連載小説
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【後日談・夏だ! 海だ! 水着でドン!】
 中立国ハイレム──

 風光明媚な港町や海水浴場を有するハイレム湾の、はるか沖合に浮かぶ絶海の孤島。そこに魔導犯罪者収容施設デラ・レヘン監獄があった。
 収容されている受刑者たちは皆、魔力を封じる首輪を嵌められて独房に放り込まれる。最低限の食事、雑な衛生環境、脱獄しようにも周囲は大海原といった状況下で、それ以上何も与えられず、彼らは魂を少しずつ擦り減らし朽ちていく……

 その日、看守(尋問官)のガロア・ノクティスは、独房の鉄扉が並ぶ薄暗い廊下を一人歩いていた。

 歩くリズムに合わせて、手にした警棒を空いた手のひらに何度も打ち付ける。受刑者が少なく静まり返った周囲に、それは足音と合わせて無機質に響く。
 威圧感のある大柄な身体に強面のスカーフェイス。そこに浮かぶ表情は嗜虐と愉悦。受刑者の取り扱い≠ナたびたび問題になっている彼だったが、今回だけは上からも「多少手荒なことをしてもいい。というかさっさと(心を)折ってしまえ」と言われている。

 ──ま、すぐに潰しちまったら楽しめねえけどな……

 口の端をにちゃっと歪めると、ガロアはその担当受刑者が入っている独房の前に立ち、手にした警棒の先で鉄扉に貼られたネームプレートをなぞった。

 Yorugo Haahn

 魔導犯罪者ヨルゴ・ハーン。試験飛行中の大型飛行船に魔力で放火し炎上、墜落させ、多くの命を奪った罪でここに収監されている。もっともガロアにしてみれば、いい歳して思春期のガキみたいな口調で喚く自称勇者のイカれたおっさん以外の認識はない。

「…………」

 覗き窓から中をうかがう。毛布が人の形に盛り上がっているのに気づき、ふて寝してやがるのかと舌を打つ。
 わざとガチャガチャ音を立てて鍵を回し、ガロアは扉を足で乱暴に蹴り開けた。「さ〜あっ、今日も楽しい楽しい『悪者に囚われた勇者』ごっこの始まりだ、ぜ──」

 次の瞬間、中に入った彼の目に飛び込んできたのは、自分の鼻先に突きつけられた長剣の切っ先だった……
 …………………………………………
 ……………………
 …………
 ……



 独房から忽然と消えた、飛行船ハイレンヒメル号炎上墜落事件の実行犯。
 だが、背後関係の洗い出しに躍起になっていたはずのハイレム行政府は、何故かこの一件を闇へと葬った──

   ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

「「「海だぁっ!」」」

 白い砂浜、青い空、寄せては返す波の音。
 ここはハイレム湾の一画にある、イモアラ海水浴場。ステラたちワールスファンデル学院高等部の面々はユーチェン先生の引率で、臨海学習……という名の海遊びに来ていた。

「海! デカイ! 広イ! ナンか匂いスル!」
「うっわ、話に聞いてたけどマジで向こう岸見えないんだ……」

 学院のあるサラサイラ・シティが内陸部に位置することもあって、海を見るのが初めての生徒も多く、彼らはさっそく裸足になり走り出す。

「いいんですか? あの娘(こ)たち」

 きゃあきゃあと声を上げて波打ち際で騒ぐ夏服姿の魔物娘たちを眺めながら、蜂蜜色の髪をポニーテールに束ねてノースリーブのトップスにショートパンツといった格好のステラは、隣に立つユーチェンに声をかけた。
 反魔寄りの中立国であるハイレム。こんな風に魔物娘があからさまに遊びに来て大丈夫なのかと思う。

「無問題♪ ハイレムのお偉いさんには、魔物娘たちがやらかそうとしても、うちの生徒のヴァルキリーが全力で止めてくれるからって言っておいたから」
「うげ……」

 顔をしかめる戦天使の教え子に、白のサマードレスの上にメッシュのカーディガンを羽織り、日傘を差した白澤先生は「冗談よ」と付け加えて微笑んだ。
 まわりに他の海水浴客たちも結構いる。いぶかしげな、あるいは好奇の視線は感じるものの、それ以上かかわってこないのだから、ステラの心配は杞憂であるようだ。

「ステラさん!」

 小柄な少年──ソーヤが笑顔で駆け寄ってきた。彼も波と戯れていたらしく、オーバーオールのズボンの裾を捲り上げて裸足になっている。

「すごく気持ちいいですよ。……ステラさんもっ」
「う、うん」

 手を引かれてステラもサンダルを脱ぎ捨てて、寄せる波に足を入れた。
 ぱしゃぱしゃと小さく足音を立て、砂を踏む感触に目を細める。

「どうです? ステラさん」
「うん、楽しい。……えいっ!」「わっ!?」

 近づいてきたタイミングでステラが海の水を蹴り上げると、ソーヤは驚いてバランスを崩し、尻もちをついた。

「やったな〜。お返しですっ」
「きゃあっ♪」
「あははっ」「もうっ、ソーヤくんったら──」

 笑いながら水しぶきをかけ合うソーヤとステラだったが、「あーバカップルバカップル」といったまわりのナマぬる〜い視線に気づいて動きを止め、二人して身を縮め赤面するのであった……



 何はともあれ、楽しい海水浴である。
 そして海水浴といえば、もちろん水着である。

「どう、かな?」
「…………」

 手を後ろに回して、恥ずかしそうに身をもじもじさせて照れるステラ。ライムグリーンのビキニを身につけたその姿をまじまじと見つめ、ソーヤは目尻を赤らめ唾を飲み込むと、

「あ、え、えと、すっ、すごく、すごく似合って……ますっ、す、ステラさんっ」
「う、うん、あ──ありがと……」

 じっと見つめてあわてて目をそらし──を繰り返す。ステラも頬を赤らめながら、彼の耳元に顔を近づけて甘えるようにささやいた。

「ソーヤくんの〜、す・け・べっ♡」
「ぅわああぁああああ〜っ!!」

 羞恥心が天元突破、顔を真っ赤にしてその場にうずくまってしまうソーヤ。一瞬ではあるが胸元をガン見されたことには気づいていたが、こんな風にからかったりしないとステラ自身が恥ずかしさでどうにかなってしまいそうなのだ。
 ちなみに今着ているビキニは「リメイク」で再構成したものではなく、同級生の女子たちと一緒にちゃんとお店で選んだものである。かつては彼≠セった彼女も、順調?に年頃の女の子へと染まっていっているようだ。



「二人トモ早く来イ。泳ぐゾ」
「あ、うん。……ソーヤくんごめん。ほら立って」
「わっ! ちょ──ちょっとステラさぁあああんっ!?」

 ソーヤをひょいと引っ張り上げてその身体を背中から抱き締めると、ステラは腰の翼を広げて飛び上がった。
 そのまま放物線を描き、翼を畳んでお尻から海の中へとダイブする。

「うわわわわっ!」「きゃーっ♪」

 どっぱぁあああああん──!!

 上がった水柱に見ていたクラスメイトたちが「おお〜」と口々につぶやく中、対抗心を燃やす者が一人。

「ヨシ、ノザたちモ行クゾ!」
「へ? あ? ちょ、ちょっ待てあたしを巻きこみぎゃああああああぁ〜っ!!」

 青と白のスポーティなワンピースタイプの水着を着た小柄なラタトスク娘メリアの身体を横抱きに抱えて、ジャングル迷彩っぽい模様のセパレート水着を身につけたアマゾネスのノザが全力ダッシュ。砂浜を蹴ってホップステップ三段跳びで大きくジャンプし、ステラたちと同じように海の中へ飛び込んだ。

「──っぷはぁっ! もうっ! いきなり何すんのってうおおお足届かねぇえええっ!!」

 浮かび上がってあっぷあっぷしながら必死に立ち泳ぎするメリアの姿に、ステラとソーヤは顔を見合わせてふふっと笑い合った。



 泳いではしゃいで砂浜を駆け回って、楽しい時間が過ぎていく……

「カキ氷のシロップはイチゴ味! これだけは絶対譲れな〜い!」
「え〜子どもっぽ〜い。イマドキのマモギャルのテッパンったらブルーハワイっしょ〜!」

 休憩所の売店でカキ氷を一気喰いして、キーンと痛くなった自分の頭をブヒブヒ言いながら同じタイミングで叩くタンキニ姿の双子オーク娘ペトラ&パメラ。なお、シロップの色が違うだけで味は全く一緒なことに、二人とも気づいていない。

「中立国だから魔物に友好的な人間もいるぜ〜」
「というわけでそこのケンタウロスちゃんと黒エルフちゃ〜ん、オレらと遊ばない?」
「お断りですわ。わたしたち、もう心に決めた殿方がいますもの。チャラそうに見えて童貞さんなのは悪くないと思いますが」
「その子を連れてこれなかった憂さ晴らしのハードプレイに付き合ってくれるってんなら、遊んであげてもいいわよぉ」
「どどど童貞ちゃうわっ!(超狼狽)」「そ、そういう特殊なのは、ち、ちょっと……」

 彼氏持ちの魔物娘とは知らずにナンパしてくる地元民男子を、トロピカル柄ビキニにロングパレオを纏うユニコーン娘フィーネと褐色肌に白ビキニを着こなすダークエルフ娘ベネッタが、しっしとばかりに手(鞭)を振って追い返している。

「ステラさんっ、はいっ!」
「ソーヤくんナイス! おりゃあああっ!」
「メリアいっタゾ! 打チ返セッ!」
「ちょ、まっ、……あーもう限界っ! お、お願い休ませて〜っ」

 そしてステラ、ソーヤ、ノザ、メリアの四人は砂浜でビーチバレーに興じていた。脳筋女子二人に付き合って、ソーヤはともかくメリアはいささか疲労困憊気味。

「仕方ナイ……ステラ、ソーヤ、何か飲ムカ? 買っテくるゾ」
「あ、ありがとう。じゃあレモネードで」
「僕もそれでお願いします、ノザさん」
「ワカッタ。行くゾ、メリア」
「う〜ぃ」

 ノザは砂浜にへたり込んでいたラタトスク娘を促し、連れだって売店へと歩いていく。二人の背中を見送るステラは、隣に立つソーヤがあらぬ方を向いてぼーっとしているのに気づいた。

「どうしたの? ソーヤくん」
「あ、えっと、その……」

 一瞬言い淀み、ソーヤは「ホシト先輩、今ごろどうしてるかなって」と付け加えた。

「あ……」

 ステラの元の姿であるハイレム出身の男子生徒ホシト・ミツルギは、表向きは飛行船炎上墜落事件の関係で呼び戻されて学園を去った──ということになっている。

「…………」

 ソーヤとしては同じハイレムの地にいることもあって、ふと思い出したという感じだったのだが、当のステラはそんな彼に、なんて声をかけていいのか戸惑ってしまう。

「いい機会だし、ホシトくんの姿になって会ってあげたら?」
「え〜っ」

 いつの間にかそばにいた白澤先生──こぼれそうな胸をターコイズブルーのビスチェ風トップスに包んで白のボトムはハイレグ気味、というなかなか攻めたデザインの水着姿──に小声で耳打ちされ、ヴァルキリーの少女はまた嫌そうに顔をしかめた。

「でもホシトくんとして、ちゃんとお別れ≠ナきてないんでしょ?」
「それは……そう、だけど──」

 ソーヤに聞こえないように声を顰めるユーチェンに、戦天使の少女は握った右手を口に当てて、戸惑ったように小声で返した。
 女子生徒として学院に再転入してからは、一度も男の──ホシトの姿には戻っていない。身も心もすっかり女の子になってしまっている今のステラとしては、それは逆に抵抗感をおぼえてしまう提案だった。

  ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 砂浜に仰向けで埋められていたソーヤは、汗で身体中についた砂つぶを落とすために、休憩所の横に設置されたシャワーブースに入った。
 砂の中は最初のうちはポカポカして気持ちよかったけど、さすがに暑くなってきた。それに──

「いくら楽しいからって、ステラさんもノザさんもふざけ過ぎだよ……」

 お約束だからと二人に胸のあたりに砂でおっぱい盛られて「や〜ん似合う〜♪」なんてからかわれるのは……やっぱりちょっと恥ずかしい。
 ぶつぶつつぶやきながら、シャワーのコックをひねる。
 小柄で華奢で童顔(女顔)な自分の見た目。ステラたちにはそんなつもりないのだろうけど、ときどき男扱いされてないんじゃないかと思うこともある。
 そんなネガティブな気持ちを振り払おうと、髪の毛をわしゃわしゃと乱暴な手つきで洗っていると、

「ソーヤくん、入ってる?」

 扉の外からステラの声がした。

「あ、は──はい」
「そう。……じゃあ、わたしも」
「……えっ!?」

 耳元で囁かれたと同時に、ソーヤの背中に弾力のある二つの膨らみが押し付けられた。

「すっ、ステラさんっ!? どうやって!?」
「ふふっ、ナ・イ・ショ♪」

 ユーチェン先生の口調を真似て、あわてて振り向くソーヤにウインクするステラ。なんのことはない、ここへ来るときに乗ってきた船の切符(硬券)を扉の隙間に差し込んで、かんぬきを跳ね上げただけである。

「す、ステラさ──むぐぐっ!」

 なおも何か言おうとするその口を、ステラは強引なキスで黙らせた。びっくりしてもがくソーヤだったが、すぐに肩の力を抜いてされるがままになる。

「ん……、んん……っ」「……んっ」

 息を忘れたかのように互いの唇をむさぼり合い、やがてどちらともなく離れる。
 唐突な口づけに惚けて心ここにあらずなソーヤだったが、瞳を潤ませたステラに「ソーヤくん、しよ」と小声で言われて、はっと我に返った。

「ち、ちょっとステラさんっ、まずいよ、こんなとこで……っ」

 同じように小声でたしなめるが、ステラはシャワーの水に濡れながら、頬を赤く染めてにじり寄ってくる。

「大丈夫。この前おぼえたヒト払いと防音の結界張ったから」
「いや、そういうことじゃ、なく、て──」

 ソーヤは反射的に後ずさり、壁に追い詰められ背中をぶつけた。

「んふぅ……っ」「ん、んんっ……」

 もう一度キス。今度はそれを受け入れて、腹をくくる……というか股間は既に臨戦態勢。とろけるような彼女の唇の感触に、恥じらいやらためらいやらもどこかへ飛んでいってしまう。
 そっと唇を離し、しばらく互いを見つめ合う。

「……きゃっ! ソ、ソーヤく──んんっ!?」

 我慢できなくなったソーヤが、ステラの身体をぎゅっと抱き寄せる。

「ステラさん、僕も……したい……」
「……!」

 耳元で囁かれ、ステラの身体が歓喜に震える。
 下着とは違う濡れた水着の触感に戸惑いながら、ソーヤは彼女の背中からお尻へと両手を這わせた。

「ん……はあっ……、やんっ!」

 水着越しにお尻を撫でられ、びくっと背筋を反らせるステラ。ソーヤは三たび唇を重ねた。

「んっ、んっ……んんん──っ!」

 そのまま彼女のヒップの弾力を、楽しむように撫で回す。そして幾度となく言い続けてきた言葉を、目を合わせてまた伝える。

「ステラさん、好き、です」
「ソーヤ、くん……」

 潤んだ視線を想い人に向ける戦天使。囁くようなその呼びかけには、切ない欲情の吐息が籠っていた。
 ビキニボトムの内側で、シャワーの水とは違う湿り気がまとわりつく。くたりと力を抜いて身体を預けてくるステラを、ソーヤは抱きとめるように支えた。
 緩急をつけて彼女のお尻を撫で回したあと、太腿側から水着の内側に右手を差しこんで、直接肌に触れる。

「んぁ……だ、だめ……っ、ソーヤ、く、ん……」

 自分から誘っておきながら恥ずかしがるステラを無視して、ソーヤは彼女のへそ下の奥に手を這わせ、隠された襞の部分を指で軽くなぞった。

「い、いやっ、い、いきなり、そんなとこ……」
「で、でもステラさんのここ……あ、熱くなって、きてる……」
「そ、それは──」

 腕の中で切なげに悶える戦天使の少女に、少年はさらに興奮をおぼえた。

「え、エッチなステラさんも、か、可愛い、です……」
「……!」

 きれいです、可愛いです、好きです、愛してます──そんな言葉を投げかけられるだけで胸が熱くなり、鼓動が速くなる。
 紅潮した頬をさらに赤らめるステラ。ソーヤは少し身体を離して、今度はその豊かな胸に手を伸ばした。

「ま……待って。せ、せめて水着、脱いで──」
「で、でも……もうステラさんの、乳首、勃ってきてる」
「え? ふあっ!? ……あ、やあぁんっ!!」

 勃起した乳首を指と指で挟み込まれ、ステラは嬌声を上げた。その甘い声に、理性のブレーキがきかなくなる。
 ソーヤはステラの豊かな胸を覆うトップスをずり上げた。

「ひゃんっ! そ、そんな、もう……」

 左手で胸への愛撫を続けながら、右手は再び彼女の陰部へと伸ばされる。恥毛はすっかり濡れそぼっていて、そこに触れた指が愛液まみれになった。

 ぐちゅ……、ぬちゅ…………

「すっ、ステラさん……む、胸だけで、いつも、ぐっしょりに、なる、ね……」
「あ……い、言わないで……」

 羞恥の声とは裏腹に、さらに蜜があふれ出す。
 ソーヤはステラの背中をシャワー室の壁にぐっと押し当てながら、右手で秘所を弄り続けた。
 シャワーの水音に混じって、くちゅくちゅと粘り気のある液体をかき混ぜているかのような音が響く。

「んっ、やあぁん……っ! あ、そんなっ、もうっ……」
「すっ、ステラさん…………い、いきます……っ」

 たどたどしくそう呼びかけながら、ソーヤは片手でステラの履いているボトムをずり下ろすと、

「や、やぁっ……も、もうちょっと、やさし── ……!!」

 皆まで言わさず、解放した自らのイチモツを濡れそぼる彼女の陰裂へと当てがった。

「んんっ……あ、あっ、あ……んあああああ──っ!!」

 ずぶ……っ、ずずずず……っ──

 切なげな喘ぎ声に応えるように、それは愛液に満たされた蜜壷を貫き、膣内へと呑み込まれていく。

「あ、あっ、あああああぁん……っ!!」

 深く押し込まれた肉棒が引き抜かれる直前まで戻され、再びそれ以上の速さと力強さで突き入れられて、ステラは背中を仰け反らせた。

「あ、あんまり大きな声……上げたら、け、結界、破れ、ちゃいます……よ」
「で、でも、だって、こんな……んんぁあっ!! ああぁぁんっ……!!」

 荒い息をつき、耳もとで囁いてくるソーヤ。だけどステラの陰部はいつもより激しく蠕動し、自身もいつも以上に快感をおぼえていた。

「す、ステラさんっ、激、し──」

 膣とイチモツが擦れ合う度、身体の中にとろけるような気持ちよさが広がってくる。頭の奥までその快感が染み込んでくる。口からは甘い吐息が漏れ続ける……

「ソーヤくん、お、お願いっ、このまま、このままもっと…………んあああぁぁぁぁん──っ!!」
「ステラさんっ、……ステラさああああぁんっ!」

 シャワーの水を浴びながら何度も腰を打ちつけてくる少年に、彼女の方も動きを合わせはじめる。
 いつしか二人は感情のおもむくまま、ただただ快楽をむさぼるだけの存在と化してしまう。

「す、ステラさん、で──出る……っ!」
「んあっ、い、いいよぉ……な、中に、い、いっぱい、出し、て……」

 わたしが女の子だってこと、わからせ、て──

 ソーヤのイチモツの先がかすかに震え、間髪入れずに大量の白濁が鉄砲水のようにステラの子宮へと注ぎ込まれた。

「ああっ、い──い、くっ、……い、いっちゃうぅっ!!」

 甲高い嬌声を上げて、彼女は絶頂に達した。ソーヤにしがみついていた身体から力が抜け、くたりと床に崩れ落ちて背中から壁にもたれかかる。

「す、ステ、ラ、さ、ん……」

 同時にソーヤのイチモツが膣からズルリと抜け、彼もそのままステラに覆いかぶさるように果てた。

「ソーヤくん、大好き……愛してる……」

 甘えた声で囁くと、戦天使の少女は目を閉じて想い人の身体をぎゅっと抱きしめた……
 …………………………………………
 ……………………
 …………
 ……

「……あ、あれ?」

 気がつくと、ステラの姿がなかった。
 ソーヤはゆっくり立ち上がり、ぼんやりしたまま未だ出しっぱなしになっていたシャワーを止めた。

 夢……? いや、そんなはずは──

 シャワーの水で洗い流されていたが、彼女と交わった感覚は確かにあった。首を振りながら外に出て、日差しに目を細める。

 かすかに砂を踏む音がして、ソーヤは背後にヒトの気配を感じた。

「ソーヤく、じゃなかった、……よ、よう、ソーヤ」

 名前を呼ばれて振り返ると、そこに懐かしい顔が微笑んでいた。

「ホシト、先輩──」

  ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 ──うううっ、胸が寂しい。お、おへその下も、なんかもぞもぞして、き、気持ち悪い……

 脚を揃えて座ろうとして、太ももの間に異物感をおぼえ戸惑う。
 ついひと月ほど前までは当たり前に生えてたのに……と思いつつ、ホシトの姿になったステラは引きつりそうになった口元に無理矢理笑みを浮かべて、ソーヤの顔を見つめた。

「…………」

 もちろんさっきまで着けていたビキニではなく、着せ替え魔法「リメイク」で再構成した男物のバミューダパンツを履いている。上半身、特に胸元を晒していることに恥ずかしさをおぼえてパーカーを羽織り、前をしっかり閉めていた。
 本来の身体のはずなのに、感じているのは平坦になった胸とへそ下に生えたナニへの違和感。……そう、今のステラにとってホシト≠ナいることは、「元の姿に戻る」というより「男(異性)に変身している」という感覚なのだ。
 さっきシャワーブースの中でいきなりソーヤと交わったのは、万がいちホシトになったことで思考や感覚が男の子のそれに戻ってしまわないように、自分が彼と愛し合えるヴァルキリーの少女であることを自身に再認識させるためでもあったのだ。

「あ、えっと、その……ひ、久しぶり」

 ヒト気のない休憩所のテーブルで向かい合う二人。バレちゃったらどうしようといったある種の倒錯感めいた気持ちを抱え、低くなった男の声で問いかける。

「ホシト先輩、どうしてここに?」
「えーと、その、ソーヤくん……そ、ソーヤたちがハイレムに来るって、ゆ、ユーチェン先生に連絡もらったから、その──」
「それで会いに来てくれたんですね。嬉しいですっ」
「う、うん……あ、ああ、えっと、げ、元気してた? ……してたか?」

 再会を喜ぶ彼に、ホシト(ステラ)は女の子っぽい口調にならないよう、言葉を選びながら話し続けた。

「はいっ。……ホシト先輩は?」
「ま──まあいそがしい、かな? ……っ!!」

 人差し指を口元に当てて小首を傾げてしまい、顔を赤らめ、あわてて誤魔化すように両手をバタバタさせる。
 ソーヤはそんなホシト(ステラ)に一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、真顔になって問い返した。

「ホシト先輩はもう、学園に戻ってこれないんですか?」
「うん。……あ、いやその、えっと、ああ、じ、ジパングフェスタの前にあった勇者騒動で、飛行船の事故が『事件』ってことになっちゃって、それがちゃんと解決するまで関係者としてハイレムを離れられなくなったの……なったんだ」

 白澤先生──ユーチェンが作ってくれたカバーストーリーをなぞって、そう答える。
 飛行船ハイレンヒメル号爆発墜落事件は、当初は飛行船の設計ミスや乗組員の過失が原因と考えられていたが、のちに隣国ソラリアに駐屯する主神教団軍の勇者≠自称する発火能力者による放火と判明した。現在はその背後関係──ハイレムの航空産業独占を嫌った周辺国の関与の解明が進められており、実を言うとホシトたち遺族の出る幕はほとんどない。

「やっぱり、そうなんですね……」
「…………」

 ──ど、どうしよう? ホシト≠ニしてこのままお別れを言って、フェードアウトするつもりだったんだけど……

 残念そうにつぶやいて落ち込む彼にどう切り出していいか迷って、ホシト(ステラ)は黙り込む。
 しばし無言が続き、やがて顔を下に向けたまま、ソーヤがおずおずと切り出した。

「やっぱり僕、ホシト先輩がいないと、ダメ、なのかな……」
「え?」

 いきなり落ち込むソーヤに、戸惑うホシト(ステラ)。
 うつむくその頭を胸にかき抱いてなでなでしてあげたい気持ちになるが、男の姿でそれをやったらまずいだろうと、伸ばしかけた手を握りしめ引っ込める。

「ステラさんは優しいし、僕にはもったいないくらい素敵な人です。……でも、ときどき僕のこと男扱いしてないんじゃないかって」
「そっ、そんなことないわよ……ないと思う、ぞ」

 あわてて否定しようとしたホシト(ステラ)だったが、思い当たるふしがちらほらあって、言葉を詰まらせてしまう。

 腕を組むときに、わざと胸を押し当ててからかったり──

 ノザやメリアと一緒に女顔をいじったり──

 初等部の制服を無理矢理着せてお姉ちゃんプレイしてみたり──

 エッチしたあと抱き枕がわりにして、羽交い締めのまま爆睡したり──

「…………」

 思えばろくなことしてなかった気がする……

 だ、だってソーヤくん、可愛いんだもんっ。それに──

 さっきもそうだったが、エッチの時の主導権はなんだかんだでソーヤがとっている……男扱いしてないなんて、とんでもないっ。
 ホシト(ステラ)は胸中でいろいろ言い訳をして、口を尖らせ肩をすぼめてもじもじする。もっとも男の姿でそれをやると、似合わなさを通り越していささか気味が悪いのだが(笑)。

 ──あ、やばい、かも……

 太ももを擦り合わせていたら、その動きに合わせて間に挟まっているイチモツが、身体に引き込まれるように小さくなっていく。

 やだっ、ステラに……元に戻っちゃうっ──

「あ、えっと、そ、その……も、もっと自分に自信もってっ。あ、あのときわたし、っ、じゃなくて、す──ステラ、さんを救ったのは、ソーヤく、ソーヤなん、だから……っ」

 しどろもどろにそう言い直し、ホシト(ステラ)は大きく息を吸って吐いてを繰り返して気持ちを落ち着けると、身を乗り出して彼の両肩に手を置いた。

「え、えっと、そっ、ソーヤがステラさんにふさわしいってことは、この俺が保証する」

 それだけは淀みなく、ホシト≠ニして言葉にすることができた。

「ホシト、先輩……」

 顔を上げたソーヤの視界の中で、ホシトの笑顔が涙で滲んだようにぼやけていく。

 ソーヤ、おまえはもうホシト先輩≠ェ隣にいなくても、大丈夫だよ──

 だから──

 …………………………………………
 ……………………
 …………
 ……

「…………あ? あ、れ?」
「起きた?」

 目を開けると、ビキニ姿のステラが顔を覗き込んでいた。
 蜂蜜色の長い髪、蒼い瞳、桜色した唇に浮かぶ微笑み。
 ソーヤは彼女に膝枕されていることに気づいて、あわてて身を起こそうとしたが、

「大丈夫? もう少しじっとしてて」

 手のひらで、優しくそっと押しとどめられる。
 少年は抵抗することもなく、ステラの柔らかな太ももに後頭部を預けた。

 ──やっぱり全部、夢? いや、でも、そんなことは……

 しばし無言の時が流れる……細い指でソーヤの髪を優しく梳きながら、ステラがぽつりとつぶやいた。

「……ごめんね。いつもソーヤくんに好き勝手言って」
「そ、そんなこと──」

 夢うつつのままに応えて、ソーヤはさびしげな笑みを浮かべた。「あ、あのっ、す、ステラさんは、ど──どこにも行かない……ですよね?」

「…………」

 一瞬、手の動きが止まる。
 だけどステラは彼の瞳をじっと見つめて、しっかりとうなずいた。

「うん。ずっと……ずっと一緒にいるよ」
「よかった……」

 だから、これからもよろしくね──

 ゆっくりと腕を伸ばすソーヤ。ステラはその手をとって、そっと指を絡めた。



「全く、あの子たちったら……」

 物影からそんな二人の様子を見ていたユーチェンは、豊かな胸の下で腕を組んで息を吐いた。
 ステラの神力(魔力)の発動と乱れを感じ取って「ヤってるわね」と推察。他の生徒たちに変な影響が出ないように、教え子が張った結界を補強しながら見守っていただけで、決してデバガメしていたわけじゃないのだが、

 ──まさかアレ本気にして、ホシトくんの姿に戻っちゃうなんて思ってもなかったわ……

 でもまあ、二人ともわだかまってたものが少し解消できたみたいね──と、胸中でつぶやく。
 ステラは自分が元男子のホシトであることを、内緒にしている後ろめたさが。
 ソーヤは自分が本当にステラにふさわしいのかという、ある種のコンプレックスが。
 もちろんそれらは、一朝一夕で解決できるものではない。それでも二人は悩みながら迷いながら互いを想い合っていくのだろう。
 そしてユーチェンは、ヒト払いの結界を解こうと右手を自分の胸元へ持っていきかけ──

「……!?」

 次の瞬間、別の気配を感じて閉じていた目を見開いた。

  ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 ステラとソーヤは休憩所から外に出ると、午後の日差しが照りつける砂浜を何処行く当てもなく歩きだした。

「ソーヤくんは卒業したら、お父さんのお店を継ぐの?」
「うーん、そう思ってた頃もあったんですけど……今はカメラを使う仕事につきたいなって」
「それ、いいと思う。ソーヤくん、いつもわたしをきれいに撮ってくれるし」
「あ、あれは、その……す、ステラさんが、モデルになってくれてるから──」

 いたずらっぽい表情を浮かべてからかうビキニ姿の戦天使に、少年は顔を赤らめてそう応えた。

「じゃあ、わたしはこのままソーヤくんの専属モデルになろうかなっ♪」
「ええっ!? さっ、さっきはステラさん、将来うちの学院の先生になりたいって──」
「ふふっ、冗談よ、冗談。……でも、そういうのもありかなって」
「…………」

 ウインクするステラの顔に見惚れるソーヤだったが、はっと何かに気づいて左右をうかがった。

「ど、どうしたの? ソーヤくん」
「おかしい……誰もいない」
「え?」

 ステラもあわてて周囲を見回した。
 どこまでも続く砂浜にも、寄せて返す波打ち際にも、確かに誰一人として見つからない。

「ステラさん、ヒト払いの結界がまだ効いてるんじゃ?」
「そんなのとっくに解除して──」

 おしゃべりしながら歩いていたから、気がつかないうちに皆と離れて遠くまで来てしまったとか? いや、それでも人っ子ひとりいないなんて、いくらなんでもおかし過ぎる。

「そ、ソーヤくん……」「ステラさん……」

 波の音だげが耳に届く。二人は繋いだ手をぎゅっと握りしめ、さっき以上に身を寄せ合う。
 まるで自分たちだけがその場に取り残されたような気がして、心細くなっていく……

 どさっ──

 背後で何かが倒れる気配がして、二人は反射的に振り向いた。

「「……!」」

 ぼろぼろになったオレンジ色の囚人服を着た男が一人、うつ伏せになって顔を砂の中に突っ込んでいた。突然湧いてでたように現れたそれに、ステラは「きゃっ!」と短く悲鳴を上げて身をすくめ、ソーヤが彼女をかばうようにその前で両手を広げて仁王立ちになった。

「ううう……」

 呻き声とともに手をついて、その男がよろよろと緩慢な動きで身を起こす。
 節くれだった腕と脚。服の上からもわかる痩せ細った身体つき。これ見よがしにつけられている魔力封じの首輪。
 どす黒いクマに覆われた両目がせわしなく左右をうかがい、ステラたちに気づいて大きく見開かれる。

「あ……」
「お前はっ!?」

 ぼさぼさの髪とこけた頬、カビが生えたような無精髭。しかし戦天使の少女はその顔を見た瞬間、ソーヤを押し退けて右手にツヴァイヘンダー(両手持ち剣)を現出させた。

「なんでっ! ここにっ!?」「ステラさんっ!!」

 怒りの形相を浮かべ、大剣を男に向かって振り上げようとする。ソーヤはその手首をつかんで彼女を止め、男──収監先から忽然と姿を消したはずの中年自称勇者ヨルゴ・ハーンは「ひぃいいいっ!」と尻餅をつき、もがくような動きで後ずさった。

「ステラさん……」
「…………」

 かつてのイキリ散らした厚顔無恥な言動とは真逆の、全てに怯え切ったその目を無言で睨みつけていたステラだったが、やがて剣を持つ手を力なく下ろした。

「わかってる。こんなヤツ斬ってもなんにもならないって──」

 腰を抜かし顔を引きつらせたままこちらを見つめ返して大袈裟に肩を上下させ、へっ、へっ、へっ、へっ……と過呼吸みたいな息を続けるヨルゴの姿に、自嘲と呆れが混ざったような表情を浮かべる。
 そんなステラの耳に、また別の人物の声が飛び込んできた。

「全く、少し目を離すとふらふらしおって!」
「う……うわうわうわうわうわぁああああああ〜っ!!」

 声がしたと同時に、囚人服姿の中年男はさっき以上の音量で奇声を上げ、どこにそんな力が残ってたんだという動きで仰向けからうつ伏せに身を返すと、G型不快害虫のように手足を蠢かせ四つ這いのままその場から逃げようとする……

 ……が、魔力封じの首輪を後ろからつかまれて、あっさり地面から引き剥がされる。

「はっはっはにゃせえええっ! ゆっ勇者のぼくがなんであんなことしなきゃならにゃいんだああああっ!!」
「黙れ」
「…………」

 首輪に手をやり足をバタバタさせ、呂律の回らない舌で喚きだすヨルゴだったが、有無を言わさぬ口調で圧をかけられて喉を詰めたように口を閉ざす。どうやら言葉そのものにも何かしらの魔力──呪力が込められているようだ。
 そしてその声の主は、ステラたちに向き直った。

「自己紹介しよう! 私はクラナ! 君と同じヴァルキリーだっ!」
「「…………」」

 いや、頭にダがつく方のでしょ……ステラとソーヤは、同時にそう胸中でツッコんだ。
 青みがかったグレーの肌、ショートボブに切り揃えられた銀髪、赤紫色の瞳、腰から生えた黒い翼。両腕に黒鉄色のごついガントレット──籠手をはめ、細身の長太刀を腰に佩(はい)ている。

 ダークヴァルキリー。パートナーへの愛と執着の深さゆえに闇へと堕ちた戦天使。

 もっとも頭に麦わら帽子をかぶり、足元はビーチサンダル、身に着けているのが濃紺のスクール水着なので、そこはかとなく残念臭(笑)が漂っているのだが。
 そんな彼女──クラナはステラたちの視線に応えるかのように空いた手を腰に当て、ジパングの表音文字で「くらな」と書かれた長方形の白布が貼り付けられた胸を張った。ちなみにこのいでたち、彼女曰く「場所に合わせた!」ものなのだとか。

「君たちは私が何故この男と行動をともにしているのか、疑問に思っているようだなっ!」
「あ、いや」「えっと……」
「よしわかった! 少し長くなるが説明しよう!」
「「…………」」

 疑問より先にいろいろ唐突過ぎて戸惑ってるんですけど……といったステラたちの視線をガン無視し、闇の戦天使は語りだした。

「私も他の戦天使同様、勇者を導きともに戦うべくこの地に降り立った! そして素質をもつ少年たちを集めて訓練を開始した! 彼らはみな優秀だったが女性の姿をした魔物に籠絡される事態を想定して、私は彼らの精神面を徹底的に鍛えることにしたのだ!」

「あ〜、このヒトもなんか脳筋な感じがする──」
「も=H」
「あ、いやその……な、なんでもない、です」

 ぽろっと本音?を漏らすソーヤに、ジト目を向けるステラ。
 ひそひそ言い合う二人に構わず、クラナはなおも語り続ける。言葉を封じられたヨルゴは隙を見て這って逃げようとしたが、彼女のおみ足に背中を踏んづけられ砂浜に押し付けられていた。

「通常の戦士や騎士では五分ともたない過酷な特訓だったが、勇者候補生たちはそれに歯を食いしばって耐えていた! だがその中の一人がサキュバスに堕ちた幼馴染に拉致されてから、全ての歯車が狂ってしまったのだっ!」

 拳を握りしめて恨めしげに言う。その後、候補生たちは櫛の歯が抜けていくように、次々と脱落していったと。

 ある者は魔女っ子に「お兄ちゃん♪」と呼ばれて即オチし──

 またある者はショゴス娘とキキーモラ娘のツープラトンご奉仕で骨抜きにされ──

 さらにある者はアルプ化して別の候補生と駆け落ちしてしまい──

「……最後に残った子は私の姿を映しとったドッペルゲンガーに優しくされて『こっちの師匠が好きです』と言い残してどこかに行ってしまったのだあああああっ!」
「「…………」」

 おそらくその時にドッペルゲンガーと同期してしまい、魔物娘の魔力が逆流してダークヴァルキリー化してしまったのだろう。スクール水着姿のクラナは目の幅涙を流し、地団駄を踏んで悔しがる。
 そしてそのストンピングを背中に受け続けたヨルゴは、「ひでぶっ!」「あわびゅっ!」と経絡秘孔を突かれたザコモヒカンみたいな奇声を上げていた。

「どんだけ男運、いや勇者運がないんですかこのヒト」
「ていうか、精神面全然鍛えられてないじゃない……どんな訓練したのよ?」
「例えば! 『二十四時間夕日に向かってダッシュだ』とかだ!」
「地球一周させる気かあんた」

 ステラは呆れたような口調でツッコミ入れる。だが、彼女の話はここからが本題だった。

「そこで私は逆転の発想で考えた! マイナスに振り切った勇者なら、魔物の女にちょっかいかけられずに訓練を完遂できると!」
「いやそれのどこが逆転の発想──」
「特殊能力に全振りして浅い知識でマウント取って努力はしたくないけどみんなにちやほやされたいという願望が透けて見えるくせにやれやれオレは別にこんなことは望んでいないんだけどなでも実はすごい力を隠しているんだとイキってるクズな勇者を探すために、私は長い旅に出た!」
「何に喧嘩売ってるんだあんた……」

 闇の戦天使はそこで言葉を切り、何故かドヤ顔を浮かべた。「……まあ、割と近場ですぐに見つかったんだがな!」

「「…………」」

 そしてズッコケ(死語?)そうになったステラたちに向かって、足元で蠢いていた中年男の首根っこ──魔力封じの首輪をつかんで持ち上げる。

「というわけで! 今はこの箸にも棒にもかからない脳味噌絶賛思春期自己中自己愛アラフィフダメダメ勇者、ヨルゴ・ハーンの贖罪の旅に付き添って──」
「しょ、しょんなコトたのんでないぞっ! そもそも勇者のぼくがしょくざいするひつようなどごぶぅっ!!」
「だ・ま・れ」


 再び喚きだしたヨルゴの後頭部をつかんで力いっぱい砂浜に叩きつけると、クラナは彼の顔を砂の中にぐりぐり押し込み、物理≠ナ言葉を封じた。

「貴様が飛行船事件の遺族に心の底から懺悔して自分のやったことに真摯に向き合うことができるまでっ、謝罪巡りを八周でも十周でもエンドレスで続けてやる! 遺族たちに半殺しにされようが全殺しにされようがっ、死ぬ直前でパンデモニウムに放り込んで何度でも復活させてやる! 夢を追う者たちの命を奪った貴様が楽になれると思うな! わかったら私のそばを離れるな!」
「もごっ! もががっ! むごごおおぉ〜っ!」
「「…………」」

 頭を押さえつけられて、じたばたともがく中年男。そのみっともない姿を見るとはなしに見つめ、あ〜いくら大雑把な堕落神さまも、自分の領域をセーブポイントがわりにされたら迷惑だろうなぁ……と思うステラ。
 そこでクラナが顔を上げ、目を合わせてきた。

「君もこの男と因縁があるのだな! 剣を使うのは推奨しないが、足腰が立たなくなるまでボコってもかまわないぞ!」
「ステラさ──」「いえ、遠慮します」

 心配して呼びかけてきたソーヤの言葉をさえぎり、ステラは自分でも自覚できるほど抑揚のない口調で答えた。

「そう、か」

 闇の戦天使はこれまでと違って静かにつぶやくと、砂に埋もれたヨルゴを引っ張り上げて腰の黒翼を大きく開いた。

「ならばここに用はない! さらばだ!」

 力強くそう言って、彼女はドンッと音を響かせて空へと舞い上がり、「ぅわああああぁんんっ! 高いよ速いよこわいよおおおおぉ〜っ!!」とドップラー効果を伴って泣き喚く箸にも棒にも(中略)勇者とともにステラたちの頭上を飛び去っていった。

 また会おう、少年の心を持つヴァルキリーよ!

 ステラの耳にだけ聞こえた声を残して。

「な……なんだったんでしょうか? あれ」
「さ、さあ」

 ダークヴァルキリークラナは、どうやら全てお見通しだったようだ。ステラ──ホシトが飛行船炎上墜落事件の生き残りであることを知っていて、わざとヨルゴを接触させたのかもしれない。
 海水浴場のざわめきが、いつの間にか戻っていた。二人が首を巡らすと、向こうでノザとメリア、ユーチェン先生の三人が手を振っているのが見えた。

「ステラ、ソーヤ、何してル! 宿に戻ルゾ!」
「どうせ二人でどっかに隠れてイチャついてたんでしょ!? あとでしっかり話聞かせてもらうわよっ!」

「「…………」」

 いつもと変わらない友人たちに、ステラとソーヤは顔を見合わせて笑みを浮かべた。

「行こう、ソーヤくん」
「はいっ、ステラさん!」

 差し出された手を、互いに握り合う。
 二人はしっかりと手を繋ぎ、砂浜の上を走り出した。

  ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 ボロボロの囚人服を着た男を引き連れた黒衣の女戦士が、飛行船ハイレンヒメル号炎上墜落事件の犠牲者の遺族たちを訪ねて回っていた──という話を捜査関係者たちが耳にした頃と前後して、事件の背後関係を書き記したレポートが彼らの元に忽然と届けられた。
 ハイレム行政府はすかさずその文書を回収、閲覧した者全てに緘口令を敷いたためその内容は定かではないが、以後しばらく外務官たちが周辺国に対して強気に出ていたことから、おそらくそれが裏付けされ、各国の後ろめたい事実が判明したのだろうと言われている。



 ……なお事件の実行犯である自称勇者ヨルゴ・ハーンの消息は、杳として知れない。
23/12/20 21:32更新 / MONDO
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■作者メッセージ
Q:「ビキニ」「ブルーハワイ」とかいった、こちらの世界の地名由来の単語が異世界にあるのっておかしくね?

A1:異世界の言葉を翻訳≠オたらこうなった。
A2:パラレルワールド的に同じ地名や似たような出来事があった。
A3:M78光の国でも「トリセツ」なんて略語使ってるからセーフセーフw


 MONDOです。「紅衣の戦天使ヴァルキリーステラのひ・み・つ」後日談、いかがでしたでしょうか?

ナギ「ま〜た季節感ガン無視の話、投稿してからに(ヒトツ目ぎょろり)」

 ううう面目ない。今回もお前らの話と並行して書いてたから夏に間に合わなかったんだ。

ナギ「じゃあ、アタシとユキノばーちゃんが彼方の作ったパスタ食ってる裏でTSヴァルキリーが海でカレシとイチャコラしてたってことか? うらやま許せんっ!」

 落ち着けや。そのうち「モノアイ」でもHシーンちゃんと書いてやるから。

ナギ「絶対書けよ。まあそれはともかく、またなんで完結した話の続き書こうなんて思ったんだ?」

 いろいろ思うところがあってさ……ステラたちのその後も書きたかったし。

ナギ「あの思春期中年勇者も、一応の決着をみたようだしな」

 ギャグで流したつもりなんだけど、「ヒトの命を奪った奴に魔物娘の赦し≠ェあっていいのか」ってのが頭から離れなくてさ。

ナギ「で、悩んだ挙げ句に出てきたのが、ハイテンションなダークヴァルキリーってわけか」

 一見何も考えてなさそうで、実は思慮深そうに見えてやっぱなんも考えてないって感じのどっちとも取れるキャラにしてみたつもり。

ナギ「見た目は某目隠しした黒衣のガイノイドで、喋り方は某炎柱さんを目指したんだよな♪(きしし)」

 いらんこと言わんでよろしい(汗)。

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