──と付け加えて、甲介はパートナーに向き直った。

「……もしかしたら透也くんは、どんなセッティングの機体でも操縦できるんじゃないかな、てね」
「…………」

 長身の鬼娘が向けてきた手のひらにパンチしてはしゃいでいる少年を見て、ホノカはヒトツ目を瞬かせた。
 マシンに対する直感とか親和性の高さ──それがプレイヤーとしての彼の強みなのだとしたら……

「んと、それって、ニュータイプって、やつ……かな?」
「かもね」

 それだとF1パイロットは全員ニュータイプじゃん──この場にナギがいたら、そんなツッコミのひとつも入れていただろうか。
 小首を傾げるサイクロプス娘に、甲介は肩をすくめて相槌を打った。



 一方、そのゲイザー娘はというと……

「おいおまえら、何やってんだ?」

 植え込みの影からサキと透也の様子をうかがっていた少年たちは、背後からの声にびくっと肩を震わせて振り返り、間髪入れずに悲鳴を上げて腰を抜かした。

「きししっ、花の女子高生に『ぎゃあ』だなんて失礼な奴だな〜♪」
「おまえ、ワザと脅かしてるやろ……」

 透也と同じ年頃の彼ら二人を紅いヒトツ目で睨みながら、口の端を吊り上げて笑う。そんな彼女を、隣に立つ眼鏡をかけた背の高い男子が溜め息混じりにたしなめる。
 制服姿の黒髪ツーテール魔物娘──ナギはフンと鼻を鳴らし、両手を腰に当てて薄い胸を張った。目はいっこなのに鼻の穴は二つあるんだな……とか思われているなんて、もちろん気づいちゃいない(笑)。

「……で、おまえらか? トーヤをイジメてるってのは」
「ち、違うっ! お、おれたち、と、透也と鬼のねーちゃんが、気になって──」
「そ、それにっ、地区予選で優勝したメガパペット、み、見てみたくて──」
「だったらなんでこんなとこでコソコソしてんだよ?」

 しどろもどろに答える少年たちに、腕を組んでジト目と触手を向ける。うねうねしながら迫ってくるその先端は、慣れていないとちょっと怖い。

「だから小学生をビビらせんなや」
「うごっ!」

 そんな彼女のつむじに軽く手刀を入れ、眼鏡の男子──彼方は差し入れで買ってきたペットボトルが入った袋を手にしたまま、しゃがみ込んで視線を合わせてきた。

 ツッコんだっ!? い、今、ツッコんだよねっ──
 魔物娘にツッコミ入れたっ。すげえっ──

 畏怖の眼差し。
 だがそれを向けられた当人は、逆に眼鏡の奥から彼らを睨め付けた。

「あの子と仲ようしてるとこ見られたら、自分らもイジメのマトにされるってとこやろ」
「「…………」」

 図星を突かれて無言で目をそらす少年たち。だが彼方は一転ニヤリと笑みを浮かべると、隣にいたナギの肩を抱き寄せた。「けどな、こいつら魔物娘にいらんことしたりケンカ売ったりした連中が、あとでどないな目にあったか、自分らも聞いたことあるんちゃうか?」

「「あ……」」

 彼らは互いに顔を見合わせた。「魔物娘のせいにして◯◯したら人生詰んだ」とか「バトルフィールドの真ん中で魔法ガーと叫んだイキリくんまとめ」とかいったネットの書き込みが頭をよぎる。

「友だち、だいじにしとけよ」

 そう言って立ち上がると、彼方はナギの手をつかんで歩き出した。

「な、なあ、カナタ」
「ん? なんや?」
「……もしかしてオマエも、ショーガッコーのときにイジメられてたクチ?」
「昔、ちょっとな」
「…………」

 ゲイザー娘は何も言わずに、パートナーの腕にぎゅっとしがみつく。
 そんな二人を後ろから追い抜いて、少年たちは鬼娘と戯れるクラスメイト──透也の元へと一直線に駆けていった。

 to be continued...



─ appendix ─

 わんだばわんだばわんだばわんだばわんだばだばだばだっ、はっ!

「コマン、ドーッ!! 地球防衛隊NTRッ、現・着ッ!!」
「コマン、ドーッ!!」
「コマン、ドーッ!!」
「コマン、ドーッ!!」
「コマン、ドーッ!!」
「コマン、ドーッ、……ティッ!!」


「…………」

 登校中、いきなりウ◯トラ防衛隊風コスプレ軍団に取り囲まれ、透也イジメを主導していた男子児童は、盛大に顔を引きつらせた。

「魔物に危害を加えられそうになったという連絡を聞きつけてっ、私が、もとい我々が来たっ!!」
「「「コマン、ドーッ!!」」」
「今から我々が君の登校を護衛するっ!! 我々がいる限り、君に指一本触れさせないっ!!」
「「「コマン、ドーッ!!」」」

「…………」

 魔物娘に何かされた、なんて口にするだけで(自称)地球防衛隊が湧いて出てきてつきまとわれる──ネットの釣り≠セろ嘘松乙と鼻で笑っていたが……

 ズボンずらして写メるくらいでイジメだなんだって大げさすぎ! イキってたからちょっとシメてやっただけだし! むしろオニ女にわめかれて、こっちがイヤな目にあったってぇのっ!

 と、被害者面して「されたこと」だけを大声で主張した結果、こんなイカれた連中を焚きつけ呼び寄せてしまう羽目になったのは、自業自得を通り越してもはやギャグ漫画の領域だ。

 ──クソババアが学校にっ、電話なんかしやがったからっ!

 自分がないことないこと言って泣きついたことを棚に上げ、母親に責任転嫁しても目の前のおっさんたちは消えてくれない。
 ウザいジャマすんなキショいシねよアタオカかよ……仲間(取り巻き)と一緒なら言えた悪態罵詈雑言も一人では言えない、言うことができない。

「A地点、クリヤーッ!」

「B地点、クリヤーッ!」

「C地点、クリヤーッ!」

「D地点、クリヤーッ!「「コマン、ドーッ!!」」」

 隊員(笑)たちは通学路を先行して等間隔に立ち、残った二人は光線銃(のプロップ)の銃口を上に向けて顔の横に構え、男子児童を左右から挟み込む。

「さあこい魔物どもッ!! 我々が相手だッ!!」
「コマン、ドーッ!!」

 登校中の高校生や中学生たちが迷惑そうな表情を浮かべ、さっと目を逸らして横を通り過ぎていく。もちろん誰も助け……もとい、かかわろうとしない。

「う、う……ぁ──」

 そして小学生──同級生たちと目が合った瞬間、男子児童の涙腺と羞恥心は完全崩壊した。

「うわぁああああああ〜んっ!! もおやだあああああ──っ!!」
「そうか泣くほど魔物が怖かったのかッ!! だがッ、もう大丈夫だッ!!」
「コマン、ドーッ、……ティッ!!」


 ……ということがあって、彼は翌日から学校に行けなくなった。



















「我々は(魔物どもから)登下校の安全をッ、守っているだけだッ!!」
「「「コマン、ドーッ!!」」」
「いいからまた署まで来なさい」
「あと、真面目に見守り活動してる地域ボランティアさんたちに全力であやまれ」
25/08/02 10:00更新 / MONDO
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■作者メッセージ
 この物語はフィクションです。フィクションったらフィクションです。

 でも、イジメ、ダメ、絶対。

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