序章 邂逅
「第一特殊建機小隊、前へ!」
小隊長の号令とともに、瓦礫を除去していたダンプを先頭にして複数のコンクリートポンプ車とタンクローリーが瓦礫の除去された道路に展開していく。
これからポンプ車を使って血液凝固剤をゴジラの口に流し込む。
ヤシオリ作戦の核となる作戦最終段階だ。
何としても成功させなくてはいけない。
俺は号令を聞き、そんな取り留めのない思考を引き締めた。
タンクローリーを所定の位置に止め、早急にポンプ車とタンクの接続作業をする。
「リモコン操作問題なし!」「回転上げろ!出力最大!!できるだけヤツの中に流し込め!!」
ポンプ車ののエンジン音が唸る。手元のカウンターは徐々に数値を大きくしている。順調だ、これなら行ける。
誰もがそう思った次の瞬間、目覚めたゴジラがに放射線流を吐いた。一瞬の出来事なのにやけに長く感じて、俺はその光の濁流に飲み込まれていった・・・
______________________________________
「っ・・・」
目が醒めた。あれ?
「俺、生きてる・・・?」
おかしい、たしか俺は放射線流に飲み込まれて・・・
あたりを見回すと、そこは鬱蒼とした森の中だった。
さっきまでいた瓦礫に埋もれた東京駅ではない。
「あれ、ここ何処だ」
誰が見ても明らかな異常事態。
俺自身、割と平静を保っているのが不思議だ。
俺はガスマスクを外し、トランシーバーを見てみるが
「くそっ、無線もダメか」
手元のトランシーバーからはザーザーという雑音しか聞こえない。
それに今は作戦行動中だ。迂闊に行動するのは出来る限り控えたい。
「でも状況がわからないことにはどうにもならないからな」
俺は周囲を探索することにした。
まず方位磁石を取り出して北を確認する。
"この世界"の磁場はどうなっているのかと調べるためだったが、普通に使えた。針がぐるぐる廻るような富士の樹海でもないらしい。
俺はここで目覚めた時、直感的に理解していた。
ここは俺のいた世界ではない、と。
生来SFが好きだった俺は、タイムマシンの始祖である小説「時間遡行者」をはじめ、時を◯ける少女やバ◯ク・◯ゥ・ザ・◯ューチャーなどの所謂時間遡行を題材とした作品を多く見ていた。
故に直感出来たのだろう。
にしてもここが昔の時代なのか、はたまた別の世界線なのか判別はつかない。
兎に角、今は街なり人なりを探そう。
・・・言葉が通じるかは不明だが。
俺は取り敢えず東へ向かうことにした。
果てしない森に気分が滅入るが、今は進むしか無い・・・
________________________________________
「はぁ、はぁ」
どれほど歩いただろうか。
空の真上にあった太陽はすでに西へ傾いて地平線に近づいている。
「そろそろやばいな」
懐中電灯なんてものはもちろん無いので、暗闇での活動は避けたい。
「あー...これは失敗したかも」
進めど進めど木しか見えない。
こりゃ今日は野宿だな。
何処か寝られそうな場所を...
「あっ」
俺は直ぐ近くにあった斜面に気づかず足を滑らせてしまった。
「あぁっ、痛っ、くっ」
俺は受け身を取って減速させようとしたが落ち葉で滑ってうまくいかない。
「がぁぁぁぁぁっ!」
速度は落ちないまま斜面から投げ出された俺は、地面に体を強く打ちつけて倒れ込んだ。
「あ...」
これ死ぬかも。
斜面を転がり落ちる時に体中を打ちまくったらしく、全身が痛くて動かない。
あ〜、このまま狼なりに喰われて死ぬのかなぁ。
俺はそんなことを考えているうちに意識が急激に失われていった。
________________________________________
「...う」
瞼が、重い。
「っ..はぁ...」
体中が痛い。
俺は鉛のごとく重い瞼を開けて、体に鞭打って周りを確認する。
「あれ..森じゃ、ない?」
どうやらログハウスらしき家の一室に寝かされているようだった。
外も完全に日が落ちている。俺が斜面から転がり落ちてからそうたって居ないと思う。
カチカチと掛け時計が一定の拍子を刻んでいる。
少し置いてから、頭が理解を始めた。
誰かに助けられたんだろう、と。
身体を頑張って起こすと、身体に包帯が巻いてあることが確認できた。
しかもなぜか痛みが殆ど無い。
もう一度部屋を見回すが、人の気配はない。
「誰だかわからないけど、助かったな...」
俺は安堵して再びベットに横たわる。
助けてくれたのはありがたいしお礼もしたいところだけど、今は少し休ませてもらおう。
俺は再び寝ようと起こしていた上体を倒そうとした時、ガチャリ、とドアの開く音がした。
「あっ」
部屋に入ってきた女性と目が合った。
本来ならお礼を先んじて言っておくべきだったが、残念ながら俺は二の句が継げない状態だった。
銀髪碧眼という点は至って俺の知る人間と大差なく、端正な顔立ちはむしろ美人に属するであろうと思う。しかし、彼女はそれだけでなく爬虫類のような尻尾、腕に翼竜の如き立派な羽、その先には大きな爪が三本。極めつけに頭部に角を拵えていた。
こうして、俺は何処か別の世界に飛ばされてしまったことが確定した。
してしまったのだ・・・
すこしの沈黙を破ったのは彼女のほうが先だった。
「えっと、お体の方は大丈夫ですか...?」
「あっ、はい。大丈夫で痛っ!」
腕を掲げて大丈夫だと言い張ろうとしたが、動かしただけで痛みが走った。
「やっぱりまだ安静にしていたほうが良いですよ」
「すみません。なんだか、助けてもらったみたいで」
「いえ、森でたまたま見つけただけです。あまりにひどい怪我だったので放っておけなくて...」
彼女はそう言いながら持っていた包帯を取り出した。
大きな三本の爪で器用に扱っている。
「ありがとうございます。お陰で助かりました」
俺が感謝を告げると、彼女はすこし照れたように俯いて
「そう、ですか。そう言ってもらえると嬉しいです」
と小声で呟いた。
「それじゃあ、包帯を変えるので上体を起こしてもらえますか?」
俺はゆっくりと上体を起こした。
彼女がすこし覚束ない手つきで腕の包帯を外していく。
包帯が外されて、切り傷や打撲痕のある腕が見えてくる。
「少し、痛むかもしれませんが我慢して下さい」
そう言って彼女はお徐に手を俺の腕に当てて、聞いたことのない呪文のような言葉を話し始めた。
すると彼女の手が薄緑色のオーラのようなもので包まれ始め、腕の傷がみるみるうちに治っていった。
「すげぇ...」
俺は思わず感嘆の声を漏らす。
「もしかして、治癒魔法を見るのは初めてですか?」
「魔法!?」
何かとんでもワードが飛び出してきたぞ。
魔法だなんてそれこそファンタジーの世界の話だろう、と言いたいところだが目の前で実演されては受け入れるしかない。
「あっ、いや、魔法自体見るのが初めてなものでして、アハハ...」
ちょっとリアクション多きすぎたな。
そんなやり取りをしている内に、彼女は腕の治癒を終わらせていく。
「ふぅ、取り敢えず右腕も終わりました。左手と身体は寝ている間にやらせていただいたので大丈夫だと思います」
「凄いですね。こんなにすぐ傷が直せるなんて」
「いえ、まだまだ腕は未熟ですよ」
少し興奮気味に身を乗り出した時、左足に違和感を覚えた。
「痛っ!?」
「あっ、ごめんなさい。言い忘れていたんですけど、左足の骨が折れているので安静にしてて下さい。私の腕では完全に直せなくて...」
なるほど、だから未熟だと言ったのか。
「多分、毎日治癒魔法を掛けていれば一週間程で治ると思うんですが...」
「俺は直してもらえるなら嬉しいですけど、流石に一週間も泊めてもらうのは...」
「大丈夫です。私が最後まで面倒を見るので安心して下さい。それにけが人を迂闊に追い出すわけにも行きませんし」
彼女は微笑んでから、椅子から立ち上がる。
そこで思い出したように
「そう言えば、お名前は何ていうんですか」
「ああ、申し遅れました。天城優真って言います」
「アマギユウマさん、ですか。珍しい名前ですね。私はフェリル・ニーベルンゲンと申します。見ての通りワイバーンです」
ニーベルンゲン。これは皮肉だろうか。
竜殺しの叙事詩が竜の名前だなんて。
まぁ、この世界にニーベルンゲンの歌があるとは限らないが。
「それじゃあ、お夕飯にしましょう。松葉杖がありますからそれを使って下さい」
「ありがとう」
「いえいえ、先に用意してますね」
彼女はパタパタと小走りに部屋を出ていった。
俺は松葉杖を取ってなんとか立ち上がる。
松葉杖使うなんて何年ぶりだろうか。
子どものときに足を挫いて使った以来だ。
ドアを開けて部屋を抜けると、そこはダイニングのようだった。
部屋の真ん中に置かれた長方形のテーブルに、パンとビーフシチューのようなものがよそられている。
香ばしい匂いが鼻腔をついて、お腹が鳴る。
「ふふっ、相当お腹が空いていたみたいですね」
「面目ありません。流石に空腹は誤魔化しきれないみたいです」
俺は促されるように席についた。
「「いただきます」」
まずはスプーンでビーフシチュー(?)を啜る。
メインの具材はトマトかな。スパイスも効いていて塩加減も丁度いい。
「これおいしいですね」
「ありがとうございます。人に食べてもらうのは初めてなので、奥地にあって良かったです」
嬉しそうに微笑む彼女をみているとこっちまで嬉しくなってくる。
そんなこんなで食事が終わり、軽くうがいをした俺達は各々の部屋で就寝した。
寝る前に彼女が「何か用があったらこれを使って下さい」と言い残して、ハンドベルを渡していった。
俺は布団に包まりながら明日のことを考える。
どうやって元の世界に帰ろうか。
というかそもそも帰れるのかすら不明だ。
まずは、情報がほしい。
彼女に伝えたら協力してくれるだろうか?
いや、いきなり別世界から来ましたとか言って信じるはずがない。
となると自力でなんとかできるようになるのは一週間後か...
長いなぁ。
俺はそんな取り留めもない事を考えている内に睡魔が襲ってきたので、俺は抵抗すること無く深い眠りについた。
小隊長の号令とともに、瓦礫を除去していたダンプを先頭にして複数のコンクリートポンプ車とタンクローリーが瓦礫の除去された道路に展開していく。
これからポンプ車を使って血液凝固剤をゴジラの口に流し込む。
ヤシオリ作戦の核となる作戦最終段階だ。
何としても成功させなくてはいけない。
俺は号令を聞き、そんな取り留めのない思考を引き締めた。
タンクローリーを所定の位置に止め、早急にポンプ車とタンクの接続作業をする。
「リモコン操作問題なし!」「回転上げろ!出力最大!!できるだけヤツの中に流し込め!!」
ポンプ車ののエンジン音が唸る。手元のカウンターは徐々に数値を大きくしている。順調だ、これなら行ける。
誰もがそう思った次の瞬間、目覚めたゴジラがに放射線流を吐いた。一瞬の出来事なのにやけに長く感じて、俺はその光の濁流に飲み込まれていった・・・
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「っ・・・」
目が醒めた。あれ?
「俺、生きてる・・・?」
おかしい、たしか俺は放射線流に飲み込まれて・・・
あたりを見回すと、そこは鬱蒼とした森の中だった。
さっきまでいた瓦礫に埋もれた東京駅ではない。
「あれ、ここ何処だ」
誰が見ても明らかな異常事態。
俺自身、割と平静を保っているのが不思議だ。
俺はガスマスクを外し、トランシーバーを見てみるが
「くそっ、無線もダメか」
手元のトランシーバーからはザーザーという雑音しか聞こえない。
それに今は作戦行動中だ。迂闊に行動するのは出来る限り控えたい。
「でも状況がわからないことにはどうにもならないからな」
俺は周囲を探索することにした。
まず方位磁石を取り出して北を確認する。
"この世界"の磁場はどうなっているのかと調べるためだったが、普通に使えた。針がぐるぐる廻るような富士の樹海でもないらしい。
俺はここで目覚めた時、直感的に理解していた。
ここは俺のいた世界ではない、と。
生来SFが好きだった俺は、タイムマシンの始祖である小説「時間遡行者」をはじめ、時を◯ける少女やバ◯ク・◯ゥ・ザ・◯ューチャーなどの所謂時間遡行を題材とした作品を多く見ていた。
故に直感出来たのだろう。
にしてもここが昔の時代なのか、はたまた別の世界線なのか判別はつかない。
兎に角、今は街なり人なりを探そう。
・・・言葉が通じるかは不明だが。
俺は取り敢えず東へ向かうことにした。
果てしない森に気分が滅入るが、今は進むしか無い・・・
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「はぁ、はぁ」
どれほど歩いただろうか。
空の真上にあった太陽はすでに西へ傾いて地平線に近づいている。
「そろそろやばいな」
懐中電灯なんてものはもちろん無いので、暗闇での活動は避けたい。
「あー...これは失敗したかも」
進めど進めど木しか見えない。
こりゃ今日は野宿だな。
何処か寝られそうな場所を...
「あっ」
俺は直ぐ近くにあった斜面に気づかず足を滑らせてしまった。
「あぁっ、痛っ、くっ」
俺は受け身を取って減速させようとしたが落ち葉で滑ってうまくいかない。
「がぁぁぁぁぁっ!」
速度は落ちないまま斜面から投げ出された俺は、地面に体を強く打ちつけて倒れ込んだ。
「あ...」
これ死ぬかも。
斜面を転がり落ちる時に体中を打ちまくったらしく、全身が痛くて動かない。
あ〜、このまま狼なりに喰われて死ぬのかなぁ。
俺はそんなことを考えているうちに意識が急激に失われていった。
________________________________________
「...う」
瞼が、重い。
「っ..はぁ...」
体中が痛い。
俺は鉛のごとく重い瞼を開けて、体に鞭打って周りを確認する。
「あれ..森じゃ、ない?」
どうやらログハウスらしき家の一室に寝かされているようだった。
外も完全に日が落ちている。俺が斜面から転がり落ちてからそうたって居ないと思う。
カチカチと掛け時計が一定の拍子を刻んでいる。
少し置いてから、頭が理解を始めた。
誰かに助けられたんだろう、と。
身体を頑張って起こすと、身体に包帯が巻いてあることが確認できた。
しかもなぜか痛みが殆ど無い。
もう一度部屋を見回すが、人の気配はない。
「誰だかわからないけど、助かったな...」
俺は安堵して再びベットに横たわる。
助けてくれたのはありがたいしお礼もしたいところだけど、今は少し休ませてもらおう。
俺は再び寝ようと起こしていた上体を倒そうとした時、ガチャリ、とドアの開く音がした。
「あっ」
部屋に入ってきた女性と目が合った。
本来ならお礼を先んじて言っておくべきだったが、残念ながら俺は二の句が継げない状態だった。
銀髪碧眼という点は至って俺の知る人間と大差なく、端正な顔立ちはむしろ美人に属するであろうと思う。しかし、彼女はそれだけでなく爬虫類のような尻尾、腕に翼竜の如き立派な羽、その先には大きな爪が三本。極めつけに頭部に角を拵えていた。
こうして、俺は何処か別の世界に飛ばされてしまったことが確定した。
してしまったのだ・・・
すこしの沈黙を破ったのは彼女のほうが先だった。
「えっと、お体の方は大丈夫ですか...?」
「あっ、はい。大丈夫で痛っ!」
腕を掲げて大丈夫だと言い張ろうとしたが、動かしただけで痛みが走った。
「やっぱりまだ安静にしていたほうが良いですよ」
「すみません。なんだか、助けてもらったみたいで」
「いえ、森でたまたま見つけただけです。あまりにひどい怪我だったので放っておけなくて...」
彼女はそう言いながら持っていた包帯を取り出した。
大きな三本の爪で器用に扱っている。
「ありがとうございます。お陰で助かりました」
俺が感謝を告げると、彼女はすこし照れたように俯いて
「そう、ですか。そう言ってもらえると嬉しいです」
と小声で呟いた。
「それじゃあ、包帯を変えるので上体を起こしてもらえますか?」
俺はゆっくりと上体を起こした。
彼女がすこし覚束ない手つきで腕の包帯を外していく。
包帯が外されて、切り傷や打撲痕のある腕が見えてくる。
「少し、痛むかもしれませんが我慢して下さい」
そう言って彼女はお徐に手を俺の腕に当てて、聞いたことのない呪文のような言葉を話し始めた。
すると彼女の手が薄緑色のオーラのようなもので包まれ始め、腕の傷がみるみるうちに治っていった。
「すげぇ...」
俺は思わず感嘆の声を漏らす。
「もしかして、治癒魔法を見るのは初めてですか?」
「魔法!?」
何かとんでもワードが飛び出してきたぞ。
魔法だなんてそれこそファンタジーの世界の話だろう、と言いたいところだが目の前で実演されては受け入れるしかない。
「あっ、いや、魔法自体見るのが初めてなものでして、アハハ...」
ちょっとリアクション多きすぎたな。
そんなやり取りをしている内に、彼女は腕の治癒を終わらせていく。
「ふぅ、取り敢えず右腕も終わりました。左手と身体は寝ている間にやらせていただいたので大丈夫だと思います」
「凄いですね。こんなにすぐ傷が直せるなんて」
「いえ、まだまだ腕は未熟ですよ」
少し興奮気味に身を乗り出した時、左足に違和感を覚えた。
「痛っ!?」
「あっ、ごめんなさい。言い忘れていたんですけど、左足の骨が折れているので安静にしてて下さい。私の腕では完全に直せなくて...」
なるほど、だから未熟だと言ったのか。
「多分、毎日治癒魔法を掛けていれば一週間程で治ると思うんですが...」
「俺は直してもらえるなら嬉しいですけど、流石に一週間も泊めてもらうのは...」
「大丈夫です。私が最後まで面倒を見るので安心して下さい。それにけが人を迂闊に追い出すわけにも行きませんし」
彼女は微笑んでから、椅子から立ち上がる。
そこで思い出したように
「そう言えば、お名前は何ていうんですか」
「ああ、申し遅れました。天城優真って言います」
「アマギユウマさん、ですか。珍しい名前ですね。私はフェリル・ニーベルンゲンと申します。見ての通りワイバーンです」
ニーベルンゲン。これは皮肉だろうか。
竜殺しの叙事詩が竜の名前だなんて。
まぁ、この世界にニーベルンゲンの歌があるとは限らないが。
「それじゃあ、お夕飯にしましょう。松葉杖がありますからそれを使って下さい」
「ありがとう」
「いえいえ、先に用意してますね」
彼女はパタパタと小走りに部屋を出ていった。
俺は松葉杖を取ってなんとか立ち上がる。
松葉杖使うなんて何年ぶりだろうか。
子どものときに足を挫いて使った以来だ。
ドアを開けて部屋を抜けると、そこはダイニングのようだった。
部屋の真ん中に置かれた長方形のテーブルに、パンとビーフシチューのようなものがよそられている。
香ばしい匂いが鼻腔をついて、お腹が鳴る。
「ふふっ、相当お腹が空いていたみたいですね」
「面目ありません。流石に空腹は誤魔化しきれないみたいです」
俺は促されるように席についた。
「「いただきます」」
まずはスプーンでビーフシチュー(?)を啜る。
メインの具材はトマトかな。スパイスも効いていて塩加減も丁度いい。
「これおいしいですね」
「ありがとうございます。人に食べてもらうのは初めてなので、奥地にあって良かったです」
嬉しそうに微笑む彼女をみているとこっちまで嬉しくなってくる。
そんなこんなで食事が終わり、軽くうがいをした俺達は各々の部屋で就寝した。
寝る前に彼女が「何か用があったらこれを使って下さい」と言い残して、ハンドベルを渡していった。
俺は布団に包まりながら明日のことを考える。
どうやって元の世界に帰ろうか。
というかそもそも帰れるのかすら不明だ。
まずは、情報がほしい。
彼女に伝えたら協力してくれるだろうか?
いや、いきなり別世界から来ましたとか言って信じるはずがない。
となると自力でなんとかできるようになるのは一週間後か...
長いなぁ。
俺はそんな取り留めもない事を考えている内に睡魔が襲ってきたので、俺は抵抗すること無く深い眠りについた。
17/09/04 20:31更新 / Kisaragi
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